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Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 705-722 (2015)

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プロテアソームの作動機構と細胞内動態

佐伯 泰

プロテアソームは生命史上最も複雑で洗練されたプロテアーゼである.プロテアソームは ユビキチン化タンパク質を速やかに選択的に除去することで,細胞内タンパク質の恒常性 維持のみならず,細胞周期の進行やシグナル伝達などさまざまな生命現象において必須の 役割を果たしている.近年,クライオ電子顕微鏡による構造解析が驚異的に進展し,プロ テアソームはユビキチン化タンパク質を確実に分解するために隅々までうまくデザインさ れた分子マシーンであることがわかってきた.さらに,タンパク質恒常性の維持のために, プロテアソームの分解キャパシティーが遺伝子発現,分子集合,活性調節などさまざま なレベルで制御されていることがわかってきた.本稿では,プロテアソームの構造と作動 機構,プロテアソームレベルの制御,細胞内動態,阻害剤開発について最新の研究動向を 我々の知見と併せて紹介する. 1. はじめに プロテアソームはユビキチン化タンパク質を迅速かつ選 択的に分解・除去するために高度な機能を獲得した超分子 複合体である1, 2).本酵素はATP依存的にユビキチン化タ ンパク質を分解する巨大なタンパク質分解酵素複合体とし て見いだされ,1988年,Alfred Goldberg,田中啓二らによ りproteasome (protease活性を有した巨大粒子∼some)と名 づけられた3).実際,プロテアソームは長軸45 nm,短軸 25 nmの棒状分子であり,リボソームに匹敵するサイズで ある(図1A).プロテアソームは33種類66個の構成サブ ユニットからなるが,さらに脱ユビキチン化酵素Ubp6や ユビキチン受容体Rad23など,プロテアソームと一過的に 結合し機能するPIPs (proteasome-interacting proteins)と呼 ばれるタンパク質群が存在し,プロテアソームの機能を正 負に制御している.プロテアソームはサイクリンやIκBな どの機能タンパク質を適切なタイミングで分解する細胞内 レギュレーターとして,さらにはタンパク質恒常性維持の ためのハウスキーピング分子としてすべての細胞で必須の 機能を果たしており,ストレス応答や細胞分化に伴いプロ テアソーム分解のキャパシティーがダイナミックに変動す ることがわかってきた.この分解キャパシティーの調節に はプロテアソーム遺伝子群の協調的な発現と分子集合の促 進やプロテアソーム活性の増強といったさまざまな制御機 構が存在する.プロテアソームは複雑な形状を持つ非常に 不安定な酵素であり,生化学的解析および構造解析が大き く立ち遅れていたが,アフィニティー精製法やクライオ電 子顕微鏡など解析技術の進捗に伴い,プロテアソーム全体 の高次構造および作動機構の詳細が次々と明らかとなって きた.さらにプロテアソームの細胞内動態やプロテアソー ムの核内機能に関する研究も始まっており,この5年ほど でプロテアソーム研究は大きな進展をみせている.本稿で は,真核生物に普遍的に存在する標準型プロテアソームに ついて,①プロテアソームの構造と作動機構,②プロテア ソームレベルの調節機構,③プロテアソームの細胞内動 態,④プロテアソームを標的とした薬剤開発について筆者 らの研究成果を交えつつ最新の知見を紹介する. 2. プロテアソームの構造と作動機構 プロテアソームはプロテアーゼ活性を持つ触媒ユニット CP (core particle,別称20Sプロテアソーム)とユビキチン 化タンパク質の分解に必須の制御ユニットRP (regulatory particle,別称PA700)が会合した構造を持ち,この活性化 型フォームを26Sプロテアソームまたは単にプロテアソー ムと呼ぶ(余談だが,この26Sの“S”は沈降係数のSであ り,CPの片側にRPが会合したRP1-CPは26 S, CPの両端 公益財団法人東京都医学総合研究所生体分子先端研究分野蛋白 質代謝研究室(〒156‒8506 東京都世田谷区上北沢2‒1‒6) Structure, dynamics and functions of the proteasome

Yasushi Saeki (Laboratory of Protein Metabolism, Tokyo Metropoli-tan Institute of Medical Science, 2‒1‒6 Kamikitazawa, Setagaya-ku, Tokyo 156‒8506, Japan)

本総説は2014年奨励賞を受賞した. DOI: 10.14952/SEIKAGAKU.2015.870705 © 2015 公益社団法人日本生化学会

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にRPが会合したRP2-CPは30 Sであるため,正確には両者 を分けて呼ぶべきであるが,機能に差異があるか不明であ り,今のところ慣例的にどちらも26Sプロテアソームと呼 ばれている)1, 2, 4).プロテアソームは非常に不安定な酵素 であり,生化学的解析および構造解析が大きく立ち遅れて いた.実際,最後の構成サブユニットRpn15/Sem1を筆者 らが同定したのは2004年である5).そのころ,エピトープ タグ融合によるプロテアソームのアフィニティー精製法が 開発され,個々のサブユニットやPIPsの機能解析が大き く進展した6‒8).プロテアソームサブユニットのストイキ オメトリ(化学量論)について,Robinsonらと共同で30S プロテアソームをNative質量分析計により解析したとこ ろ,その質量は2,587,352 Daと決定された9).この値は33 種類の構成サブユニットを2分子ずつ含んだ理論値とほぼ 一致したため,プロテアソームの全構成サブユニットが確 定した(図1B). CPは,出芽酵母およびウシ肝臓由来のものについて結 晶構造解析がなされ,触媒活性部位の解明のみならずプ ロテアソーム阻害剤の開発に貢献してきた10, 11).その後, 当然の課題として筆者らを含む多くの研究者がプロテア ソーム全体の結晶化に挑戦したが残念ながらことごとく 失敗に終わった.これはプロテアソームが複雑な形状を 持つこと,26Sと30 Sを分離することが難しいこと,さら にはPIPsによる試料の不均一性の問題があるためである. このような高難度タンパク質複合体では,結晶構造解析 に替わる方法としてクライオ電子顕微鏡による単粒子解 析が有効である.筆者らは出芽酵母プロテアソームのア フィニティー精製法を開発し,マックスプランク研究所 のBaumeisterらと共同でクライオ電子顕微鏡による単粒子 解析を行い,プロテアソームのユビキチン受容体Rpn10と Rpn13の分子内の位置を決定した12).現在では,プロテア ソームのクライオ電子顕微鏡の密度マップ(7∼10 Å)を もとに原子構造モデルが作製されている(図2).その後 も,BaumeisterらのグループとUCバークリー校のMartin らのグループが激しく競争しつつも精力的にプロテアソー ムの構造解析を推進しており,驚異的なスピードで次々と 新知見が得られている13, 14) 1) プロテアソームの原子構造モデル プロテアソームの高分解能電子顕微鏡マップに各サブ ユニットの結晶構造モデルを当てはめることで全体の原 子構造モデルが作製されている(図2)15).一見してプロテ アソームが非常に精緻かつむだのない美しい構造を持つ ことがわかる.CPはそれぞれ七つのサブユニットからな るαリングとβリングがαββαの順に連なった円筒構造を持 ち,計14種類28個のサブユニットからなる複合体である. プロテアソームはThr型プロテアーゼに分類され,β1, β2, β5が持つ活性中心は分子内部に隔離されている.基質の 入り口である狭い孔はαサブユニットのN末端テールによ り形成されるゲートでふさがれており,CP単独では基本 的に不活性であるためself-compartmentalizing proteaseと表 される16) .RPは六つのATPaseサブユニットと13個のnon-ATPaseサブユニットの計19種類の構成サブユニットを持 ち,ユビキチン化タンパク質の分解において,ユビキチン 鎖の認識,基質タンパク質のアンフォールディング,ユビ キチン鎖の除去,解きほぐした基質タンパク質のCP内腔 への送り込みといった機能を持つ.RPのサブユニット名 は種によって異なり若干混乱するが,解析が先行している 出芽酵母の統一名称を用いるのがまだ一般的であり,本稿 ではATPaseサブユニットはRpt(regulatory particle triple-A ATPase),non-ATPaseサブユニットはRpn(regulatory par-ticle non-ATPase)で統一している17).なお,Rpn4とRpn14 は当初プロテアソームの構成サブユニットとして同定され たが,Rpn4はプロテアソーム遺伝子発現を制御する転写 因子,Rpn14はRP専用シャペロンであることが後に明ら かとなった18, 19) RPは 生 化 学 的 にATPaseサ ブ ユ ニ ッ ト を 含 む 基 底 部 (base)と脱ユビキチン化酵素サブユニットRpn11を含 む蓋部(lid)の二つのサブ複合体に分離できる.基底部 は六つのATPaseサブユニット(Rpt1∼6)と四つのnon-ATPaseサブユニット(Rpn1, Rpn2, Rpn10, Rpn13)から構 成される.このうちATPaseサブユニットは二つずつの ペア(Rpt1‒Rpt2, Rpt6‒Rpt3, Rpt5‒Rpt5)の三量体として ATPaseリングを形成しており,CPのαリングの上に鎮座 している20).各RptはN末端領域に長く伸びたコイルドコ 図1 プロテアソームのサイズと電気泳動像 (A)プロテアソームはリボソームに匹敵するサイズであり,抗体やプロテアーゼのトリプシンよりはるかに大きい (構造データはPDBより).(B)酵母26SプロテアソームのSDS-PAGE電気泳動像.M:分子量マーカー.

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イル,中央にOBドメイン,C末端領域にATPaseドメイン を持ち,ATPaseリングはOBリングとATPaseドメインか らなるCリングの2層構造を持つ.現在,基質非存在下の プロテアソーム(待機状態)および基質存在下で活性化 状態にあるプロテアソームの高次構造モデルが得られて いる15, 21‒23).待機状態のプロテアソーム中ではCリングは Rpt3を頂点,Rpt2を底としたらせん階段構造をとってお り,ATPaseチャネルの軸はCPチャネルの軸から約10度傾 いている.一方,活性化状態のプロテアソーム中では各 RptサブユニットのATPaseドメインが平面に並び,Cリン グが直立することで基質タンパク質の通り路となる各チャ ネルの軸が一直線につながる.基質と結合するとプロテア ソームのATPase活性は上昇するが,実際,ATPγS (ATPの 非加水分解性アナログ)存在下の構造は活性化構造とよ く似ていた24).このATP配位によるCリングの構造変化は Rpt6‒Rpt3ペアのコイルドコイル領域とRpn2を介してRP 全体の構造変化を引き起こす.また,Rpt2, Rpt3, Rpt5のC 末端はHbYX(疎水性アミノ酸-Tyr-任意のアミノ酸)配列 を持ち,このモチーフがCPのαリングの窪みに突き刺さ ることで基底部-CP複合体を安定化させるとともにアロス テリックにCPのゲートを開かせる機能を持つ25‒27).基底 部は二つの大きなnon-ATPaseサブユニットRpn1とRpn2を 持ち,Rpn1は脱ユビキチン化酵素Ubp6(ヒトではUSP14) やユビキチン化基質シャトリング分子Rad23などのUBL (ubiquitin-like)ドメインを持つPIPsの受容体として機能 し7, 28, 29),Rpn2はユビキチン受容体サブユニットRpn13の 受容体として機能する30‒34).もう一つのユビキチン受容体 サブユニットRpn10はRP形成の最終段階で取り込まれる こと,蓋部および基底部の双方と相互作用することから厳 密ではないのだが基底部の構成サブユニットとして定着し ている1, 4) 蓋部(lid)は必須の脱ユビキチン化酵素サブユニット Rpn11を含む九つのnon-ATPaseサブユニットからなる複合 体であり,高塩濃度存在下でプロテアソームから遊離する サブ複合体として報告された35, 36).類似した複合体として eIF3やCOP9/CSN/シグナロソームが知られており,蓋部 はPCI (proteasome-CSN-eIF3)ドメインを持つサブユニッ ト(Rpn12‒Rpn3‒Rpn7‒Rpn6‒Rpn5‒Rpn9) とMPN (Mpr1, Pad1 N-terminal)ドメインを持つサブユニット(Rpn8‒ Rpn11),および最小サブユニットのRpn15 (Sem1/Dss1) に分類される.当初,蓋部はATPaseリングの上部に位置 し蓋のような構造を持つ(プロテアソームのイラストで はよくゴミ箱の蓋として描かれる)と想定されていたた めそのように命名されたが,構造解析の結果,実際は馬 蹄鉄型の構造を持ち,基底部を側面から覆うように配置 することが明らかとなった15, 21, 35).蓋部はATPaseチャネ ルの真上にRpn11を配置させるほか,Rpn5とRpn6がCP と直接相互作用することによりプロテアソームの構造を 安定化させている.Rpn15/Sem1(ヒトではDSS1/SHFM1) は表面が酸性電荷を帯びた89アミノ酸の小さな不思議 図2 プロテアソームの構造と機能部位 プロテアソームは触媒ユニットCP (別称20Sプロテアソーム)と制御ユニットRP (別称PA700)が会合した構造を 持つ.RPはさらに蓋部(lid)と基底部(base)に分離することができる.RPはATPaseリングやユビキチン受容 体,脱ユビキチン化酵素サブユニットを持つ.プロテアーゼの活性中心はCP内に隔離されている.その他詳細は 本文参照のこと.

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なサブユニットである5, 37, 38).Rpn15はTREX-2複合体や THP3-CSN12複合体,BRCA2複合体などプロテアソーム 以外のさまざまな複合体に含まれており,特にBRCA2複 合体中ではDNA二本鎖切断の相同組換え修復に関与して いる39‒41).いずれも核酸結合能を持つ複合体であるため, Rpn15は核酸ミミックとして何らかの機能を果たしている と考えられる42).また,分裂酵母のRpn15がユビキチン 結合能を持つことが最近報告されたが,Rpn15はRpn3と Rpn7サブユニット間の溝に埋もれていること,RPのユビ キチン化基質プロセシング部位の裏側に位置することか ら,プロテアソーム内でユビキチン受容体として機能して いるかは不明である43‒45) 2) プロテアソームによる基質分解機構 プロテアソーム分解はRPによるユビキチン鎖の認識, 基質タンパク質の解きほぐしとCP内への送り込み,ユビ キチン鎖の除去,CP内での加水分解に分けることができ, それぞれ生化学的に解析されてきたが,それぞれの反応が どのように統合されているかは不明であった.しかし最 近,プロテアソームの高次構造が明らかとなり,ATPase リングの構造変化に駆動されて各反応が協調して起こるこ とがわかってきた.ここではまずプロテアソームの分解シ グナルについて最新の知見を紹介した後,プロテアソーム の作動機構をユビキチン鎖認識,基質タンパク質の認識と 解きほぐし,脱ユビキチン化そして基質タンパク質の分解 の五つにわけて紹介する.次いで,プロテアソーム結合タ ンパク質PIPsによるプロテアソーム分解の調節機構を紹 介する. a.プロテアソームの分解シグナル 四つ以上のユビキチンが連結したLys48リンク型のポリ ユビキチン鎖がプロテアソームの分解シグナルとなること が2000年に報告されて以来,セントラルドグマとして長 い間信じられてきたが,最近では少し状況が変わってきて いる46, 47).まず,Ciechanoverらは150アミノ酸以下の小さ なタンパク質は,モノユビキチン化あるいはマルチプルモ ノユビキチン化(複数箇所のモノユビキチン化)で十分プ ロテアソームにより分解されることを報告した48).これ は網状赤血球の無細胞系あるいは試験管内の実験ではある が,種々のモデル基質,CDKの小サブユニットCks2 (79 アミノ酸),αシヌクレイン(140アミノ酸),酵母のHug1 (68アミノ酸)などはモノユビキチン化で確かに分解され る.また,NFκB p50サブユニットの前駆体p105はマルチ プルモノユビキチン化でプロテアソームにより限定分解を 受けることが知られている49).一方,M期進行に関わるユ ビキチンリガーゼAPC/CとサイクリンBを用いた再構築 系では,短いユビキチン鎖がサイクリンBの複数のリシン 残基に付加されるが,ごく最近Kirschnerらは,ユビキチ ン修飾のトポロジーに依らず計4分子以上のユビキチンが 付加することがプロテアソーム分解に重要であることを報 告した50‒52).少し詳しく説明すると,この論文ではサイク リンBおよびユビキチンを異なる蛍光色素で標識し,ユビ キチン化およびプロテアソーム分解を蛍光一分子イメージ ングにより定量的に解析している.サイクリンBに付加す るユビキチン分子数は四つに固定して,テトラユビキチン 鎖1本,ジユビキチン鎖2本,ジユビキチン鎖1本および モノユビキチン化2か所の効果を比較したところ,プロテ アソームによるサイクリンBの捕捉・分解速度はほぼ同等 であった.一方,マルチプルモノユビキチン化4か所の場 合はプロテアソームによる捕捉時間は短鎖と同じだが分 解されない.つまり,プロテアソームによるターゲティン グにはユビキチン密度が重要であり,その後のステップに ユビキチン鎖が必須である.これらの報告は従来のモデル を大きく覆すものだが,実は細胞内におけるプロテアソー ム基質のユビキチン修飾の構造(鎖のタイプや鎖長)につ いてはまだまだ知見が乏しいため,あながち間違っている とはいえない.実際,質量分析計を用いた網羅的な解析 より,ユビキチン化基質の約60%はユビキチン化部位が 複数箇所あること,またプロテアソーム阻害時でも全ユビ キチンの25%程度しかポリユビキチン鎖形成に使われて いないことが報告されている53, 54).つまり,ほとんどのユ ビキチン化基質はマルチプルモノユビキチン化と少量のポ リユビキチン鎖が付加した不均一な修飾を受けているよう である.また,Lys48リンクのポリユビキチン鎖がもっぱ らプロテアソーム分解に関与するとされているが,試験管 内ではLys63リンクのポリユビキチン鎖,Lys11リンクと Lys48リンクが混ざった分岐鎖は十分プロテアソーム分解 を促進するため,細胞内でプロテアソーム基質がどのよう なユビキチン修飾を受けるのか精査する必要に迫られてい る47, 55‒58) また,基質タンパク質自体の構造的安定性がプロテア ソーム分解の重要なパラメーターの一つであるらしい. ユビキチン化されればどんなタンパク質でもプロテア ソームにより分解されるわけではなく,基質タンパク質 自身が20∼30アミノ酸の長さのふらふらした非構造(un-structured)領域を持つことが重要であることが示されてい る59, 60).この2デグロンモデルはプロテアソーム分解のコ ミットメントステップ(後述)をうまく説明できるため広 く受け入れられている.それではこの非構造領域には何か 分解に適した特徴的な配列が存在するのだろうか? ごく 最近の報告によると,意外なことにアミノ酸組成の複雑さ のみが分解速度と相関した.つまり,非構造領域のもつ電 荷や疎水性度,ヘリックスの割合,体積などはあまり関係 なく,異なるアミノ酸が適度に分布していることが重要で あるらしい61) b.プロテアソームの作動機構 i)プロテアソームによるユビキチン鎖の捕捉 ユ ビ キ チ ン 受 容 体 サ ブ ユ ニ ッ トRpn10とRpn13は ATPaseチャネル近傍に位置すると予想されていたが,筆 者らはBaumeisterらとの共同研究により,RPの端に互い に離れて存在することを明らかにした(図2)12, 62).この分

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子内配置はユビキチン化基質を捕捉するのに有利と考えら れる.得られた構造モデルをもとに機能サブユニット間の 距離をみてみると,Rpn10のユビキチン結合モチーフUIM (ubiquitin-interacting motif)とRpn13のユビキチン結合ド メインPru(pleckstrin-like receptor of ubiquitin)間の距離は 約90 Å , Rpn11の活性中心までの距離はそれぞれ約90 Å , 70 Åであった.UIMおよびPruドメインはユビキチンの Ile44を含む疎水性パッチを認識しユビキチン単量体と1: 1で相互作用するため,単独ではユビキチン鎖タイプの選 択性はあまりみられない33, 34).Lys48リンクのテトラユビ キチンの場合最短で約70 Åと計算されるため,Rpn10でも Rpn13でもそれぞれ基質タンパク質をATPaseチャネルに 提示することが可能である.一方,Rpn10とRpn13は遺伝 学的にも生化学的にも協調的に機能することが示唆されて いるため,Rpn10とRpn13が同時に1本のポリユビキチン 鎖を捕捉する可能性もある12) では前述のCiechanoverらのモノユビキチン化のみでプ ロテアソーム分解が促進されるというモデルはプロテア ソームの構造から説明できるのだろうか? ユビキチン 単量体は約25 Åであり,Rpn10 UIM, Rpn13 PruとATPase チャネルの入り口までの距離はそれぞれ約90 Å , 100 Åで あるため,構造を持たない基質タンパク質なら,モノユ ビキチン化のみでもATPaseチャネルまで届きそうである. 実際,Rpn10を欠損させたプロテアソームではモノユビキ チン化基質の分解が遅延する.一方,Kirschnerらのモデ ルでは基質に複数の短いポリユビキチン鎖が存在するた め,プロテアソームとユビキチン化基質はアビディティー (avidity)で相互作用することになる(図3).プロテア ソームのユビキチン結合価は2価(Rpn10とRpn13)であ るため,ユビキチン鎖が複数ある方が捕捉される確率が上 がる.さらに短鎖の場合それぞれが弱い相互作用なので, 基質タンパク質はプロテアソーム上を比較的自由に動ける と考えられ,非構造領域がATPaseチャネルに入り込む確 率が高くなるだろう.ユビキチン鎖がRpn10とRpn13と強 固に結合すると基質タンパク質の分解の際に阻害的に働く ことが想定されるが,短鎖ならその問題も解消されるた め,筆者には魅力的なモデルに思える. なお,出芽酵母の遺伝学的な解析では,Rpn10, Rpn13, さらにはRad23などのシャトリング分子をすべて同時に破 壊しても致死とはならないため,プロテアソーム内にはま だユビキチン結合部位が存在すると考えられている. ii)プロテアソームによる分解のコミットメント ATPaseチャネルの入り口から60∼70 Åの位置に各Rpt は基質と直接相互作用するAr-φループを持つ.先に述べ 図3 プロテアソームによるユビキチン化基質の分解サイクル プロテアソーム分解は,①ユビキチン鎖の認識,②ATPaseによる基質タンパク質の非構造領域の捕捉,③基質タ ンパク質の解きほぐしとCP内への送り込み,④ユビキチン鎖の除去,⑤CPによる分解の順で進行する.脱ユビキ チン化酵素Rpn11の活性中心を★で示した.詳細は本文参照のこと.

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たようにプロテアソームで効率よく分解されるためには 基質タンパク質が20アミノ酸以上(70 Å以上)の非構 造領域を持つことが重要であり,ちょうど距離的に一致 する60).基質タンパク質の非構造領域がAr-φループに捕 捉されることで,プロテアソームは基質タンパク質を分 解することを決定し,ATPase活性が上昇する.この分解 のコミットメントステップは概念としては以前より存在 したが,生化学的に確認されたのはつい最近のことであ る63, 64).Pethらはプロテアソームとポリユビキチン化タン パク質の相互作用をほぼリアルタイムで高感度に検出する 系を開発した.その結果,プロテアソームの基質認識は2 段階で起こっており,最初にユビキチン受容体に依存した ユビキチン鎖の認識が,次いでATP依存的かつ高塩濃度 耐性の強い相互作用が観察された.後者の結合は非構造領 域を持つタンパク質に特異的にみられたことから,ATPase サブユニットが基質タンパク質の非構造領域を捕捉してい ることが証明された64) iii)アンフォールディングとトランスロケーション CPチャネルは約13 Åと狭いため,基質タンパク質は ATPaseチャネルを通過する過程で立体構造が破壊されな ければならない10, 16).基質をアンフォールディング中の高 次構造は得られておらず詳細はまだ不明だがおおむね次の ように考えられている22, 24, 27).分解のコミットメントによ り,プロテアソームは活性化型に構造変化し基質の通り路 がつながる(トランスロケーション許容構造と呼ばれる). このとき,プロテアソームはATPが複数のRptサブユニッ トに配位した遷移状態であり,次いでATPの加水分解が 順番にあるいはランダムに起こり各ATPaseドメインがピ ストンのように上下に動く65).この際,基質をつかんだ Ar-φループも駆動するが,強固な構造を持つOBリングが 分子枷となり基質タンパク質の高次構造が破壊されてい く66, 67).基質タンパク質はATPの加水分解サイクルにより 解きほぐされると同時にCP内部に送り込まれる.なお, 六つのRptサブユニットの機能は等価ではなく,基質のア ンフォールディング,トランスロケーション,CP活性化 にはそれぞれ異なる組み合わせのRptが協調的に働くよう である27).Martinらは大腸菌共発現系による基底部の再 構築に成功し,さまざまな変異を導入することで各Rptサ ブユニットの機能を反応速度論的に徹底的に解析した27) その結果,基質のアンフォールディングの開始にはRpt3, Rpt4, Rpt6のATP加水分解が必要であり,基質のトランス ロケーションにはRpt1が最も寄与していた.また,CPの ゲートを完全に開くにはRpt2, Rpt3, Rpt5のHbYXモチーフ が同時にCPに刺さることが必要らしい. iv)脱ユビキチン化 脱ユビキチン化酵素サブユニットRpn11の活性中心は ATPaseチャネルの真上に位置し,ユビキチン化基質のユ ビキチン鎖を根元から削ぎ落とすようにして脱ユビキチン 化する22, 23, 68).このRpn11による脱ユビキチン化は完全に ATP依存的であり,基質タンパク質のトランスロケーショ ンと協調して起こる69).待機状態ではRpn11の活性中心は Rpt4-Rpt5のコイルドコイルの近くに位置し活性が阻害さ れている.しかし,基質タンパク質のアンフォールディン グに伴いプロテアソームが活性化型構造になると,ATPase リングの構造変化がRpt3‒Rpt6のコイルドコイルを介し てRpn2に伝わり,蓋部全体が約25度回転する.これに伴 いRpn11の活性中心が約18 ÅスライドしATPaseチャネル の真上10 Åの位置に移動する.この状態では基質タンパ ク質はユビキチンが除去されない限りATPaseチャネルに 入れない.つまり,Rpn11による脱ユビキチン化はユビキ チン化基質分解の律速段階であり,Rpn11はATPaseチャ ネルの門番として機能することになる.最近,MPNサブ ユニットRpn11とRpn8の共結晶構造が解かれ,脱ユビキ チン化反応の詳細が明らかとなった68, 70).Rpn11はJAMM ファミリーに属するメタロプロテアーゼであり,同ファミ リーの脱ユビキチン化酵素と比較してユビキチンとの結合 は非常に弱く,それゆえに活性中心近傍に提示されるユビ キチンを非選択的に捕まえ切断できることが示された.な お,切り出されたユビキチン鎖は細胞内の脱ユビキチン化 酵素により単量体にまで切断され再利用される71) v)CPによる加水分解 ATPaseチャネルを通過する過程で解きほぐされた基質 タンパク質はCPゲートを通過した後,まずantechamberと 呼ばれる前室に送り込まれる.antechamberは基質タンパ ク質がリフォールディングして再び構造を持たないように 変性状態を保つ機能を持つ72).そして基質タンパク質は β1, β2, β5の活性中心が存在するcatalytic chamberに送り込 まれ,2∼8アミノ酸のオリゴペプチドに加水分解される. 活性中心に基質タンパク質が接触しているとRP‒CP間の 相互作用が安定化されることが示唆されており,これは基 質タンパク質の不完全な分解を防ぐためと考えられてい る73).プロテアソームから排出されたペプチドはTPPIIや アミノぺプチダーゼによりアミノ酸まで分解され再びタン パク質の生合成に用いられる74) 3) プロテアソーム結合タンパク質によるプロテアソーム 分解の制御 プロテアソームの構成サブユニットではないが,プロテ アソームと一過的に結合するタンパク質群PIPsが多数存 在する.ここではPIPsのうち,プロテアソーム分解を制 御する主要な分子を紹介する. i)ユビキチン化基質シャトリング分子 細胞内でポリユビキチン化基質はプロテアソームに直接 認識される場合と,Rad23 (ヒトではRAD23A, RAD23B) やDsk2 (UBQLN1, 2, 4)のようなシャトリング分子により 捕捉されプロテアソームに運搬される場合がある1).これ らのシャトリング分子はUBL (ubiquitin-like)ドメインを 介してRpn1(ヒトではRpn10とRpn13も関与)と結合す る一方,UBA (ubiquitin-associated)ドメインを介してポリ ユビキチン鎖と結合する.特にRad23はユビキチン選択的

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シャペロンのCdc48(VCP/p97)の下流で機能するとされ ており,広範な基質を細胞中からプロテアソームに運搬し ていると想定されている75).これらのシャトリング分子 の基質選択性や使い分けは未だ良く分かっておらず今後の 解析が待たれている. また,高等真核生物ではUBL‒UBAタンパク質以外に も,ヒ素で誘導されるAIRAPL/ZFAND2B,筋萎縮に関 与するZNF216/ZFAND5,チオレドキシン様タンパク質 TXNL1がシャトリング分子として報告されている76‒78) ii)脱ユビキチン化酵素 プロテアソームの主要なPIPsとして脱ユビキチン化酵 素Ubp6 (ヒトではUSP14)とUCH37/UCHL5が知られてい る1).Ubp6とUCH37はプロテアソームと結合すると活性 化し,プロテアソーム上でユビキチン化基質のポリユビキ チン鎖をトリミングする7, 32).このユビキチン鎖のトリミ ングは基質タンパク質のユビキチン化の状態により基質の 分解を負にも正にも制御する.ユビキチン鎖のトリミング が基質分解のコミットメントより先に起こると基質タンパ ク質は分解から免れる「ユビキチンタイマーモデル」では 負に働くだろうし,長すぎるユビキチン鎖や分岐型ユビキ チン鎖が付加した基質に対してはプロテアソームがハンド リングしやすい長さにユビキチン鎖をトリミングしたほう が基質の分解を促進させるだろう.ごく最近,Ubp6-プロ テアソーム複合体の高次構造が報告され,Ubp6がユビキ チンセンサーとしてプロテアソームの構造を直接制御し ていることが明らかとなった79, 80).Ubp6はN末端のUBL ドメインを介してRpn1と結合するが,C末端領域のUSP (ubiquitin specific protease)ドメインもユビキチンが結合す

るとプロテアソームのATPaseリングと相互作用し活性化 型構造(ATP配位型)を安定化させる.興味深いことに, このときRpn11活性および基質のトランスロケーションは 阻害されており,Ubp6活性が優位となっている.つまり, Ubp6にユビキチンが接触している間はUbp6がプロテア ソーム分解を支配していることになる.ユビキチン修飾の 構造に依存するが,いずれにしてもUbp6は分解のタイム キーパーとして機能することが明確となった.また,まっ たく別の可能性として,活性化状態のプロテアソームには 他のユビキチン化基質が結合できないことから,Rpn11に より切り出されたユビキチン鎖がUbp6にトラップされる ことで,しばらくプロテアソームの活性化状態を維持し, 次のユビキチン化基質が結合するタイミングを調節してい るのかもしれない80).後述のとおり,ヒトホモログUSP14 の阻害剤IU1は易凝集性タンパク質の分解を促進させるこ とが報告されており,Ubp6/USP14は非常に興味深いPIPs の一つである81) UCH37/UCHL5はもう一つの脱ユビキチン化酵素で, Rpn13を介してプロテアソームと結合する30‒32).UCH37 は分裂酵母や高等真核生物には存在するが出芽酵母には 存在しない.同様に,出芽酵母のRpn13はUCH37結合ド メインを欠いた構造を持つ.UCH37はプロテアソームと 結合すると活性が亢進するが,特に短いユビキチン鎖を distal側から切断することが知られている82).UCH37はプ ロテアソーム以外にもクロマチンリモデリングに関与する INO80複合体にも存在する.INO80複合体中では脱ユビキ チン化活性が完全に抑制されているが,プロテアソームを 共存させると脱ユビキチン化活性が亢進するため,プロテ アソームはINO80複合体とともに転写やDNA修復に関与 することが示唆されている83‒85) iii)ユビキチンリガーゼ プロテアソームと相互作用するユビキチンリガーゼ がいくつか同定されている.出芽酵母のHul5 (ヒトでは UBE3C)はユビキチン鎖の伸長活性(E4活性)を持ち Ubp6と拮抗することから,プロテアソーム上で基質のユ ビキチン化を亢進させ分解を促進させるというモデルが提 唱されている86).さらにヒトではUBE3A/E6APやHERC2, HUWE1, UBR4, RNF181などの巨大なユビキチンリガー ゼがプロテアソームと相互作用することが知られてい る87‒89).これらのユビキチンリガーゼがプロテアソームと 直接相互作用する意義はよくわかっていないが,UBE3A やUBE3Cは プ ロ テ ア ソ ー ム( 特 にRpn10, Rpn13, Rpt5, UCH37)をユビキチン化することで,プロテアソームの ユビキチン鎖結合能や脱ユビキチン化能を低下させる,つ まりプロテアソームの分解活性を負に制御することが報告 されている88, 89).このプロテアソームのユビキチン化は酸 化ストレスや熱ストレスあるいは飢餓状況下で一過的に起 こる可逆的な現象であり,プロテアソーム活性を制御する 新しい機構であると考えられている. 3. プロテアソームレベルの調節機構 プロテアソーム分解はタンパク質恒常性の維持に必須の 役割を果たすが,ストレス応答や細胞分化に伴いプロテア ソーム分解のキャパシティーがダイナミックに変動するこ とがわかってきた.分解キャパシティーを拡大縮小するた めには,先に述べたようにPIPsによるプロテアソーム活 性の制御があるが,細胞は主にプロテアソームの量を調節 する戦略をとるようである.ここではまず,プロテアソー ム遺伝子の発現調節機構とプロテアソームの形成機構につ いて紹介し,次いでプロテアソームの安定化因子,プロテ アソーム自身の代謝,細胞分化や加齢に伴うプロテアソー ムレベルの変動について紹介する. 1) プロテアソーム遺伝子の発現制御機構 プロテアソームは前述のとおり33種類以上のサブユ ニットから形成するため,個々のサブユニット遺伝子が一 斉に転写翻訳される必要がある.プロテアソームサブユ ニット遺伝子の発現を誘導する転写因子として出芽酵母で はRpn4が同定されている18, 90).Rpn4はC2H2ジンクフィ ンガー型の転写因子でありプロテアソーム関連遺伝子の プロモーター上にあるPACE (proteasome-associated control

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element)配列を認識し転写を誘導する91).RPN4の破壊 株ではプロテアソームの量が約半分に低下する.Rpn4の 発現は熱ストレスや酸化ストレス,アミノ酸アナログな どのタンパク質毒性ストレス,DNA損傷によって誘導さ れ,プロテアソームの量を増加させる.興味深いことに, Rpn4自身がプロテアソームの基質であり,細胞内のプロ テアソーム量が増加するとRpn4の量が減少する.つまり, プロテアソーム活性とRpn4量が逆相関する負のフィード バックループが存在し,必要に応じて適切な量のプロテア ソームが発現する92) 高等真核生物ではRpn4は存在しないが機能的なホモロ グとしてNrf1/NFE2L1が報告された93‒97).Nrf1は酸化スト レス応答に関わるロイシンジッパー型の転写因子であり小 胞体膜上にアンカーされている.通常,Nrf1は小胞体関連 分解 (ER associated degradation:ERAD)経路でユビキチ ン化されプロテアソームにより恒常的に完全分解されてい る.しかし,プロテアソーム機能が低下するとNrf1はプ ロテアソームにより限定分解を受けて小胞体から遊離し活 性化する.活性化したNrf1は核へと移行しプロテアソー ム遺伝子の発現を誘導する.プロテアソーム遺伝子はNrf ファミリー (Nrf1, Nrf2, Nrf3)が認識する共通の配列AREs (antioxidant response elements)を持つが,Nrf1のみがプロ

テアソーム遺伝子の発現を誘導する.酵母のRpn4とは異 なり,Nrf1ノックアウト細胞ではプロテアソーム量は減少 しないため,基底レベルでのプロテアソーム発現制御は他 の転写因子が担っていると考えられている93, 94).一方,高 等真核生物では,後述のようにFOXO4やマイクロRNAに よる単一サブユニットの発現制御によりプロテアソーム量 が調節されることもわかってきた98, 99) 2) プロテアソームの分子集合 細胞内はタンパク質が充満した非常に込み入った環境 であり,プロテアソームのような超分子複合体が正確に形 作られるのは奇跡のように思える.プロテアソームの分 子集合は隣接する二つないし三つのサブユニットのペア によるサブユニット間の相互作用から始まるが,ここで間 違った組み合わせが生じると,完成品には取り込まれない dead-end productや,間違った組成と構造を持つ有害なプ ロテアソームを生じてしまい細胞にとって致命的である. 2005年,村田らによりPAC1‒PAC2 (proteasome assembling chaperone 1‒2)が発見され,細胞内にはプロテアソーム形 成のための専用のシャペロンが存在し,プロテアソーム の分子集合を支援していることが明らかとなった100).そ の後,プロテアソームの分子集合研究は世界中で大きく 進展し,これまで,CPの専用シャペロンとしてPba1‒Pba2 (ヒトではPAC1/PSMG1-PAC2/PSMG2),Pba3‒Pba4(PAC3/ PSMG3‒PAC4/PSMG4),Ump1 (POMP)の五つの分子が, RP専用シャペロンとしてNas2 (p27/PSMD9),Nas6 (p28/ gankyrin/PSMD10), Rpn14 (PAAF1), Hsm3 (S5b/PSMD5), Adc17 (ヒトには相同遺伝子なし)の五つの分子が同定さ れている4, 101‒103).ここでは,CPとRPの形成機構をそれぞ れ紹介し,さらに分子シャペロンによる制御について紹介 する. i)CPの形成機構 CPの形成はαリングの形成から始まる.解析が先行し ている酵母では,Pba3‒Pba4ヘテロ二量体が七つのαサブ ユニットのうちα5と特異的に結合し,さらにα4を引き寄 せることでα4‒α5複合体を形成させる4, 104, 105).このα4‒α5 を核として残りのαサブユニットが順次結合しαリングが 完成する.Pba3とPba4が存在しないとα4サブユニットの 取り込みに失敗し,α2が2コピー取り込まれた異常な組 成のαリングが形成しCP形成が止まってしまう106).Pba1‒ Pba2ヘテロ二量体はHbYXモチーフを持ちα リングのRP 結合面に蓋をするように結合することでαリングを安定化 させる(図4)107, 108).次にαリングをテンプレートとして β2, β3, β4が取り込まれる.Pba3‒Pba4はβサブユニットと 似た構造を持ちβリング側に結合しているが,β4が取り込 まれる際に立体障害により前駆体から排除される109).次 に,Ump1とβ5, β6, β1が結合し15S前駆体を形成する.な お,βサブユニットはプロペプチドが付加した前駆体とし て翻訳され(正確にはプロテアーゼ活性を持つβ1, β2, β5 を含む5種類),前駆体のまま取り込まれる110).Ump1は 天然変性タンパク質でありβリング中央に存在する.15S 前駆体は比較的安定な中間体であるが,β7が結合しハー フCPと な る と 速 や か に 二 量 体 化 しCP構 造 を と る109) Ump1やβサブユニットのプロペプチドはこの二量体化に 重要であり,CP構造をとるとプロペプチドが切断されCP は活性化し,Ump1は新生CPの最初の基質として分解さ れる.CPが完成するとα リングの構造変化によりPba1‒ Pba2は解離する111) ヒトのCP形成機構も酵母とほぼ同様であるが,POMP (ヒトUmp1)がαリングに結合するタイミングや,PAC1‒ PAC2(ヒトPba1‒Pba2)が新生CPにより分解されるな ど,細かい点は異なる101, 107, 112).CP形成はPOMPの量が 律速となっており,POMPを過剰発現するとCP量が増加 する113) .ごく最近,POMPの発現がマイクロRNAのmiR-101により調節されていることが明らかとなった99) .miR-101はPOMPの発現を抑制するが,ある種のがん細胞では miR-101が減少しており,その結果,CP量およびプロテア ソーム量が増加する. ii)RPの形成機構 RPの構成サブユニット変異体を用いた解析より,基底 部と蓋部は別々に形成することがわかっている114).筆者 らは機能未知のPIPsであるNas6について解析したところ, Nas6が完成したプロテアソームには存在せずフリーのRP や基底部(およびその前駆体)にのみ存在することを見 出した.さらに同様の特徴を持つPIPsとしてNas2, Rpn14, Hsm3を同定し,これらが基底部の分子集合を支援する シャペロンであることを解明した(これらRPシャペロン は同じ時期に複数の研究室から報告され,驚いたことを記

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憶している)19, 115‒117) 先に述べたとおり基底部のATPaseサブユニットは二つ ずつのペアを組むが,四つのRPシャペロンは異なるRpt のC末端領域と選択的に結合し,Nas6‒Rpt3‒Rpt6‒Rpn14 (Nas6モジュール),Hsm3‒Rpt1‒Rpt2‒Rpn1 (Hsm3モジュー ル),Nas2‒Rpt4‒Rpt5 (Nas2モジュール)の三つの中間体 を形成する.これら四つのRPシャペロンはすべて遺伝子 破壊しても致死とはならないが,プロテアソーム量が約 10%まで減少し,熱ストレスやタンパク質毒性ストレスに 超感受性を示した19).RPシャペロンはそれぞれ異なるド メイン構造を持つが(Nas6はAnkyrinリピート,Rpn14は WD40リピート,Hsm3はHEATリピート,Nas2はPDZド メインを持つ),筆者らはRpn14, Hsm3, Nas2の結晶構造解 析および機能解析を行い,RPシャペロンがパートナーの ATPaseドメインを正確に識別する機構と基底部形成の順 番を明らかにした118‒120).遺伝学的にNas6モジュール形成 が最も重要なステップであるが,まずNas6モジュールに Nas2モジュールとRpn2‒Rpn13が結合し,最後にHsm3モ ジュールが結合することで基底部が完成する.このとき, Nas6, Rpn14, Hsm3は基底部に結合したままだが,Nas2は Hsm3モジュールの結合の際にRpt1により押し出され解離 することがわかった.一方,脱ユビキチン化酵素Ubp6が RP前駆体と相互作用し,形成途中のRPにユビキチン化基 質が結合するのを防いでいることを明らかにした9) 最近,Adc17が酵母の遺伝学スクリーニングにより新し いRPシャペロンとして同定された103).Adc17はRpt6のN 末端領域に結合し,Rpt6のフォールディングを補助する ことでRpt3‒Rpt6二量体形成を促す.他の四つのRPシャ ペロンと異なり高等真核生物には保存されていないが, Adc17は小胞体ストレスやアミノ酸アナログによって強く 誘導され,ストレス応答時のプロテアソーム量の増加に必 須である.これはRpt6を含むNas6モジュール形成がRP形 成の律速段階であるためと考えられている.また,不思議 なことにAdc17を含めてほとんどのプロテアソームシャペ ロンはPACE配列を持たない91, 103).そのため,Rpn4以外 の転写因子によって発現が制御されている可能性が高い. 基底部の形成はCPに非依存であると考えられているが, CPのαリングをテンプレートとしたCP依存的経路も報告 されている121, 122).このCPテンプレートモデルは基底部中 間体内のRpt6のC末端がCPのα2‒α3間のポケットと結合 し,それを起点として各Rptサブユニットの配置が決定さ れるというものである.このとき,RPシャペロンはRpt6 が正しい位置に結合するのを支援するらしい.しかし,基 底部中間体‒CP複合体の存在が確認されていないのが欠点 である. 一方,蓋部形成に関与する専用シャペロンについては今 のところ決定的なものは見つかっていない.筆者らは蓋 部サブユニット変異体で生じる部分集合体の解析を行っ 図4 プロテアソームの分子集合 RPとCPの構成サブユニットはそれぞれ部分集合体を経て完成する.その後,RPとCPがATP依存的に会合するこ とにより活性化型のプロテアソームが完成する.基底部とCPの形成にはそれぞれ五つの専用シャペロンが関与し 分子集合を支援する.RpnサブユニットとRptサブユニットはそれぞれ n と t で示した.

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た.その結果,まずRpn3‒Rpn7‒Rpn15とRpn5‒Rpn6‒Rpn8‒ Rpn9‒Rpn11という二つのモジュールが形成し,それらが 会合した後にRpn12が取り込まれ蓋部が完成することが 示唆された(図4)123).その後,試験管内の再構築実験に よりこの経路が実証され,蓋部が完成して初めてプロテ アソームに取り込まれることが明らかとなった124).なお, 既知のプロテアソーム専用シャペロンはαリングやATPase リングのように相同性の高いサブユニットを正確な位置に 配置させるために存在するとされる.一方,蓋部の構成サ ブユニットは相同性が低いため自発的に複合体を形成でき ると考えられている. その後,蓋部と基底部は会合し,Rpn10が取り込まれる ことでRPが完成する124) ヒトのRPも酵母とほぼ同様に形成すると考えられてい るが,基底部形成においてAdc17ホモログが存在しない点 や,Nas2モジュールが最後に取り込まれる点で異なる116) また,酵母のRP形成はAdc17が重要であるが,ヒトでは 後述のようにRpn6の発現が律速となる98, 103) iii)分子シャペロン プロテアソーム専用シャペロン以外にも,いわゆる一 般的な分子シャペロンもプロテアソーム形成に関与して いる.Hsp90は熱ストレス時のプロテアソームレベルの維 持に必要であり,蓋部の形成に関与している125).また, テイルアンカー型膜タンパク質の膜挿入を制御するTRC (transmembrane recognition complex)経路がCP形成に関与

することが報告されている126).TRC経路は形成途中のCP を小胞体膜上に局在化させることによりCP形成を促進さ せるらしい.さらに異常膜タンパク質の分解に関与する BAG6がRP形成に必要であり,特にRpt4‒Rpt5‒p27複合体 形成を促進させることが報告されている126).これらの分 子シャペロンが直接プロテアソーム形成に関与しているの かは不明であるが,ハウスキーピング分子同士の制御機構 であり興味深い. 3) プロテアソーム安定化因子と解離因子 プロテアソームの安定性を制御する因子としてEcm29 (ヒトではKIAA0368)が知られている.Ecm29はHEATリ ピートを持つ約200 kDaのタンパク質で主要なPIPsとして 同定された.ecm29破壊株ではプロテアソームが不安定化 しRPとCPに解離しやすくなること,Ecm29はRPとCPの どちらとも相互作用できることから,Ecm29はRPとCPを つなぎとめるベルトのような役割を果たしていると考えら れる7, 73).一方で,Ecm29はプロテアソームの解離因子と しても知られており,酸化ストレス時にプロテアソームが 損傷を受けるとRPとCPに解離させる機能を併せもつ127) これは相反する機能に思えるが,Ecm29は異常な構造のプ ロテアソームと相互作用するという報告もあり,プロテ アソームの品質管理を実行する分子だとすると説明がつ く128‒130).なお,哺乳動物細胞ではEcm29はプロテアソー ムをエンドソームに局在化させるアダプタータンパク質で もある131) さらにヒトではプロテアソームの解離因子としてUBL ドメインを持つホスファターゼUBLCP1が知られてい る132).機能はあまりわかっていないがプロテアソームの 多くのサブユニットは細胞内で高度にリン酸化されてい る.UBLCP1は試験管内でホスファターゼ活性依存的に プロテアソームをRPとCPに解離させること,UBLCP1を ノックダウンすると核内のプロテアソーム量が増加するこ とから,UBLCP1は核内プロテアソームの解離因子として 何らかの機能を持つとされる. 4) プロテアソームの分解 プロテアソームは長寿命のタンパク質複合体であるが, 酸化ストレスなどにより損傷を受けたプロテアソームは 細胞にとって有害であることが強く想定される.ごく最 近,機能が低下したプロテアソームがオートファジーに より選択的に分解されることがシロイヌナズナで報告さ れた(proteaphagyと命名)132).Proteaphagyは窒素源枯渇の ほか,プロテアソーム阻害剤処理時やプロテアソーム変異 体で観察される.このとき,プロテアソームは複数のサブ ユニットが高度にユビキチン化されており,ユビキチン選 択的オートファジーを受けていることが示された.意外 なことにproteaphagyのオートファジー受容体はプロテア ソームサブユニットのRpn10であった.シロイヌナズナの Rpn10は三つのUIMを持つが2番目のUIMでATG8 (ヒト ではLC3)と直接相互作用できる.ヒトや酵母はこの二つ 目のUIMを持たず,LC3やATG8とは相互作用しないよう であるが,ヒトや酵母でproteaphagyが起こるのかどうか を含めて今後の解析が待たれる. 5) 生理的なプロテアソームレベルの変動 ここまでプロテアソームレベルの調節機構を紹介してき たが,最近の研究により,生理的な条件下においてプロテ アソームレベルが大きく変動すること,個体の寿命にも関 与することがわかってきた. i)細胞分化に伴うプロテアソーム量の減少 プロテアソームレベルは細胞の種類によって異なるが, 特にES細胞ではプロテアソームの分解キャパシティーが 亢進していることが知られている98, 133).ES細胞はタンパ ク質毒性ストレスに脆弱であり高いプロテアソーム活性が 全能性の維持に必要であるらしい.興味深いことにES細 胞の分化を誘導するとプロテアソーム活性が徐々に減少 する.これは量的な制御であり,たった一つのRPサブユ ニットRpn6 (PSMD11)の発現レベルに依存していた98) 出芽酵母ではすべてのプロテアソームサブユニットはほぼ 完成したプロテアソームに取り込まれている(後述)が, ヒトの多くの細胞では,RP前駆体やフリーのCPが余剰 に存在しており,Rpn6の取り込みがプロテアソーム形成 の律速となっているようである.実際,分化後の細胞に Rpn6を過剰発現させるとプロテアソーム量が増加した.

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Rpn6の転写はフォークヘッド転写因子のFOXO4によって 制御されており,分化後のES細胞ではFOXO4が減少する こと,Rpn6のみがFOXO4により制御されることが示され ている.分化後はプロテアソーム量が減少するが,なぜプ ロテアソーム量を減じる必要があるのだろうか?プロテア ソームは基質非存在下ではATPase活性が低いので単にエ ネルギーのむだ使いを防いでいるためとは考えにくい. ii)プロテアソームレベルと寿命 ES細胞にみられたFOXO型転写因子とRpn6によるプロ テアソームレベルの調節は線虫においても保存されてい る134).線虫のFOXO型転写因子DAF-16は飢餓や高温など のストレスにより寿命延長やストレス応答に関わる遺伝 子を発現させるが,さらにRpn6の発現を介してプロテア ソームレベルを制御していることが明らかとなった.興 味深いことにRpn6の強制発現により線虫の寿命が約2倍 に延長した.一方,ショウジョウバエでは加齢に伴いプロ テアソーム活性が減少すること,Rpn6ではなくRpn11の 過剰発現により個体の寿命が延長することが示されてい る135).これらの結果より,プロテアソームレベルが個体 の寿命に大きな影響を与えることが明確となった. 4. プロテアソームの細胞内動態 異常タンパク質の大部分は翻訳時に産生するため,細胞 は品質管理機構としてRQC (ribosome quality control)およ びERAD経路を持つ.いずれの経路でも細胞質のプロテア ソームが異常タンパク質のクリアランスの最終段階を担っ ている136, 137).そのため,プロテアソームは細胞質に専ら 存在すると思われがちであるが,酵母やがん細胞など増 殖の盛んな細胞ではプロテアソームは主に核に存在する (図5).核内のプロテアソームはユビキチン系とともに転 写調節やDNA修復,クロマチン構造変換,mRNAの核外 輸送に関与するとされるが,詳細な分子機構はあまりよく わかっていない138‒141).少なくとも酵母ではプロテアソー ムを核から排除すると大量にユビキチン化タンパク質が蓄 積することから,核内タンパク質の品質管理や転写因子の 分解を行っていると考えられる142).一方,プロテアソー ムは基本的には細胞質や核質に一様に観察されるが,タン パク質毒性ストレスなどによりアグリソーム(aggresome) や核内fociに局在化することが報告されている.ここでは まず,筆者らの蛍光相関分光法によるプロテアソーム動態 解析を紹介した後,クライオ電子線トモグラフィーによる 細胞内プロテアソームの直接観察,そしてプロテアソーム を含む様々な細胞内構造体を紹介する. 1) 蛍光相関分光法を用いた動態解析 プロテアソームは基本的には細胞質や核質に一様に観 察され,かつ拡散性であるため,各プロテアソームサブユ ニットに対する抗体を用いた多重染色や2色の蛍光タンパ ク質タグを用いても複合体としてのプロテアソームの機能 を言及するのは困難である.そこで我々は,蛍光相関分光 法(fluorescence correlation spectroscopy:FCS)を用いてプ

ロテアソームの細胞内動態を解析している143).FCSは蛍

光標識した対象分子の微小空間における蛍光のゆらぎを計 測することで,対象分子の濃度と拡散係数を決定する手法 であり,拡散係数より分子の形状や分子量を決定できる (図5)139, 144).さらに2色の異なる蛍光タグを用いたFCSは

蛍光相互相関分光法(fluorescence cross-correlation spectros-copy:FCCS)と呼ばれ,二つの異なるタンパク質間の相互 作用を生きた細胞で計測することが可能である.まず,出 芽酵母プロテアソームのさまざまなサブユニットに緑色 蛍光タンパク質(GFP)を融合した株を作製し,プロテア ソーム機能が完全に保持されているものについて生細胞 FCS解析を行った.その結果,プロテアソームのサブ複合 体CP,蓋部,基底部の各構成サブユニットはいずれもよ く似た動態を持つこと,細胞質および核においてそれぞれ 2種類の成分を持つことがわかった.一つは見かけ分子量 1∼10 Mの速い成分であり,プロテアソーム形成に欠損を 示すRP変異体において拡散がさらに速くなったことから 完成型のプロテアソームそのものであることがわかった. もう一つは見かけ分子量32 Gの遅い拡散を持つ成分であ り,この値はプロテアソーム10,000分子以上に相当する. 図5 プロテアソームの細胞内動態 (A)酵母およびヒト培養細胞におけるプロテアソーム局在.(B)蛍光相関分光法によるプロテアソーム動態の解析 例.(C)プロテアソームの細胞内動態.プロテアソームは細胞質で完成し核に輸送される.プロテアソームの約半 数はオルガネラや転写装置と相互作用している.

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顕微鏡下でそのような集合体は観察されないため,プロテ アソームが何らかの細胞小器官(オルガネラ)と相互作用 していることが想定された.また,この遅い拡散成分はプ ロテアソーム阻害剤処理により減少したため,ユビキチン 化タンパク質を介したものであることが示唆された(未発 表).核内については,RNAポリメラーゼIIを阻害すると 遅い成分が減少したことから,核内のプロテアソームは転 写装置と相互作用していることがわかった.次に細胞内濃 度を決定したところ,CP,蓋部,基底部はいずれも細胞 質では約200 nM,核では約1 μMであり,計算すると酵母 1細胞あたりプロテアソームは約10,000分子存在(核と細 胞質でそれぞれ約5000分子ずつ存在)することがわかっ た.これはリボソームの1/10∼1/20の分子数に相当する. なお,筆者らの決定した値はMannらの質量分析計による 測定結果とよく一致した145) プロテアソームの複合体形成率を測定するため,RPサ ブユニットにGFPを,CPサブユニットにmCherryを融合 した株を作製しFCCS測定を行った.その結果,驚いたこ とに細胞質においても核においてもRPとCPの複合体形成 率は90%以上であり,かつ構成サブユニットはほぼすべ てプロテアソーム中に存在することが明らかとなった.こ の結果は意外であったが,従来の生化学的解析で大量に存 在するとされたフリーサブユニットやサブ複合体がnative 電気泳動などの迅速な分画法ではほとんど検出されないと いう結果と一致する105) 酵母は分裂期に核膜が崩壊しないため,プロテアソーム が核に局在化するためには分子集合のどこかの段階で核膜 孔を通過する必要がある.プロテアソームは巨大分子であ るため形成中間体の段階で核に移行し,核内で完成すると いうモデルが主流となっていた146, 147).出芽酵母インポー ティンαのさまざまな変異体のうちsrp1-49温度感受性変 異株はプロテアソームの核移行に欠損を示すアリルであ り,制限温度下ではプロテアソームサブユニットは細胞質 および核膜の外側に蓄積する148).そこでsrp1-49変異体の プロテアソームのFCCS解析を行ったところ,野生株と変 異株とでは複合体形成率に差はみられなかった.つまり, プロテアソーム形成と核移行は共役していないことが示唆 された. 最後に,プロテアソームが物理的に核膜孔を通過できる か,RPサブユニット(Rpt1)とCPサブユニット(α4)を つないだ安定化型プロテアソーム変異体を作製し解析し た.この安定化型プロテアソームはRPとCPに解離せず, 野生型のプロテアソームと同等の機能を保持しているが, 野生型と同様に核に局在化できることがわかった.つま り,プロテアソームは完成体として核膜孔を通過できるこ とが示唆された.核膜孔の内径は最大39 nmまで拡大する ことから,プロテアソーム(25 nm×45 nm)は長軸方向で なら核膜孔を通過できると考えられる143, 149, 150).しかし, 核膜孔の内側は非常に疎水性が高いため,輸送途中のプロ テアソームには何らかの保護分子が結合している可能性が ある.後述の通り,酵母プロテアソームはグルコース濃度 に依存し,細胞質と核間をダイナミックに行き来するの で,巨大分子の細胞質核間輸送のモデル分子となることが 期待される. 2) クライオ電子線トモグラフィーによるプロテアソーム の直接観察 細胞内のプロテアソームの形状を直接可視化できない だろうか? Baumeisterらのグループはこれまで粘菌のリボ ソームやプロテアソーム,アクチン繊維などをクライオ 電子線トモグラフィーにより観察してきたが151),ごく最 近,ラット海馬由来神経細胞の中のプロテアソームを35 ∼50 Åの分解能で可視化することに成功した152).クライ オ電子線トモグラフィーによる観察は厚みのある試料で は難しいため,細胞質のみの観察ではあるが,まずプロテ アソームは約200 nMの濃度で存在すること,30Sと26Sの プロテアソームは約3:7の比で存在することを明らかに した(つまりシングルキャップのプロテアソームが多い). さらに,待機状態と活性化状態のプロテアソームを識別 することが可能であり,驚いたことに約80%のプロテア ソームが待機状態であった.つまり,ストレスのない状 態ではわずか20%のプロテアソームしか使われておらず, プロテアソームの分解キャパシティーは十分な余力が残さ れていることが明らかとなった152).残念ながらストレス 存在下や核内のプロテアソームについては今後の報告を待 たなければならないが,インタクトな細胞でプロテアソー ム動態を可視化した画期的な論文である. 3) プロテアソームを含む細胞内構造体 パーキンソン病やアルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化 症,ハンチントン病などの神経変性疾患ではユビキチン陽 性の封入体が観察される153).これらの疾病の原因となる 凝集性タンパク質を発現させると,プロテアソームは細胞 内のさまざまなコンパートメントでfociを形成することが わかってきた.これらのfociを解析することで封入体形成 の初期過程を理解できると考えられる.ここでは細胞質と 核に形成されるプロテアソームfociを紹介するとともに休 止期の酵母でみられるプロテアソーム顆粒を紹介する. i)JUNQとアグリソーム 出芽酵母に易凝集性タンパク質を発現させると,JUNQ (juxta nuclear quality control compartment)またはIPOD

(in-soluble protein deposit)と呼ばれる細胞内コンパートメ

ントが形成される154).JUNQにはユビキチンとプロテア ソームが集積しており,プロテアソーム変異体やプロテ アソーム阻害剤でJUNQの形成が顕著に誘導されることか ら,JUNQは比較的溶解度の高い凝集タンパク質がユビキ チン化された後に運ばれプロテアソームによって分解され るコンパートメントとされる.一方,IPODはpolyQタン パク質などのアミロイドを形成する不溶性タンパク質が 集積する液胞近傍のコンパートメントである.IPODには

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