C A N C ER 6 (1997), p.33-36 33
ノコギリガザミ属における種の同定について
渡遺精一 ・伏屋玲子
ノコギリガザ、ミ Scylla spp は ワタリガニ不十に 属する大型の種で,ハワイからオ ース トラリア, 日本,中国 ,台湾,東南アジア , アフ リカ東岸, 南岸などの太平洋,イ ンド洋沿岸に広く分布し て い る (Sakai. 1976 ; C o w an. 1984. etc.). ノコギ リガザミは mucl crabあ るいは m angrove crab と 呼ばれ. 1よj湾,河口付- 近や,マングロー ブ域な ど の汽水域に生息している . 日本では利根川河口以 南の内湾や河口域で見られ,静岡県,高知県,宮 崎県,鹿児島県,沖縄県などで漁、獲されている . また ,東南アジア ,オーストラリ ア,インドなどで は重要な水産物の 一つであり( 波溢 ・Sulistiono. 1993) ,さまざ まな漁法で漁獲 されている (Motoh. 1983 ; K asri . 1991 ; 渡巡ら, 1996). 最近では, 栽培漁業の対象種として種苗生産が行われ放流量 も1994年には約120万尾が生産され, 697J'J毛が放 流されている (栽常漁業種苗生産,入手,放流実 紘一( 全国) ,水産庁 ・日本栽培漁業協会). ノコギリガザミは多くの研究者ーによ って S. ser rata 1種のみ ではなく ,図] のよう にいくつかの 種 に 分 け ら れ て い る (伏屋 ・波法, 1995) それ らを簡単に述べると以下のようになる . 1949年に E stam padol自がフィ リピン産の襟本を も とにFt
lや はさみの色彩に 加 えて 甲殻の色 々な部位の棋様, 前額突起( 額の練の突 出の状態),附IJ毛,生息場所 な ど に よ っ て S.serratι, S. tral1q uebarica, S
oceanica, S. serrata va r. taramamosainの 3 稜l変 (亜)種とした . Serene (1952) もベ トナ ム産の 標本を用いて,前額突起,はさみ脚の腕節外縁に ある赫,前側縁等の観察から 同様の見解を示した . しかし, Stephenson ancl C a m p bell (1960) は,オ ース ト ラ リ ア の Queen slancl 産と New South
W ales産の標本から ,S. serrata 1種とし,それま での分け方を再定した . 以 来, S. serrata 1種と してJ及われているが,O n g (1964) はマレーシア 産 の ノ コ ギ リガザミで,E stampador (1949) が 区別した4型を認め, Joel and Raj (1983) もイ ンドの Puli cat測 に生息するノコギリガザミにつ いて, S. serrata とS.tranquebaricaの2種を 認め ており,この2種間での交配は観察されていない. また ,伏見( 1983) は外形や行動から日本産のも のは少なくとも
3
種に区別すべきであるとした . 日本での呼称は S.s俳 句taはアカテノコギリガザ ミ S.oceanica はアミメノコギ リガザミ ,S. tran, quebaricaは トゲノコギ リガザミあるいはドウマ ンノコギ リガザミとされる . S. serrata var. tara,mamosatnについては,今後の検討を裂するとし ている (111川 ・鈴木 ,1985 ;大城, 1988). 本州, 四国には3種 と も 生 息 し て い る が, ほとんどが S. tranquebaricaである . 沖縄県で、は S.oceal1icaが
多く ,次 い でS.serrataがよ く見 られる( 大 城, 1988) . ノコギ リガザミをどのように判別 するかはこれ らのカニの資源管理や積苗生産,放流に関連 して 大きな課題である O verton ら( 1997) は東南アジア産の燃本を斤
l
いて22の計註形質と20の計数形質の多変量解析の 結果から3
つのグループが判別できるが,そのう ちの一つは残りの2つのグループの 八方の変異で あるとした. しかし, 彼 らの解析結果を見 ると 3 つのグループが判別できる. われわれが投杭準備 中の外部形態の多変話解析の結果ーからは3
つのグ たようにアイソザイムを用いた遺伝的変異性の解 析結果からノコギリガザミは少なくとも 3つのグSeii chi W ATANABE and Reiko F USEYA: Notes on ル ー プ に 分 け ら れ る (Fuseya and W atanabe. the identification of the species in genus Scylla 1996). 形態からは,前額突起,は さみ脚 の腕節
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ノコギリガザミ属における種の同定に ついて o , 川Q 1 0 11 Is.
serrata
。
・,
ι ' ‘o ' "S .
tranquebarica
' " 1 0S .oceanica
図1 . ノコギリガザミの形態. 前額突起と腕節の稼,甲殻の色や模様 などで3種が判別波溢精一 ・伏屋玲子
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外縁にある赫,前側縁等で3 種が判別でき,遺伝 的には3
種について3
つの遺伝子座で遺伝子の置 換が認められることから ,図2 に示すように 3 つ の酵素の内の2つを 用いれば3種 を判別 できる. すなわち,酵素の持つ遺伝的多型を見ると E S T * ではS. serrataはS. trω,1quebaricaおよびS.oceanica とー異なった対立遺伝子を持つことによって区別で き. LA P - 2*. S O D*では S.oceanicaが他の2 穫 と異なる対立遺伝子を持つことから区別できる . これから . E S T * とLA P -2*あ るいは E S T* と S O D*の遺伝子座における対立遺伝子を 比較す る ことでこれら3
種を区別することが可能となる . S.oceanicaの遺伝的変異は他の2 種と比較すると 極めて小さく . 地域集団として分化してから日が 浅いか,特化してから分散したことが考えられる . S. tra抑 制baricaお よ びS.serrata には遺伝的変異 が見られ,これらをもっと詳しく調査研究する必 要性があろう. また .S . serrata var. taramamosain31 .
-
-
I
*a斗 *b→
-の遺伝的特性を明らかに するためにサ ンプルの収 集が是非とも望まれる . ノコギリガザミはいくつかの種に分けられ,そ れぞれの生息場所や繁殖行動が異なっているよう に思われる . これまでに公表された論文の多くがS.
serrata としているため,その調査研 究 の対象 として1 種のみか複数種が含 まれ ているのかが疑 問で, どの種がどのような習性を持っかが明確に は特定できない状態である. さらに,ノコギリガ ザ ミは3 穫がほとんど同所的に生息することがあ り,産地だけを 見てある特定の種とみなすことが 困難で、ある. たと えば,イ ン ドネ シアのジャワ島 のジャワ海側にある K a r a w a n gでは汽水域で3種 が共に生息している. そこで,上に述べた判別方 法により種を特定することが生態の記載や資源管 理にと って重要 な課題となる. 分布や生態調査を 行い結果を報告する際には , どの種かを特定する 記述をきちんと行っておく( たとえば.Estampador-
I *a-
I *b遺伝子型 合aja *b/b 切'/b も/b *b/b *a/a *b/b *b/b *aja
4
量 S.S S. t S .O S .S S. t S . 0 S .S S . t S.O 遺伝子座 EST* LAP.2食 S O O * 例 え ば .E ST*
とS O O *を用いると *a 合bi -
-
*b *b│
・
・
・
遺伝子型 合'a/a 合b/b *b/b 食b/b *b/b *aja 遺伝子座 EST* S O D食 E ST*
S O O * EST* S O O *種 S.serra臼 S.tranquebarica S. oceanica 図2. ノコギリガザミの種類の特定. アイソザイムの泳動パターンと遺伝子の置換. 3
種の判別は図の下段のように2つの酵素を用いて対立遺伝子を比較することで可
能となる.
3 6 のいう Scylla ocωm c aと 記 載 す る ) こ と が 肝 要 で あ ろ う . こ の よ う に 記 載 し て お け ば 分 類 が ど の よ う に な ろ う と , ど の 種 に つ い て の 生 態 な の か 資 源 の 状 態 な の か が 特 定 で き る. ち な み に , 日 本 で 種 苗 生 産 さ れ て い る ノ コ ギ リ ガ ザ ミ は 本 州 で は
S
trlωUjuebarica,八 重 山 で はS.oceanicaで あ る .ま た, 前 述 の 種 苗 生 産 量 , 放 流 量 はS.
tralUjuebaricaの ものである . 参考文献C o w an, L ., 1984. Crab farming in Japan, Taiwan and the
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