は じ め に 1972年に登場した CT は医学界において必要不可欠な 診断技術として受け入れられ,1979年には CT 開発の業 績に対してハウンズフィールドとコーマックはノーベル 医学賞を受賞している.CT はその後改良が進み,幅広 い扇型エックス線ビーム(ファンビーム,fan beam)を 照射するエックス線管球と弧状配置された検出器が被写 体の周囲を回転する方式の第3世代 CT が1977年に GE 社により全身用臨床機として発表され,現在普及してい る CT の基本形となった.1990年台になるとエックス線 管球と検出器を連続的に回転させると同時にガントリ内 の被写体を移動させることにより,3次元のプロジェク ションデータを連続的に収集するヘリカル CT が登場 し,1998年までに大部分の CT メーカーが1回転で4ス ライス以上撮像できる装置を開発した.この CT は多列 検出器型 CT(multi detector CT, MDCT),マルチスラ イス CT(multi slice CT, MSCT)などの名称で呼ばれ ており,検出器の数が4列,16列,64列,256列,320列 と増加し,より高速に広範囲のデータ収集が可能となっ ている.これらの CT の進歩によりアーチファクト(偽 像)の少ない等方性ボリュームデータ(isotropic volume data)が得られるようになり,多断面再構築画像(multi planar reconstruction画像,MPR 画像),三次元再構築 画像(volume rendering 画像,VR 画像)における画質 が著しく向上した.この CT の進歩の中にはハードウエ アの面,ソフトウエアの面で数々の研究開発がなされて きたが,いかにエックス線による被曝を少なくして,よ りアーチファクトの少ない画像を得ることができるかと いう課題に対しさらなる研究開発がなされている.この ような全身型汎用 CT の研究開発がなされている中で コーンビーム(cone beam)とフラットパネルディテク ター(flat panel detector, FPD)を応用した頭頸部用に
小川 洋 福島県立医科大学 会津医療センター準備室 日耳鼻 115: 151―157,2012
「第112回日本耳鼻咽喉科学会総会ランチョンセミナー」
コーンビーム CT を用いた側頭骨・
鼻副鼻腔画像診断
頭頸部領域において使用頻度の高い画像検査法に computed tomography(CT) がある.最近の CT は multidetector―row CT(MDCT)が普及し,画像診断の精 度が飛躍的に向上した.このような全身型汎用 CT が開発されている中でコーン ビーム(cone beam)とフラットパネル(flat panel)を応用した小照射野に限定 した CT が2000年頃から歯科,頭頸部領域に臨床応用されてきた.これらの CT ではX線管からエックス線をコーン状(円錐状)に投影することからコーンビー ム CT(CBCT)と呼ばれている.現在臨床応用されている CBCT はX線照射野 を限定すること(小さくすること)で臨床応用可能となっている.CBCT は限定 した関心領域の撮影に特化することにより,低被曝線量ながら,高い空間分解能 を持ち,骨病変の描出に優れるX線像診断装置という位置づけを持つことになっ た.本装置により側頭骨,鼻副鼻腔,顎顔面といった骨で囲まれた領域において 低被曝で必要な画像が得られることは,われわれ耳鼻咽喉科医にとって有用性が 高いX線診断機器として考えることができる.医療機器の特性を理解し,検査の 目的に応じ適切な機器を用いて診断治療にあたることがわれわれの責任と考えて いるが,本稿では CBCT の特徴,有用性と課題について解説する. キーワード : 高分解能 CT,等方性ボリュームデータ,多断面再構築画像 ボリュームレンダリング総
説
限定した CT が2001年頃から歯科,頭頸部領域に臨床応 用されてきた1).これらの CT ではX線管からエックス 線をコーン状(円錐状)に投影し,従来の CT 装置にお けるエックス線の形状がファン状(扇状)に投影され, ファンビーム CT と呼べることに対してコーンビーム CT(CBCT)と呼ばれている.図1にコーンビーム CT とファンビーム CT の模式図を示す. CBCT の基本構造 CBCTは対象を中心にC―アームで連結されたエック ス線源と二次元検出器がコーンビームを照射しながら回 転し画像情報を収集するものである.当初は検出器に I.I.管(Image Intesifier : 入射したエックス線像を内蔵 の電子レンズにより加速・増倍して出力蛍光板に表示す るX線蛍光増倍管)が使用され,高解像度の CCD カメ ラで撮影しアナログデータをデジタルデータに変換し画 像情報を得ていたが2) ,最近の機器では検出器に FPD (Flat Panel Detector : 液晶ディスプレイに利用されてい る TFT(Thin Film Transistor)を利用した平面状の検 出器)を用いることで直接デジタルデータを得ることが でき,I.I.管による検出器に比較してダイナミックレン ジが広がりより微細な変化を捉えることができるように なった3) .エックス線源と検出器が被検者の周りを回転 し,検出器に二次元検出器を用いたことより体軸方向の 移動が不要となったため,従来のX線 CT 装置と比較す ると体軸方向の解像度に優れた画像が得られる.撮影さ れた画像データが等方性ボクセルデータとなることから ボリューム CT とも呼ばれている.現在の MDCT にお いてもX線はコーンビームが用いられているが,通常 CBCTとよばれる画像診断装置は歯科,口腔外科,顎顔 面,頭頸部領域に特化したものである.CBCT の画像再 構成は Feldkamp らによる1984年に発表された再構成法 に基づいてなされているが4) ,コーンビームによるアー チファクト,3次元再構成アルゴリズム,広範囲のデー タ収集,スキャンスピードなどの問題で全身型 CT スキ ャナへの応用には課題が多く,現在臨床応用されている CBCTはX線照射野を限定すること(小さくすること) で臨床応用可能となっている.CBCT は限定した関心領 域の撮影に特化することにより,高い空間分解能を有 し,骨病変の描出に優れるX線画像診断装置という位置 づけを持つことになった.現在,臨床使用されている主 図 1 a エックス線管球から円錐状のX線が撮影対象に照射され二次元検出器が画像データを 収集する.対象は固定され,対象の周囲をX線管と二次元検出器が回転する. 図 1 b エックス線管から扇状のエックス線が照射さ れ,ガントリー内に配置された検出器が画像デ ータを収集する.対象はベッドとともにエック ス線の照射面に対して垂直に移動する. 115―152 小川=コーンビーム CT を用いた画像診断 2012
な診断機器は歯科,口腔外科,顎顔面領域を主な対象 とし た CB MercuRayTM ,CB ThroneTM (い ず れ も 日 立 メディコ社),3D AccuitomoTM (モリタ製作所),iCATTM (Xoran 社,米国)などがあり,頭頸部用として類似し た 構 造 を 持 つ 3D AccuitomoF17TM (モ リ タ 製 作 所), Mini―CATTM
(Xoran 社,米国),ILUMA Cone Beam CTTM
(GE Healthcare,米国)などがある.対象を移動させる 必 要 が な い た め,3D AccuitomoF17TM
,Mini―CATTM
, ILUMA Cone Beam CTTM
はすべて座位で撮影する構造 となっている.MDCT と比較し,はるかに低価格で設 置面積が少なく済むために米国では歯科,口腔外科,耳 鼻咽喉科の診療所で普及が進んでいる.CBCT はさまざ まな名称で報告されており,Cone beam flat―panel vol-ume computed tomography,Flat―panel volume com-puted tomography,Digital volume tomography,Cone beam 3―dimensional computed tomography,3D cone beam CT,Office based 3D CT,頭頸部用小照射野コー ンビーム CT といったキーワードで関連する文献を検索 することができる. CBCT による画像 医用画像の画質評価の指標の一つに分解能(resolu-tion)があり,空間分解能(spatial resolution),コント ラスト分解能(contrast resolution),時間分解能(tem-poral resolution)の3つから構成されている5). 1) 空間分解能(spatial resolution) 近接して存在する一定の大きさの物体を識別する能力 である.CT は x―y 平面(横断面)において高い空間分 解能を有していたが MDCT の登場によりz軸方向(体 軸方向)の空間分解能が向上し,xyz 軸すべての方向で 分解能の等しい等方性分解能(isotropic resolution)を 有することになった.医用画像では,空間分解能は空間 周波数として扱われ,1cm あたりのラインペア数(lp/ cm),あるいは 1mm あたりのラインペア数(lp/mm) で示される.空間分解能の測定には鉛などX線吸収係数 の大きい物質にいろいろな太さの線を細かく刻んだバー パターンを用いて行う.ラインペアとは同じ太さの白い 線と黒い線の一対を指し CT スキャナの空間分解能が 1lp/cmという場合には 1cm の中に1つのラインペアが ある状態であり,近接する 5mm の物体を識別する能力 があり,これより小さいものは識別できない.20lp/cm の装置は近接する 0.25mm の物体を識別できることに なる.バーパターンの測定は臨床の場で容易に施行でき 解釈も容易であるが,評価が主観的で,読影状況,読影 者の判断に左右されるため,空間周波数特性(MTF : modulation transfer function)を用いて客観的,定量的
に測定することができる.MTF が0.2となる空間周波数 を限界周波数(limiting frequency)といい,CT スキャナ の性能を表す指標とされる.異なる CT スキャナの空間 分解能の比較には MTF が20%あるいは10%となる空間 周波数が多く用いられている.CBCT による空間分解能 は極めて高く,図2はモリタ製作所 3D AccuitomoTM と 東芝製全身用スキャナ Aquilion16TM の MTF について福 島県立医科大学付属病院放射線部で測定したデータであ るが,3D AccuitomoTM の MTF が優れていることが示さ れている.最新の機種ではさらに MTF が向上している. 図 2 3D AccuitomoTM と東芝製全身用スキャナ Aquilion16TM の MTF について当院放射線部で 測定したデータ.MTF0.2 において AccuitomoTM はおよそ 2.0lp/mm,AquilionTM では 1.2lp/mm と Accuitomo が優れた空間分解能を示している.
2) コントラスト分解能(contrast resolution) コントラスト分解能は低コントラスト分解能,高コン トラスト分解能に分けて考えられるが,もともとコント ラスト分解能の高い物体はノイズの影響を受けにくく, コントラストの低いものは影響を受けやすいため通常の 画像診断で問題となるのは低コントラスト分解能(low― contrast resolution)である.低コントラスト分解能は 物体をバックグランドから識別する能力である.CBCT における低コントラスト分解能は,エックス線の出力, FPDの特性から MDCT における低コントラスト分解能 と比較すると大きく劣る.低コントラスト分解能の改善 が軟部組織の評価の向上につながるが,現状のハードウ エアの構成から考えるとまだ課題の多い領域である. 3) 時間分解能(temporal resolution) 短時間に変化する事象を識別する能力である.心臓や 肺といった短時間で動きを伴う対象の評価には時間分解 能が高いことが必要とされている.CBCT における時間 分解能は FPD の特性から MDCT における時間分解能と 比較すると劣っている.MDCT におけるX線検出器と FPDの物理的特性の差により,現在の CBCT では最速 のスキャン時間でも10秒程度の時間を要する.空間分解 能を向上させるための撮影プロトコールを用いるとさら にスキャン時間を要することになり時間分解能はより低 下する. CBCT における被曝線量 CTにおける被曝線量は患者の安全のために重要な要 素であるが,画質に大きく影響を与える.一般的に管電 圧(peak tube voltage, kVp),管電流(tube current, mA) の増加により照射線量は増加し被曝線量が増加する.照 射線量の増加によりノイズが減少しコントラスト分解能 が改善する.同じ管電圧,管電流の条件でピクセルサイ ズ,スライス厚もしくはスライスピッチを増加させると 被曝線量は減少するが空間分解能が低下する.CT にお ける照射線量は種々のパラメータにより影響を受ける が,X線が被写体の周囲を回転するため皮膚面で均一, 最大となり深部ほど減少する.したがって被写体が大き い場合には中心部の線量が低下し画像ノイズが生じてし まうため,最適な画像を得るためには撮像パラメータ, 再構成アルゴリズムの選択が重要となる.「低被曝線量 でいかにアーチファクトの少ない画像が得られるか」と いう課題に対して各 CT メーカーがさらなる開発を進め ている.CBCT による被曝線量は MDCT と比較した場 合かなり低いとされる.放射線による生物学的リスクの 評価や比較を行うための一つの指標として実効線量 (effective dose, E)があり,その単位として Sv(Sievert)
が用いられる.両側上顎洞を同等の撮影視野(field of view, FOV)で評価した場合,撮影する機種による違 い,撮影プロトコールの違いなどによりばらつきはある ものの,一般的な MDCT における実効線量は 1―2mSv, CBCTは 0.2mSv という報告がある6) .CBCT による撮 影は MDCT による撮影と比較すれば被曝線量は少ない ものの,同じ機種による撮影でも FOV,撮影プロトコ ールにより被曝線量は変化し,広い FOV でより高解像 度な画像を要求する撮影プロトコールでは被曝線量は高 くなることを念頭に置く必要がある. 臨 床 応 用 1) 歯科,顎顔面領域 顎顔面骨折の評価,歯科インプラントの計画,歯科矯 正,顎関節の評価,歯内治療,歯周病の評価などにおけ る有用性が多数報告されている7)8)9) . 2) 頭頸部領域 鼻副鼻腔,側頭骨,頭蓋底領域に関しての有用性が報 告されている.副鼻腔における CBCT による画像と16 列および64列の MDCT による画像との比較において CBCTではおよそ1/5の被曝線量で MDCT と同画質の 画像が得られたことが報告されている6) .高い空間能に よる詳細な骨組織の描出は内視鏡下鼻内手術を計画する 上で術前手術シミュレーションを可能とする.CBCT に よる画像が MDCT による画像と比較すると歯の充填物 によるメタルアーチファクトの影響を受けにくいこと, 歯根,上顎洞底の微細構造を詳細に描出することから 歯性上顎洞炎に対する診断,治療の高い有用性が報告 されている10) .また,前頭洞への手術ナビゲーションや endoscopic sinus surgery(ESS)後の術後評価への応用
などが報告されている11) .側頭骨領域において骨組織に 対して極めて空間分解能の高い画像が得られることから 専用の撮影プロトコールが開発され多くの臨床応用の報 告がなされている.中耳手術後におけるインプラントの 評価,人工内耳後のインプラントの評価など の 報 告 や12) ,微細構造の詳細な評価13)14) ,側頭骨外傷例におけ る臨床応用15),MDCT では捉えることのできなかった内 耳における結合管の描出などの報告16) がなされている. メタルアーチファクトの影響を受けることなく,微細構 造を評価できる CBCT は中耳手術後の伝音連鎖再建, 人工内耳術後の電極評価において,最も詳細な情報提供 ができる画像診断機器であろう.座位で撮影することの 特性を利用し,耳管の評価を行った報告は興味深い使用 報告である17) .頭蓋底領域に関して手術中のナビゲーシ ョンとしての有用性18) やパーソナルコンピュータのディ スプレイ上で三次元的に画像評価を行うことで手術シミ 115―154 小川=コーンビーム CT を用いた画像診断 2012
ュレーションとしての有用性が報告されている19) .図3 から図6に福島県立医科大学付属病院で撮影した Accui-tomoF17TM による実際の側頭骨,鼻副鼻腔の画像を示す. CBCT の問題点と今後の課題 3 D AccuitomoF 17TM , Mini ― CATTM , ILUMA Cone Beam CTTM では座位での撮影であることから,座位を 保持できない患者では撮影できない.したがって鎮静下 での撮影はできないため,意識障害がある患者や,座位 を保持できない小児は撮影ができない.その一方で座位 が保てる小児の場合では被曝線量の観点から有用性が高 い.米国における CBCT は新しい画像診断装置として 歯科口腔外科,耳鼻咽喉科の診療所で普及しているが, 広く普及し,容易に高画質の画像診断が可能となったこ とで,専門的な放射線診断の知識がなく使用されたり, 過剰に撮影されたりしていることなどが問題となってき ている20) .また,米国において頭頸部領域の CT 撮影に 関して ACR Practice Guideline for CT of the head and
Neckがあるが,このガイドラインでは骨ウインドウと 軟組織ウインドウでの画像評価が推奨されており21) , CBCTでは骨ウインドウでは詳細な評価ができるもの の,軟組織ウインドウでは十分な評価ができないことに 関してその画像診断装置としての位置づけが議論されて いる.低コントラスト分解能の改善が,軟部組織の評価 を行うために現在の CBCT の大きな課題である. 図 3 a 右側頭骨.3D AccuitomoTM における基本画像.矢状断画像(X面),冠状断画像(Y面), 軸位断画像(Z面)がモニター上に同時に表示される.モニター上に表示されるカーソルを 移動することで画面上任意の部位を XYZ 面,三方向から観察することができる. 図 3 b 同一症例のアブミ骨前脚,後脚全体が表示され るような断面で再構築した画像.キヌタ・アブ ミ関節,アブミ骨筋腱,アブミ骨筋などを詳細 に観察することができる.画像データが等方性 ボリュームデータであるため,あらゆる断面で 画像を再構築しても階段状アーチファクトがな いスムーズな画像が得られる.
図 5 3D AccuitomotoF17TM による副鼻腔画像.副鼻腔全体を表示することが可能となり, 上顎洞自然口の構造,複雑な篩骨洞の隔壁などを詳細に観察することができる. 図 6 左上顎洞炎.上顎洞に形成されているニボーは座位での状態である.上顎洞底, 歯根の評価が歯牙充填物の影響を受けずに観察することができる. 115―156 小川=コーンビーム CT を用いた画像診断 2012
図 4 3D AccuitomoTM
に付属のビューアーソフトウエアによるボリュームレンダリング画像.右側 頭骨,耳小骨連鎖を下方から観察したところ.XYZ 平面の表示に加えてボリュームレンダリ ング画面表示ができる.
ま と め 頭頸部用に特化した CBCT について,その基本構造, 画像の特徴,臨床応用について解説した.骨ウインドウ に特化した画像診断装置であるが,極めて高い空間分解 能と副鼻腔全体を評価できる撮影範囲が得られたことに より,耳鼻咽喉科にとって強力な支援機器となり得るも のと考えられた. 文 献
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MTFのデータ測定にご協力いただいた福島県立医科大学 付属病院放射線部の技師の方々に深謝いたします. 連絡先 〒965―8555 会津若松市城前10―75 県立会津総合病院気付福島県立医科大学 会津医療センター準備室 小川 洋 日耳鼻 小川=コーンビーム CT を用いた画像診断 115―157