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中国における地域スーパーマーケットの現状 顧国建氏 上海商学院教授 1. スーパーマーケットの小売業における位置 1993 年に上海市は同市にスーパーマーケットを 100 店舗開設させようと計画 そのための優遇措置を打ち出た この上海市の計画策定には私も参画した 1995 年 3 月には 中央政府が

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特集 中国流通の新局面

 中国における個人消費支出は継続的に成長 している。成長を支えているのは都市部の消 費拡大によるところが大きい。また、消費支 出の拡大に伴うエンゲル係数の低下がまだ見 られないところから中国における食品市場は 今後も成長余力が期待できる。  拡大する消費の受け手である小売構造を見 ると、店舗数と売上総額の伸びに比べて売場 面積や従業員数の伸びは抑えられており、店 舗の小型化とともに生産性の向上傾向がうか がえる。  中国にはウォルマートやカルフール等の外 資系小売業が大規模な店舗を展開している が、とくにウォルマートは積極的な展開を見 せている。また国内資本の小売業も百聯集団 や物美等大規模小売業が育っている。しかし、 これら大規模小売業による大型店の出店に対 してはこれを規制しようという行政の動きが あり、将来的には店舗戦略の見直しを迫られ るだろう(詳細は本誌、謝論文参照…編集部 注)。  また、外資系、内資系とも、大規模小売業 において全国集中型小売業は必ずしも成功し ていない。そのため華聯は、華東に集中す る方向を打ち出し、ウォルマートは地域を 4 つに分割して独立的に運営していくといった 方針転換を図っている。  その一方、山東省の利群、福建省の永輝な どの地域密着型のリージョナル食品スーパー の利益率が高い点が注目されている。これら のスーパーマーケットは、大規模小売業より コストが低く、店舗閉鎖率も低い。  中国では、全国的な卸・代理商がほぼ存在 しない状態であり、このために小売業の全国 展開には多くの課題がある。その点で、成長 しつつある地域スーパーマーケットに注目 し、その現状における強み・弱みを分析し、 将来の可能性について検討する必要がある。

◇問題提起 : なぜ、 中国の地域スーパーマーケットに注目すべきなのか

財団法人流通経済研究所主任研究員

神 谷   渉

セミナー紹介:

中国地域スーパーマーケットの最新動向と将来展望

2010年3月4日 於アルカディア市ヶ谷

<講演抄録>

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1

.スーパーマーケットの小売業におけ

る位置

 1993 年に上海市は同市にスーパーマー ケットを 100 店舗開設させようと計画、そ のための優遇措置を打ち出た。この上海市の 計画策定には私も参画した。1995 年 3 月に は、中央政府が上海におけるスーパーマー ケットの開設状況を総括し、その結果、全国 でこのような新しい小型小売店の発展を推進 することを決定した。中国のスーパーマー ケットはいわば国家指導で発展してきたもの で、他国とは発展状況が大きく異なる。  現在中国のスーパーマーケットの年間販売 額は、推定で 6000 億人民元、百貨店に次ぐ 規模にある。売上高の増加、営業面積の増加 により、中国第一の業態に成長してきている。 この業態の中には、狭義のスーパーマーケッ トの他に、ハイパーマーケット、総合スー パー、ウエアハウスストア、スーパーストア、 ディスカウントストアの 6 業態が含まれて いる。  中国経済全体の発展・成長、農民の都市 部への流入現象、都市化の発展を背景に、 1995 年から 2007 年までの 12 年間のスー パーマーケットの売上高の伸び率は、小売業 全体の伸び率を上回っており、小売業の中で 最も早い速度で伸びていた。

2. 

地域スーパーマーケットの現状と成

長の原動力

 2000 年はじめくらいから、中国のスーパー マーケットは全国的な展開を行うよりも、地 域に集中して出店する傾向が出てきた。地域 において安定的な経営をしていこうという考 え方が出てきたわけだ。というのは、中国に はいわゆる沿海の発展した地域以外に、省政 府の所在都市である二線都市、さらに県政府 の所在都市である三線都市というまだ外資系 のスーパーマーケットが入ってきていない場 所、店舗展開の余裕のある地域があるからだ。  また、一つの業態ではなく、様々な業態で 発展する戦略をとっている。かつて中国政府 はスーパーマーケットの成長を促すに当た り、当初は沿海都市部において店舗面積が 400 ㎡以上の店舗を標準モデルにするとい う方針を出した。だから 1995 年頃に中国の 国内で作られたスーパーマーケットの面積は 400 ㎡から 500 ㎡というものが多かった。  しかしその後、ウォルマート、カルフール などのハイパーマーケットが中国に進出して きて、こういった中国の既存のスーパーマー ケットを圧倒した。そのため、沿海地域で成 功したス-パーは、中規模のスーパーマー ケットから大型のスーパーマーケットに転換 して成功したものがほとんどだった。中国の 地域スーパーマーケットは、まずウォルマー トのようなやり方を学び、大規模な店舗を開 設するという方法をとっている。そうするこ

◇中国における地域スーパーマーケットの現状

上海商学院教授

顧 国 建 氏

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とによって仕入れの規模も販売の規模も非常 に大きいものとなっている。そして大規模な 店舗の建設に適さない所では、中規模のスー パーマーケット、小規模のスーパーマーケッ ト、さらにはコンビニエンスストアといった ような様々な業態で地域の中でスーパーマー ケットの展開を行うようになっている。  こういった地域のスーパーマーケットには 資金力があり、自前で商業不動産の開発を 行っているために、当該地域への外資系の スーパーマーケットの参入を防ぐことができ た。また、こういった二線都市、三線都市で は当時は沿海部の都市と比べて地価が非常に 安かったので、そういった不動産開発が容易 であったし、その利益も大きかった。  また、このような地域スーパーマーケット は、投資の主体が民間資本であるため、国有 資本の企業よりも企業としてのメカニズムが 働きやすいことも成長を促した。  しかし、中国のスーパーマーケットにはさ らなる技術の向上が必要だ。というのは、中 国における外資系のスーパーマーケットの平 均売上高が 2.3 億元であるのに対して中国の 地域スーパーマーケットの平均売上は 1.2 億 元。かなり大きな差がある。  まず運営技術の改善として、以下の点の技 術の向上が必要だ。  ①・大小さまざまな業態についてすべてカ バーできるようなシステムの開発。  ②・物流の技術。  ③・消費者を研究する技術。  ④ ・ECR、カテゴリーマネジメントの技術。  ⑤・プライベートブランド開発を含む商品開 発技術。  ⑥・店舗運営技術  また、今後地域を超えて発展していくため には資金調達は重要であり、資本市場から資 金調達するために既に株式上場を果たした企 業は大きな伸びを見せている。  今後さらに過酷な競争が予想され、特に外 資系小売業の攻勢は地域スーパーマーケット の市場にも及ぶことが予想される。外資系企 業がスーパーマーケットの出店を決める基準 というのは非常に単純で、立地の視点から半 径 5 キロに 12 万人の人口があるかどうかだ。 そして中国には農村部であっても大きな人口 を抱える新興都市が発達してきている。  外資系の攻勢に対して中国の地域スーパー マーケットとしては、出店をより速やかに行 う、大規模なショッピングセンターを開設す る、業態を総合スーパー化する、商品のブラ ンドをさらに高級化するといった対策が取ら れている。しかし、総合スーパー化について はそんなに長くは続かず、コンビニエンスス トアを含めた激しい競争の中でやがてはディ スカウントストア化へ進むことが予想され る。   中国の地域スーパーマーケットが成長する 原動力は、一つには国有企業と異なり投資家 が経営者であり、投資に対して責任を持つこ とにある。また中国の小売市場が非常に大き な発展の余地があるということもスーパー マーケットの発展を促進している。日本のト ライアルカンパニーが中国での事業を計画す るに当たり、市場規模を推計して、2010 年 の売上規模は 2030 年のわずか 13%にしか すぎず、つまり、今後 2030 年までに 87% の成長の余地があると推定をした。私の研究 所による計算でもほぼその数字通り、今後 2030 年を考えた場合、85%の発展の余地が あると推定している。

3. スーパーマーケットの課題

(1) 生鮮食品供給体制  生鮮農産物は、おそらく 90%が伝統的な 小売チャネルである農産物市場を通じて供給

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されている。しかし、スーパーマーケットが かなり発展している大都市では、スーパー マーケットでの販売に移りつつある。  中国の農産物は、日本のように農業協同組 合経由ではなく、自身も農民である買い付け 業者が、農地で直接農民から買い付けを行い、 次にやはり一般的には農民である運送業者が その農産物を都市部にある卸売市場まで輸送 する。卸売市場では二次卸売業者、三次卸売 業者がそこで買い付けを行い、レストランや 学校、スーパーマーケットに卸すのが基本的 な仕組みだ。また、卸売市場では零細な個人 商店も仕入れることができるので、消費者に 販売する時にはスーパーマーケットに比べて 個人商店の方が価格が安くなる。個人商店は 伝統的な農産物市場で屋台のような店舗で販 売するのでコストも低い。こうした個人商店 をテナントにするスーパーマーケットもある が、この場合スーパーマーケットは価格決定 権を持たないために、農産物を販売促進の対 象商品、つまり目玉商品として使うことがで きない。  このようなスーパーマーケットの生鮮食料 品の調達状況を打破するために、福建省の永 輝は、2000 年に福建省政府のサポートを得 て、農産物の直接調達に成功した。永輝は、 例えば一般的にはその地域の村長とか、郷の トップに代理店を担ってもらう方法で、農村 に買い付け拠点を設けて買い付けを行った。 あるいは、現地への直接買い付け、契約栽培、 さらに卸売市場の経営に参画するなどの方法 で生鮮農産物の低価格化を成功させて、重慶 市では外資系のハイパーマーケットに対して 優勢に立つという状況になっている。  私自身もこの事業を推進しているのだが、 中央政府においても商務部と農業部が共同で こういった事業をモデル事業として行うとい うことを決定し、2012 年までにモデル企業 の生鮮農産物の直接調達の割合を 50%以上 とするという目標を立てた。今年の上海での 会議の状況から見ると、2010 年にはこの目 標が達成される見通しだ。 (2)・ ナショナルブランド(NB)の取引問 題  現在の中国のスーパーマーケットは取引の 各段階においてサプライヤーから費用(リ ベートや協賛金等)を徴収するというかたち で利益を得ている。このような取引慣行はカ ルフールなどの外資系小売業が導入してき た。各種費用の徴収だけでなく、従業員派遣 要請や長期の決済サイトといった慣行も問題 になっている。このような取引慣行は、小売 業とサプライヤー双方にとって問題であるば かりではなく、最終的に消費者への販売価格 に転嫁されるため、消費者にも不利益をもた らす。そのため、商務部など行政でも問題視 しており、現在の部門規定レベルの規制を国 務院レベルの規制に強化しようという動きが ある(詳細は本誌、渡辺論文を参照…編集部 注)。  しかし、現状ではこうした小売業側からの 要請に応えることのできる大手メーカーによ る NB が有利であり、こういった商業上の慣 習が続けられている。ただ、NB が店舗内で 優位な位置を占めている結果、NB がむしろ スーパーマーケットの業績、ビジネスモデル を支配するような状況にもなりかねない。つ まり、スーパーマーケットは経営方式を変え ない限り、NB によって業績が左右されると いう状況が発生することが考えられる。この ためスーパーマーケットの中には、売上の マージンを増やすことによって利益を得る方 式に転換してきているところもある。  一方、特に外資系の大規模小売業が、サプ ライヤーと全国のどの店に対しても同じ条件 で商品を供給させるといった契約を締結する

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ところが出てきている。もともとNBは各地 域に代理店が存在しており、この代理店を通 じないと商品の供給が受けられない状況にあ る。そのため、小売業が全国展開する上で制 約となっていたのだが、サプライヤーと小売 業の双方で、相互にサプライチェーンの統合 を考えていくという状況が出てきている。 (3)・ 自主ブランド(プライベートブランド = PB)の開発  中国においてもスーパーマーケットの発展 の初期の段階で PB の開発に着手した企業も あったが、カルフールがリベート等によって 利益を得るといった経営モデルを遂行し始め たために、技術的により難しい PB 開発は遅 れている。また NB であればリベートを得る ことができるが、PB にはそれがないために 店舗が PB を支持しないという状況がある。 さらに、中国の PB は品質面でも価格の面で もメーカー品に比べて有力な地位を占めてい るわけではないという問題がある。

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.中国スーパーマーケット共同仕入連

合会議での現状と課題

 私は 2006 年にスーパーマーケットによる 直接仕入れ事業の促進を始め、2007 年に中 国スーパーマーケット共同仕入連合会議を設 立した。この会議の現在の会員企業数は 75 社、その内9社が上場企業である。会員企業 は 22 省、265 都市に分布している。会員企 業の中には、スーパーマーケット、また大規 模総合スーパー、百貨店、ショッピングセン ターなどが含まれており、店舗数は合計で約 4500 店舗、2008 年の会員企業の総販売額 1300 億元である。  この会議で行っている主な事業は、農村と スーパーマーケットの直接取引事業と対外輸 出企業と中国の国内市場との連携だ。農村と の直接取引は既に成功事例も多く、輸入品も 含めて共同調達にあたってはインターネット を活用した会員企業間の供給体制も活発化し てきている。  対外輸出企業と国内市場との連携では、金 融危機以来、困難に直面していた対外輸出の 在庫を国内市場に提供するという業務を推進 した。この連携では、次の3つの方針を提唱 している。  ①・いわゆる「入場料」(取引開始のための 手数料で外資・内資を問わず中国の大手 小売企業に普及)は徴収しない。  ②・商品代金は速やかに現金で支払う。  ③・返品は行わない。  取引する商品は在庫品だけでなく、輸出品 として出荷されている商品について追加注文 する場合、あるいは PB として開発する場合 もある。小売とサプライヤーとのマッチング に関しては、インターネット上に専用のサイ トを開設しブランドの推薦、紹介を行ってい る。  この会議の次の目標は、以下の3つである。  ①・スーパーマーケットの総合化、総合スー パーのような店舗の開発を支援する専門 部門を設立する。  ②・行政と共同で、輸出加工企業の国内向け の販売ルートを開発し支援する。  ③・会員企業に対して PB の開発、デザイン などの支援を行うとともに、消費者に関 する情報提供などを行う部門を設立す る。

5. 未来への展望

 将来の展望の第1点として指摘できるの は、スーパーマーケット業界の市場集中度が 今後高まっていくと思われることである。現 在、少しずつ市場集中度は上昇しているが、 まだ独占的な地位を有するような企業は出て きていない。しかし、現在のように分散した

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状況はそんなに長くは続かない。韓国や英国 の大企業がM&Aを通じて中国の企業の買収 を進めている。そのため、将来市場の集中度 が高まっていくとすれば、こうしたM&Aを 通じて実現していく可能性もある。  第2点は、スーパーマーケットは現在発 展期の後の調整期に入りつつあることであ る。2008 年からスーパーマーケットの売上 の伸び率は、国全体の小売販売総額の伸び率 以下にとどまっている。また同年から、主要 都市において、小売販売総額の中でスーパー マーケットの占めるシェアが低下しつつあ る。こうしたことから調整期に入っていると いうことがうかがわれる。出店数の伸び率も 緩やかな伸び率になってきている。スーパー マーケットは新たに出店し店舗数を増やすよ りも、既存店の業績の伸びを重視するように なってきている。  第3点として、スーパーマーケットという 業態が刷新、転換される可能性があることが 指摘できる。2010 年は中国のスーパーマー ケットが業態の刷新を行い、変換を行って大 きく発展する年になる。その1つの方向とし てあげられるのは、より多くの品揃えをして 総合スーパー化していくことである。また、 業態がより細分化していくという傾向も去年 から出てきている。百貨店などが高級百貨店 に併設するかたちで高級スーパーマーケット を開設するという傾向、コミュニティ型の スーパーマーケット、つまり住宅地に近い立 地のコミュニティに密着したスーパーマー ケットの開設、あるいは重要な生鮮品に特化 した生鮮特化型スーパーマーケットなどの出 現だ。  第4点として、外資系と中国のスーパー マーケットとの競争激化が、第5点として、 メーカー直営店やコンビニエンスストアなど 他業態との競争激化があげられる。  第6点として、スーパーマーケットに対す る政府の管理監督が強化される可能性がある ことが指摘できる。取引制度の正常化や出店 規制に関する法整備によって規制が強まる傾 向が考えられる。  第7点として、経営方式の転換、すなわち リベートによって利益を得る方式からスー パーマーケットの価値、マージンによって利 益を得るという経営方式への転換が、非常に 厳しいのだが、なされようとしていることが あげられる。  第8点は、日本のスーパーマーケットの中 国における発展の可能性についてだが、私は これは大きな可能性を持っていると考える。 現在中国が進めようとしているスーパーマー ケットの総合スーパー化、あるいは、業態の 細分化といった傾向のもとで、今後大きな チャンスがあると思われる。中国のスーパー マーケットにはいろいろな方面で技術面のサ ポートが必要だ。例えば仕入運営に関する技 術、物流配送技術、また IT 技術などを必要 としているスーパーマーケットがたくさんあ る。日本のスーパーマーケットは資金と技術 の両方を持っているので、こうした面での協 力を希望するスーパーマーケットは多い。  私は中国のスーパーマーケットの業界を代 表して、中国の多くのスーパーマーケットは 日本の業界の皆さんと広い範囲での協力、連 携を期待しているということを最後に申し上 げます。皆さんありがとうございます。

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永輝

 永輝は福建省で最大の、そして重慶市でも 第二位を占めるスーパーマーケット・チェー ン。2010 年2月 18 日現在で、122 店舗を 展 開 し、2009 年 の 売 上 高 は 約 100 億 元、 2008 年全国チェーンストアランキングでは 43 位の小売業である。日本では一般的には 知られていないが、中国において初めてスー パーマーケット業態を確立した小売業として 注目されている。  同社の創業者である張軒松氏は、1995 年 12 月に日用品をセルフサービスで販売する 小さな店を最初に作った。「永輝超市」とい う店名で店舗展開を始めたのは 1998 年8 月。同店は 2001 ~ 2002 年辺りから生鮮食 料品の取扱で注目されるようになった。氏は セルフサービス店を始める前に、福建省の福 州市でビールの特約店をやっていて、そこで 最初の資本の蓄積をした。その後は共同で ビールの製造を始めたが、競争が激しく失敗、 事業の中心を小売業に置き始めた。張社長は これらの経験を通して食品の製造から卸、小 売段階、業界全般の状況、取引の状況や慣習 などを理解できるようになっていたと考えら れる。  当初はもっぱら自己資本で店舗を作ってい たが、2007 年に香港の銀行系資本からの出 資を受け入れ、その後急速に店舗を増やして いる。  永輝の出店地域は、最初は福建省、次に重 慶市、その後は北京市、今年は安徽省で店 舗展開をしようとしている。地域が分散し ているので物流費などを考えると、これは 非常に不合理な側面があるように思われる。 しかし、永輝はいくつかの地域を選び、経 済発展のレベルを考慮しながら展開してい る。業態も他の中国の地域スーパー同様多様 だ。永輝は 2010 年2月 18 日に、Yonghui  Supermarket, Yonghui Superstore、  Yonghui GMS, Bravo Yh の4つの業態 戦略を公表した。さきに顧先生が指摘した高 級化と、総合化という傾向が、永輝の戦略の 中でも現れている。  

注目される背景

 私が永輝に注目したのは生鮮食料品の割合 が非常に多い点だ。2009 年9月には生鮮食 料品の売場面積を縮小した新業態も開発して いるが、それまでは生鮮食料品売場の面積は 50%以上だった。  2000 年前後、中国では一線都市だけでは なくて、二線都市においても、行政によって 自由市場(農貿市場:農民が商品を持ち寄っ て販売する市場)をセルフサービス型のスー パーマーケットに改造するという動きがあっ た。自由市場は買い物環境が良いとは言えず、 食の安心安全面、あるいは公正な取引面にお いて問題があったからだ。しかし、こうして 建設されたスーパーマーケットはほとんどが 失敗、倒産している。唯一永輝が大きな成功 を遂げ、それが中国政府の幹部の目にとまり、 永輝モデルとしてまとめられ全土への普及促

◇福建省のスーパーマーケット 「永輝」 の事例報告

流通経済大学准教授

呉 軍 氏

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進が提唱されている。  永輝は、メインのターゲットを中低所得層 としており、地価の安い住宅地や自由市場の 隣接地に出店している。品揃えは自由市場と 同様だが、それに加えて地元産品を品揃えし た。商品構成は売場面積の 80%、売上高の 70%を生鮮食料品が占めており、価格は自 由市場より 10 ~ 20%安く設定されている。 同社は主要な競争相手を自由市場としている ことから、それとの差異化をアピールするた めに、自由市場以下の価格で販売し、自由市 場より衛生的な環境を整備した。また、従業 員の制服、値札の統一など近代的な店舗を展 開し、人材においても国有流通部門の熟練者、 卸売市場から専門技術者を引き抜き、同時に 人材教育センターも設立し人材育成に努めて いる。  永輝の初期の経営を確立できた決め手、そ の成功要因は価格とバラ売りと立地にある。 中でもバラ売りは、店舗を自由市場と買物の 仕方を同じにするという意味で、成功の決め 手と言える。中国の消費者はプリパッケージ された商品ではなく、自分で選んだ物を買う 習慣があり、またその方が価格が低く抑えら れる。永輝の店舗では、魚も水槽(生け簀) から取り網で消費者が直接生きた魚をすくい 買うことができる。これで鮮度と品質をア ピールできることになる。農産物のバラ売り はロスが多くなりがちだが、永輝は商品を山 のように積むのではなく、一層陳列にすると か、葉物は束を小さくする、傷ものは記号を つけて値下げ販売する、産地から直接仕入れ るなど、鮮度と品質を保ち、ロスを削減する ことで価格を抑えることを実現している。  立地は、福州市の場合、行政に自由市場の すぐ隣に出店することが認められた点も当初 の成功要因となっている。その後はスーパー マーケットが立地していない地域を狙って出 店していったが、当時はまだそういう地域が あったことも成功要因だ。  一方、永輝は、当初、自由市場の商店と同 様に卸売市場から商品を調達していた。しか し、その後、まとまった量を現金で支払うこ とで市場取引開始直後に買い占めるなどに よって、より良い取引条件を獲得したり、日 用品においても支払サイトを他の小売業より 短縮するなどによって、より良い取引条件を 得ることで、低価格を実現することができた。  永輝は多業態でドミナント出店を進めると 同時に、卸売市場における経営にも乗り出し た。その結果、その地域の供給市場の 50% を占めるようになり、小売価格設定における リーダーシップを掌握することができた。  PB 商品にも力を入れ、地域の食文化を担 う食品について自社所有工場で生産し、また 人気地場商品の小規模生産者の囲い込みな ど、自由市場の個人経営者にはできない商品 力を発揮している。  中国では全国的な食品の大量流通システム が整備されておらず、生鮮食料品の卸売市場 には仲卸といった組織がないこともあり、小 売業は品質や量を確保するために、自ら商品 調達システムを構築しなければならないとい う背景がある。そのため、永輝は川中、川上 を自社でコントロールするなどかかわってい かざるを得ない。それが結果的に強い永輝を 生み出した。  永輝は今年、「中国のウォルマートになる」 「重慶市で3年間 100 億元の売上を実現す る」「株式上場」を目標に掲げた。しかし、 永輝の成長は、同社の仕組みが他地域でも通 用するかどうかにかかっている。例えば大都 市では、生鮮食料品の卸売段階における地域 供給量の 50%を占めることは不可能である し、外資系の大手小売業との競争も厳しく なっている。したがって、永輝のモデルは応

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用できるところとできないところがある。た だ、それなりの規模になった時に衣料品や日 用品の販売規模もかなり大きくなっているの で、その部分が支えとなってまた違う展開の 仕方もあると思われる。  あるいは北京市でのように、強い生鮮食料 品の調達システムと、決済サイトの短縮など といった強みを生かす手法もある。  最後に、永輝においてもやはりアップグ レード化が図られているようだ。生鮮食料品 の取り扱いを強みとする永輝だが、厳しい競 争環境の中で、今の段階では既存業態にこだ わるのではなく生き残ることが最重要ではな いかと思っている。永輝によって、中国で食 品スーパーという業態が確立し、生鮮食料品 も、家電や衣料品などの工業製品と同じよう に近代化が実現した。ただし、競争がより激 しくなっているので、今後業態戦略はどのよ うに変わっていくのか注目していきたい。 渡辺:  皆さんこんにちは。専修大学の渡辺と申 します。自己紹介とこの企画の経緯などを ごく簡単にお話をした上で、議論に入って 行 き た い と 思 い ま す。2005 年、 日 本 政 府 が中国政府に対して市場経済化の法制度整 備を支援するプロジェクトが立ち上げられ ました。その中の流通関係について、市場 流通法整備サブプロジェクトという枠組み で、大型店規制や取引におけるバイイングパ ワー行使の規制などに関して、日本側の研究 会メンバーの一人として参加してきました。 このプロジェクトにおいて、私にとっての最 大の成果は顧先生に巡り会ったことです。こ の方を是非日本の実務家、あるいは研究者の 方々に紹介したいとずっと思っていましたの で、このセミナーを企画しました。  中国については、グローバルリテーラーと 言われる欧米外資系の小売業の動き、あるい は日本のイトーヨーカ堂、イオン、平和堂の 動きなどが注目されていますが、そこから見 えない中国の内部で、本日お話いただいたよ うな地元資本のスーパーマーケットの動きが これだけあるわけです。その中心に顧先生が まさにいるわけですが、そういう動きの全体 像を少しでも明らかにして、日本の実務家の 方々にとってどういうビジネスチャンスがあ るのか、ビジネスチャンスがあるのであれば

◇パネルディスカッション

  中国のスーパーマーケット業界における課題と、 日本のノウハウの適用可能性

上海商学院教授

 顧 国 建 氏

日本スーパーマーケット協会専務理事

 大 塚 明 氏

モデレータ:専修大学教授

 渡 辺 達 朗 氏

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何らかのかたちで流通経済研究所としてお手 伝いできないか、と考え今回の企画を立案し ました。  まず、大塚さんに今日のお話について率直 に語っていただきたいと思います。その後、 業態発展の展望、チェーンオペレーション、 日本のスーパーマーケットやサプライヤーの 進出の問題について話を進めていきたいと思 います。これまでのご報告では、中国の小売 業は、国内資本の小売チェーンと外資の競争 状況の中で、内資の小売業は一部が総合化に 向かっている。しかし総合化の動きはそう長 くは続かず、ディスカウント化に向かってい く。それに加えて、高級型、コミュニティ型、 生鮮型というような細分化の動きがある。こ ういう業態の発展のダイナミクスが進んでい るのがまさに中国の現状だと思うのですが、 そういう全般的な話を聞かれて、どのような ことをお考えになりましたか。 大塚:  日本スーパーマーケット協会の大塚と申し ます。よろしくお願いいたします。日本スー パーマーケット協会は丁度設立 10 年です。 現在通常会員 101 社、賛助会員 525 社とい う規模です。会員企業には食料品を中心とし たスーパーマーケット業態の中で比較的売上 の大きな企業さんが入っております。通常会 員の3分の1の企業がスーパーマーケット 業態の中の上位 100 社に入っておりますし、 4分の1が上場企業です。当然、私共のメン バーの中にはもう既に中国に進出している企 業があります。  中国の市場そのものに関しては二つの意味 で興味を持っています。一つはご案内のとお りこの日本の閉塞感、人口減少、あるいは営 業数字がなかなか伸びないという中で、海外 に出ていくという選択をかなりの企業がお持 ちになって、それの研究が始まっているとい うことです。また、中国からのお客様を迎え て、自分達の売上にしょうというアプローチ が始まっているということが、大きな意味で の一つです。もう一つは、同じスーパーマー ケットを運営する者として、協会として、中 国のスーパーマーケット協会、あるいはその ような組織の皆さんといろいろな意味で情報 を交換させていただいたり、スーパーが持っ ている本来的な問題に対して解決を図るとい うことがたいへん大事なことなのではないか と思っています。この2つの観点から、中国 そのものに関してたいへん興味を持っている ところですし、本日、顧先生および呉先生の 貴重なお話をうかがうチャンスがあったとい うことを感謝している次第です。  お話をうかがってまず感じたのは、どこの 国でも同じような発展をしていくものなのだ なということです。米国では 1858 年に百貨 店がスタートして、1930 年代に小売業の中 心がスーパーマーケットに移り、1946 年に コンビニエンスストアが、1950 年代にショッ ピングセンターが展開されるようになるな ど、順番に一つずつ改革、発展が行われたの です。その後を追うように日本では、1904 年ごろから百貨店、あるいは零細小売店が 台頭してきて、1953 年、今からおよそ 60 年前にスーパーマーケットが登場し、1973 年にコンビニエンスストアが登場、そして 1980 年にショッピングセンターが展開を始 めた。米国に少し遅れましたけれども、一つ 一つ階段を登るように発展をしてきたと思う のです。ところが、中国は 1900 年ころ百貨 店および零細小売業が大きくなり、以降 90 年間あまり大きな変化がなくて、1990 年代 に入ってスーパーマーケットとコンビニエン スストアとショッピングセンターが一気に動 き出しています。そういう意味で、どこにど ういうかたちで目をつけていったらいいのか

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という点はたいへん興味深いのです。  米国では、チェーンストアが急激に発展し た時に、反チェーンストア運動が起き、ロビ ンソン・パットマン法など、独立系の零細企 業を保護する法律が制定されました。日本で も、大規模小売店舗法などによって、国内資 本中心に小売業を発展をさせよう、零細は零 細で生き残らせようという動きをずっともっ てきました。中国は、いわゆる外資を積極的 に参入させることによって小売業全体の業態 革新、あるいは近代化の促進をしてきたとい うことなのだと思います。この辺が、同じよ うな業態革新の動きでありながらも、ポイン トとして考えなくてはいけないことなのでは ないでしょうか。  また、米国は低価格化とシステム化という 展開の両立があったと思います。日本は呉服 屋が百貨店になり、スーパーマーケットが量 販店になるというように、どちらかと言うと 品揃えを中心とした発展を遂げてきたのでは ないかと思います。中国は短期間に業態多発 化が進んでいますから、現在の物差しのメイ ンは市場シェアをどれだけ拡大するかという 戦いになっているのではないでしょうか。  ただ、お二人の先生のお話をうかがってい て、中国の地域や民族の多様性や、国土の広 さを考えると、ヨーロッパのような資本の上 位集中というより、しばらくはそれぞれのエ リアエリアで、キラリと光る企業がしっかり と生き残っていくという感じの方向へ行くの ではないかと思います。国が大きいですし、 人口が多いでから、一気に舵を切るとか、一 気にあるものが拡大するということはないと 思います。既に沿岸部から内部の方へだんだ んと経済の中心が動いていると感じます。そ こは外資がまだ入り込んでいない部分ですの で、そこでこそ内資のスーパーマーケットが、 地元密着で生きていく機会が大きいのではな いかという気がいたしました。業態がきれい に分化するかどうかは別として、日本でも、 あるいはアメリカでも行われたように、どん どん進化していくということは確かです。何 よりもたくさんの人口が、どういう生活観で、 どの生活レベルになるのかというのがたいへ ん興味深いところだと思っています。 渡辺:  ありがとうございました。今のお話の中で 投げかけられた問い対して、顧先生の見方を お答えいただきたいのですが、ヨーロッパ型 のような資本の上位集中化、それぞれの業態 ごと、業態の分野ごとに資本の上位集中化が 進んでいく傾向がありうるのか、それともや はり分散的な状況になるのか、その理由は何 故かという点についてお答えください。 顧:  中国には欧米から入ってきたハイパーマー ケットという業態があります。現在、スー パーマーケットのトップ5は欧米の大型のハ イパーマーケットが大部分を占めますが、ナ ンバーワンは欧米系ではなく、台湾のアール ティーマート(フランスのオーシャン系… 編集部注)です。やはり中国の国情を理解 し、地域のマーケットの状況をよく理解し発 展の戦略を立てるということになると、こう いう会社が中国で成長できるのでないかと思 います。ハイパーマーケットで最も早く中国 に入ってきたのはカルフールですが、カル フールには既に下降傾向が出てきています。 2008 年においてアールティーマートの方が カルフールよりも店舗数は 27 店少ないので すが、販売額の方はカルフールを超えていま す。  現在、中国の地域スーパーマーケットは、 カルフールとかウォルマートは怖がっていな い、怖いのは台湾系のアールティーマートで す。しかし、小売業というこの業種の中で資

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本集中、独占的な地位を獲得できるのかとい うと、それには多くの障害があると考えます。 小売業が寡占的な状態になる可能性は、大企 業が大企業を買収する場合にはあります。た だ、それは非常に困難なことです。また、そ れぞれの地域のスーパーマーケット、かなり 大きなスーパーマーケットも含めて、それぞ れがそれぞれの発展計画、自分の企業の発展 計画を立てています。だから少なくとも短期 間のうちに、そういった資本集中が進んで寡 占的な状態になるという可能性は少ないと思 います。  最近の状態を見ると、中国のスーパーマー ケット企業は欧米よりも日本に学ぶ点が多い のではないかと思います。しかし、中国のスー パーマーケット業界の人達が共通に感じてい るのは、日本のスーパーマーケットの方達は 中国のマーケットに参入してこようというこ とにあまり情熱がないというか、あまり興味 がないのではないかということです。今、中 国から日本に観光に行く人がたいへん多いの ですが、その多くの人が、全世界で最もおい しく、かつ衛生的で、かつ安全な、健康的な 食品を買えるのはまさに日本のスーパーマー ケットだ、その商品は世界で一番良いものだ と話しています。ですから、日本の小売業 が、また食品加工業も含めて、中国の市場に 参入する、中国にマーケットを探すというこ とをしていかないと、日本企業は非常に大き なビジネスチャンスを逃すことになると思い ます。 渡辺:  顧先生と呉先生のお話の中で、現在の中国 のスーパーマーケットが取り組んでいる問題 として、生鮮の調達の問題、それから NB の 取引の問題、PB 開発の問題があり、いろい ろな課題があると指摘されました。生鮮の調 達については卸売市場であるとか、産地に対 して垂直的に統合していく、川上を直接コン トロールしていこうというような志向を強め ている。それから、永輝のケースにあったよ うな、生鮮の販売方法の工夫が進んでいて、 セルフ売場でありながら、市場のような、中 国の消費者にとって好まれる雰囲気を持つ販 売方法の革新が行われている。それはカル フールやウォルマートはとても今のところ真 似ができない。以前聞いたところによると、 テスコは若干そういう動きにキャッチアップ しているという話もあったのですが、この部 分では国内資本が勝っているということでし た。  NB の取引については、いわゆるバイイン グパワー行使の問題があり、日本のサプライ ヤーと小売業との取引関係と似たようなこと が中国でも起きています。そうした商慣行上 の問題について、現在、中国政府も注目して います。中国の独占禁止法の本体には、日本 で言うところの不公正な取引方法に関する規 制の部分が非常に弱くて、現状では独自の ルールで規制を行わざるを得ないのですが、 このルールがまだ商務部という政府の部門レ ベルの規制であって、ほとんどコントロール できない状況にあります。そうすると大規模 な外資にとって有利な取引状況が作られてい るということになって、中国の国内資本の スーパーには若干不利な状況となっていま す。  PB 開発では、国内資本のスーパーが個々 に取り組むのでは量がまとまらないという問 題や、品質管理の問題があり、非常な困難が あります。そうした問題に対応するひとつの 動きとして、顧先生が中心になって取り組ま れている中国スーパーマーケット共同仕入連 合会議があります。これによって調達や取引 制度などの問題は解決できるのか、あるいは この動き自体をどう評価されるのか、日本の

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スーパーマーケットの経験が長い大塚さんの 目から見て、この動きにどのようなことをお 考えかなということをうかがいたいのです が。 大塚:  チェーンストアが日本に生まれた時、ある いは僕らの世代がチェーンストアに勤め始め た時、一つの大きなミッションがあったのだ と思います。それは言い尽くされた言い方な のですが、経済民主主義を実現したいのだと いうことです。豊かな生活がおくれるような 国を作りたいのだ、あるいは、それを作るた めの一つの位置づけとして小売業がそこに存 在したいのだということがあったと思うので す。お金持ちではなくて、普通の人達が、文 明国としての豊かさ、あるいはその豊かさを 味わえる高度な消費社会を作りたいという部 分があったのだと思うのです。そういう観点 から言うと、小売業のビジネスを二つの観点 からいつも考えておく必要があるような気が するのです。シェアをどれだけ伸ばすかとい う企業経営的な論と、そこに住んでいる国民 がどれだけ豊かな消費生活をおくれるかとい う、いわば商品を中心にした経営、この二つ のバランスをちゃんととっていく必要がある のではないかと思うのです。  そういう意味では中国では少し前者、企業 としてどうやって大きくするかという部分が 大きいと感じます。その結果としていろいろ な問題が生まれているという気もしないでは ありません。もちろん、企業が大きくなるこ とによって、産地も大きくなり、その結果と して、例えば生鮮食料品の調達の問題、ある いは NB における取引の問題などは必然的に 解決するという部分もあるでしょう。しかし、 それには少し時間がかかるのではないかとい う気がいたします。  極めて日本人的な発想になるのかもしれま せんが、周りの人達を豊にするために自分た ちの企業がここにあるのだという考え方を、 極めて大切に行うと考えると、それこそ共同 仕入れであったり、あるいはいろいろな課題 を一回乗り越えていくということが必要なの ではないかなと思います。ただ、その先は競 合状況が出現することになりますから、個々 の企業がどれだけの力をつけていくのかとい う話になると思うのです。  もちろん、力というのは規模だけではあり ません。産地とのパイプを太くするというの は、たくさん買うということも大事なのです が、その作ってもらった商品を大事に売ると か、作った思いをお客様に伝えることが大事 なのです。お客様もこだわりを持つ人生とか、 あるいはこだわりを持つ生活をおくり始めた ら、商品に対する思い入れも変わってくるで しょう。中国にもニューリッチ、ネクストリッ チと言った新しい消費者が増えているようで すので市場は変わっていくのではないかと感 じております。 渡辺:  まさに今日本は規模という側面だけではな くて質という側面が求められている、そこの 中でどれだけの差別化できるオペレーション ができるのか、商品が提供できるのかという ことが問われている状況だと思います。そこ でそういう状況にある日本と中国とを直接対 比することは難しいのですが、顧先生から見 て、今の大塚さんのお話をどうお考えになり ましたでしょうか。 顧:  中国と外国の企業に関しての理念の違いに ついては私は今の大塚先生のご意見にたいへ ん賛成です。というのは中国の企業は高度の 発展の過程において、確かに消費者の利益を ないがしろにするという面が強かったかと思 います。例えば、最終的に消費者に負担を負

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わせる商慣行の存在は、消費者をあまり考慮 に入れないということでしょう。現在では外 資系にしろ、内資系にしろ、中国の小売業も 消費者心理、消費者行動を考慮するというこ とを始めてはいます。しかし、消費者を第一 に考えるということを企業が当然果たすべき 責任だと考えているかについては、確かに日 本の企業と中国の企業とに違いがあるかと思 います。  一方、これは日本の小売業の方々への申し 上げたいのですが、中国の企業行動が日本と 異なるからといって対岸で手をこまねいてい て、中国の状況の改善を待っていたのでは、 改善がなった時には日本の小売業が中国に入 る余地はないかもしれません。日本企業の優 れたコンセプト、優れた理念、優れた考え方 と技術を持って、中国のマーケットに入って 行って、中国の他の企業と共に成長していく ということを考えられた方がいいのではない かと私は提案させていただきます。私は教員 として業界を見ているだけではなく、共同仕 入れの組織づくりなどで私自身も業界の方た ちと一緒にビジネスに従事しているのです。  もう一つ補足して申し上げたいのは、中国 には日本のような農協、あるいは総合商社と いった機関がなく、スーパーマーケット自身 が共同仕入れというような調達システムを作 らざるを得ないという状況にあります。しか しこのような直接取引、共同仕入れといった ような作業を通じて、流通システム、あるい は社会を変革していくような方法であること を意識し出しています。一方、総合商社など のシステムに依存している日本の小売業の中 国における事業展開が遅いことが、日本のサ プライヤーの中国進出を困難にしているとい う側面もあると思われます。 渡辺:  日本のスーパーマーケット、あるいはサプ ライヤーの進出スピードが遅いということを 顧先生は繰り返しおっしゃっています。日本 の小売業の進出は1店1店作り込んでいく方 式であるのに対して、欧米は徹底的な標準化 をして人口基準に合えば出店していく。欧米 のフォーマットはコピーがしやすいので、中 国企業はどうしても欧米型のコピーをしなが ら発展していくという循環が起きている。こ れによって実は日本の企業は大きなビジネス チャンスを逃しているのではないか、せっか く技術と資金の両面を持っているのに、それ で良いのでしょうか、ということを問題提起 されています。今後この問題についてどう考 えていったらいいのか、顧先生からのお話の リプライも含めてこの問題について大塚さん からお話をいただければと思います。 大塚:  はい。顧先生のお話をうかがいまして、た いへん尊敬すべき先生であるということを確 認させていただきました。と同時に、中国の 大きな市場に対してある意味希望が持てそう だなというのが実感でございます。本日お集 まりいただいているメンバーは、当然今後中 国に対してアプローチを考えておられる、あ るいはもう既に進出している企業の方々であ ると思いますが、顧先生が今まで思っていた 以上に、中国におけるビジネスチャンスの拡 大について認識を深めているとご理解いただ けたらありがたいと思うわけです。  ただ、日本企業は、中国にだけ出ていかな いわけではなくて、スーパーマーケットは他 の国にもなかなか出ていないという現実もあ るのです。これはいろいろな問題はあると思 いますが、製品であるとかノウハウは立派な ものがあるのですが、それをマーケティング する、あるいは販路に載せるという能力で、 日本はやはり劣っているのではないかと思い ます。とくにそういう人材が今不足をしてい

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るのではないかというのが率直な感想です。 また今の日本の若い人達は海外で活躍するこ とに興味や意欲を持っていない点も問題で す。ですから、例えば成功した他のエリアの 人達を中国に送るとか、中国から留学生を採 用して教育し、その人達と一緒に中国に出る とか、様々なことを考えなくてはいけない時 期に来ているのではないかなと思います。そ うしないと、それこそ顧先生がおっしゃるよ うに、せっかくの中国という大きなチャンス を逃してしまいかねません。  ただし、日本人としては、やはり政治経済 システムの部分が少し気になりますし、国の 動きの情報を鋭敏にキャッチする能力がない となかなかリスクも高いのではないかと巷間 言われておりますから、その辺のところをど う解決するかというのもポイントの一つにな るのではないかと思います。 渡辺:  ありがとうございます。最後に、今のお話 に対して顧先生から一言いただきたいと思い ます。 顧:  日本のスーパーマーケットの考え方はわか りました。ただ、マーケットのチャンスはそ んなに長く続くものではないのです。大塚さ んの話では若い人たちがあまり外国に行きた がらないかもという話なのですが、実は上海 にあっても全く同じ状況があるのです。上海 の人というのは上海にいたがって、あまり他 の省に行きたがらない。またスーパーマー ケットはかなりたいへんな仕事なので若い人 達がやりたがらないという問題があります。 しかし、若い人に自分で創業することを奨励 するとか、あるいは農村地区に入って仕事を することを奨励する、誘導する方向にしてい かないと、ある国、ある民族の原動力がなく なるのではないかと思います。  私が共同仕入連合会議を始めたのは、私の 長期間にわたる研究成果をこの業界の私の学 生達に伝えたい、研究の成果として生まれた 情報を伝えたいというのが大きな理由です。 私としては、こういった会議を通じて、情報 を提供し、できるだけ良い方向に各会社を導 いていこうという、言わば私の社会に対する 貢献の一つとしてこういった共同仕入連合会 議というものを考えたわけです。 渡辺:  ありがとうございました。

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