招待論文
IoT
システムの技術動向と実用化に向けた取り組み
松井
進
†Technology Trends and Applications of IoT System
Susumu MATSUI
†あらまし 1991 年の M. Weiser 氏による Ubiquitous Computing の発表から 25 年,Pervasive Computing, Ambient Intelligence と名前を変えて語られてきた概念が,近年,IoT (Internet of Things) として大きな注目 を浴びている.元々の Ubiquitous Computing はコンピュータが環境に溶け込むというユーザインタフェース の立場からの提案であったが,全ての物にコンピュータが埋め込まれる,つまり,コンピュータが遍在するとい う概念として捉えられてきた.この概念にセンサネットワークの要素を取り込んだのが IoT である.IoT システ ムは製造業や農業等の産業分野,交通やエネルギー等の社会分野,健康管理や安全管理等の家庭分野など,あら ゆる分野への適用の可能性をもっている.また,国家レベルや企業レベルでの標準化活動,コンソーシアム活動 が活発に行われている.しかし,無線デバイス分野からアプリケーション分野まで関連技術が多岐にわたってお り,その全貌を掴むのは容易ではない.本論文では,IoT 関連技術を整理するとともに実用化に向けた取り組み, 更なる発展のための IoT インフラ構築の動きについて述べる.
キーワード Ubiquitous Computing,IoT システム,センサネットワーク,IoT プラットホーム,IoT イン フラストラクチャ
1.
ま え が き
1991年のゼロックスWeiser氏によるUbiquitous Computingの提唱[1]から25年,ユビキタスの概念 はIoT (Internet of Things) [2]と名を変え社会に浸 透し始めた.Weiser氏の提唱はコンピュータが環境 に溶け込み,人々はコンピュータを使っているという 意識なしにコンピュータの恩恵を受けるというユーザ インタフェースの立場からのものであった.しかし, Weiser氏の意図から離れ,全てのものにコンピュータ が埋め込まれるという概念として捉えられてきた.そ の意味で,Pervasive Computing [3]やAmbient In-telligence [4]などの概念も提案されてきた.更に,近 年になってセンサネットワークを強く意識したIoTへ の注目が集まるようになってきた.今後10年以内に 全世界に1兆個のセンサーが設置されるとの予測もあ り[5],IoTシステムは今やIT分野において最も注目 されるシステムの一つである. IoTシステムは産業分野,社会分野,家庭分野など, †大阪工業大学情報科学部,枚方市
Faculty of Information Science Technology, Osaka Institute of Technology, Hirakata-shi, 573–0196 Japan
あらゆる分野への適用の可能性をもっている.また, 標準化活動,コンソーシアム活動が活発に行われてい る.しかし,無線デバイスからアプリケーションまで 関連技術が多岐にわたっており,その全貌を掴むのは 容易ではない.本論文では,IoT関連技術を整理する とともに実用化に向けた取り組み,更なる発展のため のIoTインフラ構築の動きについて述べる.
2. IoT
システムの構成とそれを支える技術
図1にIoTシステムの構成例を示す. IoTシステムはフィールドに無線通信機能をもった 図 1 IoTシステムの構成 Fig. 1 Configuration of IoT system.多数のセンサーを配置し,各センサーが収集した情 報をIoT GWを介してIoTサーバに蓄積する.IoT GWとIoTサーバ間は広域網により接続されることが 多い.IoTサーバには多数のセンサーからの大量の情 報,所謂ビックデータと呼ばれる情報が蓄積している が,この情報から必要な情報を抜き出し.アプリケー ションサーバ内のアプリケーションが各種処理やデバ イスの制御を行う.IoT GWの位置に小型のサーバ を設置し,局所的な処理を行わせるエッジコンピュー ティング[6]と呼ばれるシステムもある. システムを実現するための技術要素としては, • 無線通信技術 • ネットワーク技術 • サービス基盤技術 などがある.これらの技術が連携して全体システム を構成している.以下の章ではこれらの技術の動向を 整理する.
3.
無線通信技術
IoTシステムは多数のセンサーが色々な環境に分散 設置されていることから,無線通信への要求条件は多 岐にわたっている.またシステムごとに異なっている. 代表的な条件を表1に示す. 数千のセンサーを接続する,周辺環境の変化に対応 可能とする,低コストで設置容易など,無線通信への 要求レベルは高いと考えられる.一方,現在使用可能 な無線通信技術としては,WiFi,WiSUN,携帯電話 網などがある.これらの比較を表2に示す. WiFi及び携帯電話網はよく知られた無線通信網であ る.WiSUN [7]はIEEE802.15.4g標準であり,2012 年7月より国内でも使用可能となった920MHz帯を使 用する無線通信技術である.送信出力は基本は20mW であるが一部のチャネルは250mWでの出力が可能で ある.送信電力12mWで到達距離400mとの実験報 告もある[8].省電力性にも優れているため,IoTシス テムに有力な無線通信技術の一つである. 表2からわかるように,要求条件を全て満たす無線 通信技術は存在しない.スループットが要求されるシ ステムに対してはWiFiが,省電力が要求されるシス テムに対してはWiSUNが,到達距離を重視するシス テムには携帯電話網が適している.個々システムの要 求条件に応じて複数の無線通信技術を組み合わせたり, 使い分ける必要があると考えられる. 表 1 無線通信への要求条件 Table 1 Requirements to wireless network.大項目 項目 要求条件 大規模 台数 数千のセンサ/デバイスが接続可能 距離 数百メートルの装置間距離が可能 電波伝搬 到達性 ある程度の障害物を越えて通信できる 環境変化 周辺環境の変化に柔軟に対応できる 省電力 電池駆動 バッテリーで長時間の稼動が可能 運用設置 設置容易 複雑な設定が不要 コスト 装置/設置/運用コストが安価 表 2 無線通信技術の比較 Table 2 Comparison of wireless network.
WiFi WiSUN 携帯電話網 到達距離 △ ○ ◎ 回りこみ △ ◎ ○ スループット ◎ △ ○ 省電力 △ ◎ ○ 通信コスト ◎ ◎ △
4.
ネットワーク技術
ネットワーク技術についても,表1と同様の要求条 件がある.これらの要求条件に対応したネットワーク 技術のうち,ここでは6Lowpan [9]とRPL [10]につ いて述べる.また,ネットワークに関する課題につい て述べる. 4. 1 6Lowpan [9] 既に述べたように,10年以内に全世界に1兆個のセ ンサーが設置されるとの予測もある.これら多数のセ ンサーをネットワーク化するには現状のIPv4では難 しく,IPv6導入が必要である.しかし,IPv6を採用 した場合,パケットのヘッダ長が大きくなり,効率が 悪いという問題がある.IPv6パケットヘッダ長は40 バイトである.一方,一般にセンサーからのデータは 数十から数百バイト程度である.特にIEEE802.15.4g などの低速回線を考えるとヘッダオーバヘッドが無視 できなくなる.そこで,MACアドレス利用などによ るIPv6ヘッダ圧縮が検討され,6Lowpan [9]として IETF標準化された.6Lowpanでは, (1) 通信相手が同一ネットワークに存在する場合に はサブネットプリフィックスを省略する (2) インターフェース識別子をMACアドレスから 導出している場合にはレイヤ2のヘッダを用いる ことによりインタフェース識別子を省略する などを行うことにより,条件よっては40バイトのIPv6 ヘッダを最小3バイトまで圧縮可能である.図 2 マルチホップネットワーク Fig. 2 Multi-Hop network.
4. 2 RPL [10] 一般的に無線ネットワークは基地局やアクセスポイ ントと呼ばれる親局と端末が直接通信する構成を取る. 遮蔽物などにより端末と親局が直接通信できない場合 には,親局を増設する必要がある.そこで,IoT向け のネットワークでは,センサーやデバイスが他のセン サーやデバイスからのデータを中継するマルチホップ ネットワークの適用が考えられている.図2にマルチ ホップネットワークの構成を示す. マルチホップネットワークでは,遮蔽物の回りこみ が可能であり,設置コストも安く抑えることができる. マルチホップネットワークはアドホックネットワー クとも呼ばれ,OLSRやAODVなどのルーティング 方式がIETF MANET WG [11]で標準化されている. しかし,これらのルーティング方式は端末間をメッ シュ状に接続するため,ルート構築のオーバヘッドが 大きい.また,端末数が増えると,ルーティングテー ブルのための大きなメモリが必要である.そのため, 端末(センサー)のリソースが限られ,通信速度の遅 いIoTシステムには適しているとは言えない.更に, IoTシステムはセンサー間の通信は行わず,センサー はGWとのみ通信することが一般的である.つまり, センサー間をメッシュ状に接続する必要はなく,基本 的には図2で示すように,各センサーとGW間のツ リー状のルートが構築できれば十分である.図3に 従来のアドホックネットワークの構成を,図4にIoT 向けマルチホップネットワークの構成を示す. 表3に従来のアドホックネットワークとIoT向け マルチホップネットワークの比較を示す. IoT向けマルチホップネットワークのルーティング プロトコルの代表はRPL [10]である.RPLではGW がRootとなり,Rootからのホップ数をパラメータと するDIO (DODAG Information Object)メッセージ を定期的にブロードキャストする(DODAGはGWを Rootとして構成されるツリー構造).DIOメッセージ を受け取った端末はRootからのホップ数パラメータを 図 3 従来のアドホック ネットワークの構成 Fig. 3 Conventional Ad Hoc network. 図 4 IoT向けマルチホップ ネットワークの構成 Fig. 4 Ad Hoc network
for IoT system.
表 3 従来のアドホックネットワークと IoT 向けマルチ ホップネットワークの比較
Table 3 Comparison of conventional Ad Hoc network and Ad Hoc network for IoT system. 項目 従来のアドホックネッ トワーク IoT向けマルチホッ プネットワーク ネット ワ ー ク構成 端末間をメッシュ接続 GWを中心にツリー 接続 通信形態 任意の端末間で通信可 能 端末と GW 間で通信 通 信 プ ロ ト コル OLSR,AODV など RPLなど ル ー ト 構 築 オ ー バ ヘッ ド 大 小 実績規模 100端末程度 1,000端末程度 +1してDIOを再ブロードキャストする.また,各端 末は受け取ったDIOのうち,Rootからのホップ数が 一番小さいDIOの送信元を親端末として選択し(ホッ プ数が同じ場合には何らかのアルゴリズムで一つ決 める),親端末にDAO (Destination Advertisement Object)メッセージを送信する.DAOメッセージは親 端末が中継してRootまで転送される.以降,端末が Rootにデータを送信する場合,親端末にデータを送る と各親端末が中継しRootまでデータが届くことにな る.各端末は自分の親を示すルーティングテーブルの みをもてばよく,メモリが節約できる.また,ネット ワーク構成の変化が少ない場合にはRootからのDIO メッセージの送信間隔を長くすることにより通信帯域 を節約する機能も盛り込まれている. 4. 3 ネットワークにおける課題 IoT向けマルチホップネットワークでは各端末(セ ンサ)からのデータは全てGWに集まることになる. GWから遠いところでは問題ないが,GWに近いとこ ろではデータ集中による輻輳が問題となる.IoT無線 網として利用されるWiFiやWiSUNはMAC方式と してCSMA/CA方式を採用している.よく知られた
ように本方式は他の端末からのデータ送信をセンスし, かつどの端末もデータ送信をしていない場合にでもラ ンダム時間待つことによりデータ送信の衝突を極力避 ける方式である.しかし,ネットワーク負荷が高くなっ た場合や,端末数が増えた場合などでは,どうしても データ衝突の確率は高くなる.CSMA/CA方式では 有線ネットワークで採用されているCSMA/CD方式 のようにデータ衝突をリアルタイムには検知できない ため,データ衝突が起こってもデータパケットを最後 まで送信し,MACレベルのAckが返信されないこ とによりデータ衝突を検知する.つまり,CSMA/CA 方式ではデータ衝突が起こるとスループットは極端 に下がる[12].IoT向けマルチホップネットワークの GW付近では,GWから1ホップの位置にある端末 が,ネットワークの全端末数分のパケットを送信する ためネットワーク負荷が高く,各1ホップ端末からの データ送信頻度が高くなるという,CSMA/CA方式 が苦手な状況が実現しており,何らかの対策が必要と なる.また,隠れ端末問題も顕在化してくる.この課 題に対する対策としては, (1) 子端末からのデータに自分のデータをアグリ ゲーションすることによりデータ送信頻度を下 げる (2) センサからのデータ送信は定期的であることを 考慮し,CSMA/CA上でタイムスロットを定義 したり[13],衝突が起こった場合には次回の送信 タイミングをずらす[14] などの方式が提案されている.
5.
サービス基盤
従来のIoTシステムは,それぞれ独自のIoTシス テムを構築してきた.謂わば垂直統合型システムであ る.しかし,各システムにはデバイス管理や位置管理 など同様の機能が実装されていること考えられる.こ れらをシステムごとに実装するのでは開発コストや時 間がかかってしまう.また,将来のシステム間連携に も問題が生じる恐れがある.そこで,これらの機能を 共通機能として括りだし,サービス基盤として提供す ることにより,開発コストや時間を削減し,システム 間連携も容易にする水平統合型システム構築の試みが なされている.図5に垂直統合型システム,図6に 水平統合型システムを示す.以下では水平統合型シス テム構築に向けた幾つかの試みについて述べる. 図 5 垂直統合型システム Fig. 5 Vertical integratedsystem.
図 6 水平統合型システム Fig. 6 Horizontal integrated
system.
図 7 oneM2Mの構成 Fig. 7 Architecture of oneM2M.
5. 1 oneM2M [15] oneM2Mは共通プラットホーム化により,IoTシス テムを安価に構築することに加え,これまで業種内で 垂直統合的に構築されたシステムを水平展開すること により,業種を越えた新サービスの創出を狙っている. 2012年7月に欧州を中心に世界各国から208団体が 参加し設立され,2015年1月にETSI仕様をベース とした初版が公開された.oneM2MではIoTシステ ムの12個の共通機能(セキュリティ,デバイス管理, 位置管理など)を共通プラットホームとしてまとめて いる.図7に構成を示す.
oneM2Mでは共通プラットホームをCSE (Common Service Entity),CSE内の各機能をCSF (Common Service Function)と呼ぶ.サーバやセンサーにCSE
を実装する構成となる.主なCSFの機能を表 4に 示す. oneM2Mは産業分野や自動車分野への適用が始まっ ている.また,以下に述べる他の標準化活動との連携 も進めている.2016年8月にはリリース2が発表さ れた. 5. 2 OCF [16]
OCF (Open Connectivity Foundation)は2014年
表 4 oneM2Mにおける主な共通機能 (CSF) Table 4 Main CSF in oneM2M.
主な CSF 機能 登録 エンティティの登録 通信管理/配布管理 他ノードとのネットワーク選択な どの通信管理 セキュリティ アクセス制限のための認証など デバイス管理 デバイスファームウェア更新など ネットワークサービス 連稀 デバイスに対するネトワークから のトリガなど サブスクリプション通 知 変化がしきい値を越えたら通知
OCI (Open Interconnect Consortium)と2013年12
月にQualcommなどがメンバーとなりLinux Foun-dationが設立したAllseen Allianceが統合する形で
2016年2月に発足した新組織である.OICは IoTiv-ity [17],Alssen AllianceはAlljoyn [18]というデバ イス管理やデータ転送機能をもつオープンソースを提 供してきたが,今後は,統合される方向に向かうと考 えられる. 5. 3 IoT向けOS サービス基盤とは若干意味合いが違うが,共通基盤 という意味でIoT向けOSについて述べる.センサー などのIoTデバイスは一般的にメモリなどのリソー スが十分ではないことが考えられる.つまり,Linux やAndroidなどの一般的なOSを動かすにはリソー ス不足である場合が多い.そこで,少ないリソースを 前提としたIoT向けOSが幾つか検討されている.こ こでは,そのようなIoT向けOSの一つであるRIOT (The friendly Operating System for the Internet of Things) [19]について述べる. INRIAなどを中心に2008年ごろからセンサネッ トワーク向けのOSの検討が行われていた.これが 発展したのが省電力,軽量OSであるRIOTである. Linuxが1MB程度のメモリを必要とするのに対し, RIOTは数KBのメモリ上で動作する.またCや C++,マルチスレッドをサポートしているほか,リア ルタイム性も兼ね備えている.更に,6Lowpan,RPL のほか,HTTPの簡易版であるCoAP (Cpnstrained Application Protocol) [20]も実装している.RIOT
はLGPLv2.1 [21]に則ったオープンソフトウェアであ り,組み込み機器から一般のPCまでの色々なプラッ トホームでの実装が報告されている.
6.
実用化に向けた取り組み
IoTシステムの実用化が始まっている.本章では幾 図 8 スマートメータシステムの構成 Fig. 8 Configuration of smart meter system.つかの事例について述べる.
6. 1 スマートメータシステム
スマートメータシステムはAMI (Advanced Meter-ing Infurasuructure)とも呼ばれ,電力メータやガス メータなどをネットワーク化し,自動検針を行うシス テムである[22].図8にスマートメータシステムの構 成を示す. スマートメータシステムでは各家庭のメータをネッ トワークで接続し,電柱などに設置されたコンセント レータに接続する.コンセントレータは広域網により データ収集サーバであるMDMS (Meter Data Man-agement System)に接続されている.スマートメータ とコンセントレータ間の通信方式は山間部などは携帯電 話網を使用し,都市部などの密集地ではPLC (Power Line Communication)あるいはWiSUN+RPL方式 によるマルチホップ通信を採用する.スマートメータ システムの代表例が電力システムである.電力各社 は本格導入を開始した2014年から10年間で普及率 100%を目指して導入を進めている.検針は30分に1 回程度,WiSUNの場合は一つのコンセントレータに 500台から1,000台のメータを接続する構成である. 6. 2 車車間/路車間通信システム 車車間/路車間通信通信システムは車及び路側に通 信機器を搭載し,安全運転を支援するシステムである. 具体的には右折車存在注意喚起や赤信号注意喚起によ る交差点での衝突回避,緊急車両接近情報伝達,渋滞 情報伝達による衝突回避などである.図9に車車間/ 路車間通信システムを示す. 車車間/路車間通信システムは各国で検討が進んで いるが,ここでは欧州における動向を述べる.欧州 ではダイムラーやBMWがメンバーであるC2CCC (Car to Car Communication Consortium) [23]など
図 9 車車間/路車間通信システム Fig. 9 V2X system.
図 10 欧州における車車間/路車間通信 システムアーキテクチャ Fig. 10 V2X system architecture in EU.
の業界団体で通信標準案を策定し,欧州の電気通信標 準化機構であるETSIで標準化されている.図10に 欧州における車車間/路車間通信システムのアーキテ クチャを示す. 無線部分は5.9GHzを使用するIEEE802.11p上に 10MHzチャネルを3ch割り当てている(制御チャネ ル: 1ch,サービスチャネル: 2ch).ネットワーク部 分は位置情報に基づくマルチホップ通信である Geo-Cast [24]を行っている.メッセージは,各車両が自車 の位置や速度などの情報を周りの車に定期的に送信す るCAM (Cooperative Awareness Message)と,緊 急情報メッセージであるDNM (Decentralized Noti-fication Message)を規定している.欧州における車 車間/路車間通信システムの車両への搭載は2017年ご ろからと予想されている. なお,日本においても車車間/路車間通信システム の検討が進んでおり内容的には欧州と同様であるが, 通信帯域として回り込み効果が期待できる760MHz帯 を使用しているところに特徴がある. 6. 3 児童見守りシステム 児童見守りシステムは,近年の児童を被害者とする 事件多発に対応して開発されたシステムである.国内 で15以上の実施例があるが,以下では2008年から塩 尻市で運用されたシステム[25]について述べる. 塩尻市の児童見守りシステムは,児童がもつ端末, 各所に設置されアドホックネットワークを構成する中 継機及びサーバから構成される.無線通信には周波 数429MHzの特定小電力無線が使用されている.端 末からは端末IDと無線電波強度の情報を定期的に送 信する.この情報は中継機で構成されるアドホック ネットワークによりサーバに送られる.サーバでは送 られてきた情報を元に,各児童の位置を推定し,保護 者からの要求により位置情報を提供する.児童数は 2009年の段階で約400名,中継機は約500台で,半 径350m-500mに1台設置されている.なお,塩尻市 では,この無線インフラを利用して,バスロケーショ ンシステムなどの他のサービスの運用も行っている.
7. IoT
インフラ構築の動き
IoTシステムは製造業や農業等の産業分野,交通や エネルギー等の社会分野,健康管理や安全管理等の家 庭分野など,あらゆる分野への適用の可能性をもって いる.また,今後10年以内に毎年,全世界に1兆個 以上のセンサーが設置されるとの予測もある.このよ うに,多くのIoTシステムが共存し,各IoTシステ ムが多くのセンサーを設置することを考えると,IoT システムごとに構築される無線環境の干渉や,重複し たセンサー設置による無駄が生じると考えられる.そ こで,各IoTシステムを上手く連携させるためのIoT プラットホームが必要となると考えられる.5.で述べ たように,これまでシステムごとに開発されてきた個 別機能を共通化するサービス基盤構築の動きもあるが, ここでは更に共通化を推し進めたIoTインフラ構築の 動きについて述べる. 7. 1 無線ネットワークの地域共通インフラ化 4. 3で述べたように,IoTシステムではGW付近 にトラヒックが集中することによる輻輳が課題である が,解決策として,CSMA/CA上でTDMA的な制 御をする方式などが提案されている[12].しかし,複 数のIoTシステムが独自に無線ネットワークを構築 すると,この対策が意味をなさなくなることが考えら図 11 共通インフラとしての無線ネットワークの構成 Fig. 11 Structure of common wireless network
infras-tructure. れる.スマートメータシステムを例にとると,同一地 域に電力向けスマートメータ,ガス向けスマートメー タ,水道向けスマートメータが共存することが予想さ れる.その場合,たとえ電力向けスマートメータで 輻輳対策を行ったとしても,他のスマートメータシス テムとの間での無線干渉が起こり,対策が意味をなさ なくなる.また,各スマートメータごとの無線ネット ワーク構築によるコストの無駄も生じる.そこで,無 線ネットワークの地域共通インフラ化が必要と考えら れる.このような動きとしてNICTのNerveNet [26] や,GEのGrid IQ AMI P2MP [27]などがある. NerveNetは基地局間をマルチホップネットワーク 技術で接続する分散ネットワーク及び基地局上で動作 するアプリケーションからなる.平常時には地域や住 民が求める情報やサービスの提供など,地域振興ツー ルとして用いられる.また,災害時には災害情報や安 否情報を提供する.マルチホップネットワーク技術に より,災害時に幾つかの中継器が使用できなくなって も,他の中継器により通信が継続できるという耐災害 性を備えている. 図11に共通インフラとしての無線ネットワークの 構成例を示す. 下部は無線メディアを仮想化し,その場所で使用で きる無線メディアを効率的に使用する機能を提供する. WiFi,WiSUN,携帯電話網などをその場の環境やア プリケーションからの要求により使い分ける,所謂コ グニティブ無線[28]技術を適用する.上部は無線ネッ トワークの仮想化である.IoTシステムごとに仮想化 無線ネットワークを提供することによりシステム間の 図 12 センサーデータ共同利用の構成 Fig. 12 Common use of sensor data.
独立性を確保する.このような地域の共通インフラと しての無線ネットワークを構築すると,災害時などは 災害対応システムが優先的に無線ネットワークを使用 するなどの運用も可能となる.どのような組織が運用 主体になるかや法規制面など実現に向けては課題も多 いが,今後のIoTシステムの発展には必要なインフラ ストラクチャであると考える. 7. 2 センサーデータの共同利用 従来のIoTシステムはシステムごとに目的に応じ てセンサーなどを設置していた.しかし,今後はセン サーデータの共有化が図られると考えられる.つまり, IoTシステムごとにセンサーを設置するのではなく, センサーデータをプールし各IoTシステムがそれを利 用する構成である. 図12にセンサーデータの共同利用の構成を示す. センサーデータがそのセンサーデータ所有者経由, あるいは直接センサーデータプール(クラウド)に蓄 積され,各IoTシステムはセンサーデータプールのセ ンサーデータを利用する構成である.センサーデータ 利用のための権利問題,課金問題やプライバシー問題 など幾つかの課題はあるが,今後の方向であると考え る.なお,本件と関連した動きとしては,2015年に設 立されたIoT推進コンソーシアム[29]のデータ流通 推進WGの活動がある.
8.
む す び
本論文ではではIoTシステムの無線技術からサービ ス基盤までの幅広い技術の動向と,スマートメータシ ステムや車車間/路車間通信システムなどの実用化への取り組みについて述べた.また,今後のIoTシステ ム発展のための,無線ネットワークの地域共通インフ ラ化やセンサーデータの共同利用などのIoTインフラ 構築の動きについて述べた. IoTシステムの実用化は今後ますます進んで行くと 考えられる.これらのシステムが互いに負の干渉を起 こすのではなく,連携を深め,社会のインフラとして 成長して行くためには,IoTインフラ構築が必須であ ると考える.IoTインフラ構築には技術的及び制度的 な課題が多く残されている.今後の解決が待たれる. 文 献
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