義務教育諸学校の諸相 ― 児童自立支援施設への併置 東北六県の事例 ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第9号. 自由投稿論文. 義務教育諸学校の諸相 ― 児童自立支援施設への併置 東北六県の事例 ― 阿部 二郎*1・瀬川 寛予*2. 概 要 児童福祉行政の一環として行われる「児童自立支援施設」における教育活動は、 「児童福祉法の一 部を改正する法律(平成九年法律第七四号) 」の施行により、平成10年4月から児童自立支援施設の 長に対し、入所中の児童を就学させる義務が課されるとともに、施設内における学校教育に準ずる学 科指導の実施に関する規定が削除されている。これに伴って、施設(或いは敷地内)に義務教育諸学 校の併置が求められ、県費負担教諭の配置も行われるようになっている。その人事は、通常の県費負 担教諭の異動の一環として行われているが、特殊な勤務と業態が求められているのも事実である。筆 者らは、そうした実態について明らかにするため、東北圏(6県)で併置校(分校・分教室)もしくは 児童自立支援施設への悉皆訪問調査を行った。調査の結果、義務教育諸学校でありながらも、併置校 (分校・分教室)の運営状況(施設との連携)や教育環境は県ごとに大きな相違があることが明らかに. なった。 <キーワード> 児童自立支援施設 児童福祉法 義務教育諸学校 併置校 東北圏(6県). 1.はじめに(課題の所在) 義務教育諸学校には、様々な区別や区分の方法が存在している。①設置者により、 「いわゆる国立 学校(独立行政法人) 」 「公立学校」と「私立学校」の区別がある。②障害の有無や程度により「普通 学校」と「特別支援学校」に区別したり、 「通常学級」と「特別支援学級」に区分することもある。 ③学校の設置されている地理的環境により、 「へき地学校」としての指定と「へき地性の等級」が割 り振られることもある。④学校規模や学校区の環境によっては、本校と分校(分教室)を設置する形 式を採ったり、小・中併置校として教員組織が変則的に組織されたりもする。⑤在籍の児童・生徒数 によっては、複式学級が編成されることもある。⑥教育課程編成上の観点から、小中一貫校、義務教 育学校、中等教育学校(前期課程)という区別をすることもある。⑦業務遂行する時間帯の区別では、 昼間の「(普通)中学校」に対して、全国に30校程度存在している「夜間中学校(公立中学校の夜間 学級)」がある。この「夜間中学校」は、長らく減少する傾向にあったが、安倍晋三首相の発言 (2014.9.18)以降、平成26年7月の「教育再生実行会議第5次提言」において設置の促進が提言され たこともあり、いわゆる「夜間補充教室」と共に増加する傾向にある。⑧学校と地域社会の関係に目 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)函館. *2. えりも町立えりも小学校. 207.
(3) 阿部 二郎・瀬川 寛予. を転ずれば、コミュニティ・スクール(地域運営学校)として指定される学校とそうではない学校に 大別される。⑨学社連携の観点から見れば、義務教育諸学校と学習塾が提携した教育活動(学校にお ける夜間塾等の実施)を行う学校とそうではない学校に大別することもできるだろう。 このような、様々な義務教育諸学校の状況は、比較的多くの人々の目に触れるような形で報道・紹 介されてきた。ところが、 「夜間中学校」と同じように全国に50校ほど存在しているにもかかわらず、 その存在自体がほとんど知られておらず、 「あまり積極的な紹介もされない」義務教育諸学校が存在 している。「児童福祉法の一部を改正する法律(平成九年法律第七四号)」の施行により、平成10年4月 から児童自立支援施設の長(一時的な親権代行者 注:阿部)に対し、入所中の児童を就学させる義務が 課されるとともに、施設内における学校教育に準ずる学科指導の実施に関する規定が削除された。こ れに伴い、 「児童自立支援施設(および敷地内)に併置されることになった義務教育諸学校」がそれ である。 矯正教育を行う少年院とは異なり、児童自立支援施設はあくまでも児童福祉法第7条を設置根拠と する児童福祉施設であり、その設置目的と機能について同法第44条によって定義されている(少年法 による処分の1つとして、家庭裁判所審判による「児童自立支援施設送致」による入所もある。注:阿部)。. 児童自立支援施設への入所者に対する教育諸活動は、児童福祉を目的としたものであり、施設に併 置される義務教育諸学校(併置校)は、学校教育法第1条に基づく学校である。〔全国の児童自立支援 施設に併置されている義務教育諸学校の中に、 「特別支援学校」は存在していない。注:阿部〕 併置校(分校・分教室)で行われるのは、あくまでも義務教育課程の普通教育であり、指導者は正規. の教育職員免許状を所持した教諭である。教諭が所属する併置校組織の長は学校長であり、児童自立 支援施設の長ではない。 全国の児童自立支援施設の設置者は、基本的には県(一部、国立と私立が存在するが例外的)であ る。ところが、併置される義務教育諸学校の設置者は、児童自立支援施設の住所が置かれている自治 体(義務教育諸学校の設置義務)であり、その学校は、ほぼ全てが「教頭を組織の長として配置する分校 (場合により教頭を置かない分教室) 」として設置されている。従って、併置校(分校・分教室)に配置さ. れる教員の上司である校長は本校におり、学校が所在している敷地全体の管理責任者は児童自立支援 施設の所長ということになる。その結果、日常の業務遂行においては、併置校(分校・分室)の教頭 や教諭は、所長や児童自立支援施設職員との協議が必要不可欠であり、生徒指導・生活指導面では児 童自立支援施設側の意向を尊重する必要があり、義務教育諸学校としては「特殊な状況」に置かれる ことになる。 また、併置校(分校・分教室)に配置される教員は、教員養成の過程で「こうした特殊な業態の学校 に勤務するための基礎的教育」を受けていない上、 「通常の人事異動」の一環として異動発令されて いる。その結果、着任して数年間の経験を積むことで併置校(分校・分室)が果たすべき具体的な役 割や指導方法について理解し始めた頃、異動(転出)期を迎えることになり、児童自立支援施設併置 学校のスペシャリスト教員の育成は期待し難い。併置校(分校・分室)では、教育実践の結果として 獲得された様々な貴重な知見が蓄積されるけれども、残念ながら教育界全体で共有されるような形で 報告されることがほとんどない(入所・在籍していた児童・生徒のプライバシー保護の観点から、具 体的な報告が困難でもあるため)のが現状である。1) そのため、法改正・施行から20年が経過してい るけれども〔法改正に伴う制度整備以前から、県独自の判断に基づき義務教育諸学校が設置されている事例もある。 注:阿部〕 、関係者以外には併置校(分校・分室)の実態がほとんど知られていない状況がある。学校教. 育界の側からこのテーマを取り上げ、実態の調査報告を行った学術論文はほとんど存在していない。 208.
(4) 義務教育諸学校の諸相. 〔厚生労働省による各種研究会報告書や文科省からの通知(平成10年3月31日)等は散見されるし、特定の自立支 援施設を取り上げて論じた学術論文等は存在している。注:阿部〕 児童自立支援施設は、児童福祉法施行令第36条の規定により都道府県と政令指定都市に必置義務が. 課されている施設で、全国に58施設存在しており、各都道府県に最低1施設が設置されている。58施 設の設置者内訳は、国立2、政令指定都市の設置(市立)4、都道府県設置・政令指定都市から都道 府県への委託50、私立(社会福祉法人)2である。入所者を性別ごとに限定している施設と限定して いない施設がある。大半は、1つの施設で男女の入所者が共同居住生活を送っている。都道府県内 (政令指定都市を含む)に国公私立を問わず複数施設が設置されているのは、北海道、埼玉県、栃木 県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県のみである。法令に規定された施設の設置でありな がら、施設の歴史、成り立ちと深く関わっているため、一様な状況にはない。現在の児童自立支援施 設は、前身である教護院、その前身となる少年教護院、さらにその前身となる感化院からの長い歴史 を経て設置されている施設も多く、施設を取り巻く環境や実態には大きな相違がある。こうした状況 に対して、個人的な見解であることを表明した上での、下記のような説明も見られることになる。2) 「児童自立支援施設は58施設あれば58通りのやり方がある」と言われるのですが、施設によってバ ラバラです。ですから、児童自立支援施設を論じることは大変難しいことで、ある1施設のみを見て 語ることは不可能です。また、全体の特色なんてものも出せません。 このような状況に着目し、児童福祉行政の立場から児童自立支援施設側に重きを置いて併置校(分 校・分室)との関係について調査研究を行ったのが、菊地美絵による平成24年度卒業研究論文「児童. 自立支援施設に入所した学齢生徒に対して児童自立支援施設と学校・地域が行うべき連携や支援につ いての検討 -取材活動を通してみえた課題-」 (函館校 阿部研究室所蔵)であった。 菊地は、調査対象を北海道に限定し、児童福祉行政の観点から学校教育=併置校(分校・分室)の 在り方について批判的検討を加えようと試みたが、物理的な制約により悉皆調査は行えなかった。 瀬川は、菊地の先行研究に啓発され、研究対象地域を自身の出身地域である東北圏(6県)に設定 した上で「自立支援施設と義務教育諸学校の関わりにおいて義務教育諸学校がどのような運営上の困 難点を抱えているのか」という課題意識の下で悉皆調査を実施し〔全取材調査で、阿部と瀬川が同席した。 注:阿部〕 、教育行政の観点(学校教育の観点)から併置校(分校・分室)に関わる内容全般について検. 討を加えた。 前述の「施設によってバラバラです。 」という評価に従えば、 そこに併置される併置校(分校・分教室) も必然的にその影響を受けることが予想される。 義務教育諸学校の存在意義と設置目的は、学齢期の児童・生徒が居住する自治体の地域性や経済状 況による悪影響を排除しつつ、 他の自治体と均一な教育機会と均質な教育内容を保証することにある。 そのため、政府に対して義務教育費国庫負担法に基づく経費支出や、就学保証義務まで課している。 つまり、両者の設置経緯やその機能を考えれば、児童自立支援施設と併置校(分校・分教室)の連携 は「個別と平準の連携」という構図になる。組織間で「連携」と言う場合は、 双方が独立した存在で、 且つ、同格であるということが前提となる。ところが1日24時間の内、学校が責任を負うのは精々通 学中の8時間程度に過ぎない。残りの時間は全て児童自立支援施設が責任を負っているし、通学中の 時間帯についても「保護・監督者」としての責任を持ち、施設職員が学習指導にも間接的に関わり続 けていることから、 「独立した組織」とは言いがたい関係がある。 209.
(5) 阿部 二郎・瀬川 寛予. 所轄官庁の違いから、法律的には「独立した組織の併置」という名目になってはいるが、実質的に は「附属」 「付設」の意味合いの方が強い関係にある。元々、前身の教護院時代は施設職員による「義 務教育相当」の施設内指導が行われていたわけであり、施設側から考えれば「制度改正による外部組 織の併置」は「自己完結できなくなる(自己完結機能が失われる) 」という意味で歓迎できるとは言 いがたい側面もあったと考えられる。 菊地による先行研究の結果から考えても、児童自立支援施設側の意識は、 「連携」というよりも「業 務の一部を外部委託している」という感覚に近いものではないかと推測された。 瀬川の研究は、そうした現実的な関わりを前提として、両者の「連携」において「義務教育諸学校 がどのように業務遂行しようとしているのか」を探ろうとしたものであった。 本稿では、瀬川の卒業研究論文を参考にしつつ、学校の設置の在り方や組織運営上の「特異な状況」 に焦点を当て、義務教育諸学校としての併置校(分校・分室)がどのような状況に置かれているのか を整理しつつ、主に「児童自立支援施設と学校の組織間連携」について考察を加えた結果を報告する。. 2.研究方法 東北圏(6県)に所在している児童自立支援施設への悉皆訪問取材を行い、併置されている義務教 育諸学校(分校・分室)がある場合は学校側への取材を行った。最終的に統合した実態データ(平成 27年度調査)を基にして、 「児童自立支援施設と学校の組織間連携」を中心に考察を加えた。. 3.調査結果の概要 前述したように、児童福祉法の一部改正によって、児童自立支援施設入所者に対する「学校教育法 第1条に規定する義務教育諸学校」教育の実施が義務付けられ、多くの児童自立支援施設に義務教育 諸学校の併置校(分校・分室)が設置された。 平成30年4月現在、併置が未達の児童自立支援施設は残り数か所の状況となっている。改正後の対 応が遅れている理由として、併置校(分校・分室)に配置する教員の確保や経費負担を巡り、都道府 県と施設住所のある自治体(義務教育諸学校の設置義務者)の間での調整が難航していることが推測 される。 今回の調査対象は、表の通り東北圏(6県)で、福島県のみ「分校・分教室」の設置が遅れている 状況がある。調査は悉皆訪問取材を行い、調査実施期間は、平成27年9月から11月であった。. 4.併置校(分校・分室)および児童自立支援施設の課題 調査から明らかになった、4つの課題を項目的に示す。 ⑴ 東北圏(6県)全てで、障害を有する児童・生徒が在籍しているにもかかわらず、特別支援学校 教諭免許状所持教員の配置ができていない。 ⑵ 異動による「新規の着任教員」と既存教員集団や施設職員組織との間で、各種の「観」の相違が あり、指導意識や方法選択での差異を生じやすい。 ⑶ 併置校(分校・分教室)と「本校」との交流は、ほとんど行われていない。 ⑷ 児童・生徒の退園後のサポートは、施設側が主導して行っており、学校が率先してかかわること 210.
(6) 義務教育諸学校の諸相. 表 「児童自立支援施設一覧」 ※( )は、併置校(分校・分教室)である。. はない。 以下、⑴~⑷の課題について補足説明する。 ⑴ 東北圏(6県)すべての児童自立支援施設に障害を有している児童・生徒が入所しており(平成 27年(2015)の調査時点) 、今後も障害を有する児童・生徒が併置校(分校・分教室)に在籍する可能性. が高い。従って、併置校(分校・分教室)に対する特別支援学校教諭免許状所持教員配属を制度化が できれば、障害を有する児童・生徒に対して最適な学習指導・支援を行う可能性を高められる。た だし、併置校(分校・分教室)に編入してくる児童・生徒の在籍期間が比較的短い傾向があり、在籍 者数も常に変動する傾向があるため、正規職員を年間通して配属し続けること自体が財政的な課題 となっており、現実論として「簡単に解消できる問題ではない。 」ということになるだろう。 ⑵ 児童自立支援施設は、都道府県内の設置数が1カ所であるのが大半であり、学校教員のような頻 繁な人事異動はほとんど行われないため、施設に永年勤務することが多い。他方、併置校(分校・ 分教室)側は比較的短期間での異動が行われる。学校教員は「教科授業(および教育課程内の各種. 教育活動)」に関しては専門家としての見識・経験を持つが、児童福祉については「素人の状態」 での配属になる。こうした状況下で、児童自立支援施設職員と学校教員が業務連携を図る必要があ 211.
(7) 阿部 二郎・瀬川 寛予. るが、新参者と既存集団組織との間で「職業上の意識の乖離」が生じやすい。例えば、 「学校」が 所轄するべき時間帯の課題として、 「問題行動が発生した場合」に「授業」を優先するべきか、「問 題行動への指導」を優先するべきかと言う問題、つまり「指導のタイミング」に対する価値観の相 違による判断の違いなどである。古参の教員や、数年間の勤務経験がある教員の場合は、経験則的 に施設側職員の価値観も理解しているため問題が生じにくいようであるが、新参者の場合は無自覚 的に自身の経験則に依拠する傾向があるため、結果的に不適切な指導方法の選択をしてしまうこと もある。そのことによって「些細な問題」を、 「大きな問題」にしてしまう危険性もあるようである。 ある県では、こうした問題に対処するため、児童・生徒に対する両者の指導に一貫性を持たせる ことを目的として、 「当該施設と併置校(分校・分教室)に固有の伝統的・伝承的な要素」も加味し た「新参者用の生徒指導マニュアル」を作成した上で、新参者の着任直後に研修を実施している。 このことで、新参者と既存集団組織との間の「職業上の意識の乖離」を防ぐことに成功している。 東北圏の他の県においては、そこまでの取り組みが行えていない状況があった。ただし、併置校 (分校・分教室)の規模も相当に異なっているため、教員が2名程度の配置である場合は、日常的に. 口頭で意見交流すれば実害は生じないという現実もあるようだ。 ⑶ 東北圏(6県)の大半の併置校(分校・分教室)では、児童・生徒のプライバシー保護の観点から 「本校」との積極的な交流が行われていない。むしろ、地元地域とのつながりが非常に深い児童自 「本校」ではない「地元地域(地区) 立支援施設に設置されている併置校(分校・分教室)の場合は、 内での交流」を行う事例が確認できた。 併置校(分校・分教室)は、あくまでも普通学校として設置されているため、障害者基本法第16条 で「障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進め ることによって、その相互理解を促進しなければならない。 」との規定があるように、今後益々イ ンクルージョン教育が推進・展開されるのに伴い、併置校(分校・分教室)でも「交流及び共同学習」 の実践が求められる可能性がある。一方で、児童自立支援施設に入所・在籍している児童・生徒の プライバシー保護や、児童自立支援施設としての指導方針や指導目的もあるため、併置校(分校・ 分教室)の「交流及び共同学習」の実現化には困難が伴うことが予想される。例えば、修学旅行実. 施時のように、 「交流及び共同学習」でも児童自立支援施設職員が引率指導に加わる方法などを検 討する必要が出てくるかもしれない。 ⑷ 児童・生徒の退所前、つまり併置校(分校・分教室)への在籍中は施設職員と連携を図りながら指 導や支援を行っているが、退園後(転校・卒業後)のサポートは児童自立支援施設と児童相談所等 が中心となって行い、教員は主体的にはかかわらないというのが一般的な傾向であるようである。 児童自立支援施設と児童相談所がサポートを主導することで、児童自立支援施設への入退所前後 の児童・生徒や保護者に対する支援・指導の差異が生じにくく、社会福祉系の外部機関との連携を 図る上でも合理性があると考えられる。 児童自立支援施設は、厚生労働省の管轄の下で他県の施設とも交流しており、一貫した対応を行 うための指導方法や対処方法についてなど、様々な情報共有をするための合同連絡会がある。これ に対して、併置校(分校・分教室)には「県」を越えて情報交流するような専門組織が存在していな い。そのため、県ごとの「児童・生徒に対する指導や対応方法」には、かなり大きな差異が見られ た。併置校(分校・分教室)間に大きな差異があり、横の連絡組織も存在していないことを考えれば、 児童自立支援施設の退所者が常に同一の県に居住し続けるとは限らない以上、広範囲を継続的にカ バーできる可能性のある児童自立支援施設組織に委ねる方が合理的且つ適切である。 212. .
(8) 義務教育諸学校の諸相. ただし、サポートに対して教員が主体的にはかかわれないという状況は、併置校(分校・分教室) と前籍校との連携・情報共有の面で円滑性に欠けることにもなる。これは、児童自立支援施設と学 校の間に生ずる「責任所在の曖昧な領域やできごと」から派生する課題であるが故に、学校側から 見た時には「悩ましい問題」であると言えそうである。. 5.まとめ(結論にかえて) 東北圏(6県)の取材調査を通して明らかになったことは、前掲の4つの課題と以下の4つの状況 である。 ⑴ 同じ東北圏(6県)であっても、併置校(分校・分教室)の設置、運営形態と運営方法には大きな 相違が存在している。 ⑵ 調査した児童自立支援施設の内、併置校(分校・分教室)が設置されている事例では、両者の連携 は良好であり、効率的且つ効果的に行うことが意識されている。 そのための各種工夫が、地道に蓄積されてきている。ただし、その蓄積(知見や経験則的方法論) は、他の併置校(分校・分教室)との間で集約・集積・共有はされていない。 ⑶ 本校と併置校(分校・分教室)の連携が必ずしも十分にできているとは言えない状況がある。一番 の原因は、本校と併置校(分校・分教室)の物理的な距離の問題(遠距離)である。学校長が、日常 本校と併置校(分 的に本校と併置校(分校・分教室)を往復しながら勤務・業務遂行している事例は、 校・分教室)が近距離にある1県の1例のみであった。. )が必 ⑷ 「併置校(分校・分教室)と前籍校の連携(情報の共有化、指導方法・対処方法の共有化、 ずしも十分できているとは言えない状況もありそう」である。併置校(分校・分教室)と前籍校の連 携活動に対する一番大きな阻害要因は、児童自立支援施設に入所している児童・生徒のプライバ シー保護である。 以下、上述の⑴~⑷の状況について補足説明する。 ⑴ 同じ東北圏(6県)であっても、併置校(分校・分教室)の運営は県ごとに様々な違いがあった。 そして、取材調査を行う過程で、共通点よりも相違点の方が多いことが明らかになった。東北圏(6 県)全体に共通している事項は極めて少ないが、何県かに共通しているという事項は多数確認でき た。〔「連携」とは関わらない要素であるので、本稿では省略する。注:阿部〕 ⑵ 取材調査結果を、 「連携・相互支援」の観点から区分すれば、 「児童自立支援施設と併置校(分校・ 分教室)間の連携・相互支援」 、 「前籍校と併置校(分校・分教室)間の連携・相互支援=原(元) ・現. 籍校間の連携・相互支援」の2つに区分できる。前者の観点に立って評価した時に、 「施設と併置 校(分校・分教室)の連携は良好であり、効率的且つ効果的に行うことが意識されており、そのため の各種工夫が積み重ねられてきている。 」との結論に至った理由は、以下の通りである。 (担当代表者間で行う ① 毎朝、施設と併置校(分校・分教室)の合同打ち合わせが行われている。 場合もある。 ) ② 施設職員と学校教員の職員室が同じ場合(共同使用)が多く、双方の職員間のコミュニケーショ ンや情報共有が円滑に行われるように配慮されている。 ③ 授業での学習指導の際には、 東北圏(6県)すべての施設において施設職員も立ち会っている。 (協同の指導体制を構築している。職員の中にも、教育職員免許状所持者が存在している。 ) 213.
(9) 阿部 二郎・瀬川 寛予. ④ 生徒指導・生活指導は、施設職員と学校教員が共に協調・協力して実施している。 こうした、連携・相互支援や協力意識の形成と実施体制の構築においては、併置校(分校・分教室) の教員よりも、児童自立支援施設側の職員の大きな意識変革と新たな意識形成を必要としたと考え られる。 児童自立支援施設の教育活動は、矯正教育を担う少年院とは大きな違いがある。少年院が非違行 為(触法行為)に対する懲罰的な矯正教育の実施施設であるのに対して、児童自立支援施設は児童 福祉を目的とした児童福祉施設であり、両者には設置趣旨の根本的な相違がある。 「1.はじめに(課題の所在) 」でも述べたように、教護院と呼ばれた時代から「児童自立支援 施設」では、入所後の生徒指導・生活指導はもとより、学校教育機能と退所後のアフターケア・サ ポートまでを「一貫して施設が担う(=自己完結性) 」ことができていた。ところが、法改正にと もない「学校教育機能」についてだけは、 「外部組織とその構成員」である「学校と教員」に委ね なければならない状況が生まれたのである。 義務教育諸学校の併置が適法ではあっても、児童自立支援施設職員の立場からは「ある種の不合 理さと不効率さ」を感じても不思議ではない状況である。収容している児童・生徒の就学権利保障 の観点から、(法律改正による)学校の併置は容認せざるを得ないとしても、自分たち(児童自立支 援施設)だけでも十分に社会からの負託に応えてきたという自負もあったと推測されるからである。 法改正の結果として、児童自立支援施設に入所中の児童・生徒は、施設と学校からの二重管理を 受けることになるが、二重管理故に「責任所在の曖昧な領域やできごと」が生じる可能性を否定で きない。現実的には、所長が親権代理(代行)者を務めたりしながら、法律的な障害・問題は解消 されてきているが、その労力の大半は施設側に求められてきたと言うことができそうである。 法改正から20年以上を経た平成30年の時点においてさえ、併置校(分校・分教室)の設置が未達の 施設が制度上容認され続けているという状況がある。このような状況が放置・容認・看過されてき ているのは、上述の「責任所在の曖昧な領域やできごと」であるとも言える。少年院では、法務教 官による“学校教育に準ずる学科指導”が行われ、それを在籍校の学校長が承認すれば「義務教育 課程を修了」することができる。同様に、元々は児童自立支援施設でも“学校教育に準ずる学科指 導”が職員によって行われ、それを在籍校の学校長が承認して「義務教育課程を修了」することが 可能であった。〔児童自立支援施設への収容期間が短期である場合が多く、中学校3年生の場合は、卒業間近の 時期に在籍校に戻して修了認定を行うということも行われてきていたようである。注:阿部〕 従って、併置. 校(分校・分教室)の設置が遅滞したとしても、児童自立支援施設が従来通りの業務を遂行していれ ば「子供達への不利益問題」は生じないことになる。それにもかかわらず、大半の児童自立支援施 設ではいち早く「外部組織とその構成員」である「学校と教員」の受け入れを容認し、組織連携・ 相互支援や協力意識の形成と実施体制の構築を実現化している。このためには、児童自立支援施設 職員側の大きな意識変革(新たな意識形成)が必要であったと考えられる。そうした児童自立支援 施設側の努力は、高く評価されるべきであろうし、併置校(分校・分教室)の設置の遅滞は、各種事 情があるとしても“教育行政側の怠慢”にすぎない。一刻も早く、教育行政が適正に施行されるこ とを期待したい。 ⑶ 上述⑵で述べた状況を踏まえれば、同じ「学校教育組織」である併置校(分校・分教室)と本校の 間で、連携や「相互交流」などが十分にできているとは言えない状況があるのは残念なことである。 特に、児童・生徒間の「相互交流」について確認すると、 「本校」との交流がほとんど行われて おらず、併置校(分校・分教室)の設置当初から「相互交流」自体が(本校側から)拒絶されている 214.
(10) 義務教育諸学校の諸相. という事例も確認できた。管理・指導の側面から「相互交流」の状況を確認しても、児童自立支援 施設に入所している児童・生徒のプライバシー保護を大前提として発想されていることがわかる。 「狭い地域であればあるほど、入所児童・生徒の前歴についての噂が広がりかねないし、あえて積 極的に交流させようとは思わない。」ということかもしれない。この他に、本校と併置校(分校・分 教室)の間が遠距離であるため、学校長との会議も頻繁に行い難く、両校の教員合同での職員会議. の実施も困難と判断されていることが多いようである。この面では、学校教育側の更なる改善の努 力・工夫(双方向遠隔通信システムの構築・民間の通信システムの有効利用など)が求められるだ ろう。 ⑷ 上記⑶と同様に、 「併置校(分校・分教室)と前籍校の連携(情報の共有化、指導方法・対処方法 の共有化、)が必ずしも十分できているとは言えない状況もありそうである。 」と結論づけた理由は、 取材で聴き取った内容を総括する過程で、前籍校(法定表簿の処理上、「実は依然として在籍校」になっ ていることもある。以後、本稿においては、 「名実ともに前籍校」と「法定表簿上、実は依然として在籍校」とい う両方の意味を含めて『前籍校』と表記する。注:阿部)の教員と、併置校(分校・分教室)の教員の「意. 識や価値観の大きな相違」があるように感じられたからである。ただしこれは、 『前籍校』や「併 「普通の学校教員は、併置校(分校・分教室) 置校(分校・分教室)」の教員に問題があるというより、 の状況について想像することが困難である」ということに由来するのだろうと推測できる。. . 前述したように、児童自立支援施設と併置校(分校・分教室)のような「直接の関わり」がある場 合でも、異動で赴任してきた新参者である学校教員が「両組織共同体の構成員」として持つべき 「共通の価値観、 指導観」を獲得するまでには相当の時間を要している。遙か遠く離れた『前籍校』 に勤務する教員が、一度も勤務したことのない「特殊な学校」である併置校(分校・分教室)の状況 を正確に把握しつつ、情報の共有化、指導方法・対処方法を共有化し、積極的に連携しようとする のは相当に困難なことであろう。従って、 『前籍校』の教員の「状況への認識不足、理解力不足」 と批判するより、 「十分にできているとは言えない。 」としても、それは容認・是認せざるを得ない 問題の1つであると考えるべきだろう。 以上のように、東北圏(6県)の「児童自立支援施設と併置校(分校・分教室)間の連携」につい て調査・検討した結果、「東北圏(6県)では、(設置未達の1県を除いて)両者の緊密な関係が組織 的に構築されており、両組織間の連携も比較的良好な状況に保たれている。 」 と判断できそうである。 また、未設置の1県でも、教員免許状所持の正規教員を非常勤講師として雇用し、教育職員免許 状所持の児童自立支援施設職員も指導に関わるなど、未設置下で可能な対処を積極的に行っており その努力は看過されるべきではない。一刻も早く、教育行政が適正に施行されることを期待したい。. 6.おわりに 「併置校(分校・分教室)と本校」の「相互交流」などの連携については、残念ながらほとんど連携 ができていない状況にある。元々、併置校(分校・分教室)の設置当初から、両者の「相互交流」など は想定されてもいなかった様に思われる。これは、併置校(分校・分教室)の設置義務を負う当該自治 体と、併置校に通学している児童・生徒の関係性に原因があると言えそうである。 そもそも、各自治体に課せられている「学校設置義務」は、当該自治体の住民の子弟、すなわち当 該自治体で生活している学齢児童・生徒のために義務教育諸学校を設置するのであって、他の自治体 215.
(11) 阿部 二郎・瀬川 寛予. 住民の子弟のためではない。本校に通学している学齢児童・生徒は、 当該自治体の住民の子弟である。 これに対して、当該自治体が設置した併置校(分校・分教室)に通学している学齢児童・生徒は、当該 自治体住民の子弟であることはほとんどないと言って良いと思われる。こうした「捻れた」状況を踏 まえれば、当該自治体が費用負担をして併置校(分校・分教室)を設置することに対して、当該自治体 の議会は容易に承認しないことになる。全国で、併置校(分校・分教室)の設置が遅々として進まなかっ たり、未達である地域が現在も複数存在しているのは、こうした問題が解決されていないためである。 〔多くの併置校は、既存の児童自立支援施設に間借りしているのが実態であり、新たに校舎を建設している訳では ない。従って、現実的には(併置校の)運営費のみが当該自治体から支出されているという状況にあるが、 「他の自 治体住民の子弟」のために税金から支出することが議会で問題視されるのである。注:阿部〕 そもそも、 「児童自立支援施設併置の義務教育諸学校」は、学校教育法で定めた「学校設置義務」趣. 旨の想定外の存在である。その意味では、例外規定を設けて、県立の中等教育学校のような「県立義 務教育諸学校」として設置すれば、併置学校が未達の児童自立支援施設を解消することができると考 えられる。特別免許状の授与により、児童自立支援施設所長が学校長を兼務することで、認定こども園 のような管理責任の一元化と人件費抑制も可能になる。こうした、取り組みを早急に行うべきであろう。. 7.謝 辞 本調査研究に際しては、当該の児童自立支援施設、併置校(分校・分教室)に懇切丁寧な対応をして いただき、詳細なご教示を賜った。また、貴重な資料も提供していただいた。入所・在籍児童・生徒 のプライバシー保護を前提とした匿名扱いでの取材応諾であったため、所属機関名やお名前は逐一記 さないが、この場をお借りしてご教示下さった皆様に厚く御礼を申し上げたい。. 注 1)筆者らの取材調査を実施したのは平成27年の9月から11月で,調査結果をまとめた瀬川寛予の卒業研究論文は, 平成28年1月末に完成している。その後,取材調査先に研究成果の概要報告を行っているが,修正意見は寄せられ ていない。本来であれば,平成28年度に研究報告を行うべきところではあったが,取材当時に併置校(分校・分室) の中学校1年生として在籍していた生徒(つまり,児童自立支援施設入所者)への不利益が生じないようにするた め「想定される最大在籍期間内」での公表を控えていた。瀬川の研究において,個人情報に関わる検討事項は皆無 であったが,念のため「想定される最大在籍期間内」である平成30年3月末まで研究成果発表を控えたことを付記 する。 2)<http://www.geocities.jp/boys_hill/jjs.html>(2018.11.1最終アクセス)。 3)<http://www.geocities.jp/boys_hill/list.html>(2016.1.14最終アクセス)。. 参考文献 1)菊地美絵「児童自立支援施設に入所した学齢生徒に対して児童自立支援施設と学校・地域が行うべき連携や支 援についての検討 -取材活動を通してみえた課題-」 (北海道教育大学教育学部函館校 平成24年度卒業研究論 文 阿部二郎研究室所蔵) 2)瀬川寛予「児童自立支援施設と義務教育諸学校が行う連携や支援の在り方の研究 -東北圏(6県)を事例と して-」 (北海道教育大学教育学部函館校 平成27年度卒業研究論文 阿部二郎研究室所蔵). 216.
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