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酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からの ガス増進回収効果の評価

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石油技術協会誌 第 83 巻 第 6 号 (平成 30 年 11 月)461 ∼ 472 頁 Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology

Vol. 83, No. 6(Nov., 2018)pp. 461∼472

論   文

Original Article

1. は じ め に

ガスハイドレートは水分子により形成されたかご状構造 中にガス分子が包接された固体結晶であり,ゲスト分子で あるガス分子の違いによりさまざまな種類のハイドレー トが存在する。メタンハイドレート(以下,MH)は,メ タンをゲスト分子とするガスハイドレートの1 つであり, 世界中の永久凍土層や日本近海を始めとする海洋堆積層 中での莫大な量の賦存が試算されている(Sloan, 1990)。 その原始資源量は,炭素換算で石油,天然ガス,石炭以 上と見積もられており(Lee et al., 2001),非在来型天然ガ ス資源としての開発が期待されている。MH は低温・高圧 で安定に存在する物質であり,大陸縁辺部外縁の海洋堆 積層では,水深1,200 m の場合,その温度・圧力条件から 海底面下250 m が MH 存在の最大深度として見積もられ る(Kvenvolden, 1988)。また,我が国において開発の対象 となる東部南海トラフでMH 濃集帯は,水深 1,000 m 程の 海底面下数百メートルの未固結砂泥互層中に存在すること が報告されている(山本,2013)。MH は固体であり流動 性を持たないため,貯留層からのガス生産のためには,原 位置においてMH をガスと水に分解する必要があり,現 在提案されている分解手法は,減圧法,熱刺激法およびイ ンヒビター圧入法の3 つに大別される(Sloan, 1990)。こ のうち,減圧法による分解が最もエネルギー効率が高い と考えられており(栗原ら,2009),2013 年と 2017 年の

酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からの

ガス増進回収効果の評価

*,‡

中野 裕介

**

・中村 謙吾

**

・坂本 靖英

***

・駒井  武

**,†

(Received July 6, 2018;accepted September 25, 2018)

Evaluation of the effect of enhanced gas recovery from a methane hydrate reservoir through the utilization of in-situ heat generation by acid injection

Yusuke Nakano, Kengo Nakamura, Yasuhide Sakamoto and Takeshi Komai

Abstract: In this study, for the purpose of enhanced gas recovery from an methane hydrate (MH) reservoir, we conducted experimental and numerical study for acid injection process as a secondary gas recovery after the depressurization operation. This process is based on the concept of effective utilization of heat generation resulting from mineral dissolution via acid injection for the promotion of in-situ dissociation of MH. For the numerical analysis for the acid injection process, based on the assumption that the charge balance in the injected acidic solution after the contact with the solid matrix becomes neutral due to mineral dissolution into the water phase, we defined two acid components before/after the contact with the solid matrix. In addition, the kinetic parameters and heat of mineral dissolution during the acid injection were obtained through laboratory column tests and DSC analysis, respectively, and introduced into the developed numerical model. Using this numerical model, we conducted a series of numerical analyses for the acid injection process after the depressurization operation. From the calculation results, it was found that a high-temperature zone formed by in-situ heat generation resulting from mineral dissolution extended to the side of the production well to promote MH dissociation. Based on the total amount of methane gas trapped in MH at the initial stage, total gas recovery using depressurization and acid injection was estimated to be approximately 90% and we confirmed that the acid injection process is very effective as a secondary gas recovery targeting the MH reservoir under low-temperature and low-pressure condition after the depressurization operation.

Keywords: Methane hydrate; gas hydrate; acid injection; heating; dissociation; mineral dissolution; inhibitor.

平成 30 年 6 月 14 日,平成 30 年度石油技術協会春季講演会開発生

産部門シンポジウム「貯留層の可能性を探る挑戦∼更なる油ガスの 回収を目指して」で講演 This paper was presented at the 2018 JAPT Development and Production Technology Symposium entitled Challenges to the reservoir potential / Seeking more oil and gas held in Niigata, Japan, June 14, 2018.

** 東北大学大学院環境科学研究科 Graduate School of Environmental

Studies, Tohoku University

*** 国立研究開発法人産業技術総合研究所 Natural Institute of Advanced

Industrial Science and Technology (AIST)

Corresponding author:E-Mail:[email protected]

講演時タイトル「酸化加熱法によるガスハイドレートの増進回収に関

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酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からのガス増進回収効果の評価 462 石油技術協会誌 83 巻 6 号(2018) 2 回にわたり,日本近海の MH 堆積層に対し減圧法による 海洋産出試験が実施され,本手法の適用によるガス生産 の実証が報告されている(JOGMEC, 2013;佐伯,2015; Konno, et al., 2017;METI, 2017;Chen, et al., 2018)。しかし, MH の分解は吸熱反応であり,分解の継続がマトリックス 自体の顕熱に依存するため,減圧法では貯留層の温度低下 に伴う分解の停滞が想定される。ゆえに減圧法によるガス 回収率は30 ∼ 60%と試算されており(栗原ら,2009), さらなる回収率の向上を目的とした増進回収法の検討が必 要とされている。 従来型の熱刺激法の1 つである温水圧入による MH 分 解では,地上での温水生成にエネルギーが必要なのに加え, 圧入時の坑井内での熱損失の影響が大きく,エネルギー産 出比(エネルギー産出量/ エネルギー投入量)が一般的に 1 以下となり,このエネルギー効率の低さが課題とされて いる。その一方で,ガスの回収率は非常に高く,何らかの 手法により貯留層への熱の供給が続く限りMH の分解の 継続が可能であるため(栗原ら,2009),減圧法実施後の 二次回収を目的とした高エネルギー効率を有するガス増進 回収法の開発が重要となる。現在,増進回収法としては, 減圧時の減圧度を高めることで氷を生成させた際の潜熱を 利用する強減圧法(Konno et al., 2012,2014),貯留層に電 圧を印加することで発生するジュール熱を利用する通電加 熱法(Minagawa et al., 2015),貯留層内に二酸化炭素ハイ ドレートを生成させた際の潜熱を利用する二酸化炭素エマ ルジョン圧入法(Zhou et al., 2008;Deusner et al., 2012) などといった手法が考案されている。現状でこれらは, 室内試験や数値解析を通じてのMH 分解挙動の解明や, ガスの生産性やエネルギー効率の評価の段階にあり,実 フィールドへの適用は,減圧法による生産手法が十分に確 立した後の次の課題と言えよう。 このような背景の下,著者らは酸注入による鉱物溶解に 伴う原位置発熱をMH の分解促進のために有効利用する という着想で,減圧法実施後の二次回収法の1 つとしての 酸注入プロセスを新規に考案した(Kaneko et al., 2017)。 貯留層への酸注入は,従来,坑井周りの浸透性改善を目 的とした坑井刺激法の1 つとしての適用が図られているも のの,MH 貯留層からのガスの増進回収を目的とした事例 は報告されていない。本手法の概略と期待される効果を Fig. 1 に示す。本手法では,圧入井より酸溶液を貯留層に 圧入することで,固体マトリックスを形成する鉱物成分を 溶解させ,その際に原位置で生じる発熱によりMH の分 解促進を図ることで,従来の温水圧入法におけるエネル ギー効率の大幅な改善が期待される。加えて水相中に存在 する酸や鉱物成分の存在に起因して,MH の安定条件が低 温・高圧方向にシフトすることが予想され,このインヒビ ター効果によりさらなる分解の促進が可能である。さらに 鉱物溶解に伴う孔隙率の増大による,坑井付近の浸透性の 改善効果も期待される。 本報では,酸注入による原位置発熱を利用したMH 貯 留層からのガス増進回収法の適用可能性の評価を目的とし て,室内試験による鉱物の溶解熱の測定および溶解速度(酸 消費速度)の解析に基づき,減圧法実施後の二次回収とし て酸注入プロセスの適用を想定した数値解析を実施した。 以下,実験および解析結果について記載する。

2. 酸注入プロセスにおける鉱物の溶解

挙動ならびに分解促進効果に関する

実験的検討

2.1 酸注入による鉱物の溶解挙動のモデル化 次章の数値解析における鉱物の溶解現象の取り扱いを単 純化させるために,本研究では,鉱物の溶解反応に伴い酸 溶液中の水素イオンが消費され,溶液中の電荷バランスが 中性になるものと仮定し,溶解反応の前後での2 つの酸成 分を定義することとした。注入酸の化学式をHiA と定義 すると,その水相中の解離は次式により表される。 固体マトリックスを構成する金属酸化物をBjOkと定義す ると,鉱物成分の溶解は次式により表される。 式(2)において,左辺の H+が反応前の酸成分,右辺のAi− が反応後の酸成分に相当する。また,右辺のB+(2k/j)が水 相に溶解した金属イオンに対応し,本研究ではこれを溶解 鉱物成分として定義するとともに,その濃度は元素の種類 に寄らず,各元素の総量として取り扱うことした。以下, 本定義に基づき酸注入による鉱物の溶解挙動のモデル化に ついて記載する。 2.1.1 示差走査熱量計を用いた酸注入に伴う鉱物の 溶解熱測定 ま ず, 示 差 走 査 熱 量 計(DSC: Differential Scanning Calorimetry)を用いた鉱物の溶解熱の測定を実施し,酸 注入に伴う発熱の有無を確認することで,本手法の成立の 可否を検証した。 本研究で使用したDSC 装置の概略および耐圧容器内部 の写真をFig. 2 に示す。本装置は MH の分解熱測定を目的 Fig. 1 Conceptional illustration of the acid injection

process as a secondary gas recovery from an MH reservoir HiA → iHAi− + (1) + + ) ( → jB+(2k/j) BjOk kH2O (2) +2kH

2k/i Ai−2k/i)Ai−

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として導入が図られたものであり,MH の安定条件を満た す低温・高圧下での測定を可能とするように,DSC 本体 検出部が耐圧容器内部に設置された構造となっている。容 器内部の圧力は,2 台の圧力コントローラーを用いた雰囲 気ガスの注入・放出制御により,一定の圧力に保持される。 また,温度制御は冷却用の液体窒素とヒーターを併用する ことで約−160 ∼ 450℃の範囲での定速昇・降温や等温保 持が可能である(大竹ら,2004)。 鉱物の溶解熱の測定では,まず,内容積1.00×10−1 cm3 のセル内に1.00×10−1 kmol/m3の塩酸3.00×10−2 cm3を充 填し,液体窒素雰囲気下で凍結させる。その後,鉱物のモ デル物質として,固液比が1:1 となるように 30 mg の豊 浦砂をセル内に充填し,凍結状態を保持したままでDSC の装置内にセットした。この前処理により,分析前の酸溶 液と鉱物試料との混合による溶解反応の進行の抑制が可 能である。初期温度および昇温速度はそれぞれ,−40℃, 5.00℃ /min に設定し,試料温度が氷点に対応した 0 ℃付 近に達すると,試料と酸溶液との混合が生じ,氷の融解に 伴う吸熱反応を伴いながら,鉱物溶解に伴う発熱反応が進 行する。また,同様の固液比での純水と豊浦砂の測定に より,鉱物の共存下での氷の融解熱を取得し,得られた DSC曲線のピーク面積の差から鉱物の溶解熱を算出した。 Fig. 3 に酸注入の有無による得られた DSC 曲線の比較 を示す。DSC の測定では上に凸のピークエリアが吸熱反 応時の熱量に対応する。酸の存在下では,凝固点降下によ り吸熱ピークの立ち上がりが低温側にシフトしており,鉱 物の溶解に伴う発熱に起因してピーク面積が小さくなって いる。2 つのピーク面積の差として得られた熱量値 8.49× 10−1 J を注入酸中の水素イオンのモル数 3.00×10−9 kmol で除することで,水素イオン単位モル (1 kmol) 当たりの 消費に伴う発熱量Hacidとして2.83×108 J/kmol が得られ, 鉱物の溶解に伴う発熱効果が確認された。例えば,貯留層 単位体積(=1 m3)中の孔隙空間0.4 m3が全て濃度1.00 ×10−1 kmol/m3の酸で満たされた条件下での鉱物の溶解 反応の進行を仮定する。その場合,マトリックスと水の比 熱をそれぞれ2.65×106 J/m34.22×106 J/m3として算出さ れる全比熱3.28×106 J/m3と発熱量1.13×107 J より,3.45 ℃程度の温度上昇が試算される。 2.1.2 カラム試験による注入酸の消費量と溶解鉱物 量の関係の定量的評価 また,酸溶液の圧入に伴う鉱物溶解量の定量的評価のた め,DSC 分析と同様に注入酸および鉱物のモデル物質と して塩酸と豊浦砂を用いたカラム注水試験を行った。本 実験では内径2.5 cm,長さ 10 cm のアクリル製円筒容器 内に孔隙率が40%程度となるように豊浦砂を充填したも のをカラムとして用いた。塩酸溶液の注水は1.00 cm3/min の流量で固液比1:10 となるまで 960 分間継続し,その時 の注入濃度は1.00×10−35.00×10−31.00×10−25.00× 10−21.00×10−15.00×10−1お よ び1.00×10−1 kmol/m3 の7 段階に変化させた。カラムからの排出液は 48 分毎に 計20 回採取し,豊浦砂の主構成金属元素である Si,Al, Fe,Ca および Mg について ICP–AES による濃度分析を行っ た。 通水終了時の溶解に伴う鉱物の総排出量と酸中の水素イ オンの消費量の関係をFig. 4 に示す。本試験は pH が 3 以 下の酸性条件で実施したため,鉱物の溶解は以下の単純な 化学式に従うものと仮定し,通水終了後の各金属元素の総 量の定量結果と,各イオンの価数より,水素イオンの消費 量を算出した。

Fig. 2 Schematic illustration of differential scanning calorimeter (DSC) for evaluation of heat of mineral dissolution and photograph of high pressure cell of DSC apparatus

Fig. 3 Relation between temperature and specific heat depending on the presence/absence of the injected acid obtained via DSC analysis

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酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からのガス増進回収効果の評価 464 石油技術協会誌 83 巻 6 号(2018) Fig. 4 より,鉱物の排出量と酸中の水素イオンの消費量と が一次線形の関係を満たすことが確認され,その直線の傾 きより,酸の消費に伴う鉱物の溶解反応の化学量論係数 Nmineとして4.96×10−1を得た。また,カラム出口におけ る水素イオン濃度とカラム内の滞留時間より,酸の消費に 関する速度定数Kacid[1/sec],反応次数はそれぞれ 1.30× 10−32.40×10−1と算出され,次式により表される酸の消

費速度Racid[kmol/(m3sec)]を得た。

なお,数値解析モデルのエネルギー収支式および溶解鉱 物成分の質量収支式(後述の式(11)および(12))に対して, DSC 分析により得られた鉱物の溶解に伴う発熱量 Hacidお よび溶解反応の化学量論係数Nmineは,それぞれをRacid に 乗ずることで定式化が図られる。 2.2 酸注入による分解促進効果の検証のためのプロパン ハイドレートの室内分解試験 さらに本研究では,酸溶液の圧入による多孔質体におけ るプロパンハイドレート(以下,PH)の分解試験を実施 した。酸注入を伴う実験の実施に当たり,通常の高圧仕様 のステンレス製容器では,酸による容器や配管の腐食が懸 念されるため,容器などには樹脂系の材質を選択せざるを 得ない。その耐圧は1 MPa 程度が一般的であることから, 1 MPa 以下の比較的低圧力下でハイドレートの生成条件を 満たすプロパンをメタンの代わりに使用するに至った。 MH は I 型,PH は II 型の結晶構造を有し,その平衡条件 やハイドレート中に包蔵するガス量も大きく異なるため, 実験結果の直接的かつ定量的な比較は難しいが,酸注入に 伴う多孔質体中での分解やガス産出挙動といった一連の現 象は共通している。ゆえに数値解析に先立ち,分解時の温 度変化やガス産出挙動の注入酸濃度依存性の検討を通じ, 一連の現象の把握と,酸注入によるハイドレートの分解促 進効果の検証を進めた。 2.2.1 実験装置 酸溶液の圧入による室内PH 分解試験のために開発した 実験装置の概略をFig. 5 に示す。実験装置は大別すると, 模擬砂層部,流体圧入部,流体産出部,および計測部の4 つの部分から構成される。模擬砂層部は耐酸性・耐食性の アクリル製の二重管型容器となっており,内径5.00 cm, 有効長さ19.2 cm の内管内に砂を充填する。PH の生成時は, 内管と外管との間の空間に冷媒を循環させることで砂層部 を冷却するとともに所定の生成温度(1 ℃)に保持した。 また,分解試験中は冷媒を排出し,アスピレータを用いて 減圧することで真空断熱を施した。砂層中心部には上部よ り熱電対が約4.00 cm 間隔で 4 本挿入されており,これに より試験時の温度変化の測定がなされる。酸溶液もしくは 純水の圧入にはプランジャーポンプを用い,これらはイン キュベータで予冷却の後,冷媒循環による冷却処理の施さ れた配管を通じて砂層上部から圧入される。一方,プロパ ンガスはボンベより供給され,その圧入にはマスフロー コントローラによる流量制御を行った。砂層内部の圧力は, 産出部に設けられた背圧弁により所定の値に制御される。 産出した流体は気液分離器により液相と気相に分離され, 気液分離器上で液相を秤量するとともに,気相流量は積算 流量計により測定した。また,砂層の両端には圧力計およ び差圧計が接続されており,生成時ならびに分解時の砂層 内の圧力の測定を行った。 2.2.2 試験方法 まず,アクリル製内管内に孔隙容積に対応した量の蒸留 水を計量して入れた後,砂が均一に充填されるようバイ ブレータを用いて振動を与えながら豊浦砂(平均粒径0.21 SiO2 + 2H2O → H4SiO4 A2lO3 + 6H + → 2Al3+ 3H2O Fe2O3 + 6H + → 2Fe3+ 3H2O CaO + 2H+ → Ca2+ H 2O MgO + 2H+ → Mg2+ (3) + (4) + (5) + (6) +H2O (7)

Fig. 4 Relation between the amount of mineral dissolution in the discharged water and the amount of acid consumption

RacidKacidxacid, bφρWSWNacid (8)

Fig. 5 Schematic illustration of the experimental apparatus for dissociation of propane hydrate in porous media

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mm)を充填し,模擬砂層を作成する。充填完了後,50.0 Scm3/min の圧入速度でプロパンガスの圧入を開始する。 圧入は砂層内の水飽和分布を均一にするために水が完全に 流出しなくなるまで継続した。本実験では砂層の孔隙内に 残留・保持された水(不動水)に対して高圧のプロパンガ スを導入・反応させることでPH を生成させる。PH の作 成はバッチ系にて行い,生成時の初期圧力は0.45 MPa と し,温度は氷の生成を防ぐために1.0 ℃とした。PH の生成・ 成長に伴い砂層内部の圧力が低下するため,数段階にわ たってプロパンガスによる再加圧を実施した。PH の成長 が完了した後,砂層内の温度を4.0℃まで昇温させ,真空 断熱を施した上で酸溶液もしくは純水の圧入を開始した。 試験条件をTable 1 に示す。使用した酸は塩酸であり,圧 入レートは5.00 cm3/min,圧入温度は約 8℃とし,その濃 度を5.00×10−1および1.00 kmol/ の 2 段階に変化させる とともに,分解やガス産出挙動の比較のために純水圧入の 試験も実施した。 2.2.3 実験結果と考察 Fig. 6 に各条件に関して得られた砂層の最下流の位置 (160 cm)における温度変化の比較を示す。酸溶液の圧入 に伴い砂層上部からPH の分解が始まるため,最下流の位 置において平衡温度からの温度上昇が確認された時間を PH の分解実験終了点と見なすことができる。純水を用い た場合,圧入の開始とともに温度の上昇が観察された。こ れは上流側ではすでにPH の分解が開始され,温度が平衡 条件に達していることで,初期条件(4.0℃)より温度の 高い水が流入するのに加え,分解生成ガスの流入によりこ の位置でのPH の成長に伴う発熱が生じたためと考えられ る。また,6.6℃に到達したところで PH の分解が開始さ れ,分解中は平衡条件で保持されるため,砂層内の温度は 一定に保持される。この場合,圧入開始から150 min 経過 後に,平衡温度から圧入温度までの温度上昇が開始され, この時間がPH の分解実験終了点に相当する。一方,酸溶 液を用いた場合では6.6℃よりも低い温度での分解の開始 が確認された。初期段階では上流側での分解生成ガスの流 入により,純水と同様の温度上昇の傾向を示したのに対 し,圧入酸溶液のフロントが到達した時点で顕著な温度低 下が観察された。これは水相中に含まれる酸および溶解鉱 物成分に起因したインヒビター効果により,平衡条件が 低温側にシフトしたためと解釈される。平衡温度は,5.00 ×10−1 kmol/m35.0℃,1.00 kmol/m33.2℃であり,注入 酸濃度が高くなるにつれて,インヒビター効果が大とな るため,温度の低下が顕著となる結果が得られた。Fig. 6 に示す温度変化と圧力の関係と,純水に対するPH の平衡 曲線とを比較したものがFig. 7 である。注入濃度が 5.00× 10−1 kmol/m3の条件では,酸溶液の圧入や下流域でのPH の成長・再生成に起因した浸透性の低下による圧力上昇を 伴うため,平衡曲線よりも安定側での分解の進行が認めら れた。これに対し,1.00 kmol/m3の場合の分解挙動は,平 衡曲線に対して低温・高圧側で推移しており,酸および溶 解鉱物成分に起因したPH の分解の促進効果が確認される とともに,PH の成長・再生成の抑制による浸透性改善効 果が示唆された。さらに,本実験では圧入酸溶液の滞留時 間が30 min 前後と短いため,酸の消費が十分に生じてい ない。そのため,鉱物溶解に伴う発熱効果が顕著に発現し ない条件ではあるが,分解終了後の温度は,純水の場合よ りも0.1∼0.5℃程度高く保持されており,わずかではある が発熱効果が認められる結果となった。 また,PH の分解に伴い,平衡温度に保持される時間が 酸濃度の上昇に対して短くなる結果が得られている。最下 Table 1 Experimental conditions for dissociation of

propane hydrate in porous media

The type of injected fluid Water HCl HCl Acid concentration, kmol/m3 0.500 1.00

Initial hydrate saturation,[–] 0.173 0.152 0.180 Average liquid discharging rate, cm3/min 5.63 5.89 6.12

Time for dissociation, min 150 110 85 Average gas discharging rate, cm3/min 14.3 17.6 26.9

Fig. 7 Changes of equilibrium condition of PH due to the existence of injected acid and dissolved mineral components

Fig. 6 Comparison of temperature change with time at 16 cm from the top edge of column during dissociation of propane hydrate in the case of different injected acid concentration

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酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からのガス増進回収効果の評価 466

石油技術協会誌 83 巻 6 号(2018)

流の位置での分解の終了は,純水の150 min に対し,5.00 ×10−1 kmol/:110 min,1.00 kmol/:85 min で あ っ た。 こ

れは,酸濃度の上昇に伴い平衡温度が低下するため,圧入 水温度(8.0℃)と平衡温度との差に対応したマトリック ス自体が保持する顕熱が分解促進に寄与しているためであ る。Fig. 8 に酸の濃度と平均ガス産出速度の関係を示す。 Fig. 6 に示した分解挙動を反映して,産出速度は純水の場 合 の14.3 Scm3/min に対し,5.00×10−1 kmol/:17.6 Scm3/

min,1.00 kmol/m326.9 Scm3/min のように,酸濃度の上

昇とともに産出速度も増大する挙動が示された。また,1.00 kmol/m3の条件では純水の1.9 倍にも達している。以上の 結果より,酸注入によるハイドレートの分解促進および産 出速度の増大の結果が得られ,室内実験からも本手法の有 効性が確認された。

3. 数値解析による減圧法適用後の二次回収

プロセスとしての酸注入プロセスの評価

本章では,前章の室内実験により得られた,酸注入に伴 う鉱物の溶解熱および鉱物溶解量と酸消費量の関係に基 づき,著者らがこれまでに開発した多孔質体におけるMH 分解に関する数値解析モデルの拡張を図ることで,数値解 析による酸注入プロセスのガス増進回収効果を評価した。 数値解析モデルの詳細は著者らの別報(Sakamoto et al., 2007a,2007b)を参照されたい。 3.1 数値解析モデルにおける鉱物の溶解の取り扱い 先に述べたように,数値解析モデルにおける酸注入に伴 う鉱物溶解の取り扱いでは,鉱物と接触した酸は,鉱物の 溶解に伴い電荷的に中性となる。このため,溶解により酸 中の水素イオンが消費されるという考え方に基づき,接触 の前後での2 成分を定義した。これらの酸成分は移流・拡 散により層内を移動し,その質量収支式はそれぞれ次式に より表される。 反応前酸成分; 反応後酸成分; 酸成分と同様に,溶解鉱物成分も移流・拡散により層内を 移動する。酸注入に伴う溶解は,酸の消費速度Racidに化 学量論係数Nmineは乗ずることで考慮され,次式のように 質量収支式に導入される。 また,エネルギーは対流と伝導により移動する。酸注入 に伴う鉱物溶解による発熱は,Racidに発熱量Hacidは乗ず ることで,次式のようにエネルギー収支式への導入が図ら れる。 これらの数値解析モデルの解法には,有限差分による 離 散 化 とIMPES 法(Implicit Pressure Explicit Saturation Method)を用いた。 3.2 貯留層モデルと解析条件 Fig. 9(a)に貯留層モデルおよび解析領域を示す。酸注入 プロセスでは従来の温水圧入法と同様に,圧入井より酸溶 液を圧入し,分解生成ガスは生産井より回収されるため, 本解析では5 点法による圧入 ・ 産出を想定し,その 1/4 部分をモデル化した。また,日本近海の海洋MH 堆積層は, MH を含む砂層と泥層とが垂直方向に積層した砂泥互層構 造(藤井ら,2009;松澤ら,2009;長久保 , 2009;Fujii et al., 2015)を有し,低浸透性の泥層が流体の垂直方向の流

Fig. 8 Comparison of the average gas production rate during in the case of different injected acid concentration (∇Pw−ρwg∇D) + [ (xacid, bφρwSw)] + =( ) + ∇ Kkrwρw μw xacid, b ∇ (9) ∇ Dacid (−Racidxacid, bφρwSw ∂ ∂txacid, b, iρwiqwixacid, b, pρwpqwp) ・ ・ ・ ・ (∇Pw−ρwg∇D) + [ (xacid, bφρwSw)] + =( ) + ∇ Kkrwρw μw xacid, b ∇ (9) ∇ Dacid (−Racidxacid, bφρwSw ∂ ∂txacid, b, iρwiqwixacid, b, pρwpqwp) ・ ・ ・ ・ (∇Pw−ρwg∇D) + + [ (xacid, aφρwSw)] =( ) (10) +

Kkrwρw μw xacid, a ∇ ∇ 1 i Dacid Racid xacid, aφρwSw ∂ ∂t (−xacid, a, pρwpqwp) + ・ ・ ・ ・ ・ (∇Pw−ρwg∇D) + [ (xmineφρwSw)] =( ) (11) + ∇ Kkrwρw μw xmine

Dmine ∇ (NmineRaicd

xmineφρwSw ∂ ∂t (−xmine, pρwpqwp) + ・ ・ ・ ・ (∇Pg−ρgg∇D) (λc (∇Pw−ρwg∇D) (−HdRd)(HdRg)(HacidRacid)(qeiqep) =

+ + +(1−φ)

(12) + + + + + + ∇ Kkrghgρg μg ∇ ∇ KkrwhwρwT) μg ∂φρgSgUg φρhShUh φρwSwUwUrt ・ ・ ・ ・ ・ ・

(7)

体の移動を妨げるため,流動現象は水平方向の二次元流動 が支配的であるものと考えられる。さらに減圧法における 一次回収を想定した場合,砂層の上下に位置する泥層から の熱伝導がMH 分解の継続に対し支配的な因子となる。 そこで本解析では,Fig. 9(b)に示すように,鉛直方向は砂 泥互層構造の1 ユニットを対象とし,流体の流動に伴う物 質移動は,浸透性が比較的高い砂層の計算においてのみ考 慮することとした。一方,エネルギーの移動は,砂層につ いては対流と伝導に依存するのに対し,上下の泥層では泥 層内と砂層−泥層間の熱伝導のみが考慮される。貯留層の スケールはx,y 方向ともに等しく 50 m に設定し,層厚は 砂層を2 m,上下泥層は 1 m に設定した。圧入井と生産井 は解析領域の左下端(x = 0 m,y= 0 m),右上端(x = 50 m, y = 50 m)にそれぞれ配置した。水平方向のブロック長さ は1.67 m であり,全ブロック数を 900 個(=30×30)と して解析を実施した。 MH 貯留層の初期条件および各パラメータを Table 2 に 示す。本解析では,水深1,000 m の海底面下 300 m に位置 するMH 貯留層を対象とし,初期圧力と温度は,水頭圧, また海底面温度(4 ℃)と地温勾配(3 ℃ /100 m)に基づ き13 MPa,13℃とした。解析条件を Table 3 に示す。本解 析では,減圧法適用による一次回収後の二次回収を想定し, 坑底圧を3 MPa とした減圧開始から 1 年後に酸溶液の圧 入を開始するものとして計10 年分の計算を実施した。予 備的解析を通じ十分に鉱物溶解に伴う発熱が得られる条件 として,酸溶液の圧入レート,濃度および温度をそれぞれ 2.00 m3/day,5.00×10−1 kmol/m313℃に設定した条件を Case-1 とした。また,酸注入が増進回収に及ぼす寄与を評 価するために,Case-2 では酸濃度をゼロとした 13℃の真 水を圧入した場合を想定した。Case-3 では減圧法を適用す ることなく,一次回収としてCase-1 と同じ圧入条件で酸 溶液の圧入を実施した場合についての解析を実施し,分解 挙動および分解生成ガスの産出挙動を比較した。 3.3 解析結果と考察 3.3.1 酸注入時の貯留層内 MH 分解挙動 Fig. 10 に Case-1 で得られた 1,2,3,4 および 5 年後の 温度,MH 飽和率,圧力分布および溶解反応の前後での酸 濃度の分布を示す。図より,酸注入に伴う鉱物溶解よる発 熱に起因して形成した高温域が時間とともに生産井方向に 拡大している。そのピーク温度は46.5℃に達しており,鉱 物の溶解に起因した原位置発熱により,従来の温水圧入法 で想定される程度の十分な温度上昇が得られることが確認 された。反応前酸濃度は坑井近傍においてゼロとなってお り,これにより鉱物の溶解反応は圧入井近傍の極めて狭い 区域で生じていることが分かった。また,反応後の酸成分 は水の流動に伴い,時間とともに下流方向に拡散していく ため,前章のPH の室内分解試験で見られたようなインヒ ビター効果による下流域での分解促進への寄与が期待され る。高温域が到達した区域では,MH の分解が促進される ため,MH 飽和率がゼロの既分解域が時間とともに拡大し ている。これに対応して,初期段階ではMH 飽和率が高

Fig. 9 Reservoir model and analytical mesh zone for numerical simulation of acid injection process ((a) Injection and production by five-spot well pattern, (b) Analytical mesh zone and boundary condition targeting one unit of the alternating strata consisting sand- and mud layers)

Table 2 Initial condition and physical parameters of the MH reservoir

Parameters Values

Initial pressure, MPa 13.0 Initial temperature, ℃ 13.0 Absolute permeability without MH formation,μm2 1.00

Porosity,[–] 0.40

Average sand grain diameter, m 2.00 × 10−4

Initial MH saturation,[–] 0.40 Initial water saturation,[–] 0.60 Injection rate of water, m3/day 2.00

Temperature of injected water, ℃ 13.0

Table 3 Calculation conditions targeting the acid injection process as a secondary gas recovery after the depressurization operation

Case No. 1 2 3

Period of depressurization operation, years 1.00 1.00 1.00 Bottom hole pressure, MPa 3.00 3.00 3.00 Water injection rate, m3/day 2.00 2.00 2.00

Temperature of injected water, ℃ 13.0 13.0 13.0 Acid concentration in injected water, kmol/m3 0.50 0.50

(8)

酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からのガス増進回収効果の評価 468 石油技術協会誌 83 巻 6 号(2018) く,酸注入に高い圧力勾配を要するのに対し,分解の進行 に伴い貯留層の浸透性が回復するため,圧力も貯留層全体 わたって時間とともに低下していく。なお,既分解域の最 下流側の温度が平衡温度を示す位置が分解フロントとして 定義されるが,その下流側のMH が残存した未分解域では, 温度が低温に保持されているため,分解生成ガスの流入に よるMH の成長・再生成が生じる。結果として,貯留層 中央部に低浸透性区域が形成されるため,分解フロントが

Fig. 10 Distributions of temperature, MH saturation, pressure and acid concentrations before/after mineral dissolution after 1, 2, 3, 4 and 5 years obtained for case-1.

(9)

貯留層の中央を回り込むように進行する挙動が示唆された。 Fig. 11 に 13℃の真水を圧入した Case-2,また減圧を伴 わない一次回収としての酸注入プロセスに相当するCase-3 に関して得られた4 年後の温度および MH 飽和率分布を 示し,分解挙動に関してCase-1 と比較した。Case-2 では MH の分解に対して十分な熱が供給されず,4 年経過した 時点においても既分解域が圧入井近傍に留まっている。ま た,Case-3 では,MH 飽和率が高いために,その分解によ り多くの熱を要することや,坑底圧が高く平衡温度が高く 保持されていることに起因して,Case-1 と比較して分解フ ロントの進行速度が遅くなっている。ゆえに,貯留層内の MH の分解促進の観点からは,一次回収として減圧法が適 用された後の温度・圧力が低下した貯留層に対する熱供給 が有効であると言える。 3.3.2 酸注入時のガスの産出挙動を増進回収効果 Fig. 12 に累計ガス産出量の経時変化を示す。減圧法に よる一次回収での産出量は5.09×104 Sm3であり,初期 MH 飽和率を 0.4 とした場合の MH 中の全ガス量 1.38× 105 Sm3より,一次回収率は37.0%であった。Case-1 では, 酸溶液の圧入開始直後に産出量に増加が見られるが,これ は減圧後に孔隙内に残存したフリーガスの圧入水による置 換に起因したものである。いったん,産出速度が減退し産 出量が一定となるものの,2 年後から酸注入による分解生 成ガスの産出過程に移行し,再度産出量が増加に転じてい る。ガスの産出は7 年後まで継続し,その時の全産出量は Fig. 11 Comparison of MH dissociation behavior for with/without acid injection and application of a primary recovery of

acid injection process ((a) Case-1: acid injection as a secondary recovery, (b) Case-2: pure water injection and (c) Case-3: acid injection as a primary recovery)

Fig. 12 Production behavior during the acid injection process as a secondary gas recovery after the depressurization operation

(10)

酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からのガス増進回収効果の評価 470 石油技術協会誌 83 巻 6 号(2018) 1.24×105 Sm3であり,減圧法と酸注入との組み合わせに より,全回収率が90%程度まで増加することが分かった。 また,全産出量から減圧法における産出量を減じた7.31× 104 Sm3が二次回収としての産出量(増進回収量)に相当 する。 また図中には,貯留層の初期温度と等しい13℃の真水 を圧入したCase-2 の結果を重ねて示した。減圧後に貯留 層の温度は総じて3 MPa の圧力に対応した MH の平衡温 度である1.5℃程度にまで低下しており,13℃の真水を圧 入した場合でも,11.5℃の温度差が生じることから,MH の分解がある程度進行する。Case-2 での 7 年後の全産出量 は9.83×104 Sm3であり,Case-1 での産出量の差として得 られる2.57×104 Sm3が酸注入に起因した産出量の増分と して見なすことができる。この値を先の増進回収量(=7.31 ×104 Sm3)で除した値は,増進回収に及ぼす酸注入の寄 与率として定義され,Case-1 の圧入条件での酸注入の寄与 率は35.3%と見積もられる。 一方,Case-3 の減圧を伴わない一次回収として酸注入プ ロセスを適用した場合,ガスの産出開始が4.1 年後と遅れ る上に,孔隙内の圧力が高く保持されるために,分解生成 ガスの多くが孔隙内に残留することとなる。7 年後の回収 量は3.24×104 Sm3であり,回収率としては23.5%極めて 効率が悪いことが判明した。ゆえに,Case-1 での全回収率 が90%程度に達していることを考慮すると,この結果は 酸注入プロセスが減圧法後の低温・低圧の貯留層条件に対 する二次回収プロセスとして極めて有効であることを示唆 している。 なお,Case-1 は,減圧法適用後の 9 年間にわたり酸溶液 の圧入を継続する条件での結果であるが,分解生成ガスの 産出がおおむね7 年で終了しており,少なくとも 7 年以降 (圧入期間は6 年間)は酸注入の継続の必要はない上に, 既分解域は高温に保持された状態にある。酸注入の効率化 と発生した熱の有効利用の観点からは,酸の注入量は少な いほど好ましく,分解終了に至るまで酸注入を継続するこ となく,ある時間を境に真水の圧入に切り替え,形成した 高温域を下流に押し進めることで,MH の分解を継続させ るとともに,先に定義した増進回収に及ぼす酸注入の寄与 率を高める方向での圧入条件の最適化や,層厚などの貯留 層条件の変化が増進回収に及ぼす影響について評価するこ とが今後の課題と言えよう。さらには,酸注入による坑井 や地下環境への影響も考えられるため,原位置での中和化 や濃度の低減,他の触媒との併用の検討も重要である。

4. お わ り に

本研究では,減圧法実施後の二次回収として酸注入プロ セスを対象とした実験および解析的検討を実施した。実験 では,酸注入による鉱物の溶解熱やその動力学的パラメー タを取得するとともに,ハイドレートの分解促進効果を検 証した。また,実験により取得されたパラメータに基づく 数値解析では,酸注入プロセスにおけるMH の分解およ びガス産出挙動を明らかにするとともに,増進回収法とし ての評価を行った。得られた結論をまとめると以下のとお りである。 ・ 減圧法実施後の二次回収として酸注入プロセスを対象と した数値解析モデルを構築した。モデルは,従来の多孔 質体におけるMH 分解モデルを拡張して,鉱物と接触 した酸は,鉱物の溶解に伴い電荷的に中性となるという 仮定の下に,溶解により酸中の水素イオンが消費される という考え方に基づき,接触の前後での2 成分を定義し た。 ・ 数値解析モデルにおける酸注入による鉱物の溶解の取り 扱いに従い,DSC による鉱物溶解熱の測定を実施した 結果,注入酸中の水素イオン単位モル当たりの消費に伴 う発熱量Hacidとして2.83×108 J/kmol が得られ,鉱物の 溶解に伴う発熱効果が確認された。また,酸注入による カラム試験を行い,鉱物の溶解量と酸中の水素イオンの 消費量の関係の定量的評価に基づき,鉱物溶解の化学量 論係数Nmineとして4.96×10−1を得た。 ・ 酸注入による室内プロパンハイドレート(PH)の室内 分解試験を実施し,PH の分解促進効果を実験的に検証 した。実験結果より,注入酸濃度が高くなるにつれ,水 相中の酸成分に起因したインヒビター効果が顕著に発現 し,PH の分解が促進されることが明らかとなった。平 均ガス産出速度は純水を用いた場合と比較して最大で 1.9 倍となり,室内実験からも本手法の有効性が確認さ れた。 ・ 構築した数値解析モデルを用い,減圧法実施後の二次回 収として酸注入プロセスを対象とした解析的検討を実施 した。酸注入に伴う鉱物溶解よる発熱に起因して形成し た高温域が時間とともに生産井方向に拡大しMH の分 解を促進させる結果が得られ,減圧法と酸注入との組み 合わせにより,全回収率が90%程度まで増加すること が分かった。また,一次回収として酸注入プロセスを適 用した場合との比較から,本プロセスが減圧法後の低温・ 低圧の貯留層条件に対する二次回収プロセスとして極め て有効であることが示唆された。 謝 辞 本研究は,経済産業省「国内石油天然ガスに係る地質調 査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイド レートの研究開発)・生産手法開発に関する研究開発」の 一部として実施された。記して謝意を表する。

記号一覧

D: 基準高さ,m Dacid: 酸成分の水相中の分散係数,m2/sec Dmine: 溶解鉱物成分の水相中の分散係数,m2/ sec g: 重力加速度,m/sec2 Hacid: 注入酸単位モルの消費に対応した鉱物の 溶解熱,J/kmol hg: ガス相のエンタルピー,J/kmol

(11)

hw: 水相のエンタルピー,J/kmol i: 酸の水相中での解離の化学量論係数,無 次元 K: 貯留層の絶対浸透率,m2 Kacid: 酸の消費に関する速度定数,1/sec krg: ガス相の相対浸透率,無次元 krw: 水相の相対浸透率,無次元 Nacid: 酸の消費に関する反応次数,無次元 Nmine: 鉱物の溶解に関する化学量論係数,無次元 Pg: ガス相の圧力,Pa Pw: 水相の圧力,Pa qei: エネルギーの圧力レート,J/(m3×sec) qep: エネルギーの産出レート,J/(m3×sec) qwi: 水の圧入レート,m3/sec qwp: 水の産出レート,m3/sec Racid: 鉱物の溶解に伴う酸の消費速度, kmol/ (m3×sec) Rd: MH の全分解速度,kmol/(m3×sec) Rg: MH の成長速度,kmol/(m3×sec) Sg: ガス飽和率,無次元 Sh: MH 飽和率,無次元 Sw: 水飽和率,無次元 T: 温度,K t: 時間,sec Ug: ガス相の内部エネルギー,J/kmol Uh: MH 相の内部エネルギー,J/kmol Ur: 岩石の内部エネルギー,J/m3 Uw: 水相の内部エネルギー,J/kmol xacid, a: 溶解反応後の酸成分濃度,無次元 xacid, a, p: 産出水中の溶解反応後の酸成分濃度, 無次元 xacid, b : 溶解反応前の酸成分濃度,無次元 xacid, b, i: 溶解反応前の酸成分の注入濃度,無次元 xacid, b, p: 産出水中の溶解反応前の酸成分濃度, 無次元 xmine: 水相中の溶解鉱物成分濃度,無次元 xmine, p: 産出水中の溶解鉱物成分濃度,無次元 μg: ガス相の粘度,Pa × sec μw: 水相の粘度,Pa × sec  λc: 貯留層の見かけの熱伝導率,J/(K × sec) ρg: ガス相のモル比重量,kmol/m3 ρh: MH 相のモル比重量,kmol/m3 ρw: 水相のモル比重量,kmol/m3 ρwi: 圧入水のモル比重量,kmol/m3 ρwp: 産出水のモル比重量,kmol/m3 φ: 孔隙率,無次元 引 用 文 献

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(12)

酸注入による原位置発熱を利用したメタンハイドレート貯留層からのガス増進回収効果の評価 472

石油技術協会誌 83 巻 6 号(2018)

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Fig. 1  Conceptional illustration of the acid injection  process as a secondary gas recovery from an  MH reservoir H i A → iH + + A i− (1) + +)(→  jB + (2k/j)B j O k kH 2 O ( 2 )
Fig. 2  Schematic illustration of differential scanning  calorimeter  ( DSC )  for evaluation of heat of  mineral dissolution and photograph of high  pressure cell of DSC apparatus
Fig. 4  Relation between the amount of mineral  dissolution in the discharged water and the  amount of acid consumption
Fig. 7  Changes of equilibrium condition of PH due  to the existence of injected acid and dissolved  mineral components
+5

参照

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