確率的割引ファクターと CAPM
相 模 裕 一
序 この研究ノートの目的は,確率的割引ファクターと CAPM の関係を明らかにするこ とである。現代のファイナンス理論において,確率的割引ファクターは様々な資産価 格理論を統一的に把握する「核」となっている。ここでは特に,確率的割引ファクター を用いた価格式から直接に導かれるベータ価格式と CAPM の関係に焦点を当てて分 析を行う。 本稿の構成は以下の通りである。まずⅠ節において,確率的割引ファクターによる 価格付けを考えるため,状態価格とリスク中立確率との関係について整理する。続く Ⅱ節において,ベータ価格式を導出し,CAPM との関係について論じる。Ⅲ節におい ては,消費者の期待効用最大化の条件式から,CAPM 導出の必要条件の一つを示す。 Ⅳ節においては,Stein’s lemma を用いる方法により CAPM を導出する。Ⅴ節において 確率的割引ファクターの経済的含意を探り,理論的に整合的な生起確率について考え る。最後に議論をまとめる。 Ⅰ.確率的割引ファクターによる価格付け この節では,確率的割引ファクターによる価格付けを考えるため,状態価格とリス ク中立確率(測度)との関係について整理する。 まず,リスク中立的な評価法とは,来期の証券価格の期待値を無リスク利子率で割 り引いて証券価格を決定する方法である。その期待値計算に用いられるのがリスク中 立確率である。市場が無裁定ならば,無リスク債券の理論価格は,状態価格の和に等 しくなるはずである。なぜならすべての状態に対応するアロー証券を持つことは,リ スクが完全に無くなることであり,アロー証券価格の和=状態価格の和は,無リスク −41−債券の価格と等しくなるからである。 よって,状態価格を߮ଵǡ߮ଶǡ ڮ ǡ ߮௦とし,無リスク債券の収益率(利子率)をݎとすると, ͳ= ൬ͳ+ݎ൰ ሺ߮ଵ ߮ଶ ڮ ߮ௌሻ となる。 これより,リスク中立確率をߨଵǡߨଶǡ ڮ ǡ ߨ௦とすると, ߨൌ ߮ σ௦ୀଵ߮ ݆ א ሼͳǡʹǡ ǥ ǡ ݏሽ ߨ Ͳǡ ߨ ௦ ୀଵ ൌ ͳǡ となる。 ここで資産Ƚ の来期の資産価格をఈとし,状態 での資産価格を݀とすると, ఈൌ ߮ ௦ ୀଵ ݀ ・・・・ሺͳሻと表せる。 ߮ ௦ ୀଵ ൌ ͳ ͳ+ݎ より ߮ൌ ͳ ͳ+ݎ ߨ となることより,リスク中立確率を用いて ఈൌ ͳ ͳ+ݎ ߨ ௦ ୀଵ ݀・・・・ሺʹሻと表せる。 ሺͳሻとሺʹሻはそれぞれ,状態価格とリスク中立確率による資産価格(株価)決定式で あ る。 また,ここで状態集合ܵ ؠ ሼͳǡʹǡ ǥ ǡ ݏሽに対する生起確率をሼݍଵǡ ݍଶǡ ڮ ݍ௦ሽとする。 ݍ Ͳǡ ݍ ௦ ୀଵ ൌ ͳǡ このݍを用いて確率的割引ファクター(状態価格密度)݉を次のように定義する。 ݉ൌ ߮ ݍ݆ א ሼͳǡʹǡ ǥ ǡ ݏሽこれより,以下の式が成立する。 ఈൌ ݍ݉ ௦ ୀଵ ݀ ・・・・ሺ͵ሻ (2)と(3)はそれぞれある確率分布の下での期待値と見做すことができる。(2)はリスク 中 立 確 率 で (3) は 生 起 確 率 の 期 待 値 で あ る 。 (2) の 期 待 値 を ܧగሺ͵ሻの 期 待 値 ܧを とすると, ఈൌ ͳ ͳ+ݎ ܧగሺ݀ሻ・・・・ሺͶሻ ఈൌ ܧሺ݉݀ሻ ・・・・ሺͷሻ −42− 確率的割引ファクターと CAPM
となることが理解されよう。これより, ͳ ൌ ܧሺ݉݀ ఈሻ ・・・・ሺሻ すなわち ͳ ൌ ݍ݉ ௦ ୀଵ ݀ ఈ ・・・ሺሻ ここで,無リスク債券の価格は定義より, ൌ ܧ ൜݉ ൬ͳ+ݎ൰ൠ ൌ ݍ݉ ௦ ୀଵ ൬ͳ+ݎ൰ ൌ ൬ͳ+ݎ൰ ݍ݉ ௦ ୀଵ ൌ ൬ͳ+ݎ൰ ߮ ௦ ୀଵ ൌ ͳ よって ͳ ൌ ܧ ൜݉ ൬ͳ+ݎ൰ൠ となる。ここでͳ+ݎ ൌ ݎとする。よって ͳ ൌ ܧ൫݉ݎ൯ ・・・・ሺͺሻ すなわち,ͳ ൌ ݎܧሺ݉ሻ よって ݎൌ ͳ ܧሺ݉ሻ ・・・・ሺͻሻ となる。 Ⅱ.ベータ価格式の導出 この節では前節の(5)ないし(8)からベータ価格式を導き,CAPM との関係を考えよう。 まず,市場ポートフォリオの各状態における市場価値をܴǡ݆ א ሼͳǡʹǡ ǥ ǡ ݏሽとし, その価格を௪とすると,前節の議論より ௪ൌ ܧሺܴ݉ሻとなり,ͳ ൌ ܧ ൬݉ ܴ ௪൰ ൌ ܧሺܴ݉ ௪ሻ・・・・ሺͳͲሻ となる。ここで, ܧሺܴ݉௪ሻ ൌ ܧሺ݉ሻܧሺܴ௪ሻ ܿݒሺ݉ǡ ܴ௪ሻ これより, ܧሺܴ௪ሻ ൌ ͳ ܧሺ݉ሻ൫ͳ െ ܿݒሺ݉ǡ ܴ௪ሻ൯・・・・ሺͳͳሻ ܧሺܴ௪ሻ ൌ ͳ ܧሺ݉ሻെ ܿݒሺ݉ǡ ܴ௪ሻ ܧሺ݉ሻ ൌ ͳ ܧሺ݉ሻെ ܿݒሺ݉ǡ ܴ௪ሻ ݒܽݎሺ݉ሻ ・ ݒܽݎሺ݉ሻ ܧሺ݉ሻ ・・・・ሺͳʹሻ このሺͳʹሻとሺͻሻより以下のベータ価格式を得る。 確率的割引ファクターと CAPM −43−
ܧሺܴ௪ሻ ൌ ݎ ܿݒሺ݉ǡ ܴ௪ሻ ݒܽݎሺ݉ሻ ・ ቆെ ݒܽݎሺ݉ሻ ܧሺ݉ሻ ቇ ・・・・ሺͳ͵ሻ ここで ܿݒሺ݉ǡ ܴ ௪ሻ ݒܽݎሺ݉ሻ がߚ௪に対応し, െ ݒܽݎሺ݉ሻ ܧሺ݉ሻ は市場リスクを表している。 ሺͳ͵ሻは以下のように表される。 ܧሺܴ௪ሻ ൌ ݎ ߚ௪ቀܧሺ݉ሻ െ ݎܧሺ݉ଶሻቁ ・・・・ሺͳͶሻ ここで資産 ݅の収益ܴについて ͳ ൌ ܧሺܴ݉ሻ・・・・ሺͳͷሻ となることより, ܧሺܴሻ ൌ ݎ ܿݒሺ݉ǡ ܴሻ ݒܽݎሺ݉ሻ ・ ቆെ ݒܽݎሺ݉ሻ ܧሺ݉ሻ ቇ ൌ ݎ ߚቀܧሺ݉ሻ െ ݎܧሺ݉ଶሻቁ ・・・・ሺͳሻ となる。 上のሺͳ͵ሻとሺͳሻが確率的割引ファクターによるベータ価格式である。 ここで示される資産の期待収益は一般的にシャープ・リトナーの伝統的な CAPM とは 異なる。いかなる場合,いかなる条件下で上記のベータ価格式が CAPM と一致するか 考察しよう。すなわち,ሺͳͶሻ,ሺͳሻから CAPM 式を導くことを考える。 ここで確率的割引ファクターに関して,以下の仮定をおく。すなわち確率的割引 ファクターが市場ポートフォリオの収益ܴ௪の一次式で表されると仮定する。この仮定 の含意については,後述する。 ݉ ൌ ܽ ܾܴ௪・・・・ሺͳሻ この関係式をሺͻሻとሺͳͳሻに代入し,ܽとܾを求めると, ܽ ൌͳ ݎെ ܾܧሺܴ ௪ሻ・・・・ሺͳͺሻ ܧሺܴ௪ሻ ൌ ݎ ൫ͳ െ ܿݒሺܽ ܾܴ௪ǡ ܴ௪ሻ൯ ൌ ݎቀͳ െ ܧ൫ܴܽ௪ ܾܴ௪ଶ൯ ܧሺܽ ܾܴ௪ሻܧሺܴ௪ሻቁ ൌ ݎቀͳ െ ܾܧ൫ܴ௪ଶ൯ ܾܧሺܴ௪ሻܧሺܴ௪ሻቁ ൌ ݎെ ݎܾݒܽݎሺܴ௪ሻ よって ܾ ൌݎെ ܧሺܴ ௪ሻ ݎݒܽݎሺܴ௪ሻ・・・・ሺͳͻሻ ここで資産 ݅の収益ܴについてሺͳͷሻより以下の式が成立する。 ܧሺܴሻ ൌ ݎ ቀͳ െ ܿݒሺܽ ܾܴ௪ǡ ܴሻቁ ൌ ݎെ ܾݎܿݒሺܴ௪ǡ ܴሻ・・・・ሺʹͲሻ ܧሺܴሻ െ ݎ ൌ െ ݎെ ܧሺܴ௪ሻ ݎݒܽݎሺܴ௪ሻݎܿݒሺܴ ௪ǡ ܴሻ ൌܧሺܴ௪ሻ െ ݎ ݒܽݎሺܴ௪ሻ ܿݒሺܴ௪ǡ ܴሻ −44− 確率的割引ファクターと CAPM
よって ܧሺܴሻ െ ݎ ൌ ܿݒሺܴ௪ǡ ܴሻ ݒܽݎሺܴ௪ሻ ൫ܧሺܴ௪ሻ െ ݎ൯・・・・ሺʹͳሻ これより, ߚൌ ܿݒሺܴ௪ǡ ܴሻ ݒܽݎሺܴ௪ሻ とすると, ܧሺܴሻ െ ݎ ൌ ߚ൫ܧሺܴ௪ሻ െ ݎ൯ ݅ א ሼͳǡʹǡ ǥ ǡ ݏሽとなり,伝統的な CAPM が成立する。 以上の議論より,CAPM 導出のために,「確率的割引ファクターが市場ポートフォリ オの収益ܴ௪の一次式で表されると」の仮定が決定的に重要であることが理解されよう。 次に,これがいかなる状況を含意しているか検討しよう。 Ⅲ.消費者の期待効用最大化 CAPM 導出のための条件を考察するうえで,重要な鍵となる消費者の期待効用最大 化について考えよう。 ここでは,簡単化のため,2期間モデル(今期 t=0と来期 t=1)を考える。期待効用 を以下のように想定する。 期待効用 ܧሾܷሺܥሻሿ ൌ ݑሺܿሻ ߩݑሺܿଵሻ ・・・・ሺʹ͵ሻ ここでܿ,ܿଵは今期と来期における消費量,そしてߩは主観的割引率である。 消 費 者 の最適化行動は,この期待効用を次の予算制約の下で,最大にすることである。 ܿ ߠ ൌ ܹ ・・・・ሺʹͶሻ ܿଵ ݔߠ ൌ ܹଵ ・・・・ሺʹͷሻ ここでܹ,ܹଵは今期と来期の外生的所得であり,,ݔは今期と来期の資産価格であ る。そしてߠは資産のポートフォリオを表している。ここでの最適化行動はߠによる最 大化によって求められる。なおݔは確率変数である。 ሺʹͶሻ,ሺʹͷሻの下で,ሺʹ͵ሻの最大化の1階の条件を求めると, ൌ ܧ ቈߩݑԢሺܿଵሻ ݑԢሺܿሻ ݔ ・・・・ሺʹሻ ここで確率的割引ファクターと異時点間の限界代替率が等しいことより, ݉ ൌߩݑԢሺܿଵሻ ݑԢሺܿሻ ・・・・ሺʹሻ 確率的割引ファクターと CAPM −45−
これより, ൌ ܧሺ݉ݔሻ が得られる。 ここでܴ௪ൌݔとすると,ሺͳͲሻのͳ ൌ ܧሺܴ݉௪ሻを得る。 では,ఘ௨ᇱሺ௨ᇱሺభሻ బሻ ൌ ܽ ܾܴ ݓ ・・・・ሺʹͺሻ となるのは,いかなる条件下であろうか。 一般的に,効用関数が二次関数の場合,(28)が成立することが知られている。そこで 次式のような二次の効用関数を想定しよう。 ܧሾܷሺܥሻሿ ൌ ݑሺܿሻ ߩݑሺܿଵሻ ൌ െ݇ሺܿҧ െ ܿሻଶെ ݇ሺܿҧ െ ܿଵሻଶ・・・・ሺʹͻሻ ここで ܿଵൌ ܹଵൌ ܴ௪ሺܹെ ܿሻ の制約条件の下,(29)の期待効用を最大化すると, 以下のようになる。なお,݇は定数である。 ݉ ൌߩݑԢሺܿଵሻ ݑԢሺܿሻ ൌ ߩ ܿҧ െ ܿଵ ܿҧ െ ܿൌ ߩ ܿҧ െ ܴ௪ሺܹ െܿሻ ܿҧ െ ܿ ൌ ߩܿҧ ܿҧ െ ܿെ ߩሺܹെ ܿሻ ܿҧ െ ܿ ܴ ௪・・・・ሺʹͻሻ ここで,ܽ ൌܿҧ െ ܿߩܿҧ ,ܾ ൌ െ ߩሺܹെ ܿሻ ܿҧ െ ܿ とすると ݉ ൌ ܽ ܾܴ௪となることが理解されよう。また,Stein’s lemma を用いると,効用関数 に特別な仮定を付すことなく,(28)を導くことができる。次節において,Stein’s lemma を証明し,(10),(15)より(28)を導出しよう。 Ⅳ.Stein’s lemma を用いる方法 まず,Stein’s lemma を示し,初等的な証明を与えよう。ここでは連続型の確率変数 ܺとܻと同時確率密度関数݂ሺݔǡ ݕሻを想定する。期待値ߤ௫,ߤ௬ 標準偏差ߪ௫,ߪ௬を既知の ものとし,リーマン積分を用いる。 Stein’s lemma 「確率変数ܺとܻが2変量正規分布に従い,ሺݕሻが微分可能で,ܧȁԢሺݕሻȁ ൏ λのとき, ܿݒሺܺǡ ሺݕሻሻ ൌ ܧሾԢሺݕሻሿܿݒሺܺǡ ܻሻが成り立つ。」 証明 ܿݒሺܺǡ ሺݕሻሻ ൌ ඵ ݔሺݕሻ݂ሺݔǡ ݕሻ ݀ݔ ݀ݕ െ ܧሺܺሻܧ൫ሺݕሻ൯ ൌ න ሺݕሻ ܧሺܺȁݕሻ߮ሺݕሻ ݀ݕ െ ܧሺܺሻܧ൫ሺݕሻ൯ −46− 確率的割引ファクターと CAPM
ここで,߮ሺݕሻ ൌ න ݂ሺݔǡ ݕሻ ݀ݔ,ܧሺܺȁݕሻ ൌ ߤ௫ ߩ ߪ௫ ߪ௬൫ݕ െ ߤ௬൯より ܿݒሺܺǡ ሺݕሻሻ ൌ ߩߪ௫ ߪ௬න ሺݕሻ ൫ݕ െ ߤ௬൯߮ሺݕሻ ݀ݕ ൌ ߩߪ௫ߪ௬න ሺݕሻ ቆ ݕ െ ߤ௬ ߪ௬ଶ ቇ ߮ሺݕሻ ݀ݕ ൌ ܿݒሺܺǡ ܻሻ න ሺݕሻ ቆݕ െ ߤߪ ௬ ௬ଶ ቇ ߮ሺݕሻ ݀ݕ ൌ ܿݒሺܺǡ ܻሻ න ሺݕሻ ݇Ԣ ሺݕሻ݀ݕ ここで݇Ԣ ሺݕሻ ൌ ൬௬ିఓఙ మ൰ ߮ሺݕሻであり,部分積分をおこなうと,以下の式が得られる。 ܿݒሺܺǡ ሺݕሻሻ ൌ ܿݒሺܺǡ ܻሻ ሺλሻ݇ሺλሻ െ ሺെλሻ݇ሺെλሻ െ න Ԣሺݕሻ݇ሺݕሻ ݀ݕ൨ さらに,߮ሺݕሻ ൌ െ݇ሺݕሻ,߮ሺλሻ ൌ ߮ሺെλሻ ൌ Ͳ,ܧȁԢሺݕሻȁ ൏ λより,ȁሺݕሻȁ ൏ λ よって ሺλሻ݇ሺλሻ ൌ ሺെλሻ݇ሺെλሻ これより,Stein's lemma が得られる。 ܿݒሺܺǡ ሺݕሻሻ ൌ ܿݒሺܺǡ ܻሻሾ Ԣሺݕሻ߮ሺݕሻ ݀ݕሿ ൌ ܧሾԢሺݕሻሿܿݒሺܺǡ ܻሻ・・・・ሺ͵Ͳሻ QED 次に,この Stein’s lemma を用いて,(28)を導出しよう。まず(15)と(27)より ͳ ൌ ܧሺܴ݉ሻ ൌ ܧ ቆߩݑԢሺܿଵሻ ݑԢሺܿሻܴ ቇ ・・・・ሺ͵ͳሻ (24)と(25)の予算制約式より,異時点間の限界代替率がܴ௪の関数として表されること より, ߩݑԢሺܿଵሻ ݑԢሺܿሻ ൌ ߩݑԢ൫ܴ௪ሺܹ െܿሻ൯ ݑԢሺܿሻ ൌ ݍሺܴ ௪ሻ とし,ሺ͵ͳሻに代入すると ܧሺܴ݉ሻ ൌ ܧሺݍሺܴ௪ሻǡ ܴሻ ൌ ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ܧሺܴሻ ܿݒሺݍሺܴ௪ሻǡ ܴሻ これより, ܧሺܴ݉ሻ ൌ ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ܧሺܴሻ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿܿݒሺܴ௪ǡ ܴሻ ൌ ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ܧሺܴሻ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿሼܧሺܴ௪ܴሻ െ ܧሺܴ௪ሻܧሺܴሻሽ ൌ ܧ൛ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ܴൟ ܧ൛ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿ൫ܴ௪െ ܧሺܴ௪ሻ൯ܴൟ ൌ ܧൣ൛ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿ൫ܴ௪െ ܧሺܴ௪ሻ൯ൟܴ൧ ൌ ܧൣ൛ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ െ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿܧሺܴ௪ሻ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿܴ௪ൟܴ൧・・・・ሺ͵ʹሻ よって, ݉ ൌ ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ െ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿܧሺܴ௪ሻ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿܴ௪ となる。 確率的割引ファクターと CAPM −47−
ここで,ܽ ൌ ܧ൫ݍሺܴ௪ሻ൯ െ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿܧሺܴ௪ሻ ܾ ൌ ܧሾݍԢሺܴ௪ሻሿ とすると, ݉ ൌ ܽ ܾܴ௪となることが示される。 ここで,異時点間の代替率との関係式を用いた Stein's lemma を再掲しよう。 ܿݒሺ݉ǡ ܴሻ ൌ ܧ ቈߩሺܹെ ܿሻݑ̶൫ܴ௪ሺܹെ ܿሻ൯ ݑԢሺܿሻ ܿݒሺܴ௪ǡ ܴሻ・・・・ሺ͵͵ሻ 以上の議論より,効用関数が二次関数の場合か,任意の二資産の収益率が同時正規分 布に従う時のみ,ベータ価格式は CAPM と一致することが理解されよう。このことは, CAPM が一般的なベータ価格式に比して特殊ケースであることを示している。 Ⅴ.確率的割引ファクターの経済的含意 確率的割引ファクターは,状態価格を主観的な生起確率で除した数値として定義さ れている。この定義自体から経済的ないしは経済学的な意味を引き出すことは困難で ある。しかし,消費者の期待効用最大化から,異時点間の限界代替率として確率的割 引ファクターを捉える時,生起確率と状態価格の関係に意味づけが可能となる。以下 において,具体例を用いて議論を進めよう。 ここでは,株式 A,株式 B そして国債の3資産と3つの状態のケースについて考え よう。状態1は好況,状態2は通常,そして状態3を不況とする。3つの証券の一株 あたりの単価が次表で与えられているとしよう。(なお単位は百円である。) 価 格 状態1(好況) 状態2(通常) 状態3(不況) 株式 A 10 10 15 4 株式 B 12 20 10 8 国債 0.95 01 01 1 (1)の状態価格による価格式にこの表の数値を代入し,連立方程式を解くと,状態価格 ߮ଵǡ߮ଶǡ ߮ଷǡは,߮ଵൌ ͲǤ͵ ߮ଶൌ ͲǤͶ ߮ଷൌ ͲǤʹͷ となる。また,ここで国債(無リスク 債 権 ) の 収 益 率 ( 利 子 率 ) を r と す る と , ͳ= ൬ͳ+൰ ሺ߮ଵ ߮ଶ ߮ଷሻ より,ݎ ؑ ͲǤͲͷ͵ となる。 −48− 確率的割引ファクターと CAPM
次に,状態1,2,3の生起確率݂を以下のように設定し,確率的割引ファクター ݉ሺ݅ ൌ ͳǡʹǡ͵ሻ を求めよう。 ݂ଵൌ ͳ Ͷ ݂ଶൌ ͳ ʹ ݂ଷൌ ͳ Ͷ とする。これより݉ൌ ߮ ݂ሺ݅ ൌ ͳǡʹǡ͵ሻとなることより, ݉ଵൌ ͳǤʹ ݉ଶൌ ͲǤͺ ݉ଷൌ ͳǤͲ となる。この生起確率の設定は,異時点間の限界代替 率との関係でどのような意味を持つだろうか。 実は,この具体例で示される݉ሺ݅ ൌ ͳǡʹǡ͵ሻ の値は,限界代替率の理論的想定と整合 的ではない。上の例では,好況時の値݉ଵが,不況時の値݉ଷより大きくなっているが, 理論的想定では逆の方が整合的である。 好況時には株式の株価・配当は上昇し,富は増大する。この時,限界効用の逓減な いし限界代替率逓減の法則により,確率的割引ファクターは低下すると考えられる。 確率的割引ファクターは今期の限界効用1単位の減少に対する来期の限界効用の増 分を示していることから,不況時には,確率的割引ファクターの上昇することが妥当 である。このことから,限界代替率との理論的整合性を有する確率的割引ファクター (すなわち生起確率)を設定することができる。以下で1例を示そう。 上掲の具体例より状態価格߮ଵൌ ͲǤ͵ ߮ଶൌ ͲǤͶ ߮ଷൌ ͲǤʹͷを用いると,理論的には ݉ଵ൏ ݉ଶ൏ ݉ଷ となることより,通常時の݉ଶを݉ଶൌ ͳ(よって݂ଶൌ ͲǤͶ)として理論 整合的な生起確率݂ଵ,݂ଷを求めよう。 簡単な計算によって,݂ଵ ݂ଷൌ ͲǤ,ͲǤ͵ ൏ ݂ଵ൏ ͲǤ,Ͳ ൏ ݂ଷ൏ ͲǤʹͷを満たす݂ଵ,݂ଷがそ の候補となることがわかる。ここで݂ଵൌ ͲǤͶ,݂ଷൌ ͲǤʹとし,確率的割引ファクターを 求めると,݉ଵൌ ͲǤͷ ݉ଶൌ ͳ ݉ଷൌ ͳǤʹͷ となる。上掲の例からは ݂ǣ ሺ݂ଵൌ ͲǤͶ ݂ଶൌ ͲǤͶ ݂ଷൌ ͲǤʹሻ と݉ǣ ሺ݉ଵൌ ͲǤͷ ݉ଶൌ ͳ ݉ଷൌ ͳǤʹͷሻ が 理 論 的 に 整合的な生起確率と確率的割引ファクターとなる。 Ⅵ.ま と め この研究ノートでは確率的割引ファクターと CAPM の関係について分析を行った。 まずⅠ節において,確率的割引ファクターによる価格付けを考えるため,状態価格と リスク中立確率との関係について整理し,確率的割引ファクターと収益率の基本式 ܧሺܴ݉ሻ ൌ ͳ を導出した。続くⅡ節において,ベータ価格式を導出し,CAPM との関係 について論じた。CAPM 導出のために,確率的割引ファクターが市場ポートフォリオ 確率的割引ファクターと CAPM −49−
の収益ܴ௪の一次式で表されることが決定的に重要であることを示した。Ⅲ節 に お い ては,消費者の期待効用最大化の条件式から CAPM 導出を考えるため,2次の効 用関数を想定した。Ⅳ節においては,Stein’s lemma を用いる方法により CAPM を導出 した。Stein’s lemma を用いると効用関数の特定化が不要であることを示した。Ⅴ節に おいて確率的割引ファクターの経済的含意を探り,限界代替率逓減の法則と理論的に 整合的な生起確率について考えた。 参考文献 邦語文献 浦谷 規『無裁定原理とマーチンゲール』朝倉書店2005年 小林孝雄・芹田敏夫『新・証券投資論』①理論編 日本経済新聞社2012年 野口悠紀雄・藤井眞理子『現代ファイナンス理論』東洋経済新報社2005年 英語文献
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