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〈翻訳〉フリードリヒ・フォン・シラー著『トロヤ陥落』(1)(ウェルギリウス『アエネーイス』第二歌の八行詩訳)

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(1)

Friedlich von Schiller, ,

(Freie Übersetzung des zweiten Buchs der »Aeneide«), Japanische Übersetzung ⑴ < 凡 例 >

翻 訳 の 底 本 と し て、Thalheim, H. G., Fix, P. u.a. hrsg.(2005). , , Bd.7. Berlin: Aufbau Verlag.(Die Berliner Ausgabe auf CD-ROM: , Karsten Worm, InfoSoftWare, 1. Aufl ., Berlin 2008)を用いた。また、Ingenkamp, H. G. hrsg., , , 15. Bd., Teil 1, ., H. Böhlaus Nachfolger, Weimar 1993 も参照した。

さらに、翻訳に際し、以下を参考にした。

Deutsches Wörterbuch von Jacob Grimm und Wilhelm Grimm(独独辞書) (http://woerterbuchnetz.de/DWB/).

Müller, U., Vergils „Aeneis in den Übersetzungen von Friedrich Schiller und Rudolf Alexander Schröder. Ein Vergleich. , 14 (1970), p. 347∼365. 本作品、シラー著『トロヤ陥落』の和訳は管見ではまだ出ていないが、ウェルギリウス 著『アエネーイス』の和訳は既に沢山出ている。例えば、泉井久之助訳『アエネーイス』 岩波文庫、全 2 巻、1976 年や、岡道男・高橋宏幸訳『アエネーイス』西洋古典叢書、京都 大学学術出版会、2001 年など。ただし、シラーの本作品は『アエネーイス』第二歌の自由 訳というべきもので、厳密な翻訳というよりは『アエネーイス』を題材とした翻案である ため、ウェルギリウス作品や訳とは大幅に異なる、シラー独自の新たな作品となっている。 訳文において、人名や地名等の固有名詞は、原則としてドイツ語の発音で表記した。し かし注においては、本文に出てこない固有名詞は、日本語の呼び名で浸透しているものは そちらに合わせた。(例:デルフス→デルフォイ)注の前に、作品中に出てくる固有名詞 のリストを、ドイツ語読み、ラテン語読み、必要に応じてギリシア語読みを別にして挙げ

高畑 時子

(ウェルギリウス『アエネーイス』第二歌の八行詩訳)

(2)

た。 また、和訳の際、訳文には、原文がヘクサメターよりは自由な八行詩形であるというこ とと、和文の詩を作る訳者の力量が不足しているため、散文体を用いた。ただし、過去に 作られたウェルギリウス『アエネーイス』の和訳には、上掲の泉井訳など韻文調で書かれ たものもある。 < 書 誌 解 題 >

フリードリヒ・フォン・シラー(Friedrich von Schiller, 1759∼1805 年)は、ドイツの 詩人で劇作家である。マールバッハで生まれ、7 歳の頃に牧師としての教育を受けるため ルードヴィヒスブルクのラテン語学校に入学した。このため、早くからラテン語に親しん でいた。シラーの生きていた時代、多くのドイツ人作家らがこぞって古典作品、特にホ メーロスなどギリシア叙事詩を翻訳した。しかもホメーロスのヘクサメター(Hexameter 六韻脚)の韻律をそのままドイツ訳でも再現していた。このような中、シラーやフォス (Johann Heinrich Voss, 1751∼1826 年)など数少ない作家らが、ラテン文学のウェルギリ ウス『アエネーイス』の翻訳に着手した(ただし、フォスはホメーロスも翻訳した1)。シ ラーのラテン翻訳作品はいずれも『アエネーイス』(B.C. 26 年頃)の抄訳である。『アエ ネーイス』全 12 歌のうち、シラーは第一歌 34∼156 行の箇所を、わずか 21 歳の頃の 1780 年、ホメーロスなどを訳していた他のドイツ人同様、原書と同じヘクサメター形式で訳す るという難業を果たし、それに『ティレニア海の嵐』( )2という題を付けた。これをシラーは『シュヴァーべン学術誌』 (II. Stück. Stuttgart, p. 663∼673. シュヴァーベンとはドイ ツ南西部の地方で、シラーの故郷)という地方紙に発表したが、その評判は散々なもので あった。例えば、「ウェルギリウスを Hexameter 形式で訳すと、ぎこちなく調和に欠け、 仰々しい文になってしまう」(Ingenkamp, 1993: p. 270)などと 1792 年に、ニュルンベル クの新聞で酷評された。3 後年、シラーはゲーテの推薦により 30 歳でイェーナ大学歴史科教授となり、その後 32 歳の時、胸の病気により生死をさまよった。翌年、シラーは雑誌『タリーア』( ) を創刊し、再び『アエネーイス』の翻訳に着手し、今度は『アエネーイス』第二歌を全訳 した。そして、それに『トロヤ陥落』( )との題を付けて 1792 年に刊行、4 続いて第四歌も全訳し、それに『ディードー』( )との題を付け、同年に 刊行した。5 この時、シラーが 33 歳頃であった。これらについては賛否両論が上がった。

(3)

批判したが、シラーの友人ケルナー(Justinus Andreas Kerner, 1786∼1862 年)はシラー との書簡にて八行詩形による翻訳を絶賛したし、当時の新聞でも方々から高評価な書評が 寄せられた。6 うち、シラーが若年時代に訳した『ティレニア海の嵐』は、原作と同じヘクサメタ―形 式で訳されたが、『トロヤ陥落』と『ディードー』は近代ヨーロッパの一般的な詩形であ る八行詩(シュタンツェ Stanze)形で訳された。そしてシラーが 1805 年に 45 歳の若さで 死去する数年前の晩年になって、1800 年から 1803 年に『詩集』( )7を刊行する際、 この『トロヤ陥落』と『ディードー』を加筆修正して再公表した。 八行詩とは、長短短格(または長長格)の韻律が六回続くヘクサメタ―よりも、かなり 自由な詩形である。遅くとも 14 世紀にはイタリアから発祥し、その八行詩節である 「オッターヴァ・リーマ」(ottava rima)が 17 世紀頃にドイツへもたらされた。これは、 イタリアでも叙事詩を書く際に用いられた。シラーの死後、イギリスでも盛んに八行詩形 の詩が書かれた。八行詩では八行毎に段落を区切るが、文中の韻律にはとらわれることな く、文末の韻律を二行ずつ合わせたり、互い違いに組み合わせたりなど様々な工夫ができ る。また、本作品では同じ語で行を始めるなど、行頭でも工夫が見られる。8 シラーは『ト ロヤ陥落』の初版の序論で「八行詩はある程度自由を持ち、壮大さ、崇高さ、パトス、恐 怖などの表現を持つ ― もちろん巨匠の手による時に限るが」と述べている。この利点を 知ってシラーが八行詩形の翻訳に臨んだのは確かである。 ヘクサメターの『ティレニア海の嵐』と八行詩の『トロヤ陥落』と『ディードー』を比 較すると、前者は原文の語と内容に非常に忠実に逐語訳されているのに対して、後者は韻 律も比較的自由なばかりか、内容も表現も原作からは離れることがあり、厳密な翻訳とい うよりは『アエネーイス』を題材としたシラーの翻案作品となっている。概して、前者で は時々シュヴァーベン方言やあまり日常では使われない語や、ラテン語由来のドイツ語が よく使われるのに対し、後者では自然で平易なドイツ語が用いられている。 このように、シラーは若年期、生死をさまよった直後の中年期、そして晩年の三度に 渡って『アエネーイス』の翻訳に取り組んでいる。シラーの翻訳はラテン作品だけではな くフランス、スペイン、イギリス作品など多岐の言語に渡る。だがシラー自身は一度も国 外に出たことがなく、高い想像力と読解力、語学力を駆使して翻訳に取り組み、翻訳と交 互に自身のオリジナルの作品も次々と書き残し、その一部はヴァイマールの劇場で上演さ れた。よって、シラーは『アエネーイス』の翻訳を通じて、他の言語の翻訳技術も向上さ せ、さらに自身が作品を新たに作り出す際にもその詩作法を採り入れたと思われる。特に 八行詩形はオペラの台本でも用いられることから、シラーが八行詩形を採用したのは、こ の上演も意識してのことだったのではないか。

(4)

本稿は、加筆修正された後の、1800∼1803 年刊の『トロヤ陥落』最終版の抄訳である。 この前から約三分の一を和訳し、必要に応じて後注を付けた。『トロヤ陥落』は、エー ネーアースがカルタゴの女王ディードーにトロヤ陥落の様子を話す物語である。ディー ドーはエーネーアースを歓待して恋もするが、のちに捨てられて自害した。本稿における 訳出部分の概略は以下の通りである。ギリシア軍は退却すると見せかけ、陣地に大きな木 馬を残した。そしてギリシア軍が送り込んだ弁舌巧みなシノーンに騙され、トロヤのアポ ローンの神官であるラオコーンがその奸計を見破って反対したが、ラオコーンやその二人 の息子らが二匹の大蛇に無残にも殺されるのを見て、トロヤ人は木馬を城内に迎え入れて しまう。だが深夜に木馬からギリシア軍が出てきて、退却したと見せかけて戻ってきたギ リシア軍と落ち合って城内に侵入し、トロヤの街は炎上、陥落した。このような『アエ ネーイス』の中でもとりわけ有名で、緊迫した場面を選んでシラーは翻案した。 フリードリヒ・フォン・シラー著『トロヤ陥落』(1∼41 節) 抄訳  1 (原文の該当箇所: II 1∼6)

Still war s, und jedes Ohr hing an Aeneens Munde,

いまだ静寂であった、そして皆がエーネーアースの口元に、耳をそばだてた。 Der also anhub vom erhabnen Pfühl:

彼は、高く鎮座する褥から、身を起こし、 »O Königin, du weckst der alten Wunde

「これは、女王。あなたは呼び起こすのか、この古傷の Unnennbar schmerzliches Gefühl!

言葉に尽くせない、痛ましい、気持ちを!

Von Trojas kläglichem Geschick verlangst du Kunde,

トロヤの悲惨な運命について、あなたは、知らせるよう命じる。9

Wie durch der Griechen Hand die tränenwerte fi el,

あのギリシア人どもの手により、いかに涙を流すに値するものが、流れたか。 Die Drangsal alle soll ich off enbaren,

このような苦難を、私は全て、打ち明けねばならないのか、 Die ich gesehn und meistens selbst erfahren.

(5)

 2 ( II 6∼13)

Wer, selbst ein Myrmidon und Kampfgenoß 誰が、ミュルミドーン人や戦友の誰であれ、自ら、10

Des grausamen Ulyß, erzählte tränenlos!

この残忍なウリュス11について、涙無しには、語れたろうか!

Und schon entfl ieht die feuchte Nacht, es laden そして早くも、じめじめとした、夜が去り、 Zum Schlaf die niedergehenden Pleiaden. 沈みゆく、プレイアデス星団が、眠りへと誘う。 Doch treibt dich so gewaltige Begier,

だが、それほどまでに強力な欲望が、あなたを駆り立てる、 Der Teukrer letzten Kampf und mein Geschick zu hören, トイクレア人らの、最期の戦いと、私の運命を聞こうと。 Sei s denn! Wie sehr auch die Erinnrung mir

もっとも!それを、思い出すと Die Seele schaudernd mag empören!

私の心は、どんなにぞっとして、憤慨しようか!  3 ( II 13∼20)

Der Griechen Fürsten, aufgerieben ギリシアの、将軍らは、長い戦で

Vom langen Krieg, vom Glück zurückgetrieben, 疲れ果て、幸運から、追い返され、

Erbauen endlich durch Minervens Kunst とうとう、ミネルヴァ12の、技をもってして

Ein Roß aus Fichtenholz, zum Berge aufgerichtet, 唐檜材で、一頭の馬を建造し、山のごとく聳えさせた。 Beglückte Wiederkehr, wie ihre List erdichtet,

幸福なる帰還13を、彼らの策略として、偽り、

Dadurch zu fl ehen von der Götter Gunst. その馬によって、神々の慈悲を、嘆願する。

Der Kern der Tapfersten birgt sich in dem Gebäude,

(6)

Und Waff en sind sein Eingeweide. そして、武器が、その臓物。  4 ( II 21∼25)

Die Insel Tenedos ist aller Welt bekannt, テネドスの島14は、全世界で、知られ、

Von Priams Stadt getrennt durch wen ge Meilen,15

プリアム16の都市から、数マイル、離れており、

An Gütern reich, solange Troja stand,

トロヤが、存続していた間は、財産に富んでいた。 Jetzt ein verräterischer Strand,

今は、裏切りの砂浜、

Wo im Vorüberzug die Kaufmannsschiff e weilen. そこに列をなして、商人の船が、停められている。 Dort birgt der Griechen Heer sich auf verlaßnem Sand. そこではギリシア軍が、荒涼たる砂浜に、隠れ潜む。 Wir wähnen es auf ewig abgezogen,

我々は誤解して、彼らはもうすっかり17、引き払ってしまい、

Und mit des Windes Hauch Mycenen zugefl ogen.

風のそよぎを受けて、ミュケーネ18へと船出をしてしまったと、思い込む。

 5 ( II 26∼30)

Alsbald spannt von dem langen Harme やがて、長い悲嘆に、気が張り、19

Die ganze Stadt der Teukrier sich los, トイクレア人20の、町全土が、解放された。

Heraus stürzt alles Volk in frohem Jubelschwarme, そこから、民の皆が、喜びの歓声を上げてなだれ込み、 Das Lager zu besehn, aus dem sein Leiden fl oß. 彼の苦悩が流れ出た、野営地を、よく眺める。 Dort, heißt es, wüteten der Myrmidonen Arme,

そこには、ミュルミドーンの軍隊が、暴れ回ったと言われ、 Hier schwang Achill das schreckliche Geschoß,

(7)

そこでアヒールは、恐ろしい投げ槍を、振り回した。 Dort lag der Schiff e zahlenlos Gedränge,

そこには、船団の無数の雑踏が、あった。 Hier tobete das Handgemenge.

ここでは、格闘が、荒れ狂っていた。  6 ( II 31∼38)

Mit Staunen weilt der überraschte Blick 驚いた視線が、驚嘆して、

Beim Wunderbau des ungeheuren Rosses, 巨大な馬の、驚異的な体格に、釘付けになる。21

Thimät, sei s böser Wille, sei s Geschick,

ティメートの悪意22ゆえか、それはトロイアの、宿命だったのか、

Wünscht es im innern Raum des Schlosses. 城の内部の空間に、それを置くよう、望む。 Doch bang vor dem versteckten Feind だが、隠れた敵どものことを、恐れて、 Rät Capys an, und wer es redlich meint,

カピュスは忠告する、そして、誠意を持って言う、

Den schlimmen Fund dem Meer, dem Feuer zu vertrauen, この嫌な発見物を、海か、火に託せと、

Wo nicht, doch erst sein Innres zu beschauen. まず、その中身を、眺めないようにと。  7 ( II 39∼44)

Die Stimmen schwankten noch in ungewissem Streite, 叫び声が、まだ決着のつかない戦いの中、揺れていた。 Als ihn der Priester des Neptun vernahm,

ネプトゥーンの祭司、ラオコーンが、この男の声を耳にした時、 Laokoon, mit mächtigem Geleite

屈強な護衛を、連れて、

Von Pergams Turm erhitzt herunterkam,

(8)

›Rast ihr Dardanier?‹ ruft er voll banger Sorgen.

「お前たちダルダニア人24は、狂っているのか?」と、不安で一杯になり叫ぶ。

›Unglückliche, ihr glaubt, die Feinde sei n gefl ohn? 「不幸な者たちよ、お前たちは、敵が去ったと思うのか?

Ein griechisches Geschenk und kein Betrug verborgen? ギリシアの贈り物が、奸計を、潜ませぬだと?

So schlecht kennt ihr Laërtens Sohn?

お前たちは、レルテスの息子25のことを、そんなに知らないのか。

 8 ( II 45∼49)

Wenn in dem Rosse nicht versteckte Feinde lauern, この馬の中に、敵が隠れて、潜んでいなければ。 So droht es sonst Verderben unsern Mauern, そうでなければ、滅亡が我々の城壁を、脅かす。 So ist es aufgetürmt, die Stadt zu überblicken, そうして、木馬を高く作り上げ、街を見渡す算段か。 So sollen sich die Mauern bücken

そうしたら、防壁の中で、身を潜め、 Vor seinem stürzenden Gewicht, 自身の、落下する、重みにより、

So ist s ein anderer von ihren tausend Ränken, そうして、彼らの幾千もの奸計の、一つが潜む。 Der hier sich birgt. Trojaner, trauet nicht,

奸計がここに潜んでいる。トロヤの人々よ、信用するな、 Die Griechen fürchte ich, und doppelt, wenn sie schenken.‹

私はギリシア人どもが恐ろしい。彼らが贈り物をするなら、なおのこと二倍に恐ろし い。26

 9 ( II 50∼56)

Dies sagend, treibt er den gewalt gen Speer これを言うなり、ラオコーンは、巨大な槍を、 Mit starken Kräften in des Rosses Lende, 強い力で、馬の横腹へ、突き刺した。

(9)

Es schüttert durch und durch, und weit umher それ全体に、振動が駆け巡る。そして辺り一面には、 Antworten dumpf die vollgestopften Wände,

中身が一杯に詰まった壁に、低くくぐもった音が、返ってくる。 Und hätte nicht das Schicksal ihm gewehrt,

もしも運命が、彼の邪魔を、しなかったら、 Nicht eines Gottes Macht umnebelt seine Sinne, ある神の力が、彼の感覚を、鈍らせなかったら、 Jetzt hätte den Betrug sein Eisen aufgestört, 今、彼の武器が、その奸計を阻止しなかったら、 Noch stünde Ilium, und Pergams feste Zinne.

イーリウム27と、ペルガムの堅固な鋸壁は、まだ存続していたであろう。

10 ( II 57∼62)

Indessen wird durch eine Schar von Hirten, その間に、牧人の、群れによって、

Die Hände auf dem Rücken zugeschnürt, 両手を、後ろ手に、縛られて、

Mit lärmendem Geschrei ein Jüngling hergeführt.

大声でわめきながら、一人の若者が、こちらへ引きずられてきた。 Der Jüngling spielte den Verirrten,

この若者は、道に迷った、ふりをして、 Und bot freiwillig sich den Banden dar, その一団の前に、進んで、姿を現した。 Durch falsche Botschaft Troja zu verderben, 偽った知らせにより、トロヤを、滅ぼそうとして。 Mit dreister Stirn, gefaßt auf jegliche Gefahr,

いかなる危険に、捕らえられようとも、大胆不敵にも、 Und gleich bereit zum Lügen oder Sterben.

嘘をつくか、死ぬかの、どちらにも覚悟を決めて。 11 ( II 63∼68)

(10)

この若者を、見ようと、方々より、 Die wilde Jugend sich aus Ilium,

猛々しい若者らが、イーリウムから、集まり、 Wetteifernd höhnt mit herbem Spotte

辛辣な愚弄の言葉で、競ってこの者を、嘲笑する。 Den eingebrachten Fang die rachbegier ge Rotte,

この引っ捕らえてきた獲物を、復讐心に燃えた、暴徒らが、 Und wehrlos bloßgestellt so vieler Feinde Grimm,

無抵抗な者を、これほど多くの敵への怒りが、嘲笑う。 Fliegt er mit ängstlichscheuem Blicke

彼は、不安に怯えた、眼差しで、

Die Reihen durch. Jetzt, Königin, vernimm 群衆を見回す。さあ、女王よ、聞き知れ、 Aus Freveltat der Griechen ganze Tücke! ギリシア人らの、一つの悪事から、策略全体を! 12 ( II 69∼74)

›Weh!‹ ruft er aus, ›wo öff net sich ein Port, 彼は叫ぶ、「ああ、どの港が開かれているのか、 Wo tut ein Meer sich auf, mich zu empfangen? どの海が開けて、私を受け入れて、くれようか? Wo bleibt mir Elenden ein Zufl uchtsort? 惨めなこの私には、どこに避難所が、あろうか? Dem Schwert der Griechen kaum entgangen, ギリシア人の 刃 からは、ほとんど、逃れられない。 Seh ich der Trojer Haß nach meinem Blut verlangen!‹

私はトロイア人の敵意が、私の血を、求めているのを見ている!」 Schnell umgestimmt von diesem Wort

この言葉に、すぐさま、人々の心が変わり、 Legt sich der wilde Sturm der Scharen, 群衆の、荒々しい激情は、鎮まる。 Und man ermahnt ihn fortzufahren.

(11)

13 ( II 74∼80)

Wes Stamms er sei? Was ihn hieher gebracht,

彼はどの血筋の出か。何が彼を、ここへ連れてきたのか。 Ihm Lebenshoff nung ließ, selbst in des Feindes Macht, 彼に、生きる望みがあるのか、その身が敵の手中にあって。 Soll er bekennen. Furcht und Angst verschwanden. 彼は、こう打ち明けたという。恐怖心と不安は消えた。 ›Was es auch sei‹, ruft er, ›dir, König, sei’s gestanden, 彼は叫ぶ、「王よ、何であれ、私は打ち明けます。 Empfange den Beweis von Sinons Redlichkeit,

このシノーンめの28、誠実さの証左を、お受け取り下さい。

Ich leugne nicht, zum Volk der Griechen zu gehören. 私は、ギリシア民族に属することを、否定はしません。 Hat mein Verhängnis gleich dem Elend mich geweiht, 私の不運は、私を不幸に、委ねましたが、

Zum Lügner soll es nimmer mich entehren.

運命は、決して私を嘘つきになどして、 辱 めません。 14 ( II 81∼87)

Trug das Gerücht vielleicht den Namen und die Taten かの偉大なパラメド29の、名と功績の噂は、おそらく

Des großen Palamed zu deinem Ohr,

あなたのお耳に、届いている、ことでしょう。 Der, boshaft angeklagt, weil er den Krieg mißraten, 彼は、戦争に失敗したというので、陰険にも告発され、 Sein Leben durch der Griechen Spruch verlor,

自身の命を、ギリシア人らの判決により、失ったのです。 Den sie im Grabe schmerzlich jetzt beklagen?

彼のことを、ギリシア人らはその墓で今更、嘆き悲しむのでしょうか? Mit diesem hat, er ist mir anverwandt,

この者と、私は、血縁です。 Seit dieses Krieges ersten Tagen30

(12)

Der dürft ge Vater mich nach Asien gesandt. 貧しい父親が、私をアジアへ、送ったのです。 15 ( II 88∼93)

So lange Palamed der Herrschaft sich erfreute, パラメドが、支配を、享受していた間、

Und in dem Rat der Könige mit saß, 王族の会議でも、同席していた間は、

Stand ich geehrt und glücklich ihm zur Seite. 私は崇められ、彼の傍で、幸せでした。 Doch das verging, als ihn Ulyssens Haß,

ですが、それは無くなり、彼をウリュスの憎しみが、 Wer kennt den Schwätzer nicht? dem Orkus übergeben,

― 誰がこのお喋り屋を、知らないでしょうか? ― オルクス31に引き渡した、

Da fl oß in Trauer hin mein unbemerktes Leben, その時私の、ひっそりした人生を思うと、涙が流れ、 Und der verhaltnen Rache Schmerz

復讐を、こらえる、苦悩が、 Zernagte still mein wundes Herz.

私の傷ついた心を、いまだ、苛んでいました。32

16 ( II 94∼99) 

Weh mir, daß ich sie nicht verschwieg, ああ、私はそれらを、隠し通せませんでした。 Zu laut zu seinem Rächer mich erklärte,

彼の復讐者に対し、あまりにも声高に、表明してしまいました。 Wenn einst ein Gott aus diesem Krieg

いつか、神が、この戦争からの Siegreiche Heimkehr mir gewährte!

勝利の帰還を、私に、認めて下さったなら! Mit eitler Rede weckt ich schweren Groll.

中身のない話で、私は激しい恨みを、呼び起こしてしまいました。 Seitdem ermüdete, mir Feinde zu erwecken,

(13)

それ以来、我が敵を、刺激してしまい、 Ulysses nicht, und wußte rachevoll

ウリュスは、疲れもせず、復讐心に満ちて、 Mit immer neuen Ränken mich zu schrecken. 新手の奸計で、しきりに私を、脅かしました。 17 ( II 100∼104)

Auch ruht er nimmermehr, bis Kalchas ‒ doch warum ウリュスは、決して休むことなく、― だがなぜ

Mit widrigem Bericht fruchtlos die Zeit verlieren? 不愉快な報告で、時間を無駄に、失うのでしょうか? Verurteilt alle, die ihn führen,

遂にはカルカース33が、彼を率いる全員を、罰します。

Der Name Grieche schon in Ilium,

ギリシアの名は、すでに、イーリウムにあります。 Wohlan, so würgt mich ohne Schonen!

さあ、容赦せず、私の首を絞めて下さい!

Das wird dem Ithaker willkommne Botschaft sein,

これは、あのイタカ人34には、喜ばしい知らせになるでしょうし、

Das wird die Söhne Atreus hoch erfreun,

これを、アトレウスの息子たち35は、大いに喜び、

Und herrlich werden sie s euch lohnen.‹

そして彼らはあなた方に、素晴らしく高値で、報奨するでしょう。」 18 ( II 105∼110)

Ohn Ahndung des Betrugs, der aus dem Griechen spricht, このギリシア人が語る、欺瞞への懲罰が、下されることもなく、 Steigt unsre Neugier, ihm den Aufschluß abzufragen,

我々の好奇心が沸き起こり、彼に説明するよう、問いただすと、 Und er, mit schlau verstelltem Zagen,

彼は、狡猾にも、怯えた振りをしながら Vollendet so den täuschenden Bericht: 以下のように、偽りの報告を、仕上げる。

(14)

›Oft‹, spricht er, ›war der Wunsch lebendig bei dem Heere, 彼は言う「軍には、沸き起こっていました、

Der langen Kriegesnot sich endlich zu entziehn, 長い戦争の、苦境から、ついに逃れ、

Von Troja heimlich zu entfl iehn,

トロヤから、こっそり逃げようとの、希望が。 O daß es doch geschehen wäre!

おお、それが、もし叶ったなら! 19 ( II 110∼115)

Stets hinderten die frohe Wiederkehr 絶えず、喜ばしい、帰還を、

Der rauhe Süd und das empörte Meer. 荒れた南風と、怒れる海が、妨げました。

Dies Roß von Fichtenholz stand längst schon aufgetürmet, 唐檜製の木馬が、すでに長い間、高く聳え立っていました。 Als, vom Orkan gepeitscht, die fi nstre Luft gestürmet. 暴風に打たれると、不気味な風が、吹きすさみました。 Verlegen sendet man zuletzt Euripylus,

当惑して人々は、とうとう、エウリピュルスを派遣します。 Zu fragen an des Schicksals Throne,

運命の、王座について、尋ねようと、 Nach Delphi zu Latonens Sohne;

デルフォイの、ラートーナの、息子36の元へ。

Der kommt zurück mit diesem traur gen Schluß: 彼は、こんな悲惨な宣託を、携えて戻ります。 20 ( II 116∼121)

›Mit Blut erkauftet ihr die Herfahrt von den Winden, 「汝らは、暴風からの帰還を、血潮にて獲得する。

Und eine Jungfrau fi el an Deliens Altar.

そして一人の乙女37が、デーリア38の祭壇で、倒れた。

(15)

血潮だけで、汝らは帰還の途を、見出せる。 Ein Grieche bringe sich zum Todesopfer dar.‹ あるギリシア人が、わが身を生贄にと、捧げる。」 Eiskalte Angst durchlief die zitternden Gebeine,

身も凍るような戦慄が、震える全身を、駆け巡りました。 Als in dem Lager diese Post erklang,

陣営に、この知らせが、響き渡った時、 Und jedes Auge fragte bang,

各人の目が、怯えて、尋ねました。 Wen wohl der Zorn der Gottheit meine? 一体、誰に神の怒りが、向けられているのか? 21 ( II 122∼127)

Jetzt riß Ulyß mit lärmendem Geschrei

この時、ウリュスが、騒がしい雄叫びを発して、 Den Seher Calchas in des Heeres Mitte,

預言者カルカースを、軍隊の真ん中へ、引きずって行きました。 Und dringt in ihn mit ungestümer Bitte,

そしてその男に、激しい尋問で、せき立てます、 Zu sagen, wessen Haupt zum Tod bezeichnet sei.

どの人物の頭を、死に至らしめると、されているのか言えと。 Schon ließen viele mich, mit ahndungsvollem Grauen, すでに、多くの者が、復讐心に満ちた恐怖の中、

Des Schalks verruchten Plan und mein Verderben schauen.

このいたずら者39の非道な計画と、私の死滅を見ようと、私を見つめていました。

Zehn Tage schließt der Priester schlau sich ein,

10 日の間、この神官は、抜け目なくも引き籠っていました、 Um keinen aus dem Volk dem Untergang zu weihn. 民の誰をも、死へに、委ねまいとして。

22 ( II 128∼133)

Zuletzt, als könnt er dem beredten Flehn とうとう、彼がウリュスの、能弁な説得に、

(16)

Ulyssens nicht mehr widerstehn, これ以上、抗えなくなった時、

Läßt er geschickt den Namen sich entreißen, 彼は、その者の名を、まんまと奪われました。 Und zeichnet dem Mördereisen.

そして、この私を、鉄の人殺し呼ばわりをしました。 Man stimmt ihm bei, und froh sieht jeder die Gefahr,

人々はウリュスに賛同し、誰もがこの危機を、喜んで見つめました。 Die alle gleich bedroht, auf abgeleitet.

皆が同じように、脅かされていたのが、一人の者に危機が転じたと。 Der Unglückstag ist da, die Binde schmückt mein Haar,

不幸な日は来ました、帯が私の髪を、飾ります。 Man streut das Mehl, das Opfer ist bereitet. 人々は、穀物粉を撒き、犠牲の準備はできました。 23 ( II 134∼140)

Ja, da entriß ich mich dem Tod, zerbrach die Bande, 私は、自らを死から奪い取り、帯を切って、

Und harrete des Nachts in eines Sumpfes Rohr, 夜中に、ある沼地の葦の中で、隠れ潜んで待ちました。 Bis die Armee, wenn sie zum Vaterlande

軍隊が、もしかして、祖国へと、

Vielleicht sich eingeschiff t, vom Ufer sich verlor. 船出をするかと、岸から姿が、見えなくなるまで。 Nie werd ich ach! die Heimat mehr begrüßen,

ああ、私はもう祖国に、挨拶することはないでしょう、 Nie Vater, Kinder mehr in diese Arme schließen,

父も子どもたちも、この腕に抱くことは、もうないでしょう。 Und mein Entrinnen rächt vielleicht die Wut

そして、私の流血が、おそらく、 Der Danaer an diesem teuren Blut.

(17)

24 ( II 141∼145)

Und nun bei allen himmlischen Dämonen, そこで今、心の奥底を、見抜く、

Die in des Herzens tiefste Falten sehn, 天にまします、あらゆる聖霊に、かけて、

Wenn Treu und Glaube noch auf Erden irgend wohnen, 誠実さと信義が、この世のどこかに、まだあるのなら、 Laß so viel Leiden dir zu Herzen gehn.

これほど多くの苦難を、あなたの心に、向けて下さい。 Hab du Erbarmen mit dem Unglücksvollen,

この不幸な者に、哀れみを、かけ給え、 Der, was er nicht verschuldete, erfuhr!‹ ‒

この者は自分が、引き起こしたのではないことを、蒙っているのです!」 Wir sehen jammernd seine Tränen rollen,

我々は、彼の涙が嘆きつつ、転がり落ちるのを見て、 Es siegt in uns die Stimme der Natur.

我々の中で、自然の声が、打ち勝つ。 25 ( II 146∼151)

Sogleich läßt Priamus der Hände Band ihm lösen, すぐに、プリアムスが、シノーンの手から縄を解かせ、 Und spricht ihm Trost mit milden Worten ein.

そして彼に、穏やかな語調で、慰めの言葉をかける。 ›Du bist‹, spricht er, ›ein Danaer ,

彼は言う、「そなたはかつて、ギリシア人であっただろうが、 Wer du auch seist, hinfort wirst du der Unsre sein.

そなたが誰であろうと、今後は、我々の仲間である。 Und jetzt laß Wahrheit mich auf meine Fragen hören. そして今、私の問いに対し、真実を聞かせよ。

Warum, wozu das ungeheure Roß? なぜだ、この巨大な木馬は、何が目的だ? Wer gab es an? Warum so riesengroß? 誰の差し金だ?なぜこれほど、巨大なのだ?

(18)

Zu welchem Brauch? Sprich! Welchem Gott zu Ehren?‹ 何に使うのだ?答えよ!どの神を、崇めるためなのか?」 26 ( II 152∼156)

Er sprach s, und jener Bösewicht, gewandt 彼はこう語った、そして、

In jeder List, Pelasger im Betrügen,

あらゆる策略、ペラスギー人41の、欺瞞に長けた

Hebt himmelan die losgebundne Hand.

この悪人42は、縄を解かれた手を、天へ差し出し、

›Dich‹, ruft er, ›ew ges Licht, dich Rächer aller Lügen, 叫ぶ「おまえを、永遠の火よ、あらゆる偽りの報復者よ、 Dich Opferherd, dem ich durch Flucht entrann,

おまえを、私が逃亡して、逃れた生贄、

Dich frevelhafter Stahl, den Mordgier auf mich zückte, おまえを、血に飢えて、私に向けて抜かれた邪悪な剣、 Dich priesterliches Band, das meine Schläfe schmückte, おまえを、私の額を飾る、聖飾帯、

Euch ruf ich jetzt zu Zeugen an.

おまえたちを、私は証人として今、召喚する。 27 ( II 157∼161)

Von jeder Pfl icht, die mich an Griechen band, 私をギリシア人と、結びつける、あらゆる義務から、 Erklär ich mich auf ewig losgezählet.

解放されて、私は永遠に、告白する。 Für Sinon gibt s hinfort kein Vaterland, シノーンには、今後は、祖国などない。 Ich mache laut, was ihre List verhehlet.

お前たちの策略が、隠している事を、私は公にする。 Gedenke du nur deines Wortes, Fürst,

領主よお前は、お前の言葉だけを、思い出せ。43

(19)

トロヤよ、自愛せよ、救助がお前に贈られる。 Ist s anders wahr, was du jetzt hören wirst, さもなければ、お前が今から聞くことは、真実だ。 Und wert, daß man es überdenket.

そして、それを熟慮する、価値はある。 28 ( II 162∼170)

Von jeher barg im Krieg mit Ilium

イーリウムとの戦争中、ずっと前から、守ってきました、 Minervens Schutz der Myrmidonen Schwäche,

ミネルヴァの守護が、ミュルミドーン人らの、弱点を。 Doch seit Ulyß der Schalk und Diomed der Freche だが、悪党ウリュスと、傲慢なディオメドが、 Der Göttin Bild aus ihrem Heiligtum

女神の像を、その聖所から、

Zu reißen sich erkühnt, die Hüter zu durchbohren,

あろうことか奪い取り、その番人たちを、刺し貫きました。 Der Jungfrau Stirne selbst mit mordbefl eckter Hand まさに、処女神の額に、死で穢れた手で

Verwegen zu berühren, schwand 不敵にも、触れた。その時から、

Der Griechen Glück dahin, ging ihre Kraft verloren.

ギリシア人の幸運は、消え失せ、その力を失ってしまいました。 29 ( II 170∼175)

Auf immer war Athenens Gunst entwichen, アテーネの慈悲は、永久に、消え失せました。 Bald zeigte sich in fürchterlichen

間もなく、女神が、恐ろしい姿で出現し、 Erscheinungen der Göttin Strafgericht. 裁きが、下りました。

Kaum steht das Bild im Lager still, so blitzen その像は、陣営に、ほとんど留まらず、

(20)

Die off nen Augen und die Glieder schwitzen, 開いた 眼 が光り、四肢は、発汗します。 Und dreimal scheint (entsetzliches Gesicht!) そして、三度輝きます(恐ろしい顔が!)、 Die Göttin sich vom Boden zu erheben, 女神が、地面から、飛び上がります、44

Und Schild und Lanze schütternd zu erbeben. 盾と槍を、震わせ、振りかざしながら。 30 ( II 176∼179)

Ein Gott gebeut jetzt durch des Sehers Mund, 神は今や、預言者の口を通じて、命じます、 Auf schneller Flucht die Heimat zu gewinnen, 素早く逃走して、祖国を、取り戻すことを。 Denn nimmer fallen durch der Griechen Bund,

というのも、ギリシア人との同盟には、決して加わるまい、 So spricht das Schicksal, Pergams feste Zinnen,

そのように運命、ペルガムの堅固な鋸壁は、語る。 Sie hätten denn aufs neu der Heimat Strand berührt, 彼らが新たに、故国の砂に、触れるよう、

In wiederholter Fei r die Götter zu befragen, 繰り返して、催される祝祭にて、神々は尋問する、 Zum alten Heiligtum das Bild zurückgetragen, 古い聖所に、引っ込められていた、その像を、 Das sie auf krummen Schiff en weggeführt.

彼らは、不正な船団に乗せて、持ち去ってしまったと。 31 ( II 180∼188)

Jetzt zwar sind sie nach Argos heimgefahren, 彼らは今、アルゴスへと、帰郷しましたが、

Doch führt sie Kalchas bald mit neuen Kriegerscharen 彼らを、カルカースはすぐに、新たな戦士の一団と、 Und Göttern furchtbarer zurück. Dies Roß

(21)

恐ろしい神々を伴って、連れ戻します。この木馬は、 Ward aufgetürmt, den Zorn der Pallas zu versöhnen, パッラス45の、怒りを鎮めるため、高々と建立されました、

Und nicht umsonst seht ihr s so riesengroß.

あなた方は理由なくして、これほど巨大な木馬を、見ているのではありません。 Es sollte der Koloß das enge Tor verhöhnen,

巨像が、狭き門を、愚弄するためにと。

Nie sollt euch der Besitz des Wunderbilds erfreun, あなた方が、驚異的な像を所有して、喜ぶこともなく、 Nie sollt es eurer Stadt den alten Schutz erneun.

あなた方の都市の、古くからある庇護を、新たにしないためにと。 32 ( II 189∼194)

Denn wagtet ihr s, Minervens Heiligtum

というのも、あなた方はあろうことか、ミネルヴァの聖所を、 Mit Frevlerhänden zu versehren,

罪人らの手で、傷つけようと、します。 So traf der Göttin Fluch ganz Ilium

だから女神の天罰が、イーリウム全土を、攻撃しました。 (Möcht ihn ein Gott auf ihre Häupter kehren!).

(神があの男を、彼らの指揮者らへ、向けたいと思うでしょうか!) Doch hättet ihr mit eigner Hand

だが、あなた方は、自分の手で、 Dies Roß in eure Stadt gezogen,

この木馬を、あなた方の都市内へと、引き入れてしまいました。 So wälzte Asien zu uns des Krieges Wogen

だから戦争の大波が、アジアを、我々の元へと押し流しました。 Und weh dann über Griechenland!‹

そしてああ、それから、ギリシアを超えて!」 33 ( II 195∼198)

Von dieser Lügen schlau gewebten Banden この欺瞞が、抜け目なく、織り込まれた集団に、

(22)

Ward unser redlich Herz umstrickt, 我々の、誠実な心が、篭絡された。 Der Zweifel wird in jeder Brust erstickt,

その疑念は、各人の胸の中で、もみ消されてしまった。 Die dem Tydiden männlich widerstanden,

彼らは、テューデウスの息子46に、雄々しく抵抗し、

Die der thessalische Achill nicht zwang,

彼らは、テッサリア47のアヒール48に、強いられなかったのに、

Nicht zehenjähr ge Kriegeslasten, 10 年にわたる、戦争被害も、

Nicht das Gewühl von tausend Masten, 千隻もの、舟の帆の、押し合いへし合いも。 Weint ein Betrüger in den Untergang! 一人の詐欺師が、滅亡させようと、涙を流す! 34 ( II 199∼205)

Jetzt aber stellt sich den entsetzten Blicken だが今、唖然とした、視線の前に、

Ein unerwartet schrecklich Schauspiel dar. 予期しない程、恐ろしい光景が、現れる。 Es stand, den Opferfarren zu zerstücken, 生贄の、若い牡牛を、屠ろうと、

Laokoon am festlichen Altar.

ラオコーンが、祝祭の祭壇の傍で、立っていた。 Da kam (mir bebt die Zung, es auszudrücken)

そこへ、やって来たのは (それを言い表すのも、私の口が震えるのだが) Von Tenedos ein gräßlich Schlangenpaar,

テネドスから、残忍な蛇の、一組が、

Den Schweif gerollt in fürchterlichem Bogen, 尻尾で、気味の悪い、とぐろを巻き、

Dahergeschwommen auf den stillen Wogen.

(23)

35 ( II 206∼211)

Die Brüste steigen aus dem Wellenbade, 蛇の胸が、鎌首をもたげて、波から上る。

Hoch aus den Wassern steigt der Kämme blut ge Glut, 冠毛の血潮に、染まった激情が、水面から高く立ち上る。 Und nachgeschleift in ungeheurem Rade

そして首より下は途方もなく、大きな輪を作って、後ろで引きずり、 Netzt sich der lange Rücken in der Flut,

長い背が、高潮の中で、濡れている。

Lautrauschend schäumt es unter ihrem Pfade,

それらの泳いだ跡には、バシャバシャと音を立てて、波が泡立つ。 Im blut gen Auge fl ammt des Hungers Wut,

充血した眼に、空腹ゆえの激情が、燃え上がる。 Am Rachen wetzen zischend sich die Zungen,

舌は復讐せんと、シューシューと音を立てて、出入りし、 So kommen sie ans Land gesprungen.

それらは、やって来て、陸へと飛び上がる。 36 ( II 212∼215)

Der bloße Anblick bleicht schon alle Wangen,

ただこの光景を眺めるだけで、皆の顔がすでに、青ざめている。 Und auseinander fl ieht die furchtentseelte Schar,

そして群衆が、恐怖に我を忘れて、散り散りに逃げ惑う。 Der pfeilgerade Schuß der Schlangen

蛇たちの、矢のごとく、真っ直ぐな一撃が、 Erwählt sich nur den Priester am Altar. 祭壇にいる、その神官だけを、選び出す。

Der Knaben zitternd Paar sieht man sie schnell umwinden,

震える二人の少年たち49に、蛇が素早く巻き付くのを、人々は見る。

Den ersten Hunger stillt der Söhne Blut, 息子たちの血が、最初の空腹を、満たす。 Der Unglückseligen Gebeine schwinden

(24)

Dahin von ihres Bisses Wut.

そこへ、噛み傷の猛攻撃が、襲いかかる。 37 ( II 216∼219)

Zum Beistand schwingt der Vater sein Geschoß, 助けようと、父親は自分の投げ槍を、振り上げる。 Doch in dem Augenblick ergreifen

だが、すぐさま、あの途方もなく、

Die Ungeheu r ihn selbst, er steht bewegungslos, 力強い蛇どもは、動けず立ちつくす、彼自身を、 Geklemmt von ihres Leibes Reifen,

その身体で作った輪で、締め付けて、捕まえる。 Zwei Ringe sieht man sie um seinen Hals, und noch 二つの輪が、彼の首の回りに、そしてなお、

Zwei andre schnell um Brust und Hüfte stricken,

もう二つの輪が胸や腰の周りに、素早く絡みつくのを、人々は見る。 Und furchtbar überragen sie ihn doch

そして蛇どもは、彼の前に恐ろしく、聳え立つ、 Mit ihren hohen Hälsen und Genicken.

鎌首とうなじを、高々と、もたげて。 38 ( II 220∼224)

Der Knoten furchtbares Gewinde 結び目のある、恐ろしい輪を、 Gewaltsam zu zerreißen, strengt

無理に、引きちぎろうと、この哀れな男は、

Der Arme Kraft sich an, des Geifers Schaum besprengt 力一杯もがく。唾を飛ばして、呪文を浴びせかけて。 Und schwarzes Gift die priesterliche Binde,

黒々とした毒が、神官の帯を、染め、 Des Schmerzens Höllenqual durchdringt 大変な、痛みの責め苦が、体を貫く。

(25)

雲の中へ、突き抜ける、吠え声を、

So brüllt der Stier, wenn er, gefehlt vom Beile

雄牛が上げるように。まるで雄牛が斧を、打ち損じられて、 Und blutend, dem Altar entspringt.

血を流しながら、祭壇から、逃げ惑う時のよう。50

39 ( II 225∼231)

Die Drachen bringt ein blitzgeschwinder Schuß 大蛇どもは、稲妻のごとく、素速い一撃をもたらす、 Zum Heiligtum der furchtbarn Tritonide,

あの恐ろしい、トリトーン生まれの女神51の、聖所を狙って。

Dort legen sie sich zu der Göttin Fuß, そこでそれらは、女神の足元に、横たわり、 Beschirmt vom weiten Umkreis der Aegide. アエゲウスの、子孫52の周囲を、広く守護する。

Entsetzen bleibt in jeder Brust zurück, 各人の、胸のうちに、驚愕が残る。

Gerechte Büßung heißt Laokoons Geschick,

ラオコーンの運命とは、その罪にふさわしい、贖罪を意味する。 Der frech und kühn das Heilige und Hehre

この男は、厚かましく無謀にも、聖なる崇高なものを、 Verletzt mit frevelhaftem Speere.

忌まわしい、投げ槍で、傷付けたのだ。 40 ( II 232∼238)

Zum Tempel, ruft das Volk, mit dem geweihten Bilde! 神殿へ、像を奉納しろと、群衆が叫ぶ。

Und fl ehet an der Göttin Milde!

女神の慈悲に、訴えて、嘆願せよ!と。 Sogleich strengt jeder Arm sich an, すぐさま、各人の腕が、踏ん張って、

Die Mauer wird geteilt, die Stadt ist aufgetan, 城壁が分かたれ、城市が、開かれる。

(26)

Und auf der Walze künstlichen Wogen そして、転がる円柱の上で、人工の大波53が、

Rollt es dahin, von Strängen fortgezogen, その中へと、進み行く。綱で引っ張られ、 Verderbenträchtig, schwanger mit dem Blitz

破滅をもたらす、武器の反射光を、体内に孕んだそれが、 Der Waff en, rollt s in Priams Königssitz.

プリアムの、王座へ向かって、転がり進む。 41 ( II 238∼243)

Und hoch beglückt, den Strang berührt zu haben, 娘らと少年らが、綱に触れて、大いに喜び、 Der es bewegt, begleiten Jungfrauen und Knaben 動くそれに、付き添って、行く。

Mit heil gen Liedern die verehrte Last. 聖歌を歌いながら、崇拝された、その荷に。 O meine Vaterstadt! So reich an Siegeskronen, おお、我が祖国よ!勝利の王冠に富み、

O heil ges Land, wo so viel Götter thronen!

おお、聖なる地よ、そこではそれほど多くの神々が、鎮座する! In deiner Mitte steht der fürchterliche Gast.

お前の真ん中で、この恐ろしい客が、立っている。 Viermal hat es am Eingang still gehalten,

4度、それは、城門で止まり、

Und viermal klang das Erz in seines Bauches Falten. そして4度、腹の継ぎ目の中で、青銅の音が鳴り響いた。

(抄訳文終わり) (謝辞:本研究は、JSPS 科研費 14J40008 の助成を受けたものです。)

(27)

< 主な固有名詞の発音表記リスト > ドイツ語 ラテン語 ギリシア語 Achill アヒル Achilles アキッレース アキッレウス Aeneas エーネーアース Aeneas アエネーアース Danaer ダナエー人 Danai ダナイー人 Delia デーリア Delia/Diana デーリア・ディアーナ  Diomed ディオメド Diomedes ディオメーデース Euripylus エウリピュルス Eurypylus エウリュピュルス Kalchas/Chalcas Chalcas カルカース カルカース Laërtes レルテース Laertes ラーエルテース  Laokoon ラオコーン Laocoon ラーオコオーン Latona ラートーナ Latona/Leto ラートーナ・レートー Minerva/Athene/Pallas Minerva/Athena/ Pallas

ミネルヴァ・アテーネ・パッラス ミネルワ・アテーナ・パッラス  アテーナー Neptun ネプトゥーン Neptunus ネプトゥーヌス ポセイドーン Orkus オルクス Orcus オルクス プルートー Palamed パラメド Palamedes パラメーデース  Pergam ペルガム Pergamon ペルガモン Priam/Priamus Priamus プリアムス プリアモス  プリアム・プリアムス Teukrer トイクレア Teucria テウクリア Troja トロヤ Troja トローイヤ          Thimät ティメート Thymoetes チュモエテス テュモイテース Ulyß ウリュス Ulixes ウリクセース オデュッセウス

(28)

1. フォスが『アエネーイス』を翻訳したのは 1799 年で、シラーがそれを訳した時よりも 後である。フォスはホメーロスについては、『オデュッセイア』を 1781 年(ちょうど シラーが初めて『アエネーイス』訳した頃)、『イーリアス』を 1793 年に訳した。 2. シラー著『ティレニア海の嵐』の和訳と解説および注釈は、高畑時子「シラー『ティ レニア海の嵐』解説と試訳および注釈 : ウェルギリウス『アエネーイス』1.34 ∼ 156 との比較研究」、『西洋古典論集』22 巻(2010 年)、p. 279 ∼ 305 を参照。 3. 高畑時子「シラーのウェルギリウス翻訳」、『通訳翻訳研究』11 巻(2011 年), p. 27 を 参照。 4. In: 1. Stück. 5. . In: 2. und 3. Stück. 6. 書評の詳細については、高畑「シラーのウェルギリウス翻訳」、p. 27 を参照。 7. , 2.Bde., 1800 / 1803, Leipzig: S. L. Crusius. こ れ ら 改 訂 版

は、Gedichte-Fassung または Säkular-Ausgabe と呼ばれる。 8. 八行詩の規則については、高畑「シラーのウェルギリウス翻訳」、p. 30 を参照。 9. 女王とは、カルタゴの女王ディードーのこと。トロヤ戦争からのトロヤ人らの生き残 り一行がカルタゴの岸辺に漂着した時、ディードーが歓迎の挨拶をした後、彼らのた めに饗宴を催した。その際、ウェヌス(ヴィーナス)は、エーネーアースとディー ドーが、恋に陥るよう仕向けた。ディードーは、エーネーアースに戦争についてしつ こく聞き( I 750 ∼ 752 参照)、ギリシア人らの奸計とエーネーアース自身の 災難と放浪について、初めから語るよう求めた( I 753 ∼ 755 参照)。 10. ミュルミドーン人はアヒルに従ってトロヤに遠征したテッサリアの民族。 11. オデュッセウスのこと。エウリピデース『トロイアの女たち』709 ∼ 789 にもその人 となりが描かれているように、古来より非情な人物として知られていた。 12. ローマの女神でギリシアのアテーナーと同一視される。技芸や熟練の女神。 13. 原文では、帰国を祈願して捧げる奉納物のこと。 14. トロヤの小さな島。アヒルによって荒廃させられた。 15. テネドス島は、都市から見える所に位置する。 16. プリアモスはトロヤの王。 17. auf ewig はシラーによる追加。  18. ギリシアを指す。

(29)

の意味になっている。 20. トロヤ人のこと。

21. 原 文 で は、 pars stupet innuptae donum exitiale Mineruae / et molem mirantur equi 「トロイア人らのある者は、乙女ミネルワの破滅をもたらす贈り物と、巨大な 馬に驚嘆して呆然と見つめる。」 22. 原文では dolo 「奸計ゆえに」。 23. ペルガモンの丘陵にはトロヤの城塞があり、頂上のアクロポリスには数多くの神殿な どがあった。 24. トロヤ人のこと。その名称は、ユッピテル(Juppiter、ギリシア:ゼウス)の息子で トロヤを建設したダルダヌス(Dardanus, ギリシア:ダルダノス)に由来する。 25. ウリュスのこと。 26. 「なおのこと二倍に恐ろしい」という部分は原文にはない。 27. トロヤのこと。 28. シノーンは、トロヤ人を欺き、木馬をその城内へ引き入れさせたギリシア人である が、伝承では狡猾なシーシュプスの血を引くという。 29. トロヤ戦争時のギリシア軍の将。ウリュスを無理に出征させたので恨まれ、その奸計 により殺された。 30. primis [···] ab annis 「幼い頃から」をシラーはこのように訳している。 31. 冥府の神。

32. 原文では casum insontis mecum indignabar amici 「私は、無実の友の悲運を我が事 のように憤っていた。」 33. トロヤ遠征時のギリシア方の神官で予言者。 34. ウリュスのこと。ウリュスはイタカ人の王。 35. アガメムノーンとその弟、メネラーオスのこと。アガメムノーンはミュケーナエの王 で、トロヤ戦争時のギリシア方の将軍。メネラーオスはスパルタ王でヘレネーの夫。 ヘレネーがトロヤの王子、パリスに連れ去られたことが発端となってトロヤ戦争へと 至った。 36. アポローンのこと。太陽神アポローンはレートーの息子で、その神託はギリシア中部 のデルフォイにあるアポローン神殿で下される。 37. イーフィゲネイアのこと。アガメムノーンの娘。 38. ディアーナ女神。 39. アポローンのこと。 40. ギリシア人のこと。

(30)

41. ギリシア人のこと。 42. シノーンのこと。 43. 原文では、 promissis maneas 「約束を守れ。」 44. 原文では、 solo emicuit 「地面から飛び上がった。」 45. アテーナー女神のこと。 46. ディオメーデースのこと。 47. アヒルの故郷、プティーア(Phthia)は北ギリシアのテッサリア地方にある。 48. アヒルのこと。 49. ラオコーンの息子たちのこと。

50. 原文では、 qualis mugitus, fugit cum saucius aram / taurus et incertam excussit ceruice securim. 「牡牛が傷つきながら祭壇から逃げて、狙いの外れた斧を首から振 り落として鳴いた時のよう。」

51. アテーナー女神のこと。 52. テーセウスのこと。 53. つまり木馬のこと。

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