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CBT実践の中で成人の神経発達症者の自己理解を促すには?

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 98

-CBT実践の中で成人の神経発達症者の自己理解を促すには?

○(企画・司会・話題提供者)金澤 潤一郎1)(話題提供者)大島 郁葉2)(話題提供者)稲田 尚子3)(指 定討論者)小林 茂4,5) 1 )北海道医療大学心理科学部、 2 )千葉大学子どものこころの発達教育研究センター、 3 )帝京大学文学部心理学科、 4 )札幌なかまの杜クリニック、 5 )光の園幼稚園 【企画趣旨】 成人の神経発達症者は不安症などの併存症のみなら ず、家庭・金銭・対人関係の問題など多くの困難さを 抱える。このような方にCBTを実践する際には、問題 に対して行動活性化や暴露反応妨害法などCBTの治療 法を組み合わせていく。しかし、個々の問題に「もぐ ら叩き」をするだけでは、治癒するわけではない神経 発達症のセルフコントロールには繋がりにくい。つま り、問題や症状の軽減や消失だけでなく、長期的には 自身で状況や自らの特性を理解して自己決定しながら 社会適応することが支援目標となる。 そこで本シンポジウムでは、成人の神経発達症者に CBTを実践する際にセルフコントロールの前提となる 自己理解をどのように促すのかに焦点を絞り、 3 名 の先生方から話題提供いただく。具体的には、大島郁 葉先生からは自閉スペクトラム症(ASD)に気づいて ケアするプログラム(ACAT)、稲田尚子先生からはソー シャルシンキングを通したASD児・者の自己理解につ いて、金澤からASDと注意欠如・多動症(ADHD)の併 存についての話題提供である。さらに、小林茂先生か ら同じく自己理解が重要な統合失調症に対する当事者 研究の観点から指定討論をいただくことで、成人の神 経発達症者のセルフコントロールに向けた示唆を得る ことを目的とする。 【話題提供】 『思春期以降の高機能自閉スペクトラム者が自己理解 をする意義-当事者と家族に対する認知行動療法を用 いた心理教育プログラム:ASDに気づいてケアするプ ログラム(ACAT)を通して-』 大島郁葉(千葉大学子どものこころの発達教育研究セ ンター)

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)の早期療育では、社会適応を向上させるために、 「苦手なことを底上げする」ボトムアップ式のトレー ニングが多い。いっぽう思春期にかけては、個々人の 自閉スペクトラム特性を理解し、できるとことは伸ば しできないところは補完するというトップダウン型の アプローチに変容していくことが多く、これらのアプ ローチは対立構造となっている(本田,2014)。つまり 思春期以降のASD者の社会適応は、必ずしも定型発達 者の価値観やふるまいに「近づける」のではなく、個 別性の高い自閉スペクトラム特性を自己理解したうえ で、特性の強みは伸ばし、弱みは補完するというアプ ローチを目指す必要がある。このような補完型のアプ ローチは、個々人の自閉スペクトラム特性の自己理解 の上に成り立つものである。 これらの理論をふまえ、我々は、思春期以降のASD 者に対し、AS特性をもちつつも、特性に対し機能的な 対処方略を高めることでの社会適応の向上を目的とし たCBTによる心理教育プログラム「ASDに気づいてケア するプログラム (Aware and Care for my Autism Spectrum Traits:ACAT) 」を開発した。 ACATは、当事者とその家族に対し、自閉スペクトラ ム特性の自己理解を促し、補完型の支援計画を立てる ことを目的とした全 6 回の心理教育プログラムであ る。現在、千葉大学を中心に多施設無作為化比較試験 を行っている。 本発表では、ACATの概要や開発までの工夫、実際の 事例を紹介し、思春期以降のASD者が自閉スペクトラ ム特性を自己理解することの意義について議論した い。 『ソーシャルシンキングを通した自閉スペクトラム症 児者の自己理解』 稲田尚子(帝京大学文学部心理学科) ソーシャルシンキングは、主に自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder:ASD)児者を対象として、

対人コミュニケーションの質的な障害を認知行動アプ ローチによって改善していくためのメソドロジーであ る。米国でミシェル・ガルシア・ウィナーらによって 開発され、現在では米国のみならず世界各国で導入さ れてきている。 これまでASD児者に対する認知行動療法は、主に併 存する不安や抑うつに適用され、効果も示されてきた が、ソーシャルシンキングのプログラムは、ASDの中 核症状である対人コミュニケーションの問題をダイレ クトに取り扱う点で大きく一線を画す。人は、他の人 自主企画シンポジウム 5

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 99 -と一緒にいるときには常時他の人のことと自分のこと を考えているものであり、それがソーシャルシンキン グである。定型発達児者にとってはあまりにも当たり 前のことであるが、ASD児者にはこれが困難であるた めに、自分のペースでばかり話したり、人前で鼻をほ じるなどの行動が起きる。ソーシャルシンキングを教 えるプログラムの一例では、「誰かが自分のことばか り話すと、他の人は自分のことを考えてもらってない ような気がする。いやな気分になる。」と、なぜ問題 があるか、相手はどんなことを考えたり感じたりする のかを言語化する。自分の行動およびそれが相手の思 考や感情にどのような影響を及ぼすのかについて、セ ルフモニタリング能力を向上させるアプローチと言い 換えることもできよう。ASDの認知障害仮説である心 の理論の障害、中枢性統合の脆弱性、実行機能障害の 特徴を考慮して、ASD児者が理解できるように視覚化 して教える点もその特徴である。 本発表では、ソーシャルシンキングのプログラムの 実際を紹介し、ASD児者のセルフモニタリングと自己 理解について議論したい。 『成人のASDとADHD併存事例の自己理解』 金澤潤一郎(北海道医療大学心理科学部) DSM-5でASDとADHDの併記が認められるようになった こともあり、臨床上でもそれらの併存する方へのCBT のニーズが増している。実際、ASD患者の中でADHDを 併存する者は68.1%という報告もあり(Magnúsdóttir et al., 2016)、ASDとADHDの併存を考慮せざるを得な い状況である。 ASDと自己理解に関する先行研究では、ASD者は定型 発達者と比較して恥の感覚をもちやすく、外在化をし やすく、罪悪感と自尊心が低いことが示されている (Davidson, Vanegas, & Hilvert, 2017)。また、ADHD とASDを併存する場合、成人であっても社会的認知能

力は低下し(Bora & Pantelis, 2016)、ASDの社会的 認知能力は、ADHD症状の中で多動性症状とは有意に関 連せず、不注意症状と衝動性症状と有意に関連する (Sokolova et al., 2017)。 A D H D と 自 己 理 解 に 関 す る 先 行 研 究 と し て、 Humphreys et al.(2016)はADHD症状と機能障害を社 会的意思決定能力が媒介することを報告している。さ らにMitchell et al.(2013)は成人期のADHDとうつ 病を併存する者は、ADHDのみの者、定型発達者と比較 して否定的な自動思考をもちやすい傾向があるとして いる。 当日はその他の先行研究を踏まえ、成人でASDと ADHDが併存する患者へのCBT実践での工夫について話 題提供する予定である。 【指定討論】 小林 茂(札幌なかまの杜クリニック/光の園幼稚園) 当事者研究とは、浦河べてるの家と浦河赤十字病院 精神神経科の実践から開発された精神障害当事者自身 のためのプログラムである。主として統合失調症と依 存症の当事者がユーザーとなってプログラムが担われ てきた。統合失調症の治療の難題として挙げられるこ との一つに病識の問題が挙げられるが、浦河では疾患 の消失よりも具体的な生きる苦労の取戻しを重視して きた。当事者研究では、実際の生活場面において起こ るさまざまな苦労の現実を“研究”という視点でとら えなおし、自らの自己・状況理解を展開する。 こうした当事者研究の特徴は、大島郁葉先生のASD に気づいてケアする個々人の自閉スペクトラム特性の 自己理解や、稲田尚子先生のセルフモニタリング能力 を向上させるアプローチ、金澤潤一郎先生の自己理解 から認知行動療法に機能的につなげる視点とも共通す る特性があるものと考える。指定討論者として、当事 者研究のアプローチの視点から発題を検討したい。 自主企画シンポジウム 5

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