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南スーダンの原風景を訪ねて (フォトエッセイ)

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Academic year: 2021

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(1)

南スーダンの原風景を訪ねて (フォトエッセイ)

著者

中野 智明

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

248

ページ

39-42

発行年

2016-05

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002953

(2)

■フォトエッセイ■

写真・文

 中 野 智 明

Tomoaki Nakano

牧畜民キャンプで毎朝、必ず行われる重要な作業。 害虫などから牛を守るために、牛糞を燃やした灰を、 体に擦り付ける 早朝の牧畜民キャンプで起き出した子どもたちが、ナイル川の水で顔を洗っていた ボートの縁で川を見つめる少年。「どこを見ているのか」 と視線を追うと、広大なサッドの風景が広がっていた

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牛に牛糞の灰を擦り付ける少年。 大人だけでなく、子どもたちも 牛を大事に扱う 密猟者が分け前の獲物を抱えて歩いていた。野 生の動物は撃っても、牛は狙わない 南スーダン 放牧からキャンプに 戻って来る牛の群れ。 牛の数は富を表すだ けではなく、尊敬の 象徴でもある 蚊よけのために牛糞を燃やした灰を、 体中に塗って寝るため、朝起きると こんな顔で「おはようございます」 サッドは、パピルスをはじめ様々な水草で覆われている   南スーダンの首都ジュバ。二〇一一年七月九 日の独立式典会場には誇りに満ちた喜びの瞬間 に涙を浮かべた人たちが大勢いた。アフリカの 新たな石油国家の誕生。あれからわずか五年弱。 サルバ・キール大統領とリエック・マチャール 元副大統領の間で二〇一三年一二月から始まっ た紛争が、治安を悪化させ、経済を破綻させた まま、多くの国内避難民が行き場を失っている。 昨年八月の和平交渉は合意に達したものの、戦 闘が止む気配はない。独立によって急激な生活 環境の変化がもたらされたが、どれだけの国民 に浸透しているのだろうか。   第二次スーダン内戦が激化していた一九九一 年の年末から一九九二年の正月にかけて、私は ドキュメンタリー番組の撮影隊とスーダン南部 の白ナイル川畔の町ボルに滞在した。戦時下に ありながら、伝統的な生活を守り抜くディンカ 牧 畜 民 を 撮 影 す る た め に 川 の 東 岸 か ら 西 岸 へ 渡 る ボ ー ト に 乗 る 交 渉 を、 当 時 の 反 政 府 勢 力 ( 現 南 ス ー ダ ン 政 府 ) と 繰 り 返 し て い た。 目 指 し て い た の は、 牧 畜 民 キ ャ ン プ が ま だ あ る と い わ れ て い た 地 域 へ 繋 が る シ ャ ン ベ と い う 村 だ っ た。 ケ ニ ア 国 境 か ら ボ ル ま で の 牧 畜 民 の 村 は ス ー ダ ン 軍 の 空 爆 で こ と ご と く 焼 き 払 わ れ、 逃 げ 遅 れ た 村 人 た ち の 遺 体、 牛 の 屍 を た く さ ん 目 撃 し た。 当 時 こ の 地 が 独 立 国 家 に な る こ と な ど、 ま っ た く 予 想 も で き な い こ と だ った。   ボルは、 ナイル川最大の難所と呼ばれる「サ ッ ド 」( ア ラ ビ ア 語 で 障 害 の 意 ) の 南 に 位 置 す る。 パ ピ ル ス に よ っ て 形 成 さ れ る 大 小 の 小 島 が 水 の 流 れ を 阻 み、 川 は 無 限 に 広 が り 巨 大 な 湿 地 帯 と な る。 マ ラ リ ア な ど 風 土 病 が 蔓 延 し て い た サ ッ ド で は か つ て、 多 く の 探 検 家 た ち が 移 動 す る パ ピ ル ス の 島 の た め に 方 向 を 失 っ て 命 を 落 と し た。 生 い 茂 っ た パ ピ ル ス の 奥 に 何 が 潜 ん で い る の か、 と 想 像 し た く な る ほ ど 先 が み え な い。 ナ イ ル 川 は サ ッ ド で 停 滞 し て い る 間 に、 水 量 の 半 分 以 上 が 蒸 発 し て い る と いう。   二 一 年 ぶ り に ボ ル を 再 訪 し た。 首 都 ジ ュ バ か ら 約 二 〇 〇 キ ロ の 道 を 車 で 四 時 間 以 上。 独 立 は 果 た し た が、 地 方 へ 向 か う 幹 線 道 路 で 舗 装 さ れ て い る 場 所 は 非 常 に 少 な い。 白 ナ イ ル 川 沿 い に 建 設 中 の 大 き な ホ テ ル が あ っ た。 屋 上 に 上 る と 当 時 は 壊 滅 状 態 だ っ た 牧 畜 民 キ ャ ンプが対岸にみえる。夕刻のキャンプでは、 夜 に備えて、 乾燥した牛糞に火をつけていた。立 ち 上 る 煙 が、 夜 間 の 蚊 の 攻 撃 か ら 家 族 と 家 畜 を 守 っ て く れ る の だ。 雄 大 な サ ッ ド の 風 景 の な か を、 ゆ っ く り と キ ャ ン プ に 戻 っ て 来 る 牛 の 群 れ を み て い る と、 内 戦 時 に 訪 れ た 記 憶 が

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牛に牛糞の灰を擦り付ける少年。 大人だけでなく、子どもたちも 牛を大事に扱う 密猟者が分け前の獲物を抱えて歩いていた。野 生の動物は撃っても、牛は狙わない 南スーダン 放牧からキャンプに 戻って来る牛の群れ。 牛の数は富を表すだ けではなく、尊敬の 象徴でもある 蚊よけのために牛糞を燃やした灰を、 体中に塗って寝るため、朝起きると こんな顔で「おはようございます」 サッドは、パピルスをはじめ様々な水草で覆われている 蘇 っ て き た。 あ の 頃 は、 服 を 身 に 着 け て い る 人 は ほ と ん ど い な か っ た。 全 裸 の 若 者 が A K 47を背中にかけて闊歩していた。   翌 朝、 船 外 機 の つ い た ボ ー ト で 対 岸 の 牧 畜 民 キ ャ ン プ へ 渡 っ た。 ま だ 起 き 出 し て い な い キ ャ ン プ の 様 子 を み て 周 辺 の 川 を 下 っ て み る と、 パ ピ ル ス の 小 島 が い く つ も 現 れ、 行 き 先 を 塞 い だ。 今 で も 首 都 ジ ュ バ と 上 流 の 町 を 結 ぶ航路が遮断されることがあるという。   牧 畜 民 た ち は、 蚊 よ け の た め に 体 に 灰 を 塗 っ て 寝 る た め、 早 朝 は 顔 や 体 が 白 っ ぽ く な っ て い る。 一 日 の 始 ま り は、 殺 菌、 虫 よ け の た め に 大 事 な 牛 に 牛 糞 の 灰 を 塗 る 作 業 か ら 始 ま る。牛が放尿するタイミングをみつけると、 近 付 い て 尿 で 顔 を 洗 う 人 が い る。 殺 菌 作 用 が あ っ て い い ら し い。 キ ャ ン プ 内 を 歩 い て い る と、 内 戦 時 と 違 う 風 景 に 気 が 付 い た。 誰 も が T シ ャ ツ 姿 で、 小 さ な 子 ど も た ち で も パ ン ツ を は い て い た。 物 が 入 り 込 ま な か っ た 牧 畜 民 キ ャ ン プ に、 服 だ け で は な く、 ビ ニ ー ル シ ー ト や 空 の ペ ッ ト ボ ト ル な ど も あ っ た。 独 立 し て か ら の 南 ス ー ダ ン で は、 急 速 な 貨 幣 経 済 の 導 入 と 物 流 が ボ ル な ど の 主 要 な 町 を 変 え た だ け で は な く、 周 辺 の 牧 畜 民 キ ャ ン プ の 生 活 に ま で 浸 透 し 始 め て い た。 四 半 世 紀 程 の 時 間 が 経 過 し て も、 サ ッ ド の な か の 牧 畜 民 の 生 活 は ま だ し っ か り と 残 っ て い た が、 牧 畜 民 の 牛 を 中 心 に し た 生 活 は、 確 実 に 変 化 の 波 に 巻 き 込 ま れ ている。   四 〇 億 ド ル と い う 国 家 の 公 金 が 二 〇 一 二 年、 政府関係者によって盗まれ消えてしまった。 キ ール大統領は返却を求める手紙を書いたが、 こ の 巨 額 の 金 の 行 方 は、 今 も 不 明 の ま ま だ。 牧 畜 民 に と っ て は 牛 の 数 が 富 の 象 徴 だ が、 貨 幣

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夕刻の牧畜民キャンプでは、牛の糞に火がつけられ、夜を過ごす準備が始まる サッドの中をボートで進む。水草を避けながらなので 真っ直ぐ進めず、時間がかかる 夕日が沈んだ直後に、ボートを漕いだ 男がナイル川の対岸から牧畜民キャン プに戻る なかの ともあき/フォトジャーナリスト フォトジャーナリスト。83 年からアフリカ大陸で活動を続け、 ルワンダ大虐殺、南アフリカのアパルトヘイト終焉の現場など を取材。2015 年までに 47 カ国を訪れた。 経 済 の 価 値 観 が 広 が っ て い く な か で、 富 め る 者 と 国 家 経 済 の 底 辺 に い る 者 と の 格 差 の 自 覚 が 始 ま る ま で、 時 間 は か か ら な い の で は な い か。 原 油 が も た ら す 富 の 分 配 な ど あ る の だ ろ う か。 巨 額 の 公 金 を コ ン ト ロ ー ル で き な い 政 府 の 存 在 と 牧 畜 民 の シ ン プ ル な 生 活。 こ の 二 つ の 両 極 が ひ と つ の 国 の な か で、 ま っ た く 別 の 風 景 を 作 り 出 し て い る。 二 〇 年 以 上 前 に み た 戦 場 は、 異 な る 民 族、 違 う 宗 教 に 対 し て 自 ら の 存 在 を 勝 ち 取 る 戦 い の 場 で あ っ た。 し か し 今、 仲 間 同 士 が 殺 し合う。権力、 石油の利権のための争いには、 戦 い の 大 義 が 不 明 だ。 昨 年 か ら、 ジ ャ ー ナ リ ス ト の 殺 害 も 続 い て い る。 キ ー ル 大 統 領 は「 報 道 の 自 由 は 国 家 に 刃 向 っ て も い い と い う こ と で は な い 」 と し て、 反 政 府 的 な 記 事 を 発 信 す る こ と は 許 さ な い と 警 告 し て い た。 自 ら の 国 家 の 姿 を 理 解 せ ず、 石 油 マ ネ ー の 使 い 道 を 考 慮 せ ず、 富 め る 者 と、 そ う で は な い 大 多 数 の 国 民 の 差 は 大 き く な る ば かりだ。   独 立 四 周 年 記 念 日 に、 独 立 を み る こ と な く、 謎のヘリコプター事故で死亡した南部スーダン 解放闘争の父ジョン・ギャランの妻レベッカは 「 解 放 闘 争 を 戦 っ て き た 南 ス ー ダ ン の 国 民 に 何 も還元できていない現状を申し訳なく思う」と いう遺憾の意をイギリス国営放送のインタビュ ーに答えて語った。   開 発 す る に は、 あ ま り に も 広 大 な サ ッ ド は、 今も変わらず悠久の姿をみせる。しかし、この 風景の奥には残念なことに、私利私欲という紛 争の種が大きく広がっている。豊富な原油を有 するこの国の将来が、サッドで蒸発しているナ イ ル 川 の 水 の よ う に な ら な い で ほ し い も の だ。 目に映る原風景は今も変わらない。

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1 Library, Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization (3-2-2 Wakaba Mihama-ku Chiba-shi, Chiba 261-8545). 情報管理 56(1), 043-048,

Basic Input-Output Table of Thailand, 1975, (IDE Statistical Data Series, No. 30), Tokyo: Institute of Developing Economies. OSCAS-NEC (Office of Statistical Coordination

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