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情報メディア研究 19(1) p29-46

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情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 永野玄樹*,上保秀夫** *筑波大学大学院人間総合科学研究科* **筑波大学図書館情報メディア系 *[email protected]* **[email protected] 日本において自然災害は避けることのできない脅威であり,特に地震対策・津波対策を考案するこ とは非常に重要である.本研究では,東日本大震災の被災者による体験談をM-GTA 法を用いて分析を 行い,地震発生から避難終了までの津波避難プロセスを情報探索行動に着目しながら類型化した.分 析の結果37 個の概念及び 8 個のカテゴリーが生成され,津波避難行動のプロセスは「避難に対する意 思決定」「計画性の高い避難」「計画性の低い避難」「避難行動終了後」の4 グループにより構成される ことが分かった.本研究によって得られた津波避難行動プロセスの考察から,津波避難支援について, 1) 災害発生時に被災者に津波の具体的なイメージ及び危機意識を高める施策,及び,2) 被災者の避難 開始のタイミングを早めさせるための対策,が重要であるとの知見を得た.

Modelling Tsunami Evacuation Process Focusing on Information Seeking Behaviour Genki NAGANO*, Hideo JOHO**

*Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba **Faculty of Library, Information and Media Science, University of Tsukuba

In Japan, natural disasters are inevitable events, and thus, studies on countermeasures for earthquakes and tsunamis are of great importance. In this study, we modelled tsunami evacuation behaviour that covered from an occurrence of earthquakes to the completion of evacuation, with focus on information seeking behaviour, by applying Modified Grounded Theory Approach (M-GTA) to testimonies obtained from people who experienced the Great East Japan Earthquake. The outcomes of analysis yielded 37 concepts in eight categories, and the tsunami evacuation process was grouped into four categories such as "decision-making on evacuation", "well-planned evacuation", "ill-planned evacuation", and "completion of evacuation". The assessments on the proposed evacuation behaviour process, we identified the importance of 1) increasing concrete vision and crisis awareness of tsunami, and 2) developing measures to accelerate an initiation of evacuation action, as facilitation of countermeasures for earthquakes and tsunamis.

1.はじめに 1.1 背景 1.1.1 日本における自然災害 私たちが日本で生活する上で,自然災害は避け ることのできない脅威である.被災者生活再建支 援法によれば,自然災害とは「暴風,豪雨,豪雪, 洪水,高潮,地震,津波,噴火その他の異常な自然 現象により生ずる被害」と定義されており[1],こ れまで甚大な被害をもたらしてきた.日本国内に 焦点を絞ると,内閣府作成の平成30 年度版防災白 書によれば昭和20 年以降,政府の対策本部が設置 され,死者行方不明者について風水害では500 人 以上,雪害では100 名以上,地震・津波・火山噴 火では10 名以上を数えたほどの大きな災害は 61 件発生している[2].また,世界と比較してみても,

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 地震について日本の国土面積が全世界に対して占 める割合は 0.28%と非常に小さい値であるにもか かわらず,全世界で起こったマグニチュード6 以 上の地震のうち,20.5%が日本で発生している.ま た,地震に限らず全災害によって受けた災害被害 額は全世界のうち 11.9%を日本が占めている.こ のような現状の背景には,全世界の活火山の7%が 日本にある[3]ことや,日本が四方を海に囲まれて いる島国であること,国土の多くを山地が占めて おり,土砂災害の起こりやすい斜面が多いなどと いった様々な要因が考えられるが,日本が世界の 中でも災害の発生率が高く,被害の大きい国であ るといっても過言ではないだろう.現在も,東日本 大震災と同規模の大きな地震が南海トラフにおい て30 年以内に 70~80%,茨城県沖において 20 年 以内に 80~90%の確率で発生すると予測されてお り[4],今後も自然災害への対策は大きな重要性を 持つ. 1.1.2 地震・津波による被害 前項では日本における自然災害の被害の歴史と 現状について述べたが,本項では数ある自然災害 の中でも特に被害の大きい地震・津波について述 べる.日本の歴史上,地震とその二次災害による死 亡者は他の災害に比べはるかに多い.甚大な被害 をもたらした大地震として私たちの記憶に残って いるものに,1995 年 1 月に発生し約 6400 名の死 者を出した阪神淡路大震災や2011 年 3 月に発生 し死者・行方不明者合わせて約2 万名の人命被害 を生んだ東日本大震災などがあるが,どちらも同 年に発生した他の自然災害による被害をはるかに 上回っている[2].こうした背景から,日本では耐 震研究を進め,耐震基準を高めるなどの地震対策 を取り続けており,そのような対策を向上させて いくことは現在も重要なテーマの1 つである. しかし,このように阪神淡路大震災などの地震 災害を受けて耐震技術を向上させたにも関わらず, 16年後に発生した東日本大震災ではさらに多くの 人的被害を出す結果となった.この結果の大きな 要因となったのが,地震の二次災害である「津波」 の有無である.阪神淡路大震災の死因は約75%が 建物の倒壊などによる圧死であった[5]のに対し, 東日本大震災の死因の90%以上が津波による溺死 であった[6].この事実は,地震そのものに対する 対策は進んでいるが,地震発生後に地震により引 き起こされる二次災害,特に津波に対する対策が 十分に議論されてこなかったことを表していると 考えられ,津波対策の議論のさらなる発展が求め られていると言えよう.また国土交通省は東日本 大震災における津波の被害を受け,防波堤などの 津波の威力を低減するような効果を有する施設の 整備を通した「ハード面の津波対策」,津波ハザー ドマップの整備促進・改善・充実を通した「ソフト 面の津波対策」,そして命を守るための「津波避難 支援対策」の強化が必要だとしている[7]. 1.2 先行研究 1.2.1 自然災害を対象とした研究 日本では自然災害,特に地震について地震動な どその発生メカニズムに関する研究や,被害に関 する研究が数多く行われてきた.地震の二次災害 である津波についても,その多くが津波の浸水状 況や被害に関する研究が主である.一方,津波から の避難に関する研究は未だ発展途上であり,その 数は少ない.田村ら(2013)[8]によれば,”津波避難 に関する研究は「実際の避難について聞き取り調 査やアンケートをもとに構成した研究」と「統計デ ータや公開データを基にしてマルチエージェン ト・シミュレーションなどの数値計算による研究」 に大きく二分され,前者は津波研究全体の中でも 最も数が少ない”とされている. 1.2.2 東日本大震災における津波避難行動 前項で数が少ないと述べた「実際の避難につい

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て聞き取り調査やアンケートをもとに構成した研 究」だが,近年では2011 年に発生した東北地方太 平洋沖地震により引き起こされた津波からの避難 に関連した研究が行われている[8].しかし,その 多くは研究者の視点から一般の被災者の避難につ いて分析が行われており,分析の結果得られた知 見を今後の津波避難対策に実際に生かすことは難 しいと考えられる.大野と高木(2014)[9]は,現在 の津波避難行動に関する先行研究について”その 主題の多くは「『なぜ避難しないのか』など住民の 意識」を研究者の視点から分析したものである”と 述べている.またこの点について,研究により得ら れた知見を個人の避難行動に還元するためには, 一般の避難行動者の視点で語られたストーリーを 分析対象とすべきだとして,”震災で犠牲になられ た方及びそのご家族の気持ちを察し”[9]直接聞き 取り調査を行うことは避けながらも,津波避難行 動について書かれた新聞記事を分析対象として量 的に分析を行っている.さらに分析結果として,避 難開始のきっかけとなった要因や,避難を阻害し た要因などを羅列し,社会構造と個人の避難行動 の関係について示唆している.一方,直接インタビ ュー調査を実施した先行研究には,学校などの集 団 を 対 象 と し た も の が 挙 げ ら れ る . 松 林 ら (2014)[10]は,学校施設が津波被害にあった岩手県 内の小学校・中学校のうち,調査対応の承諾が得ら れた19 校を対象として,当時学校にいた教員に震 災時の避難行動についてのヒアリング調査を行っ ている.結果として,学校という組織が先導して行 った避難行動には,震災以前より訓練等で想定さ れていた通りの避難行動が行えた例と,震災当日 に想定していた避難経路や避難場所を変更してい た例が混在したことを示している. 1.2.3 その他の関連研究 自然災害における避難行動を直接対象としては いないが,関連性の高い先行研究について述べる. 避難行動においてはマスメディアからの情報や家 族、近所の住人から伝達された情報をもとに行動 をとることが考えられるが,このようなコミュニ ケーションを扱ったモデルとして,ラザースフェ ルドらによるコミュニケーションの2段階の流れ がある[11].これは,マスメディアの情報はオピニ オンリーダー的存在を介して人々に影響を与える とした仮説であり,本研究の対象となる住民たち も類似の影響を受ける可能性がある.また,発令さ れる津波警報などの情報が実質的被害に至らない 経験を繰り返すことで,与えられた情報を過小評 価してしまう行動の説明には正常性バイアス[12] が考えられるが,これについては本研究でも言及 する. 1.3 研究目的 本研究の目的は,次の2 点である.まず 1 点目 として,東北地方太平洋沖地震発生時における,地 震による揺れの体感から避難終了までの一連のプ ロセスを,情報探索行動と津波避難行動に焦点を 当て,類型化する.情報探索行動に焦点を当てる理 由は,先行研究の事例から避難中における情報探 索には,テレビ,ラジオ,インターネットから得ら れるメディア情報のみならず,家族や近所の住人 からの情報,公的機関からの情報,そして津波の視 認など自身による情報獲得など,複数の情報入手 経路が考えられるからである.これら多様な情報 探索行動との関係から得られる避難行動パターン を明らかにするとともに,先行研究との比較を通 して,新たな特徴の発見や知見の獲得を目指す.2 点目として,類型化したプロセスを基に今後の避 難支援の対策を考察・提案する. 実際の津波避難支援に応用可能な分析結果を提 示することで,今後も発生するであろう大規模地 震やそれにより起こる津波に対し,被害者数の減 少へ貢献することが,本研究の意義である.そのた め,分析対象とするデータには一般の避難行動者 の視点から語られた体験談を採用する.これによ り,得られた分析結果を実際の個人の津波避難行

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 動に還元することが可能になると考える. 1.4 論文構成 第2 章では,本研究で採用した研究手法につい て,分析に使用するデータの概要,収集方法につい て述べたのち,質的分析法の一種である修正版グ ラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)に ついて,定義・実際の分析手順の順で述べる.第3 章では,M-GTA を用いて分析した結果について, 概念のレベルから結果図・ストーリーラインのレ ベルにわたって記述する.第4 章では,第 3 章で 類型化した津波避難行動のパターンを整理し,津 波避難支援対策の考案や先行研究との比較を通し て新たに獲得した知見,及び研究の限界について 述べる.第5 章では全体の総括を行い,今後の方 向性についても言及する. 2.方法 2.1 データの概要 2.1.1 分析対象地域の概要 東日本大震災とは,2011 年 3 月 11 日に,三陸 沖を震源としたマグニチュード9.0,宮城県におい て最大深度7 を観測した東北地方太平洋沖地震に よる災害及び原子力発電所による災害の総称であ る[13].北海道から神奈川県まで,人命被害は死者 1 万 5000 名以上,行方不明者 2500 名以上,合わ せて2 万名弱に上った.その中でも,本研究で分 析対象とする岩手,福島,宮城の東北3 県は太平 洋に面しており,震源地との距離が他地域に比べ 近かったことから特に地震や津波の被害が大きく, 3 地域における死者行方不明者の総数は全体の 90%以上を占めている.また,本震災で津波による 被害が大きかった地域は高齢化率の高い地域であ り,死者全体の65.2%が 60 歳以上であるという特 徴が挙げられる[14]. 2.1.2 分析対象のデータ 分析対象について,本研究では Web サイト 「NHK 東日本大震災アーカイブス」[15]に掲載さ れた,被災者に対するインタビュー動画内容を,著 者らが文字に起こしたデータを用いた.前述した Web サイトでは,東日本大震災の被災者に震災当 時の心境や行動などについてのインタビューを行 い,その様子を収めた動画を多数掲載,閲覧可能と している.それらの動画の中から,年齢,地域,性 別といった,被インタビュー者の属性を考慮した 構造化サンプリングを行い,文章量の豊富な順に, 属性の偏りが少なくなるよう幅広くデータ抽出を 行った.また,抽出したデータ内に分析対象となる 記述が含まれなかった場合は,分析対象外とした. さらに,ある一定数の体験談の分析を行った後に, 後述する理論的飽和化の検証を行うため,新たに 数件の体験談を同様に分析した.その結果,飽和に 至っていないと判断されたため,属性の分布に基 づきデータの追加抽出を行った(表1).これらの 手続きは M-GTA 法に即したものである.また, インタビューが行われた時期については,全デー タの幅が小さくなるよう考慮し,年齢層の区分に はエリクソンの発達段階説を用いた. 表 1 分析に使用した27 人分のデータの属性分布. カッコ内の数値はそのうち追加抽出した件数. 地域 性別 年齢層 岩手 宮城 福島 合 計 男 性 女 性 男 性 女 性 男 性 女 性 20~39 歳 (人) 1 2 2 (1) 2 0 0 7 40~64 歳 (人) 3 (1) 1 0 2 2 2 10 65 歳以上 (人) 1 1 2 1 2 3 (1) 10 合計(人) 5 4 4 5 4 5 27

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本研究では,東日本大震災における津波避難行 動について分析を行う.被災者に寄り添った視点 からより密度の濃い分析を行うために分析者が必 要とするデータを収集するには,震災時に特に被 害の大きかった岩手,宮城,福島県の被災者を対象 に直接インタビューを行い,被災者の視点から語 られたデータを得ることが最善だと考えられる. しかし,震災発生から約7 年が経過しており震災 当時に関する記憶の消失が危惧されることや,被 災者の心情を考慮し,データ収集の手段としてイ ンタビューを再度実施することは妥当ではないと 判断した. 以上のことから,本研究の目的に照らし合わせ て,選定した分析対象が妥当と判断される理由は 以下のようにまとめることができる.1) 公開され た資料であるため分析の再現性を担保できる,2) インタビュー対象者の属性が広範囲に渡っている ため柔軟なサンプリングが可能である,3) 同一機 関が収集・編集したアーカイブとしては最大規模 であり,分析におけるばらつきを抑制できる.一方 で,元のインタビューは情報探索行動や避難行動 の研究目的で収集されたデータではないため,こ れらの限界については,4.4 及び 5.2 で議論する. 2.2 分析方法 2.2.1 採用した分析方法 本研究では,抽出した質的データを質的分析法 の一種である修正版グラウンデッド・セオリー・ア プローチ(M-GTA)により分析することで,研究目 的を達成する.木下[16]は,グラウンデッド・セオ リーを”データに密着した分析から生成される独 自の理論”と説明している.また, Philip ら[17]は, インタビューや観察を通してそのような理論を生 成する質的分析方法が,グラウンデッド・セオリ ー・アプローチ(GTA)であるとしている. 本研究で用いた M-GTA 法は前述した GTA の一 種であるが,木下[18]は本分析手法について,”生 成する理論が行動の変化と多様性を説明,予測可 能であることから,プロセス性をもつ研究対象に 対して有効な分析手法である”と述べている.前章 で述べたように,本研究の目的は,避難行動のプロ セスの明確化及び類型化及び明らかにした理論を もとにした対策の考察であることから,この手法 を用いることが最適ではないかと考えた.加えて, M-GTA の大きな特徴の一つとして,研究者視点で 分析するのではなく,当事者の視点で意味の解釈・ 分析を行うという点が挙げられる.本研究におい ても,後述する概念生成のステップは一般の被災 者の視点から分析を行った.この特徴により,結果 として得られる理論やそれに対する考察・対策は, 現場の人間に比較的寄り添うものとなり,実行に 移しやすいものとなる.この点も,本研究で M-GTA を採用した要因の 1 つである. 2.2.2 M-GTA 法の分析手順 本項では,本研究におけるM-GTA を用いた分 析の手順を,4 段階のステップに分けて述べる. なお手順については,木下[19],都丸・庄司[20] らにならっている. ステップ1 分析テーマ・分析焦点者を決める 収集したデータを読み込む前後に行われるステ ップである.分析テーマとは,「最初に大きく掲 げている研究テーマを,データに即して分析でき るように絞り込んだもの」であり,分析焦点者と は「データを見ていく上での分析上の特定の人間 の視点」とそれぞれ定義されている.本研究では 前者を「避難意識の変化と情報探索行動」に,後 者を「一般の被災者」に設定した. ステップ2 概念生成 本ステップは, M-GTA においてデータの読み 込みと同時に行われる最初の分析作業であり,概 念とは分析結果を構成する最小単位である.本研 究において概念は,収集したデータを読む中で,

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 分析テーマである「避難意識の変化と情報探索行 動」に関連すると判断した部分を1 単位とし,分 析焦点者である「一般の被災者」にとってのその 部分の意味解釈を検討することにより生成され る.また概念は,分析者によって定義された以下 の4 要素によって構成される. ①概念名:着目した部分の意味解釈を端的な言葉 で表したもの ②定義:概念名に比べ意味解釈の幅を広げたもの ③具体例:データ内の着目した部分 ④理論的メモ:検討はしたが概念名に採用されな かった他の意味解釈や,浮かんだアイデアなど 概念の生成後,他データ内に同様の記述がみら れた場合は,その部分を新たに「具体例」として 追加する.また「概念名」や「定義」は新たに具 体例が追加されるたびに適切であるかの検討を行 い,必要に応じて適宜修正する. また木下[19]は概念を 1 つ生成するにつき 1 枚の 「分析ワークシート」を作成することを推奨して いる(図 1 分析ワークシート例). なおM-GTA では,オリジナルの GTA のよう に文章を切片化しない.これはデータの意味を前 後の文脈などを考慮して解釈可能にするためであ る.本研究においても,津波避難行動に情報探索 がどのように影響したかを探求する上で,前後の 文脈や背景を読み取り,実際にとられた行動に対 し様々な視点からその意味を解釈することは重要 であると考える.また概念は1 つ生成されるたび に,他の概念とのつながりの考察や対極例の有無 についてデータを読み返すことにより複数回にわ たり検討が行われる.この作業を繰り返すことで より整合性の高い分析結果の提示が可能となる. ステップ3 カテゴリー生成 ステップ2 によって生成された概念同士の関 係を図の形にして検討したのち,似ていると判断 したものをカテゴリーとしてまとめ,新たな分析 結果の構成要素を生成する.この作業をカテゴリ ー生成と呼ぶ.本研究では,生成した概念を時系 列に沿って並べたのち,避難者の意識や行動に関 する概念について,その本質が似ていると判断し たものを新たにカテゴリーとしてまとめた.また ここまでのステップ1 からステップ 3 までの作業 は,データを追加して分析してもそれ以上新たな 概念が生成されない状態,いわゆる「理論的飽 和」に至るまで繰り返し行われる.なお理論的飽 和には,概念生成・カテゴリー生成のステップを 経てデータから概念が生成されなくなる「小さな 理論的飽和」と,次ステップの結果図生成におい て,図を構成する上で必要だと思われる概念がな くなる「大きな理論的飽和」の2 種類が存在する [19].本研究においては,前述した方法で収集し た24 人分のデータを分析したのち,新たに 3 人 分のデータを追加した.その後の検証で新たな概 念が生まれなかったため,その時点で小さな理論 的飽和化に至ったと判断した. ステップ4 結果図・ストーリーライン生成 ステップ3 まで分析を終え,小さな理論的飽和 化に至ったと判断されたのちに,作成した概念や カテゴリーを用いてプロセス全体を図の形にして まとめる作業を行う.これにより生成される図は 結果図と呼ばれ,M-GTA における分析の成果と なる.本研究においては,概念やカテゴリー間の 関係の検討を複数回試行し,大きな理論的飽和化 に至ったと判断した時点での図を結果図とした. また,生成した結果図を文章の形に直したものは ストーリーラインと呼ばれ,M-GTA を用いた分 析により生成された理論であると位置づけられて いる. 2.2.3 分析方法のまとめ 以上のように,本研究では M-GTA を用いた質 的分析を行った.手順が生成する概念を含む成果 物の客観性や再現性を高めるための施策は以下の

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通りである.1) 公開された動画を用いる,2) 文章 の解釈時に文脈情報を考慮する,3) 概念生成時に 他概念との関連性を精査する,4) 2 名の著者で解 釈の妥当性を記述の具体例を基に検討する,5) 理 論的飽和性を検証する. 3. 結果 3.1 概念 3.1.1 生成した概念のメタデータ 2.1.2 において収集された 27 人分のデータに対 し,先述した手順に則り概念生成を行った結果, 35 個の概念が生成された.しかし,具体例が少 ないことなどから統廃合が行われた概念や,生成 した概念の包括する範囲が非常に広いことから, 細分化などの修正が行われた概念が存在した.そ の結果,最終的にプロセスを構成する概念は37 個となった(付録の表 2).なお,概念の番号は概 念が生成された順につけられたものであり,その 大きさにより意味するものはない. 3.1.2 修正された概念 本研究の概念生成について検討の結果,行動の 種類として類似している概念や,時系列的に並列 の関係にあると判断された概念が存在したことか ら,8 つのカテゴリーが新たに生成された.また概 念7 及び概念 26 はそれぞれ,マスメディアや他人 を介して情報を入手する「二次情報探索」,自らの 五感によって情報を入手する「一次情報探索」とし て生成されたが,その情報探索行動の内容は多岐 にわたり,一つの概念にまとめることは不可能で あると判断したため,概念の細分化を行いその結 果を7-1,7-2 のように表記した. 一方,概念の統廃合は2 つの概念で行われた. 1 点目は,概念 13「固定された避難意識」の廃 止である.本概念は「津波避難路に指定されている 狭い道に避難者が殺到し,車いすに乗った避難者 もいたことでスムーズな避難が行えず,津波に流 されてしまった人がいた」というデータに着目し, 避難がスムーズに行えない状況においても,津波 避難路に指定されているという点にこだわりすぎ て他の道を探すなどの臨機応変な対応ができなか ったと解釈することにより生成された.しかし,他 のデータ内に類似すると思われる内容がなく具体 例に乏しいことから廃止の判断に至った. 2 点目は,概念 14「想定外の行動を選択」の概 念4「避難以外の行動を優先」への統合である.概 念14 は被インタビュー者が「外出中に地震が来た ら別々に逃げると母親と事前に約束していたにも かかわらず,震災時は母親の安否が気になり自宅 へ迎えに行った(岩手県 30 代女性)」という点に着 目し,事前に避難に関する約束や取り決めをして いたとしても,実際に危険が迫ると約束を破って しまうという行動パターンを重要視することによ り生成された.しかし,結果的にとられた行動は概 念4「避難以外の行動を優先」に包括されるもので あり,他の具体例においても異なる行動内容が見 られないことから,統合可能であると判断した. 3.2 ストーリーライン 3.2.1 プロセスの全体像 M-GTA によるこれまでの分析を通して,被災 者による津波避難行動の過程と情報探索行動との 関係性を,「地震発生・揺れの体感から津波避難 行動終了までの行動プロセス」モデルとして生成 した.このモデルを,結果図として以下に示す. (図 2 地震発生・揺れの体感から津波避難行動終 了までのプロセス)以前の概念間の関連の検討作 業により,各概念やカテゴリーは他概念と複雑に 関係しあっていることがわかる.これより,全体 を【避難に対する意思決定】【計画性の高い避 難】【計画性の低い避難】【避難行動終了後】の4 グループに分け,それぞれのグループについて情

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報探索・避難行動者の意識や状態・津波避難の結 果に関わる行動や判断の観点から,概念やカテゴ リー間の関係についてストーリーラインとして説 明する.なお,カテゴリーを《》,概念を<>,体験 談内の記述を””としてストーリーライン中に表記 する. 3.2.2 グループ 1【避難に対する意思決定】 本グループでは,地震が発生し被災者がその揺 れを感知してから避難行動を行うか否かに対する 意思決定を行うまでの行動パターンをまとめる. 地震が発生しその揺れを感知した被災者は次の3 タイプに分けられるためそれぞれについて述べる. タイプ 1 に分けられる被災者は,<二次情報探 索による現状把握>を行おうとする人々を指す. 情報の探索手段としては,”家に戻って,で,テレ ビつけたのが最初かな. で,そのあとでラジオを 聞いて,ラジオを聞いているうちにだんだんね, 3m が6m になり,あと,北の方では10m を超 えているなんていう情報が入ってきて(福島県 60 代男性)”という具体例にみられるように,主にテ レビやラジオが挙げられる.直後に停電してしま った地域も存在するが,その場合は車に付属する ラジオなどで情報を得るといった例が挙げられた. 次に,この情報探索行動により得られた情報から 被災者の意識は《過信》へと移行する.この過信 にも種類があり,それらは二次情報探索により得 られた情報の内容と深く関わっている.得た情報 が津波の危険の周知・避難を促す大津波警報など であった場合,過去に同様の警報が出ても被害を 受けた経験がないことから,今回も被害はないだ ろうという<経験からくる過信>が生まれる.また 得た情報が,予想される津波は〇メートルなどの 到達すると予想される津波の規模であった場合,” 6 メートル?あっそう,ていう,怖さがないんで すよ.なぜって,ここは,それだけ高台ですよね. (福島県 60 代男性)”などといった<知識からくる 図 2 地震発生・揺れの体感から津波避難行動終了までのプロセス

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過信>が生まれる.この知識には現在地が海抜〇 メートルの高台であるといったものや,津波は来 ないという先祖の言い伝えなどが例として挙げら れる.そして得た情報が,〇時に津波到達といっ た現状の津波の切迫度合いに関する情報であった 場合,” 小名浜の到着予定時間が3時10分ごろ って言ったのかな.で,時計を見たらまさに3時 10分だったんですよ.だから3時10分だから, ああ,まだ来ないやって,頭には来ないインプッ トが入っちゃったのね.(福島県 60 代男性)”とい うデータにみられるように<二次情報によるまだ 来ないという過信>が形成される.これらの過信 により被災者の中での避難の必要性は下がり,結 果としてこの3 つの過信のうち前 2 つは<避難し ない>という判断に,最後の 1 つは町の様子を見 に行くなどの<避難以外を優先>という判断へつ ながる. タイプ2 の被災者は,揺れの体感から《予見》 へと移行した人々を指す.ここでの予見の判断基 準には2 つの種類がある.<体感による津波の予 見>では,本震災における地震の揺れがこれまで に経験した揺れとは比較にならないほど大きいと 感じられたために,津波の到来が予見された.ま た<知識・経験から津波を予見>では,” これが液 状化だって思って.今までは,宮城県沖地震のと きも,そんなにひどくなったことがない(福島県 60 代女性)”という例に挙げられるように,初めて 経験する被害などから津波の到来を予見した.こ れらの予見は大部分が避難を開始するための<避 難準備>へとつながるが,心配から自宅へ安否確 認に向かうなどの<避難以外を優先>へとつなが る例も少数ではあるが見られた. タイプ3 の被災者は,地震によりうけた衝撃が 非常に大きく<パニックで津波にまで頭が回らな い>人々をさす.このタイプの被災者は地震の揺 れから身を守ることで精一杯であり,津波や避難 に関する判断ができる状態にない.そのため,避 難の有無に関する意思決定は行われない. 3.2.3 グループ 2【計画性の低い避難】 本グループでは,避難開始から避難行動終了ま でのプロセスのうち,比較的計画性が低い避難行 動について述べる.計画性の低い避難は,その開 始位置が大きく2 つに分けられる. 1 つ目は,<一次情報探索による現状把握>から 始まるパターンである.避難についてグループ 1 で<避難しない>という判断を行った場合,街の様 子や海の様子を直接見に行く行動がとられる.こ の行動により,” そこのはしごね,あのはしごに 登って海を見たわけですよ.そうしたらね,こう, 水が引いていくんですよね.ずーっと.底が見え そうなぐらいね.(岩手県 40 代男性)”という例に あるような<津波の予兆視認・到来の予見>へとつ ながる.そして,この段階で津波の予見を到来し た被災者は,その事実を伝えようと,<他者への避 難指示>を行う.こうして開始された避難行動は, <津波の視認>を経ない場合,呼びかけに応じた< 他人の介助>や,一目散に<とにかく上へ>向かう といった行動を経て避難完了へとつながる. 2 つ目は,<避難の呼びかけを聞く>ことから始 まるパターンである.グループ1 において<避難 しない>という判断をとった場合や,<パニックで 津波にまで頭が回らない>被災者は,この情報探 索行動によって避難を開始する場合が主である. このような,避難の必要性を訴える呼びかけを聞 いたとき,避難するという選択肢を考えに持って いない被災者は,<状況の楽観視>をする人と<避 難の必要性の把握>をする人に分かれ,<状況の楽 観視>をする人々は呼びかけを聞いても避難を開 始しないことが多い.<避難の必要性の把握>をし た被災者は,そのまま《受動的避難》を開始する. なお,このような情報の受け取り方の違いには” 声をかけたんですけど,「本当に津波なんか来てる のかよ」みたいな返事をいただいて(宮城県 20 代 男性)”という例や” オーナーさんの息子さんが来て 「早く津波来るから逃げるぞ」っていうことで, そこで初めて,「あっ,津波が来るんだ」と思った (岩手県 20 代女性)”という例にあるように,情報 の発信源が知人であれば<避難の必要性の把握>

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 に,見知らぬ他人であれば<状況の楽観視>へとつ ながる傾向が見られた.そしてこの意識変化を経 たのちに開始される《受動的避難》は,他人に促 されるままに自らの意志ではなく開始する<受動 的避難>と,他人に介助してもらいつつ避難先を 目指す<介助を受ける>避難が存在するが,いずれ の避難にしても自らの意志で考え避難を開始した わけではなく,他者からの影響を受けた結果とら れる避難行動のため,【計画性の低い避難】へ分類 を行った. ここまで避難開始に関わる行動について複数の パターンの説明を行った.続いて避難行動中の行 動パターンに触れるが,ここで最も避難行動に関 わる要因が<津波の視認>である.この概念により, 避難行動中の被災者は行動を変え,また他人から の避難の呼びかけに応じなかったり,グループ1 において<避難以外の行動を優先>した被災者も 一斉に避難開始へと進む.その変化に関わるのが, 津波視認による<危機感の急増>である.この意識 変化に伴い,それまで《受動的な避難》を行って いた避難者も《とっさの避難行動》をとる.これ には<とにかく上へ>向かうことで津波から逃れ ようとするものや,パニックになりとっさに他人 が向かう方向へ自身もついて行く<他人追従>が 含まれる.このような,その場での判断によりと られる行動によって,避難の結果が左右される. また,【計画性の低い避難】にはもう一つ大きな 特徴がある.それが,避難が完了したにも関わら ず,家族や自宅に残したものを心配し<避難中止> によって<他人の介助>へと,再度津波の危険性が 高い場所へ戻ろうとするパターンが存在する点で ある.この行動パターンによって,《避難失敗》へ とつながる例も存在した. 3.2.4 グループ 3【計画性の高い避難】 本グループでは,実際にとられた避難行動のう ち,比較的計画性の高い避難行動について説明す る.このグループの開始位置は<避難に関する情 報の収集>であり,グループ 1<避難準備>から続 けてとられる情報探索行動である.ここで,” そ したら向こうの橋が,重吉橋っていうところなん ですけど,そこがもう落ちていると.車も通れな い状態だって(宮城県 40 代女性)”という例にある ような,これから行う避難行動に影響を与えると 思われる情報を収集し,<避難の参考とする情報 の選択>を行い,<避難経路の決定>や<避難方法の 選択>を含む《避難計画の立案》が行われる.この ような過程を経て開始された避難行動は,そのま ま避難先へ避難完了する場合が多い.しかし,次 の情報探索行動が行われた場合,新たな避難行動 パターンが生まれる.1 つは,<津波の視認>であ る.いくら避難開始前に綿密な避難計画を立案し ていたとしても,津波を実際に視認してしまうと, 【計画性の低い避難】にあったように,<危機感の 急増>《とっさの避難行動》へとつながってしまう. もう1 つは,<避難経路情報の入手>である.自然 災害が発生した際,その状況は刻一刻と変化する. そのため,計画していた避難を制限するような情 報を得る場合がある.このような情報の例には, 新たな避難所の設置や,道路の予想外の渋滞など が挙げられる.これらの情報を入手した避難者は, <計画した避難に対する制限の理解>を経て<移動 方法の変更>や<避難先の変更>などに代表される 《計画の再立案》を行う.このプロセスは,避難 開始前に避難計画を立案していたからこそ行われ るものであり,計画性の高い避難にみられる大き な特徴である.結果として,状況に応じて臨機応 変な対応が可能となり,避難が成功する場合が多 い. 3.2.5 グループ 4【避難行動終了後】 本グループでは,避難完了以後の行動や,避難 失敗のパターンについて説明する.なお,本項に おける《避難失敗》は避難者の生死を判断基準と するのではなく,あくまで津波避難を完了につな げられたかという点が判断基準である.この《避 難失敗》には,次の4 パターンが含まれる.1 つ 目は,避難行動を行うも計画性の低さや変化する

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状況に柔軟な対応ができず円滑な避難が行えなか ったために起こる<避難が間に合わず波にのまれ る>パターン.2 つ目は,津波に関する情報が入手 できなかった場合や,地震発生時に海岸付近にい たため避難開始前に<津波の存在に気付かず波に のまれる>パターン.3 つ目は<避難中止><他人の 介助>を経て,再度自宅に戻ったために起こる<自 宅で孤立>パターン.4 つ目はグループ 1【避難に 関する意思決定】において<避難以外の行動を優 先>という判断を下したために起こる<避難以外 の行動を優先し,波にのまれる>パターンである. いずれかの《避難失敗》パターンに陥ってしまっ た避難者は,その多くが《危機脱出の試み》を図 る.この試みには,高い所へ移動して波から逃れ ようとする<波から逃れる手段の模索>と,流され ている状況を変えるために掴まれるものを探す< 流されないための手段の模索>などが挙げられる. 以上のように,本研究では避難に成功したパタ ーンのみならず,失敗と判断されるケースについ てもモデルに含めた. 4. 議論 本論文は津波避難行動プロセスを,情報探索行 動に着目しながら類型化することを目的とした. 本章では,分析から得られた内容を整理すると共 に,今後の課題,先行研究との比較,そして研究 の限界を述べる. 4.1 主な結果と今度の課題 地震発生・揺れの体感から津波避難行動のプロ セスをM-GTA を用いて分析した結果,結果図よ り津波避難行動には大きく分けて【計画性の高い 避難】と【計画性の低い避難】の2 パターンが存 在することが分かった.また,各概念のつながり を鑑みると,「避難完了」を最終目的とした場合【計 画性の高い避難】が被災者には望まれると考えら れる.中でも,重要な点は,非日常的かつ時間と ともに変化する状況に対して臨機応変に対応する ことができるかという点である.【計画性の高い避 難】では,避難計画の立案を経て避難を開始し, 何かしらの制限を受ける状況に陥ると,その場で 入手した情報を基に避難計画の再立案を行うとい う柔軟性のある行動の結果として避難完了へ向か うプロセスになっている.一方,【計画性の低い避 難】においては避難者自身が脅威の規模や避難プ ロセスのイメージを持たないままに避難行動を行 うため,直面した状況ごとに異なった一貫性の低 い避難行動をとるプロセスになっている.そのた めに避難完了前に津波にのまれる,あるいは,避 難が完了した場合も自宅の様子や知人を心配し, 避難を中止した結果孤立するといった失敗に陥る 事例が見出された.したがって,【避難に関する意 思決定】の段階で迅速に避難準備を開始するため に,日常から避難行動の具体的なイメージを得る 努力が今後の課題の一つとして考えられる.これ までも液状化現象の学習などが実践されているが, より切迫な状況である「水没後の車からの脱出方 法」などの演習も検討する必要がある.また,3.2.1 の結果図で明示したように避難行動が計画通りに 完遂するとは限らないため,複数の避難経路を用 いた訓練など,様々な状況を想定した実践演習が 必要である. 次に避難行動の分岐に影響した情報探索行動と して,マスメディアからの情報,他者からの呼び かけ,そして津波の視認が挙げられるが,それぞ れに課題が見出された.マスメディアからの情報 については,「状況の楽観視」から避難行動の開始 につながらない事例が見られるため,状況が深刻 な場合において情報提示方法を変化させるなど正 常性バイアス[12]への対応が今後の課題として挙 げられる.他者からの呼びかけについても情報源 との関係性により「状況の楽観視」を生む過程も 見出されており,マスメディアからの情報発信と 類似した課題を含んでいる.津波の視認に関して は,「危機感の増加」により「とっさの避難行動」 を取りやすい.したがって,避難者による津波の 視認が比較的安全な高地から行われるために,避 難行動の早期開始による高地への移動をいかに実

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 現するかが今後の課題として挙げられる. 最後に,他者への呼びかけについて述べる.本 研究から他人への避難指示を行うのは【計画性の 低い避難】を行っている避難者の割合が多い特徴 が見出された.したがって,計画性の低い行動を とった避難者が,結果として他者の避難行動を促 す効果をもたらした可能性がある.しかし,避難 の成功率を高めるという観点から考えると,津波 の到来を地震直後に知識や体感から予見し即座に 避難を開始することが理想であり,【計画性の高い 避難】を行っている避難者による避難指示・呼び かけを増やす工夫や体制作りが今後の課題として 考えられる. 4.3 先行研究との比較 津波避難行動の種類について内閣府は,アンケ ート調査の結果などからその開始時期に着目し 「直後避難」「用事後避難」「切迫避難」の3 パタ ーンに分類可能だと述べている[21].本研究では 避難行動に関して「計画性」の視点からその類型 化を行うことで新たな視点を得た.また,大野ら [9]は避難行動の分岐の要因について「津波の視認」 「過信」などを挙げているが,本研究でも類似の 分析結果を得た.一方,本研究では要因の提示の みならず他行動への影響などのプロセスを明確に することで津波避難行動の理解を深めた. 片田(2012)[22]は津波避難 3 原則として「想定 にとらわれるな」「その状況下において最善を尽く せ」「率先避難者たれ」を提唱しているが,本研究 でも想定した避難経路に固執せず,他の避難経路 に移る柔軟な対応の重要性が見出された.一方で, 避難行動の計画性と他者への避難呼びかけの両立 には課題があることが分析結果から見出された. 4.4 研究の限界 本研究では一般の避難者の視点から分析するこ とを目的として,被災者に対する公開インタビュ ー動画を基に分析を行った.一方で,インタビュ ー及び編集は第3者によって実施されているため, 分析対象となった被インタビュー者の発言内容の 網羅には限界がある.また本研究により提示され る分析結果は,分析手法の特性上,東日本大震災 時の岩手県・宮城県・福島県における被災者の避 難行動に対して有効であり,すべての津波避難行 動に対して有効であるとは言えない. 5. 結論と今後の方向性 5.1 結論 日本は自然災害の多い国であり,特に地震や二 次災害である津波による人命被害は甚大なもので ある.現状として東日本大震災における約2 万人 以上の犠牲者のうち,90%以上の死因が津波によ る溺死であったこと,現在も同規模の地震の発生 が高確率で予測されている.こうした背景から, 今後の災害において津波による犠牲者を減らすた めにも津波避難行動の特徴を把握することは重要 な課題である.しかし,津波避難行動に関する先 行研究は避難に影響した要因を明らかにするにと どまっており,それらの要因がどのような避難行 動につながったのかを明らかにした研究は少ない. また,災害発生時の特徴として情報の多様性が挙 げられるが,地震発生から様々な情報がどのよう に避難行動に影響したかを明らかにした研究もま た少ない.そこで本研究では,一般の被災者の視 点から分析を行い,地震発生から避難終了までの 津波避難行動プロセスを情報探索行動に着目しな がら明らかにすることを通して,津波避難行動の パターンの類型化を行うこと及び類型化したプロ セスやその過程で獲得した知見を基に今後の津波 避難支援に関する対策について議論し,提案する ことを目的とした.また分析方法には,プロセス 性のある事象における人間の行動について,予測 や説明を可能とする理論の生成を試みるという分 析特性を持った,質的分析法の一種である修正版 グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用し た.

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分析の結果,37 個の概念及び 8 個の概念カテゴ リーが生成された.それらを基に各概念間の関係 を検証した結果,地震発生及び揺れの体感から津 波避難行動終了までの一連の津波避難行動を構成 する概念は「避難に対する意思決定」「計画性の高 い避難」「計画性の低い避難」「避難行動終了後」 の4 グループに分類できることが分かった.また, 主な津波避難行動プロセスとして,揺れの体感か ら津波の到来を予見し,避難計画の立案を経て避 難を開始し状況に応じて計画の再立案を行うパタ ーンや,過去の経験から過信をし,他人の呼びか けを聞いて初めて避難行動を開始するも,津波が 接近したことによりとっさの判断で他人追従行動 に移るパターンなどが得られた. これらの知見を基にした津波避難支援対策とし て,本研究では災害発生時において被災者に津波 のイメージ及び危機意識を持たせるための土台作 りを行うための施策や,避難開始後の行動を支援 する対策と共に,被災者の避難開始のタイミング を早めさせるための対策が重要であると考察した. 5.2 今後の方向性 本研究では生成した概念について,「情報探索行 動」「情報探索行動を受けての被災者の意識・状態」 「津波避難の結果に関わる行動・判断」という3 つに分類したが,意識・状態の部分について,ク ールソーの情報探索プロセスモデルに基づき感情 についてさらに深く分析することで,新たな知見 を得ることが可能になると思われる.しかし本研 究を行うにあたって収集したデータは感情に関す る描写が少なく,分析を行うには不十分である. したがって本研究では行うことができなかった感 情についての分析を行うために,実際に被災者に 対して当時の感情を問う設問を用意し構造化イン タビューを行うことでより密度の濃い体験談を収 集する必要がある.また本研究の分析対象は「東 北地方太平洋沖地震により発生した津波からの, 岩手県・宮城県・福島県において被災した避難者 による津波避難行動」といった非常に限定された ものである.そのため,研究結果の有効範囲を一 層拡大するためには対象地域の変更を行ったり, 過去に発生した地震における津波避難行動との比 較を行う必要がある.加えて,日本だけでなく海 外にも目を向け,様々な事例に関して同様の分析 を行うことにより,新たな特徴の把握や津波避難 行動パターンの類型化,それらの地域による差の 比較などを通してさらなる示唆を得たい.最後に, 成功・失敗という避難結果の二値性を発展させ, 被害を受けた水準を設けるなど,避難行動分析を 深化させることも今後の課題である. 注・文献 [1] 内閣府. “被災者生活再建支援法”. 防災情 報のページ. http://www.bousai.go. jp/taisaku/seikatsusaiken/pdf/090319hou. pdf, (参照 2018-11-12). [2] 内閣府. “平成 30 年度版防災白書”. 防災情 報のページ. http://www.bousai.go. jp/kaigirep/hakusho/pdf/H30_fuzokusiryo1 . pdf, (参照 2018-11-12). [3] 一般財団法人国土技術研究センター. “国土 を知る/意外と知らない日本の国土”. 一般財 団法人国土技術研究センター. http://www. jice.or.jp/knowledge/japan/commentary09, (参照 2018-11-20). [4] 地震調査研究推進本部地震調査委員会. “長 期評価による地震発生確率値の更新につい て”. 地震本部. https://www.static.jishin. go . jp/resource/evaluation/long_term_evaluatio n/updates/prob2018.pdf, (参照 2018-6-10). [5] 国土交通省近畿地方整備局. “第 1 章 死者を 減らすために”. 国土交通省. http://www. kkr.mlit.go.jp/plan/daishinsai/1.html, (参照 2018-11-20). [6] 日本経済新聞. “東日本大震災の死者,ほぼ 津波が原因 60 歳以上が 65%”. 日本経済新 聞. 2011-4-19. https://www.nikkei.

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 com/article/DGXNASDG1902Z_Z10C11A4 CC1000/, (参照 2018-11-20). [7] 国土交通省. “第 2 節 急がれる次なる災害 への備え: 3 津波対策の強化に向けて”. 国土 交 通 省 . http://www . mlit . go . jp/hakusyo/mlit/h22/hakusho/h23/html/k12 23000.html, (参照 2018-11-20). [8] 田村誠, 田林雄, Frank Hiroshi Ling, 安

島清武, 三村信男, 安原一哉. 津波発生時 の避難行動解析: 2011 年東北地方太平洋沖地 震における茨城県での津波避難. 日本地震 工学会論文集. 2013, 13(4), p.19-37. https://www . jstage . jst . go . jp/article/jaee/13/4/13_4_19/_pdf/-char/ja , (参照 2018-11-22). [9] 大野沙知子, 高木朗義. 新聞記事を用いた 東日本大震災における津波避難行動に関す る考察. 土木学会論文集 D3. 2013, 69(5), p.75-89. https://www.jstage.jst.go. jp/article/jscejipm/69/5/69_I_75/_pdf/-char/ja, (参照 2018-11-21). [10] 松林由里子; 藤森直人; 久保奈央, 堺茂樹. 東北地方太平洋沖地震津波時とその後の岩 手県の小中学校での津波避難行動. 土木学 会論文集B2. 2014, 70(2), p.1341-1345. https://www . jstage . jst . go . jp/article/kaigan/70/2/70_I_1341/_pdf/-char/ja, (参照 2018-11-21). [11] 竹下俊郎. “コミュニケーションの二段の流 れ”. 現代社会学辞典. 大澤真幸, 見田宗介, 吉見俊哉,鷲田清一編. 弘文堂, 2012, p.456. [12] 広瀬弘忠, 杉森伸吉. 正常性バイアスの実 験的検討. 東京女子大学心理学紀要. 2005, p . 81-86 . https://ci.nii.ac.jp/naid/110006608536, (参 照 2020-6-25). [13] 気象庁. “東日本大震災 ~東北地方太平洋 沖地震~ 関連ポータルサイト”. 国土交通 省 気 象 庁 . https://www . jma . go . jp/jma/menu/jishin-portal .html , ( 参照 2018-11-10). [14] 警察庁. “平成 23 年(2011 年)東北地方太 平洋沖地震の警察措置と被害状況 ”. 東日本 大震災について. https://www.npa.go. jp/news/other/earthquake2011/pdf/higaijok yo.pdf, (参照 2018-11-10). [15] NHK. “東日本大震災アーカイブス: 証言 WEB ドキュメント”. NHK 東日本大震災ア ーカイブス. https://www9.nhk.or. jp/archives/311shogen/, (参照 2018-11-12). [16] 木下康仁. グラウンデッド・セオリー論. 弘 文堂, 2014, 176p, (現代社会学ライブラ リー, 17).

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jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/9/pdf/ 2.pdf,(参照 2018-11-30). [22] 片田敏孝. 想定外を生き抜く力: 大津波から 生き抜いた釜石の子どもたち,その防災教育 に学ぶ. 学士会会報. 2012, 5, p.77-89. (2019 年 6 月 7 日 受付) (2020 年 6 月 2 日 採録) (2020 年 6 月 29 日 出版)

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 付録 表2 本研究において生成した概念リスト 番号 概念名 定義 備考 1 経験からくる過 信 過去に被害を受けたことがないことから, 今回も危険ではないと高を括ること 「過信」カテゴ リーに統合 2 予兆視認による 津波到来の予見 津波の予兆を視認し,避難行動に移ろうと すること 3 避難の必要性の 把握 他人から危機が迫っていることを告げられ 避難の必要性を把握すること 4 避難以外を優先 避難以外の行動を優先すること 5 他人の介助 迅速な避難が必要にもかかわらず,他人を 助けようとすること 6 パニックで津波 にまで頭が回ら ない 地震の衝撃があまりにも大きく,津波にま で頭が回らない状態 7-1 二次情報探索に よる現状把握 マスメディアを通して災害に関する情報を 取得し,現状を把握しようとすること 7-2 避難の呼びかけ を聞く 他人から直接避難に関する呼びかけを聞く こと 7-3 避難に関する情 報の収集 他人を通じて避難計画の立案に関わる情報 を収集すること 8 知識からくる過 信 言い伝えなど,以前に得た知識により過信 が形成されること 「過信」カテゴ リーに統合 9 他人への避難指 示 地震が災害情報の発信源となり,危機が迫 っている現状を周知させること 10 危機感の急増 何らかの要因により現状に対する危機感が 急増すること 11 他人追従 危機が切迫した状況で,他人に追従する形 でとられる行動のこと 「とっさの避難 行動」カテゴリ ーに統合 12 体感による津波 の予見 体感から,津波の到来を予見すること 13 固定された避難 意識 切迫した状況において,避難者が臨機応変 な対応をとることが不可能であること 廃止 14 想定外の行動を 選択 地震前に想定していた行動と違う行動をと ること 概念4 に統合 15 避難しない 何らかの要因により,避難しないという判 断をすること 16 受動的な避難 危機意識が低く,他人に言われるがままに 「受動的な避

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避難を開始すること 難」カテゴリー に統合 17 避難中止 避難が一度完了したにも関わらず,再度危 険な場所へ戻ること 18 介助を受ける 介助を受けながら避難行動をとること 「受動的な避 難」カテゴリー に統合 19 とにかく上へ 津波が迫る切迫した状況において,とにか く高い場所への避難を試みること 「とっさの避難 行動」カテゴリ ーに統合 20 知識・経験から 津波を予見 過去の経験や知識から,津波の到来を予見 すること 21 避難方法の選択 収集した情報を基に避難方法を選択するこ と 22 避難経路情報の 入手 避難中,経路や避難先に関する情報を入手 すること 23 移動方法の変更 入手した情報を基に移動方法を変更すると 「計画の再立 案」カテゴリー に統合 24 避難経路の決定 入手した情報を基に避難経路や避難先を決 定すること 「避難計画の立 案」カテゴリー に統合 25 避難先の変更 入手した情報を基に避難経路・避難先を変 更すること 「計画の再立 案」カテゴリー に統合 26-1 一次情報探索に よる現状把握 災害に関する情報を,自らの目で収集しよ うと足を運ぶこと 26-2 津波の視認 迫る津波を自らの目で視認すること 27 波から逃れる手 段の模索 津波にのまれたのち,危機から脱出するた めに高いところへ移動しようとすること 「危機脱出の試 み」カテゴリー に統合 28 避難が間に合わ ず波にのまれる 避難行動をとるも間に合わず,津波にのま れてしまうこと 「避難失敗」カ テゴリーに統合 29 流されないため の手段の模索 津波にのまれたのち,流されないための手 段を模索し危機からの脱出を試みること 「危機脱出の試 み」カテゴリー に統合 30 津波の存在に気 付かず波にのま れる 津波に関する情報が得られず,現状の危険 性を理解しないまま津波にのまれてしまう こと 「避難失敗」カ テゴリーに統合

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永野・上保:情報探索行動に着目した津波避難プロセスの類型化 31 二次情報による 「まだ来ない」 という過信 収集した二次情報の内容から,過信が形成 されること 「過信」カテゴ リーに統合 32 避難準備 津波到来を予見し,避難開始の準備を行う こと 33 自宅で孤立 津波が自宅に到達し,避難所や高台への避 難が不可能になること 「避難失敗」カ テゴリーに統合 34 状況の楽観視 津波に対して危機感を感じておらず,現状 を楽観視すること 35 避難以外の行動 を優先し,波に のまれる 避難以外の行動を優先したため,避難が完 了せず波にのまれてしまうこと 「避難失敗」カ テゴリーに統合 36 避難の参考とす る情報の選択 入手した情報の中から,自身の避難計画の 立案に有用な情報を選択すること 37 避難計画に対す る制限の理解 計画していた避難を制限する情報を受け入 れ,再計画しようとすること 図 1 分析ワークシート(木下[19]を基に著者作成)

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