秋田応用微生物研究会
第2回 講演会
要旨集
平成14年11月15日(金) 13:00−
◎プログラム
講演15分、討論5分 13:00-13:10 会長あいさつ 秋田応用微生物研究会会長 杉山俊博 (秋田大学医学部 教授) <特別企画 秋田における担子菌研究> 座長 戸枝一喜 (秋田県総合食品研究所 上席研究員) 13:10-13:30 きのこ栽培の現状と今後の動向 ○菅原冬樹(秋田森林技術セ) 13:30-13:50 担子菌に含まれる生理活性物質の探索 −シモコシ(Tricholoma auratum)由来マウス骨芽細胞分化誘導物質− ○畠恵司、堀一之、高橋砂織(秋田総食研) 13:50-14:10 ネナガノヒトヨタケにおける遺伝子クローニングのための基盤整備 ○村口元、柳園江(秋田県大・生物資源) <会社紹介> 司会 高橋砂織 (秋田県総合食品研究所 主席研究員) 14:10-14:30 白神オーガニックロードが目指すもの ○舟橋慶一((株)白神オーガニックロード) 14:30-14:50 休憩 <一般講演> 座長 坂本賢二 ((株)坂本バイオ 代表取締役) 14:50-15:10 悪性黒色腫の浸潤、転移における神経ペプチド:α-MSH の機能解析 ○村田純、泉睦勝、桑島明子、阿部達也(秋田県大・生物資源) 15:10-15:30 ヒト血液型抗原であるLewis 抗原がピロリ菌に存在する意義 ○天野憲一(秋田大・医) 15:30-15:50 バキュロウイルス感染昆虫細胞の酸素消費挙動と低温培養による組換えタンパ ク質生産 ○千葉邦博、後藤 猛、菊地賢一(秋田大・工学資源) 座長 小玉真一郎 (小玉醸造(株) 代表取締役社長) 15:50-16:10 トチュウおよびホップの糖尿病合併症予防活性成分 ○戸松誠、進藤昌(秋田総食研) 16:10-16:30 ジュール加熱を応用した新規発酵法と電気インピーダンス測定による工程管理 ○秋山美展(秋田総食研)きのこ栽培の現状と今後の動向
○菅原冬樹(秋田県森林技術センター) 【はじめに】 現在、人工的に栽培され食用として用いられているきのこの大部分は、木材腐朽菌 や腐生菌である。人工栽培されているきのこは、担子菌類に属するものが主となるが、 世界三大珍味の1っであるトリフは子のう菌類に属するきのこである。一般的にきのこ とは、真菌類の中で肉眼的大きさの生殖器官(子実体)を形成するものを言い、担子菌 類と子のう菌類が含まれている。 本報告では、担子菌類を中心としたきのこの栽培発展経過と現状について紹介し、 私の研究内容を中心に森林技術センターでのきのこ研究の概要について報告する。ま た、きのこの働きや人間との係わり、今後の利用等についてもお話ししたい。 【概要】 1.きのこ栽培の現状 (1) 食用きのこ栽培の発展経過 (2) 子実体生産 ・農業的生産 原木・菌床栽培 ・工業的生産 機械化・ロボット・ライン化した施設栽培 ・林業的生産 林地栽培 2.きのこ研究課題「ニュータイプきのこ資源の利用と生産技術の開発」 国庫補助課題である「ニュータイプきのこ資源の利用と生産技術の開発」の中に、今、 きのこ産業に求められている事が凝縮されている。すなわち、農山村地域の振興に寄 与する独自性の高いきのこ産業を育成するため、食用にとどまらず、薬用成分の効用 や観賞用など、新たな特性を生かしたきのこの育種と栽培技術を開発することである。 3.きのこの働き (1) 生態系:有機物の分解 → 物質の循環(生産者、消費者、分解者、還元者) (2) 植物と根との共生 菌根菌の緑化技術への応用 4.人間との係わり (1) 食品としての利用 (2) 薬効成分の利用 シイタケ(子実体)→レンチナン等 (3) 酵素の利用 バイオマス変換→白色腐朽菌→粗飼料化、紙パルプ 5.今後の利用 (1) きのこを通して自然を知る。 菌根性きのこ (2) 新薬開発 幻覚作用、麻酔作用 → 自然毒の利用 (3) 食用・薬用以外の利用 鑑賞用・土産品など 【おわりに】 今、きのこ業界は斜陽産業と言われ、かつて農山村の主要な収入源であったきのこ 栽培も工業的生産が主流となり、その生産形態も様変わりした。こういった現状を踏ま え、我々の研究成果が農山村地域の生産者に少しでも役立てればと考えている。担子菌に含まれる生理活性物質の探索
-シモコシ (Tricholoma auratum)由来マウス骨芽細胞分化誘導物質- ○畠恵司、堀一之、高橋砂織 (秋田県総食研、生物機能部門) 【目的】 腫瘍細胞には、種々の因子により成熟 (正常)細胞に認められる性質を獲得、発現するという 事が知られている。この概念は“腫瘍細胞の分化誘導”と称され、今日では薬剤開発にひろく応 用されている。。例えば、白血病細胞については主に抗癌剤等により、増殖停止→分化誘導→ アポトーシス誘導のプロセスを経て死滅するため抗癌剤のスクリーニングに、神経芽種細胞は神 経成長因子添加で神経突起伸長が観察されることより、抗痴呆症薬剤の開発研究に利用されて いる。我々も、これまでメラノーマ細胞の分化の指標であるメラニン色素産生能の亢進を指標に、 同細胞の分化誘導物質の単離を行い、日焼け促進剤 (tanning 剤)や抗白髪剤への展開を検 討している1,2)。また、マウス骨芽細胞株 MC3T3-E1 細胞は、エストロゲンやイソフラボノイドに 代表される“植物エストロゲン”により増殖促進並びに分化が誘導されるということが知られてい るおり、骨粗鬆症予防との関係が注目されている 3)。本研究において我々は、MC3T3-E1 細胞 増殖促進・分化誘導因子をシモコシ (キンタケ) [Tricholoma auratum]より単離し、同細胞 に対する影響を検討した4)。 【方法】 マウス骨芽細胞 MC3T3-E1 細胞の分化は細胞内アルカリホスファターゼ (ALP)活性を、活 性染色並び定量することにより評価した。また、同細胞のアポトーシス検出は核の形態を Hoechst 33258 色素を用いた蛍光染色により判別した。 【結果及び考察】 39 種類の担子菌について MC3T3-E1 細胞分化誘導能を ALP 活性染色により評価した結 果、20 種類のものに活性が検出された。最も顕著な活性が認められた T. auratum のMeOH エキスより、MC3T3-E1 細胞の ALP 活性誘導を指標に活性物質を単離した結果、活性 物質として (22E, 24R)-ergosta-7,22-diene-3β,5α,6β-triol (1)が得られた。1 は 2- 5 µM の濃度で、MC3T3-E1 細胞増殖を約 1.4 倍促進した。また、1 は 2 µM 以上で MC3T3-E1 細胞の分化も誘導した。さらに、1 の構造類似体である ergosterol (2)及び ergocalciferol (3)について ALP 誘導能について構造活性相関を検討した。10 µM 1 添加に より、MC3T3-E1 細胞の ALP 活性は約 3 倍に上昇したが、0.1- 10 µM の 2 及び 3 による ALP 活性の誘導は認められなかった。これら結果より、1 の MC3T3-E1 細胞分化誘導能につ いては5 位及び 6 位の水酸基が重要な役割を担うと推察される。また、 MC3T3-E1 細胞は血 清除去により、アポトーシスが誘導されることが知られている。しかしながら、1 µM 以上の 1 は 血清除去による MC3T3-E1 細胞のアポトーシス誘導を緩和する結果が得られた。以上のこと より、1 はマウス骨芽細胞に対して、1)増殖促進因子、2)分化誘導因子、3)ストレス緩和因子と して作用することが推察された。
1. Hata K. et al., Biol. Pharm. Bull., 23, 962-967 (2000). 2. Hata K. et al., J. Nat. Prod., 65, 645-648 (2002).
3. Mizutani K. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 253, 859-863 (1998). 4. Hata K. et al., Biol. Pharm. Bull., 25, 1040-1044 (2002).
ネナガノヒトヨタケにおける遺伝子クローニングのための基盤整備
⃝村口 元、柳 園江 (秋田県立大学・生物資源) 【目的】 ネナガノヒトヨタケ(Coprinus cinereus)は遺伝解析が行いやすく、担子菌研究のモデル生物として世 界的にも広く研究されており、これまでに栄養要求性などのマーカーを用いた連鎖地図が部分的に作成 されてきた(1)。しかしながら、本菌の持つ13本の染色体全てにわたる連鎖地図は、これまで作られてこ なかった。子実体形成や菌糸成長に関わる遺伝子を、染色体上に迅速にマッピングし、それらの遺伝子 を確実にクローニングするための基盤整備を目的として以下の実験を行った。 【方法】 一核菌糸のままでも子実体形成を行う株(AmutBmut 株)を野生型一核菌糸(KF3#2 株)と交配し、その F1個体 40 株をマッピング集団とし、RAPD(Random amplified polymorphic DNA)および RFLP
(Restriction fragment length polymorphism)マーカーの分離を調べ、Mapmaker プログラムを用いて 連鎖解析を行った。AmutBmut 株に紫外線照射をして得られた子実体形成過程に変異を示す2つの突 然変異株(傘が成熟せず石突が徒長するもの:pin1, 柄の伸張しないもの:eln6)をそれぞれ野生型一
核菌糸(KF3#2 株)と交配し、その F1個体 40 株について、表現型と連鎖を示す RAPD マーカーを検索
した。マッピング集団中の1株(#2)からのゲノム DNA を制限酵素 HindIII で切断し、CHEF 電気泳動法 により 100-200 kb の DNA 断片を回収して、ヒトヨタケの trp1 を選択マーカーとして持つ BAC(Bacterial Artificial Chromosome)ベクターにつなぎ大腸菌 DH10B に導入し、ライブラリー化した。 【結果と考察】 215 の RAPD マーカーおよび 24 の RFLP マーカーからなる 13 の連鎖群を明らかにすることができ た。RFLP マーカーのプローブを用いて、CHEF 電気泳動で分けた 13 本の染色体 DNA に対して、サザ ンハイブリダイゼイションを行い、13 の連鎖群を各染色体 DNA と対応させることができた。 子実体形成過程の突然変異体(pin1 と eln6)を用いた連鎖解析において、pin1 は第 V 染色体上に、 eln6 は第 XIII 染色体上に座位していることが明らかになった。 BAC ライブラリーの作成においては、平均 116kbのインサートを持つ12プレート(96 クローン/プレー ト)と平均 174kbのインサートを持つ12プレートのライブラリーを構築することができた。 今後は、マップを利用して、突然変異した遺伝子近傍の BAC クローンを選び出し、子実体形成過程や 菌糸成長の突然変異体に形質転換して突然変異形質を相補するクローンを同定していく予定である。 【参考文献】
1.PUKKILA, P. J., 1992 Methods of genetic manipulation in Coprinus cinereus, pp. 249-264 in Culture collection and
(株)白神オーガニックロードの目指すもの
○舟橋慶一 (白神オーガニックロード) 【企業理念】 世界遺産、“白神山地”を通して、人々の健康と自然環境を守ることを企業理念とします。 【事業内容】 取扱商品 ○プロテアーゼフリーマイタケ粉末 マイタケはプロテアーゼ活性が高く、タンパク質が加工上重要な働きをする食品へ添加すること が困難でありました。プロテアーゼを失活させることを秋田県総合食品研究所、秋田十條化成 (株)、(株)寛文五年堂、(有)アンシャンテの共同研究により成功し、弊社が販売しております。 このことにより、マイタケ粉末をパン・麺類などに添加することが可能となり、さまざまな加工食 品でマイタケの機能性を付加することが可能となりました。 粉末状(料理・携帯用)、錠剤。プロテアーゼフリーマイタケ粉末を用いた加工食品(うどん、そば、 パン、クッキー、プリン、豆腐 など) 現在の商品リスト:「北のまいたけ」粉末、錠剤。 マイタケ仕立てうどん。 ○ 白神天然水: 白神天然水を利用した化粧水など化粧品の開発をしています。(中川博士、 (有)セラファクトと共同開発)白神ピュアベーシック(化粧品)、森の詩(飲料水) ○白神地鶏: 白神山地域の八森町で比内地鶏を飼育しています。白神産比内地鶏きりたんぽセ ット:全国発送中。地鶏肉は市内の料亭で使用中。 ○ 白神産有機農産物の生産 現在、有機農産物・有機加工食品は非常に脆弱な基盤に立脚しており、有機農産物・有機加工食 品だから安全・健康的だとはいえない状況にあります。そのため、安全な食品を生産流通させる準 備をしています。我々は、白神山地の水を使用している農地とその生産者を組織的にまとめ、白神 の水を用いた有機農産物生産地を目指しています。クリーンな有機農産物の生産加工により、「お いしさ」「健康」「安心」をお届けします。有機小麦による製パン、菓子、製麺への利用。有機タマネ ギによる糖尿病用食品の開発。有機大豆を利用した豆乳・豆腐の首都圏への普及。白神八森沖か ら男鹿沖の海水を利用した食品調味料の開発。その他多岐にわたる、秋田産有機農産物を利用し た食品の開発と普及を目指しています。 ○ 公衆浴場の循環ろ過器内部のレジオネラ菌の殺菌剤(シェラスパ SC3) 循環配管の内壁には、バイオフィルムが生成されやすく、これがレジオネラ属菌の温床になるとい われています。繁殖したバイオフィルムの除去をpHの影響をうけずに殺菌することが可能です。 11 月 6 日セミナー主催 “レジオネラの脅威から秋田の温泉を守ろう”∼「安全宣言」を秋田県から 発信するために∼ 参加者 150 名(県内の温浴施設関係者)セミナー後 40 件から問い合わせを いただきました。悪性黒色腫の浸潤、転移における神経ペプチド:
α-MSH の機能解析
⃝村田 純、泉 睦勝、桑島明子、阿部達也 (秋田県大・生物資源)【目的】
我々はこれまでに、神経ペプチド:α-Melanocyte stimulating hormone(α-MSH)が、 マウスの自然肺転移モデル実験において悪性黒色腫(メラノーマ):B16-BL6 の肺転 移を著明に抑制すること、その作用機序の一つとしてこの癌細胞の組織浸潤を抑制す ること、さらにその浸潤抑制は細胞の運動性阻害に基づくこと、などを明らかとしてき た。今回、α-MSH による細胞運動阻害機序を、癌細胞から分泌される運動調節因子 の介在という観点から解析を行った。 【方法】
B16-BL6 由来の細胞運動促進因子:Autocrine motility factor (AMF)の分泌に及ぼ すα-MSH の影響を、B16-BL6 の培養上清を用いて Western blot にて解析した。細胞 膜上の AMF receptor(gp78)の発現に及ぼすα-MSH の影響を、Flow cytometry にて 検討した。α-MSH で前処理した B16-BL6 細胞の、培養上清中の運動阻害活性を Transwell chamber を用いた細胞移動実験にて検討した。 【結果と考察】 α-MSH は、AMF により促進された B16-BL6 細胞の運動性を抑制したが、この癌細 胞からの AMF の分泌及びその receptor (gp78)の発現には影響を与えなかった。一 方、B16-BL6 細胞をα-MSH で前処理した結果、その培養上清中に細胞運動阻害活 性が見出された。Forskolin を用いて細胞内 cAMP を上昇させた場合、α-MSH と同様 の運動阻害活性が培養上清中に誘導されたが、この活性はアデニル酸シクラーゼ阻 害剤の共存下で抑制された。この培養上清を分画した結果、分子量 3kDa 以下の画分 に運動阻害活性が認められた。B16-BL6 細胞を cycloheximide 存在下でα-MSH処理 した場合、培養上清中の運動阻害活性が減少した。 以上の結果より、α-MSH による B16-BL6 細胞の運動性の阻害は、B16-BL6 から産 生される細胞運動促進因子: AMF の分泌抑制あるいはその receptor の発現制御と いった運動促進機構の阻害ではなくむしろ、この癌細胞からの autocrine 型運動阻害 因子の分泌促進が関与していることを見出した。現在この因子の単離・精製に着手し ている。 【参考文献】
1 . Murata, J., Ayukawa, K., Ogasawara, M., et al., Int. J. Cancer, 80, 889-895(1999).
2.Murata, J., Ayukawa, K., Ogasawara, M., et al., Invasion Metastasis, 17, 82-93 (1997).
ヒト血液型抗原である Lewis 抗原がピロリ菌
に存在する意義
天野憲一(秋田大・医・機器センター) ピロリ菌(Helicobacter pylori)はグラム陰性細菌であり、胃十二指腸疾患の原因菌と して知られている。日本人の約6割が感染しており、感染者の一部のみが発症してい る。この菌の表面にはヒトの血液型抗原である Lewis 抗原構造と部分的に一致した内 毒素(LPS)が存在しており、この抗原とヒトとのコミュニケーションが以前より問題にさ れてきた。特に細菌側 Lewis 抗原の役割が感染発症とどのように関わっているのかが 重要なところである。このことに関して初めに考えられたのはこのLPSの存在が宿主 に対して自己免疫疾患を誘発している可能性についてである。我々も当初この可能性 を考慮してヒト血清との反応性を研究した。その結果、Lewis 抗原に対する抗体産生 が疾患とは結びつかなかった。細菌側の Lewis 抗原の存在はむしろ宿主の免疫機構 からの回避に役立っているという見方が妥当と思われる。遺伝子配列からも LPS 合成 遺伝子の中に AG の繰り返し配列や polyC 配列が存在しており、Slip による発現の on-off 調節が可能となる。これは Lewis 抗原のフコース転移酵素などの発現調節によ って Lewis 抗原の構造変化を起こし、この変化が宿主側の免疫機構の回避をもたらす ことが可能となる。最近になり、宿主細胞への接着因子としての役割を持ち、その後の 増殖の促進を促しているという報告が出された。いずれにしろ、このような細菌と宿主 のクロストークは自然界に共生するための細菌の mimicry(擬態)であろう。 【参考文献】1.Yokota, S, Amano, K., Shibata, Y, et. Al. Infect. Immun. 68, 151-159, 2000 2.Yokota, S., Amano, K., Fujii, N., Yokochi, T. FEMS Microbiol. Lett. 185, 193- 198, 2000
3. 天野憲一、横田伸一. 日本細菌学会誌 56, 421-433, 2001(総説) 4. Amano, K. Trends Glycosci. Glycotech. 14, 105-114, 2002 (Review)
バキュロウイルス感染昆虫細胞の酸素消費挙動と 低温培養による組換えタンパク質生産 ○千葉邦博、後藤 猛、菊地賢一 (秋田大・工資) 【緒言】 昆虫細胞-バキュロウイルス発現系による組換えタンパク質の生産は溶存酸素(DO) に大きく影響され、臨界 DO 以上に制御することが必須である。しかし、呼吸活性が高く脆弱 な昆虫細胞の培地に穏和な方法で十分に酸素を供給することは困難であり、このことが昆虫細 胞の高密度培養やスケールアップを図る際の大きな障害となっている。この問題を克服する方 策の一つとして、細胞の呼吸速度を低下させて DO の減少を抑制する低温培養が注目される。 本研究では、昆虫細胞の酸素消費挙動に及ぼす温度の影響を調べ、さらにバキュロウイルス感 染昆虫細胞の低温培養を行って組換えタンパク質の生産挙動を明らかにする。 【実験】 昆虫細胞は Spodoptera frugiperda (Sf-9)を、バキュロウイルスは緑色蛍光タンパク質 遺伝子を導入した vGFPuv を用いた。空気供給用の多孔性チューブを有する 1-L スピナーフラ スコ型培養器に細胞懸濁液(3×105 cells/ml)を入れて空気供給速度 1.0 L/min、所定の温度(20、 28℃)で培養を開始した。指数増殖期前期に MOI=20 でウイルス感染させ、さらに培養を続けた。 【結果と考察】 ウイルス未感染および感染 Sf-9 細胞の比呼 吸速度を種々の温度で測定し、その DO 依存性を調べた結果 を Fig. 1 に示す。Sf-9 細胞の比呼吸速度は温度上昇およびウ イルス感染によって大きく増加することが分かった。また、 Sf-9 細胞の比呼吸速度はウイルス未感染、感染に関わらず Monod 型の式(1)でよく表されることが分かった。これより求 めた 28℃以下の臨界 DO (3 KS)は 0.16 ppm となった(Fig. 2)。 0 2 4 6 0 0.4 0.8 1.2 1.6 DO [ppm] [ μ mol/10 6 cells/h] q
Fig. 1 Effect of DO on of un–infected (open key) and infected (closed key) Sf–9 cells. , 34℃; , 28℃; , 22℃; , calculation. q ) 1 ( 2 2 max O S O S K S q q + = qmax: 最大比呼吸速度 KS: 飽和定数 空気のみを供給しながら 20、28℃で Sf-9 細胞のウイルス感 染培養(MOI=0.1)を行った。DO は生細胞密度の増加に伴って 急激に減少し、28℃の培養では感染後に臨界 DO 以下となっ た(Fig. 3A、B)。一方、20℃の培養では感染 5.5 日目から GFPuv が細胞外に漏出して培地中に多量に蓄積するが、28℃の培養 ではほとんど増加していない(Fig. 3C)。これは 28℃の培養で はウイルス感染期間の DO が臨界値以下まで低下したために、 感染プロセスが十分に進行しなかったためと考えられる。以 上より、低温培養は酸素供給が不十分な条件における組換え が分かった。 15 20 25 30 35 0 2 4 6 Temperature [℃] [ μ mol/l]
Fig. 2 Effect of temperature on of un–infected Sf–9 cells. KS KS= 1.69 μmol/l KS タンパク質生産に有効であること 0 5 10 15 20 0 100 200 300 400 500 C
GFPuv fluorescence intensity
: 20℃ : 28℃ 0 5 10 15 20 0 2 4 6
Viable cell density [×
10 6 cells/ml] A : 20℃ : 28℃ 0 5 10 15 20 0 2 4 6 8 10
Time post infection [dpi]
DO [ppm]
B
: 20℃ : 28℃
Fig. 3 Sequential changes in (A) viable cell density, (B) DO, and (C) GFPuv in media of vGFPuv–infected Sf–9cell cultures at 20 and 28℃.
トチュウおよびホップの機糖尿病合併症予防活性成分
○戸松 誠、進藤 昌(秋田総食研) 【目的】 生活習慣病の代表ともいえる糖尿病において、最も恐ろしいことは網膜症・腎症・神 経障害といった合併症の発症であるといわれている。合併症発症に深く関わっている と考えられているアルドース・レダクターゼ(Aldose Reductase,AR)は、グルコースをソ ルビトールに変換する酵素であり、この酵素を阻害すれば合併症を予防できるのでは ないかと考えられている。我々は、合併症予防効果を持つ食品素材の開発に向けて、 各種食用動植物資源および加工食品等から AR 阻害活性の探索を行っているが、トチ ュウおよびビール・ホップ中の強い AR 阻害活性成分を特定したことを紹介する。 【方法】 AR は、種特異性・組織特異性があることが知られており、ヒトの合併症予防を目的と した場合にはヒトの合併症の標的組織の AR を阻害するかどうかが、最も重要である。 本アッセイには、ヒト網膜から抽出精製した AR と同様の機能を有することがわかって いる、ヒト筋肉細胞起源の組換え体(市販)を用い、グリセルアルデヒドとの反応により 消費される NADPH の吸光度変化を測定し、コントロールとの比較から阻害率を算出し た。反応は、96 穴マイクロプレートを用いた反応系 100 μl、室温で 10 分間行った。 【結果と考察】 スクリーニングした中で、トチュウ、ビール(ホップ)に活性が認められ、トチュウの主 な AR 阻害活性成分としては、クロロゲン酸メチル、クロロゲン酸が、また、ビールから は、ホップ中の α酸が加熱処理してできるイソ α酸(ビールの苦味成分)が、活性成分 として含まれることがわかった。これらは、AR 阻害作用が知られるケルセチンよりも、 50%阻害濃度(IC50)が低く、pH・熱安定が高いことから、種々の加工処理を経ても活 性を失わないことが期待される。また、最近、イソ α酸に、マウスの血糖値上昇抑制効 果があることが報告され、総合的な糖尿病改善作用を持つ食品素材等の開発が期待 される。 本研究の一部は、平成 12−14 年度中小企業庁「中小企業技術開発産学官連携促進 事業」を活用し、トチュウの成果は(株)秋田今野商店、物産中仙(株)、秋田県立大学 との、またホップの成果は、秋田県麦酒醸造技術研究会との共同研究で得られた。ジュール加熱を応用した新規発酵法と
電気インピーダンス測定による工程管理
⃝秋山美展 (秋田県総食研) 【目的】 発酵乳の製造において、発酵工程は製品の品質を決定する極めて重要な工程であ り、製品の特性に合わせて、用いる乳酸菌の種類、発酵温度、発酵時間などが決定さ れる。発酵乳の製造は通常、一定温度に保った発酵室(発酵タンク)で行われるが、ジ ュール加熱法を発酵乳製造に適用すると発酵温度の連続変化や発酵後の部分殺菌 が可能になるなどの利点が期待される。ジュール加熱発酵法の開発と工程の非破壊 モニター法を検討した。 【方法】
乳酸菌:Hansen 社 ABT-5、LB-12 および rosell 社 kefia スターターを用いた。 発酵培地:7, 10, 13 % 還元脱脂乳。発酵温度:25∼48℃。 発酵は恒温器による保温発酵(従来法)とジュール加熱によって一定温に保持する方 法(ジュール発酵法)によった。発酵中のインピーダンス測定は電極面積 1cm2、電極 間距離 1cm のチタン板を電極としてハイテスター3531Z(ヒオキ電機)により連続的に 測定した。 【結果と考察】 ジュール発酵法と従来法による発酵によって得られた発酵乳には質的な差は認め られなかった。発酵工程をモデル化するために成長式をベースにした実験式を導入し た。実験式と実際の発酵曲線の適合性は高く、r>0.98 であった。酸度変化を発酵時 間について一次及び二次微分すると図1に示す微分曲線を得た。一次微分曲線のピ ークがゲル化開始時期と一致し、二次微分曲線のピークが増殖対数期開始時期、谷 (逆ピーク)が対数終了期に一致した。電気インピーダンスの測定により発酵工程の非 破壊モニターが可能となった。 0 2 4 6 8 - 0 . 1 0 . 0 0 . 1 0 . 2 0 . 3 0 . 4 0 . 5 0 . 6 0 . 7 0 . 8 乳酸 酸度( %) 時 間 ( h ) 酸 度 曲 線 一 次 微 分 二 次 微 分 ↑ 対 数 期 終 了 図1 乳酸酸度の経時変化とその時間微分曲線