西舞鶴平野の沖積層と海水準変化
全文
(2) 132. 津. 図2西舞鶴平野の地形分類とボーリング位置 1干拓・埋立地2三角州3氾濫原 4自然堤防5扇状地 実際に,三角州にある円満寺E地点で行ったポーリングコア中にも礫が多く含まれてい る。これは山地からわずか3kmしか離れていない西舞鶴平野の三角州域では,毎年,あ るいは数十年に一度発生するような大洪水によって,礫のような粗い物質が上流から押し.
(3) 西舞鶴平野の沖積層と海水準変化. 133. 出されて堆積することを示唆している。 ところで,後述するように円満寺E地点の中部粘土層には,礫が集中する層が4層認め られる。この4層を上から西舞鶴礫層i, n, m, ivと呼ぶことにする。これら層厚が> 数10cmの4礫層が堆積するためには,上述のような洪水だけでは説明が難しく,数年, あるいは数十年といった短期間に堆積したものではないと思われる。 西舞鶴礫層が堆積した原因として洪水の他にあげられるのは,堆積基準面の低下である。 すなわち海水準が低下した時期に,伊佐津川が>数10cmの厚さの礫を堆積したことも考 えられ,その場合には,完新世後期におこった海水準の微変動が沖積層の層相変化に記録 されている可能性がある。 これを実証するために,この平野の中ほどにある三角州域の円満寺(標高1.5m) E地 点で深度17.60mのポーリングを実施し,コア・サンプルを採敢した。コアには,予想通 り随所に礫が含まれており,とくに4層の礫層の存在は,古環境変化,とくに海水準変化 を解明するために有効な指標となった。 採取したコア・サンプルは,桂皮分析,貝化石分析,および珪藻分析に供し,古環境復 元の資料とした。しかし,珪藻は,検出数が極めて少なく,古環境復元の決め手とはなら なかった。 2この地域における沖積層に関する研究 京都府と兵庫県下の日本海に面した海岸・平野において,山陰海岸(豊島, 1978),若 狭湾沿岸(岡田, 1978),気比低地(前田ほか, 1989),由良川中・下流域低地(小橋, 19 85),久美浜(吉田はか, 1981),鳥浜(安田, 1988)などで,波食地形や沖積層の研究が 行われている。 これらのうち気比低地では3,000年B.P.に-16mにあった海面が,その後3,100年B.P. まで潮通しのよい内湾に変化し, 3,000年B.P.から急速に埋め立てられ,干潟が発達する ようになったと指摘されている。また由良川下流域では,狭長な内湾の時代から4,000年B. P.頃に上部砂礫層が河口まで堆積する環境に変化したとされる(小橋,1985)c このほか,海水準変動に関して豊島(1978)は, 6,000年B.P.と3,500年B.P.,それに 1,000年B.P.に高海面期が存在したこと,前述の諸研究でも6,000年B.P.に現在よりも数m 海面が高かった証拠が提示されている。 この他,この地域を含めた広域の海面変動に関する研究展望を,太田ほか(1990), Umitsu (1991)が行っている。 3円満寺E地点の沖積層ポーリングコ7について ポーリング柱状図が,業者によっては必ずしも正しく記載されていないことがあり,最 近では研究者自らがポーリングを実施し,コアを採取するようになっている。本研究でも, 標高1.5mの円満寺(図2) E地点においてボーリングを行い,得られたコアについて, 古環境を明らかにするために諸分析を試みた。 円満寺ボーリングの柱状図と堆積物については,以下のようである(図3)。なお深度 描,標高(一m)で表してある。 1)沖積層基底礫層 -16.00--14.40mには2-20mm径の基底角礫層が堆積し,礫層中には100-130mm 径の玉石が混入している。充填物である粗砂は黄灰色を呈し, N値は30以上である。礫.
(4) 134. 車 轟 薗 I l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l 顧 I l l l l l l 一 車 重 m f J 串 舜. 層下部は植物遺体を挟む河成堆積物であ る。礫層上部には海成の員化石が含まれ,. 頂部随成層. 西舞鞠礫層1 中部粘土層. 約5,000年B.P.に西舞鶴平野が内湾環境に 変わった後も,しばらくは礫の堆積が継 続したとみられる。 2)下部砂層 -14.40--13.70mは,礫まじりの砂層. 西舞均接屑lI. であり,植物遺体を含み,内湾砂底群集 の員化石が含まれている。 3)中部粘土層 完新世になって海水準が急上昇し,海. 中部枯土層. 水が西舞鶴平野奥まで深く侵入した。こ の時期に堆積したのが中部粘土層である。 中郡粘土層は, -13.70 1.40mまで堆 積し,粘土層中には内湾に生息する員を 主体に,干潟・内湾,内湾・沿岸に生息 する員化石,それに有孔虫が多く含まれ る-13m付近の粘土層にはバブル・ウ. 西舞頓礫屑1日. 中部枯土層. 西舞相磯層lV 中部粘土層 アカホヤAh 下部砂層 沖積層基底穣層. ォール型の火山ガラスが集中する。火山 ガラスの屈折率は,京都フイツショント ラックによる測定で1.511-1.5120であり, アカホヤ火山灰に同定される。 厚さ12.3mの中部粘土層は,西舞鶴礫層 によって4層に分かれている。それぞれ の粘土層の堆積年代については,現在, 14C年代を依頼中である。 4)西舞鶴礫層i, n, m, iv 中部粘土層中には西舞鶴礫層が4層認 められる。 まず, Ⅳ層は-12.25--10.50mに見ら れ,礫が最も集中するのは, -ll.85--. 図3西舞鶴平野E地点のボーリング柱状図 E地点の位置は図2参照. 10.6mの厚さ85cmの層準である。 Ⅱ層は7.80--6.40mに見られるiv, m層とも. 2.7-8.5cm径の亜円礫からなる。 Ⅱ層は3.00--1.60mに見られ,厚さ140cm,礫径3cmほどで,やや細粒化する。礫層中には 上流から流されてきた木片が含まれている。最上部には薄い海成粘土層を挟んでI層が のる。. 絶対年代を得ていない現段階で,断定はできないが,後述の員化石分析の結果も合わ せ判断すれば,この礫層の堆積期は,完新世中・後期の寒冷で海水準の低下期に対比で きるのではないだろうか。. 5)頂部陸成層 表層には, 0.8m-2.3mの厚さの頂部陸成層が堆積している。おもに河川が堆積した.
(5) 西舞鶴平野の沖積層と海水準変化. 135. 自然堤防および後背湿地堆積物である。淡水を主に,汽水性の珪藻を含み,人工物や植 物遺体が多く含まれている。 4西舞喝平野の沖積層の構造 西舞鶴平野で実施された既存のボーリング資料を収集し,円満寺E地点のボーリング柱 状図と照らし合わせながら,沖積層の構造を求めたのが図4である。. ・j* -. °. ・・..°・●. 矧K.E G. F. E. msサ畦I ・.・'・・・"・"・. l'.=T e. ・.・・.. .蝣・. ,. ・蝣・・ ・・・・蝣. ・・・・. ・・・.・ ・・・.° 。・i・.・・・蝣-● ・.・・・#.・ ・・・・・蝣・. ・・・. °・°°●°. .・・.. ∈ ∃粘 土 [ = = コ. I -I V: 西 舞 鶴 礁 J l V: 7カ ホ ヤ 火 山 灰. 巨 = ∃曙. 図4西舞鶴平野の沖積層地質断面 A-G地点の位置は図2参照 約1.8万年B.P.の最終氷期最盛期には,海面が現在よりも100m近く低下し,沖積層基底 礫が堆積したことが知られている(井関,1983)。西舞鶴平野でも,伊佐津川が沖積層基底 礫を堆積し,十倉の南方で標高8m,十倉Aで4m,広小路Gで-22mとなる急勾配の扇 状地が形成された(図5)0 氾濫原にあたるAからC地点では礫層が厚く堆積しており,粘土層と基盤岩の間にある 厚さ13mの礫層が基底礫層にあたり,頚部陸成層と粘土層との間に堆積する厚さ7mの礫 層は完新世後期に対比される。 基底礫層上には,海成の中部粘土層が堆積しており,その分布範囲は現海岸線から公文 名あたりまでである。この中部粘土層には, 4層の西舞鶴礫層がインターフィンガーして いる。最下層の西舞鶴礫層Ⅳは,公文名あたりから沖合にむかって張り出し,現海岸線あ たりで砂層に変わる。西舞鶴礫層Ⅲも同じく公文名から張り出し,現海岸線あたりで砂層 に変わる。西舞鶴礫層Ⅱは, m・iv層と異なって,図中のF地点よりやや下流に張り出す.
(6) 136. 図5西舞鶴平野の沖積層基底の埋没地形 程度であり,西舞鶴礫層Iも同様である。これは, m・iv層の時代よりもI・Ⅱの時代の ほうが海水準低下量が少なかったためかもしれない。 5具化石群集の特徴 沖積層中には貝化石が多く含まれており,これが古堆積環境の有効な指標となった。 コアから得られた員化石を松島・前田(1985)の分類に従って,干潟群集,内湾群集, 内湾停滞域群集,沿岸群集に大別し,さらに中間群集に分けたものが表1である。 これによると,干潟群集としてイポウミニナ,カワアイ,干潟・内湾にも生息するウミ ニナ,ヒメシラトリガイがみられる。 内湾群集として,内湾泥底に生息するイヨスダレ,トリガィ,ウラカカミガイ,ナミガ イ,ツマベニクダタマガイ,ムカドッノガイが見られ,内湾砂底に生息する貝化石にはウ.
(7) 西舞鶴平野の沖積層と海水準変化. 137. メノバナガイ,ウスザクラガイ,ツメタガイが見られる。また砂礫底に生息する員として ムシロガイ,カゴメガイが見られる。 内湾停滞域群集の員には,マメウラシマ,チヨノ-ナガイが見られる。このほか,沿岸・ 内湾の砂泥底に生息するカニモリガイ,ゴマフグマガイが,沿岸砂泥底に生息するイタヤ ガイ,ナガニシ,コンゴウポラ,ケシザルガイ,コシイノミガイなどが見られる。また, 数が少ないが,フトスジイトカケギリ,ナウマンヒメキリガイ,コシイノミガイ,ホソオ リイレポウ,アマガイなどが産出する。 これらの員群集から当時の堆積環境をみるために単独の生息環境からなる層準と,干潟 群集,内湾砂泥底群集,内湾停滞域群集,沿岸砂泥底群集が混在する層準に分けてみた。 それらの組み合わせによって円満寺E地点のポーリングコアの沖積層を11帯に区分した (図6)。 以下,各帯について説明する。 ja帯 この帯は沖積層基底礫層に相当し,礫層下部に貝化石は認められないが,礫層上部には 潮下帯から水深5-15mの砂泥底に生息するムカドッノガイ,ケシザルガイ,さらに深い ところに生息するイタヤガイがみられ,当時, 5m以上の水深の内湾が形成され,この地 点に伊佐津川が礫を運んでいたのであろう。この地点は,河口まで礫が運ばれる現在の兵 庫県揖保川河口と同じような堆積環境であったとみられる。 X等 この帯は沖積層下部砂層に相当する。員化石の出現しない層準は認められるものの,全 体として内湾性の員が産出する。潮下帯から水深20m近くの内湾砂泥底に生息するツメタ ガイ,ムカドッノガイ,内湾の砂礫帯に生息するムシロガイなど,砂がちな海底に生息す る員化石がみられる。 Ⅸ帯 この帯は, -13m付近にアカホヤ火山灰が認められるので, 6,000年B.P.の縄文海進高 頂期に堆積した中部粘土層である。ここには,内湾泥底群集の主要構成種であるイヨスダ レをはじめ,トリガィ,内湾停滞群集であるマメウラシマが優勢で,潮下帯から水深100 m近くの砂泥底に生息するケシザルガイ,コシイノミガイ,その他,フトスジイトカケギ リ,ナウマンヒメキリガイなどの員化石が産出し,内湾的な要素が強まったことを示唆し ている。当時は,舞鶴湾の奥深く海水が入りこんでいたのであろう。 Ⅷ帯 この帯は,西舞鶴礫層Ⅳに相当し,多くの員化石が産出する。潮下帯から水深20-30m の砂泥底に生息する内湾の員化石に混じって,干潟群集のイポウミニナ,カワアイ,干潟・ 内湾に生息するヒメシラトリガィ,沿岸砂泥底にも生息するコンゴウポラ,ホソオリイレ ポラ,潮間帯の岩礫底に生息するアマガイなど,内湾,干潟,沿岸,岩礁など異なった生 息環境の員が混在して産出するのが特徴である。 このⅦ帯の時代には,これらの生息環境が同時に存在したのではなく,各生息環境の員 が西舞鶴礫とともに別の場所から流されて来て, E地点に再堆積したのであろう。この時 代は約5,000年B.P.の縄文中期にあたると考えられ,海水準低下が再堆積の原因とみられ る。 Ⅶ帯 この帯は粘土層であり,イヨスダレ,トリガィ,ムカドッノガイなど,水深20-30mの.
(8) 138. 砂泥底に生息する員化石に加えて,マメウラシマ,チヨノ-ナガイのように内湾性の強い 潮下帯に生息する員化石が産出するはか,ツマベニカイコガイダマシ,ナガニシのように 潮下帯から水深20-50mの砂泥底に生息する貝化石が産出する。この時代には内湾が形成 表1西舞鶴平野E地点のボーリングコアから産出した主な員化石と生息環境. 干潟群集 Aイポウミニナ. Batillaria zonalis (BRUGUIEREJ. Bカワアイ. Cerithidea (.Cerithideopsilla) djadjariensis (K.MARTIN). 干潟・内湾砂底群集 CウミニナBatillaria multiformis (LISCHKE) DヒメシラトリガイMacoma incongrua (v. MARTENS). 内湾群集 蝣fe底. WfcOffi. イヨスダレ. Paphia (Paratapes) undulata (BORN). トリガイ. Fulvia mutica (REEVE). ウラカガミガイ. Dosinia (Dosinella) penicillata (REEVE). ナミガイ. Panope japonica A.ADAMS. ツマベニクダクマガイEocylichra braunsi (YOKOYAMA). ムカドッノガイ. Dentalium (Paradentalium) octoagulata hexagonium (GOULD). 砂底 Kウメノ-ナガイ. Pillucinapisidlum (DUNKER). Lウスザクラガイ. Fabulina minuta (LISCHKE). Mツメタガイ. Neverita (Glossoulax) didyma (ROUDING). 砂礫底 Nムシロガイ カゴメガイ. Niotha livescens (PHILIPPI) Bedeviabirileffi (LISCHKE). 内湾停滞域群集 0マメウラシマRingicula (Ringiculina) doliaris (GOULD) Pチヨノ-ナガイRaeta (Raetellops) pulchella (ADAMS et REEVE). 内湾・沿岸砂泥底群集 QカニモリガイRhinoclavis (Proclava) kochi (PHILIPPI) RゴマフダマガイParatectonaticatigrina (RCうUDING). 沿岸砂泥底群集 Sイタヤガイ. Pecten (Notouola) albicans (SCHROTER). Tナガニシ. Fusinusperplexus (A.ADAMS). Uコンゴウボラ. Merica laticosta (LOBBECKE). ケシザルガイ. Carditella pulchella hanzawai (NOMURA). コシイノミガイ. Strigopupa strigosa (GOULD). アマガイ. Puperita (Heminerita) japonica (DUNKER)岩礁性. その他.
(9) 西舞鶴平野の沖積層と海水準変化 tll m ,渇 卜m ). TP J謹; =r-謹呈 群集 内汚 ^ t3 C L). tA 10 1.40 一.60 2..90 10 2.30 2.GO 2.80 3.00 3.20 3.40 3.GO 3.80 4.00 4.20 4 ▼40 4.GO 4 .80 5 .00 5 .20 b.a0 5 .GO 5 .80 6.00 G .20 G .40 6.90 7. 0 7 30 7.50 7.70 8.00 8 .20 8 40 .60 8.80 9.00 9 .20 9. 40 9 .GO 9 .80 10 .0 0 10 .20 ー0 .40 ー0 .6 0 0 .8 0 1 1 0b l l.2 5 ‖i仙 ll .6 5 1 .85 2.05 12.25 ー2.50 12 90 13 10 ー3 .30 13 .50 13 ー70 11 90 14 . 5 4 .4 0 ー5 .0 0 15ー2 0 15.50. 化. I'-lf邪 推 F.K G -1 I J K L M N. fi !'蝣 ),蝣 滞域 O IJ. V 'l 't等 ォ.サ・ O li. /蝣〉 if群集 S H. 139. 古環境. . ●. 海 水準 低 高. -一 1ト ′ 一 r ¥. i"iK tm. ・ i 近 LB. ● 中 Lu-の 内湾 ●. ●. ● ●. 一一 ●. ● ● ●. ●. ● ●. ● ●. ●. ● ●. ● ●. ● ●. ●. ●. ●. ● ●. …. ● ●. ●. ●. ●. ●● ●. ●. ●. ● ● ●. ● ● ●● ● ● ● ●. ●. ● ● ● ●. ●. ● ● ●●. ●. ●. 弥 生前期 の 蝣 rョ. ●. ● ● ●● ・・ ・ ●. ● ●● ● ● ● ●. 弥 生 中間の 内湾 c a.ZO OOyB .P.. ● ●. ●. ● ・・ ● ●● ・・ ● ・・ ● ● ● ●● ● ●● ●● ● ●● ● ● ●. V. 西 舞坊 疎層 Il 古 墳時 代 c a. 15 00 yB .P.. ● ●●. ●. ●. ●. ● ●. ●. V. ・ ●●. ・. ● ・. ● ● ● ●. VI ●. ・・ ● ・ ● ● ●. ・ ● ● ●. ● ●● ● ● ● ● ●. ● ● ●. 鞘 舞鴇 礫屑 l II 掛 則 gl c a.Z5 00yB .P.. ●● ◆ V一 一 穐 文後 期の 内汚 C aー3500 yB .P. ●. ● ●● ● ● ●. ●. ● ● ●. ● ●. ●. ● ● ●. ●. ● ●. V…. 西舞 馬鎌 層 lV 経 文中 期 ca .iOOO yB.P .. IX. 粗 文前期 の 内湾 ca .6000y B.P. V V アカ ホヤ. X. 下 部 砂層. XI. 沖 積層 基底 疎屑. ●. ● ● ● ●. ● ● ● ●. ●. ●●. ● ●. 図6西舞鶴平野E地点のボーリングコアの員化石と古環境,相対的海水準の変化 貝化石A-Uの名称は,表1参照 されたとみられるOこの帯の上部の-8mあたりから西舞鶴礫層となるO.
(10) 140. Ⅵ帯 この帯には,員が極めて少なく,干潟・内湾砂底に生息するウミニナや内湾泥底に生息 するイヨスダレ,ナミガイ,沿岸砂泥底に生息するコンゴウポラなど, Ⅶl帯に似た異なる 生息環境の貝が混在する層である。また,ウニもみられるなど,員の生息に不適応な環境 が出現したとみられる。この帯は,西舞鶴礫層にあたっており, Ⅷ層同様,完新世の小海 退期に再堆積した層とみられる。 Ⅴ帯 -6.40--4.80mまでは,再び粘土層となり,下部はイヨスダレなどの内湾泥底に生息 する員を多く産出する。またトリガィ,ムカドッノガイ,ケシザルガイ,ムシロガイ,ウ メノ-ナガイなどの潮下帯から-20mの砂泥底に生息する員も産出し,西舞鶴は再び海 水が侵入し,浅い内湾がひろがる時期を迎えた。 Ⅴ帯の上部では,これらに加えて,干潟 群集であるイポウミニナが多くなることから,干潟が形成されるような環境に変わったと みられる。 Ⅳ帯 -4.80--3.00mまでは,やや砂の多い層であり,内湾性のイヨスダレ,トリガィ,千 潟・内湾性のウミニナ,ヒメシラトリガイが産出する。また砂底に生息するウメノバナガ イ,ウスザクラガイ,砂礫底に生息するムシロガイ,カニモリガイがみられ,干潟の時代 から,やや開いた内湾に変わったと思われる。 ・ih*. -3.00--2.60mは,西舞鶴礫層Ⅱの下部層準であり,貝化石が極端に減少し,しかも Ⅷ罵ほどではないが干潟と内湾に生息する員が混在する。したがって小海過にともなって 再堆積した層とみらる。 Ⅱ胃 -2.60--1.40mまでは,再び内湾性の員が出現し,同時に砂あるいは,砂礫底に生息 する員もみられ,西舞鶴湾がしだいに砂質になってきたことを示している。そして深さ敬 mの内湾が出現し,ウラカガミガイ,ヒメシラトリガィ,イヨスダレ,トリガイなど,水 深が数mの海底に生息する員が産出する。 I帯 -1.40mから上は,西舞鶴礫層Ⅷの層準であり,員化石は産出しない。淡水珪藻が多く, 炭化物や瓦なども含まれ,人間の影響の濃厚な層である。 6地形発達史 西舞鶴平野の沖積層の構造と,円満寺E地点におけるポーリングコアの分析,主に員化 石の分析によって,以下のように西舞鶴平野の地形発達を考えることができる。 1)基底礫層の堆積 最終氷期に,伊佐津川が堆積した基底礫層は,十倉で8m,現海岸線で-22mであり, 勾配の急な扇状地が形成された。完新世になって海面が急上昇し,海水が西舞鶴平野に 侵入しても,しばらくは礫の堆積が続いた。 2)下部砂層の堆積 海面が上昇し,礫の堆積にかわって下部砂層が堆積するようになる。員化石も内湾の 砂礫底に生息するムシロガイや内湾・沿岸の砂底に生息するツメタガイが生息する環境 に変化した。.
(11) 西舞鶴平野の沖積層と海水準変化. 141. 3)さらに海水準が上昇し,西舞鶴湾の奥深く海水が侵入し,海成の中部粘土層が堆積す る内湾環境となった。約6,300年B.P. (町田・新井,1993)にアカホヤ火山灰が堆積した 後も,イヨスダレなどが生息する内湾泥底や,マメウラシマなどが生息する内湾停滞域 の環境が持続し,西舞鶴湾は完全な内湾になった。この頃の相対的な海水準は,現海面 上2m近くまで上昇したとみられる。 4)この後,西舞鶴礫層Ⅳが堆積する海水準の低下する時期があり,礫層は現在の三角州 域まで張り出し,現海岸線あたりには砂が堆積した。さらに干潟に生息する員や,内湾 の員,それに沿岸に生息する員が,礫とともに別の場所から流され,ここに再堆積した。 この時期は縄文中期(5,000年B.P.)の小海退期と考えられ,鳥浜でも,この時期の礫 層が安田(1988)によって確認されている。 5)この後,再び内湾の環境に戻り,内湾に生息する員を産出するようになる。この時期 は縄文後期(3,500年B.P.)の小海進期にあたる可能性があり,瀬戸内海では, 2 m近 く海面が高くなったことが知られている(成瀬はか,1985)。 6)やがて,再び小海退期を迎え,西舞鶴礫層Ⅲが現在の三角州域の円満寺あたりまで堆 積し,現海岸線あたりには砂が堆積する環境に変化した。この層準には員が極めて少な く,貝の生息には不適応な環境であったとみられる。 7)その後,しばらくは浅い内湾が続き,やがて干潟が発達する。その後,小海進期を迎 え,再び内湾が形成された。 8)やがて,西舞鶴礫層Ⅱが堆積する環境に変化する。貝化石も干潟や内湾に生息するも のが混在するようになり,小海退期を迎え,再堆積したものとみられる。 9)再び内湾が出現した後,西舞鶴礫層Iが堆積する環境に変化した。 以上のように, Ⅸ帯は,アカホヤ火山灰の存在によって6,000年B.P.に対比され, Ⅷ帯 は,この時代につづく小海退期である5,000年5.P.に対比されるが, Ⅶ帯以降の年代につ いては,今の段階では推定する以外はない。しかし,瀬戸内海東部で明らかにされた海水 準変化曲線(成瀬ほか,1985)を適用すれば, Ⅶ帯は縄文後期(3,500年B.P.)の小海進期に, Ⅴ帯は縄文晩期(2,500年B.P.)の小海退期に, Ⅳ帯は弥生中期(2,000年B.P.)の小海進 期に, Ⅲ帯は古墳時代(1,500年B.P.)の小海退期に, Ⅱ帯は古代から中世にかけての小 海進期に,そしてI帯は近世の小氷期にそれぞれ対比できる可能性がある。 7結論 西舞鶴平野において,ボーリングを実施し,コアの分析から,以下のような事実が判明 した。. 1)西舞鶴平野では,完新世初期にも依然として伊佐津川が礫を堆積し,十倉で8m,現 海岸線で-22mの勾配の急な扇状地が形成された。 2)その後,海水準の急激な上昇によって下部砂層が堆積し,さらに海水は,西舞鶴湾奥 深く侵入し, 6,000年B.P.には深い湾入を形成し,中部粘土層が堆積した。 3)縄文中期(5,000年B.P.)の小海過にともなって西舞鶴礫層Ⅳが堆積し,貝類も別の 場所から運ばれ再堆積した。 4)その後,図6に示すように①内湾が形成され,内湾に生息する貝を多く含む粘土層の 堆積時代, ②西舞鶴礫層Ⅲが堆積し,貝類の生息不適応な環境の時代, ③干潟の時代を 過ぎ,再び内湾が形成される時代, ④西舞鶴礫層Ⅱの堆積する時代, ⑤内湾の時代, ⑥ 西舞鶴礫層Iの堆積する時代-と,目まぐるしく環境が変化する。.
(12) 142. 5)内湾が形成される時期は小海進期であり,西舞鶴礫層が堆積する時期は小海退期であ るとするならば, ①は縄文後期(3,500年B.P.),旬は縄文晩期(2,500年B.P.), ③は弥 生中期(2,000年B.P.), ④は古墳時代の寒冷期, ⑤は中世の温暖期に,そして⑥は近世 の小氷期に対比されるであろう。 以上のように,礫層の存在と員群集の特徴によって,完新世後期の海水準変化と堆積環 境の変遷を考察した。今後は,依頼中の員化石14C年代が明らかになった段階で,時代対 比を明確にしたい。 本論文のまとめにあたって,月化石の鑑定には名古屋大学理学部の小沢智生先生,員化 石の生息環境について神奈川博物館松島義章先生,珪藻の同定には九州大学教養部鹿島 薫先生にお世話になった。記して御礼申し上げます。また,この研究は,平成3-5年 度重点領域研究「気候・植生の変遷と文明の盛衰」研究代表者,国際日本文化研究センター 安田善意助教授の研究費を使用した。 引用文献 井関弘太郎(1983) 『沖積平野』東京大学出版会, 145p. 小橋拓司(1985)由良川中・下流域低地の古地理と地形環境.立命館文学, 483-484号, 73-97.. 前田保夫・中井信之・松本英二・中村俊夫・楠聡・松島義章・佐藤裕司・松原彰子・ 熊野茂・黒見充宏・額田雅裕・青木哲哉・古田昇・小橋拓司・松井順太郎・河原 典史・山下博樹(1989)完新世における山陰海岸東部気比低地(兵庫県豊岡市)の古環 境.立命館地理学, 1,ト19. 町田洋・新井房夫(1993) 『火山灰アトラス』東京大学出版会, 276p. 松島義章・前田保夫(1985) 『先史時代の自然環境』東京美術, 140p. 成瀬敏郎・小野間正己・村上良典(1985)瀬戸内海,播磨灘沿岸における完新世後期の海 水準変化に関する資料.兵庫教育大学紀要, 5, 53-64. 岡田篤正(1978)若狭湾岸地域における主に最終氷期以降の海水準変動と地形変動.地理 学評論, 52, 131-145. 太田陽子・海津正倫・松島義章(1990)日本における完新世相対的海面変化とそれに関す る問題-1980-1988における研究の展望-.第四紀研究, 29, 31-48. 豊島吉則(1978)山陰海岸における完新世海面変化.地理学評論, 51, 147-157. Umitsu,M(1991) Holocene sea-level changes and coastal evolution in Japan.第四 紀研究, 30,187-196. 安田喜憲(1988) 『森林の荒廃と文明の盛衰』思索社, 277p. 吉田光孝・山路晴彦・福本紘(1981)京都府・久美浜湾付近の地形にっいて.日本地理 学会予稿集, 44-45..
(13) 西舞鶴平野の沖積層と海水準変化. 143. Alluvial deposit and relative sea level changes in Nishimaizuru alluvial plain.. Toshiro NARUSE and Ryozo bHIOMI. Nishimaizuru alluvial plain develops at the back of the Maizuru bay, where faces the Japan Sea, Kyoto Prefecture. (Fig.1)- The Isazu River flows through the narrow alluvial plain with the length of 4 km and the width of 1 to 2 km. As shown in Fig.2, five geomorphic units were recognized in the plain; viz., fan, flood plain with the natural levee, delta, and reclaimed land. At the E point on the delta, drilling was conducted using the machine drill sampler as a clue to elucidate the Holocene depositional environments and relative sea level changes. We did paleontological analysis of mollusca, as well grain size analysis of the collected core samples. The depth of drilling was 17.60 metres as shown in Figure 3. The basal gravel was found at the depth of -14.40 metres under the sea level. As containing the marine molluscan fossils, it considered that the accumulation of basal gravel still remained the initial stage of the Holocene. The middle marine clay was found the depth from -13.70 to -1.40 meteres, contained the marine shell molluscan fossils which belong to the inner-bay environments molluscan assemblage (Table 1). At the four stages of the marine transgression, the middle clay deposited in the bay which of the periods of 6,000 yr.B.P., 3,500 yr.B.P., 2,000 yr.B.P., and 1,000 yr.B.P. Four Nishimaizuru gravel layers were recognized between the middle clay (Fig.4). On the hypothesis that four gravel layers deposited at the marine regression stages, it is considered that these gravels deposited at the periods of 5,000 yr.B.P., 2,500 yr.B.P., 1,500 yr.B.P., and 300 yr.B.P. Tentative relative sea level changes in Nishimaizuru plain were shown in Figure 6..
(14)
関連したドキュメント
The Mathematical Society of Japan (MSJ) inaugurated the Takagi Lectures as prestigious research survey lectures.. The Takagi Lectures are the first se- ries of the MSJ official
The Mathematical Society of Japan (MSJ) inaugurated the Takagi Lectures as prestigious research survey lectures.. The Takagi Lectures are the first series of the MSJ official
I give a proof of the theorem over any separably closed field F using ℓ-adic perverse sheaves.. My proof is different from the one of Mirkovi´c
Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:
n , 1) maps the space of all homogeneous elements of degree n of an arbitrary free associative algebra onto its subspace of homogeneous Lie elements of degree n. A second
This paper presents an investigation into the mechanics of this specific problem and develops an analytical approach that accounts for the effects of geometrical and material data on
The object of this paper is the uniqueness for a d -dimensional Fokker-Planck type equation with inhomogeneous (possibly degenerated) measurable not necessarily bounded
In the paper we derive rational solutions for the lattice potential modified Korteweg–de Vries equation, and Q2, Q1(δ), H3(δ), H2 and H1 in the Adler–Bobenko–Suris list.. B¨