緒 言 昨今の若者の特徴としては,「素直」で「のんびりしている」 などの反面,「受け身」「コミュニケーション能力の未熟さ」「他 責の考え方」「精神的危弱さ」「社会常識が乏しい」などの指摘 もある。理学療法領域は,若手の理学療法士が急増し,治療介 入や臨床教育の中心的役割を担っている。このような背景を踏 まえ,対人援助やコミュニケーションに関する研修会等が提供 されている。最近では,対人援助技法の中でもコミュニケー ション能力を重要なビジネスツールのひとつとして重要視する 企業も増えてきた。また,「対人援助学」として学ぶ大学も登 場している。 対人援助職としての理学療法士は頭脳労働,肉体労働に加え 感情労働者としても位置づけられている。感情労働とは,1983 年社会学者 Hochschild により提唱された概念で,「他者の感情 状態を変化・維持することを目的として適切であるとみなす感 情を,声や表情あるいは身体動作によって表現し,そのために 自分自身の感情を調節する労働」と定義されている1)2)。理学 療法士は日常の医療サービスの中で,提供する知識や技術は, 患者・利用者・家族と対話を交えながら,進めていく。援助者 との信頼関係が成り立たなければ,治療介入効果も得られにく い。そのような側面からは,感情労働者として援助者と対峙す ることが求められ,相応のコミュニケーションスキルは早急に 身につけておきたい。 理学療法士が日常かかわるのは,医師およびコメディカルな どのリハビリテーション関連職種と患者,家族,所属の新人や 後輩職員,職員学生など直接援助を必要とする者である。前者 は円滑な医療情報の連携に,後者は円滑な業務遂行に影響を与 える。長期的には業績にも反映されるため,重要な要因でもあ る。理学療法士のコミュニケーションスキルに関しては,養成 校教育では履修カリキュラムに含まれてはおらず,臨床教育の 中で先輩理学療法士より助言指導されて,修正されてきた。し かし,養成課程における臨床実習時間は短縮化する方向で改正 されており,臨床教育で対人スキルが不足したまま国家資格を 手にする理学療法士が急増している。また,理学療法士国家試 験は認知領域を測る尺度であり,臨床技術の評価は養成校教育 で培ったものが土台となる。ここでいう臨床技術は理学療法技 術のみでなく,感情労働としてのコミュニケーションスキルも 含んでいる。小笹はその著書において,ビジネスはコミュニ ケーション活動であり,コミュニケーション行為として「誰に 伝えるか」「なにを伝えるのか」「どのように伝えるのか」の 3 つの質問に対する答えがビジネスの型であり,事業の戦略で あり,組織全体の業務はお互いのどこかでつながりあっている ので,営業と前後左右の関係にある様々な役割との良好な連携 状態を保つことが重要となると述べている3)。理学療法士の場 合は,協業するスタッフとその関係性の中心に患者・家族が存 在しており,さらに養成校の学生指導も範疇に含まれる。これ ら立場が異なる人間関係の中で生まれる「間」を理解し,状況 に応じたマネジメントを行うことも臨床能力のひとつと考えら れる。 日本理学療法士協会教育ガイドライン4)では,卒前教育の 到達目標を「理学療法の基本的な知識と技能を修得するととも に自ら学ぶ力を育てる」と定めている。新卒者を受け取るもの の役割として,まず,入職時の教育プログラムの定着をめざす こと,その中に人間的コミュニケーション技術は含まれる。医 学部教育においても,国際的な基準に添った新たな臨床実習の 枠組みをつくろうという議論がはじまっている。もっとも充実 させなければいけないのが臨床実習であり,時間数ではなく質 が求められている。医師の臨床実習でも従来多かった「見学 型」から「診療参加型」の臨床実習へと変化している4)。公益 社団法人 日本理学療法士協会による臨床実習ガイドライン5) では「診療参加型」であるクリニカル・クラークシップの導入 を提言している。クリニカル・クラークシップの基本は患者と のコミュニケーションを基本とし,役割と責任をもたせ,パ フォーマンスを引きだす手法である。理学療法領域でのクリニ カル・クラークシップの定着は,未だ十分ではない。理学療法 介入時に,学生のポテンシャルを信じ,臨床の場で役割を与え るということを臨床教育の現場が受け入れることが重要であ る。以下,この基盤となるコミュニケーションスキルについて 稿を進める。 医学教育 日本の医学教育は,大きな転換期・改革の時期を迎えて いる。大滝は,今後の医学教育の課題を「質の保証と多様
理学療法士のための対人援助技法
*
堀本ゆかり
**スタンダードセミナー
*Method for Supporting Young Physical Therapists **
常葉大学健康科学部静岡理学療法学科 静岡県理学療法士会教育管理系専門部会 (〒 420‒0831 静岡県静岡市葵区水落町 1‒30)
Yukari Horimoto, PT: Faculty of Health Science, Tokoha University
性への対応」であると述べている6)。しかし,理学療法士 の成長に必要なアウトカムについては,具体的な議論が必 要であろう。全米医学専門科認定委員会(American Board of Medical Specialties:ABMS) と 全 米 医 学 教 育 認 証 委 員 会(Accreditation Council for Graduate Medical Education: ACGME)では,初期研修修了時に履修すべき臨床能力(Com-petency)は,プロフェッショナリズム(専門職意識)・人間的 技術とコミュニケーション技術・医学知識・患者ケア・診療 ベースにおける学習と改善の 5 項目を勧告している。このうち, 人間的技術とコミュニケーション技術(傾聴・質問・語り・雰 囲気等)の習得は医療専門職にとって職務成果を左右する重要 な要素であり,このうち対人援助技術は,援助者との関係性を 意図的につくりだし,コントロールする技術である7)。これ は,単に援助者にうまく説明をするということではなく,援助 者が説明内容を納得したうえで,気概をもち,積極的な治療参 加へと結びつけるという意味で重要である。ゴードン・L・ノ エルはその著書の中で,長期間の臨床訓練の過程の中では基礎 教育の時代にはわからなかったような,同僚を尊重する能力の 欠如,口頭発表のまずさ,臨床データを統合・整理・分析する 力の欠落,対人関係を円滑に進める能力の低さなどの弱点が浮 上することもよくある。よいクラークシップはこれらの正すべ き問題を洗いだし,修復する時間的余裕のあるうちに学生にそ れを指摘することができなければならない。同時に,よい評価 システムも悪い評価がでた学生に対して欠点の修復を行い,と きには退学させるなどの適切な措置を医学校として取れるよう にするうえで必要となると論じている6)。このように,対人援 助のスキル向上は,臨床能力の基盤として考えられている。し かしながら,問題として認識されているにもかかわらず,対人 援助技法に関して習得する機会は少ない。その背景には行動変 容を確認するのに時間がかかり,即時に認識することが困難で あることが考えられる。 企業が求めるコンピテンシーと理学療法士との比較 経済産業省は 2006 年,社会が求める諸能力等を「社会人基 礎力」と称して提唱した8)。また,文部科学省は 2007 年社会 が求める諸能力等につながる「学士力」の養成を各大学に求め た。しかし,近年の学生はこの「エンプロイアビリティ(雇用 される能力)」が高い学生とそうでない学生の二極化現象が起 きているといわれており7),これはあながち理学療法士養成校 の学生があてはまらないともいい難い。 寿山は9),職場等で求められる能力として,「人」「課題」「自 分」をそれぞれ対象とした 3 つの分野に属する能力が共通して 必要とされると考えた。具体的には,(1)人との関係をつくる 能力として,コミュニケーション能力,協調性,働きかけなど, (2)課題を見つけ取り組む能力として,課題発見力,実行力, 創造力,チャレンジ精神,(3)自分をコントロールする能力と して,責任感,積極性,柔軟性を挙げている。こうした観点か ら,職場で求められる能力を定義すれば,「職場や地域社会の 中で多様な人々とともに仕事を行っていくうえで必要な基礎的 な能力」としている。職場で活躍していくうえで,これらの能 力はあくまでも 1 分野であり,基礎学力に加え職域に見合った 知識や技術などは重要な能力として理解されている。理学療法 業務をサービス業として考えるなら,本来,キャリア教育とし て学校教育の中で育成されるべき内容である。 以上を考え合わせると,(1)育成・評価が可能なこと,(2) 弱みは社会人の素養として,必要最低限まで底上げする要因と して,また,強みはキャリアの軸足として可視化できること, (3)成長段階において,一貫性した教育が期待できること,(4) 学内教育,職場,家庭,地域社会で行動変容が期待できるよう な評価バッテリーが求められる。さらにすべての人が現在の職 務のニーズを満たすスキルとコンピテンシーをもつだけでなく, 新たに要求されてくるスキルとコンピテンシーを学習するだけ の能力,柔軟性,方法ならびに学習しようとする意思をもたな ければならないという考え方もある6)。コンピテンシー概念は 1996 年頃より日本でも導入され,企業や教育現場を中心に広まっ ている。医療業界でも昨今,コンピテンシーに関する報告がさ れるようになったが,その利用は看護・福祉が多く,理学療法 分野では少ないのが現状である。Boyatis は,「ある職務において 効果的かつ優秀な成果を発揮する個人の潜在的特性(underlying characteristics)で,動機,特性(trait),技能,自己像の一種, 社会的役割,知識体系などを含む」と定義している10)。 そこで,筆者らは職場運営の中心的存在であろうと予測され る臨床経験 5 年以上の理学療法士 150 名のコンピテンシーを調 査し,その傾向を調査した。対象者の年齢は 35.1 ± 7.3 歳,臨 床経験年数は 11.6 ± 6.8 年である。その結果を図 1 に示す。図 内の点線で示す企業が求める能力(企業採用動向調査の結果) と比較すると,理学療法士のコンピテンシーは若干のひずみは あるものの,概ね六角形の形をしている。つまり,社会人基礎 力をバランスよく有することが必要であることがわかる。ま た,図 2 には 6 分野をさらに 18 項目に分類した結果であり, 「コンサルテーション」と「コミュニケーション」が大きな値 で,その重要性を示している。自身のコンピテンシー,つまり 自身の「弱み」と「強み」を理解し,臨床の中で意識的に行動 特性を変化させていく手法を用いるよう心がけることが肝要で ある。 また,プロフェッショナルとしての理学療法士に求められる ものという質問に対して寄せられた回答では,42.3%が情意関 連領域に該当する用語を記載していた。「人間性・社会性・向 上心・探究心・誠意・熱意」といった用語を挙げるものが多 かった。医療サービスの中でジェネリックスキルはあくまでも 業務に携わる資質的基盤の部分であるため,理学療法士の全体 像を考えるとき,知識・技術の熟達度も合わせて評価する必要 がある。そのためには,理学療法業務の体系化に見合うコンピ タンスの整理が必要である。つまり,ジェネリックスキルにつ いては,社会人としての一定の資質であるが,理学療法分野の 職域ごとに必要な知識・技術を包括したコンピタンスの構造に ついて議論の後,早急な構築が望まれる。 メタ認知 大滝は,学ぶことにより習得する能力の中で,領域を問わず に重要なもののひとつに「メタ認知」があり,自分の考えや行 動について自分自身で観察し捉えなおす過程を指していると述
べている6)。「メタ認知」は,自らの知能やその機能,問題解 決法等についてもっている知識を示す。自らの認知パターンを 意識することは,注意力を養い,経験の意味を理解し,実践に 繋げていくうえで,重要な意味をもつ。また,メタ認知的戦略 とは,学習プロセスの考慮・学習を容易にする要件の理解・自 己の学習活動の組立・自己評価と誤りの修正が含まれる。この プロセスは理学療法の実際や援助者,援助者を取り巻く関係 者,組織内業務分担者との関係づくりの中に活かされている。 そして理学療法士のメタ認知的戦略は,どのような治療観や認 識観をもつ養成校教員,臨床実習指導者,職場等の先輩理学療 法士に育まれたかに大きな影響を受けるものと推測される。 学習体験を現実生活で役立たせるために一般化し,理論から 実践へ移行する場合に「転移」という能力を用いる。Alberto Oliverio は,真の学習は実践と結びついていて,それが実用的 であればあるほど,社会的な状況に基づき,実践の場面に近い といえると述べている11)。さらに,特殊な能力を身につける 前に,いくつかの基礎能力をどのように身につけなければなら ないかは,すでに数多くの例が示していると述べたうえで,理 論によって学び取ったことを“実践で”具体的に評価する必 要性を説いている11)。実際,新人や若手理学療法士が学ぶこ とは,多様化,多角化しており,さらにある程度のスピード 感をもって,その成果が求められる。そうすると,OJT(On the job training)等の比較的時間がかかる研修形態は限界が ある,自律的な学習(Self-Regulated Learning)も取り入れて
図 1 理学療法士 150 名のコンピテンシーモデルと企業採用動向調査の比較
学習計画を立てた方がよい。コミュニケーションや相互関係に 対するメタ認知的アプローチは一般的に神経言語学プログラム (NLP)として知られている。音声のイントネーションや抑揚 により,異なる意味合いをもたせたり,特徴づけることもでき る。メタ認知能力の自動化に向けては,図 3 に示すような段階 に,様々な対人援助技法を織りこみトレーニングしていく。 問題点の見える化(DVD) 宮崎らによると,「見える化」の基本は「現状を見えるよう にすること」であり,まず「現状」の「見える化」から取り組 むことが重要である。見えるようになった「現状」に基づき, 見る人がどこに問題があるかを発見すること,さらに自律的に その解決活動に動いていくこと,これがあるべき「見える化」 の姿であると述べている12)。理学療法診療において被援助者は 消費者であるという解釈をすると,介入を与える側,受ける側 という契約関係が成り立つ。対人援助技法はこの契約関係を良 好に保つために必要なスキルであると同時に,職場環境を円滑 に保ち,燃え尽きや離職といった問題解決の手掛かりとなる。 静岡県理学療法士会教育管理系専門部会では,臨床実習で の症例検討会を「症例発表会 GOOD・NO-GOOD! ! !」という DVD にまとめた。全視聴時間は約 20 分で症例検討会という 題材を用いて,発表者である学生と臨床実習指導者とのかかわ り,あるいは所属スタッフとの関係性を描写している。内容 は,山形大学小田らが作成した「あっとおどろく大学教授 NG 集」13)を参考にし,臨床実習指導で経験された事案をもとに 台本を作成し,寸劇形式で撮影した。編集作業の段階では,1 編を短時間にとどめ,わかりやすさと見る側の負担感を軽減す るように工夫している。 症例検討会は,限られた時間内に発表内容を把握し,その問 題点を抽出し,さらに発表者が理解しやすいように誘導する必 要がある。その場は,知識をひけらかすところでも,発表者を 攻撃するところでもない。検討会への参加のしかたや言葉の使 い方など客観的に視聴することで気づきが得られることも多 い。学生も対人援助の対象であるから,学生指導がうまくでき なければ,患者・利用者への対応も十分であるとはいい難く感 じる。理学療法士 教育ガイドラインでは,まず,その固有領 域で獲得しなければならない能力,つまり目標(教育目標)を 設定し,次に目標へ到達するのに必要な教科内容(学習項目) を教育課程として構築し,それぞれの教科内容を修得させうる 教授方法(学習方法)を選択・実行し,そして,目標へ到達し たか否かについて評価(教育評価)する。理学療法教育におい てもその教育過程は一般のそれと同様である。この教育の過程 は,全教育課程,教科科目,一回の授業の各レベルにおいて共 通していて,目標指向的であり診断的である。これは臨床での 理学療法の過程に酷似していると説明されている5)。つまり, 学生への臨床教育方法の工夫は,臨床での治療介入に活かせる ことを示している。実際に面接のデモンストレーションを撮影 し,ロールプレイを通じ建設的に批評できるよう準備しておく ことは有意義である。 対人援助技法 1.事前準備:情報収集と情報編集 対人援助能力を向上させるためには重要な要領として,情報 収集と情報編集がある。情報収集は,対象者の動機づけ・方法 (戦略)・評価(学習能力)を単純に要約したのち,新たな学習 体験を論理的な図式で表現するとよい。ひとつのテーマを様々 な視点から捉えるようにすると,能動的な情報収集ができる。 次に,できるだけ早い時期に収集した学習内容の要点や記録を 編集構成(認知的構成)し,様々な表現形態に移し替え,整理 をする。この際,援助者と被援助者では目線が異なっているこ とを念頭に置く。特に一生懸命努力しているのに結果がでない と悩む被援助者は多い。適応的な戦略を獲得するためには,メ タ認知の働きが重要である。三宮は,メタ認知は人間の認知過 程とその調整・制御についての知識,および実際の調整・制御 的活動であり,自己調整学習のプロセスを考える際に重要な鍵 となると述べている14)。なにが進捗を妨げているか,解決し 得るものとそうでないもの,解決にかかる時間要因なども整理 する。当然,援助者自身が様々なコミュニケーション戦略を体 図 3 メタ認知能力の自動化
験しておくことが望ましい。その際,自身の技量についても, 客観的に認知しておく必要がある。 2.コンコーダンススキル コンコーダンスの概念は 1997 年,英国王立薬剤師会の服薬 に関するノンコンプライアンスの問題に対する報告より広ま り15),当事者−援助者間の関係性の問題へと視野が広がった。 武藤らによると,コンコーダンス理論は 6 種の介入手法に対 して,「基本的スキル」「かかわりを進めるためのスキル」「鍵 となるスキル」の 3 項目に対し 21 種類のスキルが紹介されて いる16)。この介入とスキルを使い分け,工夫し活用していく。 ここでは,援助者の臨床経験や相手の情動を感じ取るセンスを 活かして,適切な関わりを模索していく。コンコーダンス概念 では,対象者は自分の信念を主張したり交渉したりする自発 的・自律的な存在であり,判断を医療者や教育者に任せて追認 するというような存在ではない。「介入」とは,計画的に治療 的・学習的意図をもって,かかわることを指しており,援助者 と被援助者間に合意を得,その内容が援助者の回復や前向きさ につながる可能性が強いと確信している必要があると述べられ ている16)。コンコーダンススキルはおもに,質問の仕方など に代表される応答の技術である。アセスメントも治療や学習内 容の事実関係と不安感や期待感などの感情を整理し,同時にス ケーリング・クエスチョンスキルを活用して,解決像を構築し ていく。日常では,さらにノンバーバル(非言語)なスキルも 合わせて展開する。 3.コミュニケーション戦略 前提としては,教授する側・される側のメタ認知能力を把握 することが重要であり,それに添って人間的コミュニケーショ ン技術・対人援助技術の向上を促し,後進指導の礎とするのが 適当であろう。戦略的に言語や表情,態度を用い,対象者が自 己決定できるよう導いていく。佐藤は,コミュニケーションは, 相手に行動を起こさせるためのきわめて効果的な武器であると 述べている17)。まず,論点を明確にし,次に,事実を起点に 話をはじめ,現在の話題を経路と全体像の中に位置づける。円 滑に進めるためには,対人関係力と論理思考力を鍛えると有効 である。個々の評価は,前述したコンピテンシーデータ等を参 考にするとよい。 コミュニケーションはメッセージを伝えたい相手によって, インターナルコミュニケーションとエクスターナルコミュニ ケーションに分けることができる。インターナルコミュニケー ションは組織のメンバー間で行われるコミュニケーションであ り,エクスターナルコミュニケーションは患者や利用者など援 助者に向けたコミュニケーションである。これらは戦略的コ ミュニケーションに位置づけられる。プロアクティブなメッ セージは単に組織を活性化させるだけでなく,組織全体の生産 性をあげることにつながる。メッセージを伝えたい相手の行動 特性を分析し,戦略的に必要なコミュニケーション技法を選択 し,ビジネスゴールへと導くことが支援技法の根幹である。こ の場合,メッセージは論理性と優先順位を考えて発信する。こ れからの理学療法士は,自らの医療知識・技術をより効果的に 発揮するために,戦略的なコミュニケーション技法を身につ け,援助者を満足させることが必須条件といえるかもしれな い。佐藤は,コミュニケーションの展開を川の向こう岸にたど りつくための「飛び石」で表現している17)。「飛び石」は,プ ルーフポイント(そういい切れる証拠)とファクト(客観的な 事実)を表現しており,被援助者は「飛び石」を歩くことで対 岸にたどりつくことができる。「ひとつの飛び石が,その次の 飛び石につながる」形をとれば,論理的であり,道筋(ストー リー)が形成される。被援助者がメッセージを正しく理解し, その内容が納得できるものであれば,被援助者の中に「変化」 が生じ,段階的に行動へと結びつくというものである。先に述 べた,情報編集の段階でこの「飛び石」を準備しておくとよい。 この「飛び石」には,被対象者の興味や関心を織りこみ,論点・ 課題・言葉を選んで進める。これまでの習慣を変化させていく ことは,非常に困難なかけ引きでもあり,相手を納得させるた めに,丁寧に粘り強く明確に論拠を示し,未来を提案していく。 発信するメッセージが信頼に足るものであることが,戦略的コ ミュニケーションの要諦である。このメッセージの発信は,原 理・原則はぶれず,様々な局面に語調・語彙・タイミングなど を使い分け応用する。当然,メッセージを伝える相手が誰で あるかによって,コミュニケーションの質や組み立ては変わ る。相手を動かすことのできるメッセージは,説明するという 守りの姿勢だけでは不十分で,ネガティブな要素をボジティブ なものに変換していく攻めの姿勢も相手に見せることが重要で ある。 コミュニケーションスキルは,自身を客観的に評価できるよ う,第三者の意見を取り入れる余裕もほしい。援助者の余裕の なさは,被援助者に伝わり,効果的には機能しなくなることを 念頭におきたい。対人援助技法を学ぶとき,その基準・原則に 「バイスティックの 7 原則」がある。書籍も多く紹介されてい るが,概念として理解しても,日常会話以上にストイックな現 場では発揮されにくい。そのためには概念を理解したうえで, 状況を「見える化」し,コミュニケーショントレーニングを継 続すると効果が得やすい。 結 語 Martin は状況に応じて,個々の質問の重要性が変わってく るということを理解できない多くの学生は,卒前教育で教わる 一通りの医学的質問をすべての患者に“するべきもの”である と間違って理解していると述べている18)。対人援助技法の習 熟には,まず社会的スキルの形成が影響する。理学療法士養成 校からの報告においても,社会的交流機能が低い学生は,自己 効力も低いことが報告されているが19)20),それらの学生がど のように克服したのか,あるいは卒後の経過などに関しての報 告は少ない。理学療法士が感情労働者である以上,労働集約的 であり,そのスキルはサービスそのものに影響を与えるばかり でなく,援助者の精神的な健康が害されると,専門的技術を正 確に行使することが難しくなる。未熟な対人援助は,被援助者 だけでなくチームメンバーや援助者自身にもストレスとなり, 離職へのひきがねともなり得る。臨床教育者は,社会的スキル の習熟に意識を向けるべきであると同時に,患者・家族に対し
てはコンコーダンススキル,コーチング,ティーチング,面談, 臨床教育ではそれに加えクリニカル・クラークシップ,OSCE など様々な戦略的コミュニケーション手法を用い,支援するこ とが重要である。その他にも,Pendleton のルールや SETGO 方略など,コミュニケーションスキルに対するフィードバック の概念モデルは多数存在する18)。同時に,優れたコミュニケー ション能力があり,よきロールモデルになる臨床教育者が必要 である。これは,臨床経験年数で,解決できる問題ではない。 Silverman らは,「コミュニケーションスキルは必要不可欠な ものである。それなしでは,我々の知的努力は簡単に水の泡と なる」と述べている18)。 理学療法診療において援助者は医療の消費者であるという解 釈をすると,医療を与える側,受ける側という契約関係が成り 立つ。対人援助技法はこの契約関係を良好に保つために必要な スキルであると同時に,職場環境を円滑に保ち,燃え尽きや離 職といった問題解決の手掛かりとなる。未来への青写真は,援 助者・被援助者双方に効果的な方向性を示す。現代は対面会話 の不足により,孤独感や信頼関係の希薄感を感じる若手職員は 少なくない。謙虚な姿勢で能動的に働きかけていく職員の育成 が急務な時代ともいえる。 文 献
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10) Boyatzis RE: The competent manager. Wiley, New Jersey, 1982, pp. 20‒21. 11) Oliverio A,川本英明:メタ認知的アプローチによる学ぶ技術.創 元社,大阪,2005,pp. 114‒117. 12) 宮崎 洋,佐々木康浩,他:「見える化」実践のポイント.三菱総 合研究所所報.2006; 47: 134‒155 13) 「あっとおどろく大学教授 NG 集」 http://www.yamagata-u.ac.jp/ gakumu/kyouiku/video.htm(2013 年 7 月 29 日引用) 14) 三宮美智子:メタ認知 学習力を支える高次認知機能.北大路書 房,京都,2008,pp. 55‒59.
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