Ⅴ 労働保険と社会保険の種類と概要
1 労働保険の種類 表1 労働保険の種類と加入要件 ※ 常時雇用される労働者が5人未満または以上 図1 雇用保険加入フローチャート 65才に達した日以後、新たに雇用される者は雇用保険の被保険者となりません。 (特例被保険者および日雇労働被保険者に該当する者を除く) 雇 用 保 険 週の所定労働時間が20時間以上で31日以上雇用見込みの者 任 意 強 制 労 災 保 険 原則、すべての事業に使用される労働者(パートでも) 任 意 制 度 被 保 険 者 適用 保険者 支給事由 個人(※) 法人 5人未満 業務上・通勤中の 病気、けが障害、 死亡 個人農業:労働者が常時5人未満では任意加入 個人農業では、事業主が特別加入している場合で雇用 者がいれば、雇用者は強制加入 強 制 政府 失業、高齢者の 賃金低下、育児・ 介護休業 5人以上 失業(公共職業訓 練、常用就職支 度手当含む) 1か月(歴日)の労働日が11日以上ある場合を1か月とする 強 制 個人加入には、通年1人以上の労働者が必要。短期間の 雇用者だけが5人以上いても加入できない。 短 期 雇 用 特 例 被 保 険 者 季節的に雇用される者は4か月を超える1年以内の 期間を定め、かつ週の所定労働時間が30時間以上 で雇用される者(A) 強 制 政府 労働保険とは、一般的に労働者災害保険(以下労災保険)と雇用 保険をいいます。農業で労働者を雇用する場合、労働者を保護し確 保するためにも、労働保険への加入が必要となります。 加入には様々な要件があり、基本的には個人経営の農業で、常時 5名未満の労働者を使用する場合は任意加入となり、法人経営では 1人でも雇用労働者がいれば強制加入となります。 はい いいえ 雇用保険 スタート 個人経営である 季節的作業に従事し、 4か月以上雇用され、 週の労働時間が30時 間以上の労働者が1 人以上いる 常時雇用(通年)し ている労働者が1 人~4人いる 雇用労働者は雇用 保険に強制加入しな ければならない 雇用保険に加入で きるが、任意であ る 雇用保険に加入で きない 雇用労働者の1/2以 上が保険加入を希望 している 季節的農作業以外に従事 し、31日以上雇用の見込み があり、週の労働時間が20 時間以上の労働者が1人以 上いる 常時雇用(通年)し ている労働者が5 人以上いる 週の労働時間が 20時間以上の人1 人以上いる 法人・会社経営 である2 社会保険の種類 図2 社会保険の種類と問い合わせ先 (1) 適用事業所 Q 私の経営は、一戸一法人です。今年短期間ですが意欲的に働いてくれた若い 人を来春から、3月25日から10月末まで1日8時間、週5日働いてもらう予 定です。失業保険に加入したいと思っています。加入できますか。またどん な給付が受けられますか? A 法人経営なので雇用保険は強制適用事業所となり、加入できます。 ①前ページの表1、(A)に該当するので短期雇用特例被保険者となりま す ②被保険者期間は、3月は賃金支払日が11日以下なので7か月間となり、 支給要件である「離職前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上」を満たし ています ③短期雇用特例被保険者の特例一時金が給付となります 社会保険とは、医療保険、介護保険、年金保険のことです。 ・医療保険には、給与所得者の健康保険とそれ以外の人(個人経営 の農業者を含む)の国民健康保険、75才以上の人の後期高齢者 医療保険があります。 ・年金保険は、基礎年金となる国民年金と、2階建て部分と呼ばれ る厚生年金や農業者年金、国民年金基金があります。 農業の場合、法人経営でかつ使用される者(役員・従業員)がいれば、健康保険 と厚生年金の加入について適用事業所となり、強制加入となります。 個人経営では、従業員が常時5人以上の場合、任意で加入できます。 社会保険 医療保険 年金保険 介護保険 健康保険 国民健康保険 後期高齢者医療保険 日本年金機構(年金事務所) (または全国健康保険協会北海道支部) 市町村 後期高齢者広域連合会(または市町村) 厚生年金 国民年金 市町村 日本年金機構(年金事務所) 市町村(または日本年金機構(年金事務所)) 問い合わせ先
(2) (暫定)任意適用事業所の保険関係成立 常時雇用される労働者が5人以上の事業所で、 ① ② 表2 保険関係成立の要件 ○ : × : (3) 社会保険の種類と被保険者 表3 社会保険の種類と加入要件 75歳以上の住民 65歳以上75歳未満で一定の障害がある住民 40歳以上65歳未満の医療保険加入者 民間の労働者(原則70歳未満) (健康保険と同じ条件) 原則20歳以上60歳未満の住民(自営・学生) 任意加入で60歳以上65歳未満の人 ○ : 加入が必要 △ : どちらか一方に加入が必要 × : 加入できない (健康保険か国民健康保険、厚生年金か国民年金) 雇用される者(被保険者に該当する者)の希望+厚生労働大臣の認可で保険関係が成立 個人(5人)法人 未満 医 療 保 険 後期高齢 者医療保 険 ○ ○ 市(区) 町村 病気、けが、死亡 -厚生年金 1/2以上 同意又は希望 希望時加入義務 制 度 被 保 険 者 希望があった場合、事業主に加入義務がある 雇用保険 1/2以上 ○ 希望があっても事業 主に加入義務がない 健康保険 1/2以上 × 適用 保険者 支給事由 労災保険 過半数(同意無用) ○ 種 類 × 事業主が加入を希望し、雇用される者(被保険者に該当する者)の同意+厚生労 働大臣の認可で保険関係が成立 健康保険 民間の労働者 (法人または法定16業種で常時5人以上雇用し ている事業):農業は16業種に該当していない × 任 意 強 制 全国健 康保険 協会 業務外の病 気、けが、出 産、死亡(所得 補償含む) 【被扶養者含む】 国民健康 保険 健康保険・船員保険・共済組合などに加入してい る労働者以外の一般住民で75歳未満の人 ○ △ - 市(区) 町村 病気、けが、出 産、死亡 (個人経営農業者(以下個人)・自営業の世帯員など) 以上 6月以上継続 する要介護、 要支援状態 市(区) 町村 年 金 保 険 厚生年金 保険 × 任 意 農業者年 金 年齢が20歳以上60歳未満の者(後継者や女性含む) 任 意 任 意 介 護 保 険 介護保険 65歳以上の住民 ○ ○ ○ 経営移譲年金 国民年金の1号被保険者(本人や夫がサラリーマンでない) 農業者老齢年金 年間60日以上農業に従事 死亡一時金 任 意 農業者 年金基 金 老齢、障害、 死亡 国民年金 保険 ○ △ -政府 被用者年金の被保険者とその被扶養者(20~60歳) 強 制 政府 【 農業法人の加入 】 ・使用される者(従業員・役員)がいれば、健康保険と厚生年金保険は強制適用事 業所となりますが、経営が安定するまでは猶予期間となる場合があります。 ・健康保険に加入すれば、介護保険にも加入が必要となります。 一問一答集P66 Q13参照
3 保険料率(農業関連) (平成27年4月現在) 表4 保険料率・額 健康保険(北海支部) 標準報酬月額・賞与額 / 介護保険 標準報酬月額・賞与額 / 厚生年金(基金加入なし) 標準報酬月額・賞与額 / 標準報酬月額・賞与額 / 国民年金 / 全額 農業者年金 /月 全額 雇用保険(農業) 賃金 / 労災保険(農業) 賃金 / 中小事業主 保険料算定基礎額 / 特定作業従事者 保険料算定基礎額 / 指定農業機械作業従事者 保険料算定基礎額 / ※保険料算定基礎額=給付基礎日額×365 4 年金制度 (1) 年金制度の概要 図3 年金制度の概要 保 険 名 基 準 額 保険料率・額 負担率・額 被保険者 事業主等 1000 1.5 7.9 1000 7.9 101.4 1000 50.7 15.8 87.37 13 15.5 1.5 50.7 1000 特 別 加 入 13 1000 - 9 9 3 1000 - 3 13 1000 - 13 - 87.37 15,590円 月 20~67千円 1000 6 9.5 174.74 1000 児童手当(厚生年金に加入する事業) 国 民 年 金 基 金 確 定 拠 出 年 金 ( 個 人 型 ) 厚 生 年 金 共 済 年 金 基 礎 年 金 ( 1 階 ) 上 乗 せ 年 金 ( 2 階 ) 国民年金 (基礎年金) 第1号被保険者 第2号被保険者 第3号 農 業 者 年 金 農 業 経 営 者 農 業 従 事 者 第 2 号 被 保 険 者 の 被 扶 養 配 偶 者 公 務 員 等 民 間 サ ラ リ ー マ ン 自 営 業 者 等 職域相 当部分 農 業 法 人 労 働 者 ※ 確定拠出 年金 確定給付 企業年金 付 加 年 金 ※国民年金基 金と農業者年 金には付加年 金も含まれるた め、同時に加入 出来ません。
(2)国民年金と厚生年金の主な種類と支給要件 5 農業者年金 図4 農業者年金加入のフローチャート 種類 支給要件 老齢基礎年金 保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が25年 以上(生年月日等による特例あり)あり、65歳に達した場 合 障害基礎年金 保険料納付要件の特例で65歳未満の者は、初診日の前日に おいて初診日の属する月の前々月までの1年間に滞納がな いこと。障害等級の1 級 又 は 2 級 に該当した場合 遺族基礎年金 死亡当時、18歳の年度末までの子か20歳未満で障害等級 1・2級に該当する子又はその子と生計を同じくする父又 は母がいる場合 * 母 だ け の 場 合 は 該 当 し な い 老齢厚生年金 65歳から支給される場合は保険料を1か月以上納付し、支 給開始年齢に達した場合 ※老齢基礎年金の受給期間を満たしていること 障害厚生年金 厚生年金の被保険者である間に初診のある疾病等で、障害 等級1 級 ~ 3 級 に該当した場合 ※初診日前に障害基礎年金と同様の納付要件を満たすこと 障害手当金 初診日において被保険者であった者が、初診日から5年を 経過するにまでに治った日において、障害等級3級より軽 度の障害がある者に支給 遺族厚生年金 厚生年金被保険者期間を有する者(※)が死亡し、その者に 生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母(妻以 外は年齢要件あり)がいた場合遺族に支給 * 妻 だ け の 場 合 で も 該 当 す る ※「厚生年金被保険者期間を有する者」とは①~④の者をいう ①被保険者 ③障害等級1か2級の障害年金受給者 ④老齢厚生年金の受給権者又は老齢厚生年金の受給資格者 国 民 年 金 厚 生 年 金 ②被保険者資格を喪失後、被保険者期間に初診日を有し、初診日から5年を経過する 日の前の者
(1) 加入資格 (2) 政策支援加入の場合の保険料(国庫補助額) 表5 補助対象区分の要件及び補助月額 (単位:円) 区分 ( )内は自己負担額 35歳以上 35歳未満 区分1又は2の者と家族経営協定を締結し、経営に参画し ている配偶者又は直系卑属の後継者 認定農業者又は青色申告者の一方のみを満たす者で、3 年以内に両方を満たすことを約束した者 35歳未満の直系卑属の後継者で35歳まで(25歳未満の者 は10年以内)に区分1になることを約束した者 10,000 (10,000) 6,000 (14,000) 6,000 (14,000) 4,000 (16,000) 1 2 3 4 5 補 助 対 象 者 認定農業者かつ青色申告者 認定就農者かつ青色申告者 ④補助対象区分のいづれかの要件に該当すること ⑤新制度のカラ期間や加入期間が合計して20年以上見込まれる ⑥農業所得が900万円以下であること ①年齢が20歳以上60歳未満 ②国民年金の1号被保険者(本人や夫がサラリーマンでない) ③年間60日以上農業に従事 政策支援加入者=保険料の一部を国が助成し、経営継承 要件を満たせば年金化される 注1:国民年金の付加年金に加入する 注2:みどり年金(国民年金基金)や確定拠出年金には重複加入できない 農業者年金制度は平成14年1月に改正され、財政が賦課方式(年金給付に必要 な費用を「その時々の現役世代」の保険料で賄う方式)から積立方式(将来の年 金給付に必要な原資は、予め、加入者「自ら」が積み立てておく方式)となり、 長期安定を目指しています。 また、新たな財政支援の補助制度もでき、後継者やその配偶者も家族経営協定 を締結することで、この支援が受けることができ、加入しやすくなりました。 政策支援加入者 通常加入条件
(3) 支援期間 図5 政策支援期間 (4) 受取年金の種類 ・65歳支給開始(60歳まで繰り上げ可能) ・80歳までであれば、年金支給開始の前後とも、死亡時から80歳までの 支給予定年齢の年金相当額を死亡一時金として支給する 次の3要件を満たすと支給 ・60歳までに20年以上の保険料納付済み期間があること ・原則65歳になること ・経営継承により農業経営を営む者でなくなること(年齢の上限無し) ※死亡給付金はない ①35歳未満は要件を満たしている全ての期間 (最大15年間) ②35歳以上は最大10年間 ③ただし、①と②の通算期間は最大20年間 農業者老齢年金(終身) 特例付加年金(終身)
6 中小企業の退職共済金制度 (1) 従業員が加入する中小企業退職共済 (独立行政法人勤労者退職金共済機構) 表6 中小企業退職共済制度の概要 法人の加入要件 対象従業員 除外される人を除き、すべての従業員 【除外される従業員】 ・ 期間を定められて雇用される者 ・試みの雇用期間中の者 ・ 季節的業務に雇用される者 ・短時間労働者など 掛け金月額 5,000~30,000円以下 全額事業主負担 掛け金減額 一定の場合を除き承諾してはいけない(できない) 及び契約解除 ・ 被共済者の同意がある ・ 掛け金の納付を継続することが著しく困難であると、大臣が認めたとき 退職金の受取 【分割できない場合】 ・ 退職金が一定金額未満のとき ・ 退職日が60歳未満であるとき (2) 個人事業主や法人代表者・役員が加入する小規模企業共済 表7 小規模企業共済制度の概要 (独立行政法人中小企業基盤整備機構) 加入対象者 ・ ・ 掛け金月額 ・ 1,000~70,000円までの範囲内(500円刻み)で自由に選択できる ・ 半日払いや年払いもできる 掛け金減額 ・ 減額には、事業経営の著しい悪化等一定の要件が必要 及び契約解除 ・ 中途解約は、可能 受取方法等 ・ 一括受取、分割受取、一括と分割の併用のいずれかで受け取る ・ ・ ・ 常時雇用従業員数が300人以下または出資金(出資の額)が3億円以下 常時従事する従業員数が20人以下の個人事業主又は法人代表者・ 役員 退職したとき(死亡による退職は、遺族に)に、一括して受け取る 一時払いのほか、一定の要件を満たせば一部又は全部を分割可能 (5年又は10年を選択)。 個人事業を廃業したり、会社等の役員を退任した場合などに、事 由に応じて共済金(解約手当金)が支払われる 共済金等の請求事由が生じても、一定の条件を満たせば、共済金 等を請求せずにこれまでの共済契約を継続することができる。共 済契約者自身が継続する同一人通算と、配偶者または子が引き継 ぐ承継通算がある。 共済契約者は、払い込んだ掛金合計額の範囲内で、事業資金など の貸付け(担保・保証人不要)が受けられる。 常時従事する従業員数が20人以下の個人事業主の共同経営者(個 人事業主1人につき2人まで) 加入促進のため掛け金の負担軽減措置あり 中小企業退職者共済制度は、法人経営において役員及び従 業員の退職金を積立て、老後の生活の安定に欠かせません。 掛け金の減額等の場合には、相当の理由が必要となりますの で、初めからあまり金額を高くしないように注意しましょう。 一問一答集P68 Q19参照