群馬大学生体調節研究所細胞構造分野
原田彰宏
細胞の未知の遺伝子を発見するため
のウイルスの開発と応用
(これまでの歴史) 培養細胞に変異を生じさせた後、異常な表現型を持つ細胞から原因 遺伝子を同定するという方法によって、数々の重要な遺伝子が同定 されてきた。 しかしその手法は、細胞を化学物質処理して点突然変異を導入した 後に、薬剤スクリーニングによって異常な形質をもつ細胞を同定し、 その細胞に多種のcDNAを導入して形質を復帰させることで原因遺 伝子を同定するというのが主であった。 この手法だと、原因遺伝子を同定するのは多大な労力と時間を必要 とし、通常の研究室で行うには困難であった。 そこで申請者はレトロウイルスベクターを用いたgene trap法のシス テムを開発し、PC12細胞においてその応用に成功した。
細胞の未知の遺伝子を発見するため
ウイルスの開発と応用
【目的】神経細胞内で極性の形成や維持に関与している 分子では、現段階では未知のものも多く、新たに それらの分子を同定する. 【方法】培養細胞(PC12)を用いて遺伝子トラップ法 (gene trap)を行う. PC12:1975年にclone化されたratの褐色細胞腫由来で 神経の研究ではよく使用される 神経伝達物質の分泌機構としては 大きい膜の袋(小胞)(LDCV)と 小さい小胞(SSV)よりドーパミン、アセチルコリン を各々合成・貯蔵し、カルシウム依存性に放出する
(例)神経の極性に関わる新規遺伝子の同定
方法
1.ウイルスの受容体を細胞に導入しウイルス感染が可能な細胞株を作製 2.遺伝子トラップ用DNA(gene trap vector)をレトロウイルスに
よって感染させ、抗生物質(neomycin)にて選別する 3.さらに他の薬剤で選別する. β-ガラクトシダーゼ染色で染色し、これらの薬剤に耐性な株を選択 4.表現型として小胞の分布異常、小胞数、突起伸長の有無、 突起の形態等に変化がある細胞を選択 5.これらの細胞にCreレコンビナーゼ を添加して 遺伝子トラップ用DNAを除去し、表現型が元に戻るか、確認 →β-gal染色で青染しなくなり、G418感受性となる 6.これらの細胞株に対して5’RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)やinverse PCRを行い、遺伝子発現に異常を来す遺伝子 を同定する 7.得られた遺伝子に対する解析を行う
PC12 107cell/dish Neomycin → 1/10 106cell/dish Puromycin → 1/100 104cell/dish Aerolysin → 1/1000 10cell/dish →目的とする変異株
スクリーニングのイメージ
SA IRES Puro pA PGK β-geo pA
Exon1 Exon2 Exon3
SA IRES Puro pA PGK β-geo pA
Exon1 Exon2 Exon3
pA SA IRES Puro
Exon1 AAAA β-geo pApA AAAA Exon1 Exon2 Exon3
Exon1 Exon2 Exon3
遺伝子トラップベクター ゲノム DNA トラップされた遺伝子 トラップ後の mRNA→発現無し ゲノム DNA mRNA イントロンへの挿入
遺伝子トラップベクターとトラップ後の遺伝子産物
遺伝子トラップ用ウイルスの作製
gag pol env gag pol env
5’LTR 導入遺伝子 3’LTR 5’LTR 導入遺伝子 3’LTR ψ 遺伝子トラップ用ベクター 出芽 ウイルス粒子 空のウイルス粒子を 産生する細胞 遺伝子導入 gag:構造タンパク質 env:外被タンパク質 pol:ポリメラーゼ Ψ:packaging signal gag pol env
【スクリーニング結果】 (2) 表現型が元に戻ったクローン数 20 薬剤耐性のコロニー数 38 薬剤感受性を調べたコロニー数 52 拾った細胞のコロニー数 <X-gal染色> 導入前 導入後 Creレコンビナーゼ 導入前と後 青染細胞が減少し、ゲノムに挿入されたウイルスが無くなった
クロモグラニン (大きな小胞の マーカー)抗体 で染色した細胞 シナプトフィシン (小さい小胞の マーカー)抗体 で染色した細胞 <薬剤感受性> 0 1.0 1.2nM ウイルスを 抜いた細胞 ウイルスを 導入した細胞 ウイルス導入前 導入後 ウイルス除去後 の細胞
方法
1.virus receptorをtransfectionしvirus感染が可能となる株を作製. 2.loxP-SA-IRES-Puro-polyA-PGK-βgeo-polyA-loxP配列をretrovirusに よって感染させ、neomycinにて選別する.virus感染細胞は生存. 3.さらに2種類の薬剤(AL・ConA)にて選別する. β-galacsitodase染色で青染し、ALやConAに耐性な株を選択. 4.また表現型としてtransporterやvesicleの分布異常・有無、 突起伸長の有無・突起の形態等に変化がある細胞を選択.5.これらの細胞にcre recombinase を添加してrevertant(復帰細胞) となるか確認.→β-gal染色で青染しなくなり、G418感受性となる.
6.これまでにscreeningされた株に対して5’RACE(Rapid Amplification
of cDNA Ends)やinverse PCRを行いtrapされた遺伝子をcloningする 7.得られた遺伝子に対する解析
5’RACE法の原理 AAAA 5’ AAAA 5’ 3’CCCC 3’CCCCGGGG CCCC GGGG mRNAの配列の一部がわかっている時に、5’上流の未知領域をcloning するための方法. 未知領域 既知配列 GSP1 未知の5’上流を含む産物が増幅される dGポリマーのついたアダプター プライマーとGSP2でPCRを行う GSP2 cDNAの3’末端にアンカー配列 (dCポリマー)を付加する(TdT) RNA分解 逆転写反応 遺伝子特異的配列を mRNAにアニーリング CCCC GGGG nested GSP アンカープライマーとnested GSP でPCRを行う
5’RACEにより未知配列が得られ始めた. Inverse PCR法にても同様に未知領域の確認を進める. 【現在の状況】 適当な制限酵素でgenome DNAを 処理し、self ligationして 環状化する. 既知配列両端に逆向きにデザイン したprimerでPCRを行い未知領域 を増幅する. 増幅した配列をcloning vector にligationして、塩基配列を 得る.
今後の予定
取得したクローンがCre recombinase でrevertant(復帰細胞) となるか確認すると共に、5’RACEを行いtrapされた遺伝子を cloningする.また、inverse PCR法でも未知領域をcloningする 得られた遺伝子に対しては ・組織分布をnorthern blotで調べる ・抗体を作製しwestern blot、immunofluorescenceで組織や 細胞内分布を調べる ・発現量に関して、変異株で低下し、revertantで 親株レベルに戻るか調べる(northern, westhern) ・最終的には、線虫やマウスで欠失個体を作製して個体での 機能を観察する