造形ワークショップ実践者の意識構造に関する一考察 「アートたんけん隊」の事例分析を通して
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(2) 1.本研究の背景. 武蔵野美術大学の卒業生が形成しているネットワークが. 1-1.用語の定義. 日本の美術のワークショップ実践に大きな影響をもたら. 造形ワークショップとは、ワークショップという手法. したとされる 7)。武蔵野美術大学では「美術と福祉プロ. を取り入れた造形活動であり、美術と関わるワークショ. グラム」 、 「ワークショップ研究」 、 「造形ファシリテーシ. ップの中でもとりわけ造形性へのアプローチ、すなわち. ョン能力獲得プログラム」などのカリキュラムが開設さ. 色・形・イメージ・素材など造形要素を重視しているも. れ 8)、造形ワークショップ実践者の育成に大きく力を入. 註1. のといえる 。造形とは、造形芸術/造形美術を指す言. れている。. 葉であり、 「芸術作品として評価される、絵・彫刻・工芸. 学校教育法に基づく履修証明制度の対象として位置づ. 品・建築などの総称」1)である。本稿では「造形芸術/造. けられる青山学院大学「ワークショップデザイナー育成. 形美術」という大きな分野を称する際に「美術」と統一. プログラム」9)は、120 時間以上の学習時間と体系的なカ. 註2. し、造形活動を強調する際に「造形」を使用する 。 ワークショップの定義は文脈によってそれぞれだが、. リキュラムを実施することによって、ワークショップデ ザイナーとしての資質、能力を育成し、社会人のキャリ. 本研究では「参加・体験活動や関わり合いから学びや創. ア形成を促進している。美術と関わる講座も開設され、. 造の方法論、またはその方法・手法を用いた活動や場の. 様々な専門分野からの受講生が参加している。. 全体」と定義し、造形ワークショップ実践者を「造形ワ ークショップを企画・実施、または運営に従事する者」 と定義し、議論を進める。. 東京都美術館と東京藝術大学が連携し、美術館を拠点 にアートを介してコミュニティを育むソーシャルデザイ ンプロジェクト「とびらプロジェクト」を立ち上げ、 「ア ート・コミュニケータ」というボランティアを 3 年間の. 1-2.日本における造形ワークショップの展開 ワークショップという学習や創造を促す手法は、海外 から日本へ移入し、1970 年代に萌芽期、1980 年代に展開 期、1990 年代に普及期 2)を経て、日本独自の特徴をもつ ワークショップとして発展してきた 3)。美術の分野では、 日本において県立美術館の建設が一段落した 1980 年代 からワークショップ実践が本格化されたという 4)。同時 期に、戦後日本で盛んに結成され、教育活動を行ってい る造形教育団体もワークショップ実践の動向を見せてい た 5)。1990 年代から隆興を示す日本型アートプロジェク トの展開、非営利活動法人促進法などによって美術教育 の担い手となる NPO 法人の誕生 6)と活躍、2000 年代から 中野民夫『ワークショップ―新しい学びと創造の場―』 の刊行とともに「ワークショップ」概念の定着、ワーク ショップに関する研究の確実な増加などから、美術と関 わるワークショップは日本において急速な広がりを見せ ていた。 「双方向な、コミュニケーション重視」という特徴を もつ集団学習スタイル「ワークショップ」は学校におけ. 講座や活動を通して育成している。講座にはワークショ ップづくりに関する様々な内容が含まれている。 アート・ コミュニケータは、3 年の任期中とプロジェクトを離れ た後も、ワークショップ実践における活躍が期待されて いる 10)。 しかし、このように人材育成が様々な形で展開されて いるにもかかわらず、優れたワークショップや実践者の パフォーマンスを評価する一定の指標は存在していない。 特に、育成効果の評価、学習の質を保障する枠組みも不 明である。苅宿は、ワークショップを企画運営する人材 の不足について『地域創造』という雑誌に掲載された「ワ ークショップ事始め」という特集記事の中で、佐藤信の 「専門家のいないことの不幸」11)という言葉や論説を引 用し、現在でもワークショップを担う人材をめぐる課題 はより深刻になっていると指摘した 12)。森はこのような 状況に対し「実践者間の交流が乏しく、育成が領域の中 の細分化された集団で行われることが多かった」13)とい う現状と問題点を指摘している。. る美術教育でも注目を集めた。図画工作科・美術科の現. ワークショップが日本で発展した 1970~80 年代から. 場では時間数の削減や「総合的な学習の時間」の導入に. 実践し続けてきた先駆者が第一線を退きつつある現在、. 対応する学習方式の変革が迫られ、学校へのアーティス. これから予測不可能な時代に向けて、美術と関わるワー. トの派遣、 企業や地域と連携する 「プロジェクト型学習」 、. クショップ実践を含めた美術教育の継続的展開を担う若. 「アクティブ・ラーニング」などの試みと関連し、児童・. い世代の実践者の育成も大きな課題といえよう。. 生徒に新たな刺激がもたらされると期待される「ワーク ショップ型授業」も多様に実践されるようになった。. 1-4.美術のワークショップ実践者に着目した先行研究と 課題. 1-3.美術の分野におけるワークショップ実践者育成の現 状と課題. 日本において、1980~90 年代から社会教育や美術館教 育分野でワークショップを取り上げる雑誌特集が組まれ、. 苅宿によると、美術の分野におけるワークショップ. 民間造形教育団体により実践をまとめて紹介する書籍が. の担い手は美術大学の卒業生が中核となり、その中でも. 出版されているが、造形ワークショップに関する研究と. 2 24. Journal of the Society of Art and Design, no.1, 2020.
(3) 著書、とりわけ実践者に着目した研究が増えたのは 2000. 十分に示されていない。また、研究成果を実践者育成に. 年以降である。. 還元し、育成に有効な方略の開発と検証まで行われる研. 茂木らは、感性やイメージの時代へ向けた「ともに学. 究がほとんどない。例えば杉本・岡田の研究では、スタ. ぶ力」を育てる「新しい表現(アート)の学び」に着目し、. ッフの学習に関する 4 つのカテゴリーが見出されたが、. 協同と表現のワークショップのための環境デザインに関. それを応用した教育プログラムの作成まで至らなかった。. 14). 。参加体験型協同学習として. 以上から、若い世代の実践者の育成という課題に直面. のワークショップについて、著者らの実践を踏まえなが. している現在、美術の分野におけるワークショップ実践. ら、ワークショップの学習理論、活動構造、ファシリテ. 者に着目した研究では、実証データに基づいて、研究成. ーション、つくり方、記録と評価などが紹介され、美術. 果を一般化し、実践者育成に還元できる研究が必要と考. と関わるワークショップ実践に携わる人にとって手引き. えられる。. する書籍を刊行している. のような一冊といえる。 高橋は武蔵野美術大学で開設された「造形ファシリテ ーション能力獲得プログラム」の成果をまとめ、造形ワ. 2.本研究の目的と研究方法 2-1.本研究の目的. ークショップのために必要な能力を「造形ファシリテー. 美術の分野におけるワークショップ実践者の育成に有. ション能力」と定義し、キーとなるのは(1)企画力(2)組. 用な知見を得るために、まずはワークショップ実践に対. 織力(3)記録力とまとめている 15)。. して、実践者がどのような意識を有しているかを明確に. 16). は美術館におけるワークショップスタ. することが重要であると考えた。そこで本研究では、美. ッフ初心者の意識変化に注目した。実際のワークショッ. 術のワークショップの中で特に造形活動を重んじる「造. プにおいて、スタッフの活動様子を参与観察した上で、. 形ワークショップ」の実践に着目した。. 杉本・岡田. スタッフへ実施した質問紙調査の回答やミーティングで の記録データを KJ 法で分析・検討した。 笠原は、実践者である観察者の体験理解という角度か. 本研究では、造形ワークショップの企画から実施およ び振り返りまで一連の過程に対して実践者がもつ意識の 構造を明らかにすることを目的とする。. ら、地域で行われる協同的な表現活動を媒介とした子ど ものワークショップ実践に関して、関与観察と vitality affect の感受に基づいた体験理解と研究方法を検討し た. 17). 。笠原による感性的な視点からの実践研究アプロー. チは、実践者自身がより良くワークショップ体験を理解 するために新たな可能性を拓いたものと考えられる。. 2-2.本研究の調査方法と分析方法 研究目的を達成するために、本研究では、造形ワーク ショップ実践者に対して半構造化インタビューを通して 意識調査を行った。 意識調査の対象は、筑波大学で行われた子どもアート. 美術教育と隣接した教育工学の分野からは、ワークシ. 活動「アートたんけん隊」(2018 年度)の企画・実践を担. ョップスタッフの実践共同体における十全性の獲得のプ. う中心的な実践者 4 名である。企画・実践活動開始前後. ロセスについて研究した高尾・苅宿. 18). 、ワークショップ. に実践者 4 名に対して「造形ワークショップに関する認. デザインにおける熟達過程や実践者の育成について一連. 識や経験」をテーマとした半構造化インタビューを実施. の実証研究を行った森. 19). 、学びのワークショップにおけ. した。. るファシリテーター方略習得プロセスにおいての意識変. 実践者 4 名が造形ワークショップに関する参加、実施. 容について研究した菊地 20)、ワークショップ実践者のフ. 経験が同一ではないため、 対象活動 「アートたんけん隊」. ァシリテーションにおける困難さの認識について調査し. (2018 年度)の企画・実施活動開始前に実施したインタビ. 21). らの研究が代表的なものとして挙げられ. ュー(実施前インタビュー)は、実践者が既に有している. る。これらの研究の共通点として、実証データを用いて. 実践経験と認識の確認を目的としている。対象活動の企. 質的研究法により実践者の成長プロセス、認識やその変. 画・実践活動終了後に実施したインタビュー(実施後イン. 容の実質を捉え、仮説モデルの生成から一般化を図るこ. タビュー)の目的は、 対象活動の企画から実施および振り. とが試みられていることである。. 返りまで一連の実践過程に対して、実践者が実践にあた. た安斎・青木. 美術の分野と教育工学の分野におけるワークショッ プ実践者に関する研究を比較すると、前者は後者のよう. るどの側面について意識しているのかを抽出し、その意 識の構造を明らかにすることである。. な実証データに基づいた質的研究による検討が十分では. 実践者に対して実施されたインタビューは、IC レコー. ないと思われる。例えば、高橋はファシリテーション能. ダーを用いて録音し、逐語化した。逐語化した文字デー. 力についてまとめているが、それはどのようなデータと. タについて、グランデッド・セオリー・アプローチ(GTA). 方法を用いて見出された概念なのか、育成プログラムに. から派生した木下修正版 M-GTA を用いて質的分析を行っ. 参加した実践者はどのように学習し成長したかについて. た。実施前インタビューの分析によって実践者が実践前. 芸術学論集,第 1 号,2020 年. 3 25.
(4) に既にもっている意識の構造を明らかにした。実施後イ. 3-2.「アートたんけん隊」(2018 年度)実践者による実施. ンタビューの分析によって、対象事例「アートたんけん. 活動の概要. 隊」(2018 年度)の実践後に実践者がもつようになった意. 本研究の対象事例「アートたんけん隊」(2018 年度) の. 識の構造を明らかにした。実施後インタビューを主要な. 企画と実施を担った実践者は、企画や準備で中心的な役. 分析結果として、造形ワークショップ実践者がもつ意識. 割を担う 4 名と当日のみ参加する補助スタッフ 7 名によ. の構造を明らかにした。. り構成された。企画の段階では、中心的な役割を担う 4 名による企画立案、役割分担、準備活動、作品試作、本. 3.「アートたんけん隊」実施活動と協力者に対する半構. 番前のリハーサルを内容としたミーティングが、2018 年. 造化インタビューの概要. 6 月から 7 月実施日まで 5 回行われた。ワークショップ. 3-1.「アートたんけん隊」(2018 年度)プログラム概要と. 活動本番の 2 時間前、当日のみ参加の実践者を含めた実. 実施結果. 践者全員が集合し、打ち合わせが行われた。ワークショ. 「アートたんけん隊」は、筑波大学芸術系を中心に芸. ップ活動中では、実践者が事前に振り分けられた役割に. 術系教員と学群生・大学院生で取り組んでいる「夏休み. 沿って、活動のファシリテーションを行った。活動終了. アート・デイキャンプ」活動の一部である。 「アートたん. 後、実践者全員が集合し、30 分にわたる振り返りミーテ. けん隊」は 2011 年から発足し、小学生を主な対象者とし. ィングが行われた。. て 2 日間に渡って実施し、毎年度 30〜40 名が参加して. 筆者の参与については、企画立案の段階では研究者・. いる。毎年度の企画・実施者が異なるため、テーマと内. 参与観察者としてミーティングと準備活動に同席したが、. 容も異なる。例年では、大学院生が鑑賞や探険ツールな. 企画に関する意見、アドバイスを控えた。本番中及び終. どを使いながら大学内に展示されているアート作品を参. 了後のでは筆者は参与観察者として同行し、記録をとり. 加者にナビゲートする鑑賞支援活動だが、2018 年度は、. ながら、活動全体を見守る姿勢を保った。. 筆者の研究事例として研究者(筆者)と実践者(協力者)と 連携体制を取り、 造形ワークショップとして実施された。. 3-3.協力者に対する半構造化インタビューの実施概要 以下の概要に基づき、協力者に対する半構造化インタ. 【プログラム概要】. ビューによる造形ワークショップに関する意識調査を実. 【開催日時】2018/7/21(土)・22(日)15:30-16:30. 施した。. 【参加者】つくば市内小学生(保護者同行、いずれかの日 の参加となる)7/21(土)18 名・7/22(日)22 名 【開催場所】筑波大学芸術系棟と周辺場所 【活動内容】 「アートツリー」をテーマとして、筑波大学. 【協力者の選定理由】 本研究では、造形ワークショップの企画から実施およ び振り返りまで一連の過程に対して実践者の意識に着目. 芸術系の工房や学生アトリエ、周りの自然環境、野外展. している。 「アートたんけん隊」(2018 年度活動)の当日. 示物を巡って探険し、面白いものや気になったものを即. のみ参加した補助スタッフ(7 名)は、打ち合わせを含め. 時に写真撮影・現像できるインスタントカメラ 「チェキ」. て実際の実践時間は平均的に一日 3 時間ほどである。企. を用いて撮影する。現像した写真を用いて、用意された. 画立案時から関わった中心的なメンバー(4 名)は、実践. 色画用紙や絵の具など材料を自由に使用し、写真のフレ. 時間は 2 か月間に渡り合計 15 時間以上に達した。本研. ームや装飾を制作する。完成された作品を用いて芸術系. 究の目的と照り合わせると、企画から実施及び振り返り. の周りにある二本の木に飾り、全員で鑑賞する。. まで一連の実施活動をすべて担った 4 名に対する意識調. 【活動の結果】 「アートたんけん隊」(2018 年度活動)を. 査を実施することによって、造形ワークショップに関す. 通して、参加者と保護者は普段では訪れることが少ない. る意識構造を見出す可能性が比較的高いと判断し、こち. 大学の芸術工房、大学構内の自然環境と野外展示物を巡. らをインタビューの対象(協力者)として選定した。. って探険し、チェキ写真を撮影し、装飾やフレームを加 えて、 さらに大学の豊かな自然環境の中で作品を展示し、. 【協力者の概要】. 共有した。参加者を対象に実施した満足度アンケート調. 協力者は 4 名とも 20 代、芸術系の大学院に在学し. 査の結果では、 「どのくらい楽しかったですか」という項. (2018 年当時)、それぞれ造形ワークショップに関する経. 目に対し、両日合計 40 名の中、 「とても楽しかった」と. 験の程度は表1に示す。. 回答したのは 29 名(72.5%)であり、 「楽しかった」と回 答したのは 11 名(27.5%)である。 「どちらとも言えない」 、 「あまり楽しくなかった」と回答した人はいなかった。. 4 26. Journal of the Society of Art and Design, no.1, 2020.
(5) 表 1 協力者 4 名の造形ワークショップに関する経験の程度 協力者 A B C D. 造形ワークショップに関わる経験の程度 参加も実施も経験あり。NPO 団体で 2 年ほどボランテ ィア活動経験あり。 当日スタッフとして数回経験のみ、中心的メンバーと してはほぼ初心者。 当日スタッフとして数回経験のみ、中心的メンバーと しては完全に初心者。 参加も実施も経験あり。アーティストのワークショッ プでスタッフとしての活動経験あり。. 【倫理的配慮】 インタビュー実施前に筆者作成の「研究協力依頼書及 び研究倫理遵守に関する誓約書」を協力者に提示し、署 名による承諾を得た。逐語化と分析の際、発言者が特定 されないよう、協力者の氏名はアルファベットによる表 記とした。 4.協力者に実施した実施前・後インタビューに対する MGTA の分析手順. 【インタビュー実施の日程と記録時間】. M-GTA22)による実施前・後インタビューの分析は以下の. 表 2 半構造化インタビューの日程と記録時間 協力者 実施前イン タビュー 記録時間 実施後イン タビュー 記録時間. A 2018/ 5/1 1h2min 57s 2018/ 7/23 55min10s. B 2018/ 5/2 35min 41s 2018/ 7/23 56min11s. C 2018/ 5/30 31min 19s 2018/ 7/23 46min41s. D 2018/ 5/30 46min 21s 2018/ 7/23 49min51s. 手順に従って行った。 まず、 「造形ワークショップに関する実践経験と造形 ワークショップに関する認識」を分析テーマに、 「造形ワ ークショップの実践者」を分析焦点者に、実施前・後イ ンタビューの逐語化データを見ていく。一つの事柄に言 及している「具体例(バリエーション)」を抽出し、分析 ワークシートに記入する。その事柄を説明できると考え. 【半構造化インタビューの質問項目】. られる概念名と定義を記入する。 データを参照しながら、. インタビューの際、半構造化質問項目と具体的な対談. 新たな概念を生成する度に分析ワークシートを立ち上げ. 内容から構成した「インタビューガイド」(表 3)を用い. る。同時に、現有する概念の具体例を探し、分析ワーク. て対談を進行した。企画・実施活動開始前(以下:実施前). シートの具体例を増やしていく。そして解釈が恣意的な. と企画・実施活動終了後(以下:実施後)のインタビュー. 状態に陥ることを防ぐため、類似例だけでなく、対極例. は同様に表 3 を用いた。. も同時に探しながら分析を進めた。. 表 3 インタビューガイド. 概念「実践者になる内発的な動機」の分析ワークシート. 一例として、実施前インタビューの分析で生成された 半構造化質問項 目 インタビュー開 始、協力者基本 情報の確認 造形 WS に対する 基本認識と参加 経験. 造形 WS の実践者 として有する認 識、実践経験や 体験. まとめ・インタ ビュー終了. 具体的に聞きたいことのチェックリスト(全 部質問するのではない) 名前/学年/所属/年代、 「研究協力依頼書及び 研究倫理遵守に関する誓約書」の提示と署 名。 □造形活動におけるワークショップ(表 2 内 以下:造形 WS)手法の全体像について。 □定義:造形 WS はどんなものだと思います か。 □種類:造形 WS の種類について。 □ねらい/目標:授業、普段の教育活動との 違いなど。 □今まで造形 WS に、参加者として参加した ことはありましたか。ある⇒どんな内容だっ たか。どんな人がいましたか。どんなことを 感じましたか。ない⇒次の質問 □今まで自分が造形 WS の実施と関わったこ とはあるか。内容/目標/参加者について。 □参加者は造形 WS においてどんな学習・創 造・体験をしていると思いますか。参加者の 特徴、普段の学生との違い、参加者の活動目 標、学習目標について。 □造形 WS のプログラム内容やコンテンツの デザインについて。 □学習環境の設計について。 □ファシリテーションについて。 □実践者と参加者/第三者の関係について。 □実践者同士の共通認識と交流について。 □造形 WS の終わり方と継続性について。 □感想、言い残したことなど。 □改めてお礼をして終了する。. を表 4 に示す。 表 4 分析ワークシート:実践者になる内発的な動機 概念名 定義. 具体例. 理論的 メモ. 実践者になる内発的な動機 外界からの働きではなく、自分の内面からの意欲(興 味関心、知的欲求など)から造形ワークショップの実 践者となり、実践に取り組むということ。 前 A16:うん、やりたい、関わりたいとか、で来てるの かなっていう印象ですね。 前 A81:あ、そうですね。なので、ワークショップで学 んでる人とかも多分いたんじゃないかなって思いま す。 前 D82:あ、なんか、星、空の星が好きだったのもある し。あとは T 大学の総合造形の先生がそのサークルの 担当をやられてたんで。なんか面白そうと思って。 ・造形ワークショップの運営形式は様々である。依頼 によるものもあれば自発的に作られた企画もある。故 に実践者になる動機も複雑であり、様々な動機が混在 している場合が考えられる。 ・対極例として「実践者になる外発的な動機」を生成 した。. 次に、生成された概念の確認と整理を行う。本調査で は 4 名という少ない協力者数のインタビューデータから 概念生成を行ったため、2 名以上のデータから得た具体 例から生成されたものが概念として成立すると判断した。 分析ワークシートを用いて概念の有効性を検討するとと もに、データから新たな概念が生成されなくなる時点で. 芸術学論集,第 1 号,2020 年. 5 27.
(6) 「理論的飽和」に達したと判断し、データ分析を終了す る。 そして、概念間の関係性を考察しながら、複数の概念 をまとめる上位概念をサブカテゴリー、カテゴリーまで 生成・整理した。. 団成員構成の 多様性 12. 造 形 ワ ー クショップの 目標 13. 造 形 活 動 の必要性. 「理論的飽和」の判断、生成した概念、サブカテゴリ ーとカテゴリーの妥当性の考察は分析者自身が行うもの. 14. 評 価 か ら の解放. であるため、主観性の課題が伴う。そこで本研究では、 美術教育を専攻する大学教員、造形ワークショップ実践 者であるアーティスト、ワークショップ経験をもつ大学 院生との協議の機会を設け、 極端な主観の排除に努めた。 以上の手順を経た後、概念、サブカテゴリーとカテゴ リーに対して総合的に考察し、その概要をストーリーラ インとして文章化するとともに分析結果図を作成した。 5.実施前インタビューの分析と結果 実施前インタビューの分析を通して、20 個の概念が生 成された。概念名、定義、言及された協力者について表 5 に示す。概念の並び順は、サブカテゴリーを見出す作 業のため調整した。. 01. 実 践 者 に なる内発的な 動機 02. 実 践 者 に なる外発的な 動機 03. 周 辺 メ ン バーとしての 活動経験 04. 実 践 者 活 動の醍醐味 05. 実 践 者 の 経済的収入 06. 参 加 者 に 対する観察 07. 参 加 者 に 合わせた活動 パターン 08. 参 加 者 に 対する褒め方 09. 参 加 者 の 緊張感を解消 するためのア プローチ 10. 制 作 活 動 を円滑に進め る手立て 11. 実 践 者 集. 定義 外界からの働きではなく、自分の内面 からの意欲(興味関心、 知的欲求など) から造形ワークショップの実践者と なり、実践に取り組むということ。 内面からの意欲からではなく、外界か らの働き(授業課題、資格取得、経済 的収入、賞、コンテストなど)から造 形ワークショップの実践者となり、実 践に取り組むということ。 造形ワークショップの実践チームに おいて、周辺的な役割をもつメンバー としての活動経験。 造形ワークショップの活動、参加者と の関わり合いを通して感じ取る成功 感、楽しさ、面白さ、満足感、他人に 受容されることの有意義さや悦び。 造形ワークショップの実践活動を通 して、実践者が得られる経済的収入。 実践者が造形ワークショップの活動 を通じて、参加者の行動や状態に対す る観察。 造形ワークショップの際、実践者が参 加者人数/年齢/活動内容に合わせた ファシリテーションやサポートの行 動形式。 参加者の制作活動や作品などに対し、 多様な価値観を尊重し、ポジティブ な、包容的な美的まなざしを踏えた言 葉かけ。 参加者の緊張感を緩和、または解消 し、実践者と参加者、参加者同士の距 離を縮める実践者が採取する行動。. 16. 依 頼 元 と の関係 17. 実 践 活 動 展開の制限 18. 開 催 リ ズ ム 19. 作 品 共 有 の仕方 20. 活 動 終 了 後作品の扱い 方. 前D. 前 A, 前 B, 前D 造形ワークショップとして成り立つ 前 A, ために造形と関わりをもつ活動内容 前 B, が必要であること。 前D ワークショップでは、従来の学校教育 前 A, のような目標達成学習―評価型学習 前 B, に縛れずに、参加者が活動できるとい 前 C, うこと。 前D 造形ワークショップの活動を通して、 前 C, 参加者がアートと触れ合う機会を獲 前 D 得できるということ。 造形ワークショップの実践者と依頼 前 A, 者との関係。 前B 依頼者、場所、資金提供者から協力を 前 A, 得る代わりに、造形ワークショップ活 前 B 動展開していく上で従えなければな らない規定。 造形ワークショップの実施、開催のペ 前 A, ース。 前C 造形ワークショップで作られた作品 前 A, をその場にいる全員で鑑賞・共有する 前 B やり方。 造形ワークショップの活動終了後に 前 A, 作品の処置方法(保存、廃棄、リサイ 前 C クル、展示、一時的に保管などの扱い 方を指す) 。. 生成された概念の関係性を検討し、言及する対象や内. 表 5 実施前インタビューの概念一覧 概念名. 15. ア ー ト と の接点の提供. 専門分野、社会立場、参加動機などが 構成する多様性。 造形ワークショップの活動を通して 達成すべきこと。. 言及 前 A, 前D. 前 B, 前D. 容が類似した概念を上位概念であるサブカテゴリーに分 類する作業を行った。そして、サブカテゴリーをさらに 抽象化したカテゴリーを抽出した。 概念 01~05 は、これまでの個人の実践経験を振り返 り、実践者になる経緯に関する内容であり、サブカテゴ リー「実践者としての原点」にまとめられる。概念 06~ 10 は主に実践の際に参加者と活動する上でのファシリ. 前 A, 前 B, 前 C, 前D 前 B, 前D. テーションと関わる内容となり、サブカテゴリー「参加 者に対する観察とファシリテーション」にまとめること ができる。概念 11 は、実践者集団に属する一員として、 他の実践者に対する認識という内容であり、概念として は一つのみとなるが、サブカテゴリー「実践者集団にお. 前 A, 前D 前 A, 前 B, 前 C, 前D 前 A, 前B. ける経験」とした。また、概念の言及数から、4 名全員が 言及する「03.周辺メンバーとしての活動経験」がインタ ビューの中で重要な位置を占めていると判断できるため、 この 3 つのサブカテゴリーから【周辺的実践者としての 実践経験】というカテゴリーを生成した。 概念 12~15 は、造形ワークショップの活動目標、造形. 前 A, 前B. 活動の必要性というワークショップの要素と、参加者が 目標達成や学習到達度に対する評価に縛られずに活動で きるというワークショップの特徴などに関する内容とな. 前 A, 前B. り、 サブカテゴリー 「造形ワークショップのメカニズム」 とまとめることができる。概念 16~20 は、造形ワークシ ョップのプログラムを実施・運営する上での具体的なや. 参加者は活動中に戸惑いを示し、手が 前 A, 止まる際、実践者が参加者の活動を促 前 B すための行動。 造形ワークショップの実践者の本職、 前 A,. り方や情報と関わる内容であり、サブカテゴリー「プロ グラムの実施運営」にまとめることができる。しかし、. 6 28. Journal of the Society of Art and Design, no.1, 2020.
(7) ワークショップが学習方法論としての原理と構造や実施 運営に関する具体的な事項についての概念 12~20 では すべて言及しているとはいえず、また、周辺的メンバー としての実践経験について叙述した部分が多い。このこ とから、この二つのサブカテゴリーから、カテゴリー【造 形ワークショップに対する初歩的な理解】と命名した。. 38.活動の目的を 明確にする必要性 39.参加者側から フィードバックを 取得するための効 果的な方法 40.表現手法の創 出と伝播 41.意外な出来事. 6.実施後インタビューの分析と結果 実施後インタビューの分析を通して、23 個の概念が生 成された。概念名、定義、言及された協力者について表 6 に示す。概念の並び順は、サブカテゴリーを見出す作 業のため調整した。. 42.活動環境が参 加者の創意工夫を 促す効果 43.活動環境デザ インがもたらす共 同活動雰囲気作り の効果. 活動にするための工夫。 活動目的を明確にした上で企画実 施を進めることの必要性。 参加者や保護者から、活動内容、 ファシリテーションや参加した体 験などワークショップに関する感 想や意見を得る効果的な方法。 参加者が制作の際に表現手法を創 り出し、さらにその表現手法が参 加者間に伝播していくこと。 活動中に想定されていないが偶 然、意外な気付きやできごと。 参加者の制作と表現、活動過程の 試行錯誤に対して、活動場所や周 りの環境要素がもたらす影響。 活動中に参加者間のコミュニケー ションや相互作用に対する活動環 境がもたらす効果。. 後 A, 後C 後 A, 後D. 後 A, 後C 後 A, 後C 後 A, 後C 後 A, 後C. 表 6 実施後インタビューの概念一覧 概念名 21. 中心的メンバ ーとしての実践経 験 22.実践した企画 に対する満足感 23.参加者間やり とりの観察 24.参加者状態の ポジティブな変化 25.参加者に応じ たサポートの仕方 26.活動安全面へ の配慮 27.活動時の想定 外の状況 28.実践者間の効 果的な協働 29.経験豊富な当 日メンバーの効果 的な協力 30.実践者の経験 と能力のバラつき 31.周辺メンバー と情報共有の不足 32.中心メンバー のリーダーシップ 33.実践経験の累 積による熟達 34.他の場面にお ける汎用の可能性 35.企画の独創性 に対する追求 36.活動の意義に 対する思考 37.一過性の克服. 定義 より主体的な、中心的立場の関わ りがもたらす造形ワークショップ の実践経験。 自身が企画したプログラムを実践 し、現実にしたことによってもた らされる悦びや成功感。 参加者同士の間で起きた会話や動 き、相互にもたらす影響などの事 柄に対する観察。 実践者が観察した、参加者の活動 状態が望ましい方向性への変化。 ともに活動している個々の参加者 に応じて実践者が採取するサポー トの仕方。 活動内容、時間、場所などワーク ショップの要素がもたらす危険性 に対する考慮。 活動の際に起こるイレギュラーな 状況やアクシデントなど事態。 実践者チーム内における実践者同 士が効率的、円滑に働くことがで きる協働の様式。 当日メンバーの中の経験者ととも に働くことがもたらす、他の実践 者の自信の増加、活動の円滑な進 行など効果。 実践者の経験と能力がそれぞれ異 なる水準に位置していること。 中心的メンバーと当日のメンバー が活動に必要な情報に対する共有 が不十分であること。 責任者としての自覚、周辺的メン バーのマネジメント、第三者への 対応など中心メンバーが有すべき 意識と能力。 実践経験が積み重ねることで熟練 度が高まること。 造形ワークショップの実践を通し て蓄積した経験を他の場面で活用 できる可能性。 実践者が造形ワークショッププロ グラムの企画におけるオリジナリ ティを求めること。 活動を通して参加者にとって何を 得られるかという活動意義に関す る思考。 一回きりのイベントとしての一過 性(デメリット)を乗り越えて、参 加者や実践者にとって意味のある. 言及 後 A, 後 B, 後C 後 A, 後C 後 A, 後 B, 後C 後 A, 後C 後 B, 後C 後 A, 後 C, 後D 後 A, 後C 後 A, 後 B, 後 C, 後D 後 A, 後 C, 後D 後 A, 後B 後 B, 後C 後 A, 後B. 実施後インタビューについても同様に、概念の関係性 を検討し、 サブカテゴリーとカテゴリーの抽出を行った。 概念 21~22 は協力者が対象事例を通して中心的メン バーとして実践し、自ら企画実施したことに対する満足 感という内容であり、サブカテゴリーとして「中心的メ ンバーとしての実践経験」にまとめることができる。概 念 23~25 は、活動中に参加者に対する観察や自身が採 取しているサポートの方法に関する内容であり、サブカ テゴリーとして「参加者に対する観察とファシリテーシ ョン」にまとめることができる。概念 26~27 は、活動の 際の安全面、想定外の状況に関する内容であり、サブカ テゴリー「安全面と想定外の状況」とまとめることがで きる。概念 28~31 は、実践者集団で他の実践者との実践 経験における良い点と反省点という内容となっている。 すなわち、サブカテゴリー「実践者集団における経験と 省察」とまとめることができる。概念 32~34 は実践者が 実践の振り返りを踏まえて、 自身に必要な能力(リーダー シップ)、 実践回数を重ねることによって更なる高い熟練 度の見込み、そして対象事例が終了後に実践経験を他の 活動に活用できる可能性に関する内容となっている。す なわち、サブカテゴリー「実践者の今後の発展」とまと めることができる。概念 35~39 は対象事例の実践につ いて、プログラムの考案、活動の意義や更なる良いワー クショップにするための改善点などを振り返りながら語 った内容であり、サブカテゴリー「より良い活動への追. 後 A, 後 B, 後C 後 B, 後C. 求」とまとめることができる。概念 40~43 は、造形ワー. 後 B, 後C. ワークショップの活動効果に関する内容となっている。. 後 A, 後C. とめることができる。. 後 A, 後B. さらに分類しカテゴリーを抽出した。. クショップとして対象事例の実施を通して、自ら考案し た活動内容、選定した活動環境が意外な出来事をもたら し、参加者の創意工夫を促し表現手法を創出するなど、 サブカテゴリー「造形ワークショップの活動効果」にま 上記にまとめたサブカテゴリーの関係性を再検討し、. 芸術学論集,第 1 号,2020 年. 7 29.
(8) 「中心的メンバーとしての実践経験」 、 「実践者集団に. 実施後インタビューの分析結果では、対象事例の実践. おける経験と省察」 、 「参加者に対する観察とファシリテ. 後の時点での認識は、 【実践者としての実践経験とその省. ーション」は、実践者として実践していく経験と省察に. 察】 、 【造形ワークショップの状況と活動効果】 、 【今後の. 関する内容となり、さらにカテゴリーを抽出すると【実. 発展と追求】という三つを確認することができた。. 践者としての実践経験とその省察】 が適切と判断された。. 【実践者としての実践経験とその省察】の下位にある. 「安全面と想定外の状況」と「造形ワークショップの活. サブカテゴリーを確認すると、 「中心的メンバーとしての. 動効果」は、造形ワークショップの活動状況や効果に関. 実践経験」は初めて自ら企画し実践をすべて担った経験. する内容であり、 【造形ワークショップの状況と活動効果】. に意識が向けられたことが反映されたといえる。 「参加者. というカテゴリーに命名した。 「実践者の今後の発展」と. に対する観察とファシリテーション」は、実施前インタ. 「より良い活動への追求」は、対象事例の実践を振り返. ビューと本質的な変化が見られなかった。その原因とし. り、今後の発展とより良い活動へと繋いでいくための内. ては、中心的メンバーであろうが、当日メンバーであろ. 容となり、カテゴリーとして【今後の発展と追求】とし. うが、ファシリテーションに関しては同様に参加者と関. た。. わりながら行われていたからといえる。 「実践者集団にお ける経験と省察」は、実施前インタビューの概念 11 のよ. 7.総合的な考察. うに実践者集団における経験を叙述することだけでなく、. 7-1.分析結果のまとめ. 概念 28~31 のように良い点と反省点を含めた省察が確. M-GTA による実施前・後インタビューの分析を通して 見出されたサブカテゴリーとカテゴリーをまとめると、 表 7 のようになる。. カテゴリー 周辺的実践者と しての実践経験. 前 造形ワークショ ップに対する初 歩的な理解 実践者としての 実践経験とその 省察 後. 造形ワークショ ップの状況と活 動効果 今後の発展と追 求. 【造形ワークショップの状況と活動効果】の下位にあ るサブカテゴリーを確認すると、施前インタビューでは. 表 7 実施前後インタビューのカテゴリーとサブカテゴリー一覧 項目. 認された。. サブカテゴリー 実践者としての原点 参加者に対する観察とファシリテ ーション 実践者集団における経験 造形ワークショップのメカニズム. 確認されなかった「安全面と想定外の状況」が意識され るようになった。実践者は、対象事例の企画立案の段階 で自らプログラムの理想形を作り上げ、そして実施段階 でそれがどのような形で実現されてきたというプロセス を見て、計画と現実のズレを実感したのではないだろう か。この経験があったからこそ、安全面や想定外の状況. プログラムの実施運営. に関する認識がインタビューで語られ、分析結果に現れ. 中心的メンバーとしての実践経験 参加者に対する観察とファシリテ ーション 実践者集団における経験と省察 安全面と想定外の状況. たと推察される。また、実施前インタビューでは造形ワ. 造形ワークショップの活動効果 実践者の今後の発展 より良い活動への追求. ークショップのメカニズムやプログラムの実施運営に関 する初歩的な認識が語られた。特に概念 18「開催リズム」 、 19「作品共有の仕方」や 20「活動終了後作品の扱い方」 などの内容は、プログラムや実施運営の基礎的な内容の 一部分に過ぎない。それに対して実施後インタビューで は「造形ワークショップの活動効果」というサブカテゴ. 7-2.実践者の意識構造. リーが抽出された。このサブカテゴリーに属する概念 40. 実施前インタビューの分析結果では、その時点で協力. ~43 を見ると、活動環境のデザインという自ら企画した. 者 4 名が造形ワークショップ実践者として有する意識は、. プログラムに含まれる要素がどのように参加者の造形活. 大きく【周辺的実践者としての実践経験】と【造形ワー. 動に影響し、参加者の創意工夫にどのような効果があっ. クショップに対する初歩的な理解】という二つが確認で. たのかという結果について実感したと推察される。. きた。 【周辺的実践者としての実践経験】については、 「実. 【今後の発展と追求】は、実施前インタビューでは見. 践者としての原点」 、 「参加者に対する観察とファシリテ. られなかったカテゴリーとなっている。対象事例の実践. ーション」 、 「実践者集団における経験」に関する認識が. を通して、自身のより良いパフォーマンスや他の実践場. 含まれる。そして【造形ワークショップに対する初歩的. 面への応用、より良い活動の実施への予想という意識が. な理解】 については、 「造形ワークショップのメカニズム」. 強く表れたといえる。. と「プログラムの実施運営」に関する認識が含まれる。 この結果を確認した上で実施後インタビューの分析結果 を見ると、対象事例の実践を通して、実施前インタビュ ーで確認されなかった認識の側面が確認できた。. 8.結論 本研究では、造形ワークショップの企画から実施およ び振り返りまで一連の過程に対して実践者がもつ意識の 構造を明らかにすることを目的として、筑波大学で行わ. 8 30. Journal of the Society of Art and Design, no.1, 2020.
(9) れた子どもアート活動「アートたんけん隊」(2018 年度) の企画・実践を担う中心的な実践者 4 名に対して半構造 化インタビューの意識調査を実施した。. 9.実践者育成に向けた知見 本研究で実施した意識調査の分析結果から、実践者育 成に向けて以下のような知見が見出された。. 対象事例の企画・実践前の意識調査から、実践者 4 名. まず、実践者は参加者に対する観察や活動中のファシ. はそれまで【周辺的実践者としての実践経験】をもつ実. リテーションを含めた自身の実践、実践の土台となるワ. 践者であり、 【造形ワークショップに対する初歩的な理解】. ークショップの状況と活動効果に対して意識を向けてい. を有していることが確認された。この二つのカテゴリー. る。そして、自身の実践と実践者集団における実践経験. は、本研究の調査対象は造形ワークショップ実践者の中. に対して省察し、さらなる発展と追求へと意識を向けて. で比較的経験の浅い者として位置づけを示したといえる。. いくことが分析結果によって明かとなった。これは、ジ. これは、本研究で明かにした実践者の意識構造モデルの. ョン・デューイ(John Dewey)の経験と学習に関する理. 一般化と応用の際に重要と考えられる。. 論を発展させて、ディビット・コルブ(David A. Kolb) が提唱した「経験学習モデル(Experiential Learning. 周辺的実践者として の実践経験. 造形ワークショップに 対する初歩的な理解 実践前に有する意識 対象事例の 企画・実践. Model) 」23)における学習サイクルの 4 要素の中、 「具体的 経験(Concrete Experience)」と「省察的観察(Reflective Observation)」に合致していると考えられる。そしてコ ルブの経験学習サイクルでは、 「具体的経験」と「省察的 観 察 」 の 次 の 段 階 に 「 抽 象 的 概 念 化 (Abstract. 実践者としての実践 経験とその省察. Conceptualization) 」 と 「 能 動 的 実 験 (Active Experimentation)」がある。コルブの経験学習サイクル 今後の発展と追求. 造形ワークショップ の状況と活動効果. 4 段階を本研究の分析結果と比較すると、対象事例の造 形ワークショップ実践を通して、 実践者が 「具体的経験」. 一連の過程に対する 実践者の意識構造. 図 1 本調査で明らかにされた実践者の意識構造の結果図. と「省察的観察」の段階を踏んでいるととらえられる。 そこから敷衍して言えば、次の「抽象的概念化」と「能 動的実験」の段階を経験させることが、実践者にとって 「ワークショップ実践による経験学習」が可能となるか. 対象事例の企画・実践後の意識調査の分析結果から、 一連の実践過程に対して実践者 4 名の意識には、 【実践 者としての実践経験とその省察】 、 【造形ワークショップ の状況と活動効果】 、 【今後の発展と追求】という三つの カテゴリーが含まれることが明らかとなった。. どうかの鍵となるだろう。 以上のことをまとめると、経験学習理論の視点からみ て、実践者が造形ワークショップの実践を通して、具体 的経験と省察的観察の段階を踏んだ上で、抽象的概念化 と能動的実験の段階を如何に経験させ、学習サイクルを. まず、 【実践者としての実践経験とその省察】では、実. どのように効果的にデザインできるのかが、実践者のワ. 践者は対象事例の実践を通して、中心的メンバーとして. ークショップ経験と学習効果を高めるための課題といえ. 自身の実践に関して振り返り、参加者に対する観察や活. るだろう。そして経験学習理論に基づく学習サイクルの. 動中のファシリテーションについて語った。実践者とし. デザインが、造形ワークショップの人材育成に関するプ. て自身の実践に意識を向けたと同時に、実践者集団で実. ログラム開発において有効な手がかりの一つになるので. 践者同士の協働に関して良い側面と反省点について言及. はないだろうか。. していた。そして、図 1 の矢印が示したように、 【実践者 としての実践経験とその省察】という意識をもつと同時 に、実践者が実践しているワークショップにも意識が向. 10. 今後の研究課題 先述のように本研究の調査対象は、造形ワークショッ. けられている。 【造形ワークショップの状況と活動効果】. プ実践者の中で比較的経験の浅い者として位置づけられ. では、対象事例における活動中の安全面と想定外の状況. る。すなわち本研究の調査結果は、造形ワークショップ. や、活動環境がもたらす造形ワークショップの活動効果. 実践者全体の意識構造を表すものではない。実践経験の. に関する意識が確認された。さらに、この二つ意識をも. 豊富な実践者に対して意識調査を実施し、その意識の構. つていると同時に、実践者 4 名には、さらなる実践と経. 造や行動の特徴を明らかにすることが今後の研究課題の. 験の応用、そしてより良い活動への追求という【今後の. 一つといえる。それによって、経験値が違う実践者の意. 発展と追求】の意識があったといえる。. 識がどのように異なるのかを明らかにすることは、若い 実践者の育成に関する有用な知見を得ることにつながる と期待される。. 芸術学論集,第 1 号,2020 年. 9 31.
(10) そして、このような基礎的な調査を踏まえて、造形ワ. 術教育学業書 1 美術教育学の現在から, 学術研究出版, 84-97 頁,. ークショップ実践者の育成に関する課題を確実に解決す. 2018. るために、育成プログラムの開発や検証がさらなる研究. 7) 苅宿俊文:イントロダクション ワークショップの現在,苅. 課題といえるだろう。. 宿俊文・佐伯胖・高木光太郎 著,ワークショップと学び 1 まな びを学ぶ,東京大学出版会,13 頁,2012. 11.謝辞. 8) 高橋陽一:造形ワークショップを支える ファシリテータの. 本研究にご協力くださった協力者、 「アートたんけん隊」. ちから,武蔵野美術大学出版局,212-225 頁,2012. 2018 年度実施の関係者、参加者の方々に感謝申し上げま. 9) 青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラムの. す。. ホームページ:http://wsd.irc.aoyama.ac.jp/ (2018 年 11 月 18 日閲覧). 註. 10) 東京都美術館×東京藝術大学「とびらプロジェクト」のホ ームページ:https://tobira-project.info/about/(2020 年 1 月. 註 1 高橋によると、 「造形ワークショップは、造形の楽しさを. 29 日閲覧). あらゆる人たちが享受するための営み」であり、 「教育課程に位. 11) 佐藤信:佐藤信が語るワークショップ整理学,地域創造 町. 置づけられて、または教師による評価の対象」である学校での. づくりアートを応援します,創刊号,地域創造,15-19 頁,1996. 美術教育と違って、 「知識や技術の習得や資格の取得などは目的. 12) 苅宿俊文,前掲,12 頁,2012. としない」という。高橋陽一 2012:造形ワークショップを支え. 13) 森玲奈,前掲,2014. る ファシリテータのちから,武蔵野美術大学出版局,56 頁を参. 14) 茂木一司(代表)編集:協同と表現のワークショップ―学. 照。しかし、学校における美術教育では知識や技術の習得ばか. びのための環境のデザイン,東信堂,2010. りでなく、 「つくりだす喜びを味わう」(図画工作科)ことや「美. 15) 高橋陽一,前掲,66-67 頁,2012. 術の創造活動の喜びを味わい」(美術科)が目標とされている。. 16) 杉本覚・岡田猛:美術館におけるワークショップスタッフ. 小 学 校 学 習 指 導 要 領 ( 平 成 29 年 告 示 ), 129 頁. 初心者の認識の変化―東京都現代美術館ワークショップ"ボデ. (https://www.mext.go.jp/content/1413522_001.pdf),中学校. ィー・アクション"への参加を通して―,美術教育学,34,261-. 学 習 指 導 要 領 ( 平 成. 275 頁,2013. 29. 年 告 示 ), 107. 頁. (https://www.mext.go.jp/content/1413522_002.pdf) を 参 照. 17) 笠原広一:ワークショップにおける相互変容と体験理解―. (2020 年 1 月 29 日閲覧)。そこで本研究では、学校と学校外の. 関与観察と vitality affect の感受に基づいて―,九州大学博. 両方を包括して造形ワークショップを定義した。. 士論文,2015. 註 2 美術の意味については神野がまとめた「Art/美術/アー. 18) 高尾美沙子・苅宿俊文:ワークショップスタッフの実践共. トの語が包含する内容」を参照し、 「西洋近代の『Art』を輸入し. 同体における十全性の獲得のプロセスについて,日本教育工学. て成立した美術」とする。神野真吾 2018:美術教育と美術/ア. 会論文誌,32(Suppl.),133-136 頁,2008. ート,美術教育ハンドブック,株式会社三元社,169 頁を参照。. 19) 森玲奈:ワークショップデザインの熟達と実践家育成に関 する総合的研究,東京大学博士論文,2013. 引用文献. 20) 菊地恵美子:学びのワークショップにおけるファシリテー. 1) 山田忠雄・柴田武・酒井憲二・倉持保男・山田明雄・上野善. ター方略習得プロセスにおいての意識変容の分析 開発教育ワ. 道・井島正博・笹原宏之 編:新明解国語辞典 第七版,三省堂,. ークショップにおけるファシリテーター初心者を対象に,日本. 859 頁,2012. 教育工学会研究報告集,2010(5),177-182 頁,2010. 2) 錦澤滋雄:歴史的変遷からみた『ワークショップ』の概念. 21) 安斎勇樹・青木翔子:ワークショップ実践者のファシリテ. (1974‐1998) ,日本建築学会大会学術講演梗概集,F-1,都市計. ーションにおける困難さの認識,日本教育工学会論文誌,42 巻. 画,建築経済・住宅問題,197-198 頁,2001. 3 号,231-242 頁,2018. 3) 森玲奈:日本におけるワークショップの展開とその特質に. 22) 木下康仁:グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践. 関する歴史的考察―プラグマティズムとの関連性に着眼して―,. 質的研究への誘い,弘文堂,2003. 日本教育方法学会紀要『教育方法学研究』 ,39,49-58 頁,2014. 23) David A. Kolb: Experiential Learning: Experience as. 4) 森玲奈:同上.. the Source of Learning and Development, Prentice Hall,1984. 5) 東京図画工作研究会:素材に出あった子供たち これからの 図工教育をめざして ワークショップ,文化書房博文社,1981. (2019 年 10 月 5 日原稿受付,2020 年 3 月 21 日採用決定). 6) 笠原広一:美術科教育の学習論と実践理論の拡張:学習論・ ワークショップ・インクルージョンの関連同行から考える,美. 10 32. Journal of the Society of Art and Design, no.1, 2020.
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