国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 地球情報基盤センター(CEIST) 地球シミュレーション総合研究開発グループ
大西 領
JAMSTEC/CEIST
高橋桂子
センター長
JAMSTEC/CEIST
地球シミュレーション総合研究開発グループ
松田景吾
研究員
JAMSTEC/CEIST 情報展開技術研究開発グループ
杉山 徹
研究員
先端的気象シミュレーションに関する取組紹介
◦
MSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)
日本の自然災害リスク
◦
熱中症リスクとヒートアイランド現象
◦
暑さ指数
MSSGを使った都市の非定常熱・風環境シミュレーション
◦
1m~5m解像度により、乱流解像、建物解像、樹木解像
◦
3次元熱放射も考慮
特定の場所 特定の領域 地球全体 全球、領域、都市スケールまでシー ムレスに扱うことができる 全球計算にYing-Yang格子を採用 大気 / 海洋 / 結合計算が可能 地球シミュレータに高度に最適化
地震・津波
◦
1995年以降、年平均1000名の死者行方不明者
台風・大雨
◦
2004-2009年では、年平均約60名の死者行方不明
熱中症
(注:自然災害には含まれていない)◦
2007-2011年では、年平均約900名の死者
(藤部(2013)天気、 https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/32/10-11.html)日本人にとって、熱中症リスクは、地震・津波リスクと同程度、
台風・大雨リスクよりもはるかに大きい。
ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査報告書(概要) 環境省環境管理局大気生活環境室編 100年間で,都市部では約3℃上昇した. 一方,地球全体の平均気温は約0.6℃の上昇. 真夏日(日最高気温>30℃)は30年間で約10日増加 熱帯夜(日最低気温<25℃)は30年間で約17日増加 100年前は60日近くあった都心の冬日(日最低気温<0℃)が1桁台に
国立環境研究所「環境儀」,32 (2009)より
2℃の違いで
暑さ指数
(WBGT)
=0.7×湿球温度+0.1×乾球温度+0.2×
黒球温度
WBGT(℃) 警戒レベル 説明 31以上 運動は原則中止 皮膚温度より気温のほうが高くなり、体から熱を逃がすことができない。 特別の場合以外は運動を中止する。 28~31 厳重警戒 熱中症の危険が高いので、激しい運動や持久走などは避ける。体力の 低いもの、暑さに慣れていないものは運動中止。運動する場合は積極 的に休息をとり、水分補給を行う。 25~28 警戒 熱中症の危険が増すため、積極的に休息をとり、水分を補給する。激し い運動では30分おきくらいに休息をとる。 21~25 注意 熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意 しながら、運動の合間に積極的に水分を補給する。 21以下 ほぼ安全 通常は熱中症の危険は少ないが、水分の補給が必要。市民マラソンな どではこの条件でも熱中症が発生するので注意する。 日本体育協会の指針より■ステファン
-ボルツマンの法則
(Stefan-Boltzmann law)I=σT
4 I :放射強度 σ :ステファン-ボルツマン定数(=5.67×10-8 W/m2/K4) T :温度■黒球温度
T
gは次式から求まる:
W
in+
H
trans(
T
g,
T
air,
U
)=
σ
T
g4W
in : 入射放射フラックスH
trans: 伝熱フラックスT
air: 気温U
: 風速 http://www.sky-i.jp/ Tair Tg Win Htrans地面=30℃ ●
27℃
400 W/m2 アスファルト=50℃ ●36℃
日向面 = 50 ℃ 日陰面 = 30 ℃ 60m 6m 400 W/m2 ヒートアイランド内では,黒球温度が9℃も高くなり得る. ⇒同じ気温・湿度でも,暑さ指数(WBGT)が1.8℃高くなる. (黒体放射,直達日射無し,球(φ15cm)周りの強制熱伝達を仮定) 気温=30℃ 風速=1m/s 気温=30℃ 風速1m/s対象:
2005年8月5日(典型的ヒートアイランド日)の
東京駅エリア
MSSG
(
メッセージ
:Multi-Scale Simulator for the
Geoenvironment)
地球スケール 領域スケール 都市スケール
~O(10 km)解像度 ~O(100m)解像度 ~O(1m)解像度
3次元熱放射プロセス 1次元熱放射プロセス 乱流プロセス RECCAプロジェクトで整備した先進的プロセスモデルの例: シミュレーションの高解像度化に伴 い、乱流プロセスや3次元熱放射プ ロセスの重要性が増していく。 樹木を考慮した 3次元熱放射・乱流モデル 樹木が生活空間の熱・ 風環境に与える影響を 適用 都市街区の暑熱環境 を改善する施策の立 案・評価に役立つ。 緑地(樹木)が熱・風環境に 与える影響を再現した。 新宿 実施例: 東京23区、横浜、川崎 地球規模ー領域規模ー都市 規模までのシームレスな結合 を実現 大気と海洋を同時に計算可能
(対象時刻
2005年8月5日15:00)
【緑地】 気温:34.2℃ 暑さ指数:26.4℃ 【水上】 気温:33.1℃ 暑さ指数:25.2℃ 【ビル街②】 気温:33.8℃ 暑さ指数:28.9℃ 【ビル街①】 気温:35.6℃ 暑さ指数:29.8℃ 暑さ指数 警戒レベル 説明 28~31 厳重警戒 熱中症の危険が高いので、激しい運動や持久走などは避ける。 25~28 警戒 熱中症の危険が増すため、積極的に休息をとり、水分を補給する。
【ビル街②】
気温:33.8℃ 暑さ指数:28.9℃
夏季正午前後の東京の緑地を想定し, 樹木の気温低減効果の解明を目的とした 理想実験を実施. 樹木の水平分布(高木・低木をランダムに配置) 0 5 10 15 20 -100 0 100 200 300 400 (from ground) Sensible heat Latent heat H ea t f lu x [ W /m 2 ] H [m] (from tree) Sensible heat Latent heat (into tree) Net radiation [oC] Wind [oC] 葉表面温度 流線・気温 Lx=182m Ly=78m Lz=90m 微風 (1 m/s) 3次元放射熱輸送モデルの開発 蒸散を考慮 太陽光 (A-A’鉛直断面) 結果: 樹高Hが大きいほど,樹冠で吸収され蒸散 A A’ x y 樹高H:3m,10m,15m z 樹冠幅W:10m By 松田博士
空中写真データ:国土地理院 (http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do)
都市街区の熱・風環境と樹木
都市部の気温上昇(ヒートアイランド現象,地球温暖化)
緑地による気温上昇の緩和策
大規模な緑地からの冷気のにじみ出し効果 “緑のネットワーク”により海上を吹く風を都市内部 まで取り込む風の道街区スケールで整備されている都市部の緑地は,
熱環境の改善にどの程度の影響を及ぼすのか.
高層ビルの立ち並ぶ大都市では, 緑地は貴重な「オアシス」. 大手町・丸の内・有楽町地区では, 訪れる人々が快適に過ごせるよう, 緑豊かな屋外空間を整備.皇居 2km 2km 東京駅 日比谷公園 丸の内パークビル 解像度:5m
シミュレーション対象街区
解像度:1m 空中写真データ:国土地理院 (http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do) 地球シミュレータ (JAMSTEC)丸の内パークビル周辺の気温
2013年8月8日 2:20~
5km 5km 樹冠を緑色で立体表示
明治神宮外苑周辺域の樹冠解像熱環境シミュレーション
〈2020年東京オリンピック開催に伴う国立競技場建替え計画〉 • 日本スポーツ振興センター(JSC)では,既存の 樹木を伐採し,人工地盤を建設する計画. • 人工地盤上は日陰が少なく,来場者の置かれ る熱環境が悪いことが懸念される. 神宮内苑・外苑は、1915年(大正4年)に造営を開 始、1926年(昭和元年)竣工。豊かな森が一世紀 の歳月を経て、人の手により創り出されてきた。 JSC現行案 JSC修正案(樹木増加案) 樹冠モデルを用いた数値シミュレー 人工地盤を廃して樹木を追加し,渋谷川を 再生する「神宮の森・渋谷川再生案」を提案. 風致地区である神宮外苑の環境との調和に 配慮した暑熱環境緩和策が求められる. 中央大学競技場敷地内の暑さ指数(
WBGT指数)
• 地盤上1.1mの暑さ指数分布を算出. • 平均で約1.0℃,局所的には最大で約4.6℃の暑さ指数の低下. • 樹木の日陰効果,蒸散効果が暑さ指数の低下に寄与. 平均28.25℃ 最高32.74℃ 最低25.33℃ 平均29.31℃ 最高33.50℃ 最低25.31℃ JSC現行案 JSC修正案 25℃ 30℃ 35℃ 樹木により暑熱環境が顕著に改善される可能性が示された. 平均-1.00℃ 最高+3.27℃ 最低-4.59℃ 差(修正案 – 現行案) 暑さ指数(WBGT指数):気温・湿度・放射熱を考慮した体感温度指標の1つで、熱中症リスクの指標.「樹木により暑熱環境を改善できる可
能性が、数値シミュレーションによって
定量的に
示された.」
「神宮外苑の環境と新国立競技場の
調和と向上に関する提言」(日本学術
会議、
2015/4/24)に活用された。