香川大学農学部学術報告 第46巻 第2号 71∼77,1994
数種ナス科読莱の胚珠発達における微細形態学的観察
垣渕 和正・藤目 幸嬢
MICROMORPHOLOGICAL OBSERVATIONS OF OVULE
DEVELPOMENT IN SOME SOLANACEOUS VEGETABLES
Kazumasa KAKIBUCHIand′Yukihiro FuJIME
Ovule development of sweet pepper,tOmatO,and eggplant was observed by
SCannlng electronmicroscope
lOvu1es of allkind of plants used were anatropous,and theyinitiated from
placenta Then nucelluswascoveredafterwardsbyinteguments
2Insweet pepper,0Vuleshape waslikewaterdropIntomato,0Vuleshapewas
like cocoonIn eggplant,OVule shape waslikee11ipse
3There was almost no changein ovu1e size from anthesis to fruit thickening
Stagein tomato
4 0vu1es o董sweet pepper and eggplant elongatedlongitudina11y at early stage
Width elongation of ovule started at anthesisin eggplant and atlater anthesisin
SWeet pepper
5In tomatoand eggplant,theincreasesofovulelength andwidth were almost
through the developmentalstagesIn sweet pepper,OVule sizeincreasedinlarge
fruited cultivar
Key Words:Solanaceae,SWeet pepPer,tOmatO,eggplant,OVule development′ micromorphology,SEM, 緒
果菜類において,胚珠の発達と胚珠数は果実肥大と果実品質を決定する上で重要な意味を持つ
キュ.ウリ(1),メロン(2)とスイカ(3)などのウリ類でほ,胚珠が正常に発達して稔実種子数が多くなるこ
とで,果実の肥大,果実の形状と糖の蓄積などの果実品質が高まることが報告されている‖ イチゴ
でも胚珠が発達しでできるそう果の数が果実肥大に関与し,特に大果系イチゴでは奇形果発生とそ
う果数にほ密接な関係があると報告されている(4)−ナス科疏菜でも胚珠は果実肥大と密接な関係があり(5),特にピ・−・マンでは種子数と果実重の間に相関があることが報告されている(6)
ナス科疏菜の胚珠発達過程でほ,Cochran(7)がピーマンの胚珠についてパラフィン切片を組織学
的に詳細に観察して報告している1また,ナスではDiggle(8)の縦切片儲察がある..しかし,これらは
いずれも切片試料であり,胚珠の発達過程の外部形態は不明である.特に,ナス科の胚珠は倒生胚
珠であるが(9),その倒生する過程は,立体的に示されていないい また,ピ・−・マンでは異型の違いに
ょって大果型品種,中果型品種,小果型品種に区別されているが,種類による胚珠発達の差異は明
教程疏菜の花芽形成並びに花芽発育過程に関する研究(第5報) 本研究の一L部は平成3年度園芸学会春季大会で発表した香川大学農学部学術報告 第46巻 第2号(1994) 72 らかにされていない 著者らは読薬類の花芽を走査型電顧で観察し,微細な花器原基などの形態を明らかにしてき た(10,11,12・13) ここではトマト,ナス,ピ、−マンについて,胚珠の発達過程について調査した結果を示す 材料および方法 供試材料にほ第1表に示したぃマトの ‘豊能’,ナスの‘千両1号’,ピ・−マ ンでは.大栗型の‘ヵリフォ・ルニアワン ダ・−・’ ,中果塾の‘新さきがけ’と小果 型の‘ししとう’の3品種,合計3種・ 5品種を供試した 1989年7月6日に各品種を25℃・暗黒 条件で催芽した.すべての種子が催芽し た7月12日に播種箱に播種したい 次いで 子葉が展開した7月21日に直径15cmの黒
TablelSolanaceous vegetables usedin thisexperiment
Vegetables Cultivers
Tomato ‘Horyu
Eggplant ‘Senryo−2’
Sweet pepper ‘shishito’,‘Shin−Sakigake’
‘California Wonder’ 色ポリポットへ各品種120個体を鉢上げし,無加温のガラス室内で播種から実験終了時まで生育さ せた 鉢上げ後の7月28日から第1花開花終了時の9月5日まで,5日おきに各品種について7∼14個 体を採取し,茎頂部及び第1花の花芽をFAAで固定したいその後茎頂部及び花芽を実体顕微鏡下で 解剖し,電子凍結式ミクロトーム(M−101)を用いてニー40℃で凍結させ,花芽の中央部で縦方向 に,また幼果の赤道付近で抗力向に切断した
作成した試料はGouge修正法(14)に従い,4%グルタ・−ルアルデヒドと1、6%オスミウム酸によっ
て2重囲定し,次いでエ・タノールシリーズによる脱水と酢酸イソアミルへの置換を行なった.その 後,試料を臨界点乾燥機(日立 HCP−1)に移し,20℃で酢酸イソアミルを液化炭酸ガスに置換 し,43℃で臨界点乾燥を行った乾燥後,蒸着装置(Eiko社)でPtもしくはPt・Pd蒸着を行ない, 走査型電子顕微鏡(日立 S−800型)で観察した一.加速電圧は5∼8kVとしたまた幼果発育を郭(15)の分類に従い,第1期(開花直前),第2期(開花前期),第3期(開花後
期),第4期(花冠落下期),第5期(果実肥大期)の5段階に分けた各品種とも箋采取した幼果を それぞれの段階に分け,各段階から5個体ずつを選び,胚殊径及び胚珠高を測定した 結 果 ピーマン‘新さきがけ’の胚珠発達を第1図に示したい 子房が形成された後,胎座部に胚珠が突 起状に分化した(第1図−1),.分化初期の胚珠の直径ほ約30J‘mであった.次にこの突起は伸長し, その側面に珠心原基と考えられる,直径約30/上mの突起状覿織が分化した(第1図−2,3)い 珠心 原基の周囲の組織は,珠心原基を取り巻くように盛り上がり,珠皮が分化した(第1図−4)い さら に発達が進むと,珠心が珠皮に巻き込まれるように発達し,胚珠は倒生した(第1図−5)い発達後 期の胚珠では長径は約150〟mとなり,その形は水滴形であった(第1図−5,6) ‘ヵリフォルニアワンダー’と‘ししとう’の胚殊発達過程の外部形態も‘新さきがけ,とはぼ 同じであった(データ、一省略)垣渕和正・藤日章紙:数種ナス科成業における微細形態学的観察 73
Fig.l.0vu1e developmentin‘Shin−Sakigake’pepper・
1)Initiation of ovule,2)Initiation of nuce11us,3)Development of nuce11us,4)Initiation of integment,5)Developing ovule,6)Longitudenalsection of developirlg OVule・
香川大学農学部学術報告 第46巻 第2号(1994) 74
Fig.2,0vule developmentin’Horyu’tomato.
1)Initiation of nucellus,2)Longitudinalsection of young ovule,3)Horizontalsection of young ovule,4).5) Developing ovule,6)Longitudinalsection of developing ovule・
垣渕和正・藤日章擁:数種ナス科疏菜における微細形態学的観察 75
Fig.3.0vule developmentin’shenryo2’eggplant. 1)0vule development,2)Developing ovule.
OV;OVule,nu;nuCellus,in;integument,Pl;Placenta. Table2.0vule developmentin Solanaceous vegetables
Stagesl:
1 2 3 4 5 ‘Horyu’Tomato Height (pm) Diameter(〃m) Height/Diameter 456.2 523.1 560.2 600.3 632.9 462.1 489.3 498.3 532.4 589.6 0.99 1.07 1.12 1.13 1.07 Lsenryo−2’Eggplant Height (〃m) Diameter(FLm) Height/Diameter 489.2 562.1 472.1 529.7 1.04 1.06 209.3 230.2 458.9 150.6 198.1 423.5 1.39 1.16 1.08 ‘shishito’sweet pepper Height (pm) Diameter(pm) Height/Diameter ‘shin−Sakigake’sweet pepper Height (FEm) Diameter(〃m) Height/Diameter 563.4 674.0 492.5 532.1 1.14 1.27 762.6 798.2 589.7 674.8 1.29 1.18 842.1 978,1 645.3 781.2 1.30 1.25 269.2 159.4 1.69 298.1 169.2 1.76 368.3 496.3 264.8 329.9 1.39 1.50 386.9 564.8 291.8 384.6 1.33 1.47 409.5 640.2 312,0 412.3 1.31 1.55 ‘california Wonder’sweet pepperHeight (〃m) 309.1 Diameter(pm) 210.4 Height/Diameter l.47
Zstages:1)Just before anthesis,2)Early anthesis,3)Late anthesis,4)Petalabscission,5) Thickening fruit. トマトとナスの胚珠も,ピーマンと同じ発達過程を示した.胚珠ほ胎座部に分化し,側面に珠心 突起を生じた(第2図…1).トマトの珠心原基はピーマンより小さく,直径が約20/Jmであった. その後珠皮が珠心を覆い(第2図一2,3,4),倒生胚珠となった.発達後期のトマトの胚珠はま ゆ形であり(第2図−5),縦切片の切断面の形状はほぼ円形であった(第2図−6). ナスの珠心原基も,トマトと同様に直径が約20〟mであった(第3図−1).胚珠はピーマン,ト マトと同様に倒生に発達した,発達後期のナスの胚珠は楕円形であった(第3図−2).
香川大学農学部学術報告 第46巻 第2号(1994) 76 第1期から第5期までの各品種の胚珠径と胚珠高を,第2表に示した.トマトの胚珠では,第1 段階の胚珠高胚珠径は,供試した品種の中で最も大きくなった.しかし,その後の増加はあまり認 められなかった.ナスでは,第2段階から第3段階にかけて,胚珠高,胚珠径ともに急激に増加し た.ピーマン3品種では,大栗型の品種ほど胚珠は大きくなり,小栗塑の‘ししとう’では第5期 の胚珠高が67如mであったのに対して,中巣型の‘新さきがけ’では79紬m,大果型の‘ヵリフォ ルニアワンダー’では97紬mと大きくなっていた. 胚珠高と胚珠径の比率をみると,トマトでは各発達段階を通して胚珠高と胚珠径がほぼ同じで あった.ナスでは,第2期まではやや縦長であったが,第3期より横方向の肥大が進んだ.ピーマ ンでも発育後期になるほど胚珠径の割合が増加した.特に‘ししとう’では第4期に胚珠径の割合 が顕著に増加した. 考 察 ナス科疏菜の走査電顕による花芽の 観察では,Chandra・Sawhney(16)によ るトマトとDiggle(8)によるナスの実験 例があるが,胚珠の発達過程までは観 察されていない. ナス科疏菜の胚灘倭連過程について は,Cochran(7)がピーマンの胚珠発達 を観察しており,教科書などでもその スケッチが用いられている.しかし, 胚珠の立体構造は明らかでない.本実 験でほ走査型電子顕微鏡を用いること により,胚珠の発達過程を立体的に把 捉することができた.すなわち,胚珠 は子房形成初j捌こ胎座部より円筒状の 突起として分化し,その後その側面に 突起を生じる.Cochranはこの突起が 珠心であるとしている.やがて,珠心 の突起は周囲の珠皮に包み込まれ,胚 珠は倒生する. トマトの胚珠径と胚珠高ほ,各発達 段階を適してあまり増加しなかった. Asahiraら(17)も,トマトの胚珠発達は 開花後7∼10日まで緩慢であることを 報告している. 他の種顆では発達初期の胚珠は縦長 であったが,発育後期になるほど横方 向の肥大が顕著になった.今回の測定 結果をもとにして,胚珠が楕円形であ ると仮定した場合の胚珠発達の模式図 を第4図た示した.トマトでは胚珠の 大きさにあまり変化はないが,ナスで ㈲莞6。。4。。2。。。価1。。。8。。6。。4。。2。。。㈲1。。。8。。6。。4。。2。。。仙1。。。8。。6。。4。。2。。。仙1。。。8。。6。。4。。2。。。 2 3 4 5 StagesZ
Fig.4.PatterrlOf ovule developmerltin Solanaceous
vegetables usedin this experiment.
Zstages:1)Just before anthesis,2)′Early
anthesis,3:Late anthesis,4)Petalabscission, 5)Thickening fruit.
垣渕和正・藤目幸挨:数種ナス科疏菜における微細形態学的観察 77 は発達初期から中期にかけて,ピ・−マンでほ.ほぼ経時的に胚珠高が増加した‖ 胚珠径は,ナスでは 発達初期から中期にかけて,ピ・−マンでは発達中期から後期にかけて顕著に増加した 摘 要 ピーマン,トマトおよびナスの胚珠発達を走査型電子顕微鏡で観察した 1,供試したナス科疏薬の胚珠は胎座部より分化した後,珠心を珠皮が巻き込むように 発達し,倒生胚珠となった 2.発達後期のピー・マンの胚珠ほ水滴形で,トマトはまゆ形,ナスは楕円形になった 3い トマ†の胚珠は開花直前から果実肥大開始時まで,大きさの変化はあまり認められ なかった 4.ナスとピーマンの胚珠は初め縦方向に伸長し,ナスでは開花期から,ピーマンでは 開花後期から横径の割合が増加した 5.トマ†とナスの胚珠は縦径と横径の割合がほぼ同じであり,ピー・マンでほ大果塾ほ ど胚珠が大きくなった
文 献
大慶学報,44:39−46(1992a) ㈹ 藤日章抗,垣渕和正:数種疏菜の花芽形成並びに 花芽発育過程に関する研究..第2報走査型電顕に よる数種アブラナ科疏菜の花芽発達段階の分類.香 大農学報,44:47−54(1992b) qカ 垣渕和正,藤日章擁:数種疏菜の花芽形成並びに 花芽発育過程に関する研究“第3報.走査型電子顕 微鏡によるアブラナ科蔵菜の花弁形成時期の観察 園学雑,(印刷中) 8扮 短渕和正,藤日章嫉:数種疏菜の花芽形成並びに 花芽発育過程に関する研究.第4報オクラの花芽 分化および花芽発達過程に.関する走査電麒像.香大 農学報,46:61−69(1994) ㈹ 藤日章挨:ハナヤサイ類の花らい形成並びに発育 の温度条件に関する研究.香大農紀要,401− 102(1983) ㈹ 郭富常:ピー・マンの花芽形成並びに果実発育の条 件に関する栽培学的研究.ppl−243(1991) [愛媛大博士論文]㈹ CHANDRA,KN and SAWHNEY,V K:A
SCanning electron microscope study of the devel−
Opment and surlace of floralorgans of tomato
仏yc呼♂rSよ(0′Z e5C祝ge和地椚ノCα乃′βof,62:2403
−2413(1984)
a7)AsAHIRA,T,TAKAGT,H,TAKEDA,Y and TsuKAMOJTO,Y:Studeis on fruit developmentin
tomato II Cytokinin activity in extracts from
pollinated,auXin − and gibberellin ーinduced parthenocarpic tomato fruits andits effect on the histology of the fruitMemRes[nstFood Sci, 尺.yoわび乃iγ,29,24−54(1968)(1994年5月31日受理)
引 用
(1)SEATON,H L:Relation olnumber of seeds to fruit size and shape in cucumbers Proc Amer ぶoc〃or亡 ぶcよ,35:654−658(1938) (2)鈴木栄治郎:メロン=生育のステー・ジと生理,生 態農文協編,農業技術体系4メロ:/基礎編.pp35 −105… 農文協,東京(1983) (3)倉田久男:スイカ=生育のステー・ジと生理・生 態.農文協編,農業技術体系4スイカ基礎編.ppll −88の4.農文協,東京(1983) (4)吉田裕一L:イチゴの花器および果実の発育に関す る研究−−・“愛ペリー”の奇形果発生を中心として −.香大農紀要,57:1−94(1992)
(5)RYLSKI,Ⅰ:Effect of night temprature onshape and size of pepper(Capsicum annuum L)J Amβr 5−oc〃or・£ ぶcよ,98:149−152(1973) (6)福元康文,加藤徹,中山進二:ピ・−マンの結実肥
大に関する研究第9報.果実の発達に対する種子 の役割“園芸学会中四国支部昭和52年度発表要旨, 517(1977)
(7)CocHRAN,H L:A morhological study of flowerand seed developmentin pepperJAger 尺♂一S,56:395−419(1938)
(8)DIGGLE,P K:Labile sex expressioninandro− monoeciousSolanumhirtum;Floraldevelopment α乃ds♂£壷加”涙乃α£i07Z Amgr ′ β0亡,78:377− 393(1991) (9)RYLSKI,Ⅰ:CapsicumIn AHHalevy(ed), Hand bookoffloweringVol2 pp140−146CRC Press,Florida (1985) (畑 藤日章紙,垣渕和正:数種疏菜の花芽形成並びに 花芽発育過樫に関する研究第1報.数種アブラナ 科疏菜の花芽並びに花序形成に関する走査電顕.香