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歯科医院サクセスフル・マーケティング ~「自分流」を確立して動く

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Academic year: 2021

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経 営 情 報 レ ポ ー ト

歯科医院サクセスフル・マーケティング∼

「自分流」を確立して動く

1 2 3

「失われた15年」過去に学ぶ教訓

現代の勝ち組の成功要因に学ぶ

今こそ原点に立ち返るとき

360度セルフチェックの実施

これからの差異化要因

4 5

(2)

かつての“よき時代”と呼ばれた頃にも歯科医院間での売上格差は存在していました。 その当時は、仮に相対的に売上の低い歯科医院であっても、患者数は多く、売上も十分あ りましたので、そこには勝ち負けで表現されるような格差は存在しませんでした。 1980 年代に入ると一種のブームのような勢いで分院開設ラッシュの時代を迎えます。1 軒目が成功すると直ぐに2軒目3軒目と拡大する歯科医院が増えました。忍び寄る過当競 争時代に先手を打つかのように、特に 1980 年代半ば以降、開設の動きは顕著になり、好立 地を埋めるように次々と分院が開設されて行きました。 このような分院開設をリードした歯科医師のやり方は当時の成功モデルの一つでもあり ました。好立地を見抜く眼力と資金調達力、そしてドクターを自在に動員できるカリスマ 性を備えた歯科医師の登場は、過当競争時代に一歩先を行く最初の「勝ち組」として迎え られたのでした。 この「初代勝ち組」を生み出した背景は、健康保険制度の充実であったといえます。1 軒目の歯科医院は別として、2軒目以降は、いわゆる「雇われ院長」によって運営される医 院となりますが、それでも自分が院長として運営した場合と比較しても遜色の無い繁盛振 りを示したのです。まさに競合の少なさと保険制度がもたらした成果であったと言えます。 *本稿では、「勝ち組」の言葉の定義を「多くの患者が集まり売上も高水準で安定して いる歯科医院」と規定します。 分院開設による過大投資と過大債務は本業以外の分野にまで及び、バブルの崩壊を待つ ことなく経営破綻に陥った歯科医院が何軒も存在します。 ■教 訓1 ①過大投資、過大負債に気をつける ●総資産(リースも含む)は売上の 110%以内に抑える ●負債(リースも含む)は総資本の 60%以内に抑える ②キャッシュフローの安定化を第一に考える

「失われた15年」過去に学ぶ教訓

初代「勝ち組」はこうして生まれた

最初の「負け組」の誕生に学ぶ

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バブル崩壊後の「失われた 10 年」は、過剰設備、過剰債務、過剰人員等の整理期間であ りました。民間企業は一大リストラの嵐に巻き込まれ、多くの伝統的な企業が統廃合によ り、その姿を変え、名前を消して行きました。 歯科界ではその過当競争振りが需給問題として大きく取り上げられつつあり、「変化への 対応」に関しては比較的早い段階からその必要性が唱えられていました。 その当時の歯科界における環境変化とは、下記の3点を指していました。 ■歯科界における環境変化 ●歯科医院数の増加と人口の頭打ちによる競争激化 ●健康保険における個人負担率の上昇による受診率の低下 ●不況の長期化による消費マインドの冷え込み 環境変化がもたらす将来に危機感を抱き、従来とは異なる方法で周辺のライバル歯科医 院に対して差異化を図ろうとする歯科医院が登場してくるのが、10 年ほど前から現代に至 る二極化といわれる時代です。 二極化を生み出したのは、環境変化に対する二つの対応スタイルの違いです。それは端 的に言えば「自己変革派」と「何もせず派」に分けられます。 ■教 訓2 ①患者減、収入減の原因を「環境変化」などの外部に求めない ②患者減、収入減の原因を組織内部に求めて改善する ③患者増、収入増に向けた対応策に経営資源(ヒト・モノ・カネ)を投下する ④実施した対応策の客観的な事後評価を行う ⑤対応策は自らが陳腐化させ常に更新する「自己変革」を継続して行くこと

歯科界でも「変化への対応」はかなり以前から叫ばれてきた

2割負担導入時以降、二極分化へと進む

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二極化時代に登場した自己変革派が現代の勝ち組を形成していくことになるのですが、 自己変革派はどのような対策を打ったのでしょうか。 この頃にはやや遅れ馳せながら歯科界にも Customers Satisfaction(=顧客満足)とい う概念が導入され、患者のニーズに応えられる歯科医院作りの必要性が唱えられるように なって来ました。自己変革派の行った対応策はCS(顧客満足)を意識した差異化戦略で 「近隣の歯科医院との間にCS上の差異を設けて、自医院の患者数を増やす」ことを目指 していました。具体的にとった対策は次のようなものです。 CS 項 目 対 応 策 稼働時間を長くする(夜間診療、休日診療) 駐車台数を多くする 訪問診療を行う 送迎車を導入する 利便性を高める ネット予約 インテリアに高級感を出す 接遇レベルを向上させる 治療部門と予防部門を分離する レーザー治療器を導入する デジタル化・院内LANを導入する 快適性と機能性を高める キッズルーム(コーナー)を設置する 通院動機を高める リーフレット、ニュースレター、バースデイカード ホームページを充実させる これらの積極策を講じた歯科医院が、患者数を伸ばし保険点数を伸ばし、結果的に「勝 ち組歯科医院」としての地位を獲得して行ったのです。 次に挙げる点を新しい勝ち組モデルの必要条件として押さえておいて下さい。

自己変革派が打った対策

現代の勝ち組の成功要因に学ぶ

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送迎車というのは少し特殊で、事例としては少ないと思います。またネット予約も、通 常の電話や窓口予約でほぼ埋っている場合には、かえって現場が混乱し結果的には「無用 の長物」となることがあります。ただし、とりあえず患者数を増やしたいということであ れば、ホームページを充実させると共にネット予約を取り入れる価値はありそうです。 稼働時間を長くすることには、労働過多の問題もあり必ずしも賛同できません。 しかも自らが「はやっていない」とPRしているようにも見えますので、地域特性を十 分考慮して、相当効果的であるという確信が持てなければ、単純に時間を延ばした分、患 者が増えるという考えだけで時間延長に踏み切るのは考えものです。訪問診療も人員の確 保が先決ですが、歯科衛生士による老健施設などへの訪問診療は、介護予防という観点で は今後重要な位置付けになりそうです。 このようにして生まれた現代の勝ち組は、差異化戦略によって大勢の患者を集めること に成功した「集客力のトップ集団」を形成しているわけですが、収益力としては大体次の ようなレベルにあると思われます。 ■歯科医院モデルケース ●常に一定以上の新規患者の受け入れ ●保険診療の患者数 : 1日平均 60 人程度 → 年間1億 5,000 万円 ●メンテナンス患者数 : 1日 15 人程度 + 自費診療 = 年間売上1億 6,000∼1億 7,000 万円 Check 1 ①診療時間帯は地域特性に合わせる。集中力の切れない時間を設定する ②来院者用駐車スペースを一定以上確保する(ユニット台数の2倍) ③落ち着いた上品なインテリアの医院を作る ④応対レベルを医療サービスに相応しいものに統一し、ランクアップを図る ⑤最新の設備や装備を充足させる ⑥治療ゾーンと予防ゾーンは分ける ⑦キッズコーナーではなく“ルーム”とし、大人のための待合室を作る ⑧リーフレットとホームページは魅力的な内容にする

格差を広げた2005年4月の保険改定

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2005 年の保険改正において、一定の予防措置が保険診療の範疇に組み込まれたことでト ップ集団は自らのマネジメントスタイルに大きな自信を抱いたと思います。数年かけて作 り上げた集客システムに更に磨きをかけることで、患者数の拡大は可能であるとの確信を 持っていたのではないでしょうか。 そのような希望的雰囲気の中にいたところ、2006 年4月の保険改定では、まさに頭から 冷水をかけられたようなショックを歯科界に与えることとなりました。環境変化に対応す るべく新たに登場した「勝ち組モデル」でさえ、やはり伝統的歯科医院経営と同じように 健康保険制度に大きく依存したものであったわけです。 これからの歯科医院経営の「勝ち組モデル」は大きく変わることになります。現在の「勝 ち組モデル」は健康保険制度をバックにした、おそらく最後のモデルとなることでしょう。 今後は健康保険制度に依存しない経営手法にならざるを得ないのです。そのためには健康 保険に対する考え方を 180 度転換する必要があります。 健康保険制度の存在は、長い歴史の中でいつの日からか「患者さんの健康を守る」とい う本来の意義から「医療者の生活を守り潤すもの」へと変わってしまったように思えます。 この医療者側の意識のねじれを正常に戻すことが、まず必要でしょう。 ■本来の健康保険の存在意義 健康保険は医療機関が活用するものではなく被保険者である患者が活用するもの そのように考えることで、健康保険に依存しない経営体質に転換することができ、その 中で健康保険を活用したい患者にも、正しく向き合うことができるようになるのだと思い ます。「点数を上げる」やり方でこれまで保険診療の数を大量にこなしてきた歯科医院こそ、 経済最優先の“儲け主義”に映ってならないのです。

冷水を浴びせられたような2006年4月の保険改定

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多くの歯科医師は独立開業する時に市場調査を行い、事業の収支見通しを立てますが、 一般歯科の場合の収入予想は、ほぼ間違いなくすべてのケースで保険診療収入予想から成 り立っています。自由診療収入は申し訳程度に数%が計上されますが、ゼロという場合も 珍しくありません。このような考えを背景にして、治療方針や経営手法、医院の将来像の すべてが保険診療による安定的な収益獲得を中心に組み立てられてきたのです。保険診療 は、歯科医院の経営を支える基盤として機能し存在感を保持してきたものだと言えます。 それがここへ来ての大幅な“減給”措置となり、保険である程度柔軟に対応できるよう になっていたはずの予防措置ですら、時代に逆行するかのような制限がかけられるように なったわけです。これからはどのように「収支見通し」を立てたらよいのか、医院経営の 先行きについて、視界不良を訴えるようになったのも当然のことといえます。 そのような情勢が広がると共に、歯科界には「これからは保健診療では食っていけない から自由診療に移行しなくては」というような空気が広がっているように感じます。 今、起きている「自費への移行」には違和感を抱いていますし、その空気には危険なも のを感じています。「保険では食べて行けないから自費に」この感覚は、この上なく安易に 感じられてなりません。 歯科医院経営において「保険診療から自由診療へ方向転換を図る」のは「ノンプロでの んびりやっていた選手がプロ野球に移る」と同じくらい大きな方向転換と心得るべきだと 思います。 「今まで保険で対応していたものを、できる限り自費に誘導しよう」そのような単純な 考え方とやり方で通用するとは到底思えません。患者サイドにしますと「何で今までと違 うのか」といぶかしく思うでしょうし、「いままでやってきたことは安物の押し付けで、こ れからは高額治療の押し付をやろうということなのか?」そのような保険と自費のどちら に対しても疑念が噴出することになるでしょう。 「保険が減額になったから自費に移行する」とか、「他の歯科医院が自費中心に変え始め

視界不良となった歯科医院経営

今こそ原点に立ち返るとき

危険な「安易な自由診療への移行」

院長に求められる確かな信念

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たから」といったような動機は極めて安易です。その安易さと後追い的な消極姿勢が顧客 に納得感を与えることは極めて難しいと思われます。 院長自身に方針変更に至る確固とした“哲学”がなければスタッフの心と身体が動かな いでしょうし、スタッフが納得しないものは、結局患者にも伝わらないのです。 収益面だけで歯科医院の経営を考えるのではなく、もう一度原点に立ち返ってみること が重要だと思います。立ち返るべき歯科医院経営の原点とは「できる限り保険診療で診る」 ことでもありませんし、「自由診療主体でしっかり行う」ことでもありません。「保険か自 費か」の判断は本来患者側に存在するのであって、医療者側の経済的都合に基づく思惑に よって判断されることではないのです。 大切なことは「歯科医療サービスはいかに提供されるべきか」という、患者サイドに立 った歯科医院の基本的命題について改めて深く考えることではないでしょうか。 歯科医療サービスは、次のようにあって欲しいと思っています。 ■歯科医療サービスの基本的命題 歯科医療サービスは、『最上級のサービス業』の名にふさわしいテクノロジーとホスピ タリティを伴い、患者の一人ひとりに『最善の医療』として提供されなければならな い これは、「正解」というものではありませんし、ましてや自費率を高めるための“公式” や“特効薬”に匹敵する「考え方のスタンス」などというものでもありません。 長い間行ってきた歯科医院経営が、2006 年4月の保険改定によって視界不良に陥ってい るのであるなら、結局それによって迷惑を被るのはサービスの提供を受ける患者側なので すから、歯科医院経営者は自らの使命感と責任感を明確にしなくてはならないはずです。

今こそ原点に立ち返ろう

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これからの「勝ち組モデル」は健康保険に依存しないモデルです。ことさら大勢の患者 を集めることが第一義的な要因ではなくなります。 ■患者の見方に対する変化 ●「何人の患者さんが来ている」から「どのような患者さんが来ている」に変化 →量から質への転換 ●「患者」意識から「顧客」意識への転換 健康保険に依存しないということは、患者とは認定されない人も幅広く受け入れていく 広がりを持つということですので、「患者」という表現を改めた方が良いと思います。一足 飛びに「顧客」と表現することには抵抗感があるのであれば、「受診者」「来院者」でも良 いと思います。 「どのような顧客がどれくらい我が歯科医院にはいるのか」大まかにでも答えられる院 長がいるでしょうか。 具体的には「リピーターといわれる再初診患者は今何人くらい?」、「完治した後、メンテ ナンス顧客として1年以上定期通院している顧客は何人?」、「紹介率は何%?」、「遅刻の 常習者の割合は?」このような問い掛けに即答はできなかったとしてもデータが毎月スト ックされているでしょうか。 私の承知している限り、毎月全員で顧客格付けの洗い直しをきちんと継続している歯科 医院が1件あります。福岡県大川市のS歯科医院です。私どもの提案でスタートした格付 け作業でしたが、医院の実情に即して改良に改良を重ね【図表1】のような形が完成した のです。 この格付け表は縦に「医院との関わりの状態」を横に「通院態度」をとり、それぞれ7 段階と4分類に区分し、全部で 28 パターンに顧客を分類したものです。そして各パターン に点数をつけることでランク分けできるようにしてあるのですが、配点は医院に対するロ イヤルティの高さを反映させるようにしてあります。

これからの勝ち組モデル

360度セルフチェックの実施

顧客の格付けを行うことで自医院の実力が見える

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【図表1】顧客格付け配点表 遅刻なし キャンセルなし 遅刻が多い キャンセルが 多い 約束を 守らない 完治後メンテナンス で3年以上通院中 63 62 61 60 完治後メンテナンス で通院中 53 52 51 50 完治後再来院 43 42 41 40 初診通院中 33 32 31 30 リコール月で 来院なし 23 22 21 20 中断後再来院 13 12 11 10 中 断 3 2 1 0 つまり「完治後メンテナンス3年以上通院中で、遅刻もキャンセルもしない顧客」をS 歯科医院では最もロイヤルティが高いと評価しており、最高点の 63 を付与しています。 点数の意味は「完治後メンテナンス3年以上通院中」を 60 点台とし、そういう状態の顧客 の中で最も好ましい通院態度である「遅刻もキャンセルもしない」が3点になるというこ とで、S歯科医院では「顧客格付け 63」と聞けば、全員が「完治後メンテナンス3年以上 通院中で、遅刻もキャンセルもしない顧客」と認識できることになっています。 反対に最もロイヤルティの低い顧客は「約束も守らず治療途中で来なくなってしまった」 0点の顧客です。このように0、1、2、3、10、11、12、13、20、21、22、23 というよ うに上がって行き最高点が 63 となるのですが、現在の最も多いランクは何点であるかとか、 今月は全顧客の格付け平均点が先月より 2.5 点上昇したといったような現状認識が可能と なります。 そして何よりも重要なことは、顧客格付けは単なる顧客評価にあるのではなく、歯科医 院として顧客の育成にどれくらい取り組んだのかという医院評価の反映として捉えること ができる点です。もっと個々の顧客に掘り下げて捉えるならば、担当者個人の評価にもな るということです。 ただ漫然と治療や予防に取り組むのではなく、「患者を顧客に変える」「顧客を優良顧客 に育成する」という意識を全員がもって臨むことが大切ですが、その意識を醸成し高める 上で顧客格付け表の作成は大きな助けとなることでしょう。

(11)

次に歯科医療サービス提供の仕方について、セルフチェックを行ってみましょう。きち んと一人ひとりに「最善の医療」が提供できるような業務手順になっているでしょうか。 建築会社のリフォーム工程と歯科医療サービスとを対比してみましょう。(図表2参照) リフォーム工程表の中で、建物仕様やグレードや費用について説明しながら、顧客の希 望を訊き出し、ベストのやり方を探し出していく部分が④です。順序立てて①∼③と事前 調査を進めてからという段取りを踏んでいくことになります。診断前の①の段階で費用的 なことを言う業者もいるかもしれませんが、きちんとした会社は調査診断の前にいい加減 な金額提示はしないものですし、いたずらに予算を尋ねたりもしません。予算の枠に縛ら れて、技術上不可欠な補強工事が甘くなったり、安全上必要な仮設工事などが疎かになっ たりすることを防ぐためです。 歯科の治療も本来はこの流れと同じではないかと思います。患者の立場に立って最善の 医療を提供しようとするならば、①∼⑪までをきちっと行っていくことがまず大切です。 その中で、④と⑤の所で「保険で行くか自費で行くか」が決定されることになりますが、 歯科医院側の態度としては『最善の医療』であるかどうかのみが判断要因です。もちろん、 患者側は自らの経済と相談することにはなりますが、歯科医療者は患者の口の中を気にす ればよいのであって患者の財布の中身まで気にかける必要はまったくないのです。 そのときに、仮に『最善の治療』として提示した方法が保険外であったとしても、この 一連の流れがしっかりと構築されている歯科医院であるならば、患者は保険外治療であっ たとしても歯科医院側の勧める治療方法を納得してそれを受け入れるはずです。何も保険 診療で治療することが患者本位の姿勢ではありません。 「患者の悩みを訊き出し、入念な検査を行い、的確な診断を下し、科学的根拠に基づい た治療を施し、的確なフォローアップを継続する」これこそが、真に患者の立場に立った 歯科医療のあり方といえるのでないでしょうか。保険か自費かは二の次なのです。このよ うにリフォーム工程表と同じ手順、あるいはそれを凌駕するきめの細かさで歯科医療サー ビスの提供が行われているならば、それはエクセレントクリニックバージョンと言えます。 ところが、多くの歯科医院でおこなわれてきた対応は、「①∼④を“通り一遍の作業レベ ル”で流し、⑤∼⑦はカットしていきなり⑧に入る」ことが多かったのではないでしょう か。そして一種の予防ブームに乗って、「⑪だけはしっかり行う」ようになったのが数年前 からの歯科医院経営の流れだったように思います。

業務手順を見直すことで目指す医療サービスが効率よく提供できる

(12)

【図表2】工程表

《リフォーム工程表》

《歯科治療工程表》

②建物の状態を調査や検査をおこなう ③補強の必要性の有無などについて診断する ④工法,デザイン,材質などによる違いを説明 する ⑥図面,仕様書,見積書,工程表を提出し内容 を説明 ⑤顧客の最終的な希望を訊きリフォームの設 計に入る ⑦契 約 ⑧着 工 ⑨竣工検査 ⑪メンテナンス ⑩引 渡 し ⑫追加工事発生・顧客紹介 ①顧客から建物の現状と大まかな希望を訊く ②入念な検査を行う ③的確な診断を下す ④治療方法の提示、使用する材料の種類と特 徴そして費用についての説明する ⑤科学的根拠に基づいた治療計画を立てる ⑥治療計画書、治療費見積書、工程表を提出 する ⑦契約締結 ⑧治療開始 ⑨治療終了 ⑩完治後の注意事項説明書の提示 ⑪的確なフォローアップを継続する ⑫新たな治療発生・顧客紹介 ①患者の悩みを訊き出す

(13)

さなくてはならない保険診療が主体であったからです。大量の患者をさばくように診てい く業務手順を私は「エクセレントクリニックバージョン」に対して、「オートメーションバ ージョン」と呼んでいます。 自医院がエクセレントクリニックバージョンなのかオートメーションバージョンなのか このチャートに重ねてチェックしてみてください。その上で目指す方向性を決め、オリジ ナルな業務手順をマニュアルとして制定することをお勧めします。 顧客の格付けも業務手順の見直しも、言ってみればシステムの棚卸しのようなものです。 目指している方向と同じベクトル上に乗っているのかをチェックしてみようということで す。 これからの歯科医院経営においてスタッフ問題は最重要課題のひとつです。女性労働力 が逼迫することも問題ですが、スタッフは歯科医院における商品そのものだからです。良 い商品が揃わなければ良い顧客も集まりません。まさにスタッフ問題は歯科医院盛衰の鍵 といえるのです。 公式には清々とした組織に出来上がっていたとしても、一度スタッフの感情を引き取っ てあげることが必要です。大変勇気のいることですが、次ページに挙げるような質問をス タッフに行い、より率直な意見を得るために無記名で出してもらってください。

組織によどむ膿を一度出す必要がある

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《参考資料》

1│あなたは、当院のどういったところが気に入っていますか。また、どういったと ころが嫌いですか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2│当院が行っていることの中で、馬鹿げていると思うことを5項目あげてください。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3│当院で皆が話題にすることを恐れている問題は何ですか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4│もしあなたが当院の経営者だとしたら、やり方を変えたいと思うのはどのような 点ですか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5│患者が当院のことを「嫌だな」と感じることがあるとしたら、それは何だと思い ますか。また、「良いな」と感じることがあるとしたら、それは何ですか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6│当院が最も対応できていないと思われる患者層は、どのような人達だと思います か。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7│当院は、より良い成果や生産性に対し、他の歯科医院に比べ高い報酬を与えるこ とで報いていますか。あるいは他の歯科医院よりも従業員を大切にする組織文化を 築いていますか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8│競合する歯科医院が、当院よりも多くの患者に支持されているのは、彼等の技術 や設備が当院より優れているからだと思いますか。それとも当院よりも患者との関 係づくりが上手だからだと思いますか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9│当院は変化の速度を認識していますか。それとも古いビジネスモデルがいまだに 有効だと思うフリをしていますか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10│最近、当院が実践した最高の成功例は何だと思いますか?

当院についての率直な意見

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失われた 10 年とも 15 年ともいわれる長きに亘った経済の調整期間は、一方では大きな 価値観の変化が社会全体に浸透していく時間でもありました。日本においては頂点を迎え た工業経済力が欧米を捉え、彼らを抜き去った時からバブル経済が過熱してしまったため、 社会全体がその変化に対して盲目になってしまいました。しかし、バブルが崩壊し落ち着 きを取り戻してくると、規格品の大量生産という、これまでの日本の工業社会を支えてき たシステムが機能しなくなっていることが見えてきたのです。これが基本的な社会の価値 変化なのです。ここに気付いた先見的な製造業はサービス業の要素を取り入れ、少品種大 量生産から多品種少量生産へという「受注生産」に近いシステムに切り替え始めたのです。 「歯科医師の仕事とは何か?」乳幼児を除くすべての人間が迷わず「歯を治すこと」と 答えます。それくらいはっきりしているからです。しかしこの単純な明確さが歯科医師を 単なる技術屋に自らを押し込め、それ以上の広がりを否定してきたと言えなくはないでし ょうか。「歯科医師は歯の修理屋」という言葉にはこの想像力が欠けています。歯科医師と いう技術に魅力を与える想像力を出そうではないですか。 私はコンサルタントとして、また一人の顧客として歯科医師という職業を次のように定 義し、直して欲しいと思っています。 ■歯科医師という職業の定義 歯科医師の仕事は歯を治すことではない。社会に活力を与えることだ 歯科界が今でも問題視している環境変化とは、現象として現れた変化であり、社会科学 上の理屈に合致した変化でもありましたが、価値変化の本質に迫った分析によるものでは ありません。 歯科界は一般とは異なるという意識を持っているせいか、必要性は叫ばれるものの、現 実には変化への対応が遅かったり、やや路線が特殊であったりします。工業化社会からサ ービス化社会への転換という新しい価値変化に対しても、それはビジネス界の出来事であ り歯科界にはあまり関係のないことだとする空気が強いように思います。

新しい価値変化の本質は何だったのか

これからの差異化要因

歯科医療サービスの本来の役割とは

(16)

これからの社会が求めるものは、価値変化に対応した歯科医院が提供するサービスです。 それは規格品の大量生産と同じような感覚で提供される歯科医療サービスではなく、まさ に「『最上級のサービス業』の名にふさわしいテクノロジーとホスピタリティを伴い、顧客 の一人ひとりに『最善の医療』として提供される歯科医療サービス」なのです。 ■価値変化に対応した歯科医院が提供するサービス 『最上級のサービス業』の名にふさわしいテクノロジーとホスピタリティを伴い、顧 客の一人ひとりに『最善の医療』として提供される歯科医療サービス 歯科医院は健康保険に依存せず「最善の医療」の提供に一心に取り組むことです。それ が受け入れられるように経営の足腰を強化することが大切です。 具体的には、顧客との関係についての認識を新たにし、精緻で効率的な業務手順と効果 的な顧客応対を確立し、組織の膿を出し同じ方向に向かってスタッフと一体化することで す。目先を変える仕掛けやツールはあまり必要ありません。テクノロジーのレベルを上げ、 アメニティの品格を高め、そしてバリューによる共感を得ることを目指してください。 バリューによる差異化とは「歯科医療に魅力を与える想像力の差異」によって実現され ます。人々に活力を与えることが歯科医院の仕事ですし、使命といえます。このようなこ とが可能になるのは抜群の技術と、その先にある魅力的な夢を想像させられる対応の力で す。 それは組織全体が共有している価値観に顧客が共鳴して生まれてくるものです。こうい う想像力を作り出せるかどうかが新しい時代の差異化要因となるでしょう。そのような差 異化の実現によって生まれる新たな勝ち組は、従来のそれとは別の定義によって区別され ます。 勝ち組歯科医院の定義も下記に示すように、大きく変化しています。 ■「勝ち組」歯科医院の定義の変化 ●従来の勝ち組の定義 「多くの患者が集まり売上も高水準で安定している歯科医院」 ●新しい勝ち組の定義 「価値観に共鳴した深い結びつきの顧客が集まり売上も高水準で安定している歯科 医院」

テクノロジーとアメニティ、そしてバリューによる差異化

(17)

宮原 秀三郎

(みやはら・しゅうざぶろう) ㈲DBMコンサルティング代表取締役 1949 年東京生まれ、1973 年同志社大学経済学部卒 建設会社を経て、1980 年㈱ジャパンデンタル入社、東京、札幌、仙台支店長、本社企画部 長を歴任。 1999 年に同社を退職し、有限会社DBMコンサルティングを設立、歯科専門の金融知識に 加え、組織開発ノウハウの提供を開始。 全国歯科医師会、歯科大学同窓会、歯科関連企業講演会講師、2000 年より「アポロニア 21」 (日本歯科新聞社)に歯科経営論の執筆を7年間連載 <「アポロニア 21」連載テーマ> ●2000 年「金融環境の変化と歯科医院経営を考える」 ●2001 年「新歯科医療サービス論」 ●2002 年「続新歯科医療サービス論」 ●2003 年「歯科医院組織論」 ●2004 年「歯科医院人材論」 ●2005 年「歯科医院リーダーシップ実践論」 ●2006 年「歯科医院経営戦略論」 <主な著書等> ■2001 年『歯科医院経営の再生良法』(デンタルダイヤモンド社/共著) ■2004 年より2年間『デンタルダイヤモンド』誌上座談会連載 ■2005 年『自分でできる歯科医院経営チェック』(デンタルダイヤモンド社/共著)

参照

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