TOSCA-A日本語版の信頼性と妥当性について

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自己意識的感情尺度青年版(TOSCA-A)日本語版の作成

岡田 顕宏

札幌国際大学人文学部心理学科

要約

Tangney et al. (2002) の開発した、恥特性と罪悪感特性を測定するための質問紙尺度である TOSCA の 青年版(TOSCA-A)の日本語化を行い、信頼性と併存的妥当性を検討した。日本語化された TOSCA-A は、原語版のものと同程度の信頼性を示した。しかしながら、TOSCA-A の Shame 尺度と Guilt 尺度 は、それぞれ、恥、罪悪感の経験頻度を直接尋ねた場合の主観的評価とは区別的に対応していなかっ た。TOSCA に含まれる、恥・罪悪感それぞれに対応していると理論化されている反応が、実際に恥 と罪悪感を測定するのに適しているのかについてはさらなる検証が必要であることが示唆された。 Keywords: 恥, 罪悪感, 自己意識的感情

はじめに

恥と罪の感情は日常生活の中で経験される感情で ある。人前で失態を演じたときに恥を感じることや、 人を傷つけてしまったときに罪悪感を抱くというこ とは、日常生活の中において程度の差はあれど、誰 しもが経験することである。恥や罪の感情は、何ら かの過ちに伴う不快な感情経験と言える。その他の 不快な感情、たとえば、嫌悪や恐怖の感情が、過去 に経験した脅威となる対象との接触を避けるように 機能するのと同様に、恥や罪の感情には、それらの 感情を生じさせたのと同じ(あるいは類似した)過 ちの経験を繰り返さないようにさせる機能があると 考えられる。たとえば、Ausubel(1955)は、罪悪感 が文明化された社会において普遍的に存在するもの であり、社会的秩序を維持するのに必要であるとし ている。実際、違反行為に対する外部からの制裁の みで社会秩序を維持することが困難であろう。また、 戸田(1992)も「 罪悪感 感情」が「怒り」感情と の組合せによって社会秩序維持機能を正常に作動さ せることを示唆している。 しかしながら、これらの感情が適切に機能せず、 過剰に作用することは、精神病理学的な不適応につ ながる。たとえば、過剰な罪悪感や自責の念は鬱病 に見られる症状の一つであり、極端な自己否定的感 情のために自殺のような自己破壊的行動につながる 可能性がある。また、恥を経験することに対する過 剰な恐怖は、社会恐怖および回避性人格障害の主要 な症状であり、人との接触を極端に避けるなど、社 会適応に大きな支障をきたす可能性がある。精神分 析理論の文脈では、古くから、罪悪感は、精神疾患 における重要な概念としてとらえられており(Freud, 19xx)、近年では、恥の感情も精神疾患との深い関わ りがあることが国内外で指摘されている(e.g., 北山, 1996; Nathanson, 1987; 岡田・佐々木, 2004)。 以上のように、罪悪感と恥は社会的秩序を維持す るという面においても、精神病理学的な見地からも 非常に重要な感情であると言える。しかしながら、 いくつかの理由から十分な研究がされてきていると は言い難い。第一に、これらの感情は、基本的感情 と呼ばれるような感情(恐怖、嫌悪、怒り、喜び、 悲しみ)と比較して、その表現のされ方や感じられ 方が多様であるために、明確で普遍的な定義を行う ことが困難である。特に、恥と罪悪感の区別に関し ては、様々な議論があるが、十分な同意が得られて いる定義はない。第二に、恥や罪悪感といった感情 は、非常に内的な体験である、ということである。 同じ環境で同じ刺激に直面しても、それらの感情を 抱くかどうかは個人によって異なるであろうし、ま た、必ずしもその感情と密接に連合した外面的な表 出がなされるわけではない。従って、恥と罪悪感を 客観的な研究の対象として扱うことには大きな困難 が伴う。 以下の節では、恥と罪悪感の区別に関する問題と、 これまでに開発されてきた恥と罪悪感について測定 するための方法について論じる。

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恥と罪悪感の区別について 恥と罪悪感の区別については、様々な理論がある が、その多くは欧米(またはキリスト教)文化の影 響を受けており、例えば、罪悪感は内在化された良 心や道徳規範に抵触することによって生じる、とい う点が強調されている。例えば、Benedict(1946) は「菊と刀」の中で、純粋な罪悪感は内在化された 良心から生じる自律的な反応であるとし、一方、恥 は内面的な批判ではなく、非難や嘲笑などの外部か らの与えられる制裁によって生じる他者依存的なも のとしている。しかしながら、Benedict に対するそ の 後 の多 くの 批 判の 中で 述 べら れて い るよ うに (Ausubel, 1955; 土居, 1971; 作田, 1967)、恥の感情 が生じるのは、他者から非難・嘲笑されている時だ けではなく、他者から見られていたり、あるいはそ の場に他者が存在する必要もない。また、罪悪感を 抱くことに関しても、完全に内在化された良心だけ で十分な訳ではない。Ausubel が指摘しているよう に、どれほど良心が発達した社会においても、罪に 対して外部から罰が与えられるという法的なシステ ムは存在し、そのような外的な罰の可能性は良心を 維持・強化するために必要だと思われる。同じ状況 において、人は恥と罪悪感の両方を経験する、とい う事実は、Benedict による恥と罪悪感の区別によっ て説明できない(土居, 1971)。 精神分析理論においても、内在化された良心であ る超自我の存在が中心にある。超自我による自責的 な反応として罪悪感をとらえている。精神分析理論 の創始者である Freud 自身の理論においては恥の感 情についてはほとんど触れられていないが、Piers and Singer(1953)は、Freud の理論を再解釈し、罪 悪感と恥の区別を説明している。Piers によれば、 Freud の理論における超自我は、良心としての超自 我の側面と、自我理想の側面とがあり、自我と超自 我の葛藤から罪悪感が生じ、自我と自我理想の葛藤 から恥の感情が生じるとしている。このような説明 は、恥と罪悪感の区別を、自我理想と超自我の区別 に置き換えただけに過ぎない。自我理想や超自我な どの精神分析的な理論的用語の使用を避けるとすれ ば、恥は、理想に届かないことから生じる感情であ り、言い換えると「優劣」の軸において、相対的に 劣る場合に生じると言える。それに対して罪悪感は、 「善悪」の軸において、より「悪」になる場合に生 じると言えるかもしれない。井上(1977)は、Piers のモデルに、所属集団と準拠集団という枠組みを導 入し、内的な超自我から生じる「普遍的罪」と内的 な自我理想から生じる「私恥」と、所属集団から逸 脱者として認知されることによって生じる「個別的 罪」、劣位者として認知されることによって生じる 「公恥」とを区別した。 Lewis(1971)は、神経症患者に対する心理療法経 験から、恥と罪悪感を、それらの感情を経験する際 の「自己」の役割の違いによって説明している。Lewis によれば、恥の経験においては「自己」全体が強調 されており、一方、罪悪感の経験においては、自己 よりも自分の行った特定の「行為」が強調されてい る。例えば、恥の感情は「私はなんて愚かなんだろ う」という自己非難的な表現を伴うのに対して、罪 悪感の方は「私はなんてひどいことをしたのだろう」 という、自分の行為への非難を特徴とする表現で記 述される。また Lewis によれば、恥はより原始的で 強い感情であり、隠れたり逃げたりするような行為 を動機づけ、それに対して罪悪感は謝罪や告白、償 いなどを動機づけるとしている。 Lewis は、道徳的な違反という状況においては、 道徳的な恥(Ausubel, 1955)と罪悪感とが同時に生 じる可能性があることを認めているが、道徳的な恥 は罪悪感と混同されやすく、多くの場合「罪悪感」 として認識される傾向があるとしている。恥が罪悪 感として認識されるという傾向は、「われわれの文明 では、それは非常に早い時期に、また容易に罪悪感 に吸収されてしまう(仁科訳, p. 324)」という Erikson (1950)の主張からも示唆されている。罪悪感との 混同に限らず、Lewis は基本的に、恥の感情が原始 的であることから、否認などの防衛機制の影響を受 けやすく(Levin, 1967, 1971 は、防衛機制のほとん ど全て恥の感情と関係しているとしている)、本人が 自分の感情を恥と同定することが困難であるとし、 そのような恥を「バイパスされた恥」と読んでいる。 Tangney とその同僚は、自由記述や感情評定など の質問紙実験に基づく研究を通して、Lewis(1971) での恥と罪悪感の区別が妥当であることを主張して いる。Tangney(1993)は、65 人(たった)の大学 生に、恥、罪悪感などの経験について記述させた後、 それぞれの経験について評定させた。その結果、恥 は罪悪感と比較すると相対的に、より苦痛で、より 劣等感を感じ、物理的に小さくなる感じを伴うと評 定した。Niedenthal, Tangney, and Gavanski(1994)は、

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罪悪感を生じさせると想定された「過失により鳥を 死なせてしまう」シナリオと、恥を生じさせると想 定された「敬愛する教授の前で意気込んで失敗する」 シナリオを被験者に呈示し、「もし∼でなかったら、 そのような結果にならなかったのに」という半事実 的な文章を記述させた。その結果、「教授」シナリオ の方が、自分自身の属性(性格など)について半事 実的な記述をする方が多く、「鳥」シナリオの方が行 為について記述することが多かった。また、恥と罪 悪感のどちらも生じうる状況のシナリオを呈示して、 そのような状況にあることをイメージさせた後に、 自分自身の属性または自分の行為のいずれかについ て半事実的な記述を行わせた。その結果、自分自身 の属性ついて注目するように誘導された被験者は、 行為について注目するように誘導された被験者に比 べて、そのような状況で経験する感情として、罪悪 感よりも恥の感情をより高く評定した。 焦点の対象が全体的な自己と特定の行為であるか による、恥と罪悪感の区別は、研究者から受け入れ られているように思われる(e.g., Lewis, M., 1995;

Power & Dalgleish, 1997)。しかしながら、このよう

な区別が、恥と罪悪感という複雑な感情作用をとら える上で本当に適切であるかどうかについては慎重 に検討する必要がある。以下の節では、恥と罪悪感 について心理学的に研究するための手法について検 討する。 恥と罪悪感の測定について 先に述べたように、恥や罪悪感の体験は非常に個 人的なものであり、ある人と別の人が感じている罪 悪感の強さを比較したり、客観的に測定することは 非常に困難である。したがって、今のところ恥と罪 悪感を調べる方法としては、被験者の内観的な自己 報告に基づいた調査が一般的となっている。具体的 な方法としては面接法と質問紙法が挙げられる。 面接法においては、被験者は自ら経験した、ある いは現在感じている恥などの経験について直接尋ね られる。面接者との相互作用の中で、過去の経験な ど普段思い出されないような経験に関する叙述を得 られることが期待できる。しかしながら、面接調査 では時間と手間がかかることや、そのために標本数 が限られてしまう、という難点や、教示や介入にお ける面接者間の信頼性の問題などがある。また、語 られた内容を分析する場合にも時間と手間がかかる と同時に評定者間信頼性の問題がある。そのため、 面接技法を用いた恥や罪悪感の研究は非常に限られ ている(e.g., Andrews, 1998; Andrews & Hunter, 1997; Lindsay-Hartz, de Rivera, & Mascolo, 1994)。

質問紙法には、面接技法と同様に個人の恥や罪悪 感の経験について自由に記述させる方法が含まれる。 自由記述法の場合には、面接技法よりも時間と手間 はかからないが、被験者が自分の内的体験について どこまで深く内省し、それを適切に記述できるか、 という問題がある。そのため、的確で十分な教示を 行うことが非常に必要である。また、恥や罪悪感な どの個人的な経験について記述することには抵抗が あることが考えられるため、記述内容が調査者と被 験者との関係性にも左右される可能性がある(佐 藤・岡田, 2003)。その他に、PF スタディ(林, 1987) の中で恥を誘発すると考えられる場面と罪悪感を誘 発されると考えられる場面を呈示して、登場人物の 反応を記述させる投影法的な手法がある(岡田・佐々 木, 2004)。 一般に使用されているのは、恥や罪悪感に関連し た単語または文章を呈示して、多項選択または数値 による評定を行う質問紙尺度である。恥と罪悪感に 関連した質問紙尺度には大きく分けて、「感情語の直 接呈示」、「感情誘発状況の呈示」、「感情関連反応の 呈示」といった方法がある。 「感情語の直接呈示」による質問紙では、「罪悪感」 「良心の呵責」「恥」など、罪悪感や恥などと密接に 関連した感情語を呈示して、それらの感情を経験す る頻度や、今現在それらの感情を経験している度合 いなどを数値で評定させる方法である。Harder & Zalma ( 1990 ) に よ る PFQ-2 (Personal Feeling Questionnaire-2)や Izard(1977)の DES (Differential Emotions Scale)などが挙げられる。測定したい感情 を表現する言葉を直接呈示して尋ねていることから、 表面的妥当性が高い。また、純粋に目的の感情につ いてのみ尋ねているため、後述の感情誘発状況を用 いた尺度とは異なり、感情の原因となる事象や状況 に依存しない、という特徴がある。しかしながら、 「罪悪感」「恥」などの単語は基本的に抽象的であり、 個人の具体的な感情経験に基づくというよりも、語 句の意味論的な理解に基づく回答がなされるおそれ がある。特に「罪悪感」という言葉は、被験者によ っては、様々な出来事に対する内的な感情というよ りも、規則違反や道徳違反などの「客観的に悪い事

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をしたという自覚」として受け取られる可能性があ るなど、呈示された単語に対する被験者の解釈に依 存するために、調査者が測定しようとしている「感 情」が適切に測定されない可能性がある。また、Lewis (1971)によって指摘されているように、恥の感情 が「罪悪感」とラベル付けされる可能性も考慮する 必要がある。 「感情誘発状況の呈示」は、恥を誘発すると仮定 される状況、罪悪感を誘発すると仮定される具体的 な状況を叙述した文章を呈示して、そのような場面 状況でどのくらい不安や不快感情を経験するかを数 値で評定させる方法である。例えば、「あなたは財布 を拾った。中には5ドルしか入っていなかった。あ なたはお金を抜き取って財布を元に戻した。」などの 状況を呈示した後に、そのような場面でどのくらい 不安を感じたり、動揺したりするかを尋ねるのであ る。このような質問紙は、感情語を直接呈示すると 比べると、より具体的な状況が描かれているために、 意味論的な解釈というよりも感情的な反応を引き出 すことが出来るように思われる。しかしながら、具 体的な状況を使用することは、その質問紙で測定さ れた結果が、質問紙に含まれる状況に依存すること になる。また、どのような状況で恥や罪悪感を経験 するかは文化や個人の価値観や信条などによって異 なる可能性がある。そのために、測定された結果は、 個人の罪悪感傾向や恥傾向の強さを反映するだけで なく、質問紙に含まれている状況と、個人が恥や罪 悪感を感じる状況とが一致する度合いに依存するこ とになる(その質問紙での得点が低くても、別の状 況では、もっと恥や罪悪感を感じる、という人がい るかもしれない)。さらに問題なのは、特定の状況で、 特定の感情が生起することが前提とされていること である。財布の中身をネコババして不快な気持ちに なるのは、罪悪感による場合もあるだろうし、恥に よる場合もありうるからである。 「感情関連反応の呈示」は、Tangney らによって 開 発 さ れ た SCAAI ( Self-Conscious Affect and Attribution Inventory; Tangney, 1988, cited in Tangney & Dearing, 2002)や TOSCA(Test of Self-Conscious Affect; Tangney, et al., 1989, cited in Tangney & Dearing, 2002)を含む。上述の技法と同様に感情誘発状況の 文章を呈示するが、それらは、恥か罪悪感のいずれ かを生じさせることが仮定されているのではなく、 両方の感情が生起する可能性のある場面状況である。 そして、その場面状況を呈示した後に、その場面状 況でどのように反応するかについて、複数のオプシ ョンの反応を呈示される。オプションには、恥の感 情と関連していると仮定されている反応(全体的自 己への帰属、逃避的反応、自分が小さくなった感じ、 など)や、罪悪感と関連していると仮定されている 反応(行為への帰属、謝罪反応、償い反応など)が 含まれており、被験者はそれぞれの反応文に対して、 それが実際にありそうな度合いを数値で評定するこ とになる。このような質問紙(Tangney によれば「シ ナリオベースの測度」)は、一つの状況において、恥 を経験する度合いと罪悪感を経験する度合いを独立 して測定することできる、という利点がある。また、 罪悪感や恥といった言葉を使用しておらず、行動や 思考などの比較的具体的な表現を評定するために、 質問内容に対する個人の言語的な解釈の影響を受け にくく、被験者が自分自身の経験を、どのように言 語的にラベル付けしたかに依存しない。そのため、 Lewis によって指摘されたような「バイパスされた 恥」をとらえられる可能性がある。 しかしながら、上述の「感情誘発状況の呈示」に よる質問紙と同様に、被験者の得点は、呈示される 場面状況に依存することになる。そのため場面状況 の選び方によっては、被験者の文化や価値観などの 影響を大きく受ける可能性がある。例えば学業での 失敗というエピソードは、学業での成功を重視する 社会や価値観の下では恥を生じさせる可能性は高い かもしれないが、そのような価値観を持たない人が 「恥を感じにくい」という訳では決してない。その ため、場面状況の選択には慎重になる必要がある。 さらに重要なことは、特定の反応が特定の感情と密 接に対応しているということが前提とされている点 である。TOSCA では、恥の項目として、自己全体へ の非難、逃避・回避、孤立感などの反応が含まれて おり、これらの反応を高く評定した場合には、恥傾 向が高いことになる。また、罪悪感の項目としては、 個々の行為に対する後悔や、謝罪や償いを意図する 反応が含まれている。しかしながら、これらの恥傾 向、罪悪感傾向の内容は、あくまでも Tangney の理 論に基づいて決定されたものであり、それらが実際 に、恥や罪悪感と密接に関係しているかどうかにつ いては十分に実証されているとは言い難い。

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本研究の目的 これまで概観してきたように、恥とは何か、罪悪 感とは何か、といった定義や区別の問題に対する十 分に合意の得られる答えはない。また、それらをど のように数量化するのか、という問題についても同 様である。近年、比較的多くの研究が、恥や罪悪感 を測定するツールとしてシナリオ・ベースの尺度で ある TOSCA を使用している。しかしながら、TOSCA が恥・罪悪感を測定するツールとして適切であるか どうかに関しては十分に検討されているとは言い難 い。 本研究では、筆者が以前に作成した TOSCA-A 日 本語版の内容を改訂し、その信頼性および妥当性に ついて検討を行った。以前の調査(岡田, 2003)では、 Y-G 性格検査や Big Five 性格検査などとの比較を中 心としたが、本調査では、TOSCA の下位尺度が恥お よび罪悪感を測定しているのかを検討するために、 それらを直接測定する PFQ-2 を使用した。また、先 に述べた精神病理学的な問題との関連性を検討する ために、鬱尺度(BDI)使用し、TOSCA-A 日本語版 と比較を行った。

方法

被験者 札幌国際大学 心理学科に所属する大学生 135 人 が調査に参加した(男性 54 人;女性 81 人)。年齢は 男性が 19-25(平均 20.0)歳で女性が 19-29(平均 19.6) 歳であった。 材料 TOSCA-A 日本語版、PFQ-2 日本語版、BDI 日本語 版の3つの質問紙尺度を使用した。各質問紙の概要 は以下の通りである。 TOSCA-A 日 本 語 版 . 序 論 で 述 べ た よ う に 、 TOSCA-A では、Tangney による shame と guilt の理 論的な区別に基づいて作成されている。そのため、 それらの特徴が適切に反映されるように留意して日 本語版を作成した。Tangney によれば、shame は全体 的自己に注目し、guilt は特定の行為に注目した感情 とされている。そのため、例えば、shame 項目「I would feel like coward」は、直訳すれば「私は臆病者のよう

に感じるだろう」となるが、「自分」が臆病者である

ことが明確になるように「私は、自分は臆病者だ と 感じるだろう」とした。同様に、guilt 項目「I would

regret that I put it off」は、逐語的に訳をすれば「私は、

私がそれを先延ばしにしたことを後悔するだろう」 となるが、「行為」が焦点であることを明確にするた めに「私は、先のばしにしていたことを後悔するだ ろう。」とした。また、全体的に平易な日本語になる ように訳した(日本語版の詳細については付録を参 照)。訳語に対するバックトランスレーションは行わ なかった。前回(岡田, 2003)作成した日本語版では、 いくつか日本語訳に誤りがあったため、今回はそれ らを訂正して調査を行った。

PFQ-2 日本語版. Harder and Zalma,(1990)による Personal Feeling Questionnaire-2 を筆者が日本語化し たものを用いた。PFQ-2 は、恥および罪悪感に関連 する、「embarrassment」「feeling childish」などの形容 詞または形容詞句から構成されているが、意味内容 的には「I am (feel) embarrassment」「I feel childish」「I feel disgusting to others」など、あくまでも主格は「I

(私)」であり、各形容詞が「I(私)」の補語として 理解されるように、日本語に翻訳した。たとえば、 「feeling childish」は「(自分のことを)子供じみて いると感じる」という日本語表記にした(付録2を 参照)。 BDI 日本語版. 林ら(林, 1988; 林・瀧本, 1991) が作成した Beck’s Depression Inventory の日本語版を 使用した。 手続き 調査は大学の授業時間内に、同一科目の二つのク ラスで行われた。TOSCA-A 日本語版(改訂版)、PFQ2 日本語版、BDI 日本語版が冊子として配布され、実 験者による説明の後に記述がなされた。再検査との 比較を行うために、フェイスシートには、性別・年 齢の他に、個人を特定するための学籍番号と氏名を 記入させた。4週間後に、TOSCA-A 日本語版の再 検査を行った。 分析については、欠損値などデータに不備のある ものを除いて行った。そのため、分析結果によって 全体のデータ数は異なり、TOSCA-A の第一セッシ ョンでの有効データは 119、第二セッションでの有 効データは 132 であった。他の尺度との相関につい て は 、第 一セ ッ ショ ンの デ ータ のみ を 用い た。 TOSCA-A、PFQ-2、BDI の3つの尺度での有効デー タは 116 であった。

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結果

尺度間の相関について. TOSCA-A 日本語版、 PFQ-2 の下位尺度および BDI の相互の相関係数を Table 3 に示す。TOSCA-A の下位尺度間では、まず Shame と Guilt の間に正の相関があった(r = .56, p < .001)。また、Externalization(人のせいにする)と Detachment(無関心)と A-Pride の間には互いに有意 な正の相関があり(いずれも p < .01)、特に A-Pride と B-Pride の間の相関は高かった(r = .77, p < .001)。 TOSCA-A 日本語版について. TOSCA-A 日本語 版の各下位尺度の平均値および標準偏差を Table 1 に示す。下位尺度の得点は先行研究(岡田, 2003)と ほぼ同等であった。また、得点分布を見ると、デー タ 数 が 少 な い た め に バ ラ ツ キ も 見 ら れ る が 、 Detachment(歪度=.45, 尖度=.66)を除いて極端な偏 りはなく、正規分布に近い形状であった。Tangney による原語版 TOSCA-A を大学生に施行した結果と 下位尺度毎に比較すると、日本語版の結果は、Shame のみ得点が高く(t (490) = 6.13, p < .001)、その他の 下位尺度は全て低くなった(全て p < .01)。 TOSCA-A の下位尺度と他の尺度との相関につい ては、TOSCA-A の Shame と Guilt はともに、PFQ-2 の Shame および Guilt と正の相関を示した(いずれ も p < .01)。、特に TOSCA-A の Shame は、PFQ-2 の Shame と Guilt 両 方 と 高 め の 相 関 を 示 し た が 、 TOSCA-A の Guilt と PFQ-2 の Guilt と Shame との相 関は、有意ではあるが低い相関であった。BDI との 相関に関しては、TOSCA-A の Shame のみが 1%水準 での正の相関を示した。 再検査信頼性に関しては、4週間後に行われた再 検査との相関係数は6つの下位尺度全てにおいて 0.80 を超えていた(Table 2 を参照)。下位尺度の内 的整合性については、shame のα係数が 0.82-0.83、 guilt のα係数が 0.78-0.83 であり、原語版のα係数 (shame = 0.84, guilt = 0.77)とほぼ同等であった。そ れ以外の下位尺度に関しても、原語版のものとほぼ 同等であるか、下位尺度によっては原語版のα係数 を上回った。 PFQ-2 の下位尺度である Shame と Guilt の間に高 い相関(r = .71)があったことから、PFQ-2 の Shame の影響を取り除いた Guilt と、TOSCA-A の Shame お よび Guilt との偏相関係数と、PFQ-2 の Guilt の影響 を取り除いた Shame と、TOSCA-A の Shame および Guilt と の 偏 相 関 係 数 を 算 出 し た 。 そ の 結 果 、 TOSCA-A の Shame は、Guilt なしの Shame とも Shame なしの Guilt とも有意に相関した。一方、TOSCA-A の Guilt は、Shame なしの Guilt とは有意な相関を示 したが、Guilt なしの Shame との間はほぼ無相関であ った(r = .04)。 PFQ2 および BDI について. PFQ-2 の Shame と Guilt 両下位尺度とも正規分布に近い分布であった (Figure 2)。内的整合性に関しては、PFQ-2 の Shame のα係数が.84 であり、Guilt のα係数が.79 であった (原版ではそれぞれ、.78 と.72)。BDI のα係数は.83 であった。

Table 1 TOSCA-A 日本語版および原語版(Tangney et al., 2002)の各下位尺度得点の平均値

Sample description Sex Shame Guilt Externaliz. Detachment Alpha Pride Beta Pride Female 45.45 56.09 33.63 27.43 13.51 15.60 (n = 75) (7.27) (7.23) (5.97) (6.32) (3.41) (2.80) Male 43.66 54.16 33.00 27.57 12.91 15.41 (n = 44) (10.67) (7.18) (7.97) (6.90) (3.62) (3.58) Female 45.24 55.52 33.95 27.79 13.16 15.52 (n = 82) (6.94) (6.13) (6.83) (5.47) (3.02) (3.03) Male 43.60 53.72 34.38 28.84 12.86 14.94 (n = 50) (10.62) (9.92) (9.35) (6.93) (3.78) (3.32) Female 39.82 60.05 35.21 30.86 18.46 20.32 (n = 234) (8.76) (6.41) (7.11) (4.83) (2.80) (2.50) Male 37.97 57.47 36.50 31.09 18.04 19.48 (n = 138) (8.77) (6.81) (7.44) (4.81) (2.92) (2.65) Japanese University Students

(session-1) N = 119

Japanese University Students (session-2) N = 132

College students in USA (Tangney & Dearing, 2002)

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Shame 0 5 10 15 20 25 0 10 20 30 40 50 60 70 得点 度数 Guilt 0 5 10 15 20 25 0 10 20 30 40 50 60 70 得点 度数 Externalization 0 5 10 15 20 25 0 10 20 30 40 50 60 70 得点 度数 Detachment 0 5 10 15 20 25 0 10 20 30 40 5 得点 度数 0 Alpha Pride 0 5 10 15 20 25 0 5 10 15 20 25 得点 度数 Beta Pride 0 5 10 15 20 25 0 5 10 15 20 25 得点 度数 Figure 1. TOSCA-A 日本語版の下位尺度の得点分布. PFQ2-Shame 0 5 10 15 20 25 30 0 6 12 18 24 30 36 得点 度数 PFQ2-Guilt 0 5 10 15 20 25 0 2 8 12 16 20 24 28 得点 度数 Figure 2. PFQ-2 日本語版の下位尺度の得点分布.

Table 2 TOSCA-A 日本語版および原語版(Tangney et al., 2002)の各下位尺度得点の信頼性係数

Sample description Shame Guilt Externaliz. Detachment Alpha Pride Beta Pride Japanese University Students

n = 111 (4 weeks)

Test-Retest Reliability

0.89 0.81 0.81 0.85 0.81 0.81

Japanese University Students (session-1)

Cronbach's α (n = 119)

0.82 0.78 0.76 0.79 0.68 0.51

Japanese University Students (session-2)

Cronbach's α (n = 132)

0.83 0.83 0.85 0.79 0.65 0.56

College students in USA (Tangney & Dearing, 2002)

Cronbach's α (n = 368-372)

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Table 3 TOSCA-A 日本語版,PFQ-2 の下位尺度,および BDI 得点の間の相関係数(N = 116)

TOSCA-A PFQ-2

Shame Guilt Ext. Detach. A-Pride B-Pride Shame Guilt Correlation TOSCA-A Shame 1.00 Guilt 0.55** 1.00 Externalization 0.12 -0.17 1.00 Detachment -0.02 -0.20 0.61** 1.00 Alpha Pride 0.06 0.02 0.55** 0.60** 1.00 Beta Pride 0.11 0.09 0.50** 0.48** 0.77** 1.00 PFQ-2 Shame 0.56** 0.29* 0.06 0.00 -0.14 0.03 1.00 Guilt 0.65** 0.43** -0.06 -0.13 -0.13 -0.08 0.67** 1.00 BDI 0.52** 0.19+ 0.05 -0.08 -0.15 -0.15 0.56** 0.69** 1.00 Partial Correlation PFQ-2

Shame (without guilt) 0.22* 0.00 0.14* 0.11 -0.07 0.12 1.00 0.00 0.16*

Guilt (without shame) 0.45** 0.33* -0.13* -0.17* -0.05 -0.14 0.00 1.00 0.52**

BDI

Table 4 TOSCA-A の Shame, Guilt それぞれの下位尺度と他の尺度との相関係数(N = 116)

PFQ-2 TOSCA-A-Shame TOSCA-A-Guilt BDI Correlation PFQ-2 Shame 1.00 Guilt 0.67 ** 1.00 BDI 0.56 ** 0.69 ** 1.00 TOSCA-A-Shame

Global Self Blame 0.51 ** 0.61 ** 0.48 ** 1.00 Feeling Laughed 0.33 ** 0.38 ** 0.32 ** 0.37 ** 1.00 Escape or Hide 0.39 ** 0.36 ** 0.26 * 0.37 ** 0.37 ** 1.00 Feeling Isolated 0.25 * 0.36 ** 0.33 ** 0.40 ** 0.21 + 0.06 1.00 TOSCA-A-Guilt Specific Behavior 0.27 * 0.42 ** 0.18 0.56 ** 0.27 * 0.20 + 0.27 * 1.00 Apologize or Atone 0.25 * 0.33 ** 0.14 0.38 ** 0.20 + 0.08 0.30 * 0.53 ** 1.00 Partial Correlation

Shame (without guilt) 1.00 0.00 0.16 0.17 0.11 0.22 + 0.01 -0.02 0.04

Guilt (without shame) 0.00 1.00 0.52 ** 0.42 ** 0.22 + 0.14 0.27 * 0.34 ** 0.22 +

Apologize or Atone Feeling Laughed Escape or Hide Feeling Isolated Specific Behavior

Shame Guilt Global

Self 恥および罪悪感の下位尺度の相関. TOSCA-A の Shame 項目を「全体的自己非難」、「回避・隠蔽反応」、 「孤立感」、「被笑感」の4つの下位尺度に、Guilt 項目を「特定行為の後悔」、「謝罪・弁償反応」の2 つの下位尺度に分類し、それぞれの得点と他の尺度 との相関係数を求めた(Table 4)。各下位尺度は PFQ-2 の Shame および Guilt の両方と有意な相関を 示した。TOSCA-A の Guilt の下位尺度である「特定 行為の後悔」と「謝罪・弁償反応」はいずれも、BDI との相関は低かった。TOSCA の下位尺度間では、 Shame の「全体自己非難」と Guilt の「特定行為の後 悔」の間で比較的高い相関があった(r = .57, p < .001)。 PFQ-2 の Guilt の影響を取り除いた Shame との偏相 関は、TOSCA-A の Shame の「全体的自己非難」と 「回避・隠蔽反応」で有意であり、TOSCA-A の Guilt の 下 位 尺 度 と は ほ ぼ 夢 想 感 で あ っ た 。 PFQ-2 の Shame の影響を取り除いた Guilt との偏相関は、 TOSCA-A の Shame の「全体的自己非難」、「孤立感」、 そして TOSCA-A の Guilt の2つの下位尺度とも有意 であった。

考察

TOSCA-A 日本語版の信頼性について 今回調査に使用した TOSCA-A 日本語版(改訂版) は、以前に作成した日本語版(岡田, 2003)の一部の 日本語訳を修正したものであったが、平均値や標準 偏差などの記述統計においてはほとんど差が見られ

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なかった。ただし、内的整合性を示すα係数は、全 ての下位尺度において、前回の数値(Shame=.79, Guilt=.74, Externalization=.68, Detachment=.61, Alpha Pride=.59, Beta Pride=.49)を上回った。改訂版では、 アメリカ人の大学生に対して行われた原語版のα係 数にほぼ匹敵する値であり、少なくとも下位尺度の 内的整合性については、原語版のものと同程度であ ると考えられる。 再検査信頼性については、4週間おいて行われた 2回の施行の間の相関係数が全ての下位尺度におい て 0.80 を超えており、十分な安定性のあることが示 された。TOSCA-A の原版での再検査信頼性につい ては入手可能な文献に記載がないが、TOSCA につい ては、3∼5週間おいて 44 人の大学生に施行された 2回の検査の再検査信頼性係数(相関係数)は、 Shame で.85、Guilt で.74 であり(Tangney, Wagner, Fletcher, & Gramzow, 1992)、本研究での数値(Shame = .89, Guilt = .81)は、それらと比較しても十分に高 いと言える。 以上のことから、今回改訂を行った TOSCA-A 日 本語版はの信頼性は、原版の TOSCA-A に匹敵する だけの十分に高い信頼性があると考えられる。 TOSCA-A とその他の尺度との比較

TOSCA-A の Shame は、PFQ-2 の Shame と高い相 関を示したが、同時に PFQ-2 の Guilt とも高い相関 を示した。PFQ-2 の Shame と Guilt 自体が互いに高 い相関関係にあることから、互いの影響を取り除い た偏相関係数を算出した場合でも、TOSCA-A の Shame は PFQ-2 の Shame と Guilt の両方と有意な相

関を示した。このことは、「恥」を経験する頻度が高 いと自己評価する人も「罪悪感」を経験する頻度が 高いと自己評価する人も、いずれも TOSCA-A で Shame 項目とされているような反応(全体的自己へ の帰属や回避・逃避反応)を行う傾向が高い、とい うことを示唆する。また、TOSCA-A の Guilt は、PFQ-2 の Shame および Guilt の両尺度と有意な相関を示し たが、相関係数は必ずしも高くはなかった。このこ とは、「恥」だけでなく「罪悪感」を経験する頻度が 高いと自己評価するかどうかと、TOSCA-A の Guilt 項目とされている反応(特定の行為への後悔や謝 罪・償い反応)を行う傾向との間に、必ずしも十分 な対応関係がないことを示唆する。 うつ傾向を測定する BDI の得点は、TOSCA-A の

Shame とは中程度の相関を示し、TOSCA-A の Shame

項目とされている、全体的自己への帰属や逃避・回 避反応などを行う傾向の高い人はうつ傾向も高いと いうことが示唆される。一方、TOSCA-A の Guilt と の相関は低く、TOSCA-A の Guilt 項目とされている、 特定行為への後悔や謝罪・償い反応が高い人と、う つ傾向の間には直接的な関係はないように思われる。 しかしながら、「恥」や「罪悪感」の経験を直接尋 ねる PFQ-2 の Shame や Guilt との相関は比較的高く、 恥を頻繁に経験すると評価する人も罪悪感を頻繁に 経験すると評価する人も、いずれもうつ傾向が高い、 ということが示唆される。また、PFQ-2 の Shame と Guilt の互い影響を取り除いた場合の BDI の相関は、 Shame なしの Guilt と BDI の相関は、Guilt なしの Shame と BDI の相関よりも高く、罪悪感の方が、恥 よりも、うつ傾向との関係がより明確に示されたと 言えるかもしれない。

また、原語の TOSCA と BDI を使用した過去の研 究(Tangney, 1993)では、BDI と TOSCA の Shame の相関係数が.51(偏相関は.47)、TOSCA の Guilt と の相関は.19(偏相関は-.05)であり、本研究で作成 した日本語版の TOSCA-A は、ほぼ同様の結果(相 関係数 Shame = .52, Guilt = .20; 偏相関係数 Shame = .50, Guilt = -.12)を示したと言える。 TOSCA-A 原語版と日本語版の比較 下位尺度の得点については、原語版と比較した場 合、日本語版を使って測定した日本人大学生では、 Shame の得点が高く、Guilt の得点が低いという特徴 が見られた。これも前回の調査結果と同じである。 このような得点の高低が、日本語版における言語表 現によるものなのか、日本人大学生とアメリカ人大 学生の傾向の違いを反映しているのかは、今回の調 査からは判断することはできない。しかしながら、 日本人大学生で相対的に低かった項目について考え ると、Externalization(人のせいにする)と Detachment (無関心)はいずれも自分自身に責任を帰属しない 反応であるし、Alpha Pride や Beta Pride も自分に対 するポジティブな反応であり、やはり、自分自身を 責める反応ではない。このことから、日本人大学生 の方が、自分に責任を帰属するという傾向があるの かもしれない。ただし、本研究はあくまでも限られ た標本に基づくものであり、文化間の比較に関して 結論するためには、もっと幅広いデータを収集する

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必要がある。

TOSCA-A が測定しているもの

TOSCA-A の Shame および Guilt 尺度は、Tangney の理論において恥および罪悪感に関連すると仮定さ れる反応を使用している。しかしながら、恥や罪悪 感の経験について明示的に質問する PFQ-2 の Shame および Guilt を基準とした場合、TOSCA-A の Shame および Guilt の項目は、恥および罪悪感と密接に対 応しているとは思われない。TOSCA-A の Shame お よび Guilt の各下位尺度は、PFQ-2 の Shame および Guilt と有意に相関したが、必ずしも、TOSCA-A の Shame の下位尺度が、「恥」を経験する主観的頻度 (PFQ-2 の Shame)のみと高く相関するわけではな かった。TOSCA-A の Guilt の下位尺度は、偏相関に ついては、PFQ-2 の Guilt の影響を取り除いた Shame との間に関係がなかったが、PFQ-2 の Guilt との相関 は有意とはいえ、十分に高いとは言えない。以上の ことから、TOSCA-A で Shame、Guilt に特徴的とさ れている反応内容は、少なくとも、被験者が意識的 に「恥」または「罪悪感」を経験すると考えている 程度とは、必ずしも区別的に対応している訳ではな いようである。 人は自分が経験する感情について必ずしも適切な ラベル付けをできていない、という可能性を考える と、PFQ-2 のように感情体験について直接的に質問 することは恥や罪悪感のような感情傾向を測定する のには適切ではないのかもしれない。しかしながら、 たとえそうだとしても、TOSCA-A の Shame や Guilt 尺度が、意識されていない「真の」恥や罪悪感を測 定しているという保証はない。Tangney らによる一 連の研究において(Niedenthal et al., 1994; Tangney,

1993)、全体的自己への注目は恥に関連し、特定の行 為への注目は罪悪感に関連する、といった結果が示 されてはいるものの、これらの結果はあくまでも相 対的なものであって、決して排他的な区別であるこ とを意味しない。つまり、全体的自己への非難は、 罪悪感よりも恥において特徴的かもしれないが、そ れは罪悪感を経験している可能性を否定するもので はない。実際、「全体的自己非難」と「特定の行為に 対する後悔」の間には比較的高い相関(r = .57)が あり、仮に、それぞれが恥、罪悪感と密接に関係し ているとしても、両者は区別的に測定されていない 可能性がある。 TOSCA-A において恥と罪悪感を区別する内容と しては、感情生起に伴う行為に関する反応内容、す なわち「回避・隠蔽」と「謝罪・償い」がある。PFQ-2 の Shame および Guilt との相関は高いとはいえない が、偏相関係数を見る限り、前者は恥のみに、後者 は罪悪感のみに関係しているように思われる。ただ し、純粋に行為のみから内的な感情を推定すること は危険であるように思われる。謝罪や償いという行 為は、罪悪感や良心の呵責とは関係なく、社会道徳 的な規範のみに基づいて発せられるものであるし、 回避や隠蔽という反応も、恥とは無関係に罰を逃れ たいという欲求から生じる可能性が十分に考えられ るからである。 したがって、TOSCA-A の Shame 尺度は、あくま でも、全体的自己非難と回避・隠蔽の反応傾向を測 定しており、Guilt 尺度は、特定行為への後悔と謝 罪・償いの反応傾向を測定している、ものとしてと らえる必要がある。それらが、実際に恥や罪悪感を 測定していると言えるかどうかに関しては、より多 面的に調べていく必要があるだろう。

おわりに

本研究で作成された TOSCA-A 日本語版は、信頼 性(内的整合性および再検査信頼性)の面でも、他 の尺度との相関においても、原版の TOSCA-A もし くは、TOSCA-A の元になっている TOSCA とほぼ同 様であることが示された。したがって、TOSCA-A の翻訳版として十分に妥当であると考えられる。信 頼性に関しては、既に日本語化されている TOSCA-3 (久崎・岩壁, 2005; 菊池, 2003)のものと比べても 十分に高い。

しかしながら、TOSCA-A の Shame および Guilt 尺度の得点は、恥や罪悪感の経験頻度に関する主観 的評価(PFQ-2)と適切に対応しているとは言えな かった。これらは、主観的には意識されていない恥 や罪悪感の傾向を測定しているという可能性もある が、それを積極的に支持する証拠は得られていない。 したがって、TOSCA-A を使用する場合には、それ らが恥や罪悪感そのものを測定している、というの ではなく、恥や罪悪感に関連したと仮定された反応 の傾向を測定しているということに注意する必要が ある。

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参照

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