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新生児清潔ケアの実態とケア選択の探索

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 29, No. 2, 240-250, 2015

*1東京慈恵会医科大学医学部看護学科(The Jikei University School of Nursing)

*2前東京慈恵会医科大学医学部看護学科(Formerly The Jikei University School of Nursing)

2014年3月25日受付 2015年6月28日採用

原  著

新生児清潔ケアの実態とケア選択の探索

—混合研究法を用いて—

Fact-finding survey of the infant cleaning care

and explore of the selection of care in Japan

—A mixed method approach—

細 坂 泰 子(Yasuko HOSOSAKA)

*1

茅 島 江 子(Kimiko KAYASHIMA)

*1

抜 田 博 子(Hiroko NUKITA)

*2 抄  録 目 的  全国産科施設における新生児清潔ケアの実態と,助産師の新生児清潔ケアに対する思いやケアを実践 することの助産師なりの意味づけを混合研究法により明らかにすることである。 対象と方法  混合研究法の説明的デザインを用いた。量的データは確率比率抽出法に従い全国の産科施設256施設 から自記式質問紙を回収した。項目は属性,日数別の清潔ケア,ケア実施時間等とし,Pearsonの相関 係数,多重ロジスティック回帰分析で清潔ケアの関連要因の分析を行った。質的調査は,新生児清潔ケ アを実践している助産師5名を対象に半構造化面接を実施し,逐語録から質的・帰納的に分析した。 結 果  全国横断調査結果では出産当日はドライテクニック(65.3%)が,生後1日目以降は沐浴(67.9∼ 92.2%)がもっとも多かった。沐浴は9.7分,ドライテクニックは0.8分の所要時間が必要で,沐浴に多 くの業務時間が必要であることが示された。多重ロジスティック回帰分析では関東地区は近畿地区に対 して2.1倍(p<0.05),看護師数と助産師数の増加でどちらも1.1倍(p<0.05,p<0.01),ドライテクニ ックを選択する確率を高めた。  質的調査から 新生児を中心に考えた清潔ケア , 親を中心に考えた清潔ケア , 医療者の負担を考 えた清潔ケア , ゆらぐ新生児清潔ケア の4つのカテゴリーが抽出された。 結 論  混合研究法の結果から,清潔ケアの決定には看護師数と助産師数および地区が関連することが明らか となった。助産師は新生児の負担や汚れなどのアセスメントから清潔ケアを決定しつつ,新生児と親を 意識して新生児と関わっていた。清潔ケアは沐浴の時間的負担や現在までの習慣や文化,施設の規定に よっても決定されていたが,実際にケアにあたる助産師の思いは,沐浴かドライテクニックかの選択で

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ゆらいでいることが示唆された。

キーワード:新生児清潔ケア,沐浴,ドライテクニック,混合研究法,助産師のディレンマ

Abstract Purpose

The purpose of this study is fact-finding survey of the infant cleaning care and elucidate midwives thought and practice of early infant cleaning care by mixed methods research. The quantitative data are to elucidate on trends in the selection of early infant cleaning care by obstetrics facilities across Japan, as well as to elucidate on the selection of cleaning care by qualitatively extracting the opinions of midwives on cleaning care, such as their ideology, diffi-culties, as well as the background of these social factors.

Methods

An explanatory mixed-methods design was used. Quantitative data was sent to obstetrics facilities across Japan for self-administered questionnaires to be sampled with probability proportionate to size. Correlated factor analysis of cleaning care was implemented using logistic regression analysis and a chi-square test for items such as attri-butes, cleaning care based on number of days, care implementation time, and so on. In the qualitative survey, semi-structured interviews were conducted for five midwives practicing infant cleaning care and the verbatim records were used to conduct qualitative and inductive analyses.

Results

Responses were collected from 256 institutions in the nation-wide cross-sectional survey. Most respondents opted for a dry technique (65.3%) for cleaning on the day of delivery, and for bathing (67.9~92.2%) from one day af-ter delivery. A bathing needed more time than a dry technique. In logistic regression analysis, Kanto area (p<0.05; OR= 2.1) and each number of nurse and midwives (p<0.05, p<0.01; OR=1.1, 1.1) increased significantly associated with a dry technique choice. As for infant cleaning care of the qualitative survey were showed four categories. Four categories were extracted, namely, "infant-centered cleaning care," "parents-centered cleaning care," "cleaning care in consideration of medical personnel's burden," and "switching between the two infant cleaning techniques." Conclusion

The infant cleaning care selection had contributed to the number of nurses, midwives, and area with facilities. The midwife was performing the infant cleaning care for the infant's assessment to top priority. The bathing or the dry technique are defined by the facility cleaning care of current, time load, and the culture of Japan. So midwife was wavering in care selection.

Key Words: Neonatal skin care, Bathing, Dry technique, Mixed Methods, Midwifery dilemma

Ⅰ.緒   言

 日本における分娩直後の清潔ケアは,古来より産湯 につける方法をとってきた。これは新生児を早く保温 するのに適していること,日本の文化的思想である 「血=穢(けが)れる」ことから浄化させるなどの点か ら脈々と継承されてきた,分娩直後の新生児への清潔 ケアであった。一方で,過去40年ほどの間に欧米を 中心に,沐浴が分娩直後の新生児の子宮外生活への適 応の妨げになる可能性,また早期接触を一時的に中断 する可能性があるとして,その是非を問う論文が相次 いで投稿された。このことをきっかけとして,日本で も入院中の沐浴を中止する施設が増加してきた。早期 新生児期の沐浴の是非を問う論文は,分娩直後と生後 4∼6時間の沐浴では,腋下体温に有意差なし(Behring, Vezeau, Fink, 2003, p.43-44)や,早期新生児の低体温 に沐浴の有無は有意差なし(Ogunlesi, Ogunfowora, Ogundeyi, 2009, p.182),新生児の子宮外適応に正期 産児では影響なし(Nako, Harigaya, Tomomasa, et al., 2000, pp.519-520)などがあり,成熟児であれば分娩直 後の沐浴を行っても,子宮外適応が阻害されないこと が示されている。一方で出生直後の母子分離が長期に 母子相互作用を阻害するとの報告(Bystrova,Ivanova, Edhborg, et al., 2009, pp.104-105)もあり,結論として 新生児の状態や分娩状況,環境に応じて沐浴を実施す る,しないことが推奨され,確固たる結論は出ていな い。また日本における清潔ケアの実態は論文となって おらず,各施設でどのような清潔ケアを行っているか 明らかになっていない。  新生児清潔ケアの研究は多くが実験研究として実施 されており,質的手法はほとんど使用されていない。 古来より行われている沐浴が慣習的に行われているの

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か,清潔保持の目的を持って行われているのか,とい った基本的な質問にも系統立てた先行研究は見つから ない。上記の実験的な先行研究が示すように,成熟児 であればどちらの清潔ケアを選択しても子宮外適応は 阻害しない。それにも関わらず,首都圏を中心にドラ イテクニックを採用する産科施設が増加しているのは どのような理念や意図があるのか,それらの利点は何 なのか明らかになっていない。これらの答えを得る可 能性のある研究手法として,1つの研究または順次的 な研究群での量的かつ質的データを集め,分析し,混 合する混合研究法がある。混合研究法では量的・質的 アプローチをともに用いる方が,どちらか一方だけを 用いるよりも更なる研究課題の理解を生む(Creswell & Plano Clark, 2007/2011, pp.5-6)といった中心的前提 が提唱されている。混合研究法は1950年代にはじま った形成期,パラダイム議論期,手順的発展期を経 て,2000年代からは公的な研究助成や多岐にわたる専 門分野,多くの学会や学術誌で用いられてきている。 我々は量的調査の結果に加えて,実施する側である助 産師の質的データで結果を強化するために混合研究法 を用いた。  本研究では全国的な清潔ケアの実施傾向と同様に, ケアを実施する助産師に焦点を当てて清潔ケアに対す る理念,実行可能性,助産師なりの意味づけを探究す ることに関心がある。量的データは全国の分娩設備を 持つ産科施設から,都道府県別の出生数に比した確率 比率抽出法によって,質的データは現在,新生児清潔 ケアを実践している助産師から集められた。

Ⅱ.研究目的

 全国産科施設における新生児清潔ケアの実態と,助 産師の新生児清潔ケアに対する思いやケアを実践する ことの助産師なりの意味づけを混合研究法により明ら かにすることである。

Ⅲ.用語の定義

沐浴(新生児沐浴):沐浴槽内で温湯を用いて新生児 の身体を洗うこと(日本看護科学学会 看護行為用 語の定義より一部改変) ドライテクニック:出生時に付着している血液を拭い 去り,胎脂はできるだけ取り除かずそのままにして おく方法(鈴木・中村, 2011, p.81)

Ⅳ.研究デザイン

 混合研究法 説明的デザイン  混合研究法には大きく①トライアンギュレーション デザイン,②埋め込みデザイン,③説明的デザイン, ④探究的デザインの4つのデザインがある (Creswell & Plano Clark, 2007/2011, pp.66-95)。本研究のねらい は,全国的な新生児清潔ケアの横断調査結果を,その 背景にある施設理念や助産師の思い,社会的な要因に よってさらに深く探究することにある。そのため量的 データの収集と分析によって次の質的フェーズを作る, ダブルフェーズの説明的デザインを採用し,全国調査 によるデータを最初に収集,分析した。それらの傾向 を把握したうえで,新生児清潔ケアに携わる助産師に インタビューを行い,産科施設での慣習や理念,ケア 実践の新生児と医療者双方の負担が助産師の思いや意 味づけにどう影響するかについて探究し,総合的に分 析した。

Ⅴ.研究方法

1.全国横断調査 1 ) 研究対象者と調査期間  現在の産科施設における清潔ケア状況の実態を調査 するため,WAM-NET (http://www.wam.go.jp/)を参 照し,診療科目を産科,産婦人科,病院として検索し たところ,対象が1555件となった。さらに都道府県 別の出生数に比した確率比率抽出法によって配布施設 を決定し,500の産科施設を対象とした。これによっ て対象者の妥当性を確保した。調査期間は平成24年7 月20日から10月31日であった。 2 ) 調査内容  調査内容は産後日数別の新生児の清潔方法,清潔ケ アに要する時間,臍消毒の有無,褥婦が沐浴を実際に 行うかどうか,皮膚トラブルの有無,清潔ケアを選択 した理由,褥婦からの意見,母児同室・異室の別,新 生児室での預かり時間,年間分娩件数,看護師・助産 師数とした。データの信頼性を確保するために,清潔 ケアは感染症がなく,正常分娩で出産した新生児を想 定して回答してもらった。 3 ) データ収集方法  質問紙の配布は産科病棟の師長宛てとし,回答を依 頼した。返送する際の手間とコストを考慮して,郵便 葉書に書き込めるようにした。施設は全国を8分割し

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た,地区のみが特定できるようにあらかじめ印刷した 質問紙を用いて匿名で実施したが,記入内容が人目に 触れるのを避けるために依頼文書の中に目隠しラベル を入れ,返送時には記入部分をすべて覆えるように配 慮した。 4 ) 分析方法   分 析 は 臍 消 毒 の 回 数 と 臍 ト ラ ブ ル と の 関 係 を Pearsonの相関係数で検定した。また清潔ケア選択要 因を探索するために,入院中に沐浴を行う回数が2回 以下と回答した施設をドライ群,3回以上行う施設を 沐浴群として従属変数に,産科施設の地区(参照カテ ゴリを近畿地区としたダミー変数化),母児同室の有 無,年間分娩件数,助産師一人あたりの分娩件数,看 護師数,助産師数を独立変数として,多重ロジステ ィック回帰分析を行った。統計的な分析にはSPSS  20.0Jを使用し,有意水準は5%水準とした。 2.質的調査 1 ) 研究対象者と調査期間  産科施設に勤務する助産師を対象に,新生児清潔ケ アに対する思いやケア実践における意味づけを把握し, 幅広い情報を引き出すことを目的として行った。研究 対象者は産科施設で1年以上の経験があること,日々 の業務の中で新生児の清潔ケアに従事している助産 師とし,5名を対象とした。対象は雪だるま法を用い, 研究について説明したうえで自主的に立候補していた だいて対象とした。調査期間は平成24年10月18日か ら平成25年3月13日であった。 2 ) データ収集方法  インタビューは半構造化面接で行った。インタビ ューの項目は,現在選択している清潔ケアに対する産 科施設や助産師の理念,清潔ケア別の助産師から見た 実現可能性や困難さ,助産師の清潔ケアへの取り組み とした。面接内容は,対象に同意を得たうえでICレ コーダーに録音し,面接後速やかに逐語録を作成した。 また研究者はインタビューの最中にフィールドノート を作成し,対象者の非言語的な反応や観察事項を記録 して分析上の参考データとした。インタビューはプラ イバシーが保護されること,静かな環境であることに 配慮して設定した。インタビューは1~ 2時間程度を原 則1回行い,充分に話せたかどうかを確認した後に終 了した。 3 ) 分析方法  録音および筆記した面接内容から逐語記録を作成し た。逐語記録を精読し,新生児の清潔ケアに付随する 新生児の状態や母親の言動,助産師のケア内容や清潔 に対する理念や思い,医療者の負担について語られ た部分を,文脈に留意しながら関連する内容を抽出し, 対象者の心理とケア行動についての意味内容を忠実に 残すよう整理し,コード化した。コード間のまとまり をカテゴリー化し,全対象者のカテゴリーを類似と差 異の視点で比較検討し,類似しているカテゴリーごと に集め,サブカテゴリー,カテゴリーへと体系化した。 分析の過程では常にデータと照らし合わせながら進め た。質的データは信頼性と妥当性を得るために,質的 研究法について経験のある研究者のスーパーバイズを 受けながら進めた。また臨床における新生児清潔ケア の経験がある助産師に同様に助言を受けた。さらに可 能な限り,対象者に面接後に面接内容やデータの解釈 について誤りがないかを確認し,分析内容の信頼性・ 妥当性を確保するように努めた。 3.倫理的配慮  本研究は,東京慈恵会医科大学倫理委員会による審 査を受け,承認された(承認番号6836)。研究対象者 には,研究の趣旨,研究協力の意思選択の権利,途中 辞退の自由,プライバシーの確保,結果公表の予定等 について,全国横断調査の対象者には文書で説明し, 返送をもって同意を得られたとした。面接対象者には 文書と口頭で説明し,文書で同意を得た。面接は対象 者の勤務先や通いやすい場所,時間を取りやすい日時 を設定して実施し,対象者に負担がかからないように 配慮した。なお本研究に利益相反はない。

Ⅵ.結   果

1.産科施設における新生児清潔ケアの特徴  全国500の産科施設に郵送された調査票のうち,256 施設から返送があり,宛先不明で戻ってきたものが 10施設あった。回収率は52.2%であった。 1 ) 回答施設の属性  回答した256施設の属性は表1に示した。回収した 質問紙の地域別割合は,全国出生数に対する各地区の 出生割合と近似(84∼130%)であり,各出生数に比し た回答が得られた。年間分娩件数は半数以上が101∼ 500件までの中規模な産科施設であり,施設によるば らつきもあった。各産科施設の産科病棟で働く人数は 看護師より助産師の方が多く,年間分娩件数が500件

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を超えると助産師数が正の比例関係を示したが,看護 師数は関連がなかった。褥婦の入院形態は,母児同室 を採用している施設がもっとも多く,新生児室での平 均預かり時間は1.9時間と短かった。母児異室を採用 している施設の平均預かり時間は22.4時間で,母児同 室と母児異室の差は20時間以上となった。 2 ) 新生児の生後日数別清潔方法と費やした時間  新生児の生後日数別の清潔方法およびケア別の所要 時間について図1,表1に示した。出産当日はドライ テクニックが,生後1日目以降は沐浴がもっとも多い 清潔ケア方法であった。ケア別の平均所要時間はドラ イテクニックが0.8分,清拭が6.2分,沐浴では9.7分 であり,ドライテクニックでは所要時間が少ない時間 的有利が示された。 3 ) 新生児の臍消毒の有無と臍トラブル  新生児の臍消毒は分娩当日がもっとも多く,その 後も8割以上の施設が行っていたが,入院中に一度も 臍消毒を行わない施設も6.8%存在した。産科施設で の1か月間の臍トラブルの回数は0.4件であり,83%の 施設は1か月間における臍トラブルを0件と回答した。 その一方で12.5件および30件と回答した施設も存在し たが,臍消毒はどちらも毎日実施していた。臍消毒を 入院期間中に3日以上実施する群を臍消毒あり群,臍 消毒を2日以下実施する群を臍消毒なし群として,臍 トラブルとの関係をPearsonの相関係数で検定したが 関連はなく(r=0.09, p=0.17),臍消毒の回数と臍トラ ブルとの関連は見られなかった。 4 )褥婦が沐浴を実施する割合  褥婦が沐浴を実施する割合は産後日数によって差 があった。産後3日目以降から増加し,産後4日目に は3割弱の施設で褥婦が沐浴を行っていたが,入院期 間中に褥婦が一度も沐浴を実施しない施設も138施設 (54.3%)存在した。 5 ) 新生児清潔ケア選択と属性との関連  施設の属性と清潔ケア選択に関連する要因を明らか 表1 対象産科施設の特徴 n=256 n % 平均 SD 参加施設率(%)a 地域  北海道 10 3.9 102.3  東北 16 6.3 95.5  関東 75 29.3 88.5  中部 59 23.0 121.7  近畿 40 15.6 95.1  中国 19 7.4 123.3  四国 10 3.9 130.0  九州 27 10.5 84.0 年間分娩数(件) 530.8 371.3  1∼100件 14 5.5  101∼500件 137 53.7  501∼1000件 81 31.7  1001∼1501件 19 7.5  1501件以上 4 1.6 産科病棟看護師数(名) 8.4 7.0 産科病棟助産師数(名) 18.6 12.6 褥婦の入院形態  母児同室 190 76.3   新生児室での預かり時間(h) 1.9 2.4  日中母児同室 夜間母児異室 19 7.6   新生児室での預かり時間(h) 10.5 4.0  母児異室 40 16.1   新生児室での預かり時間(h) 22.4 3.3 清潔ケア方法別の所要時間(m)  ドライテクニック 0.8 0.5  清拭 6.2 0.7  沐浴 9.7 0.7 臍消毒実施施設  分娩当日 218 86.5  生後1日目 204 81.9  生後2日目 201 80.7  生後3日目 201 80.7  退院日 198 81.1 褥婦が沐浴を実施b  分娩当日 1 0.4  生後1日目 6 2.4  生後2日目 14 5.5  生後3日目 38 15.0  生後4日目 73 29.7  退院日 41 16.1 褥人が入院中に一度も沐浴 を実施しない施設 138 54.3 a:各地区の出生率から検出された確率比率抽出に基づく本研究 の参加施設率=(各地区の本研究参加施設数/本研究の全参加 施設数n=256)/(各地区のH21年度合計出生数/H21年度 全国合計出生数) b:褥婦が沐浴を実施/実施+実施しないの回答総数 図1 各施設における産後日数別の清潔方法

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にするために,多重ロジスティック回帰分析を行っ た(表2)。投入した独立変数のうち,母児同室の有無, 年間分娩件数,助産師一人あたりの分娩件数は有意で なく,清潔ケアの選択に関与しないことが示された。 一方,関東地区は近畿地区に対して2.1倍(p<0.05), 看護師数,助産師数はそれぞれ1.1倍(p<0.05, p<0.01) 有意にドライテクニックを選択することが明らかにな った。 2.産科施設に従事する助産師の新生児清潔ケアに対 する思いと背景状況 1 ) 対象者の概要  対象者の平均助産師経験年数は10.29年(SD=4.09; range=2∼11)であり,それぞれの勤務する産科施設 の平均年間分娩件数は780件(SD=469.8; range=300∼ 1500)であった。全員が関東地区の産科施設に勤務す る助産師だった。それぞれの施設の現在の清潔ケア方 法は,産後1日目から沐浴を退院日まで行う施設が2 施設,産後1∼3日までドライテクニックを行い,4日 目に沐浴を行って,5日目に清潔ケアなしで退院する 施設が2施設,産後1,2日目はドライテクニックを行い, 3日目に母親が沐浴を行って,その後はドライテクニ ックで沐浴しない施設が1施設であった。 2 ) インタビューで得られたデータの分析結果  データを質的に分析した結果,245のコードがあり, その意味内容の同質性,異質性を検討した結果,13の サブカテゴリー,4カテゴリーが抽出された。【 】はカ テゴリー,『 』はサブカテゴリー,[ ]はコード,「 」 は語りの内容を示す。カテゴリーは【新生児を中心に 考えた清潔ケア】,【親を中心に考えた清潔ケア】,【医 療者の負担を考えた清潔ケア】,【ゆらぐ新生児清潔ケ ア】であった。各カテゴリーを構成する内容を表3に 示した。 ①新生児を中心に考えた清潔ケア  新生児清潔ケアの選択は,「負担が少なくて,赤ち ゃんが過ごしやすいというか」といった[新生児の負 担が最優先事項]であり,清潔保持や感染に関しては それほど優先されていなかった。また,施設ごとに清 表2 新生児清潔ケアを選択する属性と清潔ケアab方法の多重 ロジスティック回帰分析結果 OR 95%信頼区間 p 下限 上限 地域  北海道 2.4 0.46 12.40 0.296  東北 0.8 0.17 3.92 0.799  関東 2.1* 1.09 4.20 0.028  中部 0.8 0.28 2.29 0.686  近畿 1.0  中国 0.6 0.10 3.17 0.525  四国 0.5 0.06 4.93 0.569  九州 0.2 0.02 1.28 0.085 母児同室の有無 0.9 0.42 2.03 0.838 年間分娩件数 1.0 1.00 1.00 0.456 助産師一人あたりの分娩件数 1.0 0.97 1.02 0.822 看護師数 1.1* 1.01 1.11 0.013 助産師数 1.1** 1.05 1.12 0.000 a:沐浴群N=224 入院中に沐浴を2回以上実施した施設 b:ドライ群N=31 入院中に沐浴を1回以下のみ実施した施設 **:p<0.01,*:p<0.05 表3 助産師の新生児清潔ケアに対する思いと背景状況 カテゴリー サブカテゴリー コード数 Ⅰ【新生児を中心に考えた清潔ケア】 『新生児に応じた清潔ケアの選択』 『清潔保持には効果的だが体温低下や体力消耗の問題を抱える沐浴』 『ドライテクニックに移行した後も感染やトラブルが変わらない実感』 『異常の早期発見の遅れや匂いへの懸念』 48 Ⅱ【親を中心に考えた清潔ケア】 『母親や父親のモデルとなりえる日々の清潔ケア』『母子の時間を増やすドライテクニック』 24 Ⅲ【医療者の負担を考えた清潔ケア】『医療者をぐったりさせる沐浴の業務負担』『医療者の時間を生むドライテクニック』 『多忙であるがゆえに意識しないと母子と関われない現実』 27 Ⅳ【ゆらぐ新生児清潔ケア】 『習慣や文化の中で根付く沐浴』 『働く病院の規定に左右される清潔ケア』 『施設の意向におおむね従順な母親』 『他施設の動向や先行研究が持つ決定権の重さ』 27

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潔ケアのマニュアルはあるものの,「明らかに汚れて いるとか皮膚症状が出ているとかがあったら,たと え1日目であろうともお風呂に入れるケースもあるの で。どんな清潔ケアをこの児が求めているのかってい うところを考えて」と,必ずしも清潔ケアを厳密に決 めているわけではなく臨機応変に『新生児に応じた清 潔ケアの選択』が実施されていた。『清潔保持には効果 的だが体温低下や体力消耗の問題を抱える沐浴』では, 洗い流すことで清潔を保てるために[感染症を持つ新 生児は沐浴が最優先]であり,[愛着やスキンシップの 形成]など沐浴のメリットが挙げられる一方で,「自分 なりにアセスメントしたうえでお風呂に入れても,や っぱり低体温になることが何例か続いてしまったんで すね。10人産まれれば10人とも違う経過をたどる中で, 低体温を起こす沐浴ってそんなにいいのかなって」と 沐浴による新生児の体調変化をとらえていた。ドライ テクニックに関しては「臍とか感染をおこしてってこ とも聞かないので」と『ドライテクニックに移行した 後も感染やトラブルが変わらない実感』を助産師は持 っていた。一方で「全身を裸で見るっていう機会とし ては減るので,隠れた皮膚トラブルとかの発見が遅れ るかもしれない」や,「やっぱりおへそがなんか膿んで るとか,不潔になってきたりしてる子はそこから臭っ たりとか」と,ドライテクニックに対する『異常の早 期発見の遅れや匂いへの懸念』が抽出された。 ②親を中心に考えた清潔ケア  『母親や父親のモデルとなりえる日々の清潔ケア』 では,「この児を私たちもお母さんと同じくらい大事 にしたいと思ってるんだよっていうところが伝わるよ うなケアができればいいなっていつも思っているので, そういう大事な児として扱いたいので汚れっぱなしは どうかなって」といった [助産師の新生児への関わり が母親にとってのモデルにもなる], [沐浴に参加させ ることで父親役割を意識づける]など,清潔ケアを通 して母親や父親の親役割を助長させる意識があった。 『母子の時間を増やすドライテクニック』では,「(ドラ イテクニックだと)すぐにお部屋に返すことができる し」や,「預かっている時間が少ないから,一緒にいる 時間が増えるんじゃないかなと思うんですよね」と母 児同室時間が長くなるメリットが語られた。 ③医療者の負担を考えた清潔ケア  『医療者をぐったりさせる沐浴の業務負担』につい ては,「沐浴を全員に行う場合,かなりの時間を割か ないといけなくなって,ケアをするという感覚より業 務をするっていう感覚になってしまうと思うので。そ うなると流れ作業的に子どもを可愛いと思いながらや れないと思う気がするんです」と[沐浴の負担感]や[沐 浴をしないことが子どもの安全を守る清潔ケアにな る]といった考えも語られた。ドライテクニックのメ リットについては,対象の1名を除いた全員が「時間 的にも気持ち的にも多分,余裕があるかな」や「十何 人お風呂っていうと,ほんとにちょっとぐったりしち ゃうんで」,「スタッフの時間が増えることで,お母さ んたちも充分に指導の時間を取ってもらえるというこ とですよね」と発言があり,ドライテクニックによる 助産師の時間的負担の減少や精神的な余裕を意味する 『医療者の時間を生むドライテクニック』について語 られた。一方で『多忙であるがゆえに意識しないと母 子と関われない現実』では,「赤ちゃんと関わる事って 意図しないと関われない」ために沐浴がゆっくりと新 生児に関われる貴重な時間であることも語られ,多忙 な医療者としてのジレンマが示された。 ④ゆらぐ新生児清潔ケア  新生児の清潔ケアについては,従来の沐浴と近年増 えてきたドライテクニックが二分している。沐浴に関 しては,「お風呂に入れるのが当たり前っていう感じ でやっているので。価値とかそういうことをあまり考 えてはやっていないかな」や「(沐浴は)習慣的にって いうのがあるのかなあ」と,『習慣や文化の中で根付く 沐浴』が現在も続いていた。また産科施設で働く助産 師からは,「施設の規範というのも,スタッフ一人一 人の助産観だったり看護観だったりっていうのが集ま って,それが反映してつくられるものが本来だと思 うので。だからあんまりそのルールに逆らう気がない。 違和感がないっていうところだと思います」と『働く 病院の規定に左右される清潔ケア』が挙げられた。ま た『施設の意向におおむね従順な母親』では「(沐浴は) 体力使っちゃったりとかっていう理由があるので,当 院では入院中に一回だけですというとみなさん納得さ れます」と出産した施設の清潔ケアに意見を表出する 母親はほとんどいないと助産師は考えていた。しかし [母親から毎日入らなくてもいいのか聞かれる]など, 遠回しにドライテクニックに対する疑問があるそぶり を母親が見せるときは母親の希望したケアを行うなど, 施設のマニュアルよりも母親の意向に沿ったケア選択 がなされていた。一方で「同じ系列の施設がドライテ クニックを取り入れてるっていう状況で,導入しても いいんじゃないかというような感じで」や「ドライテ

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クニックの方がいいんじゃないかっていう先行研究と かも結構出てるっていうところと」など,『他施設の動 向や先行研究が持つ決定権の重さ』も明らかになった。

Ⅶ.考   察

 今回対象となった256の産科施設は,各地域におけ る出生数の割合(厚生労働省 平成21年人口動態統計) に近似しており,日本における産科施設の代表性は確 保された。また本研究は既知の研究では得られなかっ た,助産師の新生児清潔ケアに対する思いやケアを実 践することの助産師なりの意味づけを明らかにするた めに,新生児の清潔ケアに対して質的にインタビュー を行った。データは量的デザイン結果に質的構成要素 で説明を強化する必要があると考えられたため,混合 研究法の説明的デザインで実施した。このことでデー タの信憑性が高くなることを担保できたと考えられる。  研究の第1フェーズで,全国の産科施設における清 潔ケアの実態を把握した。2012年時点での新生児清潔 ケアは,分娩当日には沐浴を行わない施設が多かっ たが,産後1日目以降は沐浴を実施する施設が67.9∼ 92.2%と大多数を占めていた。2004年にドライテクニ ックの有用性(貴家・一瀬・坂上他, 2004, p57.)が発 表されて以来,ドライテクニックという用語も一般的 となり,先駆的な施設ではそれらを取り入れてきた傾 向が伺われたが,現時点での日本の新生児清潔ケアは 入院中に沐浴を日常的に行う施設が多数を占めている ことが示された。また地域と看護師数,助産師数がド ライテクニックの選択に寄与していたことが明らかに なった。地域では関東地区で有意にドライテクニック を選択していた。本研究結果では地区による属性の差 はなかったが,関東地区は総合周産期母子センターの 保有が各地域の中で最も高く(日本産婦人科医会 平 成26年),他地区と比べて先進的な取り組みが高いと 考えられることからこのような結果になったと推測で きた。看護師と助産師はいずれも1.1倍という低いオ ッズ比ではあったものの,数が増えることで有意にド ライテクニックを選択することが明らかになった。新 生児ケアに熟知した助産師が多く存在することで新生 児に積極的に接する機会を得る沐浴が増加する可能 性や,看護師が多い病棟では産科のみならず婦人科の 患者を抱えることも多いことから,結果的に時間的有 利なドライテクニックを採用する可能性が考えられた。 沐浴とドライテクニックの優位性については複数の論 文が出ているが,ドライテクニック導入後の施設内で の評価であることが多く,適切な研究デザインで結 果が出されているものは非常に少ない。客観的なデー タを扱ったと考えられる先行研究では,前述した他 に体重減少の有意差なし(松村・加藤・山田他, 2002, p.606),体温変動,体重減少に有意差はなく,ドライ テクニックでは細菌コロニー発生,臍周囲発赤,皮膚 発疹において有意に差がある (志賀・阿部・伊藤他, 2009, pp.3-5)といった結果が出ており,むしろ沐浴に 優位性が表れている。一方で沐浴にかかる所要時間に 比べてドライテクニックは平均0.8分と非常に短かっ たことから,小林ら(小林・石川・熊谷他, 2011, p.27) の指摘するように,時間短縮によって質・量的な業務 の削減に有効とした結果を本研究は追随している。  量的データの結果から地区と看護師・助産師数は清 潔ケア選択に寄与したが,施設の忙しさを示す助産師 一人あたりの分娩件数は有意でなく,施設での清潔ケ アの選択理由について考察するには限界があった。そ のため第2フェーズでの質的データを加味して分析を 進めた。助産師の質的データ群を用いた分析によって, 4つのカテゴリーが明らかにされた。ここでは研究目 的にしたがい,4つのカテゴリーを基に助産師が臨床 で行っている新生児清潔ケアに対する思いとケア実践 の助産師なりの意味づけを考察する。 1.助産師の新生児清潔ケアに対する思い  カテゴリ【Ⅰ】,【Ⅱ】は,助産師が『新生児に応じた 清潔ケアの選択』をしつつ,そのケアが『母親や父親 のモデルになりえる日々の清潔ケア』と認識しながら ケアを実施していることを示していた。看護師が行う 成人対象の清潔ケアのアセスメントの特徴として,患 者の状態,ケアに関する情報,看護師の経験を根拠に アセスメントし,ケアを決定していることが明らかに なっている(一色・松山, 2009, p.34)。本研究でも同様 に新生児の身体的条件,負担,身体の汚染状況をアセ スメントし,適切なケア方法を決定しており,対象は 異なっても結果はほぼ一致していた。  以上のことから助産師は制限のある勤務時間の中で, 新生児の負担や汚れ,代謝などのアセスメントから清 潔ケアを決定しつつ,ケア実施が母親や父親のモデル となるように新生児を尊い存在であると示しながら, 新生児と親を意識して新生児と関わっているという特 徴が示唆された。

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2.新生児清潔ケア実践の助産師なりの意味づけ  カテゴリ【Ⅲ】,【Ⅳ】ではケア実践の意味づけとして 前述した新生児や親への思いをベースに,医療者の時 間的・精神的負担,習慣や病院の規定,母親の意向, 他施設の動向などに影響されつつケア決定にゆらぎな がら実践を行っていることを示していた。助産師は妊 娠・分娩・産褥に関わる全ての看護ケアや保健指導を 短期間に実施する能力が問われる。今回対象となった 中堅クラスの助産師は通常の助産・看護ケアの他に管 理的な仕事も含まれており,通常業務以外にそれらの 仕事が積み重なる。看護師は,看護師を取り巻く環境 を根拠とした清潔ケア方法の決定がなされている(一 色・松山, 2009, p.33)が,本研究でも沐浴のメリット は認めたうえで,両者の業務量の差について医療者の 負担が語られた。ケア決定を考える際に看護師を取り 巻く環境についても加味することが,結果的に新生児 の安全や健康を守る事にもつながると考えられる。ま た連絡・事務業務の多さが専門職としての看護師の不 満を招き,忙しさを構成する (山本・武田・高橋他, 2001, p.169)ことから,沐浴ではなく連絡・事務業務 を減らすことが,医療者の負担を減らす可能性もある と考えられた。また業務量は時間に有意差があること が明らかになっている(伊原・河野, 2010, p.43)。沐浴 は午前中に行われることが多く,その時間帯のみの看 護師補充によっても,負担が軽減される可能性がある。 一方,新生児の清潔ケアの中で,ドライテクニックの 方が新生児の負担が少ないもしくは変わらないといっ たカテゴリーも抽出された。信頼性にはやや欠けるも のの,ドライテクニックを導入した施設では体重減少 率が有意に少ない(小林・石川・熊谷他, 2011, p.26; 鈴 木・中村, 2011, p.82),臍脱率が有意に高い(小林・ 石川・熊谷他, 2011, p.26),ドライテクニックは直接 母乳回数が増える(江戸・津川・平川, 2007, p.40)な どの報告がある。このカテゴリーではそれらと同等の 質的なデータを得た。適正人員配置に関する研究では, 小児病棟は成人病棟に比べ1日の総看護時間数が6.5 倍であり,各勤務帯で8∼10人が不足していることが 明らかにされている(伊藤, 2007, p.802)。小児病棟と 産科病棟は同等には比較できないが,昼夜を問わず看 護業務が莫大に発生する,業務は多岐にわたり煩雑で あるといった特徴は同じである。またAikenら(Aiken, Clarke, Sloane,et al., 2002,p.1990)の報告によると,1 人の看護師に対する患者数が多い病院は,看護師の燃 え尽き症候群や仕事への不満足感が増すとされている。 清潔ケアをドライテクニックにすることによって,少 なくとも新生児人数 9分程度の負担が減少すること を加味すると,新生児数が多い施設ほどそのメリット は大きいと考えられた。  日本では多くの日本人が毎日お風呂に入り,身体を 流す。その清潔習慣を新生児にも同様に実施してあ げたいと考えるのは当然である。母乳育児の選択に は家族や友人,母乳の知識が影響を与える(Street & Lewallen, 2013, p.48)ことや,帝王切開後の経腟分娩 選択決定には,住居する文化と科学が影響している事 が明らかになっており(Kennedy, Grant, Walton, et al., 2013, p.143),周産期のケア選択に生活習慣や文化が 影響していることが明らかになっている。日本人にと って沐浴が習慣や文化の中で当然であると思われてき たことが,ケアの決定につながっていることが示唆さ れた。  一色らは清潔方法決定の際に,病棟に既存するルー ルや慣習を遵守しようとする意識に基づく判断や,そ れらを患者や状況に応じて変更して適応させようとす る判断に基づいてケアを決定していたことを明らかに している(一色・松山, 2009, p.35)。本研究でも同様に 働く施設の規定やルールを,組織の構成員として遵守 しようとする姿勢が見られた。産褥入院中は退院に向 けた保健指導や診察など褥婦も新生児もケアを多く必 要とする。そのためマニュアルとして出来上がってい る施設でのルールに則ってケアを行うことでケアの質 を保ち,効率性を良くすることができるためと考えら れた。  ドライテクニックを選択している施設では,『施設 の意向におおむね従順な母親』といった印象を母親に 対して助産師は持っていた。看護では患者が看護者と 協働して意思決定をすることにより,患者の適応,自 律性,看護への関心,満足感が高まり,目標が到達 されやすいことが明らかになっている(Cahill, 1998, pp.122-126)。しかしほとんどの母親は施設で行われる 清潔ケアを含む多くのケア選択に対する意思決定を施 設に委ねており,それに参加できていない。新生児清 潔ケアの優位性が明らかになっていない現在では,そ れぞれのケアの情報を伝えたうえで,褥婦がケアを決 定していく必要もあると考えられた。  一方で助産師は常に新生児や褥婦のケアについて, より良いケアを求めていた。医学・看護学ではケアの エビデンスが積み上げられることによって,従来の ケアとは異なるケアが良いとされることは珍しくない。

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沐浴も今までの慣習から実施されてきた面が強いが, 現代の助産師は個々の新生児に対する観察や経験知と ともに,より良いケアの在り方を求めていることが明 らかになった。  以上のことから新生児清潔ケア実践の助産師なりの 意味づけとして,現在までの習慣や文化,施設の規定 にそって清潔ケアが実施されているものの,母親の意 向や他施設の動向,先行研究が影響を及ぼし,沐浴か ドライテクニックかの選択がゆらいでいるということ が示唆された。より質の高いケアを実践していくため には,客観的データによる信頼性の高い研究結果を研 究者が出していくといった課題が明らかとなった。

Ⅷ.研究の限界と今後の課題

 本研究の限界として回収率が52.2%であったことか ら研究対象にバイアスのある可能性がある。またイン タビューの回答者が関東地区からのリクルートであっ たことから,全国のその他の地区の考えとは偏りがあ る可能性がある。そのため質的調査結果を一般化する のは難しいと考えられる。また新生児の初回沐浴は羊 水や血液に暴露されているため,アメリカのCDCが 示す標準的予防策が必要とされる議論も盛んになって きているが,今回はその問題について研究目的から外 れていることから分析は行わなかった。  今後は適切にデザインされた実験研究結果を日本文 化や気候,母親の意向も加味し,客観的な指標を加え て推奨すべき早期新生児清潔ケアの確立を目指してい くことが必要である。

Ⅸ.結   論

 全国の産科施設における新生児清潔ケアは,沐浴 群とされる入院期間中2回以上の沐浴を実践している 産科施設が産後1日目以降は67.9∼92.2%を占めてい た。沐浴は1回あたりおよそ9.7分の所要時間がかかり, ドライテクニックに比べて医療者の手間がより多くか かることが明らかになった。ドライテクニックの選 択は施設の地区や看護師・助産師数が寄与していたが, その他の属性はドライテクニック選択に寄与しなかっ た。助産師は新生児の清潔ケアを実践する際に新生児 の負担や汚れ,代謝などのアセスメントから清潔ケア を決定しつつ,ケア実施が母親や父親のモデルとなる ように,新生児を尊い存在であると示しながら,新生 児と親を意識して新生児と関わっていた。同時に現在 までの習慣や文化,施設の規定によって清潔ケアは実 施されているものの,母親の意向や他施設の動向,先 行研究が影響を及ぼし,実際にケアにあたる助産師の 思いは沐浴かドライテクニックかの選択でゆらいでい ることが示唆された。  現在の清潔ケアは施設によって沐浴かドライテクニ ックかが規定されているが,新生児の状態によって臨 機応変に使い分け,かつ十分な情報を提供したうえで 母親の希望も加味したケアが選択されうることも一つ の選択肢と考えられた。 謝 辞  本研究に快くご協力いただきました施設担当者の皆 様,また助産師の皆様に深く感謝申し上げます。 文 献

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参照

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