• 検索結果がありません。

放射光・中性子ビームを利用した材料分析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "放射光・中性子ビームを利用した材料分析"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

放射光・中性子ビームを利用した材料分析

Materials Analysis Using Synchrotron Radiation and Neutron Beam

あ ら ま し 富士通では,製品の高性能化および信頼性確保,さらにその安全性確認のために,多く の分析手法や装置が利用されている。著者らはこの中で,一般の分析装置では難しい,放射 光および中性子ビームを用いた分析技術の開発と材料分析を行っている。この分析には,国 家的に建設された大型共用施設を利用している。 本稿では,理化学研究所により運用されている大型放射光施設SPring-8において,民間 13社により建設された「サンビーム」ビームラインの紹介と,富士通研究所の材料分析へ の適用について事例を紹介する。さらに分析の将来技術として,現在SPring-8に建設が進 んでいるX線自由電子レーザ(XFEL),および日本原子力研究開発機構により茨城県東海村 に建設された大強度陽子加速器施設(J-PARC)の中性子ビームを利用した分析について紹 介する。 Abstract

To develop high-performance and highly reliable products that do not contain hazardous substances, Fujitsu uses many materials evaluation techniques to check products. Within these techniques, we have been developing analysis methods using synchrotron radiation and a neutron beam. These special “probes” have been provided at national facilities. In this paper, we describe the status of the SUNBEAM consortium organized by 13 industrial companies at the SPring-8 synchrotron radiation facility by looking at case examples of materials analysis. In addition, we introduce a new field of materials analysis based on an x-ray free electron laser constructing at the SPring-8 and a neutron beam provided by the high flux proton accelerator complex J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex).

野村健二(のむら けんじ) 基盤技術研究所集積技術研究部 兼 知的財産権本部情報部 所属 現在,材料分析の研究に従事。 土井修一(どい しゅういち) 基盤技術研究所集積技術研究部 兼 知的財産権本部情報部 所属 現在,材料分析の研究に従事。 淡路直樹(あわじ なおき) 基盤技術研究所 兼 知的財産権本部 情報部 所属 現在,材料分析の研究に従事。

(2)

放射光・中性子ビームを利用した材料分析

ま え が き 製品開発のための材料分析には,多くの分析手法 や装置が利用されるが,分析対象により,一般の装 置では難しい,超高精度,極微量,あるいは特殊な 目的の分析方法が必要になることもある。著者らは, このような分析方法のうち,放射光および中性子 ビーム(以下,中性子)を用いた分析技術の開発と 材料評価を行っている。この分析には,国家的に建 設された大型共用施設を利用している。 本稿では,理化学研究所により運用されている大 型 放 射 光 施 設SPring-8 ( Super Photon ring-8 GeV)を利用した富士通研究所の材料分析事例に ついて紹介する。さらに将来の分析技術として,現 在SPring-8に建設が進んでいるX線自由電子レーザ (XFEL:X-ray Free Electron Laser),および日本 原子力研究開発機構が茨城県東海村に建設した大強 度 陽 子 加 速 器 施 設 (J-PARC : Japan Proton Accelerator Research Complex)の中性子を用い る分析について紹介する。 SPring-8 放射光は加速器の中に加速・蓄積された電子から 放出される電磁波であり,加速電子のエネルギーや 印加磁場に依存したエネルギー分布の放射光が発生 する。放射光の特長は,強い強度と高い指向性(平 行性)およびチューナブルなエネルギーである。高 エネルギー電子の蓄積のために,大型の加速器が必 要になり,兵庫県に建設されているSPring-8放射 光施設の周長は約1400 mと大規模である。この SPring-8放射光施設を有効に利用するために,富 士通研究所を含む民間13社は,サンビーム共同体 を結成し,産業用専用ビームライン(サンビーム) を現地に建設し,ビームタイムを均等に分配するこ とで,各社の基幹材料の分析を定常的に行っている。 サンビームには,X線吸収微細構造(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)分析装置,8軸回 折装置,蛍光X線分析装置,集光X線分析装置が備 えられている。 エネルギー(keV) 蛍光強度( a. u. ) 5.95 6.00 6.05 6.10 0.0 0.5 1.0 1.5 図-1 クロメート被膜中の6価クロムのピーク Fig.1-Hexavalent chromium in the Chromate

Conversion Coatings. ● XAFS分析装置 XAFS分析は,放射光のエネルギーがチューナブ ルであるという特長を利用するものであり,試料の 内殻軌道電子の励起による吸収端エネルギー付近に 現れる構造から,吸収原子周りの原子間距離や結合 価数を分析するもので,結晶以外にもアモルファス, 液体や気体など広い種類の試料の分析が可能である。 分析例として,この技術を用いて電子部品のさび止 め用に用いられているクロメート被膜の非破壊分析 を行った結果を図-1に示す。(1) クロメート被膜に含ま れるクロムの安定状態には3価と6価の状態があり, 3価のクロムは人体に無害であるが6価のクロムは アレルギーや発がん性が指摘されている有害物質で, EUのRoHS指令(注)により,電気・電子製品への使 用が禁止されている。この分析法では3価と6価の クロムを,非破壊で分離・定量することができる。 なお,図中の白丸のクロメート被膜は6価クロム を含んでいないが,黒丸の試料には6価クロムが含 まれている。 また,これ以外の一般的な利用例としては,電池 材料の性能向上のための構造分析や,自動車の排ガ ス処理用触媒の反応分析などがあり,反応中のその 場分析にも広く活用されている。 ● 8軸回折装置 サンビームのX線回折装置は,多くの実験室にあ るX線回折装置に比べてX線強度が約100万倍強い。 この特徴を用いると,MOSデバイスのゲート絶縁

(注) Restriction on Hazardous Substances(特定物質使用禁 止指令)の略。2006年7月1日に施行され,欧州連合 (EU)が実施する有害物質規制であり,EU域内で取り 扱われる電気・電子機器製品について,鉛,水銀,カド ミウム,6価クロム,PBB(ポリ臭化ビフェニール), PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の使用を禁止す る指令。

(3)

放射光・中性子ビームを利用した材料分析

膜のX線反射率評価(2)などの極薄膜分析が可能にな る。また,平行性の高いX線や高エネルギーX線の 利用も可能なことから,高精度の応力評価も可能で ある。 ● 蛍光X線分析装置 SPring-8の蛍光X線分析は,和歌山毒物カレー事 件で有名になった。サンビームに設置されている蛍 光X線分析装置の特長は,チューナブルなエネル ギーを用いた蛍光XAFS測定が可能なことで,強力 で平行なX線の特長を生かして,10μm領域の蛍光 XAFS分析やマッピングを簡単に行うことができる。 X線の検出にも,高効率のシリコンドリフト検出器 (SDD:Silicon Drift Detector)と,高分解能の波 長分散検出器を備えており,極微量分析も可能に なっている。(3)

● 集光X線分析装置

サンビームには,1μm以下の領域のX線分析を行 うためにKBミラー集光装置およびフレネルゾーン プレート(FZP:Fresnel Zone Plate)集光装置が 用意されており,局所領域の蛍光・回折測定が可能 になっている。 共用ビームラインの利用 サンビームには前章で述べたような汎用装置が備 えられているが,それでもカバーできない領域の分 析については,財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI:Japan Synchrotron Radiation Research

Institute)が施設の中に開発した共用ビームライ ンを利用している。これは,年に2回の課題募集に 応募するもので,近年は大学や国立研究所からのす べての応募の中で,約20%の産業利用課題が採択 されている。 ● 産業利用ビームラインBL19B2 このビームラインには粉末回折装置が備えられて おり,結晶試料のリートベルト解析に必要な,高分 解回折データがわずか5分程度で測定できる。サン プルの自動交換装置も付属しており,短時間に100個 以上のサンプルのデータ測定が簡単にできる。著者 らは,光触媒チタンアパタイト(4)の分析などを行っ ている。 ● 軟X線円偏光ビームラインBL25SU 軟X線は0.1~2 keVのエネルギーを持っており, BL25SUでは高品質の円偏光X線が利用でき,磁性 材料のMCD(磁気円二色性)分析やXPEEM測定 が可能であり,著者らはスピンバルブ膜に使われて いるMnIr/CoFe交換結合膜の磁気構造を測定した。(5) XFEL XFELは,直線加速器の中でバンチングした電子 から発生する電磁波の干渉から,パルス状のX線 レーザを発生させるものであり,ほぼ100%の干渉 性(フルコヒーレント)を持つ新しいX線源として 注目されている。著者らは,ナノデバイスのイメー ジング技術開発のため,文部科学省のX線自由電子 レーザ利用推進研究課題を東北大学とJASRIとの 共同で進めており,その基礎技術の一つとして,X 線フーリエ変換ホログラフィ法を開発している。こ の方法は透過力の強いX線を用いた非破壊分析であ り,試料イメージが,試料からの散乱X線強度を逆 フーリエ変換することにより任意性なく得られる。 またレンズのない比較的単純な装置構成であること から,試料周りにスペースが取りやすいため,外場 印加時のデバイスの動作観察や高速な時間変化を調 べることに適しており,微小領域やナノデバイスの その場測定技術として期待されているものである。 さらにこの方法は,磁気円二色性効果を利用した場 合,磁気ドメインの測定さえも可能であることが報 告されている。(6) 著者らは同方法によりCo/Pt垂直磁 化膜の磁気ドメイン観察の予備実験を行った。測定 試料は,図-2のようにSiNメンブレン上に形成した。 メンブレンの片側にX線遮蔽へいマスクとして,Au膜 を形成し,その裏面にはCo/Pt垂直磁化膜を形成し た。薄膜の2×2μm2領域に試料透過窓を形成し, さらに,ホログラフィ用の参照光としてサイズの異 なる貫通孔を3箇所(A,B,C)に形成した。測定 はSPring-8の軟X線円偏光ビームラインBL25SUに おいてCo-L吸収端エネルギーで行った。試料から の散乱X線は,下流に設置したCCD検出器により測 定した。図-3は測定された散乱X線イメージ(ホロ グラム)である。得られた左右円偏光データにそれ ぞれ逆フーリエ変換を行い,その差分から磁区像を 得た。その結果を図-4に示す。中心部にはイメージ の自己相関関数(Auto Correlation Function)が 重なって見えており,その周りに試料の実イメージ と,その反対側には共役イメージがそれぞれの参照 穴に対応して現われていることが分かる。イメージ

(4)

放射光・中性子ビームを利用した材料分析

Au SiN 2 m Co/Pt 5.6 m 2 m 2 m 0.3 mφ 0.2 mφ 0.1 mφ A B C μ μ μ μ μ μ μ 図-2 測定試料の構造および走査型電子顕微鏡写真 Fig.2-Scanning Electron Microscope image of

x-ray Holography sample.

図-3 試料からの散乱X線(ホログラム) Fig.3-Intensity of diffracted x-ray from sample

(Hologram).

図-4 左右円偏光による散乱X線を逆フーリエ変換 し,その差分から得られた磁気ドメイン Fig.4-Magnetic domain obtained from the difference

of Fourier transformed image with right and left polarized circular x-ray.

H He Li Be B C N O F Ne Na Mg Al Si P S Cl Ar K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr U Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe Cs Ba La Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi H He Li Be B C N O F Ne Na Mg Al Si P S Cl Ar K Ca Sc Ti Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr U V Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe Cs Ba La Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi (a)X線散乱断面積の原子番号依存性 (b)中性子散乱断面積の原子番号依存性 図-5 X線および中性子の散乱断面積の原子番号依存性 には垂直磁化膜特有の迷路状磁区が形成されている ことが明確に分かる。 今後,この方法はXFELのフルコヒーレントなX 線の利用により,ナノデバイスのワンショットイ メージングが可能になると考えられ,デバイス動作 時のその場測定への利用が期待できる。

Fig.5-X-ray and neutron scattering cross sections for each elements. J-PARC 中性子は,X線と同様に電荷を持っていないこと に加え,主に原子核としか反応しないことから,物 質への透過性はX線よりさらに強い。分析用のプ ローブとしてX線と比較すると,X線の場合,試料 との散乱強度は,X線が主に原子に含まれる電子に より散乱されるため,図-5(a)に示すように原子 番号に比例する(散乱断面積を各元素の面積で示 す)。そのため,原子番号が近い原子では,それを 区別して分析することが難しい。一方,中性子の場 合では,その散乱強度は,図-5(b)のように元素 により不規則に変わる(上記と同様,断面積を各元 素の面積で示した)。これは核反応が多種類の共鳴

(5)

放射光・中性子ビームを利用した材料分析

状態を経由するためであり,この性質を分析に利用 すると,特定の原子に注目した分析が可能になる。 例えば,X線では水素を「見る」ことは困難である が,中性子は水素も「見える」。また,元素の同位 体による感度の違いも利用できる。 J-PARCは日本原子力研究開発機構により東海村 に建設された大強度陽子加速器施設であり,その付 帯実験設備の一つとして,物質生命科学実験施設 (MLF:Materials and Life Science Experimental

Facility)が建設されている。ここでは,加速陽子 ビームと標的との衝突から発生するパルス中性子を 用いた分析が可能になる。中性子を利用した分析で は,X線では分析が難しい,軽元素や原子番号が隣 り合った元素を区別するような分析が可能であり, 著者らもX線と相補的な利用を計画している。 む す び 各種の材料開発やデバイス開発において,材料分 析は試料を見る「目」であり,効率的な開発には不 可欠なものである。一方,各分析手法から得られる 情報は,実際の材料やデバイスを,ある限られた角 度から調べた結果であり,実際に起こっている現象 を理解するためには,それらのいろいろな情報を, 複合的に組み合わせることが有用であると思う。放 射光や中性子を使った各種の分析が,実験室装置の みでは得られない情報を補い,材料への理解が深ま ることを目指している。 本報告の一部は,Spring-8利用課題(2009A1840), および文科省XFEL利用推進プロジェクトの援助を 受けて,「物質のフェトム秒物理・化学現象解析の ためのX線散乱計測技術」の一環として,東北大学, 財団法人高輝度光科学研究センター,富士通の共同 で実施されました。 参 考 文 献

(1) K. Nomura et al.:Nondestructive Measurement of Hexavalent Chromium in Chromate Conversion Coatings Using X-Ray Absorption Near Edge Structure.Jap. J. Appl. Phys.,Vol.45,No.10, L304-L306(2006).

(2) N. Awaji:Performance of X-Ray Reflectometry for 1-nm Thick Gate Oxide .SPring-8 Research Frontiers 2001B/2002A,p.92-93(2003).

(3) N. Awaji et al. : Wavelength-Dispersive Total Reflection X-Ray Fluorescence with High-Brilliance Undulator Radiation at SPring-8 .Jap. J. Appl. Phys.,Vol.39,No.12A,p.L1252-1255(2000). (4)若村正人:光触媒チタンアパタイトの開発と応用.

FUJITSU,Vol.59,No.2,p.134-139(2008). (5) S. Doi et al. : Magnetization Profile in the

MnIr/CoFe Exchange Bias System .Appl. Phys. Lett.,Vol.94,p.232504-1-232504-3(2009). (6) S. Eisebitt et al.:Lensless imaging of magnetic

nanostructures by X-ray spectro-holography .

参照

関連したドキュメント

The idea is that this series can now be used to define the exponential of large classes of mathematical objects: complex numbers, matrices, power series, operators?. For the

In the spirit of our semimartingale norm, we introduce a norm for the barriers of DRB- SDEs and provide a priori estimates for the solution of DRBSDEs based on our new barrier

Finally, in Section 7 we illustrate numerically how the results of the fractional integration significantly depends on the definition we choose, and moreover we illustrate the

The aim of this work is to prove the uniform boundedness and the existence of global solutions for Gierer-Meinhardt model of three substance described by reaction-diffusion

We study the description of torsion free sheaves on X in terms of vector bundles with an additional structure on e X which was introduced by Seshadri.. Keywords: torsion-free

The linearized parabolic problem is treated using maximal regular- ity in analytic semigroup theory, higher order elliptic a priori estimates and simultaneous continuity in

As an application, for a regular model X of X over the integer ring of k, we prove an injectivity result on the torsion cycle class map of codimension 2 with values in a new

Applying the representation theory of the supergroupGL(m | n) and the supergroup analogue of Schur-Weyl Duality it becomes straightforward to calculate the combinatorial effect