Bulletin of Hiroshima Prefectural Technology Research Institute Food Technology Research Center No.29 (2019) 〔技術論文〕 19
エタノールセンサを用いた味噌のアルコール濃度の簡易測定
藤原朋子
Simple Measurement of Alcohol Concentration in Miso Using an Ethanol Sensor FUJIWARA Tomoko
I studied a simple and rapid method for measuring the alcohol concentration of miso using an ethanol sensor. The ethanol sensor was capable of accurately measuring an ethanol concentration of 1% (w/v) or less within the temperature range between 15 and 30°C. It was confirmed that the ethanol sensor also detected alcohols other than ethanol. Regarding the measurement method, an ethanol sensor probe was placed in the gas of a vessel containing a mixture of miso and water nine-fold that of miso at room temperature. The value 60 seconds after commencement of measurement was used as the measured value. The regression line, which was obtained based on the oxidation method analysis values of the alcohol concentration of miso using the measured values, was considered to be useful for prediction. Based on the regression coefficient, the alcohol concentration (w/w%) of miso was estimated to be the value measured using the ethanol sensor × 8.7. There was a very strong correlation between the estimated values and the oxidation method analysis values. It was judged that this measurement method is sufficiently useful.
Keywords: miso, alcohol concentration, ethanol sensor, simple measurement キーワード:味噌,アルコール濃度,エタノールセンサ,簡易測定 味噌中のアルコールは,味噌の製造過程で酵母の発酵に より生成され,アルコール濃度は発酵状態を知る目安とな る.また,製品中に保存料としてアルコール添加する場合 もあり,味噌の種類にもよるが,防湧のために必要な味噌 中のアルコール濃度は 2~3 重量%とされる1)2).アルコー ル添加する場合,製造過程で生成されたアルコール量を測 定し,その量を含めて添加量を加減する必要がある.加え て,添加したアルコールがムラなく混合されることが製品 管理上重要であるため,アルコールが均質に分布している か確認するべきである.このように味噌中のアルコール濃 度を測定したい場面は多い.しかし,基準みそ分析法2)に よる味噌のアルコール濃度分析法,すなわち,味噌を水蒸 気蒸留し留液のアルコールを重クロム酸カリウムで酸化し て測定する酸化法や味噌の水抽出液をガスクロマトグラフ ィーにより分析する方法は時間や高価な機器が必要であり, 現場の測定方法として容易な方法ではない.酵素法による 味噌抽出液のエタノール分析2)も示されているが,同様で ある. これまでにも蒸留や抽出,高価な機器分析をすることな く,簡易・迅速にアルコール濃度を測定する方法が検討さ れてきた.アルコールメーター3),ガス検知管の利用4)5), バイオセンサー6)による測定が報告されている.現状で使 用する器具等を入手可能であり,実施することができる方 法はガス検知管の利用であるが,普及はしていない.ガス 検知管の利用による測定において,現場での実施の妨げと なっている部分は,測定時の恒温の保持,ガス採取,ガス 検知管目盛りの読み取りや味噌のアルコール濃度への換算 ではないかと考えた.これらを解決し,より簡易に味噌の アルコール濃度を測定する方法として,エタノールセンサ の利用を検討した. 実 験 方 法 1. 試料及び試薬 実験に使用した味噌は,2013 年と 2014 年に広島県内で 入手した市販品,2014 年の第 57 回全国味噌鑑評会優秀品 として配布された味噌及び 2016 年に当センターにおいて 小仕込試験によって製造した味噌である.エタノールは特 級試薬 99.5 %を用いた. 2. 器具及び装置 エタノールセンサは株式会社島津理化製のエタノール センサ PS-2194 を使用し,インターフェースとして同社製 の SPARK SLS PS-2008A を使用した.本エタノールセンサは 気体中のエタノールガス濃度を測定し,測定範囲は 0~
広島食工技研報 No.27 2013 4 3 %,精度は読み値の 20 %とされる.測定精度は温度, 湿度,ガスの流れ,他のガスの存在等の要素により左右さ れる.試料を入れる容器は 50 ml プラスチック製遠沈管と し,センサプローブを通したシリコ栓で蓋をし,容器内の 気体部分にセンサプローブの先端を位置させた.エタノー ルセンサは,使用前に 1.00 %(w/v)エタノール水溶液を用 いて校正を行った. 3. 分析方法 エタノールセンサによる測定を図 1 に示した.50 ml 遠 沈管に,試料としてエタノール水溶液または味噌と水を 20 ml 程度入れ,試料液面から約 5 mm 上部の気体中にセンサ プローブの先端を位置させた.センサプローブを気体中に 入れた時を測定開始とした.測定開始後 30 秒~90 秒で測 定値が安定し,その後はほとんど変化しないことを確認し たため,測定開始 60 秒後または 90 秒後の値を測定値とし た.なお,測定に使用する容器を 50 ml 遠沈管,200 ml 及 び 500 ml 三角フラスコとし,試料の液量及びセンサプロー ブの液面からの位置を変えて測定したが,測定値に差はな かった.測定温度の影響調査は,恒温槽を用い,試料の入 った容器を水浴で 30 分間以上放置し,温度一定にした後に エタノールセンサによる測定を行った.エタノール水溶液 の測定は 3 回繰り返し行った.味噌の測定は 2 反復で実施 した. 基準みそ分析法による味噌のアルコール濃度分析は,酸 化・比色法とし,基準みそ分析法2)に従った. 味噌のアルコール濃度について,エタノールセンサ測定 法による測定値と酸化法による分析値の関係は,Super ANOVA を使用して共分散分析で解析した.エタノールセン サ測定値からの味噌のアルコール濃度推定値と酸化法によ る分析値との相関関係の検定は,ピアソンの相関係数の検 定を用いた.有意水準は 0.01 とした. 実験結果および考察 1. エタノールセンサの特性 (1) 測定温度の影響 エタノールセンサの校正温度を 20 ℃とし,15,20,25, 30,35 ℃の各温度で,校正に使用した 1.00 %(w/v)のエ タノール水溶液を測定した結果,測定値は 15 ℃で 0.67 %, 20 ℃で 1.00 %,25 ℃で 1.64 %,30 ℃で 2.21 %,35 ℃ で 2.90 %であった.校正温度よりも高い温度で測定する と測定値が大きく,低い温度で測定すると測定値が小さか った.校正と測定は同一の温度で実施しなければならない ことを確認した.以降の測定は,校正温度と測定温度を同 一にして測定した. 0.25~2.50 %(w/v)の濃度既知エタノール水溶液を試 料とし,15~30 ℃の各温度でエタノールセンサを用いて測 定した結果を図 2 に示した.エタノール 1.00 %以下の濃 度では各温度とも実際のエタノール濃度と測定値の差は小 さかった.エタノール 1.50 %以上の濃度では 20 ℃以上で の測定において,実際のエタノール濃度よりも測定値が低 かった.このように,測定するエタノール濃度が高く,測 定温度が高いほど,実際のエタノール濃度とセンサ測定値 との差が広がることがわかった. (2) 味噌に含まれるエタノール以外の物質の影響 味噌には,エタノールのほかに N-ブタノール,N-プロパ ノール,イソブタノール,イソアミルアルコール等のアル コール類が含まれる.その他,乳酸,酢酸,クエン酸等の 有機酸やグルコース等の糖類が含まれる.これらの物質の 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 エ タ ノ ー ル セ ン サ 測 定 値 ( % ) エタノール水溶液の濃度(%) 14.6℃ 17.5℃ 20.0℃ 25.0℃ 30.0℃ 図 2 エタノールセンサ測定における測定温度の影響 0.25,0.50,1.00,1.50,2.00,2.50 %(w/v)のエタノール水溶液 を試料とし,14.6,17.5,20.0,25.0,30.0 ℃の各温度で測定し た.測定開始から 90 秒後の値を測定値とした。測定は 3 回繰り返 し,平均値で示した. 各測定温度で,測定前に 1.00 %(w/v)エタノール水溶液を用いて校 正した. 図 1 エタノールセンサによる測定 50 ml プラスチック製遠沈管に試料のエタノール水溶液または味噌 と水を 20 ml 程度入れ,液面から約 5 mm 上部の気体中にセンサプ ローブの先端を位置させた.測定開始 60 秒後または 90 秒後の値 を測定値とした.
Bulletin of Hiroshima Prefectural Technology Research Institute Food Technology Research Center No.29 (2019) 〔技術論文〕 21 1.00 %(w/v)水溶液を試料とし,15,20,25 ℃の各温度で エタノールセンサを用いて測定した結果を表 1 に示した. エタノールセンサは,測定温度にかかわらず,有機酸や糖 には反応しなかった.しかし,アルコール類に対しては, 測定値は 1.0 %より低い値が多かったが,エタノールと同 様に反応した. 2. 味噌のアルコール濃度の分析 (1) 味噌のエタノールセンサ測定条件の設定 エタノールセンサは,測定温度 15~30 ℃の範囲におい て,試料のエタノール濃度 1 %以下であれば精度よく測定 できた(図 2).このため,味噌の測定の場合には,味噌と 水の混合液のアルコール濃度が 1 %を超えることがない ように設定することとした.味噌のアルコール濃度は高く ても 5 %程度であるため,味噌の 10 倍混合液を測定する こととし,味噌 2.0 g と水 18.0 g を 50 ml 遠沈管に入れ, 混合液量 20 ml 程度とした.味噌の表面から蒸発したアル コールを測定する場合には,味噌表面の揮散速度に影響を 与える要素として味噌の温度,恒温槽の温度,表面積を一 定にしなければならない4).本報告で設定した方法では, 味噌と 9 倍量の室温の水とを混合することで,味噌の温度 に係らず試料の温度はすぐに室温になる.また,混合液と することで,使用容器が定まっているため試料の表面積も 一定となる. エタノールセンサ測定に要する時間は 1 試料 1 回につき 2 分間以内であり,温度変化が少ない室内であれば恒温槽 等による恒温の保持は必要ないと考えられた.味噌の測定 では,測定時に温度計を設置し,室温に大きな変化がない ことを確認しながら測定した.なお,校正液及び試料であ る味噌と水の混合液も室温になってから測定した. (2) エタノールセンサ測定値と酸化法による分析値の関係 予備測定したエタノールセンサ測定値から,測定値に幅 があり,味噌の種類が異なるものとして,市販品及び全国 味噌鑑評会優秀品から 6 点の味噌を選択した. この 6 点の 味噌について,室温 17.5,22.2,27.3 ℃の各温度でエタ ノールセンサを用いた測定と酸化法による分析を行った結 果を図 3 に,共分散分析表を表 2 に示した.交互作用が有 意でない(P=0.57)ことから,各測定温度の回帰直線は平 行である.エタノールセンサ測定値は有意(P=0.0001)で あり回帰係数が有意であると判定された.測定温度は有意 ではない(P=0.93)ことから各測定温度の 3 直線の切片は 等しく,統計的に 3 直線は等しいと判定された.共通回帰 式は y = 8.7 x - 0.1 である. 酸化法による味噌のアルコール濃度分析は,エタノール だけでなく他のアルコール類も含めて定量される.味噌中 のエタノール以外のアルコール類の含量は,味噌の種類に より 0~数百 ppm 程度と様々である2)が,エタノールの含 量に比して少量であり,分析値に及ぼす影響は小さいと考 えられる.しかし,エタノール以外のアルコール類の含量 が多い味噌の場合,ヘッドスペースガスのガスクロマトグ ラフィーによる味噌中のエタノールの定量値と酸化法によ 表 2 共分散分析表 自由度 平方和 平均平方 F値 P値 測定温度 2 0.003 0.001 0.068 0.93 エタノールセンサ測定値 1 44.244 44.244 2392.909 0.0001 残差※ 14 0.259 0.018 ※交互作用(測定温度×エタノールセンサ測定値)は有意ではない(P = 0.57)ため,残差にプールした. 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 0.0 0.2 0.4 0.6 酸 化 法 に よ る 分 析 値 ( % w /w ) エタノールセンサ測定値(%) 17.5℃ 22.2℃ 27.3℃ y=8.7x-0.1 (P<0.01) R2=0.995 図 3 味噌のアルコール濃度のエタノールセンサ測定値と酸化法 による分析値の関係 エタノールセンサ測定は,味噌 2.0 g と水 18.0 g を試料とし,17.5, 22.2,27.3 ℃の各温度で測定した.測定開始から 60 秒後の値を測 定値とした.測定は 2 反復で実施し,平均値で示した.各測定温度 で,測定前に 1.00 %(w/v)エタノール水溶液を用いて校正した. 酸化法による分析は基準みそ分析法に基づき,酸化・比色法で行っ た. 15℃ 20℃ 25℃ エタノール 1.0 1.0 1.0 N-ブタノール 0.8 0.5 0.5 N-プロパノール 1.0 0.8 0.8 イソブタノール 0.9 0.7 0.8 イソアミルアルコール 0.5 0.5 0.5 乳酸 0.0 0.0 0.0 酢酸 0.0 0.0 0.0 クエン酸 0.0 0.0 0.0 グルコース 0.0 0.0 0.0 物質 各測定温度での エタノールセンサ測定値(%) 表 1 エタノールセンサ測定における味噌に含まれる物質の影響 各物質の 1.00 %(w/v)水溶液を試料とし,15,20,25 ℃の各温度 で測定した.測定開始から90 秒後の値を測定値とした.測定は3 回 繰り返し,平均値で示した. 各測定温度で測定前に 1.00 %(w/v)エタノール水溶液を用いて校 正した.
広島食工技研報 No.27 2013 4 るアルコール定量値とを対比させることには無理があると 報告されている7).エタノール以外のアルコール類の含量 に多少があると考えられる,種類の違う味噌を使用した今 回の分析において,エタノールセンサ測定値から酸化法に よる分析値の予測に問題はなかった.エタノールセンサが エタノール以外のアルコール類にも反応する点(表 1)は, 酸化法による分析との対比においてプラスに作用すると考 えられる. (3) エタノールセンサ測定値からの味噌のアルコール濃 度の推定 エタノールセンサ測定値からの味噌のアルコール濃度 の推定は,より容易な換算とするために,測定値 × 8.7 とした.図 3 の回帰式を得るための分析に使用した味噌の うちの 2 点と,重複せず種類の異なる味噌 2 点及び小仕込 で製造途中の味噌 2 点の計 6 点を,エタノールセンサ測定 値からの味噌のアルコール濃度推定の検証に用いた.図 4 に測定温度 24.7 ℃で,推定値と酸化法による分析値の関 係を示したように,推定値と分析値の相関は危険率 1 %で 有意であり,相関係数 r は 0.993 と極めて強い正の相関が 認められた. 本報告で示したエタノールセンサを用いた測定方法は, 測定時に恒温槽等による恒温の保持は不要であり,室温で 測定できる.また,ガス採取は不要で,センサの測定値は デジタル数値で取得できる.さらに,測定値からの味噌の アルコール濃度への換算は,測定値に係数 8.7 をかけるだ けの容易な方法である.このように,ガス検知管の利用に よる測定法の課題を全て解決し,より簡易に味噌のアルコ ール濃度を測定する方法として,エタノールセンサを用い た測定が利用できると判断した. 要 約 エタノールセンサを用いた味噌のアルコール濃度の簡 易・迅速な測定方法を検討した.エタノールセンサは,15 ~30 ℃の範囲内においてエタノール濃度 1 %(w/v)以下 で精度よく測定でき,エタノール以外のアルコール類にも 反応することを確認した.測定方法は,室温で,味噌と 9 倍量の水との混合液を入れた容器の気体中にエタノールセ ンサプローブを投入し,測定開始 60 秒後の値を測定値と した.測定値から味噌のアルコール濃度を酸化法により分 析した値を求めた回帰直線は予測に役立つといえた.回帰 係数を基に,味噌のアルコール濃度%(w/w)をエタノールセ ンサ測定値 × 8.7 と推定した.推定値と酸化法による分 析値とは極めて強い相関があり,本測定方法が十分利用で きると判断した. 謝 辞 実験に使用した味噌の提供に協力いただいた広島県味 噌協同組合に感謝します. 文 献 1) 宮尾茂雄 (2005). アルコールを利用した食品の保存. 味噌 の科学と技術, 53, 340-351. 2) 全国味噌技術会編 (2006). 新・みそ技術ハンドブック 付 基準みそ分析法, 全国味噌技術会, 東京. 3) 望月務, 安平仁美, 糸賀啓治 (1974). アルコールメーター によるみそ中のアルコール濃度の定量について. 味噌の科学 と技術, 246, 24-27. 4) 久米堯, 山﨑賢二, 岩崎禎, 高村明, 宮城盛安, 吉田剛, 日 高栄治, 吉田利夫 (1980). 粒味噌のアルコール混合につい て その 1 アルコール添加味噌の迅速アルコール測定につ いて. 味噌の科学と技術, 320, 2-5. 5) 杉村豊裕, 弘長智行, 三佐和芳郎, 小堀和之 (1992). ガス 検知管を利用した食酢製造中のアルコール分の簡易分析法に ついて. (独)農林水産消費技術センター調査研究報告, 16, 57-62.
6) Matsumoto, T., Funato, J., and Ito, Y. (1997). Determination of Ethanol in Commercial Miso and Soy Sauce Preparations by a Multipurpose Microbial Biosensor Method. Japanese Journal of Food Chemistry and Safety, 4, 7-10. 7) 小倉元成, 奥平知子 (1982). ヘッドスペースガスのガスク ロマトグラフィーによる味噌中のエタノールの定量について. 味噌の科学と技術, 345, 24-32. 0.0 1.0 2.0 3.0 0.0 1.0 2.0 3.0 酸 化 法 に よ る 分 析 値 (% w /w ) エタノールセンサ測定値からの 推定値(%w/w) 図 4 味噌のアルコール濃度のエタノールセンサ測定値からの推定 値と酸化法による分析値の関係 エタノールセンサ測定は,味噌 2.0 g と水 18.0 g を試料とし,測定 温度は室温 24.7 ℃であった.測定は 2 反復で実施し,測定値(平均 値)× 8.7 を推定値とした. 酸化法による分析は基準みそ分析法に基づき,酸化・比色法で行った. 推定値と酸化法による分析値との間の相関係数r = 0.993(ピアソン の相関係数の検定;n = 6,P = 0.00007).