1 .背景と目的 消費形態として、物品やサービスの購入以外にも使用価値を重視した「コト消費」が注目さ れている1)。施設の場合は、特定の場所での体験する時間を提供する。本報告では、その場所 でしか得られない固有性が高く記憶に残りやすいコト消費型の体験を場所体験と称する。 施設が場所体験に価値を置くことにより、利用者の場所への興味や関心を高め、繰り返し訪 問が促進されやすい。この手法は明確なターゲットが設定されやすいことから、従来はテーマ パークやショッピングモールなどで取り入れられてきたが、個人でも情報発信や情報拡散がで きるソーシャルネットワークサービス(以下、SNSと称す)が広がるなかで、公共施設も含 めた幅広い対象で、場所体験のあり方が問われている。とりわけ、一貫したテーマにもとづき 整備された施設では、関心を共有する人々が集うコミュニティの形成にもつながることから、 イベントや展示内容、施設内の店舗管理など多岐にわたって場所体験と関連付けることが重要 である2)。関心を共有するコミュニティが周辺住民まで広がることで、地域の共有財の創造に までつながる可能性がある。しかしながら、公共性が高いことやそれほど大きくない規模であ ることから、公共施設において効果的な場所体験の手法は明らかになっておらず、行政や指定 管理者が試行錯誤している段階と言える。 本報告では、テーマ型の公共施設で農業公園の名古屋市守山区東谷山フルーツパーク(以下、 東谷山FPと略す)において、場所体験のための 3 種類のイベントを実践し、参加者へのアンケー トと企画者の振り返りにもとづきイベントの評価を行った事例を紹介する。
【活動報告】
テーマ型公園施設における
場所体験イベントの実践と評価
加藤 悠介 弓立 順子
金城学院大学生活環境学部Evaluation on Planning Events for Place-Experience in
TOUGOKUSAN Fruit Park
Yusuke Kato,Junko Yudate
2 .研究方法 2-1.東谷山フルーツパークの概要 対象である東谷山FPは名古屋市守山区にある1980年に開園された果樹をテーマにした農業 公園で、約12.5万㎡の敷地をもつ。敷地内には、梨や梅、柿、林檎などが植えられた15種類の 果樹園や、熱帯・亜熱帯地域でみられる約100種類の珍しい果樹を観察できる果樹温室、果物 に関する知識を紹介する施設、売店、レストハウス、無料休憩所、本館施設などが整備されて いる(図 1 )。 東谷山FPの運営管理には指定管理者制度が取り入れられている。現在、指定管理者として 公益財団法人が公園施設の運営管理以外にも多くのイベントを企画している。しかしながら、 収穫体験や調理方法の講習など果物や果樹そのものについての内容が大半であり、公園で滞在 して時間を消費することに焦点を当てたものは少ない。また、見ごろの果樹が少ない時期は閑 散期となり、来場者数の季節的な変動が大きい課題もある。 そこで、東谷山FP自体への関心を高め、定期的な来場者の増加を目的に、場所体験を重視 した内容のイベントを開催することとなった。 図 1 東谷山フルーツパークにある施設 2-2.イベントの内容 企画したイベントは以下の 3 種類である(図 2 )。企画と実践にあたっては、金城学院大学 環境デザイン学科の特別プロジェクトチーム(学部 2 年生 8 名、学部 3 年生12名)が企画者と して主体となって進め、指定管理者と相談しながら内容が決定された。参加者の募集にあたっ ては、指定管理者が東谷山FPの会員に対してイベントを周知した。 1 )ピクニックアクティビティ 「おしゃピク」と呼ばれるSNSで流行しているスタイルを取り入れたイベントで、参加者 が東谷山FPにある様々な場所の固有性を探し感じることを目的とした。主に若者層や小さな 子どものいる家族に向けた内容とした。具体的には、デザインが統一されたフォトプロップス (写真を撮影する際に人物の演出目的で使用する小道具)、レジャーシート、紙コップ、黒板の グッズを 1 セットにして参加者に貸し出される(図2-a)。参加者は園内において絵になる風景 を背景に滞在できる場所を探し、そこで会話や昼食、フォトプロップスを使った写真撮影など
2018年 9 月15日(土)の11時から 3 時間ほど行われた。天候は雨時々曇りであった。 2 )工作体験と展示 ペットボトルをアレンジする工作体験と、実際に制作した容器を果樹温室に展示することで、 参加者に東谷山FPに馴染みを感じてもらうことを目的とした。主に小学生高学年を対象とし て想定した。果樹温室では、従来から害虫対策として木酢液をペットボトルに入れて使用して いたが、果樹温室の景色としてふさわしくないという課題があり、それを解決するためにこの イベントが企画された。工作体験は東谷山FPの本館施設の多目的室において、数名のグルー プに分かれて企画者が準備した制作手順に沿って進められた(図2-c)。必要な材料や道具は企 画者および指定管理者が用意した。その後、参加者は果樹温室を訪れ、指定管理者から説明を 聞きながら散策し、気に入った果樹の近くに自分の制作した容器を展示した(図2-d)。イベン トは、2018年10月14日(日)の14時から 1 時間ほど行われた。 3 )ワークブック 果樹温室にある果樹に対する知的な好奇心を高め、閑散期であっても来場者に楽しみを提供 することを目的とした。主に小学生を想定してワークブックは制作された。果樹温室は東谷山 FPのなかでも、珍しい果樹が観察できる魅力的な場所であり、年中を通じて利用できる。こ のイベントでは「冒険ノート」と呼ばれるワークブックが作成され、果樹温室の入館者に配布 された(図2-e)。ワークブックは参加者が温室内の様々な場所を巡れるように、地図とクイズ スタンプラリーで構成され、クイズは果樹を観察しながら回答する工夫が施された(図2-f)。 このイベントは、工作体験と同日に行われ、11時から用意したワークブックがなくなる14時頃 まで行われた。なお、果樹温室に入るには入館料(大人300円)が徴収される。 図 2 場所体験イベントの様子
2-3.評価の方法 イベントの評価は、参加者へのアンケートと企画者の振り返りにより行った。アンケートは、 イベントへの満足度、イベントごとに気に入った道具や内容などをたずねる選択質問を 4 つと 自由記述から構成した。振り返りは、企画者がイベント実施後によかった点と改善点を400字 程度の文章として作成したものをデータとして使用し、出現した項目内容ごとに記述を整理・ 集計した。 3 .結果と考察 3-1.ピクニックアクティビティの評価 参加者への主なアンケート結果を図 3 に示す。参加者は大人12名、子ども15名、計 8 組で あった。気に入った道具は、フォロプロップスが 6 組と多く、次いで黒板の 2 組であった。洗 練された魅力的な写真が撮れるためと考えられる。SNSの利用状況の回答ではLINE( 5 組) をはじめ多くの人が利用していた。プライバシーの課題はあるものの東谷山FPの情報を拡散 できると考えられる。次回の機会があれば参加したいかとの質問に対しては、全員がしたいと 図 3 ピクニックアクティビティに対する参加者の評価 表 1 ピクニックアクティビティに対する企画者の意見
回答した。グッズに慣れるまでの時間が必要な参加者もおり、繰り返し行うことでより魅力的 な体験になると思われる。 企画者10名の振り返りで出た主な記述を表 1 に示す。よかった点として、子どもがグッズを 楽しんで使う様子がみられたことが多くあげられている。また、SNSの拡散には直接つなが らないものの家族の思い出の残す写真は撮影できるのではないかとの評価もある。参加者が主 体的に過ごし方を決めていることから、楽しそうな印象が企画者のように周辺にいても強く伝 わっており、このことは公園全体の活発性を高めることにも寄与しやすいと考えられる。一方 で、改善点として、レジャーシートが小さすぎることや、家族の人数の違いによる用意するセッ トの数や種類の検討が多くあげられており、参加者それぞれが異なった過ごし方をするイベン トにおけるニーズ把握の難しさが指摘できる。また、天候が大きく影響することも事前の準備 を難しくしていた。 3-2.工作体験と展示の評価 工作体験と展示の参加者へのアンケート結果を図 4 に示す。参加者は22組で、全てが親子で の参加であった。ペットボトルを使った工作体験の難易度では半数が普通と回答しており、制 作手順は適切であったと考えられる。ただし、未就学児にとってはホチキスの使用など難しい 図 4 工作体験と展示に対する参加者の評価 表 2 工作体験と展示に対する企画者の意見
作業もみられた。工作体験の前に参加したことは、園内散策が最も多く15組、次いで同日に指 定管理者が企画したみかん狩りが 4 組であった。このことから必ずしも他のイベントと合わせ て企画する必要はなく、参加者は自分たちの時間や趣味嗜好のなかで、イベントを選択してい ると推察される。次回の機会があれば参加したいかとの質問に対しては、全員がしたいと回答 しており、果樹温室での展示も含め場所体験につながる内容であったと言える。そのなかでも 図4にある有料でも参加したいと回答したのは13組で、 3 組は制作した作品を自宅に持ち帰り たいと希望していた。そのため、園内に飾るだけでなく作品を自宅へ持ち帰られるように選択 肢を広げると効果的であると考えられる。 企画者 5 名の振り返りで出た主な意見を表 2 に示す。改善点としては、参加希望者に対する 開始や内容についての伝達不足が目立った。企画者と指定管理者との準備段階での情報共有が 不十分であっため、イベント運営に関するアドバイスが得にくかったことが要因のひとつと思 われる。事前に東谷山FPのホームページやSNSでイベント内容を発信することを準備項目 に含めることで解決につながると考えられる。 3-3.ワークブック ワークブックは100部配布した。そのうち56名からアンケートの回答を得た。結果を図 5 に 示す。参加者を年齢別にみると30歳から49歳、50歳から69歳が多く、家族や高齢者グループで 図 5 ワークブックに対する参加者の評価 表 3 ワークブックに対する企画者の意見
の参加が目立つが、一方でその他の年齢層も多く参加していた。また、49名がこのワークブッ クを通して果樹に関心を持ったと回答した。さらに、クイズの難易度を普通と回答した参加者 は31名であった。このように幅広い年齢層に評価が高かったのは、クイズ形式の手順がわかり やすいためであり、参加者が気軽に取り組めるイベントは場所体験のきっかけになりやすいと 考えられる。ただし、本来の目的であった 0 歳から 9 歳の子どもの参加は少なかった。家族連 れで参加した場合、親のみがアンケートに回答したことも一つの要因と考えられることから、 実際の状況を把握できるように評価方法を見直す必要もあると思われる。 企画者 3 名の振り返りで出た主な意見を表 3 に示す。企画した際に想定していた効果が得ら れたとする意見があった一方、スタンプの位置が明確でないことや答え合わせのできるスペー スの設置が必要といった記入場所に関する改善点があがった。このことは、現場で対応する人 (例えば、果樹温室のガイド)との綿密な事前相談が不可欠であることを示している。また、ワー クブック自体の改善点も複数あがり、今後は季節ごとにクイズ内容を変化させるなど果樹温室 の多面的な魅力を伝える工夫が重要であると思われる。 4 .まとめ 本報告では、農業公園の東谷山FPにおいて、 3 種類の場所体験イベントを実践し、参加者 のアンケートおよび企画者の振り返りの記述から評価した。その結果を以下に示す。 1 ) 3 種類とも参加者の評価は高く、定期的に行うことでコト消費につながる可能性がある。 2 )東谷山FPに親しみを感じるための工作や好奇心を高めるためのワークブックは、作業手 順がわかりやすいため幅広い人が参加できる。また、工作の場合、作品を園内に飾るだけで なく自宅へ持ち帰られるように選択肢を設けると効果的である。 3 )記憶に残る時間を過ごすためのピクニックアクティビティは、参加者が主体的に行為内容 を決めることから参加者は限られるものの、周辺からも楽しそうな様子を眺められ、公園全 体の活発性を高める効果がある。 4 )企画者と指定管理者との相談不足やピクニックアクティビティでのニーズの把握の難しさ、 SNSを利用した情報発信などの具体的な課題も明らかとなり、想定した参加者像を明確に した内容にするなどより効果的な手法へと改善する必要がある。 本報告と東谷山FPでのイベントの活動実施にあたっては、平成30年度金城学院大学消費生 活科学研究所活動補助費の支援を受けて行いました。深く感謝いたします。 参考文献 1 )室井淳司:体験デザインブランディング コトの時代の、モノの価値の作り方,宣伝会議, 2015 2 )山崎亮:コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる,中公新書,2012