• 検索結果がありません。

小学校体育授業の指導観の変容に関する事例研究 養成段階の学生を対象とした教科の指導法に関する講義に着目して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小学校体育授業の指導観の変容に関する事例研究 養成段階の学生を対象とした教科の指導法に関する講義に着目して"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

小学校体育授業の指導観の変容に関する事例研究

― 養成段階の学生を対象とした教科の指導法に関する講義に着目して ― 琉球大学 江 藤 真生子  本研究の目的は,各教科の指導法に関する科目「体育科教育研究」を受講した小学校教師を 志望する学生の体育授業の指導観がどのような様態であり,どのように変容するかについて検 討することであった。データは,講義前後の指導観に関する記述と模擬授業の省察シート(個人) により収集し分析を行った。その結果,以下の3点が明らかとなった。①講義の受講前後にお ける小学校教師志望学生が保持する体育授業指導観は,【授業の実践】,【児童に身につけてほし いこと】,【児童の学習】に分類された。②講義前後の指導観のカテゴリ数に変容がみられた。 具体的には,[安全管理]の指導観は記述数が減少した。一方で,[教授]の指導観については, 記述数が増加した。③指導観の理由等には,講義において学んだ内容や模擬授業の経験,これ までの経験,講義担当者の指導が記述された。本講義における学びが,体育授業の指導観の変 容に影響したと考えられる。 キーワード:養成段階の学生,体育授業,指導観 1.はじめに 1.1.問題の所在と研究の目的  近年の教師教育改革において,従来一般的で あった教員養成(teacher training)という観点に 代わり,養成・採用・研修の連続性を意識した教 師教育(teacher education)という観点が強調さ れるようになってきた(山崎,2002)。養成段階 においては,採用当初から教科指導,生徒指導, 学級経営等の職務を著しく支障が生じることなく 実践できる資質能力を育成することが求められて いる(文部科学省,1997)。さらに,養成段階に おいては,このような最小限の資質能力を保障す るために教職実践演習が必修化された(文部科学 省,2006)。これらの一連の教師教育改革により, 養成段階における力量の形成がより重要となると とらえられる。  また,今日の学校現場においては,子どもの体 力・運動能力低下や運動の二極化に対応した指導 の在り方など,体育授業の専門性が問われ,教科 指導の基盤となる専門性をどう保障するかは,重 要な課題の1つとされている(日野,2010)。中 でも,小学校教師においては,一般に学級担任制 をとるため,1名の教員が全教科を教える状況に ある中において,体育授業の実施について様々な 問題が報告されている。問題について白旗(2013) の調査によると,他教科と比較して難しいところ に関する質問について「教え方・伝え方」(指導 方法)と回答したものが男女ともにほかの項目と 比較して高い割合を示し,指導方法に困難をきた している現状にあることが明らかとなった。また, 体育授業の学習内容となる運動学習を指導するこ とを困難に思っていることが加登本ほか(2012) により明らかにされた。このような現職段階の体 育授業の力量に関する課題に対して,現職教育に つながる養成段階からの力量形成がより一層重要 となると考えられる。したがって,養成段階にお いて,学生が体育授業の力量をどのように形成し ているのか,また,何がその形成に影響を与える 要因となっているのかなどを解明する必要がある。  養成段階の教師教育が重視される背景には,「実 践的な経験を基礎としない養成教育の問題」(佐 藤,1997)や,「指導方法が講義中心で,演習や 実験,実習等が十分でない」(文部科学省,2006) ことなどの課題が指摘されていることにある。こ れに対して,小学校体育授業に関する科目におい ては,模擬授業が実施され,その効果が報告され ている (福ヶ迫・坂田, 2008;木原ほか, 2007)。 また,木原(2010)は,模擬授業の効果として以 〈原著論文〉 日本教科教育学会誌 2019.12 第42巻 第 3 号 pp.83-94 DOI: 10.18993/jcrdajp.42.3_83 3

(2)

下の3点を挙げている。1点目は,外部から観察 可能な教授技術,特に,「授業の基礎的条件」に 関わる教授技術の習得,2点目は,問題解決的な 思考の独特な形(秋田,1996)とされる「省察」 における問題の発見ができたこと,3点目は,体 育授業を観察する能力やその基礎となる授業や教 材に関する知識の習得,である。このように養成 段階においては,模擬授業により,体育授業の教 授技術や知識などの力量が形成されてきた。  一方で,教師の力量を明らかにする教師教育研 究が進められ,力量の実態や力量の構造が明らか にされている。木原(2004)は,授業力量を信念, 知識,技術の3つに区分し,信念を中核として知 識と技術に展開される位置づけとなる特徴モデル を示した。この授業力量の中核をなす信念は,教 師がどのような授業,教師役割を望ましいと考え るかという授業観,教材観,指導観に対して,そ の考えを表すものとされている(秋田,2000)。 また,信念に支えられる授業観や指導観,教材観 は,教師の知識使用や思考・行動を規定するもの であり (秋田, 2000), これらの授業のとらえ方や 指導の考え方として,力量の重要な要素であると 考えられる。教師の力量形成が養成・採用・研修 といった発達的な視点によりとらえられているこ とから,力量とされる授業のとらえ方や考え方を 明らかにする研究が求められていると考えられる。  体育授業のとらえ方や考え方を体育の授業観と して,その様態について,養成段階を対象とした 研究が進められてきた (嘉数・江藤, 2014;嘉数・ 岩田, 2013;住本, 2016)。嘉数・江藤 (2014) は, 教科の指導法に関する科目の講義における授業観 の様態とその変容について検討した。その結果, 学生が保持する授業観は,体育授業の目標,体育 授業の雰囲気,体育授業の実践の3つに大別され ることが明らかとなった。体育授業観の変容には, 指導案作成や模擬授業などの実践色の強い講義の 内容であったことや講義を担当した教師教育者の 影響があることが示唆された。また,嘉数・岩田 (2013)は,教育実習前後の「目指す体育授業」 とする体育授業観の様態について検討した。その 結果,授業観は体育授業において身につけさせた いことや体育授業における生徒の雰囲気,体育授 業の実践に分類されることが明らかとなった。授 業観の変容には,教育実習における経験と指導教 員からの指導が影響していることが示唆された。 さらに,住本(2016)は,小学校教師を志望する 学生を対象に体育授業観の様態を検討した。その 結果,学生が保持する体育授業観は,体育授業の 目標に関すること,体育授業の情意面に関するこ と,体育授業の安全面に関することに分類された。 加えて,この結果を嘉数・岩田(2013)と照らし 合わせ,中学校及び高等学校の保健体育教師志望 学生と小学校教師志望学生の保持する授業観の相 違点について分析し特徴を明らかにした。  以上のように,国内における養成段階の学生の 体育授業観に関する研究は,教育実習や教科の指 導法の科目の実践により進められ,授業における 教授に影響を与える授業観の様態が明らかにされ てきた。  一方で,諸外国においても同様の研究が進めら れている。小学校教員養成課程の学生や初任期の 教師を対象に,教師教育のプログラムの実施によ る体育授業の信念の形成について実証的に明らか にされている(N. Tsangaridou, 2008;D. Chróinín and M. O’Sullivan, 2016)。さらには, Lijuan, W. (2013)は,中国において教師が保持している

TGfU(Teaching Games for Understanding) に 関 する信念と実践の関連について検討した。その結 果,TGfU に関する信念は保持していても,実践 を行うことは困難であるとした,信念と実践の関 係について明らかにした。このように,諸外国で は,教師教育プログラムにおける信念の形成や信 念と実践に関する検討などが進められている。  しかしながら,国内の養成段階の学生の体育授 業のとらえ方や考え方の様態については,嘉数・ 岩田(2013)と嘉数・江藤(2014)にみられるよ うに,中学校および高等学校の保健体育教師を目 指す学生を対象とした研究である。国内において は,小学校教師を志望する養成段階の学生の体育 授業に関するとらえ方や考え方について,明らか にした研究は少ない現状にある。  先述の小学校体育授業に関する教師教育の課題 を踏まえると,小学校教師を志望する養成段階の 学生の体育授業に関するとらえ方や考え方につい て明らかにする必要があると考える。  そこで本研究では,養成段階の教科の指導法を

(3)

通した小学校体育授業のとらえ方や考え方となる 指導観注1)(以下,指導観と示す)の様態とその変 容について明らかにすることを目的とする。また, 体育授業に関する考え方は養成段階以前より形成 されているととらえられることから,本研究にお いて実践した教科の指導法に関する講義により体 育授業の指導観の変容が明らかにされることは, 実践した講義における成果となる学生の学びにつ いて明らかにできると考えられる。つまり,本研 究の試みは,養成段階の講義における体育授業の 指導観を実証することにつながり,養成段階の教 科の指導法の講義における体育授業の力量形成に ついて有益な知見となることが期待される。 2.方 法 2.1.研究対象 2.1.1.講義「体育科教育研究」の概要  対象とした講義は,A 大学教育学部の小学校教 諭免許状取得のために平成29年10月から平成30年 2月までに開講された,各教科の指導法に関する 科目「体育科教育研究」であった。表1に「体育 科教育研究」の概要を示した。  講義は,1単位時間90分間,全23回で計画注2) された。講義の内容は,体育授業及び運動指導に 関する基本的な内容と,これらを授業に活用し実 践を行う模擬授業とその省察で構成されていた。 模擬授業は6・ 7名で構成するグループで学習指 導案を考案しクラスでの指導案検討を経て,模擬 授業を実施した。模擬授業のグループは運動領 域・種目ごとに編成され,自身のグループが行う 授業の時以外は,児童役として模擬授業に参加し た。また,模擬授業実施後は,基本的には模擬授 業グループごとに児童役または教師役・観察者と して模擬授業の省察を行った。さらに,その後の 反省会では授業者グループの省察を聞き,質疑応 答を行った。反省会と全体での共有を終えたのち に,授業者グループの学生は,個人で個人シート に模擬授業の省察を記述した。 2.1.2.本講義の達成目標  本講義は,小学校教師志望学生が受講する教科 の指導法に関する科目の講義であった。A 大学教 育学部では,3年次の前期または後期に開講され ていた。本講義の目標は以下に示す通りであった。 ① 授業のねらいに応じた教材や教具を開発・工夫 することができる。 ② 子どもの発達段階を考慮した授業づくりを構想 することができる。 ③ 構想した授業案のもと,開発・工夫した教材・ 教具を用いて模擬授業を行い,振り返ることか できる。 2.1.3.講義受講学生の特徴  調査対象者は,平成29年10月から平成30年2月 までの後期期間に,「体育科教育研究」を受講し た学生35名の中から,講義開始時(以下,講義前 と示す)と講義終了時(以下,講義後と示す)に おいて記述したワークシートに,体育授業に関す る指導観が明記された学生27名とした。27名すべ て3年次に所属する学生であった。  対象学生27名のうち,教育実習を経験した学生 は22名であった。この教育実習は,A 大学教育学 部の附属小学校において,平成29年8月下旬~9 月下旬までの4週間の期間で行われた。学生は特 回 内容 1 オリエンテーション,講義概要の説明 2 体育授業の目標構造と内容領域について 3 体育・運動中の事故と安全管理,模擬授業グルーピング 4 体育授業の指導について(単元づくり・授業づくり) 5 体育授業の学習指導と教材づくり 6 体育授業の指導案づくり 7 教材づくり,模擬授業①(体つくり運動)指導案検討 8 模擬授業①(体つくり運動),グループ省察 9 模擬授業①全体省察,模擬授業②(ソフトバレーボール)指導案検討 10 模擬授業②,グループ省察 11 模擬授業②全体省察,模擬授業③(サッカー)指導案検討 12 模擬授業③,グループ省察 13 体育授業の教授技術について 14 模擬授業③全体省察, 模擬授業④(リレー)指導案検討 15 模擬授業④,グループ省察 16 模擬授業④全体省察,効果的な教授について(授業VTR 視聴) 17 個に応じた指導について 18 模擬授業⑤(マット運動)指導案検討 19 模擬授業⑤,グループ省察 20 模擬授業⑤全体省察,模擬授業⑥(鉄棒)指導案検討 21 模擬授業⑥,グループ省察 22 体育授業の学習評価について 23 運動有能感の育成,これから求められる体育授業,まとめ 表1 講義計画

(4)

定の学級に配属され,その学級担任により学校生 活および授業実践について指導された。 2.2.データの収集方法  データは,個人の体育授業に関する指導観が記 述されているワークシートと個人の模擬授業実施 後の省察シートから収集した。個人の体育授業に 関する指導観については,講義前と講義後におい て,「体育授業を行う上で,大切なことは何だと 思いますか。もっとも強く思っていることを書い てください。」 という質問を記載した質問紙に自由 記述で回答したものであった。設問に「もっとも 強く思っていること」と指定した理由は,学生は これまで体育授業の指導に関する講義の経験はな く,講義で扱う内容を大切だと考えることが想定 されたため,このような付記を行った注3)。加えて, 学生が質問紙を記入する際に,質問紙には理由等 の記述を指示する旨の付記をしていなかったため, 「なぜそのように考えるのかなど,理由等があれ ば,具体的に書いてもよいです。」と講義担当者 が口頭で教示を行った。講義後のすべての学生の 指導観には,なぜそう考えたのかといった理由や 経緯などが記述されていた。記述欄の大きさは, A4判用紙の半分程度で, 講義前後において差異は なかった。記述には,20分の回答時間を設定した。  また,模擬授業実施後の個人の省察シートは, A4用紙1枚の大きさに,授業者および観察者と して準備や授業実施についての省察を記述したも のであった。 2.3.分析方法とその手順 2.3.1.指導観と理由等について  学生の指導観については, KJ 法 (川喜田, 1967) を参考に,記述された内容を意味の通る一文を一 区切りとして分析を行った。1名の学生が2文以 上の記述の場合でも,別の記述として扱い,分析 した。分類は,調査者と平成30年度より大学院教 育学研究科保健体育専修に所属している教職歴15 年以上を有する中学校保健体育教師であるB 氏 の計2名で行った。B 氏は,現職の中学校保健体 育教諭であり,長年,地区の体育研究会に所属し, 体育授業研究に励んでいる。平成30年4月より大 学院に所属し,調査者が指導する前期の「体育科 教育研究」(本研究対象と同様の講義)の模擬授 業とその省察を観察していた。そのため,本講義 の目標や趣旨を理解しており,本研究において収 集したデータの分析に適した力量を有していると 判断した。  手順は,講義前後の個人の指導観として記述さ れた内容について2名で確認し,内容の共通理解 を図った。その後,講義前後の指導観の記述をま とめて,それらを2名別々で分類を行った。意見 が一致しなかった内容については,協議を行い一 致させた。一致率は90%以上であった。分類した 後に講義前に記述された内容と講義後に記述され た内容に分けた。信頼性を確認するために,対象 学生のうちの3名の学生により,「メンバーチェッ ク」(メリアム,2004)を行った。  また,学生の指導観とともに記述された理由等 と模擬授業の個人の省察シートの内容から,学生 がなぜそのように考えたのかについて分析を行っ た。 2.3.2.指導観のカテゴリ数の変容について  全体的な変容の特徴として,講義前後の各カテ ゴリ①および②の記述数について,クロス集計を 行った。統計処理は,SPSSver.25を用いて行い, 有意水準をp<0.05,有意傾向を p<0.1とした。 2.3.3.具体的な事例について  具体的な事例の抽出については,対象者は目的 的サンプリング(メリアム,2004)により選定し た。選定の規準は,講義前後において,指導観カ テゴリ②の変容の有無が明確であることと「体育 科教育研究」においてすべての模擬授業に参加し ていることとした。対象学生の指導観に関する記 述と模擬授業の個人の省察から得られた資料をも とに分析を行った。 3.結 果 3.1.指導観の様態とその理由等について  表2に,講義受講前後の指導観のカテゴリを示 す。対象学生の指導観のカテゴリ②は,【授業の 実践】,【児童に身につけてほしいこと】,【児童の 学習】に大別された。なお,以下の文中の【 】 はカテゴリ②名,[ ]はカテゴリ①名,「 」は 記述例を示している。  1つ目のカテゴリ②の【授業の実践】は,[安 全管理],[教授],[個に応じた指導],[教師の準 備],[学級経営]の下位カテゴリで構成された。

(5)

[安全管理]には,「安全に配慮して行うこと」や 「大きなケガをさせず体調に気を配ること」等が 示された。[安全管理]と記述した学生の理由等 として,高校時代の経験と大学の教員養成課程で の学びが結びつき,「学校が命を預かる場である」 ことを挙げていた。さらに,講義において扱った 内容である授業を実施するうえで「ケガをしない ことが大前提」であることを理由等に挙げていた。  [教授]は,「子どもの活動を阻害しない」や「授 業者が一つ一つの活動に目的意識やねらいをもつ こと」等が示された。理由等については,前者は, 模擬授業の個人の省察から,「体育では大きい空 間で行う教科であるため,その空間をうまく使う ことや子どもたちを動かすことができなければ活 動の流れが悪くなる」ことを挙げた。また,後者 の理由等も同様に,模擬授業の個人の省察から「授 業者が一つ一つの活動のねらいを理解し,児童に 伝えることの大切さを実感した」ことを挙げた。  [個に応じた指導]は,「できる子とできない子 に対する支援」と「その子のレベルに合った指導」 が示された。理由等が記述されていたのは前者の みであった。この学生は,模擬授業の教師役を行っ た学生であり,模擬授業の個人の省察には,「得 意な子と苦手な子が同じ空間にいるので,両者を どのように支援していくかが大切」という考えか ら「できる子とできない子でペアを組ませる方法」 について具体的に記述していた。  [教師の準備]は,「教材研究は,児童に何を学 ばせたいのかねらいを定めるために必要不可欠な もの」や「体を動かす楽しさを教えるために教師 がそのことを知っていることが大切」が記述され た。理由等が記述されていたのは前者のみであっ た。そこには,「どの教科でも楽しさを子どもに 感じさせるためには教師の深い教材研究が大切に なってくるから」と示されていた。  [学級経営]には,「学級全体を見る力」と「学 級づくりがうまくいっている」の内容が示された。 前者の理由等として,運動が得意な子や苦手な子 など様々な子どもがいる中で,すべての子どもの 興味関心を引き出すことが大切であることが記述 されていた。この学生は,模擬授業において教師 役を行った学生で,個人の省察に授業の失敗の経 験を振り返りこのような記述となっていた。また 後者は,授業に向かう子どもの態度と学級づくり がうまくいっているかということが関係している と考えたことが記述されていた。学生が,教育実 表2 指導観のカテゴリと理由等の記述例 指導観 理由等の記述例 カテゴリ② カテゴリ① 授業の実践 安全管理 学校は命を預かる場である ケガをしないことが大前提 教授 子どもの活動を阻害しない 授業者が一つ一つの活動に目的意識やねらいをもつこと 個に応じた指導 できる子とできない子に対する支援 その子のレベルに合った指導 教師の準備 教材研究は,児童に何を学ばせたいのかねらいを定めるために必 要不可欠なもの 体を動かす楽しさを教えるために教師がそのことを知っているこ とが大切 学級経営 学級全体を見る力 学級づくりがうまくいっている 児童に身につけて ほしいこと 運動への親しみ 体を動かす楽しさを実感すること 成功体験をさせてあげること 子ども自らが「体を動かしたい」「運動したい」と思い,積極的 に取り組むようになること 体育の内容 体の動かし方を身につけること技術・体力が向上すること 児童の学習 学習する姿 児童一人ひとりが自己の課題を見つけ,その解決に向けて思考判 断する姿を育てること 子どもの相互作用 児童の発達 児童の実態を把握する

(6)

習での経験をもとに記述した内容であった。  2つ目のカテゴリ②【児童に身につけてほしい こと】は,[運動への親しみ]と[体育の内容] の下位カテゴリで構成された。[運動への親しみ] は,「体を動かす楽しさを実感すること」や「成 功体験をさせてあげること」,「子ども自らが「体 を動かしたい」「運動したい」と思い,積極的に 取り組むようになること」等が記述された。その 理由等には,「体育では,運動の技能や仲間と協 力する等の人間関係もはぐくむことができるか ら」や「運動に親しみ,将来運動しようという気 になると思うから」,「できるようになって有能感 を持たせるためにスモールステップで行う」と いった記述であった。これらは,講義で扱った授 業VTR や講義資料の内容に関するものであった。  2つ目の[体育の内容]には,「体の動かし方 を身につけること」や「技術・体力が向上するこ と」といった内容が示された。これらは,講義前 のみに記述された内容であり,理由等については 記述がみられなかった。  3つ目のカテゴリ②の【児童の学習】は,[学 習する姿]と[児童の発達]の下位カテゴリで構 成された。[学習する姿]には,「児童一人ひとり が自己の課題を見つけ,その解決に向けて思考判 断する姿を育てること」や「子どもの相互作用」 等が示された。理由等について,前者は,模擬授 業の児童役であった特定の模擬授業において,教 師主導の学習となっており,児童が自己の課題解 決に向けて試行錯誤する場面がなかったことが記 述されていた。また,後者には,授業において児 童同士が関わることが効果的な学習となることが 記述されていた。さらに,[児童の発達]には,「児 童の実態を把握する」といった児童のレディネス に関する内容が記述された。理由等には,体育の 授業で子どもの個性を生かした指導ができると考 えた内容が示された。  【児童の学習】カテゴリは,具体的な児童の学 習する姿や児童の実態をどのようにとらえるかに ついて記述されていた。これらの特徴として,【児 童の学習】を把握することで効果的な指導につな げようとする内容となっていたことが挙げられる。  以上のことから,小学校教員養成課程の各教科 の指導法に関する講義の前後における学生の体育 授業の指導観は,3つのカテゴリで構成された。 1つ目は,授業の実践に関するカテゴリで,2つ 目は児童に身につけてほしいことに関するカテゴ リで,3つ目は,児童の学習に関するカテゴリで あった。 3.2.指導観の変容について 3.2.1.全体的な変容の特徴について  講義の前後における指導観の記述数の変容につ いて分析した(表3)。その結果,講義前後でカ テゴリ②では有意差がみられなかった。しかし, カテゴリ①では講義前後において記述数の変容が みられた。  [安全管理]は,講義の前では16個であったの に対し,講義後では8個に減少した(p=0.001)。 しかし,[安全管理]は,講義前後において多く 示されているカテゴリである。  [教授]は,講義前は0個であったことに対して, 講義後には8個に増加した(p=0.001)。  [運動への親しみ]は,講義前は14個であった のに対し,講義後は11個へと減少傾向がみられた (p<0.1)。しかし,講義前後において,多く記述 されているカテゴリである。  [体育の内容]は,講義前は6個であったこと に対して,講義後では,0個となり減少傾向がみ られた(p<0.1)。 3.2.2.指導観の変容に関する具体的事例  講義前後において,指導観のカテゴリ②に変容 がみられた学生は10名,講義前の指導観と変容が みられなかった学生は14名,講義前のカテゴリに 他の内容が加わった学生は3名であった。以下に, 指導観のカテゴリに変容がみられた学生と変容が みられなかった学生の体育授業の指導観の内実と 形成の要因について事例的に分析する。 (1)指導観に変容がみられた事例  指導観のカテゴリに変容がみられた学生C 君と D さんの事例を示す。C 君の講義前の指導観のカ テゴリ②は2つ示され,一つは【児童の学習】(カ テゴリ①は[児童の発達])と【児童に身につけ てほしいこと】(カテゴリ①は[体育の内容])で あった。C 君の講義後の指導観のカテゴリ②は【授 業の実践】(カテゴリ①は[学級経営])であった。 また,D さんの講義前の指導観のカテゴリ②は【児 童に身につけてほしいこと】(カテゴリ①は[運

(7)

動への親しみ])で,講義後のカテゴリ②は【授 業の実践】(カテゴリ①は[教授])であった。  まず,C 君の具体的事例については,講義前の 指導観では,「仲間との協調性」と「基本的な動 作を身につけること」を示していたが,講義後の 指導観として「学級全体を見る力」が大切だとい う考えに変容した。講義前の指導観では,体育授 業でどのようなことを身につけさせたいかを中心 に考えていた。講義後の指導観に関する理由等と して,「児童たちは運動が得意な子や苦手な子様々 いて,そのような児童たちの興味・関心を引き出 すような授業を展開していくこと」が重要である ことを挙げ,さらに「授業の展開はしっかりと計 画性をもって立てていく」必要があると記述して いた。C 君は,運動に対して得意・不得意,また は好き・嫌いのように多様な性質の子に対して「興 味・関心を持たせるため」に「学級全体を見る力」 が大切だと考えていた。このように考える背景と して,C 君の模擬授業の授業者としての省察から 読み取ることができる。C 君は,模擬授業(サッ カー)の授業者であった。授業後の個人の省察シー トからは,運動場であったため指示や指導を行う ことの難しさを感じたことが記述されていた。ま た,苦手な子やあまり意欲的でない子を想定して 興味・関心を持たせるために,ゲームを工夫した 教材を実践したが,うまく説明できずゲームのね らいを伝えられなかったことを振り返った。その 実践を通してC 君は,できない子も含めてすべ ての子どもに興味・関心を持たせることが大切で あると考えた。  次に,D さんの事例は,講義前の指導観として, 「全員が全力で頑張れること」を示していたが, 講義後の指導観として「児童の活動を阻害しない」 ことに変容した。講義前の指導観では,学級の体 育授業に取り組む姿勢について考えていた。講義 後の指導観に関する理由等としては,授業での活 動の流れを妨げないように,児童がスムーズに活 動するために授業をどのように計画すればよいか 考慮する必要があることを挙げた。このことは, D さんが所属するグループが行った模擬授業(ソ フトバレーボール)の省察と関連がみられる。観 察者であったD さんの個人の省察シートからは, 大まかな流れ(アンダーハンドパスのポイントの 解説した後に対人パスや円陣パスを行ったこと) に対しては,納得のいくものとなったと考えてい たが,集合させたりチーム練習をさせたりすると きの隊形移動や指示について課題があったと振り 返っていた。この模擬授業の省察から,講義後の 指導観として「児童の活動を阻害しない」ことに つながった。さらに,D さんが児童たちの活動を 阻害せず,授業をスムーズに行うことが重要であ ると記述した理由等の背景には,児童たちが自由 な発想や動きをすることを目指す学習観をD さん 自身が保持していることが影響している。この学 習観が影響し,児童たちの自由な発想や動きを促 進する学習のために,教師はどのように授業を行 わなければならないかという指導観の変容につな がった。 表3 指導観の各カテゴリの記述数の変容について 指導観 前 後 カテゴリ①の 検定結果 カテゴリ② カテゴリ① カテゴリ① (個) カテゴリ② 小計(個) カテゴリ① (個) カテゴリ② 小計(個) 授業の実践 安全管理 16 18 (43.9%) 8 20 (57.1%) ** 教授 0 8 ** 個に応じた指導 1 1 n.s. 教師の準備 1 1 n.s. 学級経営 0 2 n.s. 児童に身につけて ほしいこと 運動への親しみ 14 20 (48.8%) 11 11 (31.4%) † 体育の内容 6 0 † 児童の学習 学習する姿 2 3 (7.3%) 2 4 (11.4%) n.s. 児童の発達 1 2 n.s. 合計 41 35 **:p<0.001,*:p<0.05,†:p<0.1

(8)

(2)指導観に変容がみられなかった事例  指導観のカテゴリに変容がみられなかった学生 E 君と F さんの事例を示す。E 君の講義前後の指 導観のカテゴリ①には講義前後で変容がみられ, 講義前の[個に応じた指導]から講義後は[教授] となったが,カテゴリ②は【授業の実践】で変容 はみられなかった。また,F さんの講義前後の指 導観のカテゴリ②は【児童に身につけてほしいこ と】で,カテゴリ①は講義前後ともに[運動への 親しみ]であった。  まず,E 君の事例は,講義前の指導観として,「そ の子のレベルに応じた指導」を示していたが,講 義後には,「教師が身につけさせたい力と子ども が身につけたい力が一致すること」を記述してい た。カテゴリ②としては,講義前後に変容はなく 【授業の実践】に関する指導観であるが,カテゴ リ①では変容がみられた。E 君は,講義前の考え からは児童の技能の向上のために,個に応じた指 導が必要であると考えていた。講義後には,児童 の実態を踏まえ,児童がどのように運動に取り組 むのかについて考えるようになっていた。講義後 の指導観に関する理由等としては,「児童が主体 的に取り組まなければ,身につかない」ことを記 述していた。このことは,E 君が所属するグルー プの模擬授業(マット運動)での授業者としての 省察から読み取ることができる。模擬授業のマッ ト運動では,技の系統性を意識した教材を準備し, スモールステップで技能を習得できる学習を計 画・実践した。しかし,児童一人一人の学習とし ては,技を学習する流れが教師側から「一方的に 指導された」という内容が模擬授業後の全体の反 省会で出されていた。また,「試行錯誤する時間 を設けることができなかった」 と E 君自身も個人 の省察で振り返っている。これらの模擬授業の省 察から,技能を向上させようとする指導への考え が,教師側から一方的に指導するのではなく,子 どもが試行錯誤する場を設け,主体的に学習する ことが大切であるという違う視点を持つことにつ ながった。  また,F さんの事例は,講義前後の指導観とし て,「児童が運動を楽しいと思えるようになるこ と」を示した。F さんは講義後の理由等について, 過去の学生時代から本人が運動は不得意であった が,今回複数の模擬授業において,グループを編 成した協同的な学習により,F さん自身が仲間か ら教えてもらったことや少しずつできるようにな り,楽しんだ経験となったことを挙げた。このこ とから,F さん自身が児童役として取り組んだ学 習に対する省察から,体育授業で運動を楽しむと いう認識が,教えあったり,できるようになった りすることが楽しいととらえるようになった。 4.考 察 4.1.指導観の様態と理由等  学生の指導観とその理由等に記述された内容か ら,どのような学びをもとにした考えから指導観 を変容させたかについて考察を行う。  【授業の実践】の[安全管理]を指導観に記述 した学生は,高校時代の経験と大学の教員養成課 程での学びが結びつき,どの運動領域の授業にお いても安全が大前提であることや,学校は安全で なければならないといった理解や認識となり,[安 全管理]の指導観につながったと考えられる。2 つ目の[教授]の指導観を記述した学生は,主に 模擬授業の授業者グループとしての学びから,授 業の教授は子どもの学習に効果的でなければなら ないと考え,[教授]の指導観につながったと考 えられる。3つ目の[個に応じた指導]を指導観 に記述した学生は,模擬授業で教師役を行った経 験から,子どもの運動の能力やつまずきに対応し た指導を行うことが大切であると考え,[個に応 じた指導]の指導観につながったと考えられる。 4つ目の[教師の準備]を指導観に記述した学生 は同一の学生で,講義の前後において[教師の準 備]が大切であるという指導観であった。講義前 は教師が体を動かす楽しさを知っておく必要があ るという考えであったが,講義後には,他の教科 でも同様に教材研究について,児童に何を学ばせ たいのかねらいを定めることが必要だという深い 解釈となったと推察される。5つ目の[学級経営] の指導観を記述した学生は,模擬授業の教師役と 教育実習の経験から,すべての子どものために指 導することやどのように子どもを授業に向かわせ るかということを考え,[学級経営]の指導観に つながったと考えられる。  以上の【授業の実践】カテゴリを記述した学生

(9)

は,高校時代の経験と大学での学びが結びついた ことや教育実習の経験,講義の内容,模擬授業の 実施などによる本講義の学びを通して【授業の実 践】カテゴリの指導観につながったと考えられる。  【児童に身につけてほしいこと】の[運動への 親しみ]を指導観に記述した学生は,体育授業の 教育的意義を理解していたり,生涯スポーツにつ ながるといった体育の目標を意識していたりした ことが,[運動への親しみ]の指導観につながっ たと考えられる。また,2つ目の[体育の内容] に示された内容は体育の具体的目標の構造(高橋, 1994)において技能目標の領域を示すものである。 したがって学生は,講義前の段階で体育の目標や 内容について理解していたことが,【児童に身に つけてほしいこと】の指導観につながったと考え られる。  【児童の学習】の児童の課題解決することを学 習ととらえた[学習する姿]を指導観に記述した 学生は,講義担当者が毎回の模擬授業における省 察の際に,どのような場面が課題解決となってい たか等問いかけていたことが影響していると思わ れる。また,もう一つの[児童の発達]を指導観 に記述した学生は,指導案検討の際に子どもの発 達段階や運動の様子などについて協議していたこ とが,授業の計画等のために児童の実態を把握し, さらに,個性を生かした指導を行うことが大切で あると考えたことにつながったと推察される。  以上を踏まえると,本講義の内容,模擬授業の 実施,講義担当者からの指導が契機となり,学生 の体育授業の指導観の変容に影響を与えたと考え られる。  さらに,各カテゴリの内容は,中学校及び高等 学校の保健体育教師を志望する学生を対象とした 嘉数・江藤(2014)の体育授業観のカテゴリと, さらにこれに対応させ検討した住本(2016)の小 学校教員志望学生の体育授業観と類似した様態が 示されている。嘉数・江藤(2014)が明らかにし た体育授業観のカテゴリは,「体育授業の目標」, 「体育授業の雰囲気」,「体育授業の実践」の3つ のカテゴリが示されている。これらのうち,情意・ 態度面や技能面を形成する授業で構成される「体 育授業の目標」は,本研究の【児童に身につけて ほしいこと】の[体育の内容]に対応するもので ある。また,本研究の【児童に身につけてほしい こと】の[運動への親しみ]は,嘉数・江藤(2014) の「体育授業の雰囲気」の運動好きの増える授業 への対応がみられる。さらに,本研究の【授業実 践】は嘉数・江藤の[体育授業の実践]に対応が みられる。これらは住本の研究で明らかとなった カテゴリとも同様の対応がみられる。このことか ら,志望する学校種は違っていても,体育授業に 関する考えは,類似した内容であることが示唆さ れた。体育では,教材として扱う内容は運動を素 材としており,それらを系統性を持たせ段階を 追った指導を行うことが重要視されている(文部 科学省,2008)ことが背景にあると思われる。  一方で,学校種の違いや養成段階の学年差によ り,体育授業の考えに差異点があることが明らか となった。本研究と住本(2016)では,体育授業 の安全面に関する考えが,住本で1割,本研究で は講義後に2割程度記述されていた。しかしなが ら,嘉数・江藤では,1%程度(講義前後で各1 文)であった。このことから,小学校教師を志望 する養成段階の学生は,安全面を重視する傾向に あると考えられる。  加えて,本研究では,授業の実践に関する[教 授]や[個に応じた指導],[教師の準備],[児童 の学習]について具体的な記述がみられた。これ は,同じ小学校教師を志望する学生を対象とした 住本(2016)では記述されていない内容であった。 住本は1年次学生を対象とした研究であり,本研 究は,3年次学生を対象としていた。本研究で対 象とした学生は,教職系の科目の履修や附属学校 の観察実習や教育実習を経験しており,これらの ことが1年次学生と3年次学生の指導観の差異に 影響していると考えられる。 4.2.全体的な変容の特徴について  記述した人数が減少した[安全管理]について, 講義前の調査で[安全管理]に関する指導観を記 述していた学生は,講義の後には主に[運動への 親しみ]や[教授]に変容がみられた。「事故と 安全管理」を内容として扱った講義は1回あった が,講義の半数近くは模擬授業が行われていた。 模擬授業などの実践的な学びが,[安全管理]か ら [運動への親しみ] や [教授] への指導観の変容 に影響したと考えられる。一方で,講義の前後の

(10)

指導観に変容がみられない学生もあった。その理 由等には,事故やケガを未然に防ぐことが重要で あり,そのためにどのように指導するか等の記述 がみられた。指導観に変容がみられなかった学生 においても,[安全管理]の視点として児童への 指導を想定して考えるようになったと推察される。  記述した人数が増加した [教授] について, 具体 的には,教師の声掛けやほめること,子どもの活 動を阻害しないこと等が挙げられた。他には,子 どもの実態をどうとらえるかと,一つ一つの活動 に目的意識を持つことが挙げられた。木原(2010) は模擬授業等の効果の一つに,外部から観察可能 な教授技術,特に「授業の基礎的条件」に関する 教授技術の習得を挙げた。教師の声掛けやほめる ことは,教師の相互作用や直接的指導(高橋ほか, 1991)に対応するものと考えられる。また,子ど もの活動を阻害しないということは,授業の流れ がスムーズに行えることを指しており,これは, 「授業の基礎的条件」に当てはまると考えられる。 [教授]に関する指導観は,模擬授業の実施と関 連することが示唆された。さらに,子どもの実態 をどうとらえるかということは,子どもの実態や 運動の様子・姿をどのようにみとるかということ を意味している。加えて,一つ一つの活動に目的 意識を持つことは,本時の展開時における活動の ねらいを意識することを指している。これらは, 指導案検討の際の授業計画(単元計画及び本時の 指導案)の検討時に,講義担当者から問いかけら れていた内容を示すものである。学生は,模擬授 業の指導案検討でこれらの内容について考えるこ とで,子どもの実態をどのようにとらえるかや, この活動は何のために行うのかといったことが授 業を実践するうえで大切であると認識し,[教授] に関する指導観につながったと考えられる。  減少傾向がみられた[運動への親しみ]は,学 生は,学習指導要領における体育科の目標である 「生涯にわたって運動に親しむ基礎を育成する」 ことや運動への動機づけを意識したと考えられる。  同様に減少傾向がみられた[体育の内容]は, 講義前で学生が体育の授業は技能や体力の向上を 目指すことが大切であると考えており,講義を受 講することで,体力や技能の向上といった考えで はなくなったと思われる。嘉数・江藤(2014)で は,有意差は検討されていないが,講義前と比較 して講義後において,「技能面を形成する授業」 といった記述に増加がみられた。これは対象とす る養成段階学生の学校種が違うことが影響してい ると考えられる。さらに住本(2016)では,情意 面に関する授業観と比較して技能面に関する授業 観の記述が少数であることから,小学校教師を志 望する学生は,体力・技能の向上を情意面より重 視しない傾向にあると考えられる。 4.3.指導観の変容に関する具体的事例から  ここで示した事例における学生は,本講義で半 数近く実施した模擬授業で,実践的な内容を学ん だ。模擬授業の授業者だけでなく観察者も同様に 実践的な内容を学んでおり,さらに,これが指導 観の変容につながったと考えられる。  一方,指導観に変容がみられなかった事例では, 模擬授業の授業者の経験を通して,効果的な教授 に対して,子どもが主体的になるような学習を意 識し,子どもの学習の視点で教授をとらえたと考 えられる。また,もう一つの事例は,児童役とし て参加した体育授業で児童役同士がかかわりあう 模擬授業を経験した。このことで,児童役同士が かかわりあう授業でできるようになることが楽し かったとしており,学生自身が協同的な学習で あった模擬授業を経験したことで,講義前と同じ 指導観を保持したと考えられる。 5.まとめ  本研究の目的は,養成段階の教科の指導法を通 した小学校体育授業のとらえ方や考え方となる指 導観の様態とその変容について明らかにすること であった。その結果,以下の3点が明らかとなっ た。 1 )講義の受講前後における小学校教師を志望す る学生が保持する体育授業の指導観は,【授業 の実践】,【児童に身につけてほしいこと】,【児 童の学習】に分類された。 2 )講義前後において,学生の体育授業の指導観 のカテゴリ①の記述数に変容が見られた。具体 的には,[安全管理]の指導観は,記述数が減 少した。一方で,[教授]の指導観については, 記述数が増加した。 3 )体育授業の指導観の理由等には,講義内容や

(11)

模擬授業の経験, これまでの経験, 講義担当者の 指導が記述された。本講義における学びが,体 育授業の指導観の変容に影響したと考えられる。  本研究では,養成段階の体育授業の指導観の様 態と変容について,講義(体育科教育研究)の実 践による影響について明らかすることができた。 しかしながら,この指導観が実際の教授との関連 性について明らかにできていない。さらに,養成 段階では実践的な指導力を育成するために,教科 の指導法に関する講義だけでなく教育実習も実施 されている。そこで,体育授業に関する考え方と なる指導観などが,どのように教授と関連するの か,または,講義だけでなく教育実習やほかの講 義等とどのように関連があるのかなどの関連性も 含めて検討する必要があると思われる。 付記 本研究は,文部科学省科学研究費補助金(基 盤研究(C)課題番号:18K02542)の助成を受け たものである。 注 1)秋田(2000)によると,授業観,教材観,指 導観などは,授業力量の中核をなす信念に支え られている構造をとる。そしてこの指導観や授 業観などは,教師の知識使用や思考・行動を規 定するものである。体育科教師教育においては, 成家ほか(2018)に指摘されるように,授業観 と指導観が混在している状況にある。そこで, 本研究では,「体育授業を行う上で大切だと思 うこと」を問いとして,授業においてどのよう な指導を行うことが望ましいと考えているかと いう指導観(秋田,2000)を対象とする。 2)講義「体育科教育研究」は,一週間のうちに 2単位時間(90分の講義と90分の実技)実施さ れ,全23回で運用されている。通常90分の講義 と45分の実技の15週(回)で構成される講義を, 45分の実技(模擬授業)とその省察の時間を考 慮し90分間実施している。総時間数については, 90分の講義と45分の実技で行われる15回分と変 わらない。 3 )「もっとも強く思っていること」と指定した が,実際には複数の記述がみられた学生もいた。 これらはその学生の指導観であるため,複数個 の記述をデータとして採用した。 引用・参考文献 秋田喜代美(2000)教師の信念,日本教育工学会 編,教育工学事典,p.194,実教出版株式会社. 秋田喜代美(1996)教師教育における「省察」概 念の展開,教育学年報,5:451-467.

Chróinín, D. and O’Sullivan, M. (2016) Elementary Classroom Teachers’ Beliefs Across Time: Learning to Teach Physical Education. Journal of Teaching in Physical Education 35(2): 97-106. 福ヶ迫善彦・坂田利弘(2008)授業省察力を育成 する模擬授業の効果に関する方法論的検討,愛 知教育大学保健体育講座研究紀要,32:33-42. 日野克博(2010)教師教育のシステム,梅野圭史 他編,教師として育つ-体育授業の実践的指導 力を育むには-,pp.8-13,明和出版. 加登本仁・辻延浩・青木作衛・中川大介・八木純 子(2012)体育授業に関する小学校教師の力量 形成についての調査研究-教職経験年数による 際に着目して-,滋賀大学教育学部紀要教育科 学,62:73-85. 嘉数健悟・江藤真生子(2014)体育教師志望学生 の授業観の様態に関する研究-「教科の指導法 に関する科目」の授業前後に着目して-,九州 体育・スポーツ学研究,28(2):1-11. 嘉数健悟・岩田昌太郎(2013)教員養成段階にお ける体育授業観の変容に関する研究-教育実習 の前後に着目して-,体育科教育学研究,29 (1):35-47. 川喜田二郎(1967)発想法,中央公論社. 木原成一郎(2010)模擬授業の意義と方法,梅野 圭史他編,教師として育つ-体育授業の実践的 指導力を育むには-,pp.40-42,明和出版. 木原成一郎・日野克博・米村耕平・徳永隆治・松 田恵示・岩田昌太郎(2008)養成段階で行う体 育の模擬授業の効果に関する事例研究-テスト 映像を視聴した学生がきづいた体育授業の要 素-,広島大学大学院教育学研究科紀要第一部, 57:69-76. 木原俊行(2004)授業研究と教師の成長,日本文 教出版株式会社.

(12)

Behavior to Understand the Beliefs of Chinese Teachers Concerning Teaching Games for Under-standing. Journal of Teaching in Physical Education 32: 4-21 メリアム:堀薫夫・久保真人・成島美弥訳(2004) 質的調査法入門教育における調査法とケースス タディ,ミネルヴァ書房. 文部科学省(2006)今後の教員養成・免許制度の 在り方について(答申).中央教育審議会. http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo0/toushin/attach/1336998.htm( 参 照 日 平 成30年8月3日) 成家篤史・鈴木直樹・石塚諭(2018)体育の指導 観形成における組織内の教師の関係性に関する 研究,体育科教育学研究,34(1):1-16. 佐藤学(1997)「教師というアポリア-反省的実 践へ-」,p.174,世織書房. 白旗和也(2013)小学校教員の体育科学習指導と 行政作成資料の活用に関する研究,スポーツ教 育学研究,32(2):59-72. 住本純(2016)小学校教員養成段階における体育 授業観の様態-短期大学児童教育学科を事例に -,夙川学院短期大学研究紀要,43:18-26. 高橋健夫(1994)体育の授業を創る-創造的な体 育教材研究のために-,大修館書店. 高橋健夫・岡沢祥訓・中井隆司・吉本真(1991) 体育授業における教師行動に関する研究-教師 行動の構造と児童の授業評価との関係-,体育 学研究,36:193-208.

Tsangaridou, N. (2008) Trainee primary teachers’ beliefs and practices about physical education during student teaching. Physical Education and Sport Pedagogy, 13(2) 131-152 山崎準二(2002)教師のライフコース研究,p.11, 創風社. 吉崎静夫(1987)授業研究と教師教育(1)-教 師の知識研究を媒介として-,教育方法学研究, 13:11-17. 吉崎静夫(1997)デザイナーとしての教師アクター としての教師,金子書房.

A Study on the Changes in viewpoint of instruction of Physical Education Class in the Elementary School: Focusing on the teaching method of the subject for Preservice Teachers

by Makiko ETO University of the Ryukyus

   The purpose of the present study was to examine the views on physical education instruction that students, aspiring to be elementary school teachers, who attended “physical education research,” a course in the teaching methods of each subject, had and to understand how their views on physical education instruction changed. The results revealed the following three points.

1) Views on physical education instruction that students aspiring to be elementary school teachers had before and after attending the lectures were classified into “practice during the class,” “what they would like the children to learn,” and “children’s learning.”

2) Changes were observed in the number of described categories regarding the preservice teachers’ views on physical education instruction before and after attending the lectures. Specifically, the number of descriptions about the views on instruction regarding “safety management” decreased. On the other hand, the number of descriptions about the views on instruction regarding “practice during the class” increased. 3) It was suggested that what was learned during the lectures and the students’ experiences as teachers and

参照

関連したドキュメント

指導をしている学校も見られた。たとえば中学校の家庭科の授業では、事前に3R(reduce, reuse, recycle)や5 R(refuse, reduce, reuse,

第2 この指導指針が対象とする開発行為は、東京における自然の保護と回復に関する条例(平成12年東 京都条例第 216 号。以下「条例」という。)第 47

児童生徒の長期的な体力低下が指摘されてから 久しい。 文部科学省の調査結果からも 1985 年前 後の体力ピーク時から

ピアノの学習を取り入れる際に必ず提起される

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

3 学位の授与に関する事項 4 教育及び研究に関する事項 5 学部学科課程に関する事項 6 学生の入学及び卒業に関する事項 7