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トポロジーの学習内容とその教材群の研究―小学校から大学までの学習内容の系統性を意識して―

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1 1.はじめに 算数・数学を指導する上では,異校種間の接続を意識して指導することが重要である.具体 的には,小学校から中学校,中学校から高等学校における接続時のギャップを解消するため, 小中や中高の接続を意識して指導することが重要である.さらに,大学への進学率が 50%を 超えるユニバーサル段階に入り,二人に一人がより高度な大学数学についても学習するように なった現在では,高大接続を意識して指導することも重要となってきている.しかしながら, 数学教員にとって,個別の接続を意識するだけでなく,次の3 つの理由から,小学校から大学 までの関連する学習内容とその教材について系統的に整理し,俯瞰的に捉えておくことも重要 である. ・ 教科書の章末や巻末において発展的内容や関連するトピックとして大学数学の内容につ いても取り上げられていること ・ 約10 年ごとに学習指導要領が改訂され,小学校から大学の間で学習内容が移動すること ・ 現行の中学校および高等学校の学習指導要領から,発展的内容を取り上げる課題学習が追 加されたため,大学数学の内容を課題学習における課題として取り上げる機会が多くなっ ていること このように大学数学までの内容を系統的かつ俯瞰的に捉えておくことで,児童・生徒の興味・ 関心や理解度に応じて関連する上位の内容を授業において取り上げることができるようにな るであろう.このようなことから,「小学校から大学までの系統性を意識して学習内容とその 教材群を構成すること」は重要な研究テーマの一つであると考える. また,PISA や TIMSS などの国際比較調査結果によれば,日本の児童・生徒の算数・数学 に対する興味・関心は他国と比べて著しく低い状況である.私立 A 工業大学の学生へのヒア リング調査結果によれば,数学の中でも特に図形領域の内容に対して苦手意識や嫌悪感を持つ 学生が多かった.また,現行の学習指導要領では,小学校第6 学年,中学校第 2 学年および第 3 学年における空間図形の学習内容が少なく平面図形の学習内容に偏っている状況であるた め,継続的な学習という観点から,空間図形の学習内容の配置について再考する必要がある. このようなことから,図形教育においては,次の2 つの課題があると考える. ・ 児童・生徒が興味・関心を持つ図形領域の内容を明らかにすること ・ 平面図形と空間図形の学習内容を各学年にバランスよく配置すること 一方,平岡(1969)らの先行研究結果により,大学数学の幾何学におけるトポロジー(位相 幾何学)という分野は,児童・生徒が興味・関心を持つような内容を豊富に含んでいることが 明らかとなっている.このトポロジーの考え方については,現行の高等学校学習指導要領で約 40 年のブランクを経て復活した.具体的には,昭和 44 年告示の中学校学習指導要領ではトポ ロジーの考え方である「位相的な見方」という指導内容があり,その後この指導内容は廃止さ れたが,現行の学習指導要領でトポロジーの内容であるオイラーの多面体定理を指導すること が明示された.このような歴史的経緯から,トポロジーへとつながる学習内容(以下では,「ト ポロジーの学習内容」という)やその教材についての関連研究は,他の数学の学習内容に比べ 多くない状況である. 以上より,大学数学の幾何学における分野の中からトポロジーの分野を選び,本研究の研究 テーマとして「小学校から大学までの系統性を意識してトポロジーの学習内容とその教材群を

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2 構成する」と定めた.本稿では,トポロジーの中でも主にオイラーの多面体定理とその素地と なる多面体に焦点をあてて考察する.具体的には,以下の流れで研究を進める. 第 2 章 トポロジーの学習内容と教材の研究価値および学習内容の課題の考察 第 3 章 教科書におけるトポロジーの学習内容の分析 第 4 章 トポロジーの教材の先行研究結果の分析 第 5 章 トポロジーの教材の大学生への実践結果の分析 第 6 章 トポロジーの教材の高校生への実践結果の分析 第 7 章 トポロジーの教材の小学生・中学生への実践結果の分析 第 8 章 トポロジーの教材の小学生への実践結果の分析 第 9 章 トポロジーの教材の題材と教育的価値の考察 第10章 トポロジーの学習内容とその教材群の考察 第11章 研究結果のまとめ この中でも特に,第5章から第8章までのトポロジーの教材の実践結果については,児童・ 生徒の興味・関心の視点からも教材評価を行い,児童・生徒が興味・関心を持つ図形教材かど うか分析する.さらに,トポロジーの学習内容にはオイラーの多面体定理の素地となる空間図 形の多面体が含まれると考えることが妥当なため,トポロジーの学習内容と教材群を構成する ことで,図形教育における課題である「平面図形と空間図形の学習内容を各学年にバランスよ く配置すること」を解決するための示唆も得ることができると考える.つまり,本研究により, 図形教育における 2 つの課題解決の示唆を得ることができるため,本研究の研究テーマは研 究価値の高いものであると考える.

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3 2.研究の背景と準備 2.1 算数・数学に対する興味・関心についての課題 文部科学省が告示した小学校,中学校および高等学校の学習指導要領においては,算数的活 動や数学的活動に関して次のように明記されている. 【小学校学習指導要領(文部科学省,2008a)】 算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け, 日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数 的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度 を育てる.(p.43) 【中学校学習指導要領(文部科学省,2008c)】 数学的活動を通して,数量や図形などに関する基礎的な概念や原理・法則についての理解 を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察し表現する能力を高める とともに,数学的活動の楽しさや数学のよさを実感し,それらを活用して考えたり判断した りしようとする態度を育てる.(p.47) 【高等学校学習指導要領(文部科学省,2009a)】 数学的活動を通して,数学における基本的な概念や原理・法則の体系的な理解を深め,事 象を数学的に考察し表現する能力を高め,創造性の基礎を培うとともに,数学のよさを認識 し,それらを積極的に活用して数学的論拠に基づいて判断する態度を育てる.(p.53) このようにそれぞれの学習指導要領では,算数的活動や数学的活動の楽しさや数理的処理や 数学のよさについて,気付いたり実感したりすることを目標にしている.このため,教員は算 数的活動や数学的活動を通して,児童・生徒にそのよさや楽しさを実感させ,算数・数学に対 する児童・生徒の興味・関心を高めることが必要である.ここで,「広辞苑 第五版」(新村, 1998)では,興味や関心について次の通り記載している. 【興味】 物事にひきつけられること.おもしろいと感ずること.心理学では,ある対象やできごとに 特に関心を向ける傾向.(p.703) 【関心】 特定の事象に興味をもって注意を払うこと.ある対象に向けられている積極的・選択的な心 構え,または感情.(p.602) しかしながら,国際比較調査結果によれば,他国の児童・生徒に比べ,日本の児童・生徒は 算数・数学に対して興味・関心を持たなかったり,楽しくないと感じたりしていることが判明 している.具体的には,OECD(経済協力開発機構)が実施している 2012 年の PISA(生徒 の学習到達度調査)の「数学における興味・関心や楽しみ」の調査結果では,「数学で学ぶ内 容に興味がある」と回答した日本の生徒の割合は38%程度しかなく,OECD 平均の 53%より 低いため,数学の内容に興味がないと感じている生徒が多い状況である(国立教育政策研究所 2013,p.38).また,IEA(国際教育到達度評価学会)が実施している 2011 年の TIMSS(国

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4 際数学・理科教育動向調査)の「算数・数学の勉強の楽しさ」,「算数・数学の勉強が好きかど うか」および「算数・数学の勉強に対する自信」の調査結果はそれぞれ表1,表 2,表 3 の通 りであり,他国に比べて,算数・数学の勉強を楽しくないと感じ,また,勉強に対する自信も ない児童・生徒が著しく多いことが判明している(国立教育政策研究所2012,pp.20-25). 表1 算数・数学の勉強の楽しさ そう思う そう思わない 小学校第4 学年 73.3% 26.8% 国際平均値 84.2% 15.7% 中学校第2 学年 47.6% 52.4% 国際平均値 70.7% 29.3% 表2 算数・数学の勉強が好きかどうか そう思う そう思わない 小学校第4 学年 65.9% 34.1% 国際平均値 81.4% 18.5% 中学校第2 学年 39.1% 60.8% 国際平均値 66.2% 33.7% 表3 算数・数学の勉強に対する自信 自信がある 自信がない 小学校第4 学年 9% 48% 国際平均値 34% 21% 中学校第2 学年 2% 73% 国際平均値 14% 41% さらに,私立A 工業大学の学生へのヒアリング調査結果によれば,小学校の 4 領域である 「数と計算」,「量と測定」,「図形」,「数量関係」,また,中学校の4 領域である「数と式」,「図 形」,「関数」,「資料の活用」の中でも,図形領域の内容に対して苦手意識や嫌悪感を持つ学生 が多かった. 以上のようなことから,算数的活動や数学的活動を通して,児童・生徒が興味・関心を持つ 図形教材を実践し児童・生徒の興味・関心を高めたい.このため,「児童・生徒が興味・関心 を持つ図形領域の内容を明らかにすること」は図形教育における課題であると考える. 2.2 トポロジーの学習内容と教材の研究価値 第1章で述べた通り,「小学校から大学までの系統性を意識して学習内容とその教材群を構 成すること」が重要であった.また,「児童・生徒が興味・関心を持つ図形領域の内容を明ら かにすること」が図形教育における1 つの課題であった.このため,大学数学の幾何学の中か ら,児童・生徒が興味・関心を持つ内容を多く含む分野を選びたい.この幾何学の分野には, 微分幾何学,トポロジー,双曲幾何学,射影幾何学,代数幾何学などの分野がある.本稿では, 次の4 つの理由をもとに,大学数学の幾何学における分野の中からトポロジーの分野を選ぶ.

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5 ① トポロジーは教育的価値が高いため ② トポロジーは実生活との関連性が高いため ③ トポロジーには児童・生徒が興味・関心を持つ内容が多いため ④ トポロジーの内容が高等学校の学習内容に追加されたため なお,多面体の内容はオイラーの多面体定理の素地であり,また,一筆書きなどのグラフ理 論の内容はトポロジー的考え方の芽生えであると言われているため,本稿ではこれらの内容は トポロジーの内容に含めて考えることにする. まず,1 つ目の理由「①トポロジーは教育的価値が高いため」について考察する. 平岡(1969),宇野(1968)および日本数学教育学会(2010)の先行研究結果により,ト ポロジーは教育的価値が高いことが明らかとなっている. まず平岡(1969)は,トポロジーの教育的価値として,次の 5 点を挙げている(pp.161-168). (1)数学的な見方・考え方を育成する (2)数学的構造を理解させる (3)位相的概念を発達させる (4)学習を動機づける (5)種々の応用がある 以下では,この5 つの点について具体的に述べる. (1)では,トポロジーの観点に立った見方や扱いは数学的な考え方を育成するのに役立つ と述べている.その具体例として,ケーニヒスベルグの橋渡りの問題で幅,道のり,面積など の計量的な要素を無視して点と線の位相的なつながりの問題として捉える見方や考え方,平 面上の三角形,円,正方形は内側と外側の2 つの部分に分けるという共通の位相的性質を持 っていると捉える見方や考え方などを挙げている. (2)では,トポロジーの考えに根ざした構造の理解は,数学的構造の中の重要な一つであ る位相構造を理解させるのに役立つと述べている.N. Bourbaki が数学的構造として代数構 造,順序構造,位相構造の3 つを挙げている.位相構造の近さに根ざしたトポロジーの考え も用いていくことで,生徒は指導内容やそれらの相互関係の本質をよりよく理解したり,根 拠とすることがらを統合したりすることができると述べている. (3)では,トポロジーの考えを意図的に導入することで,その概念の発達をさらに促進さ せることができると述べている.具体的には,ユークリッド的観点で図形を指導する中で, 位相的観点からも指導することにより,図形の本質的な性質をより一層理解できるようにな ると述べている.このため,トポロジーを取り入れることで幼児期から育んでいる位相的概 念を発達させることができると述べている. (4)では,トポロジーの考えは児童・生徒の興味・関心を刺激し,学習に対する動機付け としても活用することができると述べている.具体的には,次のトポロジーの内容は児童・ 生徒が興味・関心を持つ題材となりうると述べている. 幸いにして,トポロジーに関した内容には児童・生徒に興味や関心のあると思われるも のが沢山ある.“ゴムによる幾何学”とか“飴細工の幾何学”などとよばれるトポロジーの幾何 学におけるケーニヒスベルグの橋渡りの問題,一筆書きの問題,迷路・迷宮の問題,ハミル

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6 トンの問題,地図の色分けの問題,メービゥスの帯,オイラーの多面体定理,網や多面体・ 曲面に関する問題などはその一例であろう.(pp.166-167) (5)では,トポロジーの考えは実社会でも種々の方面でその応用が拡大されつつあると述 べている.具体的には,心理学,生物学,工学などの多くの分野への応用があると述べてい る. 次に宇野(1968)は,トポロジーの教育的価値として,次の 3 点を挙げている(pp.84-85). (1)抽象化することの意味や意義がわかる (2)証明の根拠を明らかにするのに役立つ (3)無定義術語ということの意味がわかる (1)では,抽象化する考え方の必要性について述べている.具体的には,小学校ではもの の形を図形として抽象化しているが,中学校においては捨象や理想化のような抽象化を行う ことがないため,位相的な見方を中学校においても取り入れることが必要であると述べてい る. (2)では,ユークリッド原本の第一命題「与えられた線分を辺にもつ正三角形を作ること ができる」の論証における誤りを例示し,証明の根拠を明らかにする上で位相的な見方が役 立つと述べている.具体的には,この命題では「2 円の交点が存在すること」について明らか にされずに証明されていると指摘している.一方,位相的な見方ができれば,2 つの線が共有 点を持つか持たないか,曲線が閉じているか閉じていないか,ある点が閉曲線の中にあるか 外にあるかなどの性質を意識するようになるため,このような誤りは少なくなる. 以上のように,位相的な見方は証明の根拠を明らかにする上で役立つと述べている. (3)では,点や線を無定義述語として扱うことの必要性について述べている.具体的には, 位相的な見方で人を点で表したり,クラスの中の仲よし関係を線で結んだりして表す場合, この点や線はユークリッド幾何における点や線と異なり無定義語である.このように位相的 な見方での点や線を授業の中でも扱うことができるようになると述べている. 最後に日本数学教育学会(2010)は,先行研究例を挙げ,次のようにトポロジーの内容の教 材としての可能性について述べている. トポロジーは,離散数学とは対極のように思われるが,その組み合わせ的手法などの共通 要素も多い.中学校の教材にトポロジーが登場したのは,1969(昭和 44)年告示の学習指 導要領においてである.それ以後は扱われていないが,2009(平成 21)年度告示の学習指 導要領で,高校の多面体や離散グラフの内容に関連して再び扱われる可能性がでてきた. トポロジー教材の導入以前に,江原(1970)は,NCTM(1963)の「Topology」の内容 から,単純閉曲線,メービウスの帯,グラフの一筆書き,オイラーの公式,4 色体問題など の教材可能性を紹介している.内藤(1985)は,「教科書から離れていくらかでも興味を引 き,面白く感じてくれるような数学内容」として,トポロジーの内容も挙げている.仲田 (1978)は,「幹内容(※筆者注)のように,体系的で完成され,無駄や思考錯誤(筆者注: 試行錯誤)のないものに対し,断片的で荒けずりで,人間臭くて身近なトピック内容は,も っともっと内容も展開も指導法も研究されるべきものではないだろうか」とし,中学校のト ピック内容を例示する中で「位相的な見方」(一筆書き)も示している. このように,トポロジー教材は図形の多様で豊かな認識につながるという見方があり,そ

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7 の教材性を探ることは,依然として課題である.(pp.177-178) ※ 仲田(1978)は学習指導要領改訂で削除された「位相的見方」などの内容を「枝葉内容 (トピック内容)」,根幹の内容を「幹内容」と対比して表現している. これらの先行研究結果の通り,トポロジーは教育的価値が高いため,トポロジーの分野を 選びたい. 次に,2 つ目の理由「②トポロジーは実生活との関連性が高いため」について考察する. トポロジーは実生活との関連性も高い.多面体の内容を除けばトポロジーの内容につい ては,初等中等教育においてほとんど学習しないため,児童・生徒にとっては馴染みが薄 い.しかしながら,日常生活においては,トポロジー的視点で物体を捉えていることがあ る.例えば,プールや海では,穴が無いビーチボールと穴がある浮輪を目的に応じて区別 して選んでいる.また,企業などのロゴやシンボルマークは抽象化したものが多く,鉄道 の路線図は駅と駅の間の線路のつながり方のみに着目しており,その駅間の距離は考慮し ていない.このように,日常生活においては,トポロジー的視点で物体を捉えていること も多い. さらに,2016 年 10 月に発表されたノーベル物理学賞の受賞内容はこのトポロジーと の関連性もあったため,テレビや新聞などでもトポロジーが取り上げられた.また,テレ ビの教育番組である E テレの「ミミクリーズ」という番組内の「トポロジーのうた」で は,軽快なリズムに乗せて上着,イス,はしご,猫,人間などをトポロジー的視点で分類 することにより,幼児・児童に対してもトポロジーについてわかりやすく解説している. 上述の通り,トポロジー的視点で物体を捉えることも多く,また,テレビや新聞などで もトポロジーを取り上げていることから,トポロジーは実生活との関連性が高い.このため, トポロジーの分野を選びたい. 次に,3 つ目の理由「③トポロジーには児童・生徒が興味・関心を持つ内容が多いため」に ついて考察する. 前節で述べた通り,図形領域の内容に対する児童・生徒の興味・関心を高めることが重要 であった.1 つ目の理由の中で述べた通り,平岡(1969)は児童・生徒が興味・関心を持つト ポロジーの内容について例示している.特に,児童・生徒が興味・関心を持つ題材として,現 行の数学A の学習内容に追加されたオイラーの多面体定理を上げている. また,一般向けに出版された書籍においても,トポロジーの内容について取り上げているも のもある.例えば,一般読者向けの科学雑誌「Newton」の図形特集号である水谷(2014)で は,トポロジーの内容である正多面体,切頂二十面体であるサッカーボール,オイラーの多面 体定理,ハリオットの定理,メビウスの帯などを取り上げている.特に,正多面体が5 種類し かないことの証明やオイラーの多面体定理の証明についてもわかりやすく解説している.また, 算数や数学における素朴な疑問点について解説している数学教育協議会・銀林(1993)では, いくつかのトポロジーの内容に関する疑問点について解説している.「サッカーボールは球形 か」では切頂二十面体であるサッカーボール,「球面上に三角形はあるか」ではハリオットの 定理,「一筆書きできる図形,できない図形」では一筆書き,「正多面体はなぜ5 種類しかない か」では正多面体が5 種類しかないことの証明を取り上げており,疑問点について児童・生徒 にわかりやすく解説している. これらの先行研究結果の通り,トポロジーには児童・生徒が興味・関心を持つ内容が多いた め,トポロジーの分野を選びたい.

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8 最後に,4 つ目の理由「④トポロジーの内容が高等学校の学習内容に追加されたため」につ いて考察する. 平成21 年告示の高等学校学習指導要領において,数学 A の学習内容として多面体が追加 された.さらに,高等学校学習指導要領解説 数学編理数編(文部科学省,2009b)によれ ば,多面体の学習内容の中で,次の通りオイラーの(多面体)定理を取り扱うことが例示さ れた(p.50). 多面体に関する基本的な性質としては,オイラーの定理を用いて正多面体が5 種類しか ないことを扱うことなどが考えられる. このオイラーの多面体定理はトポロジーの内容であり,具体的には次の定理である. 【オイラーの多面体定理】 凸多面体の頂点の個数を

v

,辺の個数を

e

,面の個数を

f

として

v e f

  

2

が成り立 つ. この定理は,数学教育現代化の流れを汲み,昭和44 年告示の中学校学習指導要領では中学 校第3 学年の学習内容であった.しかしながら,急激な数学教育現代化の反省のもとで廃止さ れた.そのような歴史的背景の中で,平成21 年告示の高等学校学習指導要領により,数学 A の学習内容として復活した. 上述の通り,現行の学習指導要領から高等学校の学習内容にトポロジーの内容である多面体 やオイラーの多面体定理が追加されたため,トポロジーの分野を選びたい. 以上の 4 つの理由をもとにして,大学数学の幾何学における分野の中からトポロジーの分 野を選び,第1章で挙げた通り,本稿での研究テーマを次の通り定める. 【研究テーマ】 小学校から大学までの系統性を意識してトポロジーの学習内容とその教材群を構成する 2.3 トポロジーの学習内容の課題 第2.1 節では,「児童・生徒が興味・関心を持つ図形領域の内容を明らかにすること」が図 形教育における課題であると述べた.また,日本数学教育学会(2010)は,図形教育における 研究課題の一つとして,次の課題を挙げている(p.109). 小学校から高等学校までの学校数学を統合的に捉えた図形指導を実現するためのカリキ ュラムを構築する.また,ユークリッド幾何学,射影幾何学,位相幾何学等の内容をどの程 度どの学年に配置するかを考察する. このため,トポロジーの学習内容における次の 2 つの課題を解決することが重要であると 考える. 【トポロジーの学習内容の課題】 ・ 児童・生徒が興味・関心を持つトポロジーの内容を明らかにすること ・ トポロジーの内容をどの学年にどの程度指導内容として配置するか示すこと

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9 トポロジーの教材を興味・関心の視点からも教材評価し,小学校から大学までの系統性を意 識してトポロジーの学習内容とその教材群を構成することで,この 2 つの課題を解決するた めの示唆,特に,図形教育における2 つの課題を解決するための示唆を得ることができると考 える. 2.4 準備 研究を進めるにあたり,本節では教具,用語,算数教室の3 つの内容について整理する. まず,トポロジーの教材で使用する空間図形の教具について整理する.この研究では色々な 空間図形を作る上で,主に次の3 種類の教具を使用する. 【ポリドロン(図1)】 ・ 教科書会社である東京書籍で購入することができる. ・ 正多角形は正三角形,正方形,正五角形,正六角形,正八角形,正十角形の6 種類から なる.ただし,正八角形と正十角形は一般販売されていないため,実質は図1 の 4 種類 のみである. 図1 ポリドロン 図 2 ポリドロンで作った空間図形 ・ 高価である. ・ 正多面体や半正多面体などの色々な空間図形を作ることができる(図2). ・ はめ込んで組み立てるので,組み立てに時間がかかる. ・ 結合部は強く,組み立てた模型は頑丈である. 【マグフォーマー(図3)】 ・ 色々な玩具を取り扱っているボーネルンドで購入することができる. ・ 正多角形は正三角形,正方形,正五角形,正六角形の4 種類からなる.ただし,正六角 形はほとんどのセットに入っていないため,実質は図3 の 3 種類のみである. 図3 マグフォーマー 図 4 マグフォーマーで作った空間図形 ・ 高価である.

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10 ・ 正多面体や半正多面体などの色々な空間図形を作ることができる(図4). ・ 磁石でくっつけて組み立てるので,組み立てに時間がかからない. ・ 接合部は弱く,組み立てた模型は崩れやすい. 【ゲオマグ(図5)】 ・ ゲオマグワールドで購入することができる. ・ スチール製のボール(図5 上)と磁石のバー(図 5 下)からなる. 図5 ゲオマグ 図 6 ゲオマグで作った空間図形 ・ 高価である. ・ 正多面体や半正多面体などの色々な空間図形を作ることができる(図6). ・ 空間図形だけでなく,色々な平面図形も作ることができる. ・ 磁石でくっつけて組み立てるので,組み立てに時間がかからない. ・ 接合部は弱く,組み立てた模型は崩れやすい. 次に,本稿で使用する用語について整理する.初等中等教育において取り上げるトポロジー の内容を検討する中で,次のような16 種類のトポロジーの内容を取り上げることができるの ではないかと考えた. 【多面体】 ・ 正多面体 ・ 切頂多面体 ・ 半正多面体 ・ 双対多面体 【オイラーの多面体定理】 ・ オイラーの多面体定理 ・ 一般のオイラーの多面体定理 ・ オイラー数 【その他】 ・ 一筆書き ・ ハミルトングラフ ・ メビウスの帯 ・ デカルトの定理 ・ ポアンカレ・ホップの定理 ・ ハリオットの定理 ・ 結び目

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11 ・ 基本群 ・ ホモロジー群 本稿では,これらの内容を学習内容やトポロジーの教材の題材として考察する.これらの 内容を含み,本稿で使用する主な用語は以下の通りである.ただし,解説,記述,用語の厳 密性よりイメージを重視する. 【多面体】 多面体とは,平面だけで囲まれた立体のことである. 【凸多面体】 凸多面体とは,どの2 つの頂点を結んだ線分も多面体内に含まれる多面体のことである. 【正多面体・シュレーフリの記号】 正多面体とは,全ての面が同じ正多角形で,頂点周りが全て同じ形状となる凸多面体のこ とである.特に,正多面体は図7 の 5 種類からなる. 図7 5 種類の正多面体 本稿では,正

p

角形が各頂点の周りに

q

個集まってできる正多面体をシュレーフリの記号

{ , }

p q

で表す.また,その構成については巻末資料の表1 の通りである. ・ 正四面体

{3,3}

・ 正六面体

{4,3}

・ 正八面体

{3,4}

・ 正十二面体

{5,3}

・ 正二十面体

{3,5}

【切頂多面体】 切頂多面体とは,正多面体の各頂点の周りを同じ長さずつ切り取ってできる多面体のこと である. 【半正多面体】 半正多面体とは,全ての面が2 種類以上の正多角形からなり,頂点周りが全て同じ形状と なる凸多面体のことである.特に,切頂多面体には半正多面体となるものがある. 本稿では,半正多面体を頂点周りの形状に合わせて

[ , , ]

a b c

のように表す.例えば,頂点 周りの形状が正五角形1 つと正六角形 2 つからなるサッカーボールの形状の半正多面体は [5,6,6]と表す.このとき,半正多面体は次の 13 種類からなり,その構成については巻末資 料の表2 の通りである.

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12 ・ 切頂四面体[3,6,6] ・ 切頂六面体[3,8,8] ・ 切頂八面体[4,6,6] ・ 切頂十二面体[3,10,10] ・ 切頂二十面体[5,6,6] ・ 立方八面体[3,4,3,4] ・ 二十・十二面体[3,5,3,5] ・ 斜方立方八面体[3,4,4,4] ・ 斜方二十・十二面体[3,4,5,4] ・ 斜方切頂立方八面体[4,6,8] ・ 斜方切頂二十・十二面体[4,6,10] ・ 変形立方体[3,3,3,3,4] ・ 変形十二面体[3,3,3,3,5] ※ 鏡像や斜方立方八面体をひねったミラーの立体を除く. なおこの記号を使うことにより,5 種類の正多面体は,正四面体[3,3,3],正六面体 [4,4,4],正八面体[3,3,3,3],正十二面体[5,5,5],正二十面体[3,3,3,3,3]と表すことができる. また,図8 のような正

n

角柱は[

n

,4,4],正

n

角柱をひねった図9 のような正反

n

角柱は [

n

,3,3,3]と表すことができる. 図8 正五角柱[5,4,4] 図 9 正反五角柱[5,3,3,3] 【双対多面体】 双対多面体とは,頂点と面の役割を入れ換えると互いに移り合う正多面体の組みのことで ある(図10). 図10 双対多面体のイメージ シュレーフリの記号では

{ , }

p q

{ , }

q p

の2 つの正多面体の組み,つまり,正四面体は自 分自身,正六面体と正八面体,正十二面体と正二十面体の3 つの組みが双対多面体となる.

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13 【同相】 双方向に連続な全単射で移り合える位相空間を同相という. 【種数

g

の閉曲面】 穴の

g

個ある曲面を種数

g

の閉曲面という.例えば,球面は種数0 の閉曲面,ドーナツ型 の図形は種数1 の閉曲面,2 人乗りの浮輪型の図形は種数 2 の閉曲面(図 11),プレッチェ ル型のパン(図12)は種数 3 の閉曲面である. 図11 種数 2 の閉曲面 図 12 プレッチェル型のパン 特に,ドーナツ型の図形をトーラスという. 【閉曲面の分類定理】 向き付け可能な閉曲面は,正

4g

角形の辺を同一視した種数

g

の閉曲面または球面に同相 である.また,向き付け不可能な閉曲面は,正

2g

角形の辺を同一視した図形に同相である. 我々の住んでいる世界の3 次元空間においては,向き付け可能な閉曲面は実現できるが, 射影平面やクラインのつぼのような向き付け不可能な閉曲面は自己交差なしでは実現できな い.つまり,身近な図形を考える上では,正

4g

角形の辺を同一視した種数

g

の閉曲面と球面 のみを考えれば十分である. 【頂点,辺,面の個数】 頂点の個数,辺の個数および面の個数を,それぞれ

v

e

f

とする. 【一般のオイラーの多面体定理】 種数

g

の閉曲面と同相な多面体において,次が成り立つ.

2 2

v e f

g

    

【オイラー数】 オイラーの多面体定理の左辺

v e f

 

をオイラー数といい,

(カイ)で表す.種数

g

の閉曲面では

 

2 2g

となる.このオイラー数はトポロジーにおける位相不変量の一つで ある. 【木】 木とは,輪(ループ)のない折れ線だけからなる平面図形のことである. 【一筆書き】 一筆書きとは,点と辺からなる連結グラフにおいて,全ての辺を一度だけ通る道を描くこ とである. 特に,あるグラフが一筆書き可能であるための必要十分条件は,次のいずれかが成り立つ ことである. ・ 頂点から出ている辺の個数が,全ての頂点で偶数個

(15)

14 ・ 頂点から出ている辺の個数が,2 つの頂点のみ奇数個で残りの頂点では偶数個 【ハミルトンサイクル・ハミルトングラフ】 ハミルトンサイクルとは,点と辺からなる連結グラフにおいて,全ての頂点を一度だけ通 る閉じた道のことである.またハミルトングラフとは,そのような道を含むグラフのことで ある. 【ベクトル場】 各点に対して,その点を始点とするベクトルを連続的に対応させる対応のことをベクトル 場という. 【ベクトル場の特異点】 ベクトル場がある点で

0

になるとき,この点をベクトル場の特異点という. 【ベクトル場の特異点における指数】 特異点の十分近くの円周上を反時計回りに1 周回るとき,対応する単位ベクトルが単位円 上を向きも含めて回る回数を特異点における指数という.例えば,図13 の「湧き出し」や 逆向きの「吸い込み」の指数は+1,図 14 の「鞍点」の指数は-1 である. 図13 ベクトル場の湧き出し 図 14 ベクトル場の鞍点 特に,本稿では高々有限個の特異点しか持たないベクトル場のみを扱う. 【大円】 球面において,中心を通る平面で切った切り口のことを大円という. 【ポアンカレ・ホップの定理】 種数

g

の閉曲面上にあるベクトル場について,次が成り立つ. 特異点における指数の和

  

2 2g

さらに,曲面に境界がある場合には,境界上のベクトルが全て外向き(または内向き)であ れば類似の定理が成り立つ. 【デカルトの定理】 種数

g

の閉曲面において,次が成り立つ. 不足角の和

2



2 (2 2 )

g

このことから,球面と同相な多面体,例えば,正多面体や半正多面体などの凸多面体では, 不足角の和が

4

,つまり,

720

となる.実際正二十面体では,図15 の通り,一つの頂点の 周りに5 個の正三角形が集まっているため,そこでの不足角は

360

60 5 60

 

である. さらに,頂点は12 個あるため,多面体全体での不足角の和は

60 12 720

 

となる.

(16)

15 図15 正二十面体における不足角

60

 【ハリオットの定理】 半径1 の球面において,3 つの大円からできる球面三角形の内角が

  

, ,

であるとき,次 が成り立つ. 三角形の面積

   

   

この定理より,3 つの大円で囲まれてできる三角形の面積は,その内角だけから計算する ことができる. 【結び目】 結び目とは,3 次元空間にある自己交差のない輪のことである. 【基本群】 基本群とは,同じ基点を持つ輪のうち,連続変形で移りあわない輪からなる集合である. 特に,球面では全ての輪が基点に縮まり,トーラスでは縮まらない輪が存在する.このため, 基本群の考え方を用いると,2 つの図形を区別することができる. 【(1 次元の)ホモロジー群】 1 次元のホモロジー群とは,円盤の境界とならない輪からなる集合である.特に,集合を 生成する輪の数は,球面では0 個,トーラスでは 2 個,種数

g

の閉曲面では

2g

個ある.こ のため,ホモロジー群の考え方を用いると,これらの図形を区別することができる. 最後に,児童・生徒に対して教材を実践する「おもしろ算数クイズ」という算数教室につい て整理する.地域や社会における大学の存在意義が高まり,大学の社会貢献の重要性が増して いる.このため数学に関しては,大学数学について大学内で公開授業を行ったり,高等学校等 において出前授業を行ったりすることも多くなっている.筆者も同様に大学内外において「お もしろ算数クイズ」という算数教室を開催し,児童・生徒に大学数学の内容を体験させている. 特に,この算数教室では,次のような点を意識して実施内容を企画している. ・ 「面白い」,「楽しい」,「びっくり」,「不思議」,「なんで」などと感じる題材を選ぶ ・ ルールや説明を簡素化する ・ 算数的活動や数学的活動を重視する ・ 冊子(図16)を配付することで,実践内容を家でも体験できるようにする

(17)

16 図16 算数教室の配付冊子 このように算数教室では,算数的活動や数学的活動を通して,児童・生徒が「面白い」,「楽 しい」,「びっくり」,「不思議」,「なんで」などと感じる教材を体験させている.例えば,近年 では巻末資料の表3 の題材を選んでおり,特に,トポロジーの内容からはオイラーの多面体 定理,一筆書き,四色問題を選んだ. このように算数教室では,開発した教材の実践結果について興味・関心の視点からも分析 することができるため,本研究では,この算数教室の場を利用し,児童・生徒に対してトポ ロジーの教材を実践する.

(18)

17 3.教科書における学習内容の分析 平成20 年告示の小学校学習指導要領と中学校学習指導要領および平成 21 年告示の高等学 校学習指導要領では,「ゆとり教育」からの脱却を目指し,直前の学習指導要領と比べ授業時 間数が増えた.また,いくつかの内容に変更があり,例えば,二次方程式の解の公式を中学校 での学習内容に戻したり,行列を高等学校の学習内容から削除したりした.この現行の学習指 導要領のもとでは,高等学校の数学 A において,トポロジーの内容であるオイラーの多面体 定理について学習する.また,このオイラーの多面体定理の素地である多面体については,小 学校で立方体,直方体および角柱,中学校で角錐や多面体,高等学校で多面体について学習す る.このため,小学校,中学校および高等学校における教科書を調査し,トポロジーの学習内 容,特に,オイラーの多面体定理と多面体の学習内容について分析する.なお,多くの教科書 を引用するため教科書番号によりどの教科書であるか明示する. 3.1 小学校の学習内容 本節では,小学校の学習内容について分析する.小学校学習指導要領解説 算数編(文部 科学省,2008b)によれば,現行の学習指導要領では,トポロジーの内容である多面体に関 連する図形領域での学習内容は次の通りである(pp.14-15).なお,立体図形の体積につい ては,量と測定領域での学習内容として配置されている. 第1 学年 身の回りにあるものの形(立体図形)の観察や構成 第2 学年 箱の形 第3 学年 球 第4 学年 立方体,直方体 第5 学年 角柱,円柱 このように,小学校では立体図形の学習内容として,第4 学年で立方体と直方体,第 5 学 年で角柱や円柱について学習する.小学校におけるトポロジーの学習内容について網羅的に 調査するため,小学校の教科書を発行している大日本図書,東京書籍,学校図書,教育出 版,啓林館および日本文教出版の6 社全ての 2016 年度版教科書における学習内容を調査し た. 以下では,第4 学年,第 5 学年および第 6 学年における学習内容について分析する. 3.1.1 第 4 学年の学習内容 第4 学年における「立方体,直方体」での学習内容の特徴について考察する.小学校学習 指導要領(文部科学省,2008a)には,第 4 学年での図形領域の学習内容について,次の通 り明記されている(p.52). (2)図形についての観察や構成などの活動を通して,立体図形について理解できるよう にする. ア 立方体,直方体について知ること.

(19)

18 第3 学年までは,立体図形について感覚的に学習する.一方第 4 学年では,このように立 方体と直方体の観察を通して,これらの頂点,辺,面について学習する.このため,6 社全 ての教科書において,立方体と直方体の構成表を取り上げており,立体図形の観察を通して 頂点,辺,面の個数や面の形について考察させている.例えば,「小学算数4 年下」(小山 他,2015,算数 441)では,直方体と立方体における頂点,辺,面の数や形の構成表をまと めさせた後,「直方体と立方体はどこがちがうかな.」と質問し,2 つの立体図形の違いにつ いて考察させている.特に,二人の児童が「長さが等しい辺は,いくつずつあるかな.」, 「同じ形,大きさの面はいくつずつあるかな.」と発言し,考察する上でのヒントを与えて いる.しかしながら,第4 学年では立方体と直方体しか学習しないため,この構成表をもと に,オイラーの多面体定理を取り上げることは少ないと考える(p.111). また,小学校学習指導要領(文部科学省,2008a)の「3 内容の取扱い」には,具体的 な学習内容について,次の通り明記されている(p.54). (6)内容の「C 図形」の(2)のアについては,見取図や展開図をかくことを取り扱うもの とする. このため,6 社全ての教科書において立方体や直方体の見取図や展開図を取り上げていた. 以下では,立方体の展開図について特徴のあった3 社の教科書について述べる. 「新編新しい算数4 下」(藤井他,2015,算数 432)では,発展的内容を紹介する巻末の「お もしろ問題にチャレンジ!」において,ある条件を満たす立方体の展開図を作成させ,立方体 の展開図が11 種類であることを発見させている.具体的には,工作用紙やポリドロンなどを 使って,正方形を 4 つ付けた図 17 の図形に正方形を 2 つ付け足して展開図を完成させてい る.ただし,図18 の 4 つの展開図は同じであることを意識させて考察させている. 図17 正方形を 4 つ付けた図形 図 18 同じ展開図 同様に,正方形を3 つ付けた図形,正方形を 2 つ付けた図形でも考察させることで,展開図 は11 種類であることを発見させている(p.129). 「新版たのしい算数4」(赤・橋本他,2015,算数 433)では,直方体と立方体を辺にそっ て切り,徐々に開いていく状況を 5 段階で明示することにより展開図を作るイメージをわか りやすく解説している(p.208). 「わくわく算数4 下」(清水・船越他,2016,算数 439)」では,発展的内容として,立方体 の展開図は11 種類であると紹介している(p.93). 次に3 社の教科書では,直方体についての理解を促すため,直方体でない立体図形を与 え,直方体かどうか考察させている.例えば,「新編新しい算数4 下」(藤井他,2015,算 数432)では,体育で使用するとび箱のような形の立体図形を与え,直方体かどうか考察さ せている.さらに,その理由についても説明させている(p.92).

(20)

19 以上のように,第4 学年の教科書では,全ての教科書において直方体や立方体の構成表, 見取図や展開図を取り上げていた.また,一部の教科書では,立方体の11 種類の展開図や 直方体でない立体図形などを取り上げていた. 3.1.2 第 5 学年の学習内容 第5 学年における「角柱,円柱」での学習内容の特徴について考察する.小学校学習指導 要領(文部科学省,2008a)には,第 5 学年での図形領域の学習内容について,次の通り明 記されている(p.56). (2)図形についての観察や構成などの活動を通して,立体図形について理解できるよう にする. ア 角柱や円柱について知ること. 第4 学年での学習内容と同様に,6 社全ての教科書において角柱の構成表を取り上げてお り,多くの教科書では六角柱程度の角柱までの構成表において,頂点,辺,面の個数につい て考察させている.一方,「みんなと学ぶ小学校算数5 年」(一松・岡田他,2015,算数 534)では,章末の練習問題において,七角柱,八角柱,九角柱および十角柱の頂点,辺, 面の個数についても考察させ,構成表にまとめさせている(p.252). また,小学校学習指導要領(文部科学省,2008a)の「3 内容の取扱い」には,具体的 な学習内容について,次の通り明記されている(p.57). (3)内容の「C 図形」の(2)のアについては,見取図や展開図をかくことを取り扱うも のとする. このため,6 社全ての教科書において角柱や円柱の見取図や展開図を取り上げていた. 以下では,特徴のあった4 社の教科書の内容について考察する. 「新編新しい算数5 下」(藤井他,2015,算数 532)では,発展的内容を取り上げる「算 数のおはなし」において,「先のとがった立体」として,身近な立体図形であるティーバッ グ,ピラミッド,コーンなどを抽象化した図形は,三角錐,四角錐,円錐という図形である ことを紹介し,中学校第1 学年の学習内容である角錐と円錐を取り上げている.さらに,次 のように漢字の視点から解説し,具体物をイメージさせることにより柱体と錐体の相違点に ついての理解を深めている(p.111). 【柱】 【錐】 はしら きり 直立して支える材 穴を開ける道具 また,「かたちであそぼう」においては,一筆書きについても取り上げ,一筆書きができる 2 つの条件を示し,ケーニヒスベルグの橋渡り問題を一筆書きの問題に帰着させて考えたオ イラー自身が「次のようなとき,一筆がきでかけます.」と一筆書きができる条件について解 説している(p.77). 「みんなと学ぶ小学校算数5 年」(一松・岡田他,2015,算数 534)では,三角柱から六 角柱までの角柱について,底面の形,側面の形,頂点,辺,面の数を調べさせ,構成表を完 成させている.さらに,「それぞれの数にはきまりがありそうだわ.」とヒントを与え,角柱

(21)

20 の構成表における法則性について考察させている.具体的には,三角柱の構成表において, 次の通り計算方法を例示することで,

n

角柱における計算式を発見させている(p.247). 三角柱 面の数

2 3 5

 

,頂点の数

3 2 6

 

,辺の数

3 2 3 9

  

n

角柱 面の数

2 n

,頂点の数

n

2

,辺の数

n

 

2

n

「小学算数5」(坪田・金本他,2015,算数 536)では,三角柱から六角柱までの 4 つの 角柱の頂点,辺,面の個数について表にまとめさせ,「表を見て,いろいろなきまりを見つ けましょう.」を発問し,この構成表における法則性について考察させている.具体的に は,「『1 つの底面の辺の数』を□とすると,頂点や辺,面の数を,それぞれ式で表せそうだ ね.」と考察する上でのヒントを与え,「みんなと学ぶ小学校算数5 年」(一松・岡田他, 2015,算数 534)と同様に,底面の辺の数□を使って表現させている.さらに,「いろいろ なきまり」という表現を使用しているため,児童がオイラーの多面体定理を発見したり,教 員がオイラーの多面体定理まで発展させたりすることもあると考える(p.222). 以上のように,第5 学年の教科書では,全ての教科書において,角柱の構成表,角柱や円 柱の見取図や展開図を取り上げていた.また,一部の教科書では,角錐と円錐,一筆書き, 角柱の構成表における法則性などを取り上げていた. 3.1.3 第 6 学年の学習内容 第6 学年での学習内容の特徴について考察する.第 6 学年では,量と測定領域の内容とし て立体図形の体積を学習する.一方,図形領域の内容として,多面体などの立体図形を学習 しないため,トポロジーの学習内容はない.しかしながら,第6 学年は小学校における最終 学年であるため,小学校の学習内容の発展的内容や中学校での学習内容としてトポロジーの 内容を取り上げている教科書も多い.以下では,特徴のあった5 社の教科書の内容について 考察する. 「新編新しい算数6 数学へジャンプ!」(藤井他,2015,算数 631)では,算数から数学 へのつながりを紹介する「算数のまとめ」の「算数・数学リレー」において,「先のとがっ た立体」として,中学校第1 学年の学習内容である角錐と円錐を取り上げている.さらに, 柱体と同じように,錐体の場合も底面の形によって名前がついていることも解説している (p.202). 「新版たのしい算数6」(赤・橋本他,2015,算数 633)では,「体験フロア」において,「メ ビウスの輪を切ってみよう」として,1 回ひねりのメビウスの輪,2 回ひねりの輪の 2 種類の 輪を2 等分や 3 等分するように切るとどのような図形になるか考察させている(p.198). また,「一筆がきできるかな」として,一筆書きについても紹介している.具体的には,奇 数点と偶数点について定義し,奇数点の数,偶数点の数および一筆書き可能かどうかについて 表にまとめさせ,一筆書きができる条件について議論させている.さらに,この一筆書きの条 件は「中学よりももっと先の数学で,学習する機会があるよ.」と説明し,一筆書きは大学数 学の内容であることを示唆している(p.206). 「小学算数6」(坪田・金本他,2015,算数 636)では,算数から数学へのつながりを紹介 する「数学へのとびら」において,「サッカーボールの形を作ろう」として,合同な20 個の正 六角形を貼り合わせ,切頂二十面体であるサッカーボールの形を作らせている.また,「正六 角形と正五角形を組み合わせた形だね.」や「頂点はいくつあるかな.」と発問し,この立体図 形について考察する上でのヒントを与えている.このため,教員は切頂二十面体の性質につい て解説したり,この立体図形の辺の個数に加え直方体,柱体およびこのサッカーボールの構成

(22)

21 表を示すことで,オイラーの多面体定理まで発展させたりすることもできるのではないかと考 える(p.191). またこの教科書では,ケーニヒスベルクの橋渡り問題を取り上げ,一筆書きの歴史について 説明し,その後,一筆書きができる条件について考察させている(p.201). 「わくわく算数6」(清水・船越他,2016,算数 638)では,発展的内容を紹介する「算 数卒業研究」において,「簡単な図に表し,きまりを発見する算数」として,数学者のオイ ラーと一筆書きについて紹介している.具体的には,オイラーについて,ケーニヒスベルク の橋渡り問題を一筆書きの問題に帰着させて解決したこと,多くの論文を書いたこと,18 世紀最大の数学者と言われていることの3 つの視点で解説している(pp.226-227). また,「不思議でおもしろい世界をつくる算数」として,数学者のメビウスとメビウスの輪 について紹介している.具体的には,メビウスについて,図形や空間についての研究で活躍 したこと,メビウスの輪を作ったことの2 つの視点で解説している(pp.230-231). 「小学算数6 年下」(小山他,2015,算数 641)では,数学の歴史とともに発展的内容を 紹介する「マテマランドの探検」において,「頂点,辺,面の間の関係」として,数学者の オイラーが頂点,辺,面の関係式を発見したことを紹介している.また,角柱におけるオイ ラーの多面体定理を紹介した後,正四面体においてもオイラーの多面体定理が成り立つこと を考察させている.さらに,負の数を避けるため,オイラーの多面体定理について下記の通 り説明し,生活の中で見つけた立体でも考察するように促している(p.75). 線 は 帳 面 にひく 辺 = 頂 + 面 -2 また,「表も裏もない輪」として,数学者のメビウスがふつうの輪と違う「メビウスの 輪」を考えたことも紹介している(p.81). さらにこの教科書では,中学校での学習内容を紹介する「もうすぐ中学生」において, 「どのような立体ができるかな?」として,ふうとうを使って正四面体を作る手順を紹介し ている.具体的には,図19 のように,ふうとうの中心線上にある点 C を見つけさせ,線分 DE で切り取った後,点 A,B,C,F を 4 つの頂点とする正四面体を作成させている (p.99). 図19 四面体の作成の途中段階 以上のように,第6 学年の一部の教科書では,発展的内容を取り上げる巻末において,角 錐と円錐,メビウスの帯,一筆書き,切頂二十面体であるサッカーボール,オイラーの多面 体定理などを取り上げていた. 3.1.4 小学校の学習内容と課題 小学校におけるトポロジーの学習内容について調査した結果,各学年での学習内容につい A D C(裏 F) B E

(23)

22 て次のような特徴が明らかとなった. 第4 学年 【立方体と直方体】 ・ 立方体と直方体(◎) ・ 構成表(◎) ・ 見取図と展開図(◎) ・ 直方体でない立体図形(〇) ・ 立方体の11 種類の展開図(△) 第5 学年 【角柱と円柱】 ・ 角柱と円柱(◎) ・ 角柱の構成表(◎) ・ 見取図と展開図(◎) ・ 角錐と円錐(△) 【その他】 ・ 角柱の構成表における法則性(〇) ・ 一筆書き(△) 第6 学年 【その他】 ・ メビウスの帯(〇) ・ 一筆書き(〇) ・ 角錐と円錐(△) ・ サッカーボール(切頂二十面体)(△) ・ オイラーの多面体定理(△) (◎:全て,〇:半数以上,△:一部) 特に,多面体については,切頂二十面体であるサッカーボールや中学校第1 学年での学習 内容である角錐と円錐を取り上げている教科書もあった.さらに,第6 学年を中心に,トポ ロジーの内容である,一筆書き,オイラーの多面体定理,メビウスの帯などについて紹介し ている教科書もあった. 一方,小学校学習指導要領解説 算数編(文部科学省,2008b)には,算数科改訂の基本 方針として,図形領域の内容について,次の通り明記されている(p.6). (カ)「図形」の領域では,図形の意味と性質について理解すること,図形についての感 覚を豊かにすること,図形の見方を生活や学習に活用できるようにすることを重視する. 例えば,低学年から高学年にわたって,様々な図形をかいたり,作ったり,敷き詰めた り,形や大きさを比べたりする内容を指導するとともに,平面図形と立体図形の両者をバ ランスよく指導する.また,高学年で,図形の合同や拡大図・縮図などの内容を指導す る. このため,現行の学習指導要領のもとでは,次の点が重視されている.

(24)

23 ・ 図形についての感覚を豊かにする ・ 図形の見方を生活や学習に活用する ・ 平面図形と立体図形をバランスよく指導する 現在,第6 学年では,図形領域の内容として立体図形を学習することがない.このため, 「平面図形と立体図形をバランスよく指導する」という観点から見れば,第6 学年に立体図 形の内容を取り入れることが課題である.さらに,「図形についての感覚を豊かにする」と いう観点から見れば,図形を柔らかい目線で見る,つまり,トポロジー的視点から見る感覚 も育成することが必要となるのではないかと考える.実際,第2章で引用した通り,日本数 学教育学会(2010)は,「トポロジー教材は図形の多様で豊かな認識につながる」として, トポロジー的視点の重要性について述べている. 一方,いくつかの教科書では,発展的内容を取り上げる巻末において正多面体やオイラー の多面体定理などを取り上げていた.このため,第6 学年では,立体図形の正規の学習内容 として,正多面体やオイラーの多面体定理のような内容を取り上げることで,これらの課題 を解決できるのではないかと考える. 3.2 中学校の学習内容 本節では,中学校の学習内容について分析する.中学校学習指導要領(文部科学省, 2008c)には,空間図形の学習内容について,次のように明記されている. (2)観察,操作や実験などの活動を通して,空間図形についての理解を深めるとともに,図 形の計量についての能力を伸ばす. (中略) イ 空間図形を直線や平面図形の運動によって構成されるものととらえたり,空間図形を 平面上に表現して平面上の表現から空間図形の性質を読み取ったりすること.(p.48) さらに,「3 内容の取扱い」では,次のように明記されており,見取図,展開図,投影図 などを学習する. (5)内容の「B 図形」の(2)のイについては,見取図,展開図や投影図を取り扱うものと する.(p.50) また,中学校学習指導要領(文部科学省,2008c)および中学校学習指導要領解説 数学編 (文部科学省,2008d)では,空間図形の具体的な学習内容や数学的活動について,次のよ うに明記されている. 直観的な理解を助け,論理的に考察し表現する能力を培うために,例えば,立体の模型 を作りながら考えたり,目的に応じてその一部を平面上に表す工夫をしたり,平面上の表 現からその立体の性質を読み取ったりするなど,観察,操作や実験などの活動を通して図 形を考察することを基本にして学習を進めていく.(文部科学省,2008d,p.68) [数学的活動] (1)「A 数と式」,「B 図形」,「C 関数」及び「D 資料の活用」の学習やそれらを相互に関

(25)

24 連付けた学習において,次のような数学的活動に取り組む機会を設けるものとする. ア 既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだす活動 イ 日常生活で数学を利用する活動 ウ 数学的な表現を用いて,自分なりに説明し伝え合う活動(文部科学省,2008c, p.49) 中学校におけるトポロジーの学習内容について網羅的に調査するため,中学校の教科書を 発行している東京書籍,大日本図書,学校図書,教育出版,啓林館,数研出版および日本文 教出版の7 社全ての 2015 年度版教科書における学習内容を調査したところ,7 社全ての教 科書において多面体,角錐と円錐,正多面体,見取図,展開図,投影図を取り上げていた. 以下では,中学校第1 学年での学習内容について,正多面体,正多面体以外の多面体,課 題学習の3 つの視点から考察する. 3.2.1 正多面体の学習内容 「正多面体」の学習内容について考察する.中学校学習指導要領(文部科学省,2008c) に見取図,展開図,投影図などを取り扱うことが例示されているため,7 社全ての教科書に おいて,正多面体の展開図や見取図を取り上げていた.また,中学校学習指導要領解説 数 学編では,立体の模型を作りながら考えることが明記されているため,4 社の教科書では, 巻末に正多面体の展開図を与え,その展開図を組み立てる活動を通して,正多面体の性質に ついて考察させている. また4 社の教科書では,正多面体の頂点,辺,面の個数について表にし,その構成表を使 用して考察させている.例えば,「中学数学1」(澤田・坂井他,2015,数学 724)では,正 多面体の構成表を完成させた後,オイラーの多面体定理について,「3 つの数をたしたりひ いたりすると,同じ数になるよ.」と考察する上でのヒントを与え,オイラーの多面体定理 を発見させている(p.226). 「新しい数学1」(藤井・俣野他,2015,数学 721)では,正八面体の各面の真ん中の点 を結ぶと正六面体ができること,つまり,正八面体の双対多面体が正六面体であることを解 説し,「ほかの正多面体では,どうなるかな?」と発問し,立方体などの他の正多面体の双 対多面体についても考察させている(p.171). 3.2.2 正多面体以外の多面体の学習内容 「正多面体以外の多面体」の学習内容について考察する.7 社の教科書における正多面体 の定義は次の通りである. 【数学721】 多面体で次の2 つの性質をもち,へこみのないもの 1.どの面もすべて合同な正多角形である. 2.どの頂点にも面が同じ数だけ集まっている.(p.170) 【数学722】 すべての面が合同な正多角形で,どの頂点のまわりの面の数も同じである,へこみのない 多面体(p.206) 【数学723】 すべての面が合同な正多角形で,どの頂点にも面が同じ数だけ集まり,へこみのない多面 体(p.184)

(26)

25 【数学724】 どの面も合同な正多角形で,どの頂点にも面が同じ数だけ集まっていて,へこみのない多 面体(p.224) 【数学725】 多面体のうち,すべての面が合同な正多角形で,どの頂点に集まる面の数も等しく,へこ みのないもの(p.157) 【数学726】 次のような,へこみのない多面体 すべての面が合同な正多角形である どの頂点にも同じ数の面が集まる(p.166) 【数学727】 すべての面が合同な正多角形で,1 つの頂点に集まる面の数がどの頂点でも同じで,へこ みのない多面体(p.177) このように,各教科書では正多面体の定義として,次の3 つの条件を意識させている. ① 合同な正多角形からなること ② 頂点の周りの面の数が同じであること ③ へこみのない多面体であること しかしながら,定義だけでは正多面体をイメージできない生徒も多く,正多面体について 学習する中で,生徒が「正多面体でない多面体とは?」や「へこみのある(凸でない)多面 体とは?」のような疑問を持つことが考えられる.このため,4 社の教科書では,正多面体 以外の多面体も例示し,正多面体についての理解を深めている.例えば,「数学の世界 1 年」(相馬他,2015,数学 722)では,正二十面体の一つの頂点の周りをへこませたへこみ のある多面体を例示し,③の条件が必要であることを理解させている(p.206). また,「中学校数学1」(一松・岡田・町田他,2015,数学 723)では,正多面体でない多 面体として,切頂二十面体であるサッカーボール,正四面体同士を重ねた双三角錐(図 20)およびへこみのある多面体を例示し,「これらの立体は,正多面体とはいわないよ.」と 説明し,正多面体でない理由について考察させている. 図20 双三角錐 具体的には,順に,①の条件,②の条件,③の条件が必要であることを理解させている (p.184). さらにこの教科書の巻末では,数学者・物理学者であるアルキメデスの業績として,アル キメデスの原理,球の体積,円周率の近似値およびアルキメデスの立体の4 つを取り上げて

(27)

26 いる.特に,アルキメデスの立体では,正多面体に準ずる多面体として13 種類の半正多面 体の見取図を例示し,正多面体についての理解を深めている(巻末). また,3 社の教科書では切頂二十面体であるサッカーボールを取り上げている.例えば, 「中学校数学1」(一松・岡田・町田他,2015,数学 723)では,巻末にある正二十面体の 展開図を組み立てた後,この正二十面体の各辺を3 等分し,頂点の周りを切り取ることによ り,切頂二十面体であるサッカーボールができると解説している(p.199). 3.2.3 課題学習の学習内容 中学校学習指導要領(文部科学省,2008c)には,課題学習について,次のように明記さ れている(p.56). 課題学習とは,生徒の数学的活動への取組を促し思考力,判断力,表現力等の育成を図 るため,各領域の内容を総合したり日常の事象や他教科等での学習に関連付けたりするな どして見いだした課題を解決する学習であり,この実施に当たっては各学年で指導計画に 適切に位置付けるものとする. このため多くの教科書では,次の通り,巻末において,発展的内容や課題学習の題材とし て,トポロジーの内容を取り上げている. 【数学721】 <課題編 数学の探究> 正多面体は,なぜ5 種類? 【数学722】 <Mathful> 星形多面体 正多面体が5 つしかない理由 【数学723】 <課題学習・自由研究のページ> (取り扱いなし) 【数学724】 <自由研究> 一筆書き 【数学725】 <数学広場> 正多面体を調べよう 【数学726】 <数学の音> 多面体の頂点のとがり方 【数学727】 <数学研究室> 正多面体の種類 以下では,巻末において,発展的内容や課題学習の題材として,トポロジーの内容を取り 上げている6 社の教科書について考察する.

図 1  教材 C1-1 の調査紙
図 4  教材 C3-2 の調査紙
図 5  教材 C3-3 の調査紙
図 7  認識調査 5 の調査紙
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参照

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