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生活づくりの知恵と技術の共有とその活用

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Academic year: 2021

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(1)生活づくりの知恵と技術の共有とその活用 − 地域に根ざした豊かな生活を目指した実践 −. Share and Utilization of the Wisdom and Skill of Designing a Living 松崎さおり. 千葉大学・暮らしの工房ののま. MATSUZAKI Saori Chiba University・Local Community-Based Living Studio Nonoma. 1.背景と目的 近年、世界的規模で画一的な生活をすることで利用資源の偏 りが生じることによる資源の枯渇や環境汚染、過度な便利さや 快適性を追い求める社会での心身の健康維持等、様々な課題に 直面し、行き詰まりを感じ得ない現代において、新たな生活の あり方の再構築が求められている。 本論文では、「地域に根ざした豊かな生活」という方向性に 基づいて、地域内に内包された資源を再発見再認識するととも に、その再共有をはかり、活用し、深め、発展させる方策を検 証することを目的とする。. 2.「地域に根ざした豊かな生活」という方向性 地域に根ざした生活とは、身の回りにある素材、空間、自然 環境を持続的且つ最大限に利活用する知恵や技術を持ちそれを 実行することで多様性を維持し、無理なく自然の歩幅に合った 健やかな生活を目指し、そして、助け合える人々とのつながり をもち、貨幣価値では計り知れない価値をも享受しながら生き ることである、いわば「生きやすく持続可能性のある状態」を 実現した豊かな生活の姿といえる(図1)。 身近な生活環境を持続的且つ最大限に利活用して生活を営ん でいたかつての生活において幾多の人々によって何世代にも亘 り育まれ、淘汰され、積み重ねられてきた知恵と技術がある。 それらは時として、貨幣価値に換算されなくとも存在する価値 があったものであったりする。限られた空間、限られた人材、 限られた素材、限られた気候風土、そういった環境のなかで、 いかにより豊かに楽しく円満に生きていけるかを日々模索した 創造性の集合体こそが地域文化であり、それゆえにそれぞれの 地域文化の多様性を生む要因であった。 物流が世界的広がりをみせ、インターネットや小売店でお金 を出せば容易に世界中から物を手に入れられるようになった昨. 図1 地域に根ざした豊かな生活づくりという方向性. 今、食べ物も日用品も装飾品も世界中の物を比較し、より質の 良いものを求めていくことが可能となった。アクセスできる世. 地域においても例外ではないが、能動的に働きかける余地のあ. 界が広がったことで、人と人、人とものとのつながりが浅く広. るものが比較的多くある農村地域は、地域に根ざした豊かな生. く希薄化し、受動的かつ一方向的な関係性になっている場合が. 活づくりの実践の場としてより適した場である。. 少なくない。それゆえに商品の価値の判断指標がそのものの見. 筆者は自らの生活を実践的取組みの場とするとともに、千葉. た目や使用価値、価格への偏りが生じがちである。それは農村. 県君津市に地域内に開かれた活動拠点「暮らしの工房ののま」 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 49.

(2) 景、また、地域に潜在化している素材を再発見再認識する。 それらを可能な限り活用可能なかたちで記録する。 ②再発見再認識した知恵や技術を共有する場を設けて行く。ま た、地域内の素材の活用および知恵、技術の応用を実際に試 行し、それらを展示等によって提案するとともに、実践の中 で活かしながら保存継承していく。 ③そこから地域の中でその知恵や技術が成長し発展していくこ とで、新たな価値の創造につなげていく。. 4.潜在する地域資源(生活の知恵と技術)の再発見再認識 地域の中で何世代にも亘り受け継がれてきた生活文化に内包 図2 地域に根ざした豊かな生活の実現に向けた取組み. される知恵や技術およびその価値、そして、その表層としての 造形や行為、風景、また、地域に潜在化している素材を再発見 再認識することが出発点である。. を開設し、 「地域に根ざした豊かな生活」の実現に向けた活動を 可能な限り地域住民と共有していくことを試みている(表1) 。. 4.1. 楽しむ、溶け込む、試してみる 2015年6月、2016年6月に行なった梅の収穫の事例を紹 介する。1年目の2015年には、熟した小梅と未熟な青梅、熟. 3.「地域に根ざした豊かな生活」の実現に向けた活動. した梅の3種類をそれぞれの収穫時期に併せてひとつずつ手. 地域に根ざした豊かな生活づくりの知恵や技術の共有とその. でもいで収穫した(図3)。収穫物はそれぞれ、梅干し、梅シ. 活用に向けて、以下の取組みを進め、その体系化を図る必要が. ロップとピクルスに加工した(図4)。2年目の2016年にお. ある(図2)。. いても、熟した小梅と青梅を収穫したが、今回は収穫の方法を. ①地域の中で何世代にも亘り受け継がれてきた生活文化に内包. 地域の年配者に聞きながら工夫したことで、より短時間で収穫. される「望ましい豊かな生活の要素」を生み出す知恵や技術. を完了し、梅の木の周囲の草刈りや剪定まで共に行なうことが. およびその価値、そして、その表層としての造形や行為、風. 出来た。1年前に収穫した梅の木にまた今年も梅が実ったのに. 表1 1年間の活動. 50. 2015年5月31日. 梅の収穫. 10月1日. 交流ご飯会. 12月11日. 鹿児島県龍門司焼ワークショップの実施. 3月26日. まったりマルシェ出展. 6月5日. 梅の収穫. 10月2日. 木更津プロジェクトの打ち合わせ. 12月12日. 鹿児島県龍門司焼ワークショップの実施. 3月27日. 東京朝市アースデイマーケット出展. 6月6日. 梅シロップの会. 10月3日. 石けんづくり講座. 12月13日. 鹿児島県龍門司焼ワークショップの実施. 3月30日. 草木染め講座(ピラカンサ)実施. 6月8日. モラキルト講座. 10月9日. 種蒔き. 12月14日. 草木染め講座(どんぐり)実施. 3月30日. 6月13日. 田植え. 10月10日. 種蒔き(午後). 12月17日. 藁細工ワークショップ試行. 4月3日. 三舟山マルシェ in 郡ダム出展. 6月15日. 田植え. 10月11日 GREENCANVAS 自然観察会参加. 12月20日. かずさファーマーズマーケット出展. 4月13日. ポジャギ作品展の実施(∼4/24). 6月20日. 梅しごとの会(梅干し①). 10月12日. 草木染め講座(セイタカアワダチソウ). 12月21日. 山武市阿知波さんら視察来訪. 4月16日. お米の種蒔き. 6月27日. ラジオ出演(かずさ FM「ものづくりエイター☆」). 10月13日. 奈良県吉野箸 辰田製作所見学. 12月24日. 珈琲と野菜の食べ合わせ講座実施(NOZY COFEE 共催) 4月17日. 7月3日. 家の片付け. 10月14日. 奈良県吉野箸 調査. 12月25日. 君津市地場野菜のレストランやさまる視察. 4月17日. 三舟山マルシェ打ち上げ参加. 12月27日. 木更津市金田地区つなはり講座参加. 4月19日. 木更津 HUNT にて交流会参加. 木更津市牛込地区つなはりの見学. 4月20日. 佐原張り子工房見学(紙張りの技術習得). 木更津市役所にて打ち合わせ. かずさファーマーズマーケット出展. 7月4日. ラジオ出演2(かずさ FM「ものづくりエイター☆」) 10月16日. 千葉市都市農業交流センター自然観察会視察. 7月4日. 地域クラウド交流会 in 金谷. 10月18日. かずさファーマーズマーケット出展. 7月11日. 梅しごとの会(梅干し②赤じそを入れる). 10月19日. 椿油を絞る. 1月5日. 万祝型紙記録作業に係る打ち合わせ. 4月21日. 数馬さんと打ち合わせ. 7月11日. 平家ホタル鑑賞会(NPO 法人 GreenCanvas). 10月29日. 織り機(馬生)を大学に搬入. 1月7日. 木更津市金田地区梵天立ての見学. 4月22日. 南房総市農園ゆう見学. 7月17日. 家の片付け. 10月31日. 干葉大学工学部祭にて手紡ぎ和綿布の織り実演出展. 1月8日. 南房総市小松寺訪問. 4月27日. 佐原張り子工房見学(胡粉塗り技術の習得). 8月4日. 山武市森林組合、いそべ商会、株式会社クレエ視察. 11月1日. 千葉大学工学部祭にて手紡ぎ和綿布の織り実演出展. 1月12日. 万祝型紙撮影の試行. 4月28日. 南房総市小松寺訪問. 8月7日. 藍染め. 11月2日. 糸紡ぎ講座. 1月15日. 万祝型紙の撮影作業. 4月30日. 南房総市小松寺 千葉大×小松寺プロジェクト出展. 8月7日. 大豆粉メニュー試作(トルティーヤ). 11月4日. 株式会社クレエ訪問. 1月18日. 糸紡ぎ講座の実施. 5月1日. 南房総市小松寺 千葉大×小松寺プロジェクト出展. 8月15日. アートクラフト縁日出店. 11月5日. 君津市在住漆作家(保井夫妻)作品展の見学. 1月21日. 数馬さんとの打ち合わせ. 5月3日. 富津市古墳群、姥石、大わらじ視察. 8月16日. アートクラフト縁日出店. 11月7日. 木更津市視察. 1月23日. 草木染め講座(たまねぎ)実施. 5月12日. 石堂寺多宝塔波の伊八彫刻調査. 8月21日. 南房総市栗原工房訪問. 11月9日. 石けん置きづくり講座. 2月3日. 練木どんど焼き参加. 5月15日. かずさファーマーズマーケット出展. 8月22日. 子どもワークショップ開催. 11月11日. 南房総市小松寺訪問. 2月6日. 草木染め講座(たまねぎ・絞り染め)実施. 5月17日. きみつネットまるみち取材来訪. 8月28日. 千葉市チーバくん物産館視察. 11月12日. 鹿児島県龍門司焼き視察(11/12∼13). 2月7日. 富津市白狐地区春祈祷の見学. 5月22日. アースデイちば出展. 8月31日. 稲垣祥三さん訪問. 11月13日. 鹿児島県龍門司焼き視察(11/12∼13). 2月7日. 富津市関地区の大わらじの見学. 5月23日. 草木染め講座(コブナグサ)実施. 9月5日. 木更津市雑貨屋カラコ口にて布の展示. 11月16日. 草木染め講座(栗の鬼皮)実施. 2月9日. 江戸つまみ簪穂積さんエ房見学. 5月29日. 東京朝市アースデイマーケット出展. 9月6日. つまみ細工講座. 11月19日. 南房総市小松寺 もみじ祭. 2月12日. 銚子大漁旗工房見学. 5月29日. 三舟山マルシェ出展(織りの実演). 9月7日. モラキルト講座. 11月20日. 練木の田んぼの稲刈り. 2月13日. 中学校にて消しゴムはんこ講座の実施. 6月2日. 鴨川市立郷土資料館にて波の伊八彫刻3D データ取得同行. 9月8日. 株式会社クレエ訪問. 11月21日. 南房総市小松寺 もみじ祭. 2月14日. 佐原張り子鎌田さん工房見学. 6月6日. 梅の収穫. 9月16日. 南房総市小松寺訪問. 11月22日. NPO 法人 GREEN CANVAS 集会. 2月17日. 千葉市都市農業交流センター太巻き寿司作り講座参加. 6月6日. 麦刈り. 9月19日. 草木染め講座試行(セイタカアワダチソウ). 11月23日. 南房総市小松寺 もみじ祭. 2月18日. 木更津視察(久留里線の旅/馬来田地区、清川地区) 6月8日. 2016年1月2日. 麦の脱穀. 9月20日. 木更津うみまつり出展. 11月24日. 練木の田んぼの稲刈り. 2月19日. 館山唐桟織り展示会見学. 6月10日. 木更津市視察(ののま自然農園、馬来田、スクデット、鎌足、ほうき屋). 9月21日. 手力雄神社視察. 11月27日. 練木の田んぼの稲刈り. 2月19日. オークラ千葉ホテルにてエ芸品体験会補助. 6月11日. 田植え. 9月22日. 泉の田んぼの稲刈り. 11月27日. 国立科学博物館ひょうたん展見学. 2月21日. 東京朝市アースデイマーケット初出展. 6月12日. 田植え. 9月23日. レイラインかずさファーマーズマーケット出展. 11月29日. かずさファーマーズマーケット(Glocal Happiness)出展. 2月25日. 木更津市視察(鎌足地区). 6月12日. かもすの里・まちづクリエーションのミーティング. 9月24日. 干葉市 HELLO GARDEN 視察訪問. 12月2日. 金蓮院、稲垣祥三さん訪問. 3月1日. 中房総研修の実施(いすみ市、鴨川市、君津市). 6月15日. 田植え. 9月25日. 株式会社クレエ訪問. 12月4日. 柚子の調理・加工(柏餅子、柚子茶、柚子ジュース). 3月2日. 中房総研修の実施(いずみ市、鴨川市、君津市). 6月19日. かずさファーマーズマーケット出展. 9月26日. スパークルシティ木更津オープン記念イベント出展. 12月7日. 糸紡ぎ講座の実施. 3月3日. ホテル日航成田にて伝統工芸品体験会補助. 6月22日. J:COM わっしよい木更津取材来訪. 12月8日. 9月27日. 木更津みなまち SKIP!100円マルシェ出展. 米の脱穀. 3月12日. 草木染め講座(どんぐり鉄媒染)の実施. 6月24日. 富津市寿き屋手づくり市出展. 9月30日. 万祝研修実施(館山市立博物館、白浜海洋美術館、鈴染) 12月9日. 千葉市都市農業交流センター歴史ウオーク視察. 3月18日. 唐桟織り斉藤さんエ房見学. 6月25日. 東京朝市アースデイマーケット出展. 10月1日. 泉の田んぼの稲刈り. 鹿児島県龍門司焼ワークショップの準備. 3月20日. かずさファーマーズマーケット出展. 6月26日. 三舟山マルシェ出展(糸紡ぎの実演). 12月10日. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.

(3) 図3 梅の木と収穫した梅の加工(筆者撮影). 図5 梅の収穫と手入れでの学び. しかし、価値の有る無しの判断は必ずしもそれを知り得た時 と同時である必要はない。存在を知った上で、それが一体どの ようなものであるか関心を持って五感で感じたり、知識を深め たりしていくことで、認識を深めていくことが重要である。期 限の決まったプロジェクトなどでは短期間に価値を見出ださね ばならず、もどかしさを感じ得ないが、「生活」という長期的 視点に立った場合においては、時間をかけて無数の情報をス トックしておくことで、ある時、まるでパズルのピースがぴっ たりとはまるように、その資源の価値が見出だされる場合が 多々ある。 知識が増えると今まで何気なく見ていたものに新たな価値を 図4 梅の加工を共に行なう(筆者撮影). 見出だせることによって世界の認識が変わる。. は、前年の収穫から今年の収穫までの間になんらかの手入れが. あるというある意味そのものの存在を認識すらしていない状態. なされていたからである。剪定は収穫直後と開花前に行なうと. から、身の回りにあるものすべてが自分に関係があるもののよ. 言い、葉や花の付かなくなった死んだ枝や、同じ方向に伸びて. うな感覚となる。. すると、今まで身の回りにあるものは自分に無関係のもので. いく複数の枝、好ましくない方向に伸びている枝などを剪定す. もしかすると役に立つものなのではないか、そう考え始める. る。葉のついている真上を切ることで、その葉の向きに枝が伸. ことが、地域の、身の回りにある資源を生活の中で活用してい. びていくという特性を利用し、好ましいと思われる樹形に整え. く、生活に役立てて行く、利用して行くために不可欠なことで. ることができる(図5)。収穫をして加工する、1年前に収穫. ある。その気づきをより多くの人と共有していければ、内発的. した木からまた今年も収穫させてもらう、来年のためにできる. なよりよい生活づくりがなされていくはずである。. ことを知る。それらを共に作業するなかで共に作業する楽しさ. 地域に潜在する資源と出会うためには、やるかやらないか、. や、梅の美味しさ、梅の木の特性を体感し、気づき、学ぶこと. 行くか行かないか、迷ったらとにかくまずはやってみる、行っ. ができた。. てみるというようなプラス方向の選択をしていくことで、新た. 身近な環境に内在する資源を再発見再認識するためには、ま. な発見や思いもよらない出会いがあるものである。また、地域. ず様々なモノ、コト、ヒトに興味関心を高めていくことが大変. やコミュニティにおいて、同じことをやってみたり、共に作業. 重要である。まずは興味を持って、とにかく楽しむことから始. をしてみたり、その場に生活者と同じ立場として溶け込むこと. める。楽しもうとすることは、積極的に知ろうとすることであ. で、第3者の視点では気付き得なかったその地域でこその価値. るし、柔軟でポジティブなものの見方が可能になる。. に気付くことができる。. 初めて存在を知ったものに対して価値を見出だすことは難し い。. 4.2. 視点と捉え方の転換を図る 休耕地や畦などに群生するセイタカアワダチソウという植物 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 51.

(4) 図6 群生するセイタカアワダチソウ(筆者撮影). 図7 セイタカアワダチソウの石けん(筆者撮影). がある(図6)。. に試行し、それらを展示等によって提案することの具体的な取. 大きいものでは2m近くまで伸び、黄色い花が咲き、花粉症 を引き起こすよく似ている「ブタクサ」と間違えられることの 多い植物である。他の植物の生長を抑制する物質を根から出す. 組みを下記に紹介する。 5.1. ‌コミュニティの再構築 ─共に生きる仲間、視点と捉え方の共有─. ことで、群生するが、年月を経ると自ら出すその物質で自らの. 2015年、筆者は千葉県君津市に地域内に開かれた活動拠点. 生長が抑制されてしまう。このような説明であると、それはと. 「暮らしの工房ののま」を開設した。そこでは、地域の素材を. ても哀れな植物とも捉えられるが、一方で、大気の汚染を吸い. 活用するものづくりや、その知恵や技術を共有するためのワー. 上げ、あるところまで広がると自らの物質で生長が抑制され、. クショップを実施し、人々が顔を合わせ直接的な会話の中で、. 替わって他の植物が育っていくという見方をするのであれば、. 地域内外の情報の交換が行なわれ、人と人の縁がつながる場と. とてもけなげな植物という捉え方ができていく。また、セイタ. なりつつある。. カアワダチソウの煎じ液は、アトピーや肌疾患によいとされ、. 「暮らしの工房ののま」としていくつかのイベントに出展・参. 入浴剤としても使われているため、地元の手作り石けんの講師. 加を行なっている。 「かずさファーマーズマーケット」 、 「三舟山. に指導をしてもらい、手作り石けんへの活用を試みた(図7)。. マルシェ」 、 「まちづクリエーション」という場と集まりなどか. その他にも渋みのある鮮やかな黄色に染め上がる染料として. ら新たなコミュニティの再構築がなされはじめている(図8) 。. も使うことが出来る。休耕地や畦などに群生し、やっかいもの. いずれもメンバーに重複がある。それによってより関係が深ま. 扱いされることの多い植物だが、有用な可能性を秘めた植物で. る、媒介となることで新たなつながりが作られやすくなってい. ある。夏から秋にかけて最盛期を迎え、草刈りに辟易とするこ. るという利点がある。. とがある一方、捉え方を変えれば宝の山である。 捉え方を変えると世界の見え方は180度変わっていく可能性. 一方で、それぞれの場に特色があり、様々な人々を巻き込む 渦になりつつある。. をもっている。価値の指標は多様であり、既存のカテゴリーに. 「かずさファーマーズマーケット」の事例では、主な会場と. 捉われずに、様々な角度からの視点を試み、捉え方を柔軟にす. なっている木更津市羽鳥野にある「みなのば」(2017年3月. ることが、潜在する地域資源の再発見再認識に重要である。. より木更津市吾妻公園に開催場所移転)という多目的広場のあ る上総地域、遠い場合でも少なくとも南房総周辺という生活圏. 5.地域資源を活用する知恵と技術の共有を目指す 再発見再認識した知恵や技術を可能な限り活用可能なかたち. 52. を同じくする生産者と飲食店の交流が生まれ、地元食材の利用 が進んでいる(図9)。. で記録すること、そしてそれらを共有する場を設けて行くこ. そして、単なる業務上の関係だけでなく、信頼関係を構築. と。また、地域内の素材の活用および知恵、技術の応用を実際. し、共に生きる地域コミュニティの仲間としての関係性が生ま. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.

(5) 図8 三舟山マルシェの仲間. 図9 かずさファーマーズマーケットの様子(筆者撮影). 図10 草木染め体験の実施(筆者撮影). 図11 2016年の田植えの様子(筆者撮影). れている。千葉県木更津市にあるピッツァリアスクデットで. 体験である(図11)。「田植え」に関しては、1年前は3名だっ. は、同市内の平野養豚場の豚を一頭まるごと買取り、「余すこ. た参加者が、今年は計10名、延べ16名の手で田植えを行なう. となく美味しくいただく」ということを飲食店として実践して. ことが出来た。幸いにも田植え実施日のどの日も誰かしらの参. いる。人と人のつながりのなかから、生産者の生産物や生産量. 加があり、今年は一人で田植えをするという日なく田植えを完. の現状を理解し、それに見合ったように可能な限り無駄なく全. 了した。場を提供するとともに、イベントへの積極的な出展や. 体活用していくことは、エコやもったいないという意識の体現. Facebook、Web サイトを活用した情報発信を継続的に行なう. ということ以上に、共に生きる仲間としてよりよい状態を共に. ことで、より多くの人と田植えの技術や田畑に関わる知恵を共. 目指す姿勢から実現しているものであるといえるのではないだ. 有することができたのではないだろうか。. ろうか。このような姿勢が、おのずと持続可能で心地の良い状. かつては知恵や技術を持つ身近な人の動作が日常的に目に入. 態をつくりだしているのである。このように共によりよい生活. り、年長者から同年代の仲間といった多様な年代、何人もの人. のあり方を目指す関係性が育まれることで、今後においても地. の生活の様子を幼い頃から見て、同じ空間、同じ時間を過ごす. 域内の資源を最大限に活用するための情報や知恵と技術などの. 中で様々な事柄を体得していた。いかに「結果」だけでなく. 共有の場になっていくと考えられる。 5.2. きっかけと出会いの提供 筆者が開設した活動拠点「暮らしの工房ののま」では、地域 の素材を活用するものづくりや、その知恵や技術を共有するた めのワークショップを実施している。. 「過程」を見せるか。実物を見る、触れる、音を聞く、におい を嗅ぐ、食べてみる、という五感を可能な限り実体験できる機 会をつくることで、伝えていくことが重要である。 また、伝えていきたい生活づくりの知恵や技術との出会いを 提供し、きっかけづくりを行なう場合においては、必ずしも熟. 例えば、梅の加工を体験する「梅しごとの会」や、身近にあ. 練者から直接伝達することにこだわり過ぎずに、自分たちが知. る植物から色をもらう「草木染め講座」(図10)、自然農とい. り、体得した知恵や技術を魅力的な表現方法で、自分たちが間. う方法で栽培する「田植え」「麦刈り」「麦野脱穀」等の農作業. に入り、媒介となって伝えていくこともひとつの有用な手段で デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 53.

(6) 図12 イベント出店時に使用したロケットストーブ(筆者撮影). 図13 ロケットストーブで作った蒸し野菜(筆者撮影). 図14 木更津ナチュラルバルでの味. 図15 写真展「土から布へ」. づくり体験の様子(筆者撮影). 5.3. 様々な表現での情報の発信と共有 イベント出店時にロケットストーブを持ち込み、竹林の整備 で出た竹材や木の廃材を燃料にして野菜を蒸し、販売した。ガ スや化石燃料に頼らない燃料という選択肢のひとつを実践・実 演を通して伝えることができた(図12、13)。 2016年6月から始まった千葉県木更津市が主催する「木更 津ナチュラルバル」は、安心安全な食を楽しむというコンセプ トからはじまり、木更津周辺地域を主として千葉県内から毎回 15店舗ほどが出店し、飲食を中心として楽しむイベントであっ たが、2017年3月に開催された第10回目においては、自家製 味 図16 写真展「土から布へ」展示の様子. 安心で安全な食材を使用している出展者や食材の情報の発信 の場であるとともに、飲食を楽しむ場として定着してきたとこ. あるのではないだろうか。ものがあるだけではなく、適材を見. ろで、更に、“自ら作る体験”を通して発酵食品や自家製の安. 極め、加工し活用する、その知恵と技術が伴ってこそ、そこに. 全性、面白さ、美味しさを伝える場としての活用がはじまった. それがあることの価値となる。いかに人が育っていくかが重要. ように思われる。. である。. 54. づくり体験が実施された(図14)。. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. また、暮らしの工房ののまでは、2016年7月∼8月に、上.

(7) 図17 創造力を引き出す 不便 をつくるということ(筆者撮影). 図18 観光という視点からのアプローチ. 総地域で栽培された和綿を使用し、糸づくりから手がけた和綿 布を制作している和綿紡染織家の手仕事と、地域の行事やイ ベントに足を運び、地域の人々とその風景等を撮影する地域 写真家として活動している若手写真家の恊働で「土から布へ」 という和綿布の制作工程を切取った写真展を開催した(図15、 16)。普段は作品のみでしか伝えられていなかった「上総地域 の和綿」「手紡ぎの糸」「染めと織りの工程」「和綿布の特徴」 といった手仕事の魅力と実像をよりメッセージ性のある写真と いうメディアを通して、伝えることができた。 図19 地域の光を磨いてより良い生活につなげる観光創造. 6.地域資源からの価値創造 地域の中でその知恵や技術が成長し発展していくことで、新. れていくと考える。現代に至っては、写真、映像、3D 技術を. たな価値の創造につなげる。. 手段として活用して伝えていくことも含めて、その知恵と技術. 6.1. 創造力を引き出す “ 不便 ” をつくる. を身に付け、共有することで、その知恵や技術の応用がなされ. 「地域づくりは不便づくりから始めたらいいんじゃないかな。 不便な方がクリエイティブになれるから。」君津市練木地区の. る、そういったものを身につけることで視点が養われ、あらた な資源の再発見再認識へとつながっていく。. 里山保全活動を行なっている NPO 法人 GREEN CANVAS の鈴 木郁夫さんの言葉である(図17)。現代社会においては、何か. 7.観光という視点からのアプローチ. が足らなくなったり、必要なものが生じたりした場合、店に買. 千葉県木更津市観光協会、木更津市役所観光課との観光創造. いにいけば、だいたいのものは手に入る。しかしながら、それ. のプロジェクトの動きがある。地域外から訪れる人々に、地域. ではなかなか売っているものや決まったかたちの中に収まって. に根付いた生活の姿があるからこそ光る地域の個性の体感、学. しまうところから抜け出せない。地域資源からの価値を創造し. びと発見、新たな気づきの機会を提供する新たな観光の創出に. ていくためには、あえて“ない”という“不便”を作り出すこ. 向けた取組みのなかで、上記の取組みを通して得た知見や地域. とで、求めているものに近しいものは“ある”か、何が“あ. 内で創造された新たな価値の活用、人や情報の交流による地域. る”のか、どうしたら“より良い”のかという思考になってい. のさらなる活性化を促す。つまりは、地域に住む人々と「地域. くのではないだろうか。. の光を共に観る」こと、そしてその「地域の光を魅せる」こ. 6.2. つなぐ. と、その双方のアテンドを生活づくりの一環として取組む可能. 人と人をつなぎ、コミュニティをさらに共に生きる仲間の多. 性を考えている(図18)。. 様性を広げるとともに、これまで結びつけられてこなかったモ. このような観光の創造の担い手としての役割を明確化してい. ノとモノ、モノとコトをつなぐことで、新たな価値創造がなさ. くことで、地域に根ざした豊かな生活づくりの知恵と技術の共 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 55.

(8) 9.まとめ 地域に根ざした豊かな生活づくりを目指す実践的取組みを通 して、以上の方向性を下記のようにまとめる。潜在する地域資 源(生活の知恵と技術)の再発見再認識には、楽しむ、溶け込 む、試してみること、そして視点と捉え方の転換を図ることに 留意して活動していくとよい。また、コミュニティの再構築や きっかけと出会いの提供を通して地域資源を活用する知恵と技 術の共有を進めていく。地域資源からの価値創造、観光という 視点からのアプローチからデザインがつなぐ地域づくり体制と して、役割を明確化して、地域に根ざした豊かな生活づくりの 知恵と技術の共有とその活用を図る。 図20 デザインがつなぐ地域づくり体制. ※本論は、2016年度アジアデザイン文化学会で発表されたも のに加筆し、まとめたものである。. 有とその活用の取組みとする。 地域の“光”というと、その地域にあるモノや場所を想定し がちであるが、それらは“手段”のひとつであり、「そこに住 む人々の動き(生きる営み) 」こそが地域の“光”だという視 点に基づき、まずは光の種である「“思い”を持っているヒト」 に出会うこと、その光の種であるヒトたちが「活用できるモノ や場所、知恵や技術」といういわば光の種が芽吹くために必要 なものを探し出すという二段構えで、「観光創造」に取組み始 めている。 地域の光を磨くことが、直接自分たちつまりは地域に住む 人々の生活をより良くすることにつながるような「観光創造」 を目指していきたい(図19)。例えば、とても美味しくて安全 な作物が作れるようになったなら、それを作れる人が育ったな らば、地域外からの来訪者に食べてもらうことで地域の光を魅 せることができるとともに、地域内に住む自分たちは日常のな かでそれらを食べることが出来るなんて幸せなことではない か。. 8.デザインがつなぐ地域づくり体制の構想 地域に根ざした豊かな生活づくりを目指していくなかでの、 デザインの役割には、全体を見通し、仲を取り持ち、縁をつな ぐ、方向性を示す、といったことが考えられる。「多角的視点 で全体を見渡す」こと、ヒトとヒトの縁はもちろんのこと、今 まで結び付けられてこなかったモノとモノを新たな視点を用い てその「縁をつなぐ」こと、コンセプト、発想、着眼点、方 針、指針、仕組みづくりを担い、地域内での実行者や専門家を 適材適所につなげていくような人材となりえるのではないだろ うか(図20)。. 56. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.

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