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日米欧リスクプレミアム比較~長期金利からみる先行きリスク~

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EY Institute

02 March 2017

Contact

EY

総合研究所株式会社

03 3503 2512

EYInstitute@jp.ey.com

執 筆 者

鈴木 将之

EY 総合研究所株式会社

未来社会・産業研究部

シニアエコノミスト

<専門分野>

• 日本経済の実証分析・予測 • 産業連関分析

日米欧リスクプレミアム比較

∼長期金利からみる先行きリスク∼

 2017年は、英国

EU

離脱や米国新政権の経済政策など前年からの宿題があり、先 行き不透明感が強い年といえる。場合によっては、これまでの経済構造から別の方向 に転換するかもしれないレジームチェンジの可能性もあるため、その動向が注目され ている。

先行き不透明感の強い

2017

 それらに加えて、2017年の欧州主要国では、選挙が相次いで実施される予定であ り、その結果次第では、前年のような想定外のリスクに直面する恐れがある。特に、 反

EU

などを掲げる勢力が力を増していることから、選挙結果によってはそれらの主 張にも、新政権がある程度耳を傾ける必要が生じ、これまでの政策が軌道修正される 可能性がある。  また、こうしたリスクは、世界景気にも悪影響を及ぼしうる。世界景気は2016年 半ば頃から回復傾向を強めており、2016年10~

12月期まで米国は11四半期連続、

ユーロ圏は15四半期連続、日本は4四半期連続でプラス成長を記録してきた。しか し、先行きのリスクが高まれば、この景気回復トレンドが一変する恐れがある。  このようなリスクは、金融市場の一部では織り込まれつつある。そこで、以下では 長期金利に注目して、先行きのリスクについて考えてみる。

(2)

トランプラリーの影響

 2016年11月の米国大統領選以降、金融市場は一変した。トランプ氏が打ち出したレーガン政 権以来の大型減税政策やインフラ投資などによって、米国の経済成長が加速して、世界景気がけん 引されることが想定されたからだ。 図1 長期金利 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 10 /1 4 7 10 11 /1 4 7 10 12 /1 4 7 10 13 /1 4 7 10 14 /1 4 7 10 15 /1 4 7 10 16 /1 4 7 10 17 /1 日本 米国 日米金利差(米-日) (%) -1 0 1 2 3 4 5 10 /1 4 7 10 11 /1 4 7 10 12 /1 4 7 10 13 /1 4 7 10 14 /1 4 7 10 15 /1 4 7 10 16 /1 4 7 10 17 /1 英国 米国 英米金利差(米-英) (%) 0.51 1.52 2.53 3.54 4.5 ドイツ 米国 米独金利差(米-独) (%) 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 ドイツ フランス 独仏金利差(仏-独・右軸) (%) (%)  長期金利に注目すると、米国の長期金利(10年)はそれまでの1.8%台から上昇した。12月の 利上げが織り込まれたこともあって、長期金利は一時2.6%に達した後、落ち着きを取り戻して、 それ以降2.4%前後で推移している。  トランプ政権は、潜在成長率を現在の2%前後から3.5%まで引き上げることを目標にしている。 潜在成長率が上昇すれば、金利も上昇する傾向があるため、成長期待から金利に上昇圧力がかかっ ている。その一方で、財政出動によって、財政状況が悪化するという連想も働きやすい。財政状態 の悪化は金利上昇として跳ね返ってくる。このため、米国の金利上昇には、成長期待というプラス 面と財政悪化というマイナス面の双方の影響が織り込まれていると考えられる。  その影響は、他国の金利にも波及している。例えば、米大統領選までマイナス圏に沈んでいた日 本の長期金利は、プラス圏に顔を出し、2月3日には一時0.150%まで上昇した。日銀の指し値オ ペが実施されたこともあって、マイナス圏に戻ることなく、その後は0.09%前後で推移している。  また、ユーロ圏のベンチマークとなるドイツの長期金利も上昇している。米大統領選前には

0.2%

を下回っていたものの、その後プラス圏が定着し、0.2~

0.3%

程度で推移している。 【ドイツ・フランス】 【ドイツ・米国】 【日本・米国】 【英国・米国】

(3)

 2017年で注意すべきは、欧州リスクの高まりである。それはすでに一部の金利に反映されている。

山積する欧州リスク

 まず、2016年6月の国民投票後、英国金利に変化がみられた。英国の長期金利は、国民投票後 に1%を割り込んだことで、米国との金利差が拡大し、国民投票後には米国金利を1%近く下回るよ うになった。この原因として、

EU

離脱による成長期待の低下などが考えられる。また、2016年

8月にイングランド銀行は7年5カ月ぶりの利下げ、量的緩和の再開など、大規模な金融緩和を実

施した。金融政策を総動員して国民投票後の景気後退を阻止することを狙ったものだった。  2017年には、ユーロ圏の各国の多くで、選挙が実施される。例えば、3月にはオランダで総選 挙が行われる。自由党が第1党になる見込みが強まっていることもあり、年初に比べて足元の金利 は上昇している。ただし、自由党が第1党になっても連立政権を樹立できず、議会でも多数派にな らないとみられており、

EU

離脱は選択されないというのが大勢の見方だ。ただし、オランダ選挙 の結果が、これから大統領選を控えるフランスなど他国に影響を及ぼす可能性もあって、足元では オランダ金利が上昇しているようだ。 図2 長期金利(続き) -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 10 /1 4 7 10 11 /1 4 7 10 12 /1 4 7 10 13 /1 4 7 10 14 /1 4 7 10 15 /1 4 7 10 16 /1 4 7 10 17 /1 ドイツ イタリア 独伊金利差(伊-独) (%) -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 10 /1 4 7 10 11 /1 4 7 10 12 /1 4 7 10 13 /1 4 7 10 14 /1 4 7 10 15 /1 4 7 10 16 /1 4 7 10 17 /1 ドイツ スペイン 独西金利差(西-独) (%) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 10 /1 4 7 10 11 /1 4 7 10 12 /1 4 7 10 13 /1 4 7 10 14 /1 4 7 10 15 /1 4 7 10 16 /1 4 7 10 17 /1 ドイツ オランダ 独蘭金利差(蘭-独・右軸) (%) (%) -5 0 5 10 15 20 25 30 12 /4 7 10 13 /1 4 7 10 14 /1 4 7 10 15 /1 4 7 10 16 /1 4 7 10 17 /1 ギリシャ ドイツ 独ギリシャ金利差(ギリシャ-独) (%) 【ドイツ・ギリシャ】 【ドイツ・オランダ】 【ドイツ・イタリア】 【ドイツ・スペイン】 出典:Quick AstraManagerよりEY総合研究所作成

(4)

 フランスでは、4月から5月にかけて大統領選が実施される。現在までの世論調査等によると、 国民戦線のルペン氏がリードしていることもあって、フランスのユーロ圏離脱や

EU

離脱国民投票 などが意識されつつある。ただし、大統領選に出馬しているルペン氏、マクロン氏、フィヨン氏は それぞれ問題を抱えている中で、第1回投票ではルペン氏が勝利するものの、第2回投票では敗れ るとの見通しが大勢である。しかし、2016年の英国国民投票や米国大統領選のような想定外が起 こる可能性が否定できないという見方もあって、フランスの長期金利は上昇しており、ドイツとの 金利差が拡大しているとみられる。  その一方で、これまでのところ、財政の問題を抱える南欧諸国の金利が比較的安定している。ま ず、スペインは約1年に及んだ暫定政権が正式に樹立されたこともあって、金利は安定している。 米大統領選後に1.5~

1.6%

程度まで上昇したものの、足元では1.4%前後に落ち着いており、ド イツとの金利差も1.1%程度と大統領選前と同じぐらいの水準にある。  また、

2016年末に金融機関の経営不安が大きくなり、憲法改正の国民投票の結果、政権が変わっ

たイタリアでは、先行き不透明感が高まったものの、金利は大きく動いていない。ジェンティロー ニ政権は公的資金注入などの政令を昨年12月に決め、今年2月には議会が立法化した。しかし、 欧州の銀行再生・破綻処理指令との整合性など課題を抱えており、金融機関の経営不安問題はくす ぶり続けている。また、選挙制度を巡る判決が出たことで、制度の修正ののちに、早ければ今年中 にも総選挙が実施される見通しとなっている。そうしたことも、金利にはそれほど強く反映されて いないようにみえる。  債務問題が再び大きくなっているギリシャの金利もそれほど上昇していないようだ。第3次支援 のプロセス(第2次審査)が遅れており、7月の国債償還等70億ユーロが控えているものの、まだ 時間的な余裕もあることから、年初に比べてギリシャ金利は若干高めで推移する程度にとどまって いる。20日のユーロ圏財務相会合では、追加融資に向けた交渉を早期に再開することで合意した ものの、

GDP

比2%相当の36億ユーロの年金削減や課税対象の拡大などを求めるユーロ圏と、こ れまでの度重なる緊縮や国内の支持率低下に直面するギリシャの折り合いがつかない恐れもある。 そうなると、ギリシャの

EU

離脱懸念という2015年の状況が再現されることも想定される。  南欧諸国の金利が足元で安定しているといっても、問題が大きくなれば、金利が急騰することは 過去の動きが示している。また、欧州債務危機の再来のように、欧州全体に悪影響が広がりかねな いこともあって、南欧諸国の動向にも注意が必要だ。

(5)

 2017年は欧米など先進国を中心に先行きのリスクが高まっている。トランプ政権の経済政策が 本格化するのはこれからであり、期待の高まりと期待外れの双方のシナリオが想定される。また、 米国利上げの影響もある。

FRB

は今年3回程度の利上げを見込んでいるものの、

2016年のように、

経済状況によってはその回数に達しないことも十分考えられる。米国発の上振れ・下振れの両面リ スクが想定され、そうした動きの一端が金利にも現れてくるだろう。

2017

年リスクに備える

 もちろん、新興国にもリスクの芽はある。例えば、景気が持ち直しているとはいえ、中国には、 過剰設備や不良債権などの問題が残っている。また、世界的な景気回復や原油など資源エネルギー 価格の持ち直しもあって、インフレ圧力が高まりつつある。インフレ圧力が高まれば、それに対抗 して利上げが必要になり、上向きつつある景気に冷や水を浴びせかねない。  また、中国のインフレが海外に輸出されることによって、輸入財を通じたインフレが日本をはじ めとした先進国等にも広がる可能性もある。その結果、米国の利上げペースが市場の想定以上に早 まったり、日本では長期金利をゼロ

%

程度で抑える政策の見直しが必要になったりすることも想定 される。特に、リスクが高まれば、円高や金利の低下など、景気回復を続ける日本にとって、大き な逆風にもなりかねないことが懸念される。  このように、2017年には先行きリスクが山積しているため、リスクシナリオを想定した上で、 事業戦略を練り、行動していくことが企業にとってますます重要になっている。

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