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理学療法士による多施設共同研究の進め方

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 128 45 巻第 2 号 128 ∼ 133 頁(2018 年) 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 理学療法トピックス シリーズ 「臨床研究入門」. *. 連載第 5 回 理学療法士による多施設共同研究の進め方. 齊 藤 正 和 1) 高 橋 哲 也 2). はじめに. 多施設共同研究を企画,運営する前に知って おくべき基本事項.  臨床研究とは,「医療における疾病の予防方法,診断 方法および治療方法の改善,疾病原因および病態の理解.  「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」で. ならびに患者の生活の質の向上を目的として実施される. は. 医学系研究であって,人を対象とするもの」とされてい. い倫理観を保持し,人間を対象とする医学系研究が社会. 1). 2). ,多施設共同研究にかかわる,すべての関係者が高. る 。臨床研究は,被験者に人為的介入を行わない“観. の理解と信頼を得て社会的に有益なものとなるよう,表. 察研究”と人為的介入を行う“介入研究”に分類され,. 1 に示す事項を厳守することが強く求められている。最. 後者は,理学療法学的な介入も含め“臨床試験”とも呼. 近では,研究者主導の自主的な臨床研究において企業. ばれる。本邦では,臨床研究を実施する環境整備が欧米. 関与に関する研究者の利益相反(conflict of interest;. 諸外国に比べて遅れており,治療方針やガイドライン等. COI)申告が不適正で当該研究機関における研究者主導. にインパクトを与えるような倫理性,科学性ならびに透. 試験の管理の不適切さ,研究計画の立案からデータ解析. 明性が確保された,質の高い多施設共同研究が求められ. までの不透明性さなどの問題が指摘されている。理学療. ている。. 法領域の臨床研究においても企業等との契約または企業.  近年,理学療法領域においても,根拠に基づく理学療. 等の依頼を受けて多施設共同研究を実施する際には,当. 法が求められており,より質の高い臨床研究のため,十. 該研究にかかわる資金提供者,企業との金銭的な関係を. 分なサンプルサイズを確保することができ,統計学的な. 社会に対して適切に開示もしくは公開する義務がある。. 検出力が高くなる多施設共同研究が企画,運営されるよ. また,臨床試験対象者の仲介や紹介,症例集積にかかわ. うになっている。 “多”施設研究は,“単”施設研究と. る報奨金や特定の研究結果に対する成果報酬の取得,研. 異なり,研究機関の特徴や研究者の主観によるデータ. 究結果の学会発表や論文発表の決定に関して,資金提供. の偏りが少なく,“研究の質”が高まる利点があるもの. 者,企業が影響力の行使を可能とする契約の締結なども. の,研究協力施設間のデータの精度や解釈の相違による. 回避すべきである。. “データの質”の低下が生じる可能性が高いなどの欠点 もある。そこで,本稿では,理学療法領域における多施. 多施設研究の構想から運営までの流れ. 設共同研究の進め方について,構想から企画,運営なら.  多施設共同研究の構想から企画,運営および研究結果. びに情報公開までの一連のプロセスについて概説する。. の情報公開までの一連のプロセスは,計画期(planning phase),準備期(project development phase) ,実行期 (study execution phase)および普及期(dissemination 3) phase)の 4 つの時相に分類することができる(図 1) 。. *. Challenges in Conducting a Multicenter Clinical Research 1)公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院理学療法科 (〒 183‒0003 東京都府中市朝日町 3‒16‒1) Masakazu Saitoh, PT, PhD: Department of Physiotherapy, Sakakibara Heart Institute 2)東京工科大学医療保健学部理学療法学科 Tetsuya Takahashi, PT, PhD: Department of Physical Therapy, School of Health Science, Tokyo University of Technology キーワード:多施設共同研究,理学療法,エビデンス,臨床研究. 1.計画期(planning phase)  多施設共同研究を実施する際に,まずはじめに考える べき事項は日常診療上の病因,危険因子,診断,治療, 予後などに関する臨床的疑問(clinical question)を整 理することである。臨床的疑問は,理学療法士の視点か ら考えると,どのような病態や症状を呈する症例なの.

(2) 理学療法士による多施設共同研究の進め方. 129. 表 1 多施設共同研究を実施する際に遵守すべき事項 1.社会的および学術的な意義を有する研究の実施 2.研究分野の特性に応じた科学的合理性の確保 3.研究対象者への負担ならびに予測されるリスクおよび利益の総合的評価 4.独立かつ公正な立場に立った倫理審査委員会による審査 5.事前の十分な説明と自由意思による同意 6.社会的に弱い立場にある者への特別な配慮 7.個人情報等の保護 8.研究の質および透明性の確保. 図 1 多施設共同研究の構想から運営,普及までの流れ. か,また,症例から得られた情報をどのように解釈し,. 備研究を行うことが薦められる。予備研究で得られた結. どのような理学療法学的アプローチを行えばよいのかな. 果に基づいて,研究対象の適性,サンプルサイズの推定. どの疑問である。また,理学療法士の視点ばかりではな. に必要な治療効果,脱落率の情報により研究計画案を見. く,患者に質問されて答えられなかった理学療法士側の. 直し,研究費用を算出し,実現可能性の高い多施設共同. 疑問という場合もある。臨床的疑問が整理できたら,そ. 研究の研究デザインを検討する。特に,多施設共同研究. の臨床的疑問に対する答えを示す研究がすでに行われて. の研究計画の立案において,最適な症例数の設定はきわ. いるか否かについて電子データベースなどを用いて文献. めて重要なパートである。登録症例数が少ない場合,検. 検索を行う。文献検索ならびに先行研究の適切な選定や. 出力不足により統計学的な有意差を得られない可能性が. 評価がなされないと,新規性や学術的なインパクトに乏. あり,反対に症例数が必要以上に多い場合,人的もしく. しい多施設共同研究を企画,運営してしまうことになる. は金銭的資源や時間を過剰に消耗することになる。その. ため,文献検索および先行研究の評価は非常に重要な位. ため,本稿では詳しく述べることを避けるが,有意水準,. 置を占める作業である。そのため,文献検索では,臨床. 検出力,医学的に意味のある差ならびに予備研究などで. 的疑問に,疾患 / 病態,予知因子,介入 / 要因暴露,対. 得られたデータの分散等をもとに症例数の設定を行うこ. 象,アウトカムの各項目のキーワードを含め,重要な論. とが薦められる。. 文が漏れないようにしなければならない。そのため,臨 床的疑問に関する上記の 5 項目を表現する適切な語彙を. 2.準備期(project development phase). 想起,調査すべきである。医学文献の標準電子データ.  多施設研究の企画,運営にあたり,研究代表者は,多. ベースである PubMed などを使用する場合,それらの. 施設にて収集するデータの標準化の保証および施設間の. 語彙が Medical subject headings(以下,MeSH)でど. 統一性を保つためにデータ登録を行う参加施設とは独立. のように分類されているかを MeSH Database で調査す. した機関として,データの質を管理するデータセンター. べきである。そして,臨床疑問に対する答えを提供して. の設置が重要となる。また,研究グループによっては,. くれるエビデンスがないと評価された場合,研究責任者. 研究協力施設との調整業務,研究費の管理ならびに学会. は,臨床的疑問を研究デザインに落とし込むため,質. 発表,論文作成の支援など研究の質を維持するための支. の高い研究として実現可能な条件を満たす研究的疑問. 援業務を担う運営事務局(コーディネーションセンター). (research question)に変換することが重要となる。そ. を設置する場合もある。そのため,多施設共同研究は,. のため,多施設共同研究の研究計画の立案ならびに実現. データセンター,運営事務局ならびに多施設共同研究の. 可能性を検討するため,探索的に小規模で実施される予. 協力施設により構成される図 2-a。また,多施設共同研.

(3) 130. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. a. b. 図 2 多施設共同研究における中央支援機構の概説. 究の助成金の後援者,無作為化比較対照試験の研究対象. バイアスの制御を考慮した研究デザインの立案が重要と. の無作為化やデータ管理など,研究業務を委託する業者. なる。実際の研究計画の作成に必要な記載事項について. がいる場合は,図 2-b のような構成組織となる。. は,44 巻第 5 号 シリーズ「臨床研究入門」連載第 2.  多施設共同研究を企画,運営するうえで研究デザイン. 4) 回 理学療法領域における研究倫理を参照されたい 。. を決定し,研究計画書を立案する作業は一連のプロセス.  多施設共同研究の実施に際し,研究代表者は,他の研. においてもっとも重要なパートである。研究代表責任者. 究協力施設に先駆けて所属する研究機関の研究倫理審査. は,多施設共同研究の協力施設より選出した各分野のエ. 委員会(Institutional review board;以下,IRB)にて. キスパートとともに,アイディアを出し合い,積極的に. 承認を取り,各研究協力施設の研究責任者へ IRB 承認. 意見を交わしながら研究デザインならびに研究計画書の. 書や IRB の申請に提出した書類のコピーを参考資料と. 立案を行うことが望ましい。多施設共同研究の研究デザ. して送付する。研究協力施設の研究責任者は,送付さ. インを決定するにあたり,臨床的な疑問点を,①どの. れた資料を参考に所属する研究機関に提出する IRB 申. ような症例が(患者 / 問題) ,②どのような介入により. 請書を作成し,IRB の承認を得ることが必要となる(図. (介入 / 暴露),③誰(なに)と比べて(比較対象),④. 3)。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」で. どうなるのか(転帰 / 結果)に分類して具体的に考える. は,倫理審査員会への付議として,1 つの IRB による一. ことが重要である。しかしながら,研究デザインを決定. 括した審査についての記載事項がある. し,研究計画を討議する研究者が多い場合,しばしば討. 者は,他の研究機関と共同して実施する多施設共同研究. 議が尽きず,コンセンサスが得られるまでに多大なる時. にかかわる研究計画書については,1 つの IRB による一. 間を要し,分析や思考ばかりで行動に移せない分析麻痺. 括した審査を求めることができる. 2). 。研究代表責任. 5). 。しかしながら,一. (analysis paralysis)に陥ることがある。そのため,多. 括した審査を求める場合,各参加施設と事前に調整を行. 施設共同研究の代表責任者を中心としたコアメンバーに. い,それぞれの研究機関の長から,1 つの IRB の設置者. より研究計画書を作成し,各研究協力施設の研究責任者. に審査の依頼を行うなどの多くの手続きが必要となる。. に説明およびコンセンサスを得る方法などもある。この. そのため,現実的には研究代表責任者が所属する研究施. 段階で疫学や統計のエキスパートに研究デザインや研究. 設の IRB 承認書をもとに各研究協力施設において各々. 計画書を確認してもらい,多施設共同研究の計画,実施,. の IRB 審査を受けることが多いのが現状である。しば. 解析および解釈との関連が推測される因子による系統的. しば,研究代表責任者が所属する研究機関の IRB 承認.

(4) 理学療法士による多施設共同研究の進め方. 131. 図 3 多施設共同研究における倫理審査委員会申請. 済みの研究計画書と各研究協力施設の IRB が要求する. かつ継続的に運営するためには,定期的に研究責任者会. 記載すべき事項や記載レベルが異なることがある。その. 議などを開催して,各々の研究協力施設が抱える課題を. ため,研究代表責任者が所属する研究機関の IRB 承認. 報告,情報共有するとともに,これらの課題を克服する. 書の取得から各研究協力施設での IRB 申請から承認ま. ための支援を継続的に行う取り組みがきわめて重要とな. でのプロセスが,準備期から実行期の最大の律速要因に. る。また,質の高い多施設共同研究を継続的に運営する. なる。このため,研究代表責任者は,各々の参加施設の. には,研究責任者に加えて,各研究協力施設のスタッフ. IRB 承認が得られるまで,継続的に IRB が要求する事. への配慮も忘れてはならない。多施設共同研究に参画す. 項を満たす研究計画書の修正を適切かつ迅速に行うなど. る研究責任者は,エビデンスの構築へ貢献する気持ちで. 支援が要求される。. いる一方で,各研究協力施設のスタッフは,日常臨床業.  近年,臨床研究の公正性,透明性を確保し,出版バイ. 務に加えて,多施設共同研究にかかわる患者登録等の業. アスを予防するため,特定の医学雑誌ではデータベース. 務負担が増大する。そのため,研究代表責任者や各協力. への事前登録が論文掲載の条件とされている。本邦にお. 施設の研究責任者が思う以上に強制的にさせられている. いても,2008 年に改正された厚生労働省の「臨床研究. 気持ちが強くなり,診療録や電子カルテに記載されてい. に関する倫理指針」により,臨床試験のデータベース登. る医療情報を確認し,研究計画書の要求に応じて正しく. 1) 録が義務づけられている 。そのため,多施設共同研究. 医療情報を記載するなどのローカルマネージメントの質. による理学療法学的な介入による臨床試験を企画,運営. が低下する原因となる。そのため,ローカルデータマ. する際には,研究責任者は,大学病院医療情報ネット. ネージメントの質を管理するためにも,各研究協力施設. ワーク(University Hospital Medical Information Net-. のスタッフに対しても学会発表や論文執筆の機会などの. work;UMIN)等が設置している臨床試験登録データ. なんらかのメリットやプライオリティーがあるシステム. ベースに研究を登録しなければならない。. 構築も考慮すべき事項である。質の高い多施設共同研究 を継続している研究グループでは,各研究協力施設への. 3.実行期(study execution phase). 配慮が整備され,研究代表責任者と各研究協力施設との.  質の高い無作為割付の手続きを伴う臨床研究を多施設. 利害のバランスが保たれていることが要因として考えら. 研究にて企画,運営する際には,各々の研究協力施設が. れる。. 割付に関与せず,第三者機関において集中的に無作為割.  多施設共同研究において質の高いデータを収集,管理. 付ならびに患者登録を行う中央登録が薦められている。. するためには,研究協力施設でのローカルデータマネー. また,各研究協力施設での患者登録の際には,研究計画. ジメントに加えて,参画する全医療機関で収集されたす. 書に記載されている取り込み基準,除外基準を遵守した. べてのデータを一元的に管理するデータセンターによる. 患者選択が行われることが必須となる。そのため,研究. セントラルデータマネージメントの 2 つのデータマネー. 代表責任者は,患者登録の混乱や系統的な選択バイアス. ジメント機能を適切に稼働させることが重要となる。適. を回避するためにも,患者登録の標準化に向けた注意喚. 切なローカルマネージメントにより十分にデータの質を. 起や患者登録のフィードバックなど,各研究協力施設と. 保証する作業が行われていても,実際は不正な医療情報. の情報共有がなされるべきである。また,多施設共同研. の混入が免れない。一旦,データベースに重複したデー. 究が実行期に移行すると準備期に比べて,定期的に情報. タや不正確なデータを取り込んでしまうと修正作業のた. 共有を目的とした会議などの開催頻度が減少することが. め多大な労力を要することになる。また,データ解析の. 少なくない。そのため,日常臨床の忙しさに追われ,患. 段階で不適切なデータに気づいてデータを修正する場. 者登録を怠るもしくは研究に対する興味が失われて患者. 合,データ改ざんなどのデータ修正の妥当性にも問題が. 登録を中断する場合がある。質の高い臨床研究を適切に. 生じることに留意すべきである。そのため,データベー.

(5) 132. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 表 2 モニタリングレポート記載事項 1.研究の概要(目的,対象,エンドポイント,治療,プロトコルの改定など) 2.登録状況(施設別登録数,予定登録ペース,実登録ペース) 3.データ収集状況,背景因子の集計(無作為化試験の場合,群間の偏りを確認) 4.データ適格性(不適格の可能性がある症例をリストアップ) 5.治療中止理由 * 6.プロトコル逸脱理由 * 7.安全性の評価(有害事象発生状況)* 8.治療経過の集計 * * 介入研究では追加すべき事項. スに取り込む前に,各研究協力施設から提出されたデー. および解析までの一連のプロセスのなかで,継続的かつ. タの下限値や上限値やデータ分布を確認し,外れ値の有. 包括的に研究の質が管理されることで達成されるもので. 無などを確認することが重要となる。このようなデータ. ある。臨床試験の研究計画の立案,プロトコルの作成,. クリーニングにおいて常に異常がある研究協力施設で. 適切な手順のもとで多施設共同研究を行うため,研究代. は,系統的なデータ収集もしくは入力ミスの可能性があ. 表責任者をはじめとする運営事務局(コーディネーショ. るため,診療録からの情報収集,記載もしくは入力方法,. ンセンター)が中心となり適切な多施設共同研究の運. 計測方法に関する注意点を改めて各研究協力施設に注意. 営・管理システムを構築することが重要となる。. 喚起するなどの対応策を検討する必要がある。  近年,多施設共同研究による臨床試験の研究の質を担. 4.普及期(dissemination phase). 保するための規範として,厚生労働省から「人を対象と.  多施設共同研究の患者登録が終了し,治療介入もしく. する医学系研究に関する倫理指針」が発表され,侵襲を. は経過観察の中間報告や最終報告に向け,統計学的手法. 伴う介入研究については,モニタリングや監査,情報の. を用いて仮説を検証し,学会でのプレゼンテーションや. 保管義務,臨床試験データベースへの試験の登録義務な. 医学系論文の掲載への取り組みを行う時期である。ひと. ど,研究の質を保つための規定が定められている。多施. つの多施設共同研究により,研究的疑問を導き出すに. 設共同研究においては,データセンターや研究代表責任. 至った経緯をまとめたシステマティックレビューやナラ. 者に選任された担当者が,それぞれの研究協力施設の患. ティブレビュー論文,主要アウトカムの妥当性を検討す. 者登録の進捗状況の確認や研究計画書にしたがってデー. る研究論文,予備研究論文,多施設共同研究のメインの. タ収集および登録が行われているかを確認するモニタリ. 学術的論文ならびにサブ解析による研究論文など研究的. ングを行うことが薦められている。モニタリング方法に. 疑問に関連する一連の学術的情報のアウトプットが可能. はデータセンターに集積されるデータに基づき行う「中. である。しかしながら,学会発表や学術的論文として雑. 央モニタリング」と担当者が研究協力施設に訪問して行. 誌に掲載されることが,多施設共同研究の最終的なゴー. う「施設訪問モニタリング」がある。臨床研究により生. ルではない。研究的疑問として多施設共同研究にて検証. じるエラーを最小化することがモニタリングの目的であ. して得られた結果を臨床的疑問に対する答えとして公開. り,参加施設の研究責任者やスタッフに絶えずフィード. する必要がある。多施設研究で得られたエビデンスを日. バックを行うことでデータの質を向上させることが目的. 常臨床に普及させるもっとも有効な方法は,ガイドライ. となる。モニタリングは,全登録患者を対象に行い,定. ンに収載されることであると考えられる。そのため,多. 期的に表 2 に挙げる項目を含むモニタリングレポートを. 施設共同研究により導き出された結果をガイドラインに. 作成し,研究代表者や各研究協力施設へフィードバック. 収載してもらうためにも,関連する学会から公表される. ならびに研究代表者による定期的なデータレビューを行. ガイドライン作成のタイムスケジュールなども念頭に置. い,問題点の情報を共有し,早期に改善策を講じること. くことも必要となる。最近では,ソーシャルメディア,. が薦められている。また,研究責任者は研究結果の信頼. オンラインセミナー,ポッドキャストやブログなど様々. 性を確保するため,侵襲を伴う介入を行う臨床試験では. な媒体による情報公開が可能な時代となっているが,掲. モニタリングに加えて,必要に応じて監査を行うことが. 載された論文の版権は雑誌に帰属していることがあるた. 推奨されている。しかしながら,多施設共同研究の結果. め,公開時期や公開方法には最新の注意が必要となる。. の信頼性や研究の質は,モニタリングや監査のみで保証 されるものではなく,研究計画書の立案からデータ収集.

(6) 理学療法士による多施設共同研究の進め方. ま と め  理学療法領域における臨床研究は,既存の理学療法評 価の有用性や安全性の検証に加えて,新たな理学療法学 的な診断や治療の開発に不可欠のものであり,質の高い 多施設共同研究による安全性や有効性に関する仮説検証 が望まれている。また,本邦の医薬品領域に関する臨床 試験にて課題とされているドラッグ・ラグやデバイス・ ラグと同様に,理学療法をはじめとするリハビリテー ション領域においても,リハビリ・ラグもしくは理学療 法・ラグが存在する。以上のような課題を解決するため にも,理学療法領域における国際共同研究も含め,理学 療法領域における多施設共同研究の活性化に向け,計画 的に多施設共同研究を企画,運営する組織やグループづ くりならびに支援体制,多施設共同研究を支援する人材 の育成,そして,多施設共同研究が実施しやすい実施環. 133. 境の整備等などの推進が必要になると考える。 文  献 1)厚生労働省 臨床研究に関する倫理指針(平成 20 年 7 月 31 日 全 部 改 正 ) .http://www.mhlw.go.jp/general/seido/ kousei/i-kenkyu/rinsyo/dl/shishin.pdf(2018 年 1 月 31 日 引用) 2)厚生労働省 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針. http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Dai jinkanboukouseikagakuka/0000153339.pdf(2018 年 1 月 31 日引用) 3)Chung KC, Song JW; WRIST Study Group. A guide to organizing a multicenter clinical trial. Plast Reconstr Surg. 2010; 126(2): 515‒523. 4)望月 久:理学療法学領域における研究倫理.理学療法 学.2017; 44(5): 386‒393. 5)日本医療研究開発機構 多機関共同研究における倫理審査 集約化に関するガイドライン.https://www.amed.go.jp/ content/000015402.pdf(2018 年 1 月 31 日引用).

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