1. 研究背景と目的 昨今の日本語教育をめぐる動向の一つに,第二言語教育における関心が学習者に「何を教 えるか」という教師主体のものから,学習者が「どう学ぶか」という学習者主体のものへと 変化しつつあることが挙げられる。第二言語環境における目標言語習得の場面についてネウ ストプニー(1995)は,言語習得には教師監督下の「言語教育」と学習者監督下の「言語学習」, そして監督者が特定できない「自然習得」があると述べた。その中でも,学習者が主体となっ て,自分の学習を管理する学習者監督下の言語学習が注目されるようになり,日本語教育に おける「自律学習」の研究も大変盛んに行われている。また,日本語学習者の自然習得につ いてその実態を明らかにするための様々な試みがなされ,学習者の主体的な役割に関心を持 ち,学習者の多様性に注目した言語習得の研究も幅広く行われるようになった。確かに,教 室において教師管理のもとで学習する時間には制約がある。特に日本で生活している留学生 の場合,通常彼らの日本語習得の大部分が教室外の場面,すなわち,教師の不在の条件下で 起こるということは否めない。 このような現状において,教師監督下で行われている日本語教育のクラスはどのようなも のであるべきなのか。さらには,日本語教育の現場と密接に関連している教育行政および各 教育機関における日本語教育政策および留学生政策は何をめざすべきだろうか。これらの問 いへの答えを導き出す第一歩として,本稿では学習ストラテジー(Learning Strategy)の観 点から,日本の大学で学ぶ留学生が第二言語環境においてどのように日本語を習得している のか,その現状を明らかにするための調査と考察を行う。 そもそも学習ストラテジーとは,学習者が言語を学ぶ際に行う様々な思考活動や行動を意 味する。第二言語学習者が目標言語を学ぶ際に影響を与える要因としては,知力,言語適正, 年齢,学習スタイル,性格,動機づけ,学習ストラテジーなどが挙げられるが,これらの要 因は,学習者の一般的特性と考えられる「内的学習者要因」と社会的・文化的な要因に影響 を受ける「外的学習者要因」に分けられる。前者は,いわば生得的なものであり,後者は他 者や外部からの影響を受けることによって言語学習に働きかけるものである。第二言語学習
日本語学習者の第二言語習得と
学習ストラテジー
尹 智 鉉
者が目標言語を学ぶ際に,内的要因である知力や言語適性,性格といった個人差に起因する 部分があることは否めないものの,それだけでは説明できない事例も多い。外的要因の中で も特に学習ストラテジーに注目したのは,学習スタイルが内的要因に含まれたような生得的 性質をもつのに比べ,学習ストラテジーは外部からの働きかけによって学習者が新しく習得 したり,改善したりできる要因であるためだ。また,教授法が教師主導の方法であるのに対 して,学習ストラテジーは学習者が主体となって自らの第二言語習得のために用いる方法で ある。教師不在の環境で日本語学習者が自らの学習を進めていくときに重要な役割を担うの が学習ストラテジーであるとも言える。 具体的には,現在の所属機関である日本大学文理学部で学ぶ留学生が第二言語環境でどの ような日本語学習ストラテジーを多用するかについて,大学での勉学と関連した言語学習に 焦点を当てて調査を行い,その結果に基づいて教師の学習支援および学習環境作りのあり方 を検討することを,本稿の目的とする。 2. 先行研究の概要 ストラテジー(strategy)とはそもそも軍事用語に由来するもので,目的達成のための長 期にわたる総合的な戦術を意味するものであった。現在は,目的達成のための柔軟な手順や 方法といった意味として,より幅広く使われている。第二言語教育の分野では,いわば学習 者が自分の言語学習過程をより良くするために活用する様々手段・方法・操作という意味で 用いられることが多い。
Færch and Kasper (1938) は,第二言語習得をめざす学習者には,宣言的知識(declarative knowledge)と手続き的知識(procedural knowledge)の 2 種類が存在するとした。前者は 言語的に定義できる静的で概念的な知識であり,後者は課題を解くための方法に関する知識 である。手続き的知識はさらに,社会プロセス(social process)と認知プロセス(cognitive process)に分かれる。さらに認知プロセスは,学習プロセス(learning process)と使用プ ロセス(using process)に分かれる。学習プロセスにおいて,学習者は現在の知識と新たな インプットを用いて第二言語のルールを蓄積し,自動化していく。この時に使うストラテジー が学習ストラテジー(learning strategy)である(『応用言語学辞典』2003)。このような言 語学習ストラテジーであるが,実際には研究者によって様々な概念として捉えられてきた。 代表的なものとしては以下のような例が挙げられる。 ・ 学習者が構築していく言語体系の発達に寄与し,学習に直接影響を及ぼすストラテ ジー(Rubin 1987) ・ 学習者の言語学習態度である。また,学習者自らが使っているストラテジーに関する 知識および学習者が使っているストラテジー以外の言語学習に関する一般知識でもあ る(Wenden 1987)
・ 学習をより容易に,より早く,より楽しく,より自律的に,より効果的に,新しい状 況により移転しやすいようにするために,学習者がとる特有の行動(Oxford 1990) ・ 個人が新しい情報を理解したり,学習したり,覚えておいたりするのに役立てるため
に特に用いる配慮や行動(O Malley and Chamot 1990)
・ 学習者が知識を効果的に構築しようとする際に用いる方策・手段,および自らの学習 能力を促進させる操作(岡崎・岡崎 1990,伴 1992)
・ 学習者に意識的に選択されて,第二言語もしくは外国語の情報の記憶,保持,想起, 応用を通して,学習や言語使用を高めるための行動となる方法(Cohen 1998)
70 年代以降,言語学習者の認知過程において学習するためのストラテジーが存在し,第 二言語習得の成果に影響を与えていることが報告され(Garden & Lambert 1972),その主流 は「good language learner(良い学習者・優秀な学習者)」(Rubin1 975)の条件に関するも のであった。これらの研究において学習ストラテジーは,学習者の様々な身体的,心理的, 社会的要因と共に,学習の成功に個人差が生じる要因の一つとみなされた。言語学習ストラ テジーをめぐるこれらの研究内容は,下記の 4 つに分けられる。 (1) 学習ストラテジーの定義を明らかにし,その種類の決定と分類を試みるもの (2) どのようなストラテジーが有効であるのかという問いを含む,第二言語習得における 学習ストラテジーの役割を論ずるもの (3) 学習ストラテジーを検証するための研究方法論に関するもの (4)学習ストラテジーのトレーニングを取り上げたもの 要するに,従来の言語学習ストラテジーに関する研究は,一般的によくできるとされる優 秀な学習者が対象言語を学ぶ際に使っているストラテジーを調査し,分析を行うことで,言 語学習ストラテジーに関する定義・分類・評価を行ってきたと言える。また,学習ストラテ ジーの包括的な分類方法に関する代表的な研究として,O Malley 他(1985)と Oxford(1990) が挙げられる。O Malley らの研究では,英語を第二言語として学ぶ高校生を対象に授業内・ 外における言語学習活動を調査した結果,26 種類のストラテジーを観察することができた。 これらのストラテジーをまとめ,メタ認知ストラテジー,認知ストラテジー,社会的仲介 ストラテジーの 3 分類にまとめた。一方で Oxford は,まず,目標言語の学習に直接関わる 「直接ストラテジー(Direct Strategies)」と,言語学習を間接的に支える「間接ストラテジー (Indirect Strategies)」に二分し,それぞれに 3 つずつの下位区分を設け,より詳細な分類を 提示した。Oxford が考案した SILL(Strategy Inventory for Language Learning)は,学習者 のストラテジー使用に関する多くの調査で用いられている。ここで,Oxford(1990)のス トラテジー分類を紹介しておく。
直接ストラテジー
1
)記憶ストラテジー(Memory Strategies
) a. 知的連鎖を作る : ①グループに分ける ②連想をする / 十分に練る ③文脈の中に新しい 語を入れる b. イメージや音を結びつける : ①イメージを使う ②意味地図を作る ③キーワードを使う ④記憶した音を表現する c. 繰り返し復習する : ①体系的に練習をする d. 動作に移す : ①身体的な反応や感覚を使う ②機械的な手段を使う2
)認知ストラテジー(Cognitive Strategies
) a. 練習をする : ①繰り返す ②音と文字システムをきちんと練習する ③決まった言い回し や文型を覚えて使う b. 情報内容を受け取ったり,送ったりする : ①意図を素早くつかむ ②情報内容を受け 取ったり,送ったりするために様々な資料を使う c. 分析したり,推論したりする : ①演繹的に推論する ②表現を分析する ③(言語を)対 照しながら分析する ④訳す ⑤転移をする d. インプットとアウトプットのための構造を作る : ①ノートを取る ②要約をする ③強調 をする3
)補償ストラテジー(Compensation Strategies
) a. 知的に推測する : ①言葉的手掛かりを使う ②非言語的手掛かりを使う b. 話すことと書くことの限界を克服する : ① 母語に変換する ②助けを求める ③身ぶり 手ぶりを使う ④コミュニケーションを部分的に,あるいは,全く避ける ⑤話題を選 択する ⑥情報内容を調整したり,とらえたりする ⑦新語を造る ⑧婉曲的な表現や類 義語を使う 間接ストラテジー4
)メタ認知ストラテジー(Metacognitive Strategies
) a. 自分の学習を正しく位置づける : ①学習全体を見て,既知の材料と結び付ける ②注目 する ③話すのを遅らせ,聞くことに集中する b. 自分の学習を順序立て,計画する : ①言語学習について調べる ②組織化する ③目標と 目的を設定する ④言語学習タスクの目的を明確にする(目的をもって聞く,読む,話 す,聞く)⑤言語学習タスクのために計画を立てる ⑥実践の機会を求める c. 自分の学習をきちんと評価する : ①自己モニターする ②自己評価する5
)情意的ストラテジー(Affective Strategies
) a. 自分の不安を軽くする : ①斬新的リラックス法,呼吸法,黙想を活用する ②音楽を使 う ③笑いを使う b. 自分を勇気づける : ①自分を鼓舞する言葉を言う ②適度に冒険をする ③自分を褒めるc. 自分の感情をきちんと把握する : ①体の調子を診る ②チェック・リストを使う ③言語 学習日記をつける ④他の人々と自分の感情について話し合う
6
)社会的ストラテジー(Social Strategies
) a. 質問をする : ①明確化,あるいは確認を求める ②訂正してもらう b. 他の人々と協力する : ①学習者同士協力する ②外国語に堪能な人と協力する c. 他の人々への感情移入をする : ①文化を理解する力を高める ②他の人々の考え方や感 情を知る 前述したように本研究の目的は,日本の大学で学ぶ学部生留学生が第二言語環境でどのよ うな学習ストラテジーを使用しているのか,または,使用していないのか,その傾向と実態 を明らかにした上で,教師の学習支援および学習環境作りのあり方について検討することで ある。いわゆる「good language learner」の要件を検証する研究ではない。学習者の中には, 自律的になれる人もいれば,そうでない人もいる。学習における自律性が生得的な資質であ るのかどうかも一概には言えないものである。Dickinson(1993)によれば,自律性の高い 学習者は,①自分が何を教わっているかがわかっている,②自分の学習目的を理解している, ③自分に合ったストラテジーを選び,実行できる,④これらを自分でモニターできる,⑤自 分に合わないストラテジーをやめる方法を知っている,などの特徴がある。 本稿は,教室内・外における学習能力向上のための指導法および学習環境作りについて注 目するものであり,第二言語学習に何らかの問題を抱えていたり遅れが生じている学習者に 対する支援を考察するためのものでもある。そのため,本稿では学習ストラテジーについて Oxford(1990),岡崎・岡崎(1990),伴(1992)などの定義を援用しながら,より広範な 意義付けをしたい。学習ストラテジーとは「学習者が自らの日本語習得を推進・改善するた めに用いる手段および方法」であると捉える。学習者が第二言語としての日本語を学び,尚 且つ,目標言語である日本語を用いて大学で勉学する際に取る行動や操作であれば,それら を全て学習ストラテジーとみなし,その使用実態について調査を行う。また,本稿において は,それぞれの学習者において各ストラテジーが効果的か否かをめぐる個別の評価は適用し ないこととする。調査実施においては,Oxford(1990)の SILL が学習ストラテジーを幅広 く定義していること,そして,その内容が学習者にも理解しやすいことから質問紙作成に大 いに参考にしつつ,本研究の目的に合致した学部生留学生向けの内容を独自に作成して使用 する。 3. 調 査 今回の調査実施において,平成 22 年度に日本大学文理学部に入学した 1 年生の中から調 査協力者を募集した結果,正規の新入生(交換留学生を除く)35 名の内,計 31 名から協力 を得ることができた(約 88.6%)。本研究においてデータとなるのは,前期授業の開始時(4 月)に調査した書面式インタビュー資料,および,後期授業開始時(9 月)に行った質問紙調査 の結果である。主な分析の対象は,言語学習ストラテジーの使用をめぐる質問紙調査の結果 であるが,留学の動機や日本語学習歴などについては,分析時に書面式インタビューの結果 を補足資料として用いることにする。 質問紙の作成においては,Oxford(1990)の SILL をもとに,独自の工夫を加えた。工夫 した点を具体的に述べると,(1)学部生留学生の勉学に関連した具体的な学習場面を想定し ていること,(2)日本の大学で学ぶ日本語学習者の状況に合いそうな内容を選んでいるこ と,(3)6 つのストラテジーの分類それぞれに 10 個ずつの質問項目を設定していること,(4) SILL と異なり,安易な回答や中間値への偏りを避けられるよう,「よくやる」「ときどきやる」 「あまりやらない」「ほとんどやらない」の 4 つの選択肢にしたことである。今回のアンケー ト調査における質問内容と Oxford の分類項目の関係性を示したのが【表 1】である。 【表1】 問紙調査の質問内容と SILL の分類項目 番号 質 問 SILL6 分類 下位 区分 教材や資料などを読んで理解しようとする時、 1 まず、タイトルや章の見出しで、どういう内容か推理する 2) 認知 b 2 重要そうなところにアンダーラインを引きながら読む 2) 認知 d 3 自分が既に知っている語彙や内容と結びつけて、内容を推理する 3) 補償 a 教材や資料などを読んで、知らない語彙や表現などがあった時、 4 まず、辞書を使って調べる 2) 認知 b 5 その語彙や表現の中で知っている部分から全体の意味を推理する 2) 認知 c 6 全体の内容がだいたい分かれば、気にせずにとばす 3) 補償 a 7 文脈から意味を推理する 3) 補償 a 8 担当科目の先生や日本語科目の先生にたずねる 6) 社会的 a 9 日本人の友達にたずねる 6) 社会的 a 10 留学生の友達にたずねる 6) 社会的 a 新しい語彙や表現、文法項目などを覚える時、 11 同義語・反対語などをセットで覚える 1) 記憶 a 12 例文ごと覚える 1) 記憶 a 13 キーワードや中心概念を使って覚える 1) 記憶 b 14 覚えたい部分が意味する内容のイメージを映像で思い浮かべてみる 1) 記憶 b 15 自分の母語や知っている日本語の似た語感のものと結びつける 1) 記憶 b 16 しばらく時間をおいてからもう一度やって、繰り返しながら覚える 1) 記憶 c 17 覚えたい部分を動作を使って演じたり、ジェスチャーを使って覚える 1) 記憶 d 18 単語帳や単語カードを使って覚える 1) 記憶 d 19 何度も書いてみる 2) 認知 a 20 母語や自分が知っている他の言語の知識を使って、理解しようとする 2) 認知 c 21 声に出して言ってみたり、リズムに乗せたりして覚える 1) 記憶 b 大学の授業に出席する時、 22 これまでやったことや前回の授業で学んだ内容を復習してから行く 1) 記憶 c 23 その日やることの確認や予習をして、授業を受ける準備をしておく 4)メタ認知 b 24 自分なりに、その日がんばろうと思う目標をもって授業にのぞむ 4)メタ認知 b
25 自信がない時でも、教師の質問に積極的に答えてみる 4) 情意的 b 26 自分には少し難しそうに思える内容や科目にも挑戦してみる 4) 情意的 b 27 その日の気分や体調によって、出席するかどうか決める 4) 情意的 c 28 友達と授業の感想や不満などを話し合う 4) 情意的 c 29 途中わからないことがあったら、先生に質問したり、友達にきいたりして確認する 6) 社会的 c 先生の講義や人の発表、スピーチなどを聞く時、 30 メモを取りながら聞いたり、ノートをよく取る 2) 認知 d 31 話し手の表情や声のトーン、ジェスチャーなどで意味や状況を推理しながら聞く 3) 補償 a 32 自分の学習に関連がありそうな部分に注目して、集中して聞く 4)メタ認知 a 33 聞いた内容に関連して質問されたり、課題が出される場合は、まず事前に質問項目 や課題内容を確認しておいてから聞くようにする 4)メタ認知 b 日本語でレポートや小論文、書類などを書く時、 34 辞書や文法書で、単語や表現などを確認する 2) 認知 b 35 自分が書きやすい内容・テーマを選ぶ 3) 補償 b 36 表現するのが難しい時は、その部分は抜かしたり簡略に書いたりする 3) 補償 b 37 正しい表現かどうか分からない時は、自分なりに表現を作って書く 3) 補償 b 38 書いた文章を自分で読み直しながら確認したり、書き直したりする 4)メタ認知 c 39 書いた文章を他の人にチェックしてもらう 6) 社会的 a 人前で発表やスピーチ、音読などをする時、 40 振り仮名を原稿に書き入れたり、予め練習をしておく 2) 認知 a 41 上手に使えるパターン化した言い方やよく知っている表現を組み合わせて、自分の 話したいことを言う 2) 認知 a 42 日本語の語彙や表現が出なかったら、母語や英語などを混ぜて話す 3) 補償 b 43 言い方が分からなかったら、その場にいる他の人に助けてもらう 3) 補償 b 44 言葉でうまく表現できない場合は、ジェスチャーを使って伝える 3) 補償 b 45 話すことに自信が持てない場合は、なるべく話す機会を減らして、他の人が話すの を聞くようにする 4)メタ認知 a 46 事前に、録音をしたり鏡を使ったりして、自分のできをチェックする 4)メタ認知 c 47 深呼吸をするなど、自分がリラックスできるように努力する 4) 情意的 a 48 「きっとうまくいく」と自分自身に言い聞かせて、自らを励ます 4) 情意的 b 49 上手な人に聞いてもらって、アドバイスをもらう 6) 社会的 b 50 聞き手の反応や、その場にいる人たちの感情などを理解しながら進めるように努力 する 6) 社会的 c 自分で課題をやったり自習をする時、 51 効果的な勉強法や良い教材などについて自分から積極的に情報を収集する 4)メタ認知 b 52 まず自分で到達目標を立てて、それに向けてがんばる 4)メタ認知 b 53 テストの結果や先生からのフィードバックをもらったら、その原因を分析して、今 後の対策を練る 4)メタ認知 c 54 好きな音楽などを聴きながら勉強する 4) 情意的 a 55 教材として映画やマンガなどを選んで、楽しく勉強できるようにする 4) 情意的 a 56 自分へのご褒美(ほうび)を決めておいて、それを楽しみにしてがんばる 4) 情意的 b 57 日本での生活や学習について思ったこと、感じたことなどをメモしておいたり、日 記をつけたりする 4) 情意的 c 58 留学生の友達とお互い教えたり質問したりしながら一緒に勉強する 6) 社会的 b 59 日本人の友達とお互い教えたり質問したりしながら一緒に勉強する 6) 社会的 b 60 日本語だけではなく、日本の社会や文化についても積極的に吸収しようと努力する 6) 社会的 c
4. 分析 本研究では,多くのデータを一貫性のある枠組みから検証し,その結果を見通した上で学 部生留学生のストラテジー使用の実態を述べ,考察を行っていくために,質的分析と量的分 析を併用した。このように質的分析と量的分析を併用する調査方法は「混合アプローチ」(浜 田他 2006)と呼ばれるものである。日本語学習者の学習過程を知るためには,学習者と学 習環境の相互作用をまるごとそのままの姿で記述する必要があると同時に,異なる学習者の 資料をある程度標準化し,統一的な視点から見通すことも必要であることから,本研究では 混合アプローチを用いて分析を行った。 4.1 調査協力者の属性 今回の調査において,平成 22 年度に日本大学文理学部に入学した 1 年生の 31 名から協力 を得ることができた。その基本属性についてまとめたのが【表 2】である。また,調査協力 者全員の年齢層および日本語学習期間については【図 1】と【図 2】で示す。 区分 A クラス B クラス 計 人数 16 名 15 名 31 名 性別 男 5 名 女 11 名 男 5 名 女 10 名 男 10 名 女 21 名 国籍 / 母語 韓国 / 韓国語 16 韓国 / 韓国語 11 中国 / 北京語 4 韓国 / 韓国語 27 中国 / 北京語 4 平均日本語学習期間 34.50 ヶ月 母国 :19.38 ヶ月 日本 :15.13 ヶ月 27.20 ヶ月 母国 :12.20 ヶ月 日本 :15.00 ヶ月 30.97 ヶ月 母国 :15.90 ヶ月 日本 :15.06 ヶ月 日本語能力試験 1 級合格 :13 名2 級合格 :1 名 未受験 :2 名 1 級合格 :8 名 2 級合格 :3 名 未受験 :4 名 1 級合格 :21 名 2 級合格 :4 名 未受験 :6 名 【表2】調査協力者の属性 【図1】調査協力者の年齢層 【図2】調査協力者の日本語学習期間 7 15 7 2 名 2名 4名 6名 8名 10名 12名 14名 16名 19歳以下 20∼24歳 25∼29歳 30∼34歳 各年齢層人数 15.13 19.38 15.00 12.20 ヶ月 5ヶ月 10ヶ月 15ヶ月 20ヶ月 25ヶ月 30ヶ月 35ヶ月 Aクラス Bクラス 日本で 母国で
ここで A クラスと B クラスについて少し補足説明をしておくと,1 年生のクラス分けは, 新入生と交換留学生を対象に行われたプレイスメント・テストの結果によるものであった。 テストは日本語能力試験の問題形式を取り,採点処理を考慮して全問を選択型にした。解答 時間が 30 分間の短時間で実施されることから,所要時間が長いのに比べて正確なレベルの 差が見えにくいといわれる読解問題はテストから省いた。出題は,日本語能力試験 2 級レベ ルと 1 級レベルの問題による二段構成にした。プレイスメント・テストが選択式のみで出題 された場合,ある得点帯に多くの受験者が集中するとレベル分けが困難になることがあるが, 難易度の異なるセクションを設けて二段構成にすることで,たとえ同じ得点の受験者の場合 でもレベル分けが可能になる。1 年生全員にテストを受けさせ,テスト結果で上位の半分を A クラス,下位の半分を B クラスとして編成した。 4.2 言語学習ストラテジーの使用(総合) 学習ストラテジーに関する質問紙調査は,「よくやる」∼「ほとんどやらない」の 4 段階 の選択肢から回答者が選択するようにした。調査協力者は,6 つのストラテジーごとに 10 個ずつの質問に対して回答することになる。分析にあたって,まずは,A と B の二つのク ラスで回収した質問紙から,それぞれのストラテジーに対する回答数を 4 段階別に集計した。 その内容をまとめたものを【図 3】【図 4】【図 5】で示す。次に,A クラス 16 名と B クラス 15 名による言語学習ストラテジーの使用傾向(各選択肢の回答数)において有意差がある かを確認するため,回答を「やる」と「やらない」に大分し,カイ二乗検定を行った。その 結果が【表 3】の内容である。 区分 クラス やる (よくやる + ときどきやる) やらない (あまりやらない + ほどんどやらない) P 値 有意差 1. 記憶 A 71 89 0.07010 無 B 82 68 2. 認知 A 119 41 0.84593 無 B 113 37 3. 補償 A 106 54 0.22070 無 B 109 41 4. メタ認知 A 91 69 0.02325 有※ B 104 46 5. 情意的 A 82 78 0.98830 無 B 77 73 6. 社会的 A 79 81 0.35138 無 B 82 68 【表3】ストラテジー使用のクラス間比較 : カイ二乗検定の結果 ※有意水準 0.05 以下で、差は有意である
58 95 109 48 124 108 65 13 92 123 72 23 81 114 86 29 52 107 87 64 49 112 92 57 0 20 40 60 80 100 120 140 記 憶 S 認 知 S 補 償 S メタ認 知 S 情 意 的 S 社 会 的 S 26 45 62 27 51 68 35 6 42 64 38 16 30 61 49 20 19 63 45 33 26 53 48 33 0 10 20 30 40 50 60 70 80 記 憶 S 認 知 S 補 償 S メタ認 知 S 情 意 的 S 社 会 的 S 3 2 5 0 4 7 2 1 7 3 4 0 3 0 7 5 0 5 9 3 4 7 5 1 5 3 3 7 9 3 3 4 4 4 2 3 1 2 3 5 9 4 4 2 4 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 記 憶 S 認 知 S 補 償 S メ タ認 知 S 情 意 的 S 社 会 的 S よくやる ときどきやる あまりやらない ほとんどやらない よくやる ときどきやる あまりやらない ほとんどやらない よくやる ときどきやる あまりやらない ほとんどやらない 【図3】全調査協力者の言語学習ストラテジー使用傾向(単位 : 回答数 /310) 【図4】A クラスの言語学習ストラテジー使用傾向(単位 : 回答数 /160) 【図5】B クラスの言語学習ストラテジー使用傾向(単位 : 回答数 /150)
カイ二乗検定によってクラス間のストラテジー使用傾向を比較した結果,有意差が認めら れたのはメタ認知ストラテジーのみである。次項から,各ストラテジー別の分析結果を述べ るが,メタ認知ストラテジーについては,さらにその下位の区分についてクラス間比較を行 い,その詳細を検証することにする。続いて,各回答に対して「よくやる→+15」,「ときど きやる→+5」,「あまりやらない→−5」,「ほとんどやらない→−15」に数値化し,集計を行っ た。本研究では,この方法によって計算された数値を「ストラテジーの使用量」とする。ス トラテジーの使用量に関する記述的統計の結果が【表 4】と【表 5】である。代表値を示す 平均値およびばらつき具合を示す散布度を示したが,平均には算出平均を,散布度には標準 偏差を用いた。 ストラテジーの使用量において全体の傾向を見ると,よく使われている学習ストラテジー 【表4】ストラテジー使用量に関する記述的統計(総合) 【表5】ストラテジー使用量に関する記述的統計(ストラテジー区分ごと) 区分 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95%信頼区間 下限 上限 A クラス 16 1.32 9.58 0.31 0.71 1.93 B クラス 15 3.11 9.77 0.33 2.47 3.75 全体 31 2.19 9.72 0.23 1.75 2.63 区分 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95%信頼区間 下限 上限 1. 記憶 クラス A 16 -0.63 9.53 0.06 -2.11 0.85 クラス B 15 1.20 9.71 0.06 -0.35 2.75 全体 31 0.26 9.66 0.03 -0.82 1.34 2. 認知 クラス A 16 5.25 8.29 0.05 4.01 6.53 クラス B 15 6.93 9.14 0.06 5.47 8.39 全体 31 6.06 8.75 0.03 5.09 7.03 3. 補償 クラス A 16 3.25 9.32 0.06 1.81 4.69 クラス B 15 5.13 8.64 0.06 3.75 6.51 全体 31 4.16 9.05 0.03 3.15 5.17 4. メタ認知 クラス A 16 1.31 9.26 0.06 -0.12 2.74 クラス B 15 4.73 9.09 0.06 3.28 6.18 全体 31 2.97 9.34 0.03 1.93 4.01 5. 情意的 クラス A 16 -0.75 9.46 0.06 -2.22 0.72 クラス B 15 0.27 10.50 0.07 -1.41 1.95 全体 31 -0.26 9.99 0.03 -1.37 0.85 6. 社会的 クラス A 16 -0.50 9.92 0.06 -2.04 1.04 クラス B 15 0.40 9.35 0.06 -1.10 1.90 全体 31 -0.06 9.66 0.03 -1.14 1.02
は,「認知ストラテジー」→「補償ストラテジー」→「メタ認知ストラテジー」→「記憶ス トラテジー」→「社会的ストラテジー」→「情意的ストラテジー」の順となる。【図 6】を みると,上位の「認知」・「補償」・「メタ認知」ストラテジーに比べ,下位の「記憶」・「情意的」・「社 会的」ストラテジーの場合,如何にその使用量が少ないのかが一目瞭然である。一方で,総 合した記述統計の結果で現れているように,A クラスと B クラスにおける学習ストラテジー の使用量に関しては,全てのストラテジーの区分項目で,B クラスのほうが高い数値を示し ている。 4.3 直接ストラテジーの使用 直接的ストラテジーは,対象言語そのものの処理に関わっている。記憶ストラテジーは新 しいインプットの記憶と想起に,認知的ストラテジーは対象言語の理解と能動的な運用に, 補償ストラテジーは認識や情報の不足を補うために使用される。 4.3.1 記憶ストラテジー 記憶ストラテジーは,記憶術とも呼ばれ,古くから学習ストラテジーとしてよく使われて きた。Oxford の分類によると,記憶ストラテジーには四つの下位項目がある。「a. 知的連鎖 を作る(Creating Mental Linkages)」,「b. イメージや音を結びつける(Applying Images and Sounds)」,「c. 繰り返し反復する(Reviewing Well)」,「d. 動作に移す(Employing Actions)」 である。また記憶ストラテジーは,注目するというメタ認知ストラテジーや不安を軽くする 情意的ストラテジーと同時に使うと,より効果的になると言われている。記憶ストラテジー は,非常に簡単な作業,例えば,配列する,連想する,復習するなどの学習活動を反映して いて,これらの作業はすべて「意味(meaning)」と関連している。語彙学習は一見非常に 単純そうに見えるが,第二言語を学ぶ学習者にとって,多量の語彙を記憶し,それらを正し 1.32 ‐0.63 5.25 3.25 1.31 ‐0.75 ‐0.50 3.11 1.20 6.93 5.13 4.73 0.27 0.40 2.19 0.26 6.06 4.16 2.97 ‐0.26 ‐0.06 総合 記憶 認知 補償 メタ認知 情意的 社会的 クラスA クラスB 全体 【図6】ストラテジーの使用量における産出平均
く位置づけることは,目標言語の学習過程において欠かせないことであり,また,大変な作 業でもある。言語素材は,記憶ストラテジーによって学習者に蓄えられ,コミュニケーショ ンに参加する場合など,アウトプットが必要な時に想起される。 このような働きをもつ記憶ストラテジーであるが,【表 6】で示されているように今回の 調査結果では,学部生留学生である調査協力者において積極的には使用されていないことが わかった。その原因として,二つが考えられる。まず,調査協力者の日本語学習歴や日本語 能力試験の受験状況からもわかるように,個人差は存在するものの,全体が中上級以上の日 本語能力をもっている。恐らく第二言語を学ぶ際に,この記憶ストラテジーを意識的に最も よく使用するのは初級から中級レベルの学習者であると考えられる。学習段階という側面か ら考えると,既に一定の語彙力を身につけている中上級学習者は記憶ストラテジーをあまり 使用していない可能性が高い。SILL を援用して構成された今回の質問紙調査では,新しい 語彙や表現,文法項目などを覚える時,同義語・反対語などをセットで覚える / 例文ごと覚 える / キーワードや中心概念を使って覚える / 覚えたい部分が意味する内容のイメージを 映像で思い浮かべながら覚える / 自分の母語や知っている日本語の似た語感のものと結び付 ける / しばらく時間をおいてからもう一度やって,繰り返しながら覚える / 覚えたい部分を, 動作を使って演じたりジェスチャーを使って覚える / 単語帳や単語カードを使って覚えるな どに関する質問内容であった。これらの学習活動は,文字や語彙,文法項目の導入が多く行 われる初級∼中級の学習過程においてよく行われている。 しかし,中上級学習者にも,既習知識以外の新しいインプットが多く与えられていること もまた事実である。特に日本で生活をしながら第二言語環境に身をおいている留学生の場合, 【表6】記憶ストラテジーの使用量に関する記述的統計 区分 質問番号 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95% 信頼空間 下限 上限 1)a 1112 A クラス 16 -1.88 8.08 0.25 -4.68 0.92 B クラス 15 -0.67 8.83 0.29 -3.83 2.49 全体 31 -1.29 8.47 0.14 -3.37 0.79 1)b 13 14 15 21 A クラス 16 2.81 8.74 0.14 -0.33 4.95 B クラス 15 4.67 9.12 0.145 2.36 6.98 全体 31 3.71 8.98 0.07 2.13 5.29 1)c 1622 A クラス 16 0.31 9.01 0.28 -2.81 3.43 B クラス 15 3.33 8.20 0.27 0.40 6.26 全体 31 1.77 8.76 0.14 -0.38 3.92 1)d 1718 A クラス 16 -7.19 9.26 0.29 -10.40 -3.98 B クラス 15 -6.00 8.70 0.29 -9.11 -2.89 全体 31 -6.61 9.01 0.15 -8.82 -4.40
大量の新しい語彙や情報のインプットが常に与えられている。質問紙調査で得られる結果で は,あくまでも調査協力者本人の自己申告によるものであるため,調査協力者が強く意識せ ず,または無意識のうちに使用している学習ストラテジーに関しては,その実態を正確に汲 み取ることが困難であるという点もある。これらの二つの要因によって今回のデータからは, 記憶ストラテジーが多く使用されていない結果となったと推察できる。 4.3.2 認知ストラテジー 認知ストラテジーとは,第二言語の学習に必要不可欠な手段であり,学習者の間で最も頻 繁に用いられるストラテジーとされている。O Malley 他(1985)は,高校生や大学生はメ タ認知ストラテジーよりも認知ストラテジーをはるかに多用すると調査報告に述べた。本研 究における調査でも,6 つの分類の中で最も多く使用されているストラテジーであることが 示された。【表 7】は,認知ストラテジーの使用量に関する記述的統計結果をまとめたもの である。 認知ストラテジーは多様性に富み,繰り返しや分析,要約に至るまで様々な手段が含まれ ているが,学習者による対象言語の操作と変形を伴う点では共通している。認知的ストラテ ジーは次の四つの部分に分けることができる。「a. 練習をする(Practicing)」,「b. 情報内容 を受け取ったり(Receiving)送ったりする(Sending)」,「c. 分析したり(Analyzing),推論 したり(Reasoning)する」,「d. インプットとアウトプットのための構造を作る(Creating)」 である。中でも「練習をする」ストラテジーは最も重要な認知ストラテジーの一つであるが, 学習者の中には練習することの重要性を認識できていない場合も多く,このような学習者に 対しては,教師からの働きかけが必要となる。教師監督下の教授場面だけを考えても,クラ 区分 質問番号 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95% 信頼空間 下限 上限 2)a 40 41 19 A クラス 16 3.96 8.48 0.18 1.56 6.36 B クラス 15 5.89 9.39 0.21 5.68 6.10 全体 31 4.89 8.98 0.10 3.06 6.72 2)b 1 4 34 A クラス 16 5.83 7.86 0.16 3.61 8.05 B クラス 15 8.78 7.97 0.18 8.60 8.96 全体 31 7.26 8.05 0.09 5.62 8.90 2)c 205 A クラス 16 5.31 8.47 0.26 5.05 5.07 B クラス 15 7.67 8.92 0.30 7.37 7.97 全体 31 6.45 8.77 0.14 4.27 8.63 2)d 302 A クラス 16 6.25 8.20 0.26 3.41 9.09 B クラス 15 5.00 10.00 0.33 4.67 5.33 全体 31 5.65 9.14 0.15 3.37 7.93 【表7】認知ストラテジーの使用量に関する記述的統計
スの人数や構成,参加者の個人的な要因によって,与えられる練習の機会が必ずしも均等で あるとは言い難い。教室活動における教師のクラス・マネージメントは,学習者の自律性や 認識における差を考慮した上で,学習者の言語学習ストラテジーに働きかけるという面でも, 大変重要な意味をもつ。 最近,日本語教育の分野でも読解教育と関連して,「スキミング(skimming)」や「スキャ ニング(scanning)」といった用語がよく使われている。前者は,中心点や目的をつかむ目 的で素早く読むことであり,内容全体の把握に焦点を当てたものである。そして後者は,あ る特定の情報や事項をつかむ目的で素早く読むことであり,特定事項の把握が中心となる。 このスキミングとスキャニングは,情報内容の受け取りに関わるストラテジーであるため, 認知ストラテジーの一種となる。今回の調査では,認知ストラテジーの中でも,「b. 情報内 容を受け取ったり,送ったりする」に関する質問項目において,最も高いストラテジー使用 量の数値を示している。 また,調査の結果からは「c. 分析したり,推論したりする」もよく用いられていることが わかったが,このストラテジーに関しては,学習者の習得過程において教師や母語話者から のフィードバックが非常に大事である。このストラテジーを用いる際に誤用が生じることも 多く,そのような場合,目標言語(target language)の規範から逸脱する部分が現れ,学習 者の中間言語(interlanguage)としての特徴を示すためだ。例えば,母語の影響による誤用 や過剰一般化などがある。分析したり,推論したりすることは第二言語の学習において非常 に重要であり,身につけるべき認知ストラテジーの一つであるが,不適切な中間言語を生み 出す恐れがあるという点では,教師の適切な指導が必要なストラテジーであると言える。 4.3.3 補償ストラテジー 補償ストラテジーは学習者が第二言語を理解したり,発話したりする際に足りない知識を 補う目的で使うものであり,大きく二つのグループに分類できる。一つは,聞くことと読む ことを「a. 知的に推測すること(Guessing)」であり,もう一つは「b. 話すことと書くこと 【表8】補償ストラテジーの使用量に関する記述的統計 区分 質問番号 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95% 信頼空間 下限 上限 3)a 3 6 7 31 A クラス 16 5.78 8.89 0.14 3.60 7.96 B クラス 15 8.00 7.14 0.12 6.19 9.81 全体 31 6.85 8.17 0.07 5.41 8.29 3)b 35 36 37 42 43 44 A クラス 16 1.56 9.22 0.10 -0.28 3.40 B クラス 15 3.22 9.02 0.10 1.36 5.08 全体 31 2.37 9.16 0.05 1.05 3.69
の限界を克服すること(Overcoming)」である。 推測ストラテジーは,時には推論(inferencing)とも呼ばれるが,言語学習者が文章を読 んだり,話を聴いたりする時に,自分に与えられたインプットに対して既習知識の不足を補 うために,言語的または非言語的な手掛かりを使って意味を推測するものである。また,補 償ストラテジーはインプットに対する理解の場面だけでなく,アウトプットを産出する際に も使われる。第二言語学習者は補償ストラテジーを使用することで,産出対象に関する目標 言語の知識が不十分な場合でも,書いたり話したりすることができる。発話をするための補 償ストラテジーは,発話を理解するためのストラテジーと合わせて「コミュニケーション・ ストラテジー(Communication Strategy)」として扱われることもあり,これに関する多く の研究がなされ,活発な議論が交わされてきた。Oxford(1990)によると,このようなス トラテジーを上手に使う学習者は,時には目標言語の語彙や構造についてよく知っている学 習者よりもはるかにコミュニケーションがうまいという。 今回の調査結果では,全調査協力者において補償ストラテジーが積極的に使用されている ことが明らかになった。ストラテジーの使用量においても,最も使われている認知ストラテ ジーに次ぐ数値である。この結果は A クラスと B クラスで共通した傾向を示しており,理 解(3.a)と産出(3.b)の面に関わる補償ストラテジーの使用を比較してみると,インプッ トに対する理解においてより多く使われていることがわかる。 優れた言語学習者は分からない表現にぶつかると,経験などに基づいて推測をする。一方 で,このような問題に遭遇した学習者の中には,どうすべきか分からずうろたえてしまった り,学習や理解のプロセスを止めてしまう場合さえある。逆に,分からない情報に対して一 つ一つ辞書で調べないと先に進めない学生もいる。しかし,日本の大学で学ぶ留学生の学習 状況と目標言語の習得過程を考えると,あまりにも多くの「新しいもの」に対してこのよう に一語一語を調べるというストラテジーだけでは,全てに対応し切れない部分がある。また, 推測ストラテジーは,準母語話者レベルの超級学習者や母語話者までもが,全く新しい情報 に接したときや行間に隠された意味を把握するときなどに使用しているものである。これら の理由から考えると,日本語教師はその重要性を認識した上で,教師監督下の場面において 第二言語学習者の推測ストラテジー使用について確認を行い,さらに,そのストラテジー獲 得を促していく必要がある。 4.4 間接ストラテジーの使用傾向 間接的ストラテジーは学習の過程を調整することに役立つものである。メタ認知ストラテ ジーは認知の過程に働きかけ,情意的ストラテジーは感情・動機・心的態度の制御に関わる ものである。そして,社会的ストラテジーは他者とのやり取りを通じて学習を助ける働きを もつ。これらのストラテジーが「間接(indirect)」と呼ばれるのは,多くの場合,目標言語 には直接関係せずに言語学習を支え,実施されるものであるからだ。
4.4.1 メタ認知ストラテジー
メタ認知ストラテジーは,認知作用を越えて,あるいは認知作用を伴って機能するもの である。その働きは,学習者が自らの認知作用をコントロールすることを意味し,全ての学 習過程で用いられるものでもある。またメタ認知ストラテジーは,第二言語の学習を成功 させるために欠かせないものであり,「a. 自分の学習を正しく位置づける(Centering Your Learning)」,「b. 順序だて,計画する(Arranging and Planning Your Learning)」,「c. 自分の 学習をきちんと評価する(Evaluating Your Learning)」という 3 つの下位区分をもつ(Oxford 1990)。このストラテジーを用いた具体的な学習活動は,どのように学習していくか計画を たてること,学習する内容はどのようなものであるのかについて観察すること,自分の理解 と産出を分析すること,さらに,自分の学習成果やアウトプットについて自己評価を行うこ とである。 区分 クラス やる (よく + ときどきやる) やらない (あまり + ほどんどやらない) P 値 有意差 4)a A 25 7 0.60394 無 B 25 5 4)b A 41 39 0.20614 無 B 46 9 4)c A 25 23 0.03453 有※ B 33 12 区分 質問番号 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95% 信頼空間下限 上限 4)a 3245 A クラス 16 5.00 9.01 0.28 1.88 8.12 B クラス 15 6.33 8.46 0.28 3.30 9.36 全体 31 5.65 8.78 0.14 3.46 7.84 4)b 23 24 33 51 52 A クラス 16 0.50 8.20 0.10 -1.30 2.30 B クラス 15 3.53 8.75 0.12 3.41 3.65 全体 31 1.97 8.60 0.06 0.62 3.32 4)c 53 38 46 A クラス 16 0.21 10.41 0.22 -2.73 3.15 B クラス 15 5.67 9.75 0.22 2.82 8.52 全体 31 2.85 10.46 0.11 0.72 4.98 【表9】メタ認知ストラテジー使用のクラス間比較 : カイ二乗検定の結果 【表10】メタ認知ストラテジーの使用量に関する記述的統計 ※有意水準 0.05 以下で、差は有意である
今回の調査において,A クラスと B クラスのストラテジー使用に有意差がみられたのは, メタ認知ストラテジーのみであった。そこで,さらに下位分類までカイ二乗検定を行った結 果,二つのクラスの回答においてストラテジー使用に有意差が認められたのは,評価に関す るストラテジー(4.c)であることが明らかになった。この統計処理の内容をまとめて示し たのが【表 9】である。
本研究は,いわゆる「good language learner」の条件を検証するためのものではない。し かし,メタ認知ストラテジーの場合,プレイスメント・テストの結果によって編成された A と B の両クラスにおけるストラテジー使用傾向で有意差がみられたため,その考察ではク ラス間のレベル差について考える必要がある。また,両クラスには,入学までの日本語学習 期間の平均値にも差があることが調査協力者の属性を調べた結果から明らかになった(【表 2】 と【図 2】を参照)。 さらに,【表 10】はメタ認知ストラテジーの使用量に関する記述的統計の結果をまとめた ものであり,【図 7】はメタ認知ストラテジーの使用傾向について,選択肢ごとの回答数を 全回答数における比率として示したものである。B クラスの「よくやる」という答え(34.00%) が A クラス(18.75%)より 2 倍近く高い比率を示している半面,「ほとんどやらない」とい う答えは,A クラス(12.50%)のほうが B クラス(6.00%)より 2 倍以上高い比率を占めている。 また,メタ認知ストラテジーの下位項目の中では,評価に関するストラテジーの使用に有意 差がみられるということが,既にカイ二乗検定の結果から確認された。 これらの結果をまとめると,プレイスメント・テストでは A クラス学習者より低い平均 18.75% 34.00% 38.12% 35.33% 30.63% 24.67% 12.50% 6.00% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% Aクラス Bクラス ほとんどやらない あまりやらない ときどきやる よくやる 【図7】メタ認知ストラテジーの使用傾向
得点を示した B クラス学習者のほうでメタ認知ストラテジーをより多用していること,そ してストラテジーの下位項目に関しては,自分の学習結果をチェックし,自己評価するスト ラテジーを B クラス学習者のほうがより積極的に使用しているということになる。この結 果から考えると,プレイスメント・テストでやや劣る成績を示した B クラス学習者のほうが, より強い向上心と学習意識をもって意欲的に第二言語学習に取り組んでいるのではないかと 思われる。 4.4.2 情意的ストラテジー 情意という言葉は,感情,態度,動機,価値などを意味するが,言語学習ストラテジーの 情意的領域について明確に述べることは不可能であるとも言われる(Brown 1987)。Oxford は,言語学習に与える情意的要素の重要性はどんなに強調しても強調しすぎることはないと 述べた上で,10 種類の情意的ストラテジーに対して「a. 自分の不安を軽くする(Lowering Your Anxiety)」,「b. 自分を勇気づける(Encouraging Yourself)」,「c. 自分の感情をきちんと 把握する(Taking Your Emotional Temperature)」の 3 つに分類した。また,Naiman 他(1975), Wenden(1986)などの研究では,学習者の情意的側面は,言語学習が成功するか失敗する かに最も大きな影響を与えるものの一つであり,優れた言語学習者は学習上の情緒や態度を 如何に制御できるかを知っている人であると述べた。しかし,日本語を目標言語として学ぶ 学習者においては,このような情意的側面が自分の言語学習と結び付いているという意識が 弱い傾向があり,今回の調査でも情意的ストラテジーはあまり使用されていないという結果 となった(【図 6】と【表 11】を参照)。 しかし,第二言語環境で学ぶ日本語学習者の情意的側面が学習過程において如何に重要で あるのかについては,日本語教育従事者や関係者であれば誰もが否定できないことであろう。 特に第二言語環境の中で日常生活を送っている留学生にとっては,情意的側面がプラスとマ イナスの両面で大きく影響を及ぼしている可能性が非常に高い。異文化間コミュニケーショ ンで感じる難しさやカルチャー・ショックは,多かれ少なかれ留学生のほとんどが経験する ものである。大事なことは,そのような問題に遭遇したときに,どうやって乗り越えられる のか,または,どのように上手く付き合っていけるのかという対処方法である。このような 対処方法は,大学における勉学の場面のみならず,日常の生活場面においても大変重要性を もつが,本稿では大学における日本語学習や勉学の面に焦点を絞って,情意的側面に関わる 学習支援および学習環境作りについて考察を行う。 教師が第二言語学習者の情意的側面に働きかけることと深く関連しているものの一つが学 習者への動機づけ(Motivation)である。動機づけをめぐる数多くの研究や理論の中でも, 昨今,第二言語の教授場面においてその可能性が注目されているのが「学習動機づけのプロ セス・モデル」(Dőrnyei and Ottó 1998,Dőrnyei 2000,2001)である。このモデルの最大の 特徴は,かつての動機づけの研究とは異なる観点から動機づけを捉えなおし,過程志向アプ ローチ(process-oriented approach)に基づいている点である。つまり,動機づけを動的な
(dynamic)ものとして捉え,時間の経過に伴う動機づけの変化に注目している。 改めて情意的ストラテジーの使用に関する考察をまとめてみると,学習者自身が自分の第 二言語の習得と関連して情意的側面を認識していなかったり,または上手くコントロールで きなかったりする可能性が高いことから,日本語教師を含めて,第二言語学習者の習得を支 援する周囲の働きかけが非常に大事であると言える。当然ながら,学習支援および学習環境 作りといっても,単に学習リソースを学習者に提供し,教授活動を行うことだけではない。 第二言語を学ぶ学習者にとって直接言語学習と結び付くストラテジーとしてあまり認識され ず,積極的に使用されていない情意的ストラテジーであるが,学習者への動機づけという意 味から考えても,教師監督下の言語教育過程において学習者の情意的部分を考慮し,的確に 把握し,適切に働きかけていくことは,極めて重要な学習支援の一つであると言える。 4.4.3 社会的ストラテジー 言語は社会的行動の一形式であると同時に,言語学習もまた他人を巻き込む形で行われる ことから,適切な社会的ストラテジーを用いることは第二言語の習得過程において非常に重 要な要因であると言える。Oxford(1990)では,社会的ストラテジーには 3 つの下位分類が あるとした。その分類とは,「a. 質問をする(Asking Questions)」,「b. 他の人々と協力する (Cooperating with Others)」,「c. 他の人々への感情移入をする(Empathizing with Others)」
である。 最も基本的な社会的ストラテジーは,質問をすることである。質問を通して,学習者は自 分の理解や産出における問題解決に近づき,相手から直接的・間接的フィードバックを得る ことができる。質問の他に,学習者の仲間,もしくは,自分より上手な話者や役割モデル(role model)と一緒に何らかの形で協力しながら学習過程を進めることも目標言語の習得に大変 重要な要素であり,肯定的依存関係(positive interdependence)と相互協力を生むとされて 区分 質問番号 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95% 信頼空間 下限 上限 5)a 47 54 55 A クラス 16 -0.21 10.60 0.22 -3.21 2.79 B クラス 15 -1.00 11.62 0.26 -1.26 -0.74 全体 31 -0.59 11.12 0.12 -2.85 1.67 5)b 25 26 48 56 A クラス 16 -1.25 8.57 0.13 -3.35 0.85 B クラス 15 2.17 8.18 0.14 0.10 4.08 全体 31 0.40 8.56 0.07 0.33 0.47 5)c 27 28 57 A クラス 16 -0.63 9.33 0.19 -3.27 2.01 B クラス 15 -1.00 11.62 0.26 -4.40 2.40 全体 31 -0.81 10.51 0.11 -2.95 1.33 【表11】情意的ストラテジーの使用量に関する記述的統計
いる(Kagan 1986, Kohn 1987)。しかし,協力ストラテジーは全ての学習者にとって生来の ものとは言えず,これまでの研究によれば,言語学習者は協力ストラテジーを自ら進んで使 うことはないという報告がなされている(Reid 1987, O Malley 他 1985 など)。そのため,協 力的ストラテジーを高めるためには,教室内外を問わず学習者が協力・競争することに対し て持っている心理的ノイズを軽減できるようにする働きかけが必要となる。また,感情移入 をするというストラテジーは,他人の考えをよりよく理解するために,「他人と同じ立場に 身を置く」ということを意味する。様々な理由から,このストラテジーの使用はそう簡単に はいかない場合も多いが,目標言語が属する文化に対する理解を向上させ,他人の思考や感 情を認識できるようにする働きをもつ。 【表 12】は今回の調査協力者から得られた社会的ストラテジーの使用量をまとめたもので ある。情意的ストラテジー同様,社会的ストラテジーも学習者にとって積極的に用いられる ストラテジーではないことを示す結果となった(【図 6】を参照)。その理由は,学習者が社 会的ストラテジーを自分の言語学習と結び付けて認識していないということよりも,最近の 若年層の特徴の一つとして,グループ学習や協同学習をあまり好まない傾向があるからでは ないかと思われる。これらの点を勘案すると,教師監督下の言語教育場面においては,グルー プワークなどを取り入れ,学習者間に適度な協同と競争の関係性を持たせることが望ましい と言える。さらに,より広い観点から日本語学習者の支援と学習環境作りを考えると,第二 言語環境で学び,生活している留学生達が他者と協力し,他者と共感していけるよう,周囲 もまた第二言語学習者同様に,彼らのもつ文化に対して関心と理解を高め,彼らの感情に対 する感受性を持とうとする意識をもつ必要があると言える。 区分 質問番号 グループ 人数 平均 標準偏差 標準誤差 95% 信頼空間 下限 上限 6)a 8 9 10 39 A クラス 16 -3.44 10.19 0.16 -5.94 -0.94 B クラス 15 -3.50 9.10 0.15 -5.80 -1.20 全体 31 -3.47 9.68 0.08 -5.17 -1.77 6)b 49 58 59 A クラス 16 -2.71 9.41 0.20 -5.37 -0.05 B クラス 15 0.11 8.33 0.19 -2.32 2.54 全体 31 -1.34 9.01 0.10 -3.17 0.49 6)c 29 50 60 A クラス 16 5.63 6.89 0.14 3.68 7.58 B クラス 15 5.89 7.84 0.17 3.60 8.18 全体 31 5.75 7.37 0.08 4.25 7.25 【表12】社会的ストラテジーの使用量に関する記述的統計
5. 考察とまとめ 教師監督下の言語教育場面において,どのように学習者のストラテジーに対する意識を促 し,自律的学習能力を向上させていけるのか。その答えとして大きな可能性を持つのが「ス トラテジー・トレーニング」という方法である。Oxford(1990)は,学習ストラテジーを どのようにトレーニングするかについて,次のような段階的モデルを示した。 (1) 学習者の要求と学習に使える時間を決定する (2) 適切なストラテジーを選択する (3) ストラテジー・トレーニングのまとめかたについて検討する (4) 学習意欲を起こさせる重要な点について検討する (5) 教材や活動について準備する (6) 完璧に準備されたトレーニングを行う (7) ストラテジー・トレーニングを評価する (8) ストラテジー・トレーニングを修正する ストラテジー・トレーニングにおける教師の具体的な役割として,学習者がより体系的に そして意図的に学習ストラテジーが使用できるようにサポートをすること,学習者に対して 学習ストラテジー・トレーニングによって期待できる効果を明確に示すこと,学習ストラテ ジー・トレーニングによる自律的学習能力の向上をめざして学習者の自律性を促すこと,教 師監督下の言語教育場面においてストラテジーを組み込んだタスクを積極的に取り入れるこ となどが考えられる。教師監督下の言語教育場面において,教師管理のもとで学習者が「小 さい成功」を重ねていくことで第二言語学習者はストラテジーを獲得することができ,さら に第二言語学習者の動機づけにつながる。 本稿では,学部生留学生が第二言語環境でどのような日本語学習ストラテジーを使用して いるのかについて調査し,教師の支援と学習環境作りのあり方について取り上げた。調査で は,日本大学文理学部 1 年生の留学生を対象に,入学後から半年ほど経過した 9 月の時点で 質問紙調査を実施し,ストラテジーの使用傾向について明らかにした。さらに,分析の結果 に基づいて学習ストラテジーの意識化と自律的学習能力向上のための指導法に関する考察を 行った。 研究目的でも述べたように,学習ストラテジーは学習者が主体となって自らの第二言語習 得のために用いる方法であると同時に,外部からの働きかけによって学習者が新しく習得, 改善できるものでもある。なお,学習者監督下の言語学習場面と監督者が特定できない自然 習得の場面において日本語学習者が自らの学習を進めていくときに重要な役割を担うのが学 習ストラテジーである。田中・斉藤(1993)が指摘するように,学習者に自己の学習とスト
ラテジー使用を意識させ,潜在的自律学習能力を活性化することが必要である。日本語教師 には,目標言語に関する情報を伝えるだけではなく,学習者が「学び方」を学ぶことにも積 極的に関わり,正しく働き掛けていく役割が求められる。学習者が必要な言語学習ストラテ ジーを身につけ,自己の中に確立することができれば,教師不在の場面においても学習者自 らが第二言語の習得を管理し,推進していける。その意味で言語学習トレーニングを取り入 れた教授活動の有効性は改めて論じるまでもないといえる。 【参考文献】 伴紀子 (1992)「言語学習のための学習ストラテジー」カッケンブッシュ寛子 他(編)『日本語研究 と日本語教育』名古屋大学出版会
Brown, H. D. (1987)Principles of Language Learning and Teaching, Prentice Hall Regents. Cohen, A. D. (1998)Strategies in learning and using a second language, Addison Wesley Longman. Dickinson, L. (1993)Aspects of autonomous learning. ELT Journal, 47(4), 330 - 336.
D㶢rnyei, Z.(2000)Motivation in action: Toward a process-oriented conceptualization of student motivation. British Journal of Educational Psychology, 70, 519 - 538.
D㶢rnyei, Z.(2001)Teaching and Researching Motivation, Longman.
D㶢rnyei, Z. and I. Ottó.(1998)Motivati on in action: A process model of L2 motivation. Working Papers in Applied Linguistics, 4, 43 - 69.
Færch, C. and Kasper, G.(1983)Procedural knowledge as a component of foreign language learner s competence. In H. Boete and W. Herrlitz (eds.), Kommunikation im (Sprash-) Unterricht. Urecht.
Garden, R. & Lambert, W.(1972)Attitudes and Motivation in Second Language Learning. Newbury House.
浜田麻里・林さと子・福永由佳・文野峯子・宮崎妙子(2006)「日本語学習者と学習環境の相互作用 をめぐって」『日本語教育の新たな文脈』独立行政法人国立国語研究所(編)アルク 67 - 102 頁 Kagan, S.(1986)Cooperative learning and sociocultural factors in schooling, In Beyond Language:
Social and cultural factors in schooling language minority students, 231 - 290. 小池生夫他(編)(2003)『応用言語学辞典』研究社
Kohn, A. (1987) It s hard to get out of a pair. Psychology Today, Octorber, 53 - 57.
Naiman, N., Frőhlich, M., & Todesco, A.(1975)The good second language learner. TESL Talk, 6(1), 58 - 75.
ネウストプニー,J.V.(1995)「言語学習と学習ストラテジー」『日本語教育と日本語学習 : 学習ス トラテジー論に向けて』( 宮崎里司・ネウストプニー,J.V. 共編 ) くろしお出版
岡崎敏雄・岡崎眸(1990)『日本語教育におけるコミュニカティブ・アプローチ』凡人社
O Malley, J. M, Chamot, A.U., Stewner-Manzanares, G., Russo, R., and Kupper, L. (1985) Learning strategy applications with students of English as a second language. TESOL Quarterly, 19, 557 -584.
Reid, J. M.(1987)The learning style preferences of ESL students. TESOL Quarterly, 21, 87 - 111. Rubin, J.(1975)What the good language learner can teach us. TESOL Quarterly, 9, 41 - 51.
Rubin, J.(1987)Studying Learning Strategies. In Wenden, A.L. & Rubin, J. (eds.) Learning Strategies in Language Learning. Englewood Cliff, Prentice Hall Regents.
田中望・斉藤里美(1993)『日本語教育の理論と実際』大修館書店
Wenden, A. L.(1986)What do second-language learners know about their language learning? A second look at retrospective accounts. Applied Linguistics, 7(2), 186 - 205.
Wenden, A. L.(1987)Conceptual background and utility. In Wenden, A.L. & Rubin, J. (eds.) Learning Strategies in Language Learning, Prentice Hall Regents.