Car悶 r20: 79-82 (2011) Carcinological Society o f Japan
小さなヤシガニは何処にいる?
Field observations of the juvenile coconut crabs: w h e r e d o they
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ve?藤田喜久
1,2 Yoshihisa Fujita . は じ め に ヤシガニは,オカヤドカリ干ヰに属する「ヤドカ リ」の仲間であるが,成体では貝殻を背負うことは ない しかし生活史の初期段階( グラウコトエ幼 生以降) においては,ヤドカリ類のように巻貝の空 殻を背負う行動が知られている (Reese,1968; Reese & Kinzie, 1968). ヤシガニは,重要な資源生物であ ることから過去に数多くの研究が行われているが, 野外における本種小型個体の採集例はそれほど多く な く , そ の 初 期 生 活 史 に は 未 だ 不 明 な 点 も 多 い (Drew et al., 2010). 特に,日本国内におけ る本種小 型個体に関する研究知見は極めて乏しく ,本種の資 源管理や保全を進める際の大きな障害 となってい る. 著者は,近年,沖縄( 宮古島,多良間島,与那 国島) の海岸からヤシガニの小型個体を複数発見し た (藤 田・伊藤,2007, 2008; 藤田・砂川, 2008). そ の中には,貝殻を背負った状態のヤシガニも含まれ ていた これらの発見を機に,ヤシガニ小型個体の 生態について野外調査と飼育観察を進め,若干の知 見を得たので紹介したい 1 琉球大学大学教育センター 干903-0213 沖縄県西原町千原lUniversity Education Center, University of the R戸I k y u S,1 Senbaru, Nishihara, Okinawa 903-0213, Japan
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圃 ヤ シ ガ ニ の 小 型 個 体 は 何 処 に い る ? ヤ シ ガ ニ は , 胸 長 (T L: thoracic 1ength) 80 m m, 体重4 kg (非公式には体重 6 kg) にも達する世界最 大 の 陸 性 十 脚 甲 殻 類 で あ る (Fletcher,1993; 藤田, 2010). その巨大な体は,多くの研究者の興味を惹 きつけるのに十分であり,古くから様々な研究が行 な わ れ て き た . し か し 胸 長 1 0 m m 以下の本種小 型個体の発見は稀であり,ヤシガニの小型個体が何 処にいて , どのような生態を持っているのかは比較 的最近まで謎に包まれていた K adiri-Jan& C hauvet (1998) は , 近 年, ニ ュ ー カ レ ド ニ ア の リ フ 島 (Lifou) にて,本種小型個体に関する驚くべき発見 をした それによると,ヤシガニの小型個体は,海 岸付近 ("Terrace" と呼ばれる場所) のヤシの木の実 や葉などが堆積した場所に生息しており,研究期間 中に胸長2 8 m m 以下の小型個体を 84 個 体 ( ! ) を 発 見 し た と の こ と で あ っ た . ま た , Drew et al. (2010)のヤ シガニに関するレヴ‘ユーによると,イン ド洋のクリス マス島では,かつてグラウコ トエ幼生 が見つか った例もあるようだ. 著者は, 2005 年に沖縄県の宮古島において,湧 水に生息する十脚甲殻類の調査過程において( 藤 田,2007),偶然,海岸の「飛沫転石帯 (図IA)J か らヤシガニ小型個体を採集した. その後, 2005 年 - 2007 年に 宮古島の海岸において追加調査を実施 し,同飛沫転石帯環境から胸長4.22-19.79 m m (た だし大部分が胸長12m Jη以下) の個体を採集した (図 IB,C ). さらに ,2007 年には,圏内 で初めての 記録と思われる「貝殻を背負った ヤシガニ」も発見 した (図1 D ) . また,その後の調査では, 宮古島以 外の多良間島や与那国島においても同様の飛沫転石 帯からヤシガニ小型個体が採集された( 藤田・砂 日 本 甲 般 類 学 会 物 卿
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79図J . 野外で採集されたヤシガニ小型個体と室内における飼育観察手法 A
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沫転石帯 (宮古鳥) ; B ,転石下で発見されたヤシガニ小型個体 (多良間島) ; C ,ヤシガニ小型個体 (宮 古島) ; D,貝殻を背負っ た個体 (与那国島) ; E,ヤシガニの飼育方法 (a,琉球石灰岩の蓋 ;b,餌及び水置き 場) ; F,同,蓋 (図 IE-a) を取り除いた状態. 川,2008) 言 うと ,I
飛沫帯 (湖上帝)J に該当する. 沖縄の場 この「飛i
末転石帯j という環境であるが,用語と 合,飛沫帯には砂浜や石灰岩礁などの微環境が存在 して 一般的ではないので,ここで若干解説しておき することが知られるが,さらに注視すると,大小 たいと思う.r
飛沫転石帯」は,海岸の地形区分で 様々な大きさの死サンゴ塊や石灰岩片が集積した場80
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所があることが分かる( 図 1 A). 近年, この飛沫帯 の転石環境には,ヤエヤマヒメオカガニ Epigrapsus politus Heller, 1862 や イ ワ ト ピ ベ ン ケ イ ガ ニ Metasesarma obesum (Dana, 185 1)などの希少な陸性 十脚甲殻類が生息していることが明らかになった (Osawa & F吋ita,2005; 藤田・砂川, 2008; 藤田ら, 2010) そこで,この見過ごされ易い環境を簡潔に 言い表す用語として ,著者( ら) は,
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飛沫転石帯」 を用いている( 鈴木ら, 2008; 藤田, 2010) . ヤシガニの小型個体は,飛沫転石帯の土壌に埋没 した転石の下部で発見されることが多かった( 図 18) 一方,本種の小型個体が成体と著しく異なる 点として,体色が挙げられる. 著者が採集した小型 個体の体色は,転石( 琉球石灰岩) の色彩に類似し たクリーム色を呈する場合がほとんどで( 図 18, C ),生息環境における隠蔽的効果が予想された ただし,体サイズが大きい個体では,青味を帯びる ものも見られた 以上のことより,沖縄の島々,特に石灰岩の発達 する地域において,海岸の「飛沫転石帯」は,ヤシ ガニ小型個体の重要な生息環境であると考えられ る . ヤシガニ小型個体の飼育観察 野外で採集したヤシガニ小型個体の一部は,持ち 帰って飼育観察に用いた ヤシガニ小型個体の飼育 方法は,当初全くの手探りであったが,藤田・伊藤 (2007,2008) で示された飼育方法を徐々に改良する ことで, より長期の飼育が可能にな ってきた 今の ところ,最も気を使っているのが,水槽に敷き詰め る土壌の質と水槽内の湿度である. 従来は野外から 採集した土壌を用いていたが,水槽内にはびこった カピや排地物による飼育環境の悪化 に気づきにく かった. そこで,淡水観賞魚飼育用に市販されてい るハロサイト原料のj慮、過砂「商品名G E X
液過一 番サンド」を用いることにした この砂は,残餌・ 排池物・カピの発生などの確認が容易で,砂の定期 的な煮沸洗浄も可能であるため,良い飼育環境を保 つ事ができる. これを水槽に 5- 8 c m 程度敷き詰 め,下部 1 c m 程 度 は 常 に 水 を 入 れ て 高 い 湿 度 (70- 9 0% ) を保つようにした (図 1E,F). また, 小さなヤシガニは何処にいる? 藤田・伊藤 (2007,2008) による本種小型個体の観 察結果に基づき,本種が隠れる空間を人工的に作る ( “日中の隠れ家としての穴" と“脱皮用の穴" の代 用になる空間をつくる; 図 1F) 事で日々の観察も容 易になった 実際,本稿をまとめる段階では,最長 で 3 年 8 ヶ月に及ぶ飼育期間中に同一個体で 7 - 10 回の脱皮観察に成功しており,脱皮に伴う体重変化 や成長率などの観察知見も得られている それらで 得たデータもいずれ発表したいと考えている これまでの飼育観察によって,本種小型個体の摂 餌行動,穴堀行動,脱皮周期に関する知見が集積し ているが,その一部については,既に藤田 ・伊藤 (2007,2008) にまとめられている. また,本種小型 個体が野外で見つかりにくい理由として, 1) 夜間 性で日々の活動時間が短いこと( 夜間でも摂餌を終 えると直ちに転石下に隠れること) , 2) 気 温 が 18t 未満になると摂食行動が確認されなくなること ( 冬期は活動期間が短くなりがち) , 3) 脱皮回数が 多く,それに伴って活動を停止する時間も多くなる (1 連の脱皮過程にはおよそ 30 日- 6 0 日ほどかか る) こと,などが指摘された. 一方,これらの本種小型個体の行動的特徴は,貝 殻を背負うか否かに関わらず共通であった( 藤田 ・ 伊藤, 2008) . このことは,藤田 ・伊藤 (2008) でも 述べられているが, [ " 貝殻を背負う行動の意味」を 考える上でとても興味深いものである KadirトJan&
C hauvet (1998)は,ヤシガニ小型個体が貝殻を背 負うかどうかは,体サイズに影響を受ける可能性を 示唆している( 同研究では胸長 7 m m 以下の個体は すべて貝殻を背負い,それ以上は背負わないとい う) しかし著者の研究では,胸長 7 m m 以下の 個体( 最小で胸長 4.22 m m) でも貝殻を背負わない 状態で見つかった事例もあった また,最近の著者 の観察では,野外で貝殻を背負っていない状態で見 つかった個体( 胸長 6.5 m m) に空員殻を与えると, それを背負ったり,脱ぎ捨てたり,再び背負ったり を数回くり返す行動が観察され,結局, 2年6ヶ月 経った現在( 本稿執筆時) でも貝殻を背負ったまま である 以上のことから,貝殻を背負う行動( 習 性) は,必ずしも体サイズに規定されるものではな く,利用できる空貝殻資源量や他種との競争( 例え ばオカヤドカリ類) にも影響される可能性が考えらCancer
20(2011)
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貝殻を背負う行動( 習性)J についての研究 は,これ までほ とんど行なわれて おらず,今後の研 究の進展が求められる . . お わ り に 以上,従来,圏内で はほとん ど知見のなかっ た本 種小型個体 につい て, 徐々に情報が集 まって きたこ とが分かると思う しかしな が ら,野外 にお いて, 上陸直後の個体( グラウ コト エ幼生や変態直後の個 体) に つ い て の 知 見 は 未 だ 得 ら れ て い な い 藤 田 (2010) は,沖縄の 島々にお け る聞き取り調査 によ か 南 大 東 島 や 宮 古 島 に おいて,極 めて小型の個体(i
大きさが 5 m m ほ どのヤシガニ」ゃ「蟻ほどの大 きさのヤシガニJ
と表現され る) が現地 の人々に よって目撃されていることを報告している こうし た情報も 考慮 に入れ ながら,さらなる野外調査 を進 める事が求めら れる であろう 一方,ヤシガニ資源の保全の視点から は,本種小 型個体の生息環境 としての海岸環境( 特に飛沫転石 帯) の重要性が指摘できる と恩 われる. 従来,ヤ シ ガニ資源の保護 ・保全策としては,主に捕獲サイズ 制限や捕獲禁止期 間の設定などの対策が主にな され ている ようであるが (F letcher,1993 ; Sato & Yoseda,2010) ,そ れ らに加え て, 海域か ら陸域 の連続性を 考慮にいれた自然海岸環境の保全 も必要である と恩 われる . 圃 謝 辞 本研究の実施には, 独立行政法人日本学術振興会 の平成20年度科学研究費補助金( 奨励研 究 : 課題 番号20918007) による援助を受けた 82
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Cancer20{却11) . 文 献Drew, M . M ., Harzsch, S., Stensmyr, M ., Erland, S.,
&
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