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発達障がい学生支援における 「大学生活支援カード」を用いた早期支援の効果性 : 支援学生へのインタビュー調査から見た一考察

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Academic year: 2021

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発達障がい学生支援における

「大学生活支援カード」を用いた早期支援の効果性

──支援学生へのインタビュー調査から見た一考察──

井手 沙織

・向

晃佑

・小田 浩伸

** キーワード:発達障がい 障がい学生支援 早期支援 高等教育 要約:大学において、支援を必要とする発達障がい学生は年々増えており、高等教育における発 達障がい学生を対象とした支援プログラムの取り組みの報告も増えている。本学では、2019 年 度より入学予定者を対象に「大学生活支援カード」を導入し、要支援学生への早期支援に取り組 んでいる。初年度の取り組みの結果、任意での詳細記述欄に自身の発達特性や苦手なことの説 明、大学生活への不安を細かく記載している事例が複数見られた。このことから、大学生活支援 カードに詳細記述があり入学期より障がい学生支援室を利用しながら大学生活を送る発達障がい 学生 2 名を対象に、大学生活支援カードの有効性についてインタビュー調査を実施した。その結 果、大学生活支援カードは、配慮の希望を伝えるだけでなく大学生活への不安な気持ちを大学側 に伝える機能を担っていること、対面面談での言語応答よりも、書面への記述形式での回答の方 が、学生自身の大学生活への不安な気持ちを安心して伝えることに効果的に作用していることが 示唆された。

1.はじめに

2016 年 4 月に障害者差別解消法が施行され、高等教育機関においても支援体制を整えるこ とが求められている。近年では、小・中規模の私立大学においても、障がい学生支援の専門部 署の設置や専門職の配置が進んでいる。本学においても 2017 年に障がい学生支援の専門部署 として「障がい学生支援室」が設置された。筆者らは、障がい学生支援室(以下、支援室)に 所属する学生支援コーディネーターとして、障がい学生の合理的配慮の調整、学生・保護者と の個別相談、教職員へのコンサルテーション、障がい学生支援の理解啓発活動などの業務を担 っている。 ──────────────── * 大阪大谷大学障がい学生支援室 ** 大阪大谷大学教育学部 ― 27 ―

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大学における発達障がい学生への支援 大学における障がい学生の在籍数は、2019 年度の調査では全体の 1.17% にあたる 37,647 名 であり年々増加傾向にある。発達障がい学生について見ると、診断書がある発達障がい学生は 7,065 名で、この内支援を受けている学生は、4,990 名である。また、診断書はないものの発達 障がいがあることが推察され教育上の配慮を行っている学生が 2,854 名となっており、診断書 のある支援学生と合わせると 7,844 名に上る(日本学生支援機構,2020)。この数は、障がい 種別に見た支援学生数のうち、最も多い精神障がい学生の 5,771 名を上回っており、大学にお ける発達障がい学生への支援の重要性を示している。 近年、発達障がい学生への支援として、大学独自の支援プログラムが報告されるようになっ てきた。筑波大学では、2015 年度より発達障害学生支援(Reasonable Accommodation for De-velopmental Disabilities : RADD)プロジェクトに取り組んでおり、階層的支援モデルによる修 学支援が行われている(佐々木ら,2019)。早稲田大学では、2009 年度より発達障がい傾向を 自覚している学生を対象とした当事者学生自助グループ(WADS)の活動が継続されている (樫木・長岡,2019)。 発達障がい学生への支援においては、大学在学中の支援だけではなく高校から大学へのス ムーズな移行支援も重要である。高校生活と大学生活の間には、教務システムの違いなど大き な変化があり、多くの大学 1 年生が戸惑いや困惑を感じることが指摘されている(朝比奈, 2010)。原田ら(2018)は、大学 1 年生が入学後に戸惑いや困惑を感じることを「大 1 コン フージョン」と命名した。さらに、発達障がい学生にも多く見られる対人関係や社会性の苦手 さを持つ学生にとっては、授業履修や学習面よりも、それ以外の大学生活全般に対して、より 戸惑いや困難を感じやすいことを指摘している。高校から大学への移行期の支援として、在学 生が出身校を訪問し大学の概要を紹介する試みの報告(恩地,2016)や、自閉スペクトラム症 の高校生を対象とした大学生活を模擬体験できるプログラムの取り組みなどがある(大阪大学 キャンパスライフ健康支援センター「ASD 新入生 大学生活準備プログラム」)。以上の取り 組みに見られるように、つまずきやすい入学直後の戸惑いや困惑をできるだけ早い時期に解消 することは発達障がい学生支援の柱の一つと言える。 大学生活支援カードの取り組み 本学では、要支援学生への早期支援を目的として、2019 年度より学部入学手続き者を対象 に入学手続書類の 1 つとして「大学生活支援カード」を導入している。「大学生活支援カード」 は 7 項目から構成されており、項目 1∼3 は、学生本人のことについて尋ねたもので、得意と する力・対人関係の取り方・大学生活での不安な点などについて、当てはまる選択肢にチェッ クする形式で回答を求めた。項目 4∼7 では、大学生活や授業における合理的配慮の希望・医 ― 28 ―

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師からの指示・支援室への相談希望について「はい/いいえ」への回答と任意で詳細記述欄へ の記述回答を求めた。 初年度の取り組みの結果、向ら(2020)は、前年度よりも入学前相談の件数が増加し、入学 時期からサポート体制を取ることができた事例が増えたこと、項目 4∼7 の詳細記述欄に、自 身の発達特性についての説明や大学生活への不安について詳細な記述をしている事例が複数み られたことを報告した。このことから、対人コミュニケーションの苦手さを有する発達障がい 学生にとっては、初めから対面面談で自身のことを口頭で説明するよりも、書類への記述回答 の方が意思表示しやすいことが想像された。 そこで、大学生活支援カードに詳細な記述が見られ、入学早期から支援室に繋がりながら大 学生活を送る発達障がいの診断を有する学生に対し、大学生活支援カードの記入・提出に関す るインタビュー調査を実施した。学生側の視点を通して、大学生活支援カードを用いた早期支 援の有効性を検討することを本研究の目的とする。なお、本研究は筆者らの所属する機関の研 究倫理委員会の許可を得て実施し、対象学生本人と保護者に対し、インタビュー調査、事例の 公表について許諾を得ている。

2.方法

対象者 本学において新入生を対象に実施している「大学生活支援カード」において、詳細記述欄に 自身の不得意な点や大学生活で不安な点等について詳細な記述があり、1 年生の早期に本支援 室と繋がった発達障がいの診断を有する学生 A、B の 2 名を対象とした。2 名とも診断告知を 受けており、自身の苦手な部分について認識のある学生である。 インタビュー項目 インタビューの項目の内容について筆者らで検討し、インタビューガイドを作成した。イン タビューガイドは、①支援室を知ったきっかけ ②支援室への初回来談経緯 ③大学生活支援 カードの記入について(時期・手段・内容) ④大学生活支援カードの必要性について ⑤現 在の大学生活について の 5 項目で構成された。 調査手続き インタビュー調査は、対象者が 1 年生の後期終了時期に実施した。インタビューは、個別面 接室において、インタビュアーと 1 対 1 で半構造化面接の形式で行われた。インタビュアー は、直接の支援担当者ではないスタッフ(心理職)が担当した。倫理的配慮として、事前に対 ― 29 ―

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象者に対し書面・口頭にて調査目的を説明し、書面にて本人と保護者の同意を得た。

3.支援の経過

ここでは、学生 A、B それぞれにおいて、大学生活支援カードでの記入内容と初回来室か ら 1 年生終了時期までの支援の経過について述べる。2 名とも合理的配慮の利用はなく、授業 や大学生活の場面における困り事に対して、本支援室において相談を行っている状況である。 学生 A の支援経過 診断名:自閉スペクトラム症(診断時:広汎性発達障害)、精神障害者保健福祉手帳 3 級所持 大学生活支援カード:「必要な配慮や支援のための相談を希望しますか。」という項目におい て、詳細記述欄に記載が見られた。広汎性発達障害の診断を受けていること、自分から話しか けるのが苦手なため、わからないことを尋ねる相手ができるか不安であること、大学生活に必 要な情報が得られるか心配であること、また、本学生と似たようなタイプの友人と知り合いた いとの内容が記入されていた。 支援の経過:入学前相談はなく、4 月末、授業内のペアワークへの参加に対する苦手さを相談 の主訴として、本人自身による来室があった。近くの席の学生とのペアワークへの取り組みに ついて、前期期間は週 1 回の定期面談を実施した。対人コミュニケーションのスキルを身に付 けたいという希望が聞かれたため、面談では、授業の振り返り、ペアワークやグループワーク 場面を想定したロールプレイ、次回授業の目標設定を面談のプログラムとして取り組んだ。授 業回が進む中で、グループワークの際にファシリテーターに挑んだ回もあり、少しずつ積極的 に取り組む姿勢が見られた。また、面談では、相談したいことを紙にまとめてくることが多か った。 後期期間においても、本人の希望により週 1 回の定期面談を継続した。授業内でのペアワー クやグループワークに関する相談は前期ほど見られなくなり、一週間の振り返りが主となっ た。後期の授業でも、ペアでの発表やレポート課題の提示が確認できたが、焦りはなく自分な りに見通しを立てて対処できている様子が窺われた。一方で、サークルイベントへの参加につ いての相談や大学からのアナウンスへの対応など、前期の時よりも相談の対象となる場面が広 がってきたことが窺われた。また、日常生活の話題など、雑談を交えて話す時間が前期よりも 増えてきた。春休み中の定期相談の希望はなく、2 回生の履修登録時に面談を実施することを 約束し、後期授業最終週での面談をもって 1 年生時の相談を終えた。 ― 30 ―

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学生 B の支援経過 診断名:ウエスト症候群(てんかん)・自閉スペクトラム症(診断時:広汎性発達障害)、精神 障害者保健福祉手帳 3 級所持 大学生活支援カード:配慮に関する 4 項目のうち、3 項目において記述が見られた。「授業や 課題など修学面で、大学に配慮を希望することはありますか。」という項目では、大学のシス テムに自分が付いていけるか不安であるとの回答が見られた。「疾患や障がい等で、医師から 指示を受けていることはありますか。」という項目では、発達障がいの診断を受けており手帳 を所持していること、てんかんがあり服薬中であること、すぐに不安な気持ちになるため色々 な相談に乗ってほしいことが記入されていた。「必要な配慮や支援のための相談を希望します か。」という項目においては、大学生活全般について色々なことを聞きたいとの回答が見られ た。 支援の経過:入学手続き書類である「大学生活支援カード」をきっかけに、保護者が本支援室 の存在を把握され、入学前相談希望の連絡があった。入学前の 3 月に、支援コーディネーター 同席のもと、本人と保護者、入学予定の学科の教員との面談を設定した。面談では、本人の状 態像の聞き取りと、学科のカリキュラムの概要、大学の教務システムなどの説明を行った。加 えて、学科事務を始め利用頻度が高いと思われる部署・施設を案内した。大学生活で何か困っ たことがあれば、最初の相談窓口として支援室を訪ねてほしい旨を本人に伝えた。 入学後、教科書販売の手続き方法についての相談で初回来室があり、以後、前期期間は月に 2 回ほどの頻度で来室相談があった。内容は、授業において提出が必要な課題を出し忘れた際 の対応や、教員の指示を捉え違えていたことに後から気づいた際の対応など、想定外のことが 起きた時の相談が主であり、一緒に解決方法を検討した。後期期間は、本人と家族の希望によ り、週 1 回の定期面談の機会を設定した。定期面談では、卒業後の進路の話や本人の興味のあ る話題を共有するなど、課題解決のための面談ではなく自由に話をする時間として位置づけ た。想定外の困りごとが起きた場合は、その都度、本人から相談を受け対応にあたった。定期 面談の後半では、大学在学期間での目標設定について話すことが増え、後期授業最終週の定期 面談で、春休み期間のプランニングについて検討したところで 1 年生時の相談を終えた。

4.インタビュー調査結果

インタビューに要した時間は学生 A・B ともに 30 分程度であった。インタビュー調査で得 られた回答についてインタビューガイドの項目別にまとめ直したところ(表 1)、2 名の回答に 共通項が見られた。インタビューガイドの項目①②については「3.支援の経過」で詳細を述 べたため、ここでは項目③④⑤についての結果を中心に述べる。 ― 31 ―

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項目③ 大学生活支援カード:実施時期については、入学前の時期での実施に対し肯定的な意 見が聞かれた。学生 B は「事前に伝えられたことで少し安心できた」と語った。伝える手段 においては、両名とも記述回答の伝えやすさについて言及していた。学生 A は、不安な思い は、直接伝えるよりも前もって紙に書くほうが伝えやすいことを答えており、学生 B は、初 めて会う先生と話すのは難しいこと、話す内容も要求的なものは言いにくいことを述べてい 表 1 インタビュー調査の回答内容 項目 学生 A 学生 B ①支援室を知っ たきっかけ 入学式の案内資料にパンフレットが 入っていたのを見た。 母親に、大学に相談する所があると聞いた。 ②支援室の初回 来談経緯 前期の授業でペアワークがあり、一 緒に受けている友達もいなくて、ち ょっとどうしようかなと思って、相 談に来室した。 母親と一緒に、入学前に一度支援室に来室し た。学科の先生にも挨拶した。その際に「困っ たことがあったらいつでも来てください」って 言われて、そこから来るようになった。 ③大学生活支援 カード〈時期〉 入学前に書くことは嫌だとは思わな かった。入学後にもう一度実施して ほしいとはあまり思わなくて、カー ドへの記入は入学前だけで良いと思 う。 入学前で良いと思う。変な目にあってからじゃ 遅いし、事前に伝えられたから少し安心でき た。 ③大学生活支援 カード〈手段〉 不安な思いを紙に書くことは、書き やすかった。直接言葉で伝えるより も、前もって紙に書く方が良い。 初めて会う先生と話すのはちょっと難しい。話 す内容も要求的な「こうして下さい」「こうい うのはあんまりできない」というのは言いにく い。だから、直接話すよりも紙に書く方が伝え やすい。 ③大学生活支援 カード〈内容〉 形式は今のままで良いと思う。自由 記述(詳細記述)部分は書きにくく はなかった。 3 択の中から、得意なものを選ぶことが難しか った。できると言えばできるけど、失敗するこ とも多くて、いつもできるわけではないから。 ④大学生活支援 カードの必要性 やっぱりこのカードは必要だなって 思った。 自分の不安を大学に知られたくない とは思わなかった。 不安に感じていることとか配慮を希望すること とか伝えられる。 ⑤現在の大学生 活について パソコンを使っての作成にも慣れて いなかったこともあって、レポート に慣れることが大変だった。 授業は高校の時と違って、専門で楽 しいなと思う。 人が多いところや、大勢の人が一斉にはしゃい でいる場面は苦手。そういう意味で、ここ(本 学)は人も多くないし、友達も支援室の人も先 生も優しく受け答えしてくれる。 家からも程よい遠さで、自分の好きなことがで きている。 テスト期間は嫌だなと思うけど、大体は「今日 どんな授業するんだろう、楽しみだな」と思い ながら通えている。 ここでしかできないこともいっぱいあるみたい だし、支援室には相談できる人もいるし、安心 して通える大学に行けたんだなと思う。 ― 32 ―

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た。これらより、自分のことや不安を伝える手段においては、対面して口頭で直接伝えるより も書面への記入の方が伝えやすいと捉えていることが窺われた。 項目④ 大学生活支援カードの必要性:2 名とも、回答の中で「不安を伝える」という内容が 聞かれた。このことから、対象学生らは、大学生活への不安を伝えることにおいて「大学生活 支援カード」の必要性を感じていることが窺われた。 項目⑤ 現在の大学生活について:学生 A は「授業は、高校の時と違って専門で楽しい」と 発言しており、学生 B においても「今日どんな授業するんだろう、楽しみだな」「ここでしか できないこともいっぱいあるみたい」との発言が聞かれ、両名とも大学の授業に対して興味関 心を持って臨めているという共通点が見られた。学生の興味関心と在籍学科の専門領域のマッ チングがうまくいっていることが考えられ、在籍学科の専門領域に興味関心を持てていること も、大学生活に適応できている理由の 1 つであることが窺われた。

5.考察

大学生活支援カードの有効性 学生へのインタビュー調査から、両名とも入学後の大学生活に対し不安を抱いており、それ を大学側に伝えたい気持ちを有していたことが明らかになった。書面で提出することについて 肯定的な意見が聞かれていることを踏まえると、対人コミュニケーションの苦手さを有する学 生にとって、大学生活支援カードの記述回答という形式が、大学生活への不安を大学側に伝え ることに有効にはたらいていることが示唆された。回収された大学生活支援カードの中には、 下書きや何度も書き直した跡が見られるものもあり、時間をかけて推敲していることが想像さ れる。対面での面談では、質問に対しその場で返答することが求められるため、自分の思いを 正確に伝えきれない不全感が残りやすい。しかし、自身のペースで作成できる記述回答の場 合、自分の思いを伝えることができるという安心感が得られやすいと考えられる。 また、学生 B のように大学生活支援カードをきっかけに入学前相談につながった場合、提 出された大学生活支援カードを学生と内容を共有しながら話を進めることができるため、対面 面談の場であっても学生本人の意見が出しやすくなると考えられる。 以上より、大学生活支援カードは、大学生活に対する不安を抱いている発達障がい学生にと って、大学側に安心して自分の思いを伝えることができる手段として有効に機能していること が考えられた。 発達障がい学生支援における支援室の役割 今回のインタビュー調査への協力が得られた 2 名の学生は、合理的配慮は利用しておらず、 ― 33 ―

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大学生活を送る中で困りごとに直面した時や定期面談時に、支援室を利用する学生であった。 定期相談では、入学後しばらくは直面している困りごとについての相談が多かったが、次第に 学生自身の考え方や将来のビジョンについての話題が多くなり、相談の場としてよりも対話す る場としての役割が大きくなっていったように思われる。筆者らが所属する「障がい学生支援 室」は、障がい学生支援の専門部署であり、合理的配慮の調整が業務の中心であるが、発達障 がい学生への支援においては「学内にある安全に過ごせる場所」という役割が大きいように思 われる。発表をしなければならない授業の前に気持ちを落ち着けるために来室したり、課題を 頑張って取り組んだことを報告したり、自分の考えについて客観的な意見を求めたり、興味関 心のニュースを共有したりなど、支援室に立ち寄って話をしていくことが多く見られる。本学 の支援室と繋がっている発達障がい学生においては、このような目的で支援室に来室する学生 が一定数存在している。学生 B のインタビュー回答からも、支援室の存在が安心して大学に 通えている理由の 1 つになっていることが窺われる。小島(2014)は、大学における発達障が い学生支援に関する保護者のニーズとして、気軽に相談できる人材と場所の確保を挙げてい る。本学の入学前相談の場面においても、「支援室の存在を知り希望が持てた」と話す保護者 の声が聞かれることが少なくない。以上のことから、発達障がい学生の支援において、支援室 は安全に相談・対話ができる場所としての役割が求められていることが窺われる。大学生活支 援カードは、入学前に本人・保護者が支援室の存在を知るきっかけにもなるため、入学早期か ら大学生活を安心して過ごす環境を整えることにおいて有効であると考える。 今後の課題 大学生活支援カードをきっかけとして早期支援を行うためには、学生自身が支援や相談の希 望を記入していることが不可欠である。つまり、学生自身が自分の特性や苦手なことについて ある程度把握しており、大学側に伝えたいというニーズを持っていることが前提となる。現 在、特別支援教育が始まった 2007 年時以降に小学校に入学した世代が大学入学を迎えている 時期になっており、小・中学校において特別支援学級に在籍していた経験をもつ学生の存在 や、自身の発達特性を認識し相談ニーズを有する発達障がい学生の存在は徐々に増えている実 感がある。そういった学生にとっては、大学生活支援カードは早期支援のきっかけとなり得る だろう。 しかし、発達障がい学生の支援の難しさの 1 つとして、自己理解の難しさのため支援ニーズ が乏しいことが言われている(桶谷,2013)ように、大学生活支援カードでは支援や相談の ニーズが確認できない学生の中に、修学や対人コミュニケーションにおいて問題が顕在化した 後に、周囲から相談を促されて来室するケースも多く見られる。このような早期支援が叶わな かったケースにおいても、相談の中では「スケジュール管理が苦手です」「先生へのメールを ― 34 ―

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どう書いたらいいのかわからなくて連絡しなかった」など具体的な苦手意識が聞かれることが あり、具体的な対処法を知りたい希望を有していることが窺われる。大学生活支援カードで は、学生本人のことについて尋ねる項目の中に、大学生活の中で不安に感じることを尋ねる項 目がある。その具体的な内容・尋ね方の検討や、不安への具体的対処法を提供する機会の検討 などを行い、潜在的な支援ニーズのある学生にとっても、大学生活支援カードが有用なものに なるよう今後も研究を進めていきたい。 附記 本研究を行うにあたり、インタビュー調査へのご協力と事例の提示に快く応じて頂いた学生 A さん と B さん、そしてご家族の皆さまに、この場を借りて深く感謝を申し上げます。 文献 朝比奈なを(2010),高大接続の“現実”“学力交差点”からのメッセージ,学事出版. 原田新・池谷航介・松井めぐみ・望月直人(2018),「大 1 コンフージョン」の実際(第 1 報)−高校と 大学のギャップに戸惑う新入生の実態調査−,岡山大学教師教育開発センター紀要,8, 97-107. 樫木啓二・長岡恵理(2019),早稲田大学における発達障害学生支援の取り組み−当事者学生自助グ ループ(WADS)の活動を中心に−,LD 研究,28(4),426-432. 小島道生(2014),大学における発達障害学生支援に関する保護者のニーズ,岐阜大学教育学部研究報 告 人文科学,62(2),257-262. 向晃佑・井手沙織・小田浩伸(2020),私立大学における新入生を対象とした要支援学生への早期介入 の取組み−「大学生活支援カード」の導入による初年度の実践報告−,大阪大谷大学教育学部特別 支援教育実践研究センター紀要,4, 39-47. 日本学生支援機構(2020),令和元年度(2019 年度)大学,短期大学及び高等専門学校における障害の ある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書. 桶谷文哲(2013),発達障がい学生支援における合理的配慮をめぐる現状と課題,学園の臨床研究,10, 39-49. 恩地忠司(2015),高大連携の新たな展開−「府立高校教職コンソーシアム」との連携を通して−,教育 実践研究,9, 45-49. 大阪大学キャンパスライフ健康支援センター,「ASD 新入生 大学生活準備プログラム」Web サイト (https : //sites.google.com/view/accessibilityosaka-u/),2020. 1. 31 閲覧. 佐々木銀河・岡崎慎治・野呂文行・竹田一則(2019),筑波大学発達障害学生支援(RADD)プロジェ クトの取り組み−階層的支援モデルによる修学支援−,LD 研究,28(4),419-425. ― 35 ―

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