Kobe University Repository : Thesis
学位論文題目
Title
ディーゼル機関サイクルの損失分析と熱効率向上の研究
氏名
Author
吉田, 駿司
専攻分野
Degree
博士(工学)
学位授与の日付
Date of Degree
2005-03-11
資源タイプ
Resource Type
Thesis or Dissertation / 学位論文
報告番号
Report Number
乙2796
権利
Rights
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D2002796
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Create Date: 2018-05-01
神戸大学博士論文
ディーゼル機関サイクルの損失分析と
熱効率向上の研究
平成17年1月
目 次
主な記号 第 1 章 序論 1.1 従来の研究と本研究の目的 ··· 1 1.2 最近のディーゼル機関の発展と熱効率向上の歴史概観 ··· 1 1.3 本研究の特徴と概要 ··· 3 第 2 章 理論サイクルにおけるエクセルギー損失分析と熱効率向上 2.1 緒言 ··· 7 2.2 サイクル状態線図 ··· 7 2.3 解析条件 ··· 9 2.4 熱効率とエクセルギー損失 ··· 10 2.5 閉じた系と流れ系におけるエクセルギー及びエクセルギー損失算出式 ··· 12 2.6 無過給ディーゼル機関理論サイクル各過程のエクセルギー損失算出式 ··· 13 2.7 排ガスターボ過給ディーゼル機関理論サイクル各過程のエクセルギー損失算出式 ···· 23 2.8 理論サイクルにおけるエクセルギー損失発生の様相 ··· 37 2.9 理論サイクルの熱効率向上対策 ··· 42 2.10 結言 ··· 42 第 3 章 理論サイクル熱効率に及ぼす変数の影響 3.1 緒言 ··· 44 3.2 等価カルノーサイクルと相似無次元数 ··· 44 3.3 相似サイクル ··· 49 3.4 過給ディーゼル機関サイクル変数の影響と熱効率向上 ··· 55 3.5 結言 ··· 63 第 4 章 受熱パターンによる最高温度の変化とエクセルギー損失の増加 4.1 緒言 ··· 64 4.2 解析条件 ··· 64 4.3 受熱パターン ··· 64 4.4 受熱パターンを考慮したサイクルにおける最高温度と線図損失係数の変化 ··· 68 4.5 理論サイクルにおける最高温度比と線図損失係数の選定 ··· 76 4.6 結言 ··· 76 第 5 章 燃焼室冷却によるエクセルギー損失の変化 5.1 緒言 ··· 775.2 燃焼室冷却損失による熱効率の変化 ··· 77 5.3 燃焼室冷却による受熱パターン変化 ··· 78 5.4 燃焼室冷却によるエクセルギー損失の変化 ··· 79 5.5 理論サイクル計算におけるシリンダ冷却の取扱い方法 ··· 80 5.6 結言 ··· 81 第 6 章 作動ガス質量変化、膨張比変化及び過給機損失を考慮したエクセルギー損失総合評価 6.1 緒言 ··· 82 6.2 シリンダ内過程のエクセルギー損失と状態値 ··· 82 6.3 掃気過程のエクセルギー損失と状態値 ··· 102 6.4 過給過程のエクセルギー損失と状態値 ··· 119 6.5 サイクル出力 ··· 133 6.6 結言 ··· 137 第 7 章 排ガスターボ過給機性能向上によるエクセルギー損失の低減 7.1 緒言 ··· 138 7.2 過給機効率によるエクセルギー損失の変化 ··· 138 7.3 過給機効率改善によるサイクル熱効率向上 ··· 149 7.4 結言 ··· 154 第 8 章 ディーゼル機関コンバインドサイクルの可能性 8.1 緒言 ··· 155 8.2 解析条件 ··· 155 8.3 サイクルとエクセルギー損失 ··· 156 8.4 熱解離による最高温度の変化 ··· 158 8.5 膨張比増加によるエクセルギー損失低減 ··· 163 8.6 給気無冷却によるエクセルギー損失低減 ··· 165 8.7 給・排気熱交換によるエクセルギー損失低減 ··· 169 8.8 結言 ··· 172 第 9 章 総括 ··· 174 参考文献 ··· 177 謝辞 ··· 179
主な記号 cp :作動ガス定圧比熱 [kJ/(kg・K)] cv :作動ガス定容比熱 [kJ/(kg・K)] EF :供給燃料化学エクセルギー [kJ/cycle] E1 :供給エクセルギー [kJ/cycle] E2 :全損失エクセルギー [kJ/cycle] EHi :断面iの作動ガスエクセルギー [kJ/cycle] ELij :i,j間で発生する未利用エクセルギー [kJ/cycle] EUi :状態iの作動ガスエクセルギー [kJ/cycle] ΔEC :冷却材エクセルギー増加 [kJ/cycle] G :作動ガス質量 [kg/cycle] GB :吹抜け給気質量 [kg /cycle] GF :供給燃料質量 [kgF/cycle] Gi :状態iの作動ガス質量 [kg/cycle] GR :再循環排気質量 [kg /cycle] ΔGij :i,j間作動ガス質量変化 [kJ/cycle] HH :燃料高位発熱量 [kJ/kgF] Hi :状態iの作動ガスエンタルピー [kJ/cycle] HL :燃料低位発熱量 [kJ/kgF] Iij :i,j間で発生するエクセルギー損失 [kJ/cycle] δIF :燃料反応エントロピーによるエクセルギ-損失 [kJ/cycle] l :連接棒長 [m] L :全空燃比 [kg / kgF] L0 :理論空燃比 [kg / kgF] pi :状態iの作動ガス圧力 [kPa] Q1 :サイクル受熱量 [kJ/cycle] Q2 :サイクル排熱量 [kJ/cycle] r :クランク半径 [m] R :作動ガス気体定数 [kJ/(kg・K)] RB :吹抜け給気質量比 (=GB/G1) [-] RF :供給燃料質量比 (=GF/G1) [-] RR :再循環排気質量比 (=GR/G1) [-] Si :状態iの作動ガスエントロピー [kJ/(K・cycle)] TH :等価カルノーサイクル受熱温度 [K] Ti :状態iの作動ガス温度 [K] TL :等価カルノーサイクル排熱温度 [K] Ui :状態iの作動ガス内部エネルギー [kJ/cycle] Vi :状態iの作動ガス体積 [m3]
Wij :i,j間で取出す有効仕事量 [kJ/cycle] W :ピストン出力 [kJ/cycle] WE :排気行程時ピストンが作動ガスに与える仕事 [kJ/cycle] WI :給気行程時作動ガスがピストンに与える仕事 [kJ/cycle] WSC :掃気出力 [kJ/cycle] WTC、WGT :過給機有効出力、ガスタービン出力 [kJ/cycle] x :ピストン変位量 [m] x23 :等容受熱過程での作動ガス質量増加率 [-] x34 :等圧受熱過程での作動ガス質量増加率 [-] x45 :等温受熱過程での作動ガス質量増加率 [-] ε、εC :圧縮比 (=V1/V2) [-] εE :膨張比 (=V6/V2) [-] ζC :冷却損失率 [-] ζD :線図損失係数 [-] ηB :過給機ブロワ効率 (=ΔH0BS/ΔH0B) [-] ηE :エクセルギー効率 [-] ηGT :ガスタービン効率 [-] ηH :熱効率(エンタルピー効率) [-] ηM :過給機機械効率 (=ΔH0B/ΔHTE) [-] ηT :過給機タービン効率 (=ΔHTE/ΔHTES) [-] ηTC :過給機総合効率 (=ΔH0BS/ΔHTES) [-] θ :クランク角度 [deg] θ1 :初期受熱期間(クランク角度) [deg] θ2 :定常受熱期間(クランク角度) [deg] θ3 :後期受熱期間(クランク角度) [deg] κ :作動ガス比熱比 (=cp/cv) [-] λ :空気過剰率 (=L/L0) [-] ξ :燃焼無次元数 (=φλτ1) [-] πM :最高圧力比 (=p3/pS) [-] πS :過給圧力比 (=pS/p0) [-] πTS :タービン入口圧力比 (=pT/pS) [-] τ1 :圧縮開始点温度比 (=T1/T0) [-] τH1 :等価カルノーサイクル受熱温度比(=TH/T1) [-] τL1 :等価カルノーサイクル排熱温度比(=TL/T1) [-] τM :最高温度比 (=T4/TS) [-] τM1 :最高温度比(圧縮開始点基準) (=T4/T1) [-] τS :給気温度比 (=TS/T0) [-] φ :環境無次元数 (=(L0/HL)cpT0) [-]
ここで、
1)作動ガス単位質量(kg)当りの量はvi、si、eF等の小文字で表す。ただし、eF0は燃料の単 位質量(kgF)当り化学エクセルギーを示す。
2)状態値の添字i、jは図2・1~2・4 のサイクル各点を示す。
第 1 章 序 論
1.1 従来の研究と本研究の目的 本研究は、単独の熱機関で最高の熱効率を持つ排ガスターボ過給ディーゼル機関の性能評価に対し て、エクセルギー概念を適用した新しい理論を確立するとともに、更なる熱効率向上の可能性及びそ の実現のために追求すべきことを明確にすることを目的とする。 これまで精力的に行われてきた熱効率向上研究においては、熱力学第一法則に基づくエンタルピー バランスを主体に、計算や実験の結果得られるサイクル全体の熱効率の値をもって評価が行われてき た。そこではサイクル中のエネルギー出入状況はサンキー線図を用いて説明され、供給熱量である燃 料発熱量がサイクルの結果として得られる出力と排気損失、冷却損失等環境に廃棄される損失の合計 に等しいことから、熱効率の向上はこれら廃棄エネルギーの低減にあると理解され、機関内部の不可 逆現象の改善も廃熱回収も同列に論じられてきている。従って、その結果から損失が発生している箇 所や量の分析、さらに個々の不可逆過程の改善に対する評価及び対策の限界を把握することは難しく、 機器の改良に対する具体的指針を得ることも困難であった。熱力学第一法則とp-v線図のみを用い て評価する限りこれが限界である(1)。 上記観点から、本研究では熱力学第二法則に基づいて、ディーゼル機関、特に排ガスターボ過給デ ィーゼル機関サイクル各過程の不可逆現象に起因して発生する有効エネルギー(以後、エクセルギー) 損失の発生箇所とその量の明確化を図り、更なる熱効率の改善対策を検討する。従来、エクセルギー 概念は蒸気原動所やガスタービン等の原動機システムのみならず。多くのエネルギー利用システムの 熱効率評価においてその有効性が確認されている(2) (3) (4)。しかしディーゼル機関を始めとする往復動 内燃機関サイクルの評価に適用された例は非常に少なく、最近文献(5)(6)にその適用が見られるも、特 定事項に対する例示のみで、現実のディーゼル機関サイクルに対してエクセルギー概念を適用、分析 した例は見当たらない。 1.2 最近のディーゼル機関の発展と熱効率向上の歴史概観 ディーゼル機関は、Rudolf Diesel が 1893 年にその考案を発表し 1898 年に 1 号機を完成して以来 100 年を越えるが、本質的に優れた特性から今や単独の熱機関として最高の約 50%に達する熱効率を 持つ熱機関となった。粗悪燃料油に対する適合性の拡大、信頼性の向上及び自動化に対する適合性の 向上等に関する開発改良とも相まって、他形式熱機関及びディーゼル機関同士間での熾烈な競争の結 果、特に石油ショック以降そのシェアを拡大し、舶用機関においては蒸気タービン・ボイラを主機関 とするLNG船およびガスタービンを主機関とする艦艇等の特殊用途を除く,商船用の主機関および 発電用機関として他の熱機関をほとんど駆逐し独占的に使用されるに到っている。陸用においては中 小出力でも熱効率が優れることから、離島での常用発電用原動機として独占的に適用され、中小型コ ージェネレーション用機関としても最も多く使われており、さらにバス、トラック等大型車両用機関 の主流ともなっている。 大出力ディーゼル機関の発展をリードしてきた舶用主機関を中心として、最近40 年間のディーゼ ル機関に関する主な開発及び周辺状況を概観する(7)と以下のようになる。(1)大出力化とそれを実現するための出力率の向上 シリンダ直径の増大に加えて、平均有効圧力の上昇とピストン速度の増加によるシリンダ断面積 当り出力率の向上が図られてきた結果、ディーゼル機関は高速コンテナ船等の大出力推進用に到る 舶用主機関の全出力範囲を網羅することになり、今や蒸気プラントとの出力上の境界がなくなって しまった。その中で平均有効圧力上昇に要求される過給の高圧化に適合する過給機の開発が併せて 行われてきた。 (2)熱効率の向上 シリンダ内最高圧力の上昇を主としたサイクル条件の高度化、燃料噴射システムの開発改良を基に した燃料噴射強度の上昇による燃焼の改善、燃焼室冷却の改善による冷却損失の低減、管路圧力損失 減少及び過給機効率向上による給排気システムでの損失低減等あらゆる方面での開発改善が持続的 に行われてきた。またこれらの熱効率への影響を評価する計算法も開発されてきた。 これらを踏まえ、初期投資を最小にするため出力率最大仕様を採るか、運転費を最小にするため熱 効率最高仕様を採るかの選択を可能にする、フレキシブルな出力レイアウトまで準備されるようにな ってきた。 (3)粗悪燃料油に対する適合性の向上 軽質油成分の溜出割合増加に伴う舶用ディーゼル燃料の粗悪化に起因して、粘度の低下による供給 システムのトラブル、硫黄酸化物による低温腐食、ヴァナジウム酸化物による高温腐食、FCC触媒 粒子による異常磨耗、芳香族燃料成分による異常燃焼等幾多のトラブルが発生した。それらに対する 原因究明と解決の経験を基にして、燃料性状を評価し不適合燃料を識別する方法と適合燃料仕様の確 立、清浄装置等の燃料供給システムの開発、適合する潤滑油の開発と仕様の明確化、燃料噴射系及び 燃焼室の適合技術等の開発が行われ、現在では燃料油に起因するトラブルは非常に少なくなった。 (4)信頼性の向上と運転の無人化の実現 大出力化、熱効率向上及び粗悪燃料の適用等厳しくなる使用条件に耐える燃焼室構造の開発、潤滑 システムの開発、燃料供給及び噴射システムの高度化、運転監視システムの開発等により機関の信頼 性は格段に進歩し、無人化運転も実現された。 (5)各種省エネシステムの開発実用化 まず実用化されたのは温度レベルが高い排ガスからのボイラによる廃熱回収である。単なる熱源と しての利用に止まらず、蒸気タービン用ボイラ熱源としても利用されている。但し排熱タービンによ る発電はディーゼル機関で回収し得る発電量が少ないため費用対効果が低く大出力機関に限定され、 陸上用機関ではほとんど適用されていない。 次いで実用化されたのは給気冷却器冷却水からの廃熱であり、比較的低温度の熱源を利用できる吸 収式冷凍機用熱源として利用され、舶用では一般的に適用されるに到っている。 今一つの廃熱はシリンダ冷却水からの廃熱の回収である。回収熱量の増加のために冷却水温度レベ ルを通常のシステムよりも上昇させる、いわゆる高温冷却システムも実用されている。
(6)一般商船用市場からの蒸気プラントの駆逐 上記(1)(2)(3)に述べた熾烈な開発競争の結果、経済性、特に燃料経済性においてディーゼ ル機関が蒸気タービンプラントより優れることが明白となり、新造船用主機への適用はもとより既就 航船主機の換装まで実施され蒸気タービンプラントは急速に商船市場からその姿を消して行き、現在 では大形客船用主機にまでディーゼル機関が採用されるに到った。 (7)ユニフロー掃気2行程ディーゼル機関の勝利 大型船推進用における大口径・低速高効率プロペラの採用に対して、プロペラ軸と直結する低速2 行程ディーゼル機関では対応できず、減速装置を用い自由にプロペラ回転数を選択できる中速4行程 ディーゼル機関が独占的に採用され、大出力向けにマルチエンジンシステムまで開発実用された。遂 には低速2行程機関においても、困難な捩り振動問題を回避する方法を開発しつつ船内発電機/モー タまで直結し綜合熱効率を極限まで高めた減速式推進システムが開発され実用化された。 これに対して低速プロペラと直結できる、超低速のロングストローク2行程ディーゼル機関が開発 されるに及んで状況は一変した。ユニフロー掃気式が次々とロングストローク低速化を進める中で、 それまで競合していたループ式掃気及び横断流掃気は成立しなくなり、それらを標榜する2行程機関 は次々と市場から姿を消し、伝統ある機関メーカも生産を中止し、さらにユニフロー式掃気に基本設 計を変更するメーカも現れた。 また、機関単体で熱効率が劣る中速4行程ディーゼル機関も低速プロペラに直結し得るロングスト ローク・ユニフロー低速2行程機関に対抗できず大型船市場から消えて行き、内航船或いは域内船と いった機関室スペースを小さくすることを要求される中小型船用主機及び客船用主機に限定して生 き残ることになった。 (8)ターボコンパウンドシステムの実用化 排ガスターボ過給機を単なるブースト用のみでなく、ガスタービンとして発電機と結合あるいはク ランク軸と減速装置を介して結合して外部に出力を取出すターボコンパウンドシステムが開発され 舶用及び陸用に実用化された。しかし過給機効率の余裕が十分でなかったため取出し得る出力が小さ く特に部分負荷時には急激に小さくなること、更に出力取出し装置のコストが高いことから期待され たほど費用対効果が得られなかったため、まだ一般に広く利用されるには到っていない。 (9)ガス燃焼ディーゼル機関の開発実用化 ガス機関の歴史は古くヨーロッパでは消化ガスを燃料とする発電プラントも稼動しているが、日本 国内ではそれほど普及していない。しかし最近見直されつつあるのが2 つの方向である。1 つはLN Gタンカー主機用を目指した高圧噴射式ガス機関である。オーストラリアのガス油田開発時に日本に 輸送するLNGタンカーの建造計画に際して、断熱技術の向上と再液化技術の向上から商品である主 機燃料とされるボイルオフガスの消費をできる限り抑制したいと言う船主から、従来の蒸気推進プラ ントを燃焼消費率が格段に優れるディーゼル方式ガス機関の開発がLNGタンカーオファーの条件 として要求された。造船メーカと一体である大型ディーゼル機関メーカ各社は開発にしのぎを削り完 成にまで漕ぎ着けたが、最終的には時期尚早と判断され従来どおり蒸気プラントが採用され現在に到 っている。しかし、最近再び採用の機運が高くなって来ている。
もう1 つは陸上コージェネ用予混合式ガス機関である。燃料のLNGが硫黄を含まないこと、供給 配管網が整備され燃料油のような供給設備が不要であること及び熱効率が優れることから、ガスター ビンと競争してその市場を伸ばしつつある。 (10)大気汚染防止技術の開発 現在ディーゼル機関に投げられている最も重要な課題は、NOX、SOX、ハイドロカーボンを含む 煤塵等による大気汚染に対する防止技術の確立である。定置型設備に対する規制の強化に加えて、舶 用設備に対するIMO規制も整備されてきた。 SOXに対しては年々規制が強化され、それに対応して根本原因である燃料からの脱硫技術が開発 され著しく改善されてきている。 NOXと煤塵の発生に関しては燃料に起因する部分は少なく、大部分がディーゼル機関内の燃焼過 程で発生する。これら、特にNOX低減に関しては熱効率向上とトレードオフの関係が云々されたこ ともあるが、最近では燃料噴射系の改善、電子制御による燃料供給・噴射システムの開発等による燃 焼の改善による発生の抑制、及び燃焼ガスからのこれら物質の除去の両面からの研究開発が精力的に 行われている。 以上に概観した最近の歴史から以下のことが言える。 1)熾烈な開発競争と急激な変遷の歴史を貫いている原理は経済性の追求である。中でも最も重要な ものはコストの大半を占める燃料費用の低減であり、努力の大半がそれを達成するための熱効率向上 に注がれてきた。 2)本質的に熱効率で優位に立つ熱機関が最終的に生き残り、負けたものは優位な環境条件が成立す る特殊領域に限定して使用され、その領域のないものは消え去るのみと言う冷厳な歴史の現実が見ら れる。この熾烈な競争の結果選ばれたのが排ガスターボ過給ディーゼル機関である。 3)経済性の向上を実現する最も基本的な法則である単機当り出力の増大は、ディーゼル機関におい ても初期段階に現れたが、船舶の大型化が止まった時期からは見られない。またボイラの発達におい て経験されたような出力の増大に伴う基本的原理の変化は顕著ではない。 4)地球の有限性(特に資源、環境面において)が益々強く認識されるようになり、最重要課題であ る生命のよりよい存続を実現するため、人間の行動を決めてきた経済性の追及が制限を受けるように なりつつある。 5)熱機関において資源消費の抑制、地球環境負荷低減、経済性向上を同時に実現するための基本手 段である熱効率の向上に対する要求は益々強くなってきている。現在の主原動機である熱機関で発生 する本質的損失がどこにあるかを理解し、その低減を極限まで追求することが緊急の課題である。そ こには最終的に熱機関が主原動機の座から降りねばならない可能性をも秘めている。 1.3 本研究の特徴と概要 本研究は以下を特徴とする。 1)熱機関単体で最も高い熱効率が達成された最近の高出力・高効率ディーゼル機関の主流である静 圧方式排ガスターボ過給ディーゼル機関の理論サイクルを対象とする。 2)閉じた系であるシリンダ内過程、定常流れ系である過給機内過程、及び両者を結合する掃気過程
を統一した考えの基に、全サイクルの各過程で発生するエクセルギー損失の算出方法を確立する。 3)理論サイクル各過程のエクセルギー損失を求め、熱効率向上を阻害している損失の発生原因とな っている不可逆現象を明らかにし、その改善方向と対策による効果及び限界を明らかにする。 4)以上を基に、更なる熱効率向上を目指したコンバインドサイクルシステムの可能性を探る。 5)本研究は、実験的研究では困難な基本特性把握を理論的に追求することに主眼を置いており、実 験結果との照合は実施していない。 以下、本研究の概要を、章を追って記述する。 本第1 章では、研究の目的を述べると共に、近年における舶用主機関市場で繰り広げられてきた歴 史を概観し、競争の結果排ガスターボ過給ディーゼル機関が最終的に生残ってきた必然性を述べ、本 研究の対象とした理由を説明した。最後に各章の概要を述べる。 第2章は本研究の骨格を成すものであり、排ガスターボ過給ディーゼル機関の基本システム構成と それを表現する最も単純化した新しい理論サイクルを提示した。排ガスターボ過給ディーゼル機関サ イクルは、閉じた系であるシリンダ内過程、定常流れ系である過給過程、及び両者を結合する掃気過 程から構成される。これら全過程を統一してサイクル各過程で発生するエクセルギー損失の算出式を 導き出した。 エクセルギー損失が、発生する過程毎に廃熱利用で回収し得る未利用エクセルギーと発生過程の不 可逆現象を改善する以外に回収不可能な無効エネルギーとに分かれ、それらがT-s線図上でいかに 表されるか確認した。 以上によりモデル化された無過給機関理論サイクル、排ガスターボ過給4行程機関及び2行程機関 理論サイクルの各過程におけるエクセルギー損失を算出し、サイクル熱効率を支配する損失の発生原 因となる不可逆過程を明確にすると共に、熱効率向上のための方向及び対策を各過程エクセルギー損 失低減対策として位置付けした。 第3章では、第2 章で提示した単純理論サイクルのエクセルギー損失及び熱効率に及ぼすサイクル 変数の影響について検討した。排ガスターボ過給機関サイクルと受熱量、排熱量及びエクセルギー損 失が等しく熱力学的に等価なカルノーサイクルが存在することを示し、これから熱効率を決定する無 次元数を導き出した。無次元数が等しいサイクルはT-s線図上で相似となり、エクセルギー損失及 び熱効率が等しくなることを確認した。 個々のサイクル変数が、相似無次元数の変化を通してエクセルギー損失に影響を与える状況を確認 した。 第4章では、第2 章の単純理論サイクルで考慮しなかった燃料燃焼の時間的変化、すなわち作動ガ ス受熱パターンの変化がエクセルギー損失及び熱効率に与える影響を明らかにし、T-s線図上でそ の様相を確認した。これによりサイクル熱効率向上を目的とした燃料噴射及び燃焼改善等による受熱 パターン改善の目指すべき方向を明確にした。 第5章では、第2 章の単純理論サイクルで無視した燃焼室冷却損失がエクセルギー損失に及ぼす影 響について検討した。従来冷却損失の低減はそのまま熱効率の向上には結び付かないと言われている が、エクセルギー損失の変化を確認することにより理由を説明し得ることを示し、冷却損失低減を有 効に利用する方法について述べた。 第6章では、第2章で提示した単純理論サイクルにおいて無視していた、作動ガス質量変化、膨張 比/圧縮比の変化、過給機内損失等を考慮に入れた、現実の排ガスターボ過給ディーゼル機関サイク
ルに近い理論サイクルのモデルを設定し、各過程エクセルギー損失及びサイクル各点状態値算出式を 導出した。これは次章以降に展開する排ガスターボ過給ディーゼル機関サイクルの総合的熱効率向上 検討のための基礎式を準備するものである。 第7章では、第6 章の基礎式を用いて過給機内のタービン損失、ブロワ損失及び機械損失により発 生するエクセルギー損失を求め、過給機効率の改善をサイクル熱効率の向上に有効に活かすための方 法を論じた。通常の排ガスターボ過給機関サイクルでは過給機効率の改善がサイクル熱効率向上に有 効に反映されない理由を明らかにし、過給機効率の改善を熱効率向上に最大限に利用する手段として、 一般的に普及するに到っていないターボコンパウンドシステムを再評価する必要性を述べた。 第8章では、前章で再評価したターボコンパウンドシステムを発展させ、ディーゼル機関シリンダ 内サイクルをトッピングサイクルとし、シリンダ内サイクルを燃焼器と見なしたガスタービンサイク ルをボトミングサイクルとするコンバインドサイクルを対象として、総合的な熱効率向上対策につい て検討した。両部分サイクルの結合条件を変化させることにより、特に掃気過程エクセルギー損失を 低減し得ることを示した。更に熱効率向上を達成し得るシステムの可能性と、その実現のために必要 な対策について考察した。 第9章では、本研究で得られた結果を総括し、排ガスターボ機関サイクルの熱効率向上においてエ クセルギー損失解析が強力な武器であることを述べると共に、更なる熱効率向上を達成するための今 後の課題について述べた。
第 2 章 理論サイクルにおけるエクセルギー損失分析と熱効率向上
2.1 緒言 本章では、静圧方式排ガスターボ過給ディーゼル機関のシステム構成とそれを表現する新しい理論 サイクルを提示し、これに対してエクセルギー損失が発生するすべての過程及びその量を以下の手順 で明らかにする。 1)新しいシリンダ内理論サイクルの設定 シリンダ内作動ガスの状態変化を模擬する理論サイクルとして、中高速ディーゼル機関に対しては サバテサイクルが、低速機関に対してはディーゼルザイクルが従来一般的に用いられている。そこで は燃焼・受熱過程に関係なく受熱は最高圧力・温度で終了し、受熱終了点エントロピーが実際の機関 より大幅に小さくなる。そのため熱効率を支配する受熱過程エクセルギー損失が過小評価されるのに 加えて、燃焼・受熱過程の影響も評価できない。これを改善するためここでは最高温度での等温受熱 過程を付加し、設定した空気過剰率で燃焼・受熱が終了する、より実際に近い、等容・等圧・等温受 熱を以下の議論を進めるための理論サイクル受熱過程として採用した。 但し、サバテサイクル、ディーゼルサイクル及びオットーサイクルは、いずれも上記理論サイクル の特殊ケースとして包含されることを断っておく。 2)理論サイクル各過程でのエクセルギー損失算出式の導出 ディーゼル機関サイクルは閉じた系であるシリンダ内過程、流れ系である過給過程、及び両者を結 合する掃気過程から構成される。シリンダ内過程においては充填作動ガスのエクセルギー変化から、 過給過程においては断面を通過する作動ガスのエクセルギーの差から各過程のエクセルギー損失を 求める。 掃気過程に対して、従来の方法では作動ガスの流れに関する連立方程式を代数的に解く方法が一般 的に採られているが、非常に複雑であり掃気過程のエクセルギー損失を求めることは困難である。こ こではシリンダ内膨張過程を終了した作動ガスが定常状態の排気管内作動ガスを排除し、定常状態の 給気管内新気がシリンダ内残留燃焼ガスを押出す、言わば「ところてん式掃気モデル」を採用する。 これにより掃気時の現象が明確に把握できると共に掃気過程のエクセルギー損失を比較的容易に求 めることができる。 3)全損失をT-S線図上で明示する。 各過程エクセルギー損失は発生過程に応じて廃熱利用により回収し得る未利用エクセルギーと後 過程で回収し得ない無効エネルギーに峻別され、T-S線図上で明確に区分して表されることを示す。 この結果を基にサイクル熱効率向上のための方向を明確にすると共に、熱効率上での4行程・2行程 機関サイクルの違い、過給の利点等の基本的事項を明らかにする。 なお、2サイクル行程機関サイクルとしては、最新の大型機関の主流であるユニフロー掃気方式を 対象とする。 2.2 サイクル状態線図 2.2.1 無過給ディーゼル機関理論サイクル 無過給4行程及び2行程ディーゼル機関それぞれのシステム構成と理論サイクルにおける作動ガ図 2-1 無過給4行程ディーゼル機関 図 2-2 無過給2行程ディーゼル機関 のシステム構成と理論サイクル のシステム構成と理論サイクル ス状態変化の概要を図2・1 および図 2・2 のp-v線図及びT-s線図上に対比して示す。シリンダ内 の閉じた系でサイクルは完結しており、4行程と2行程との間で差はない。 2.2.2 排ガスターボ過給ディーゼル機関理論サイクル 排ガスターボ過給4行程及び2行程ディーゼル機関それぞれに対するシステム構成と理論サイク ルにおける作動ガス状態変化を図2・3 および図 2・4 のp-v線図およびT-s線図上に対比して示す。 閉じた系であるシリンダ内充填作動ガスの状態変化過程(圧縮1→2、受熱2→3→4→5、膨張5 →6)と、開いた定常流れ系である過給系内変化過程(タービン内膨張T→E、タービン排気E→0、 ブロワ内圧縮0→B、給気冷却B→S)、及び両者を結合する掃気過程(シリンダ排気6→T、シリ ンダ充気S→1)で構成される。 図 2・4 の破線1→X→Y→Z→1は4行程機関サイクル掃気過程におけるシリンダ内圧力と体積 の変化を示したものであり、作動ガス状態変化を表すものではない。但しその面積は主のサイクルと 同様に掃気行程時にピストンから取出される出力に等しい。 2 3 4 5 6 S E 体積,V 圧 力 , p p3 p1 =p0 2 3 4 5 6 E T4 T1 エントロピー, S 温 度 , T 0=1=X Y=Z 6 1 シリンダ 排気弁 給気弁 E 0 v=v2 p=p3 v=v1 p=p1 =p0 0=1=X Y=Z 2 3 4 5 6 体積,V 圧 力 , p p3 p1 =p0 2 3 4 5 6 0=1 E T4 T0 エントロピー, S 温 度 , T E 6 1 0 シリンダ 排気弁 給気ポート 0=1 E v=v1 p=p1 =p0 v=v2 p=p3
図 2-3 過給4行程ディーゼル機関の 図 2-4 過給2行程ディーゼル機関の システム構成と理論サイクル システム構成と理論サイクル 2.3 解析条件 エクセルギー損失を決定する基本的な要因とその影響を把握するため以下の仮定を設ける。 (1) 作動ガスは狭義の理想気体とする。(気体定数Rは一定、比熱は成分、状態等により変化せ ず一定)(1) (2)燃料供給、漏れ等による作動ガス質量の変化はなく、サイクルを通して一定。 (3)給気吹抜け及び排気再循環はない。作動ガス単位時間当りの過給機ブロワ吐出質量、シリン ダ内充填質量及び過給機タービン流入質量は等しい。 (4)完全掃気が成立する。シリンダ内作動ガスはすべて下死点まで膨張し、下死点において排気 1 2 3 4 5 6 T 0 E B S T4 T0 T1 エントロピー, S 温 度 , T 2 3 4 5 6 1 S B 0 T E 体積,V 圧 力 , p p3 p1 p0 Y X Z v=v2 p=p3 v=v1 p=pS p=p0 E 0 T B 6 1 過給機 給気冷却器 S シリンダ 排気弁 給気弁 タービン ブロワ X Y Z 2 3 4 5 6 1 S B 0 T E 体積,V 圧 力 , p p3 p1 p0 1 2 3 4 5 6 T 0 E B S T4 T0 T1 エントロピー,S 温 度 , T v=v2 p=p3 v=v1 p=pS p=p0 E 0 T B 6 1 過給機 給気冷却器 S シリンダ 排気弁 給気ポート タービン ブロワ
管内に排出膨張し圧力は排気管内圧力に等しくなる。燃焼ガスは2行程機関では下死点にお いて、4行程機関では排気行程終了上死点において完全に排気管内に排出され、シリンダ内 には新気が充填される。 (5)受熱過程での状態変化に対応して燃焼が行われ、燃料発熱量はすべて作動ガスに伝達される。 作動ガスと燃焼室壁との間、掃気中の燃焼ガスと給気との間等での熱交換はない。 (6)作動ガスの流動による圧力損失はない。 (7)ピストン・シリンダライナ間の摩擦はなく、作動ガスの圧力はすべてピストンに伝達される。 (8)過給機損失はなく、過給機総合効率は100%とする。 2.4 熱効率とエクセルギー損失 過給ディーゼル機関理論サイクルのエクセルギーの流れを図2・5 に示す。投入エクセルギーE1(= 燃料化学エクセルギーEF)のうち反応エントロピーに対応するエクセルギーδIFは反応物質内で無 効エネルギーとなり、残りの低位発熱量HLに対応する熱量Q1が作動ガスに伝達される。各過程でI ijのエクセルギー損失或いは未利用エクセルギーELijが生じ、最終的に出力Wが得られる。タービ ン排気及び給気冷却材よりの廃熱回収を行わない場合、未利用エクセルギーELE0及びELBSは環境 中に放出され、損失となる。 図 2・5 過給ディーゼル機関理論サイクル内のエクセルギー流れ 燃料の化学エクセルギーと低位発熱量の関係は、反応エントロピーΔsRを用いて、次式で表され る(4)(5)。ΔsRは生成系のエントロピー和から反応系のエントロピー和を差引いたエントロピー変化で W ELE0 タービン排気過程 ELBS 給気冷却過程 I6T シリンダ排気過程 I25 受熱過程 δIF 燃焼過程 IS1 給気過程 δIF Q1 E1=EF=Q1+δIF Q2 Q2 E2
あり、それに対応して無効エネルギーδiF0が発生する(1)(2)。 eF0=HL+δiF0 ,δiF0=T0ΔsR ··· (2・1) 燃料化学エクセルギーeF0は一般的に高位発熱量HHと低位発熱量HLの中間の値となり、燃料お よび環境条件を固定した場合一定の値となる。液体燃料の場合にはRant により次式で与えられてい る(5)。 eF0=0.975HH ··· (2・2) 1サイクル中に下記の燃料エクセルギーを消費する。 EF=eFG=eF0GF =HLGF+δiF0GF =Q1+δIF ··· (2・3) ここで、Q1= G λL HL 0 ,δIF= G λL δiF 0 0 ··· (2・4) δIFは燃焼時に発生する無効エネルギー(エクセルギー損失)であり、作動ガスの加熱には全く寄 与しない。1サイクル当り入出熱量Q1、Q2、供給エクセルギーE1、全損失エクセルギーE2を用 いてエクセルギー効率及びエンタルピー効率は次式で表される。 ηE= 1 2 1- E E ··· (2・5) ηH= 1 2 1- Q Q ··· (2・6) 燃料及び供給作動ガスの顕熱を無視すると、E1及びE2は次式で表される。 E1=EF ··· (2・7) E2=ΣIij+δIF ··· (2・8) 式(2・7)(2・8)を(2・5)(2・6)に代入すると以下の関係が得られる。 ηE= F ij ij E δI I + Σ 1- ··· (2・9) = F ij ij F E δI I δI Q1+ -(Σ + ) = F ij E I Q1-Σ ηH= 1 Σ 1- Q Iij ,Q2=ΣIij ··· (2・10) 両者の比は次式となる。 H E η η = F E Q1 = F F E δI 1- ··· (2・11) 一般的にはδIFは正であるため、ηHはηEより僅かに高い値となる。サイクル各過程のエクセル ギー損失合計ΣIijを求めれば、以上の関係式より両効率は決定される。燃料及び環境を固定した条 件では反応エントロピーも固定され、ηHとηEの比は一定となる。サイクル自体の評価にはδIFは 関係しないため、ηHの方が直接的である。 各過程のエクセルギー損失率、 iij/q1=Iij/Q1 ··· (2・12) を調べることにより、式(2・10)より各過程の不可逆現象がηHに与える影響を評価することができ
る。 サイクルの熱効率を対象とする本研究においては、燃料に固有であるδIF及びその低減について は対象としないため、式(2・10)から得られるηHを対象として議論を進める。 2.5 閉じた系と流れ系におけるエクセルギー及びエクセルギー損失算出式 2.5.1 閉じた系 シリンダ内に充填された作動ガス塊はサイクル各過程において外部系あるいは環境と仕事および 熱の授受を行い状態が変化する。その状態変化中の不可逆過程に伴って発生した無効エネルギーは最 終的には未利用エクセルギーとともにすべて作動ガスの内部エネルギー一部となりシリンダ外に排 出される。この閉じた系においてサイクル状態点iにある作動ガス塊のエクセルギーは、その状態か ら環境と平衡する状態0まで変化する時に取出し得る最大の仕事量、すなわち状態iから状態0まで 可逆変化する時に取出し得る仕事量で定義され、次式で求められる (1)(2)(3)(5) 。 EUi=(Ui-U0)-T0(Si-S0)+p0(Vi-V0) ··· (2・13) 作動ガス塊が状態iから状態jに変化する際にシステム全体において発生するエクセルギー損失 Iijは、作動ガス塊のエクセルギー減少量EUi-EUjに以下の補正を行って求められる。 ①状態変化i→j中に供給された熱量Qijは、状態jの作動ガスエクセルギーEUjを増加させる。 一方燃料等の加熱媒体においては熱量Qijに相当したエクセルギーEFijが消滅する。作動ガス エクセルギー変化にQijは算入されているがEFijは考慮されていないため,加熱媒体を含めた 全体システムのエクセルギー損失としてはEFijを加える必要がある。 逆に作動ガスが冷却される場合には冷却媒体のエクセルギー増加量ΔECijをエクセルギー損 失から差引く。なお熱交換に際しては、冷却媒体は無効エネルギーも同時に受取るため、冷却媒 体の内部エネルギー増加量はエクセルギー増加量ΔECijより大きくなる。 ②状態変化i-j中に外部に与えた仕事により作動ガスエクセルギーEUjは減少する。しかし有効 エネルギーとして取出された仕事Wijは損失ではないのでエクセルギー損失から差引く。逆に外 部から供給された仕事Wijにより作動流体エクセルギーは増加するが、全体システムのエクセル ギーに変化はないので供給された仕事のうち有効エクセルギーとして消費した分Wijをエクセ ルギー損失に加算し補正する必要がある。すなわちWijの符号は作動ガスが外部に与える方向を 負とし、外部から受取る方向を正として加算し補正する。 掃気時には作動ガス塊がシリンダに出入するが、作動ガス塊が下流側の流体に与える仕事および 上流側の流体から与えられる仕事も上記符号と合わせWijに含めて補正する。 以上総合すると、閉じた系であるシリンダ内および掃気過程において流体塊がiからjに状態変化す る際のエクセルギー損失は次式で与えられる。 Iij=EUi-EUj+EFij-ΔECij-Wij ··· (2・14) 2.5.2 流れ系(開いた系) 過給システムにおける作動ガスの流れは、各点の状態値に時間的変化のない定常流と考えられる。 このような流れ系においては各状態点のエクセルギーおよびエクセルギー損失は閉じた系よりも簡 単な形で表現される。作動ガスは定常的にタービンあるいはブロワと言った動力システムの入口検査 面iから流入し、出口検査面jから流出する。作動ガスは入口i-出口j間の動力システムにおいて
外部系と仕事および熱の授受を行い、さらに環境に仕事あるいは熱量を与え、無効エネルギーとして 散逸する。この流れ系の検査面iでのエクセルギーは、その検査面iを入口とし環境と平衡する状態 0を出口とする動力システムで取出し得る最大の仕事量、すなわち可逆動力システムを用いて取出し 得る仕事量で定義され次式で求められる (1)(2)(3)(5) 。なお、ここでは作動ガス塊に対する式(2・2)の エクセルギーEUと区別し流れ系の検査面でのエクセルギーをEHで表現する。 EHi=(Hi-H0)-T0(Si-S0) ··· (2・15) 入口検査面iと出口検査面jとの間に構成される動力システムを用いて仕事あるいは熱の授受を 行う際に発生するエクセルギー損失Iijは、入口i-出口jの作動流体エクセルギー差EHi-EHj に以下の補正を行って得られる。 ①動力システムにおいて供給された熱量Qijは、出口検査面jのエクセルギーEHjを増加させる ため見かけ上損失が減少する。一方加熱媒体ではQijに相当したエクセルギーEFijが消滅する。 Qijは作動流体のエクセルギー変化に算入されているが、Eijは算入されていないため、全体 システムにおけるエクセルギー損失に加える必要がある。 逆に作動ガスが冷却される場合には冷却媒体のエクセルギー増加量ECijをエクセルギー損失 から差引く。この場合も閉じた系の場合と同様に、冷却媒体の内部エネルギー変化量はエクセル ギー増加量よりも大きくなる。 ②動力システムで外部に取出した仕事により作動ガスの出口検査面エクセルギーEHjは減少する が、このうち機械損失等で環境に散逸するエネルギーを除いた有効エネルギーWijとして取出さ れた仕事は損失ではないのでエクセルギー損失から差引く。逆に外部から動力システムに供給さ れた仕事によりEHjは増加するが全体システムのエクセルギーに変化はないので有効仕事Wij をエクセルギー損失に加える。すなわち閉じた系と同様Wijの符号は外部に取出す方向を負とし、 外部から受取る方向を正として加算し補正する。 以上を総合すると、流れ系である過給システムにおけるエクセルギー損失は,次式で与えられる。 Iij=EHi-EHj+EFij-ΔECij-Wij ··· (2・16) なお、閉じた系におけるエクセルギーEUiと流れ系におけるエクセルギーEHjとの間には、エネ ルギー式におけるエンタルピーHと内部エネルギーUの関係 Hi=Ui+piVi に相当する次の関係がある。 EHi=(Ui-U0)+(piVi-p0V0)-T0(Si-S0) =(Ui-U0)+p0(Vi-V0)+(pi-p0)Vi-T0(Si-S0) =EUi+(pi-p0)Vi ··· (2・17) 以上の諸関係式を用いてサイクル各過程で発生するエクセルギー損失を求める。 2.6 無過給ディーゼル機関理論サイクル各過程のエクセルギー損失算出式 2.6.1 シリンダ内過程のエクセルギー損失 4行程機関サイクルと2行程機関サイクルとの間で差はない (1)シリンダ内での等エントロピー圧縮過程1→2:S2=S1、dQ=0 エネルギー保存則、dQ=dU+pdV において、dQ=0
0=U2-U1+ 2 1pdV ∴U1-U2= 2 1
pdV
圧縮行程で作動ガスがピストンを経由して外部に与える有効仕事W12(負)は、作動ガスが与える仕 事量から環境に与える仕事量(負)を差引いた量であり、次式で表される。 W12= 2 1 - 0) (p p dV = 2 1pdV -p0(V2-V1) したがってエクセルギー損失は下記となる。 I12=(EU1-EU2)-W12 =(U1-U2)-T0(S1-S2)+p0(V1-V2)-W12 = 2 1pdV
-T0(S1-S2)+p0(V1-V2) -{ 2 1pdV -p0(V2-V1)} =T0(S2-S1) =0 ··· (2・18) すなわちピストン背面を経由して環境から与えられた仕事は作動ガスエクセルギー変化に含まれる。 (2)燃焼・受熱過程2→3→4→5: 2・4 項に述べた関係を用い、各受熱過程におけるエクセルギー損失を順次求める。 1)等容受熱過程2→3: エネルギー保存則、dQ=dU+pdV において、dV=0 ∴dQ=dU ∴Qv=U3-U2 EFv=Qv+δIFv ここで、EFv=eFvGFvは等容燃焼受熱過程で供給された燃料のエクセルギー、Qv=HLGFv は低位発熱量、δIFv=δIFvGFvは反応エントロピーに対応するエクセルギー損失である。 この過程では取出される有効仕事はない。すなわち、 W23=0 ∴I23=EU2-EU3+EFv-W23 =(U2-U3)-T0(S2-S3)+p0(V2-V3)+(U3-U2)+δIFv-0 =T0(S3-S2)+δIFv ··· (2.19) 2)等圧受熱過程3→4: エネルギー保存則、dQ=dH-Vdp において、dp=0 ∴dQ=dH ∴Qp=H4-H3 =(U4-U3)+p3(V4-V3)EFp=Qp+δIFp この過程で取出される有効仕事量は作動ガスがピストンに与える仕事からピストンが背面で環境に 与える仕事量を差引いて求められる。 W34= 4 3 - 0) (p p dV =p3(V4-V3)-p0(V4-V3) ∴I34=(EU3-EU4)+EFp-W34 =(U3-U4)-T0(S3-S4)+p0(V3-V4)+EFp-W34 =(U3-U4)-T0(S3-S4)+p0(V3-V4) +{(U4-U3)+p3(V4-V3)+δIFp} -{p3(V4-V3)-p0(V4-V3)} =T0(S4-S3)+δIFp ··· (2・20) すなわち環境に与えた仕事も作動ガスのエクセルギー変化の中に含まれる。 3)等温受熱過程4→5: エネルギー保存則、dQ=cvdT+pdV においてdT=0、したがってdU=0 ∴dQ=pdV ∴QT= 5 4pdV EFT=QT+δIFT この過程で取出される有効仕事量は作動ガスがピストンに与える仕事からピストンが背面で環境 に与える仕事量を差引いて求められる。 W45= 5 4 - 0) (p p dV = 5 4pdV -p0(V5-V4) ∴I45=(EU4-EU5)+EFT-W45 =(U4-U5)-T0(S4-S5)+p0(V4-V5)+EFT-W45 =0-T0(S4-S5)+p0(V4-V5)+( 5 4pdV +δIFT) -{ 5 4pdV -p0(V5-V4)} =T0(S5-S4)+δIFT ··· (2・21) 4)燃焼・受熱過程中のエクセルギー損失合計 式(2・19)~(2・21)を合計すると全受熱過程2→5でのエクセルギー損失は下記となる。 I25=I23+I34+I45 =T0(S3-S2)+δIFv+T0(S4-S3)+δIFp+T0(S5-S4)+δIFT =T0(S5-S2)+δIF ··· (2・22) ここで δIF=δIFv+δIFp+δIFT
式(2・22)は、燃焼過程において燃料の化学エネセルギーが熱エネルギーに変換され、作動ガスに 伝達される際に発生するエクセルギー損失を表している。エネルギーは保存されるが、エクセルギー は保存されず、反応エントロピーに対応するエクセルギー損失δIFと、作動ガスにエントロピー増 加に対応した無効エネルギーT0(S5-S2)との和がエクセルギー損失として発生する。 上記エクセルギー損失は熱機関を用いて化学エネルギーを、熱エネルギーを経由して機械エネルギ ーに変換する場合避け得ない不可逆過程により発生するものである。言い換えると、このエクセルギ ー損失は燃焼・受熱過程の改善によってのみ低減可能であり、排熱利用その他の後処理で回収できる ものではない。 2.4 項で述べたように、以降の検討においては反応エントロピーに対応するエクセルギー損失は考 慮せず、δIF=0としてサイクル熱効率に対する評価を行う。従って、 I25=T0(S5-S2) ··· (2・23) ここで、エントロピーS2,S3およびS4は、サイクル計算より求められる状態値を用いて下記の 式(2・24)から算出される比エントロピーに作動ガス質量Gを掛けて算出できるが,S5はエネルギ ー収支から求めなければならない。 si= κ κ i i p p p T c ( -1)/ 0 0 ) / ( / T ln , i=2~4 ··· (2・24) 受熱終了点5のエントロピーS5は次式より求められる。 S5=S4+QT/T4 =S4+{Q1-Qv-QP}/T4 = 4 3 4 2 3 0 4+{ - ( - )- ( - )} T G T T c T T c λL H S L v p ··· (2・25) (3)シリンダ内等エントロピー膨張過程5→6:S6=S5 エネルギー保存則、dQ=dU+pdV においてdQ=0 ∴0=U6-U5+ 6 5pdV ∴U5-U6= 6 5pdV 等エントロピー膨張過程では作動ガスがピストンに与えた仕事量からピストン背面で環境に与え る仕事を差引いて有効仕事が得られる。 W56= 6 5 - 0) (p p dV = 6 5pdV -p0(V6-V5) ∴I56=EU5-EU6-W56 =(U5-U6)-T0(S5-S6)+p0(V5-V6)-W56 = 6 5pdV -T0(S5-S6)+p0(V5-V6)-{ 6 5pdV -p0(V6-V5)} =T0(S6-S5)
=0 ··· (2・26) すなわちピストン背面を経由して環境に与える仕事は作動流体エクセルギー変化に含まれる。 (4)シリンダ内主サイクルにおけるエクセルギー損失合計 1)エクセルギー損失合計 式(2・18)(2・23)(2・26)を合計する。 I16=I12+I25+I56 =0+T0(S5-S2)+0 =T0(S5-S2) ··· (2・27) 主サイクルでは受熱過程で発生する無効エネルギーのみがエクセルギー損失となる。 2)有効仕事合計(出力)の確認 W16=W12+W23+W34+W45+W56 =CvT1-CvT2+p0(V1-V2) :W12 +0 :W23 +GRT4-GRT3-p0(V4-V3) :W34 +QT-p0(V5-V4) :W45 +CvT5-CvT6-p0(V6-V5) :W56 =CvT1-CvT2+p0(V1-V2) +(Cp-Cv)T4-(Cp-Cv)T3-p0(V4-V2) +QT-p0(V5-V4) +CvT5-CvT6-p0(V1-V5) =[Cv(T3-T2)+Cp(T4-T3)+QT]-Cv(T6-T1) =Q1-Q2 ··· (2・28) 環境と授受する仕事は有効仕事としては残らない。 2.6.2 掃気過程のエクセルギー損失 無過給機関サイクルの掃気過程は下記の2過程から成る。 シリンダ内膨張終了点から環境への膨張・排出過程 :6→E 環境からシリンダ内への新気の充填過程 :0→1 4行程機関サイクルと2行程機関サイクルでは掃気過程状況が異なるため以下それぞれ別個に検 討するが、圧力損失のない理論サイクルの場合には両者の間に差は発生しない。 (1)4行程ディーゼル機関の掃気過程 1)エクセルギー損失 4行程機関の掃気過程におけるシリンダからの排気塊およびシリンダに充填される給気塊に対す るエネルギー授受の状況を図2-6 に示す。
図 2・6 無過給4行程ディーゼル機関理論サイクル掃気過程 排気塊に対するエネルギー保存則,ΔQ=ΔU+ΔW においてΔQ=0 ∴0=UE-U6 :排気塊の内部エネルギー変化 +p0VE :排気管内排気に与える仕事 T6,p6 TE,pE=p0 T0,p0 p0 p0 p0 p0 V1=V6 V1-V2 pE WE=pE(V1-V2) -p0(V1-V2) =0 VE V2 p0 WI=p1(V1-V2) -p0(V1-V2) =0 V0 V1-V2 p0 TE,pE=p0 T0,p0 ① 膨張行程終了 排気弁 給気弁 ② 排気管内への 膨張 ③ ピストン による排出 ④1 給気による 排出 ④2 給気による 給気充填 ⑤ ピストン による給気充填 T0,p0 TE、pE pE T1,p1=p0 p0
-p0(V1-V2) :ピストンより受ける仕事 -p0V2 :給気塊から受ける仕事 ∴U6-UE=p0VE-p0V1 ··· (2・29) 排気塊が排気管内排気,ピストンおよび給気塊に与える有効仕事 W6E=p0VE-p0(V1-V2)-p0V2-p0VE+p0(V1-V2)+p0V2 =0 シリンダに充填される給気塊に対するエネルギー保存則、ΔQ=ΔU+ΔW において ΔQ=0 0=U1-U0 :給気塊の内部エネルギー変化 +p0V2 :排気塊に与える仕事 +p0(V1-V2) :ピストンに与える仕事 -p0V0 :給気管内給気から受ける仕事 U0-U1=-p0(V0-V1) =0 ··· (2・30) 給気塊が排気塊,ピストンおよび給気管内給気に与える有効仕事 W01=p0V2+p0(V1-V2)-p0V0-p0V2-p0(V1-V2)+p0V0 =0 以上諸式より掃気過程エクセルギー損失は次式で求められる。 I6E=(E6-EE)-W6E =(U6-UE)-T0(S6-SE)+p0(V6-VE)-W6E =(p0VE-p0V1)-T0(S6-SE)+p0(V1-VE)-0 =T0(SE-S6) ··· (2・31) I01=(E0-E1)-W01 =(U0-U1)-T0(S0-S1)+p0(V0-V1)-W01 =-p0(V0-V1)-T0(S0-S1)+p0(V0-V1)-0 =0 ··· (2・32) ISC=I6E+I01 =I6E =T0(SE-S6) ··· (2・33) 有効仕事(出力)は発生しない。 WSC=W6E+WS1 =0 ··· (2・34) 2)状態値 式(2・29)を作動流体単位質量当りで表現する。 0=uE-u6+p0vE-p0v6 =cvTE-cvT6+pEvE-p6v6po/p6 =(cv+R)TE-(cv+Rpo/p6)T6 ∴TE= R c p Rp c T v v + / + 0 6 6
= κ p p κ T 6 0 6 -1) 1+( ··· (2・35) 式(2・30)を作動流体単位質量当りで表現する。ただし、p1=p0 0=u1-u0+p0v1-p0v0 =cvT1-cvT0+p1v1-p0v0 =(cv+R)T1-(cv+R)T0 ∴T1=T0 ··· (2・36) すなわちシリンダ内圧縮開始点1の状態値は環境条件から変化しない。 ∴v1=v0、s1=s0 (2)2行程ディーゼル機関の掃気過程 1)エクセルギー損失 2行程機関の掃気過程におけるシリンダからの排気塊およびシリンダに充填される給気塊に対す るエネルギー授受の状況を図2-7 に示す。 排気塊に対するエネルギー保存則、ΔQ=ΔU+ΔW において、ΔQ=0 ∴0=UE-U6 :排気塊の内部エネルギー変化 +p0VE :排気管内排気に与える仕事 -p0V1 :給気塊から受ける仕事 ∴U6-UE=p0VE-p0V1 ··· (2・37) 排気塊が排気管内排気および給気塊に与える有効仕事 W6E=p0VE-p0V1-p0VE+p0V1 =0 シリンダに充填される給気塊に対するエネルギー保存則,ΔQ=ΔU+ΔW においてΔQ=0 ∴0=U1-U0 :給気塊の内部エネルギー変化 +p0V1 :排気塊に与える仕事 -p0V0 :給気管内給気から受ける仕事 ∴U0-U1=p0V1-p0V0 =0 ··· (2・38) ただし、V1=V0 給気塊が排気塊および給気管内給気に与える有効仕事 W01=p0V1-p0V0-p0V1+p0V0 =0 以上諸式より掃気過程エクセルギー損失は次式で求められる。 I6E=(E6-EE)-W6E ={(U6-UE)-T0(S6-SE)+p0(V6-VE)}-W6E =p0VE-p0V1-T0(S6-SE)+p0(V6-VE)-0 =T0(SE-S6) ··· (2・39)
図 2・7 無過給2行程ディーゼル機関理論サイクル掃気過程 I01=(E0-E1)-W01 ={(U0-U1)-T0(S0-S1)+p0(V0-V1)}-W01 =0-T0(S0-S1)+p0(V0-V1)-0 =T0(S1-S0) =0 ··· (2・40) ∴ISC=I6E+I01 =I6E =T0(SE-S6) ··· (2・41) エクセルギー損失は4行程機関サイクルの場合と全く同じとなる。 有効仕事(出力)は発生しない。 WSC=W6E+W01 p0 p0 p0 p0 p0 T0,p0 VE V 1 V0 ① 膨張行程終了 ② 排気管内への膨張 ③ 給気による排出 ④ 給気充填 TE,pE=p0 排気弁 給気ポート p0 T0,p0 TE,p0 V1=V6 T6,p6 p0 T0,p0 p0 TE,pE T1,p1
=0 ··· (2・42) 2)状態値 排気塊および給気塊に対するエネルギー式が4行程機関と同一形であることより、TEおよびT1 に対しても4行程機関サイクルに対する式(2・35)(2・36)と同一式が成立する。 2.6.3 排気放熱過程エクセルギー損失 環境圧力まで断熱膨張した状態Eの作動ガスは、環境に放出され環境温度まで冷却され、環境条件 0になる。この過程におけるエクセルギー損失は次式で表される。但し、廃熱回収を行わないとして いるため、ΔECE0=0 IE0=EHE-EH0 =(HE-H0)-T0(SE-S0) =Cp(TE-T0)-T0(SE-S0) (2・43) 上式は作動ガスが環境に放出するエネルギーのうち、受熱過程エクセルギー損失と掃気過程エクセ ルギー損失の合計である無効エネルギーを除いた熱エネルギーのみが排気放熱過程のエクセルギー 損失であることを示している。言い換えると排気に対する廃熱回収を用いたコージェネレーションシ ステムで有効に取出せるエネルギーはこの熱エネルギーのみである。前過程で発生した無効エネルギ ーは廃熱回収装置に取込まれるが回収することはできず、そのまま環境中に放出される。 2.6.4 無過給サイクル全体のエクセルギー損失合計 式(2・27)(2・33)または(2・41)(2・43)を合計する。 ΣIij=I16+ISC+IE0 =T0(S5-S2) +T0(SE-S6)+T0(S1-S0) +Cp(TE-T0)-T0(SE-S0) =Cp(TE-T0) =Q2 ··· (2・44) シリンダ充填作動ガス単位質量当りで表現すると次式となる。 Σiij=ΣIij/G1 =q2 ··· (2・45) 上式より、サイクル排熱Q2は各過程のエクセルギー損失の合計に等しく、さらにそれは無効エネ ルギーと回収し得る熱エネルギーである未利用エクセルギーとの合計から成り立っていることが分 る。有効仕事(出力)は下記となる。 W=W16+WSC =Q1-Q2 ··· (2・46) ここで、WSC=0
2.7 排ガスターボ過給ディーゼル機関理論サイクル各過程のエクセルギー損失算出式 2.7.1 シリンダ内過程のエクセルギー損失 2.6.1 に述べた無過給機関理論サイクルと全く同じである。 2.7.2 掃気過程のエクセルギー損失 過給機関の掃気過程は下記2過程から成る。 シリンダ内膨張終了点から排気管への膨張・排出過程 :6→T 給気冷却器出口給気管からシリンダ内への給気の充填過程 :S→1 シリンダ内で膨張終了後の作動ガス(以後、排気塊)は断熱のもとに排気管内排気およびシリンダ 内に充填される給気塊と仕事の授受をし、内部エネルギーが変化してタービン入口に到る。一方、給 気冷却器を出た給気塊は断熱のもとに排気塊および給気管内給気と仕事の授受をし、内部エネルギー が変化してシリンダ内に充填される。4行程機関の場合には掃気過程中の給排気行程においてピスト ンと仕事の授受を行い、その差が有効仕事としてピストンから外部に取出される。 過給機タービン入口状態値は上記から得られる内部エネルギー変化および過給機タービン出力を ブロワ入力に等しくする、過給機動力バランスにより最終的に決定される。 以下に4行程機関サイクルと2行程機関サイクルそれぞれの掃気過程でのエクセルギー損失を求 める。 (1)4行程ディーゼル機関の掃気過程 1)エクセルギー損失 4行程機関において掃気時にシリンダから排気管に排出される排気塊およびシリンダに充填され る給気塊に対するエネルギー授受の状況を図2-8 に示す。 排気塊に対してエネルギー保存則,ΔQ=ΔU+ΔWを適用する。但し、ΔQ=0 0=UT-U6 :排気塊の内部エネルギー変化 +pTVT :排気管内排気経由,タービン入口排気に与える仕事 -pT(V1-V2) :ピストンより受ける仕事 -pTV2 :給気塊から受ける仕事 =UT-U6+pTVT-pTV1 ··· (2・47) U6-UT=pTVT-pTV1 排気塊が排気管内排気,ピストンおよび給気塊に与える有効仕事 W6T=pTVT-pT(V1-V2)-pTV2-p0VT+p0(V1-V2)+p0V2 =pTVT-pTV1-p0VT+p0V1 シリンダに充填される給気塊に対して熱力学第一法則、ΔQ=ΔU+ΔWを適用する。 ΔQ=0 0=U1-US :給気塊の内部エネルギー変化 +pTV2 :排気塊に与える仕事 +p1(V1-V2) :ピストンに与える仕事 -pSVS :給気管内給気経由,ブロワ出口給気から受ける仕事 ··· (2・48) US-U1=pTV2+p1(V1-V2)-p1VS
給気塊が排気塊,ピストンおよび給気管内給気に与える有効仕事 WS1=pTV2+p1(V1-V2)-p1VS-p0V2-p0(V1-V2)+p0VS =pTV2+p1(V1-V2)-p1VS-p0(V1-VS) 図 2・8 過給4行程ディーゼル機関理論サイクル掃気過程 TT,pT TS,pS p0 p0 p0 p0 V1=V6 V1-V2 WE=pT(V1-V2) -p0(V1-V2) VT V2 pT WI=p1(V1-V2) -p0(V1-V2) VS V1-V2 pT TT,pT TS,pS ① 膨張行程終了 排気弁 給気弁 ② 排気管内への膨張 ③ ピストン による排出 ④1 給気による 排出 ④2 給気による 給気充填 ⑤ ピ ス ト ン に よ る給気充填 T6,p6 pT TS,pS TT、pT pT pS T1,p1