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83 資料

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瀬 昇

* 著者は駒澤大学法学部准教授,博士(政策・メディア). ※ 本稿は 2011 年 11 月受理. * 公 共 選 択 の 研 究 に 関 す る 文 献 の 中 か ら , 近 年 , Constitutional Political Economy 誌に掲載された論文 をいくつか紹介する.

[政治経済学から見た古代アテネの直接民主政治] George Tridimas, “A political economy perspective of

direct democracy in ancient Athens,” Constitu-tional Political Economy, Vol.22, 2011, pp.58-82. 有権者により選挙された代表者が公共の利益を決め るのではなく,有権者による直接的な議論と投票によ って決定する直接民主制について,その原点といわれ る古代アテネの政治制度を通じて論ずるものである. 本稿では,まず,アテネの民主政治が登場するまで の主な出来事と,アテネ政治の重要な制度的取決めを 概観したうえで,古代アテネの市民権の拡大について, 現代の視点から検討する.直接民主制の長所と短所に ついて議論した後,貴族政から脱却し,紀元前 5 世紀 末のアテネで民主政治が確立したときの,それまでの 制度的取決めと市民が直面していた政治的リスクの意 義を説明する.民会や 500 人評議会などといった古代 アテネの直接民主政治の制度について,簡潔に説明さ れている.また,貴族政から民主政へと移行するにあ たり,選挙権の拡大が与えた影響についての解説も, 非常に明快である. 迫りくる外敵の進攻と専制政治の発生を防ぐため, 立法を市民の多数決による決定に委ねたが,そのため, 政党は,集団の利益やイデオロギーを明確にすること も,競い合って選挙を戦うことも必要なかった.もっ とも,直接民主制の下でも,立法の準備・遂行や職員 の監視といった実務的な課題を取り扱うため,個人に 一定の官職を割り当てることは排除されておらず,そ の職に就くことから得られる利益をめぐっては,競争 が不可避的に生ずる.しかしながら,選挙で選出され る官職も少なからずあったものの,市民が公職に就く 機会を均等にするため,ほとんどの行政・司法の官職 は,抽選で選ばれていた.そこで,政党が,その支持 者を官職に割り当てて,そこからもたらされる利益を 分配するということも機能しなかった. このような古代アテネの民主政治の仕組みについて, 筆者は,政治経済学の観点から見れば,政党が存在し ないということと,抽選で官職が任命されるというこ とは,表裏一体であったということが示されると結論 づけている.

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公共選択の研究 第57 号 2011 年

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[連邦制度の2 つの類型と不可避な集権化への過程] Thomas Döring and Jan Schnellenbach, “A tale of

two federalisms: Germany, the United States and the ubiquity of centralization,” Constitu-tional Political Economy, Vol.22, 2011, pp.83-102. アメリカ合衆国もドイツ連邦共和国も,いずれも連 邦制度を採用している国家であるが,本稿では,両国 の政府の集権化の比較が行われている. 本稿におけるリサーチ・クエスチョンは,(1)制定 当初の憲法で,米国のように競争的連邦主義の枠組み を規定することによって,ドイツに代表される協力的 連邦主義の場合と比較して,集権化は抑制されるのか, (2)集権化への経路は,この 2 つの憲法上の枠組みの 類型によって,差異があるのか,そして,(3)2 つの 体制の比較から,政府の集権化に関して,政治経済学 はいかなる一般的な教訓を学びとることができるか, の 3 つである.これらを明らかにするため,米独両国 における連邦と州との関係をめぐる歴史的展開を概括 したうえで,両国における政府の集権化の主な仕組み を示しつつ,集権化の過程が両体制で非常に異なると いうことを指摘する. 本稿における結論は,近代化の過程で租税の徴収は より高次の政府に集中するようになるというポピッツ の法則(Popitz’s Law)について,制度的枠組みがま ったく異なる状況下であっても,普遍性を持ちうるこ とを示すものと解釈されうるであろう.しかしながら, 筆者は,かりに集権化の一般法則があるとしても,現 実の集権化の仕組みや過程は非常に異なるものである ということを指摘するとともに,憲法政策の形成へ示 唆を与えるものであるとも主張する.すなわち,集権 化を許さない憲法を制定することはそもそも不可能で あるから,憲法を制定する当初からそこで連邦制度に ついて規定しても,長期的には集権化の歯止めにはな らない.公式の政治制度は,必ずしも集権化への大き な流れとはならないにせよ,明らかに政府の集権化へ の小道として影響している.そして,最終的には,州 ないし地方政府は非公式的な政治制度に依存するとい う結論が示される. [イニシアティブは首長にとって敵か味方か]

Gregory M. Randolph, “The voter initiative and the power of the governor: evidence from campaign expenditures,” Constitutional Political Economy, Vol.22, 2011, pp.265-286. 有権者によるイニシアティブ(住民発議)とは,法 律の制定または憲法の修正の提案を選挙人に認める直 接民主制の政治制度の 1 つであり,アメリカ合衆国で は24 の州で採用されている. 州議会にとって意思決定の権威を移譲するものであ ると考えられるため,これまで,イニシアティブが州 議会へ与える影響についての研究は,非常に多く行わ れてきた.一方,州政府への影響については,ほとん ど検討されてこなかった.たしかに,イニシアティブ は,議会を回避して立法を行う方法を州知事に与える ものであって,理論上は,州知事の権力の増大に役立 ちうるものである.しかしながら,見方を変えれば, 立法に対する知事の拒否権を回避する手段を市民に提 供するものでもある.ならば,イニシアティブは知事 の権力を縮小するものであり,その結果,知事が望む 政策から最も遠い選択がもたらされる可能性もある. 本稿は,州知事選挙の運動費用を調査し,州知事の 政治権力に対するイニシアティブの影響力について考 察するものである.調査とその分析の結果,筆者は, イニシアティブが(州議会だけでなく)州知事の政治 権力をも弱体化させるものであると結論づけている. また,有権者や利害関係者が,彼らの政治的目標を達 成するための,選挙の代替手段としてイニシアティブ に期待しうることも,イニシアティブを認める州では 総じて選挙運動費用が顕著に低いという結果から示さ れると主張している. [愚策を選ぶ非合理的な投票者の理論への補説] Louis Jaeck, “Information and political failures: to

what extent does rational ignorance explain ir-rational beliefs formation?,” Constitutional Po-litical Economy, Vol.22, 2011, pp.287-301. 『 選 挙 の 経 済 学 (The Myth of the Rational Voter)』の著者カプラン(Bryan Caplan)は,大衆の 非合理性の問題を,民主政治過程の有効性との関係で 初めて取り上げようと試みた論者である.民主政治が 経済政策に関して最適の結果をもたらさない理由は, 経済や投票の機能について,投票者が系統だったバイ アスに囚われた信念を有しているからであり,このよ うな信念の形成を説明するために,カプランは,合理 的選択の理論を用い,バイアスの影響を説明する合理 的な非合理性の理論を展開してきた.また,カプラン の主張は,投票者の合理的無知を基礎とする従来の公

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資料:文献案内 85 共選択論者や,集計の奇跡に基づき民主政治の有効性 を 支 持 す る 『 デ モ ク ラ シ ー の 経 済 学 (The Myth of Democratic Failure)』の著者ウィットマン(Donald A. Wittman)らの主張とはまったく異なるものである. カプランは,経済政策(ないし公共政策一般)は,バ イアスに囚われた投票者の信念を反映するものにすぎ ないと主張する.投票者の無知を矯正することは彼ら の非合理性を直すことよりも困難であるため,カプラ ンは,民主政治の有効性に対して悲観的な結論を提示 するのである. このようなカプランの議論に対して,筆者は,合理 的無知仮説が非合理的な信念形成の経済理論と,どの 程度まで両立しうるかについて検討している.すなわ ち,本稿では,まず,カプランの合理的な非合理性理 論は,信念形成過程における情報の社会的構造のイン パクトを無視しているということが示される.情報と 風評のカスケード構造を通じて,合理的無知が非合理 的な信念形成を導くと主張するクーラン(Timur Ku-ran)とサンスティン(Cass R. Sunstein)の議論は, この影響を考慮に入れたものである.彼らの議論は, 信念形成についての理論として,カプランの議論より も認識論的に確立されている.そして,本稿のような 理論的検討は,現職の政治家,有権者,利益集団の信 念とバイアス,さらに政策の結果を考えるうえで,新 たなモデルを示すものであると,筆者は展望している. (やなせ のぼる)

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