• 検索結果がありません。

同期タッピングにおける時間情報処理

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "同期タッピングにおける時間情報処理"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.38.30

同期タッピングにおける時間情報処理

新 井 田 光 希*・田 山 忠 行

北海道大学

Time information processing in synchronized tapping

Mitsuki Niida* and Tadayuki Tayama

Hokkaido University

When a person synchronizes finger tapping with an isochronous stimulus like a metronome, taps often precede stimuli by 100 ms or less. This phenomenon is called negative mean asynchrony (NMA). Two experiments were conducted to examine whether NMA is generated by the underestimation of inter-onset intervals (IOIs), and to ex-amine the relation between NMA and beat-based timing. In Experiment 1, estimations of empty intervals were com-pared with those of filled intervals in duration and tempo tasks. Durations of empty intervals were estimated to be shorter than those of filled intervals. On the other hand, estimated tempos were the same for both empty and filled intervals. In Experiment 2, the synchronized finger-taps were compared between empty and filled intervals. NMA was observed in all conditions, but the synchronized error was greater for empty intervals than for filled intervals. These results showed that perceiving IOIs as shorter advanced the timing of taps but was not an essential factor causing taps to precede stimuli. It is considered that beat-based timing is not the cause of NMA.

Keywords: sensorimotor synchronization, synchronized tapping, negative mean asynchrony, duration-based

timing, beat-based timing

人は様々な状況で,外部の事象に対してタイミングを 合わせて活動を行っている。例えば,投げられた物を キャッチするときや容器に必要な液体を注ぐときには, タイミングを計る必要がある。音楽演奏やダンスでは, 特に自分自身の活動のタイミングを外部の刺激に合わせ た状態を維持し続けなければならない。楽器を演奏する ときには,演奏のタイミングを指揮や共演者の演奏に合 わせる必要があり,ダンスをするときには,自分の動き のタイミングを曲や共演者の動きに合わせる必要があ る。パフォーマーはそのときに見た動きや聴いた音に合 わせて自分の体を動かさなければならない。このよう に,外部からの感覚のインプットを参照して自分自身の 行動のアウトプットのタイミングを合わせること,とり わけ周期的にタイミングを合わせることを感覚運動同期 という(Repp, 2005; Repp & Su, 2013)。

感覚運動同期は,これまで主に同期タッピング課題と いう実験パラダイムを用いて研究されてきた。同期タッ ピング課題とは,メトロノームのように周期的に提示さ れる一連の刺激にタイミングを合わせてタッピングを行 う課題である。この課題の形式は多様であるが,最も基 本的なのは,聴覚刺激にタイミングを合わせて指でパッ ド等をタッピングするものである(Dunlap, 1910)。同期 タッピング課題では,しばしば負の非同期という現象が 観察される。これは刺激の出現よりも数10 ms先行して タップが起こるという現象で,刺激とタップの間の時間 的誤差(同期誤差)が負の値をとることから負の非同期 と呼ばれている(Aschersleben & Prinz, 1995)。同期すべ き刺激よりも反応の方が早く起こることから,負の非同 期は人が予測的な行動をしていることを示す例として注 目されてきた。 負の非同期の原因はまだ完全に解明されていないが, いくつかの説が提案されている。Paillard–Fraisse仮説で は,タップと刺激の同期は中枢神経レベルで知覚される という考えに基づいて,聴覚刺激とタップの際の触覚あ るいは運動感覚の信号の神経伝達速度の違いが負の非同 期の原因となると仮定している(Paillard, 1948; Fraisse, Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Department of Psychology, Hokkaido

University, Kita 10, Nishi 7, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060–0810, Japan. E-mail: niida6m@eis.hokudai.ac.jp J-STAGE First published online: March 11, 2020

(2)

1980)。また,Aschersleben (2002)が提案した感覚累算 モデルでは,感覚情報に基づいた累算によって中枢神経 レベルでの同期を達成するという考えに基づいて,モダ リティや強さによって累算速度が異なるので負の非同期 が生じると仮定している。これらは刺激とタップの時間 的関係の知覚に負の非同期の原因を求めた説と言えよ う。

他方,Wohlschläger & Koch (2000)は,刺激間の空虚 なインターバルの持続時間が短く知覚されることが負の 非同期の原因であると考えた。これを以下ではインター バル過小評価説と呼ぶことにする。従来の同期タッピン グ課題では,ほとんどの場合,同期する刺激はメトロ ノームのようなクリック音によるもので,刺激のオン セット間インターバル(inter-onset-interval, IOI)は空虚 時程であった。そのため,空虚なIOIの持続時間を実際 よりも短く知覚し,それを刺激音から次のタップまでの 持続時間の基準として参照することで,次のタップが次 の刺激音よりも早く起こっていた可能性がある。これは 充実時程錯覚が生じていることを意味する。充実時程錯 覚とは,インターバルの始めと終わりだけが刺激で示さ れる空虚時程より,初めから終わりまで刺激で満たされ る充実時程の方がより長く感じられるという時間の錯覚 である(Wearden, Norton, Martin, & Montford-Bebb, 2007; Hasuo, Nakajima, Tomimatsu, Grondin, & Ueda, 2014)。 Wohlschläger & Koch (2000)は,タップとタップの間に 非接触でタップする動きを加えたり,あるいは単純なク リック音のタップでも,その間に音楽の打楽器のリズム や雨粒のようなランダムな音を加えたりすると,負の非 同期が消失することを示した。このように複雑なタップ の動きや音楽のリズムを背景に伴うような同期タッピン グでは,空虚なIOIが構造化され持続時間が正確に知覚 されるので,次にタップすべきタイミングがより正確に 予測できるようになると彼らは考えた。 本研究では,負の非同期の原因を説明するこのイン ターバル過小評価説の妥当性を検討する。Wohlschläger & Koch (2000)は,IOIに操作を加えることによってタッ ピングで負の同期誤差が減少することを示した。しかし ながら,彼らは IOIの持続時間の知覚を調べる課題を 行っていなかったため,操作が加えられたIOIの知覚時 間が,実際に空虚であったIOIの知覚時間に比べて長かっ たかどうかは不明である。そこで本研究では,充実時程 錯覚を利用してIOIの持続時間の知覚を操作し,IOIの持 続時間を評価する課題(以下では時間評価課題と呼ぶ) と同期タッピング課題を併用して,実際にIOIが短く知 覚される刺激を用いたタッピングは,IOIが長く知覚さ れる刺激を用いたタッピングよりも負の誤差が増加する か否かを検証する。 本研究ではまた,ビートに基づいた時間知覚が負の非 同期の原因と関連があるか否かについても検証する。タ イミングのメカニズムには,ビートのない状況で絶対的 に時間を知覚する持続時間ベースのものと,ビートに基 づいて相対的に時間を知覚するビートベースのものがあ る。両者は異なる神経基盤を持っており,持続時間ベー スの時間知覚ではオリーブ小脳ネットワークが働き,ビー トベースの時間知覚では線条体–視床–皮質ネットワー クが働くことが示唆されており,それぞれが別個に働く のではなく統一されたシステムとして並行的に機能する と考えられている(Teki, Grube, Kumar, & Griffiths, 2011; Teki, Grube, & Griffiths, 2012)。インターバル過小評価説 は,IOIの持続時間の知覚に負の非同期の原因があると する仮説である。しかしながら,刺激が規則的でビート のある感覚運動同期では,ビートに基づいた時間知覚が 関与すると考えられる。そのため,空虚なIOIが短く知 覚されることが同期タッピングに影響を与えるかを検証 する上では,持続時間ベースの知覚とビートベースの知 覚を区別する必要があろう。これまでインターバルの持 続時間の知覚に関する充実時程錯覚は確認されているも のの,ビートベースの知覚において空虚時程と充実時程 の間に違いがあることは確認されておらず,またビート ベースの知覚と負の非同期の関連も明らかにされていな い。そこで本研究では,最初に時間評価課題と共にビー トベースの知覚に関するテンポ評価課題を行うことで, 各課題における空虚時程と充実時程の違いを調べること にする(実験1)。次にそれらを同期タッピング課題(実 験2)の成績と比較することによって,持続時間ベース の知覚とビートベースの知覚の各々と負の非同期との関 連を検証する。 実 験 1 実験1の目的は,本研究で使用する刺激において充実 時程錯覚が生じることを確認すること,またビートベー スの知覚が空虚時程と充実時程の違いによる影響を受け るか否かを検証することである。ここでは空虚時程と充 実時程の各々の刺激に対してマグニチュード評価法によ る時間評価課題とテンポ評価課題を行う。テンポ評価課 題では,充実時程の刺激のIOIを完全に刺激で満たすた めに刺激の音の高さ(周波数)を交互に変化させる。 方 法 参加者 聴覚に障害のない大学生10名(男性4名,女

(3)

性6名,平均年齢23.6歳)が実験に参加した。

刺激及び装置 刺激の提示と反応の記録は自作のプロ グラムによりPC (Apple社製,Mac mini Late 2009) で制御 され,刺激の提示はヘッドホン(Sony社製,MDR1A) を通して行われた。また,反応の取得はゲーミングキー ボード(Razer社製, RZ03-01702300-R3J1)によって行わ れた。刺激音は16種類の正弦波音であった。周波数は 500 Hzと400 Hzの2種類,持続時間は20 ms, 500 ms, 545 ms, 600 ms, 666 ms, 750 ms, 857 ms, 1000 msの8種類であった。 いずれの音も,オンセットからの5 msで無音から最大 振幅までフェードインし,オフセットまでの5 msで最 大振幅から無音までフェードアウトした。フェードイン からフェードアウトまでの振幅は一定であった。これら の刺激音の他に,試行中の合図としてノイズを使用した。 使用した音のサンプリング周波数は44100 Hzであった。 課題及び刺激条件 各参加者は時間評価課題とテンポ 評価課題の2つの課題を行った。いずれもマグニチュー ド評価法による課題で,時間評価課題では刺激のIOIの 持続時間を評価し,テンポ評価課題では刺激のビートの テンポ(速さ)を評価した。刺激条件は両課題で共通し ており,刺激タイプ条件,オンセット間インターバル (IOI) 条件,周波数条件の3つであった。刺激タイプ条件 は,統制空虚,空虚,充実の3水準,IOI条件は,500 ms, 545 ms, 600 ms, 666 ms, 750 ms, 857 ms, 1000 ms の 7 水準, 周波数条件は,高低の2水準であった。したがって,刺 激条件は合計42条件であった。 時間評価課題では,参加者は,連続して提示される 2つの音のIOIの持続時間を評価することが求められた。 Figure 1aは刺激の模式図である。統制空虚条件では同じ 周波数の20 msの音が,空虚条件では異なる周波数の20 ms の音が特定のIOIを経て2回呈示された。充実条件では, 一定の周波数の音がIOIと同じ時間呈示され,その直後 に異なる周波数の音が20 ms呈示された。高周波数条件 の場合,統制空虚条件では 500 Hzの音,空虚条件と充 実条件では500 Hzの音の後に400 Hzの音が呈示された。 他方,低周波数条件の場合,統制空虚条件では400 Hzの 音,空虚条件と充実条件では 400 Hzの音の後に500 Hz の音が呈示された。すなわち,刺激は,統制空虚条件で は同じ周波数であったが,空虚条件と充実条件では周波 数が変化した。 テンポ評価課題では,等時間隔で連続して呈示される 一連の音のオンセットから成るビートのテンポを評価す ることが求められた。Figure 1bのように,統制空虚条件 では,同じ周波数の20 msの音が特定のIOIで連続して呈 示された。空虚条件では,周波数の異なる20 msの2つ の音が,充実条件では,IOIと同じ長さの持続時間で周 波数の異なる2つの音が,特定のIOIを経て交互に連続 して呈示された。呈示された音の数は7–9個であり,試 行ごとにランダムであった。周波数条件については時間 評価課題と同じであり,統制空虚条件では同じ周波数で あったが,空虚条件と充実条件では周波数が交互に変化 した。 手続き 実験は聴覚検査室で参加者別に行われた。各 参加者は,最初に音量調節を行い,刺激のサンプルを自 由に再生してちょうどよいと感じる音量に調節し,それ 以降,音量は実験終了まで固定された。その後,参加者 は時間評価課題とテンポ評価課題を交互に3回ずつで, それぞれ3つのブロックの実験を行った。どちらの課題

Figure 1. Examples of stimuli for each stimulus-type condition on (a) time estimation task and (b) tempo estimation task. The horizontal line indicates the flow of time. Squares on the line indicate sound stimuli. White and gray colors represent two sound frequen-cies.

(4)

を先に行うかはカウンターバランスがとられた。全体の 所要時間は1時間から1時間半であった。 時間評価課題は以下の手続きで行われた。実験開始と 共にモニター画面上に[M]=modulusと[T]=test start が表示された。ここで,キーボードのMキーを押すと, 合図として 100 msのノイズ音が呈示され,その1000– 2000 ms後に標準刺激が呈示された。標準刺激は,統制 空虚条件における周波数が500 Hz, IOIが600 msのテス ト刺激と同じであった(Figure 1a参照)。標準刺激は, Mキーを押して何度でも聞くことができた。参加者は 標準刺激のIOIの持続時間を覚えた後,Tキーを押して 試行を開始した。試行開始の合図としてノイズ音が呈示 され,その1000–2000 ms後にテスト刺激が呈示された。 テスト刺激が消えた後,参加者は,標準刺激のIOIの持 続時間をモデュラス100として,テスト刺激のIOIの持 続時間を数字で回答した。例えば,テスト刺激のIOIの 持続時間が標準刺激の2倍に感じられた場合は200,半 分に感じられた場合は50と回答した。回答にはテンキー を使用した。入力を間違えた場合はスペースキーを押し た後に再入力し,最後にエンターキーを押して,次の試 行に進んだ。以後,この手続きが繰り返された。参加者 は,上記の42条件の各試行をランダムな順に連続して 行った。これを1ブロックとするが,そのうちの半分の 21試行を終えた時点で,若干の休憩を挟んだ。休憩の 後は,再び Mキーを押して標準刺激を呈示し,上と同 じ手続きで残りの試行を行った。参加者にはあらかじ め,刺激音が短い場合と長い場合があること,また,刺 激の音程が一定の場合と変化する場合があることを伝 え,いずれの場合も2つの音の鳴り始めの間の持続時間 を評価するように教示した。 テンポ評価課題は時間評価課題とほぼ同様の手続きで 行われたが,刺激と評価の方法が異なっていた。標準刺 激は,統制空虚条件における周波数が500 Hz, IOIが600 ms のテスト刺激と同じであった(Figure 1b参照)。参加者 は標準刺激のビートのテンポ(速さ)をモデュラス100 として覚え,それを基準としてテスト刺激のビートのテ ンポを,速いほど大きくなるように数字で回答した。参 加者には,刺激音が短い場合と長い場合があること,ま た刺激の音程が一定の場合と変化する場合があることを 伝え,いずれの場合も各々の音の鳴り始めを1拍として テンポを評価するように教示した。また,各試行におけ る刺激音の提示回数はランダムであるため,刺激全体の 長さに基づいてテンポを評価することができないことを 教示した。 分析 以下では各々の課題から得られた評価値から主 観的1秒を算出し,結果の分析に使用した。主観的1秒 とは,物理的1秒に対応するように変換した主観値であ る。時間評価課題では,次の(1)式によって主観的1秒 を算出した。 主観的1秒=評価値*(600/100)/IOI (1) テンポ評価課題では,bpm100に相当するIOIが600 ms の標準刺激をモデュラス100としてテンポを評価したた め,評価値の数値は bpm の評価値に相当するもので あった。そのため,まず(2)式によって評価値をbpm から持続時間に変換し,その後,(3)式によって主観的 1秒を算出した。 評価値(ms)=60000/評価値(bpm) (2) 主観的1秒=評価値(ms)/IOI (3) 結果と考察 時間評価課題 時間評価課題における刺激タイプ条件 ごとの主観的1秒の平均を算出したところ,統制空虚条 件では 0.908秒,空虚条件では0.908秒,充実条件では 0.993秒であった(Figure 2a参照)。この主観的1秒を指 標として刺激タイプを要因とする参加者内1要因分散分 析を行ったところ,刺激タイプの主効果は有意であった (F(1.178, 34.150)=9.433, p=.003, η2=0.245)(Mauchly の 球面性の仮定が成り立たない場合は Greenhouse–Geisser のイプシロンにより自由度を修正した。以下ではすべて 同様の修正を用いた)。Bonferroni法による多重比較を行っ たところ(以下の多重比較ではすべて同様の方法を用い た),充実条件の主観的1秒は統制空虚条件 (p=.014, d= 0.562) や空虚条件 (p=.009, d=0.594)のそれより有意に 大きく,統制空虚条件と空虚条件の間に有意差はなかっ た(p=1.0, d=0.017)。したがって,充実時程よりも空 虚時程の方が短く感じられたことが示された。この結果 は本実験で使用した刺激において全体として充実時程錯 覚が生じていたことを意味する。また周波数変化のない 統制空虚条件と周波数変化のある空虚条件の間に有意差 はなかった。これは時間知覚が周波数変化の影響を受け なかったことを示している。 テンポ評価課題 テンポ評価課題における刺激タイプ 条件ごとの主観的1秒の平均を算出したところ,統制空 虚条件は1.002秒,空虚条件は1.040秒,充実条件は1.042 秒であった(Figure 2b参照)。この主観的1秒を指標と して刺激タイプを要因とする参加者内1要因分散分析を 行ったところ,刺激タイプの主効果は有意ではなかった (F(1.422, 41.246)=2.349, p=.123, η2=0.075)。 こ の 結 果

(5)

は,持続時間の知覚の場合とは異なり,ビートに基づい た時間知覚は,全体として刺激が空虚時程か充実時程か の影響を受けないことを示している。このことは,時間 間隔が短い音で示されるか長い音で示されるかはテンポ 評価に影響しないことを示した先行研究の実験結果とも 一致している(Repp & Marcus, 2010)。また,周波数変 化のない統制空虚条件と周波数変化のある空虚条件の間 でも有意差はなかった。この結果は,テンポ知覚が,持 続時間知覚と同様,周波数変化の影響を受けなかったこ とを示している。 時間評価とテンポ評価の比較 時間評価課題では,空 虚時程と充実時程の評価に違いが見出されたが,テンポ 評価課題では違いが見出されなかった。したがって,刺 激のインターバルが充実しているか否かに関して,時間 知覚とテンポの知覚は異なる性質を持っていると考えら れる。このことは,単一のインターバルに対する絶対的 な持続時間ベースの知覚と規則的な状況における相対的 なビートベースの知覚という,異なる神経基質を持った 2つのメカニズムの存在を示唆したTeki et al. (2011)の 見解と一致していると言えよう。 実 験 2 実験2の目的は,知覚されるIOIの長さによって同期 タッピングのパフォーマンスが変化するか否かを検証す ることである。ここでは実験1と同様,空虚時程と充実 時程の刺激を用いて同期タッピング課題を行い,両者の パフォーマンスを比較する。 方 法 参加者 実験1に参加した10名が実験2に参加した。 全員が右利きで,音楽経験がある人は8名(平均9年), またタッピング実験を受けた経験がある人は4名であっ た。 刺激及び装置 刺激音は10種類であり,これらはす べて正弦波音であった。周波数は500 Hzと400 Hzの2種 類,持続時間は20 ms, 500 ms, 600 ms, 750 ms, 1000 msの 5種類であった。また,これらの音は,オンセットから 5 msの間に無音から最大振幅までフェードインし,オフ セットまでの5 msの間に最大振幅から無音までフェー ドアウトした。フェードインからフェードアウトまでの 振幅は一定であった。これらの音を等時間隔で呈示する 一連の刺激を,以下ではペース刺激と呼ぶ。その他は実 験1と同様であった。 課題及び刺激条件 課題は指による同期タッピング課 題であった。参加者は,ペース刺激の各々の音のオン セットにタイミングを合わせて,指でキーをタップする ことが求められた。ペース刺激の条件は,実験1とほぼ 同様で,刺激タイプ条件,オンセット間インターバル (IOI)条件,周波数条件の3つであった。刺激タイプ条 件は,統制空虚,空虚,充実の3水準,IOI条件は実験1 でも用いた 500 ms, 600 ms, 750 ms, 1000 msの4水準,周 波数条件は実験1と同様の高低の2水準であった。した がって,実験条件は合計24条件であった。ペース刺激 Figure 2. Results of subjective-one-second for each

stimulus-type condition on (a) time estimation task and (b) tempo estimation task in Experiment 1. Error bars indicate standard errors. Asterisks indicate signifi-cant differences (*p<.05, **p<.01).

(6)

は実験1のテンポ評価課題の刺激とほぼ同様であったが (Figure 1b参照),連続呈示される音の個数が異なり,40 個以上であった。 手続き 実験は聴覚検査室で参加者別に行われた。各 参加者は,最初に音量調節を兼ねて練習試行を行った。 練習試行では統制空虚条件,空虚条件,充実条件の 3試 行をランダムな順で行った。練習試行における刺激音の 周波数は 500 Hz, IOIは800 msであった。練習試行の後 で音量を判断し,音量が適切であれば,それ以降,実験 終了まで音量は固定された。適切でない場合は,音量を 変更し,再度練習試行を行った上で音量を固定した。実 験開始の合図として 100 msのノイズ音が呈示された。 その後参加者がTキーを押すと試行が開始され,ペース 刺激が呈示された。参加者は,ペース刺激を聴いて,合 わせることができると思った時点で同期タッピングを開 始した。タッピングは利き手の人差し指で0のテンキー を押して行われた。タップに対する聴覚フィードバック の呈示はなく,打鍵時の機械音はヘッドホンによってあ る程度遮断されていた。参加者がタッピングを開始して から40回目の刺激音が呈示された時点で,合図のノイ ズ音とともに試行を終了した。参加者は再びTキーを押 して次の試行に移った。以後,この手続きが繰り返され た。すべての条件の試行を終えると1ブロックの実験が 終了した。1ブロックは全24試行で,その試行順はラン ダムであった。各参加者は2ブロックの実験を行った。 参加者には各刺激音の鳴り始めと同時にタップするよう に,また頭の中でカウントする場合はペース刺激を分割 せず,ペース刺激と同じテンポで行うように教示した。 また,タッピングに際してはキーの長押しや連打をせ ず,かつ,キーを押していないときでも指とキーの表面 をなるべく離さないように,またタップする指以外に体 でカウントを取らないように教示した。 分析 ペース刺激中の各刺激音とそれに対応するタッ プの時間差を,タップが刺激音のオンセットより早い場 合には負の値,遅い場合には正の値として記録した。以 下の分析では,各試行におけるこの時間差の平均を同期 誤差として使用した。なお,時間差が IOIの4分の1以 上の場合は,外れ値としてその時間データを分析から除 外した。また,外れ値を除外した上で,タップ数が 20 に満たない試行があった参加者のデータを分析から除外 した。以下の分析では,同期誤差の他に,各試行におけ る同期誤差の標準偏差を変動として用いた。変動はタッ ピングのタイミングのばらつきを示す値である。 結果と考察 上の基準によって1名の参加者のデータが除外された ため,9名のデータを分析の対象とした。 標準同期誤差 異なるIOI条件における同期誤差をま とめて比較するため,同期誤差を各 IOIの1000 msに対 する比率で割った値を標準同期誤差として算出した。統 制空虚条件における標準同期誤差は− 41.727 ms,空虚 条件では−40.486 ms,充実条件では−26.567 msであり, いずれの条件においても負の値となった (Figure 3a参照)。 1サンプルT検定を用いて刺激タイプごとの標準同期誤 差を誤差 0 ms と比較したところ,統制空虚(p<.001, d=0.983),空虚(p<.001, d=1.009),充実(p=.012, d= 0.663)のすべての刺激タイプ条件で有意差が認められ た。これはどの刺激タイプ条件でも有意に負の非同期が 生じたことを示している。標準同期誤差を指標として刺 激タイプについて参加者内1要因分散分析を行ったとこ ろ主効果は有意であった(F(2, 34)=15.48, p<.001, η2 0.477)。多重比較を行ったところ,充実条件の標準同期 誤差は統制空虚条件(p<.001, d=1.112)や空虚条件 (p=.002, d=0.995)に比べて有意に小さかったが,統制 空虚条件と空虚条件の間に有意差はなかった(p=1.0, d=0.117)。これは充実時程でのタッピングよりも,空虚 時程でのタッピングの方が,タップが早かったことを示 している。また周波数変化のない統制空虚条件と周波数 変化のある空虚条件の間に有意差がなかったため,周波 数の変化がタッピングのタイミングに及ぼす影響はな かったと言える。 標準変動 標準同期誤差の標準偏差を,タッピングの ばらつきを標準化した標準変動の値として,以下の分析 で使用した。これを指標として,刺激タイプについて参 加者内1要因分散分析を行ったところ,主効果は有意で あった (F(2, 34)=8.420, p=.001, η2=0.331)。多重比較の 結果では,標準変動は空虚条件よりも充実条件の方が大 きく (p=.007, d=0.845),統制空虚条件は空虚条件 (p= .128, d=0.516)と充実条件(p=.107, d=0.538)との間に 有意差はなかった(Figure 3b参照)。標準同期誤差は充 実条件に比べて空虚条件の方が大きかったため,負の非 同期が小さい条件ほど変動が大きかったことになる。こ れは同期誤差が小さいほど変動が小さくなることを示し たYang et al. (2018)とは異なる結果である。 IOI条件に関する課題間の比較 実験1と実験2の各課 題におけるIOI条件の影響を比較するため,実験1では 主観的1秒を指標とし,実験2では同期誤差を指標とし て,刺激タイプ条件(3)とIOI条件(4)の2要因分散分 析を行った。なお,この分析では同期タッピング課題の

(7)

結果と比較するため,実験1の課題におけるIOI条件は 実験 2 と同じ 500 ms, 600 ms, 750 ms, 1000 ms の 4 条件の みを用いた。 時間評価課題(Figure 4a参照)では,刺激タイプの主 効果(F(1.213, 35.169)=8.845, p=.003, η2=0.034)と IOI主効果 (F(1.193, 34.587)=27.253, p<.001, η2=0.328),ま た刺激タイプとIOIの交互作用 (F(6, 174)=5.012, p<.001, η2=0.012) が有意であった。刺激タイプの単純主効果は, 600 ms条件を除くすべてのIOI条件で有意であった。多 重比較の結果では,500 ms条件でのみ充実条件の主観的 1 秒 が 統 制 空 虚 条 件(p<.001, d=1.065) や 空 虚 条 件 (p<.001, d=1.016) より有意に大きかった。したがって, 全体的に見ると充実時程錯覚は起こっていたと言えるが, IOIが大きい条件での効果は明確ではなかった。先行研 究ではIOIが大きい条件でも充実時程錯覚が起こること が確認されている(Wearden et al., 2007)。また,IOIの 単純主効果はすべての刺激タイプ条件で有意であり, IOIが大きくなると主観的1秒が小さくなり,時間が小 さく評価される傾向が認められた。 テンポ評価課題(Figure 4b参照)では,IOIの主効果 は有意であったが(F(1.373, 39.816)=4.409, p=.031, η2 0.057),刺激タイプの主効果,また刺激タイプとIOIの 交互作用は有意ではなかった。テンポ評価ではIOIが大 きくなるにつれて評価が若干大きくなる傾向は認められ るが(Figure 4b),多重比較の結果では,いずれの条件 間でも有意差は見られなかった。これらの結果より,テ ンポ評価では充実時程錯覚のような効果は示されなかっ たと言えよう。 同期タッピング課題(Figure 4c参照)では,刺激タイ プの主効果(F(2, 34)=18.441, p<.001, η2=0.025)とIOI主効果 (F(1.608, 27.337)=7.314, p=.005, η2=0.060),ま た刺激タイプとIOIの交互作用 (F(6, 102)=2.319, p=.039, η2=0.008) が有意であった。刺激タイプの単純主効果は, 500 ms条件を除いたすべての IOI条件で有意であった。 多重比較の結果では,600 ms条件では有意差が得られな かったものの,750 ms条件の充実条件は統制空虚条件 (p<.001, d=1.126)や空虚条件(p=.001, d=1.040)に比 べて,1000 ms条件の充実条件は統制空虚条件に比べて 有意に誤差が小さかった(p=.014, d=0.898)。これらは 充実時程の同期タッピングは,空虚時程に比べて負の非 同期が小さいこと,またIOIが大きいほど,その違いが 顕著になることを示している。また,IOIの単純主効果 はすべての刺激タイプ条件で有意であったが,多重比較 の結果,有意差が認められたのは空虚条件と統制空虚条 件のみであり,IOIが大きい条件ほど同期誤差は負の方向 へ大きくなった (ps<.05)。つまり,先行研究において示

されたように(Fujii et al., 2011; Repp, 2008),特に空虚時 程のペース刺激に同期する場合に,IOIが大きいほど負 の非同期が大きくなることが示された。 主観的1秒と同期誤差の相関 インターバル過小評価 説が正しいと仮定すると,空虚時程の評価が小さい人ほ ど同期誤差が大きくなると予想される。そこで,時間評 価やテンポ評価の個人差と同期タッピング課題の個人差 Figure 3. Results of (a) standard synchronization errors

and (b) standard variabilities on synchronized tapping task in Experiment 2. Error bars indicate standard er-rors. Asterisks indicate significant differences (*p<.05, **p<.01).

(8)

の関係を検討するため,各評価課題の統制空虚条件にお ける主観的1秒と各刺激タイプ条件における標準同期誤 差の相関を求めた。データとしては参加者9名の条件ご との平均値を使用した。その結果,時間評価課題ではす べての刺激タイプ条件で弱い負の相関が認められたが, いずれも有意ではなかった(Figure 5a参照; 統制空虚, r=− .287, p=.455; 空虚,r=− .221, p=.568; 充実,r= −.366, p=.333)。また,テンポ評価課題ではどの刺激タ イプ条件でも相関は認められなかった(Figure 5b参照; 統制空虚,r=− .014, p=.971; 空虚,r=− .079, p=.839; 充実,r=−.009, p=.982)。時間評価とテンポ評価のい ずれにおいても,同期タッピング課題の成績の個人差と の関連は確認できなかったが,上記の分析ではサンプル 数が9名と少ないため,特に時間評価課題との相関につ いては,参加者を増やして再検討する必要があろう。ま た,同期誤差の個人差に影響を及ぼす可能性のある条件 を統制した上で,改めて実験を行う必要がある。同期 タッピングの成績は個人差が大きく,音楽経験との関係 があることも知られているが(Repp, 2010),その他にも 様々な要因があろう。本研究ではそのような同期タッピ ングの個人差と関連をもつと考えられる条件を統制して いなかったため,弱い相関しか認められなかった可能性 がある。 総 合 考 察 本研究では,負の非同期が生じる原因として空虚なIOI が実際より短く知覚されることを仮定したインターバル 過小評価説を検討する上で,以下の2点について検証し た。第1に,IOIが短く知覚される刺激に同期したタッ ピングが,IOIが長く知覚される刺激に同期したタッピ ングと比べて,負の誤差が増加するか否かを検証した。 第2に,ビートに基づいた時間知覚が負の非同期の原因 と関連するか否かを検証した。 持続時間の知覚と負の非同期 1点目の検証のため,実験1において,空虚時程と充 実時程の時間評価を調べたところ,空虚時程よりも充実 時程の方が長く感じられる充実時程錯覚が認められた。 実験2では,実験1と形式を合わせた刺激を用いて同期 タッピングを行った。その結果,空虚時程のタッピング は,充実時程のタッピングに比べて同期誤差が負の方向 に大きくなるという結果が示された。これらの結果か ら,同期タッピングでは知覚されるIOIの持続時間を参 照しながらタップが行われており,ペース刺激のIOIが 短く知覚されることでタップが早くなり負の非同期が大 Figure 4. Results for each stimulus-type condition and

IOI condition on (a) time estimation task, (b) tempo estimation task and (c) synchronized tapping task. Er-ror bars indicate standard erEr-rors.

(9)

きくなると考えられる。

本研究と類似した効果は先行研究でも報告されてい る。Vos, Mates, & Kruysbergen (1995)は,ペース刺激の 刺激音の持続時間が長くなるにつれて,負の非同期が減 少することを示した。また,Hasuo, Nakajima, Osawa, & Fujishima (2012) は,二つの音で示されたインターバルは, 第一音が長くなるほど,持続時間が長く感じられること

を示した。Vos et al. (1995) のIOIは500 msから900 msで あったのに対し,Hasuo et al. (2012) では120 msから360 ms のうち240 ms以上のIOIで効果が現れており,両者の用 いたIOIは重なっていない。しかし,これらの結果は, ペース刺激の知覚された持続時間を参照して同期タッピ ングが行われることを支持すると言えよう。なお,Vos et al. (1995)の実験では,長い刺激音のオフセットが次 の刺激音の合図となって,負の非同期を減少させていた という可能性も考えられるが,本研究の充実条件では, ペース刺激の刺激音のオフセットは次の刺激音のオン セットと重なっていたので,本研究では音のオフセット の影響を排除した上で,空虚時程と充実時程の同期タッ ピングを比較したと言えよう。 また,IOI条件による違いからも,知覚時間の同期誤 差に及ぼす影響が窺える。本研究の同期タッピング課題 では,先行研究と一致して(Fujii et al., 2011; Repp, 2008), 特に空虚時程の条件において,IOIが大きい条件ほど負 の非同期が大きかった(Figure 4c)。他方,時間評価課 題ではIOIが大きい条件ほど持続時間が小さく評価され た(Figure 4a)。すなわち,IOIが大きくなるとIOIの持 続時間が短く知覚され,その結果,負の非同期が大きく なったと考えられる。このこともまた,ペース刺激の知 覚された持続時間を参照して同期タッピングが行われて いることを示唆している。 しかしながら,これらの結果のみでペース刺激のIOI が短く知覚されたことが負の非同期の原因であると結論 するのは時期尚早かも知れない。実験1で示した空虚時 程と充実時程の知覚時間の差はあくまでも条件間での相 対的なものであり,IOIの実時間に対して,その知覚時 間が長かったか短かったかは不明である。そのため,実 験2において充実時程と空虚時程の両方で発生した負の 非同期は,IOIが実際より短く知覚されたために起こっ たのか,IOIが実際より長く知覚されたにもかかわらず 起こったのかを判断することはできない。したがって, 同期タッピングはIOIの知覚時間を参照して行われてい ると考えられるものの,IOIを短く知覚することが負の 非同期の決定的な原因であるとは明言できない。 IOIの大きい条件では,空虚時程は充実時程よりも短 く知覚される傾向があり,タップも早く起こったが,小 さいIOIである500 msの条件では,空虚時程と充実時程 で知覚時間に差があったにもかかわらず,同期誤差につ いては両者で差がなかった。この500 ms条件の結果は, IOIの知覚時間を参照して同期タッピングが行われると いう推測に反するようにも思えるが,この小さいIOIで 生じる知覚時間の差は,実際にタップのタイミングに影 Figure 5. Correlations between estimations for control

empty condition in Experiment 1 and synchronization errors for each stimulus-type condition on synchro-nized tapping task in Experiment 2. The horizontal axis indicates subjective-one-seconds for control emp-ty condition on (a) time estimation task and (b) tempo estimation task in Experiment 1.

(10)

響を与えるほどのものではないとも考えられる。どちら の場合でも,この結果はタップのタイミングに影響する 要素が知覚時間のみではないことを示唆するものと考え られる。先行研究においても,IOIの知覚と関連のないも ので,タップのタイミングに影響を与える要素が複数あ ることが明らかになっている。例えば,タップに使う身 体の部位 (Aschersleben & Prinz, 1995; Wohlschläger & Koch, 2000),タップに対するフィードバック(Aschersleben & Prinz, 1995; Aschersleben, Gehrke, & Prinz, 2001),音楽経験 等の個人差(Repp, 2010)がある。

本研究の結果はWohlschläger & Koch (2000) の提案した 過小評価説を全面的に支持するものではない。彼らは, 動作や音でIOIを分割することで負の非同期が消失する ことを示し,これらの操作は,刺激のIOIを時間的に構 造化し空虚なIOIの持続時間を正確に知覚させることを 助けると考えた。他方,本研究では,ペース刺激を聞く ときに,呈示される音以上に細かく分割してカウントし ないよう,またタップの動きの影響を取り除くために指 先をなるべくキーの表面から離さないように教示したた め,ペース刺激のIOIの構造化は妨げられていたと考え られる。この違いを踏まえると,ペース刺激のIOIを分 割することは,ペース刺激が充実時程であること以上に, 負の非同期の減少に寄与すると考えられる。Wohlschläger & Koch (2000)ではIOIの分割により負の非同期が消え たが,本研究ではどの条件でも負の非同期が起こってい たため,過小評価説に基づけば,分割されたIOIは充実 時程のIOIよりも長く知覚されていたと考えられる。そ うでないとすれば,IOIの持続時間を正確に知覚するこ ととは異なる,タップのタイミングを正確にする働きを 別に考慮する必要がある。この点を検証するためには, IOIの分割がIOIの持続時間の知覚にどのように影響す るかも含めて,IOIの分割と同期タッピングの成績との 関連をもっと詳細に検討する必要があろう。 ビートに基づく時間知覚と同期タッピング 2点目の検証のため,実験1では時間評価に加えてテン ポ評価の課題を行った。その結果,Teki et al. (2011)と 同様,ビートに基づいた時間知覚であるテンポの知覚は 持続時間の知覚とは性質が異なることが示唆された。テ ンポの評価は,刺激が空虚時程か充実時程かの影響を受 けなかった。また,テンポ知覚では,IOIが大きくなる につれてより遅く評価される可能性が示された。しかし ながら,それとは逆に,IOIが大きくなると負の非同期 は大きくなった。このように,テンポの知覚において は,タッピングのタイミングを早めるような影響が示さ れなかったため,負の非同期の原因とは関係がないと考 えられる。 通常,同期タッピングを行う場合,負の非同期のよう に刺激音とタップの間に多少の誤差がある場合でも, ペース刺激とタッピングの同期は破綻しない。これは, ペース刺激とタッピングの位相に多少のずれがあったと しても,それらの周期が一致することに依っていると言 えよう。感覚運動同期は誤差修正によって維持されるが (Repp, 2005),誤差修正には周期修正と位相修正の2種 類あることが知られている。周期修正とはタッピングの テンポそのものを調整することであり,位相修正とは刺 激音とタップの誤差に基づいて次のタップのタイミング を調整することである (Mates, 1994)。実験2ではいずれ の条件においても負の非同期が発生したものの,同期の 破綻はなかった。つまり,実験 2の同期タッピングで は,刺激音とタップの間に誤差はあったが,ペース刺激 とタッピングのテンポは一致していたと考えられる。こ れを踏まえると,ビートに基づいた時間知覚は,負の非 同期の原因との関連よりも,タッピングのペースを維持 すること,すなわち周期修正との関連の方が深いと考え られる。 フィードバックとIOIの知覚 同期タッピングでは,タップと同時に聴覚フィード バックを提示すると,負の非同期が小さくなることが知 られている(Aschersleben & Prinz, 1995)。実験 2 では, いずれの条件でもタップに対して聴覚フィードバックの 呈示はなかった。またヘッドホンによって外部の音が遮 断されていたので,キーボードの打鍵音はほとんど聞こ えなかったはずであるが,わずかに聞こえていた可能性 がある。その場合,充実時程条件では,常に刺激音が 鳴っていたので,打鍵音は空虚時程条件に比べて,マス クされやすかったはずである。そのため,フィードバッ クの効果は充実時程条件の方が小さかったと考えられ る。フィードバックの効果が小さいと誤差は大きくなる ので,フィードバックの効果だけを考えると,充実時程 条件の方が負の非同期が大きくなると予測される。しか し,実験の結果はその逆であり,フィードバック効果が 大きいと考えられる空虚時程条件の方が負の非同期は大 きかった。これらより,実験 2では,タップに対する フィードバックよりも,IOIの知覚時間の方が,タップ のタイミングに強く影響していたと考えられる。 結   論 負の非同期の原因については,これまでいくつもの説

(11)

が提案され検討されてきたが,統一的見解はまだ得られ ていない。本研究では,IOIが短く知覚されることが タップのタイミングを早める可能性を示したが,それが 負の非同期の決定的要因であるとは断定できないこと, また,ビートに基づく時間知覚は負の非同期の原因とは 無関係であるという可能性が示された。しかし,何らか の決定的要因によって負の非同期が起こるのか,それと もIOIを短く知覚するといったタップのタイミングを早 めうる要素がいくつか複合して負の非同期が起こるの か,現時点ではまだわからない。タップのタイミングに 影響する要素は複数報告されているが,負の非同期の原 因を探るためには,それらの要素がどのように相互作用 しているのかを検討していく必要があろう。 引用文献

Aschersleben, G. (2002). Temporal control of movements in sensorimotor synchronization. Brain and Cognition, 48, 66– 79.

Aschersleben, G., Gehrke, J., & Prinz, W. (2001). Tapping with peripheral nerve block. A role for tactile feedback in the timing of movements. Experimental Brain Research, 136, 331–339.

Aschersleben, G., & Prinz, W. (1995). Synchronizing actions with events: The role of sensory information. Perception &

Psychophysics, 57, 305–317.

Dunlap, K. (1910). Reaction to rhythmic stimuli with attempt to synchronize. Psychological Review, 17, 399–416.

Fraisse, P. (1980). Les synchronizations sensori-motrices aux rythmes. In J. Requin (Ed.), Anticipation et Comportement (pp. 233–257). Paris: Centre National de la Recherche Sci-entifique.

Fujii, S., Hirashima, M., Kudo, K., Ohtsuki, T., Nakamura, Y., & Oda, S. (2011). Synchronization error of drum kit playing with a metronome at different tempi by professional drummers.

Music Perception, 28, 491–503.

Hasuo, E., Nakajima, Y., Osawa, S., & Fujishima, H. (2012). Ef-fects of temporal shapes of sound markers on the percep-tion of interonset time intervals. Attenpercep-tion, Perceppercep-tion, &

Psychophysics, 74, 430–445.

Hasuo, E., Nakajima, Y., Tomimatsu, E., Grondin, S., & Ueda, K. (2014). The occurrence of the filled duration illusion: A comparison of the method of adjustment with the method

of magnitude estimation. Acta Psychologica, 147, 111–121. Mates, J. (1994). A model of synchronization of motor acts to

a stimulus sequence. I. Timing and error corrections.

Bio-logical Cybernetics, 70, 463–473.

Paillard, J. (1948). Quelques données psychophysiologiques relatives au déclenchement de la commande motrice. L Année

Psychologique, 47–48, 28–47.

Repp, B. H. (2005). Sensorimotor synchronization: A review of the tapping literature. Psychonomic Bulletin & Review, 12, 969–992.

Repp, B. H. (2008). Metrical subdivision results in subjective slowing of the beat. Music Perception, 26, 19–39.

Repp, B. H. (2010). Sensorimotor synchronization and perception of timing: Effects of music training and task experience.

Human Movement Science, 29, 200–213.

Repp, B. H., & Marcus, R. J. (2010). No sustained sound illusion in rhythmic sequences. Music Perception, 28, 121–134. Repp, B. H., & Su, Y. H. (2013). Sensorimotor synchronization:

A review of recent research (2006–2012). Psychonomic

Bul-letin & Review, 20, 403–452.

Teki, S., Grube, M., & Griffiths, T. D. (2012). A unified model of time perception accounts for duration-based and beat- based timing mechanisms. Frontiers in Integrative

Neurosci-ence, 5, 90.

Teki, S., Grube, M., Kumar, S., & Griffiths, T. D. (2011). Distinct neural substrates of duration-based and beat-based auditory timing. Journal of Neuroscience, 31, 3805–3812.

Vos, P. G., Mates, J., & van Kruysbergen, N. W. (1995). The perceptual centre of a stimulus as the cue for synchronization to a metronome: Evidence from asynchronies. The Quarterly

Journal of Experimental Psychology, 48A, 1024–1040.

Wearden, J. H., Norton, R., Martin, S., & Montford-Bebb, O. (2007). Internal clock processes and the filled-duration illu-sion. Journal of Experimental Psychology: Human Perception

and Performance, 33, 716–729.

Wohlschläger, A., & Koch, R. (2000). Synchronization error: An error in time perception. In P. Desain, & L. Windsor (Eds.), Rhythm perception and production (pp. 115–127). Lisse, The Netherlands: Swets & Zeitlinger.

Yang, J., Ouyang, F., Holm, L., Huang, Y., Gan, L., Zhou, L., . . . Wu, X. (2018). Tapping ahead of time: Its association with timing variability. Psychological Research, 1–9. https://doi. org/10.1007/s00426-018-1043-2

Figure 1. Examples of stimuli for each stimulus-type  condition on (a) time estimation task and (b) tempo  estimation task

参照

関連したドキュメント

Keywords: nonparametric regression; α-mixing dependence; adaptive estima- tion; wavelet methods; rates of convergence.. Classification:

Let X be a smooth projective variety defined over an algebraically closed field k of positive characteristic.. By our assumption the image of f contains

It is suggested by our method that most of the quadratic algebras for all St¨ ackel equivalence classes of 3D second order quantum superintegrable systems on conformally flat

In particular, we show that the q-heat polynomials and the q-associated functions are closely related to the discrete q-Hermite I polynomials and the discrete q-Hermite II

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

The technique involves es- timating the flow variogram for ‘short’ time intervals and then estimating the flow mean of a particular product characteristic over a given time using

It is evident from the results that all the measures of association considered in this study and their test procedures provide almost similar results, but the generalized linear

We study the classical invariant theory of the B´ ezoutiant R(A, B) of a pair of binary forms A, B.. We also describe a ‘generic reduc- tion formula’ which recovers B from R(A, B)