中学校におけるイオンに関する理科教育実践の分析
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第45号(平成25年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.45(2013):59-66. 中学校におけるイオンに関する理科教育実践の分析 森 健一郎 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻. Assessing Learning Practices About Ions in Junior High School Science Kenichiro MORI Hokkaido University of Education Advanced Teacher Professional Development Program. 要 旨 平成24年度から施行されている中学校学習指導要領理科編では,学習内容を科学の基礎的・基本的な4つの概念(エネ ルギー,粒子,生命,地球)で構造化を図るという視点が新たに加えられている。また,平成10年の改訂により削除され た「イオン」に関わる内容が復活した。従って,現行の学習指導要領に基づいたイオンの学習においても,この視点を意 識した上での指導が求められることになる。本稿では,「粒子」概念によって学習内容の構造化を図るために,中学校理 科の第3学年『化学変化とイオン』単元において, 「中和」の指導過程でイオンのモデルを用いる学習プランを開発した。 学習プランに基づいた授業を実践し,イメージマップテストを用いてその効果を検証したところ,書かれた語句の数や質 に,「中和」を「粒子」概念と結びつけて理解していると判断できる記述が見られた。また,「中和」そのものの理解につ いても向上したといえる傾向が見られた。したがって,開発した学習プランが,「粒子」概念によって化学の現象を捉え るためのものとして有効であることが確認された。. 1.はじめに. 2.『化学変化とイオン』単元における先行研究について. 平成24年度より完全実施された中学校学習指導要領(以. 今回の学習プランを作成するに当たり, 『理科教育学研. 下,現学習指導要領)においては,平成10年の改訂で削除. 究』などに発表された先行研究を調査した。. されていた「イオン」に関わる内容が復活した。現学習指. 手塚ら(2003)は,メタ認知能力が,イオン概念の獲得. 導要領においては,小学校から高等学校にいたるまでの理. にどのような影響を与えるかを,公立中学校第3学年の生. 科の学習内容を科学の基礎的・基本的な4つの概念(エネ. 徒2学級を対象に,単語連想法やインタビューなどの手法. ルギー,粒子,生命,地球)で構造化を図るという視点が. を用いて検証している。イオンに関する単元全体が研究対. 新たに加えられている。従って,今回復活した「イオン」. 象となっており,対象生徒は2学級であるが,個々の生徒. に関わる単元計画を立てる際には,この視点をどのように. の変容についての質的研究が中心である。. 具体化していくかが重要になると思われる。本稿は,4つ. また,2006年には,当時の学習指導要領からイオンに関. の概念のうちの「粒子」概念を獲得させるために作成した. わる内容が削除されたという事情から,イオンに関する授. 学習プランが有効であるかどうかを確認する実践研究であ. 業実践をもとにしたカリキュラムの検討についての論文. る。. や,文献調査による研究成果がいくつか発表されている。. 「イオン」に関するさまざまな学習内容のうち,特に今. 高橋(2006)は, 「科学的な見方・考え方,自然に対する. 回の重点としたのは, 「中和」 に関わる内容である。 「中和」. 総合的なものの見方」の育成に資するためのカリキュラム. の定義は「水溶液中の水素イオンと水酸化物イオンが結び. を作成し,公立中学校第1学年の2学級を対象に授業実践. ついて水ができること1)」であるが,筆者のこれまでの教. をおこない,その成果を発表している。また武井ら(2006). 育経験から,「中性になること」のみが「中和」の定義で. は,科学史の観点からイオンの認識の仕方の変遷を分析. あると誤解している生徒が少なからず見られるという実態. し,その結果, 「イオンそのものの扱いが難しいのではな. をこれまで感じてきた。 「粒子」概念を理解しつつ「中和」. く,イオンの存在の実証から,原子やイオンの構造を推論. についても正しい理解を促進するための視点を提示するこ. することが難しいこと」を指摘し,それ故, 「中学校段階. とができれば,現学習指導要領で示されている方向性を具. でも,簡単な原子構造が理解できれば,イオン学習が容易. 体化することに資すると考え,学習プランの開発に取り組. になること」を指摘している。さらに,佐藤ら(2006)は,. むこととした。. 海外の理科教科書を調査し,イオンの概念が何歳くらいで. - 59 -.
(3) 森 健一郎 学習されているのかを比較検討した。その結果,原子の構. 化学電池以外の内容としては,酸・アルカリの性質,中. 造やイオンについては,13~14歳で初めて学習する国が多. 和などが挙げられるが,特に「中和」については,前述の. いことと,原子の構造を学習した直後にイオンを扱うこと. ようにその定義を誤解してしまう傾向がある。従って,重. が多いことを述べ,我が国においても中学校段階でこれら. 点的に実践研究がおこなわれる分野であると考える。. を学習することの妥当性を述べている。. そこで, 『化学変化とイオン』単元の「粒子」概念に関. ここまで紹介してきた4つの先行研究は,現学習指導要. わる展開を意識し, 「中和」の正しい理解をもたらすこと. 領ではなく,それ以前の学習指導要領に関わる研究であ. を目標とした単元指導計画を立て,授業実践をおこなうこ. り,さらに単元の学習内容全体が研究の対象となってい. ととした。先に述べたように現学習指導要領においては,. る。現学習指導要領に基づいたものではないものの,有益. 理科の学習内容を科学の基礎的・基本的な4つの概念(エ. な視点を提供するものである。. ネルギー,粒子,生命,地球)で構造化するという視点が. 現学習指導要領のもとでおこなわれた研究については,. 新たに加えられている。特に『化学変化とイオン』単元は,. 鈴木ら(2011)のものが挙げられる。この研究は,公立中. 「粒子」概念に関わる展開を意識していくべき単元4) と. 学校の第3学年2学級を対象に,化学電池の内容からイオ. されている。そういった背景を踏まえ,単元指導計画の作. ンについての学習をおこなったもので,役割分担をした班. 成をおこなうこととした。. 活動の中で,「コア知識」. 2). を用いた「対話法」. 3). の有効. 性を検証している。その研究の結果として,生徒が「根拠. 4.研究の概要. を明確に記述することができた」こと, 「結果と結論を区. 授業実践をともなった研究を計画するにあたり,現学習. 別して考えをまとめることができた」ことなどが挙げられ. 指導要領の趣旨に基づき, 「粒子」概念によって化学の現. ている。. 象(本実践では「中和」)を捉えることを目的とした。そ. これらの先行研究から明らかになった点をまとめると,. して研究計画を立てる際には,鈴木ら(2011)の研究成果. 次のようになる。まず,生徒の認知面において言えること. の一部を用いて,役割分担5) を課した班活動を取り入れ. として,「生徒のメタ認知がイオン概念の獲得に影響を及. ることとした。鈴木ら(2011)は,生徒の説明活動の充. ぼしていること」 , 「自分にあった学習方略や,メタ認知的. 実を図ることを目的として,他者を意識した上で課題につ. 知識がはたらくとイオン概念の獲得が困難なく確実に進む. いての考察をまとめさせるという班活動を展開し,その結. こと」の2点が挙げられる。. 果,課題に応じた結論を適切に導き出すことができたこと. そして,カリキュラムの観点から言えることとして, 「中. を報告している。本研究においても,課題に応じた結論を. 学校第1学年においても, 「原子」 , 「イオン」を物質の基. 適切に導き出すことが, 「粒子」概念によって「中和」を. 本要素として学習することは,原子構造の理解がなされて. 捉えるために必要であると考え,同様の班活動を単元指導. いれば可能であること」 , 「13 ~ 14歳くらいでイオンを学. 計画に位置づけた。. 習する国が多いことからも,その年齢でイオンを学習する. 大まかな流れとしては,学習プランに基づいた授業実践. ことが妥当であること」の2点が挙げられる。. の中で,イメージマップテストを評価ツールとして,単元. さらに,授業実践の観点から言えることとして, 「対話. 学習の途中と終末に利用し,比較するという計画を立て. 法を取り入れたクラスでは,化学電池の実験に関して根拠. た。イメージマップテストとは,中心となる概念(鍵概念). を明確に記述することができ,結果と結論を区別すること. から書き出された連想語の数やつながりから,授業評価を. もできたこと」が挙げられる。. おこなう手法(三宅他,1983)であり,もともとは視聴覚 教育の授業評価のために開発されたものであるが,近年,. 3.先行研究は明らかにされていない点. 栢野(2000)をはじめとして,いくつかの教育研究で用い. 手塚ら(2003)は,メタ認知に着目して生徒のイオンの. られており,教育学研究における手法のひとつとして確立. 概念の変容を検討しているが,個々の生徒の変容について. されたものとなっている。. 質的な分析をしたものであり,対象とした学級全体の変容. 図1に,生徒Aが単元学習の途中に「中和」という鍵概. については扱われていない。. 念に関して5分間で作成したイメージマップを示した。こ. 高橋ら(2006) ,武井ら(2006) ,佐藤ら(2006)の研究. の段階では15個の連想が書かれている。図2には,同じく. は,イオンの単元全体について論じたものである。これら. 生徒Aが単元学習の終末に,同じく「中和」という鍵概念. の当時の学習指導要領からイオンに関わる内容が削除され. に関して5分間で作成したイメージマップを示した。この. るという時代的な背景を受けて書かれたものである。. 段階では28個の連想が書かれており,「中和」に関してよ. そして,鈴木ら(2011)の研究は,イオンの内容が付加. り多くの語句と関連づけて認識するようになったことがう. された現学習指導要領のもと,化学電池に焦点を当ててイ. かがえる。. オンの概念理解を扱っている。今後の学校現場での指導の 更なる充実のためには,化学電池以外の内容についても具 体的な実践事例の蓄積が望まれる。. - 60 -.
(4) 中学校におけるイオンに関する理科教育実践の分析 2章は2節に分けられている。 今回の単元学習においては,ゆとり3時間のうち2時間 を活用し,表1のように単元の最終節に配分する時数を多 くした。そして「粒子」概念の理解については,イオンの モデルを1章3節から意識的に取り入れることで達成しよ うと考えた。さらに「中和」の理解については,その内容 が登場するのが最終節(2章2節)でもあるため,教科書 で扱われている実験の他にも発展的な実験(表1の下部参 照)を付加し,より実感を伴った理解に結びつくように時 数を多く配分し9時間とした。これらの実験についても, 「粒子」の概念を用いたモデルを用いて説明するという学 習活動の一環としておこなうこととした。 . 図1 生徒Aが単元学習の途中に「中和」という鍵概念に 関して5分間で作成したイメージマップ. 図2 生徒Aが単元学習の終末に「中和」という鍵概念に 関して5分間で作成したイメージマップ なお,授業実践は,平成24年9月に釧路市で開催された 第51回北海道中学校理科教育研究会の公開授業のひとつと して計画・実践した。筆者は単元指導計画の作成段階から 関わり,実際の授業は八重崎美穂教諭(釧路市立青陵中学 校教諭:所属は当時)がおこなった。 5.具体的な方法 ⑴ 単元の指導計画 学習プランの対象は公立中学校第3学年1学級である。 当該の中学校を含む地域で採用している教科書6)では, この単元を23時間で学習する計画(20時間+ゆとり3時間) となっている。また単元は2章に分けられ,1章は4節,. - 61 -.
(5) 森 健一郎 ⑵ 2章2節の指導計画 本実践では,イメージマップテストを2章2節で活用す る計画とした。表2は単位時間ごとの学習内容である。. 授業実践の効果を検証するためのイメージマップテスト は,2章の学習の2時間目に1回目を実施し,単元の学習 が終わる6時間目に2回目を実施した。実施後,イメージ マップに書かれた語句を数を数え,分類し,表とグラフに まとめ,その変容をt検定によって検証した。. - 62 -.
(6) 中学校におけるイオンに関する理科教育実践の分析 書かれた連想語の平均値をt検定によって検証したとこ. 6.結果 イメージマップに書かれた語句の数や質には,次のよう. ろ,その差は有意であることが確認された(t=3.41,df. な変化が見られた。. =31,p<0.05)。このことから,1回目よりも2回目の方. まず,1回目に書き出された語句(総数353個)をKJ. が多くの連想語が書き出されたといえる。. 法によって分類したところ,その内訳は,含まれる語句が 多い順に「指示薬の名称・反応に関する語句(78個:以下 数値のみ記述) 」 , 「液性に関する語句(74) 」 , 「試薬の名称 (60) 」 , 「イオンに関する語句(47) 」 , 「実験で観察した現 象に関する語句(26) 」 , 「水に関する語句(25) 」 , 「塩に関 する語句(24) 」 , 「電解質・非電解質の語句(16) 」 , 「電池・ 電流に関する語句(5) 」 , 「その他(4) 」と,10個のカテ ゴリーにわたっていることが明らかになった (表3参照)。. 2回目のイメージマップに書かれた連想語の数を数えた. さらに,2回目のイメージマップに書かれた連想語が,. ところ,総数は426(1回目は353) ,1人当たりの平均値. それぞれどんなカテゴリーに含まれるか,KJ法(川喜. は13.3(1回目は11.0)であった。個々の連想語数の推移. 田,1967)を用いて調べた。その結果,表4のような結果. を示したものが図3である。. が得られ,新たに「原子のつくりに関する語句」というカ テゴリーが増加した(太枠部分) 。その他,2回目におい て生徒が書き出した語句のカテゴリーは,含まれる語句 が多い順に「指示薬の名称・反応に関する語句(1回目 78→2回目84:以後,78→84と省略) 」 , 「液性に関する語 句(74→80) 」 , 「イオンに関する語句(47→65)」,「試薬 の名称(60→44)」,「水に関する語句(25→37)」,「塩に関 する語句(24→34) 」 , 「実験で観察した現象に関する語句 (26→30)」,「電池・電流に関する語句(5→15)」 , 「電解 質・非電解質の語句(10→14)」, 「その他(4→3)」であり, 新たに「原子のつくりに関する語句」というカテゴリーと. 図3 イメージマップに書かれた連想語数の推移. 合計すると,11個のカテゴリーにわたっていることが明ら かになった。 また,学習者全員の学習前と学習後のカテゴリー数を比. - 63 -.
(7) 森 健一郎 ⑶ イメージマップに書かれた内容の質的検討. 較したところ,図4のような結果となった。. 「イオンに関する語句(47→65)」のカテゴリーでは,2 回目に「イオンが増えると流れる」,「イオンの数をそろえ る」などといった,イオンを「粒子」という視点から記述 したものが見られるようになった。1回目にはこのような 生徒は見られなかったが,2回目には8名の生徒がこのよ うな記述をおこなっていた。32名という学級集団の人数か ら見ると多い人数とはいえないが, 「粒子」概念によって 化学の現象を捉えるという面での指導に,モデル化を取り 入れた指導をおこなうことの有効性に示唆を与えるもので ある。 「水に関する語句(25→37)」, 「塩に関する語句(24→34) 」. 図4 イメージマップに書かれたカテゴリー数の推移. のカテゴリーでは,1回目と2回目のイメージマップを比 学習前のカテゴリー数の平均は5.4であり,学習後のカ. 較しても書かれた語句の質的な変化は見られず,そのカテ. テゴリー数の平均は6.0であった。これらの値にt検定を. ゴリーに含まれる語句を書いた生徒数7) が増えただけで. 加えると,この平均値は学習後に有意に増加していること. あったが,その増加の仕方が特徴的であった。1回目のイ. 。 が確かめられた(t=2.8,df==31,p<0.05). メージマップでは, 「中和」という鍵概念に対して「水に 関する語句」のカテゴリーに含まれる語句を書いた生徒が. 7.考察. 25名(2回目は28名8)) , 「塩に関する語句」のカテゴリー. ⑴ 本稿の授業実践の位置づけ. に含まれる語句を書いた生徒が22名(2回目は28名) であっ. 本稿の授業実践は, 「粒子」概念によって化学の現象を. た。つまり,1回目のイメージマップを書いた2章2節の. 捉えられる生徒を育成する研究の一環としておこなったも. 途中では,「中和」という鍵概念に対して,「中和」によっ. のである。そして,授業実践の具体的な面から言えば, 「中. て生成する水や塩に関する語句が連想できなかったことを. 和」の理解を促進するための具体的な学習プランを提供す. 示している。このことをさらに細かく検討するために,1. ることも目標であった。ここでは,得られた結果からどの. 回目のイメージマップで, 「水に関する語句」に含まれる. ような結論が得られたのかについての考察をおこなう。. 語句,ならびに「塩に関する語句」に含まれる語句,両方. ⑵ イメージマップに書かれた連想語数の変化から. を書いていない生徒の数を調べたところ7名であった。こ. 2回目において生徒が書き出した語句の数に関して. のことは, 「中和」に関する実験を実施したからといって,. は, 「イオンに関する語句(47→65) 」 , 「水に関する語句. 必ずしも水や塩の生成という部分に生徒の意識が向くわけ. (25→37) 」 , 「塩に関する語句(24→34) 」 , 「電池・電流に. ではないことを示唆している。なお,これら7名の生徒の. 関する語句(5→15) 」のカテゴリーで顕著な増加が見ら. うち,3名は2回目に「水に関する語句」に含まれる語句,. れた。これらのカテゴリーにおける連想語数の増加は,1. あるいは「塩に関する語句」に含まれる語句のどちらかを. 回目のイメージマップテストを終えた後に, 「中和」をイ. 書くことができたが,4名は授業実践後,両方のカテゴリー. オンのモデルで表すという学習活動がおこなわれていたた. に含まれる語句を書いていなかった。このような傾向を見. め,当然予想されるべき結果ではあるが,より多くの語句. せる生徒については,他の面からの検討も必要であるが,. との連想がなされるようになったという点では,学習上,. 補充的な指導,あるいは,授業実践の中で特に配慮をしな. 意義のあるものであったと思われる。なお, 「原子のつく. がら進めていくことが必要である可能性も視野に入れて良. りに関する語句」というカテゴリーが増えていたが,これ. いと思われる。. は,発展的な実験内容(うすい硫酸に水酸化バリウム水溶. 1回目のイメージマップも「中和」に関する基本的な実. 液を加えていったときの流れる電流の大きさを調べる実. 験をおこなった後に書いている。しかし,全体としては2. 験:表2参照)を扱った際,電流の流れが電子の移動であ. 回目のイメージマップよりも向上的な変化が見られた。こ. ることに着目して考察をした結果,原子のつくりにも注目. のような変化は, 「中和」に関する発展的な実験をおこなっ. することになったと思われる。原子のつくりに関する内容. たため, 「中和」の定義(水溶液中の水素イオンと水酸化. は,1回目のイメージマップテストを実施する以前(1. 物イオンが結びついて水ができること)との関連をより強. 章3節)に学習しているが,1回目のイメージマップには. く意識することができるようになったことが要因と思われ. 書かれていなかった。2回目のイメージマップに「原子の. る。. つくりに関する語句」が書かれるようになったということ. 「電池・電流に関する語句(5→15)」のカテゴリーでは. は,授業実践によってイオンを既習事項と関連づけて捉え. 質的な変化が見られ, 「電流が流れなくなる」 , 「電流が大. られるようになったことを意味しており,この授業実践の. きくなる」という記述が2回目で見られた。ただし,これ. 効果のひとつであると考える。. については直近におこなった「中和」に関する発展的な実. - 64 -.
(8) 中学校におけるイオンに関する理科教育実践の分析 験の直接的な経験が原因であると考えられ,授業実践の目. 註. 標が達成されたと判断する要素にはならないと判断した。. 1)この定義は中学校理科の教科書に見られる一般的なも のである。例えば教育出版の教科書では「中和」を「水. ⑷ 今後の課題. 素イオンと水酸化物イオンが結びついて水ができる反. 「粒子」概念によって化学の現象を捉えられる生徒を育. 応」と説明しており,東京書籍では「水素イオンと水. 成するという点では,モデル化を取り入れた授業実践が有. 酸化物イオンとが結びついて水をつくり,たがいの性. 効であることが示唆されたが, 「中和」の理解を促進する. 質を打ち消し合う反応」,啓林館では「水素イオンと. という点では,イメージマップの分析からは読み取ること. 水酸化物イオンから水が生じることにより,酸とアル. ができなかった。 今回の授業実践では, 「中和」 とそれによっ. カリのたがいの性質を打ち消し合う反応」となってい. てできる水や塩とのつながりを強く意識させることには効. る。. 果があったといえるものの,このことが「中性になること. 2)「コア知識」とは,山下ら(2007)が提唱したもので,. のみが中和の定義であるとの誤解」を払拭しているとは言. 小・中学校理科全単元をつなぐ知識のことである。鈴. えず,正しい理解を促進させるという点では今後に課題を. 木ら(2011)が授業実践で活用した「コア知識」は,. 残すものとなった。また,今回の授業実践は当該学級でし. ①電流は電子の流れである。②物質間では電子の受け. かおこなっていないため,他のいくつかの学級での実践を. 渡しがある。③物質によって電子の出しやすさに差が. 経ることで,その効果をより一般化することができると考. ある。の3つである。生徒が考えをまとめていく際に. える。. は,これらを拠り所とすることにより,根拠を明確に した説明ができることが鈴木ら(2011)によって報告 されている。. 8.おわりに 現学習指導要領の趣旨に基づき, 「粒子」概念によって. 3) 「対話法」とは,根拠から結論をまとめていく際に用. 化学の現象 (本実践では 「中和」 ) を捉えることを目的とし,. いられる書き方の形式である。自分の考えを他者と会. 発展的な実験内容を取り入れた単元指導計画を作成し,. 話する形式で書き進める方法であり,その詳細は鈴木. イメージマップテストを実施し,その効果を検証したとこ. ら(2011)によって報告されている。 4)文部科学省(2008), 「学習指導要領解説理科編」p.12,. ろ,有効であることが確認された。. 大日本図書. 先に述べたように現学習指導要領においては,理科の学 習内容を科学の基礎的・基本的な4つの概念 (エネルギー,. 5)鈴木ら(2011)の授業実践における班学習は,山下. 粒子,生命,地球)で構造化するという視点が新たに加え. (2007)を参考にしている。山下(2007)は,単に話. られている。特に『化学変化とイオン』単元は,現学習指. し合い活動という形態だけを取り入れても,多数のメ. 導要領から復活したということもあり,具体的な指導例の. ンバーの意見に左右されるなど,十分な効果が期待で. 蓄積が他の単元以上に求められているといえる。ただし,. きない面があることを指摘し,司会者・発表者・質問. 現在の『化学変化とイオン』単元は, 「粒子」概念と関連. 者などの役割分担を明確にすることの必要性を述べて. づけた実践研究が求められているため,単に削除以前の実. いる。本稿の授業実践においても,司会者・発表者・. 践事例を適用するだけでは,現学習指導要領の趣旨を活か. 質問者などの役割分担を明確にした班学習の中で,イ. したことにはならない。科学の基礎的・基本的な概念との. オンモデルを用いた話し合い活動をおこなわせること とした。. 関連から構造化するという視点での実践研究が求められて いる。. 6)細谷治夫他(2011),「自然の探究 中学校理科3」 ,教. 付記. 7)1人で同じカテゴリーに複数書いている生徒もいるた. 育出版 本研究は,平成24年度北海道中学校理科教育研究会冬季. め,最大数が生徒数の32よりも多くなっている。. 研修会の発表内容を加筆・修正したものである。また,本. 8)1人で同じカテゴリーに複数書いている生徒がいたた. 研究の一部は,平成22年度科学研究費補助金(基盤研究. め,カテゴリーに含まれる語句の個数と人数は必ずし. (C) ,課題番号22530939,研究代表者 栢野彰秀)の資. も一致しない。. 金援助によって行われた。 参考文献 栢野彰秀(2000), 「エネルギー・環境教育的アプローチを. 謝辞 授業実践ならびに調査に協力していただいた元・釧路市. 導入した高等学校化学に関する実践的研究」 ,科学教育. 立青陵中学校の八重崎美穂教諭をはじめ,釧路中学校理科. 研究 24(1),pp.40-48. 教育研究会に深く感謝申し上げます。また,本稿の作成に. 三宅正太郎他(1983),「学習過程における評価システムの. 際しましては,島根大学教育学部の栢野彰秀教授から貴重. 開発に関する研究(1) 」,大阪府科学教育センター研究. なご助言をいただきました。 ここに記して感謝いたします。. 報告収録 98,p.133. - 65 -.
(9) 森 健一郎 佐藤明子,高橋治,菊地洋一,村上祐(2006) , 「イオン学 習の適時性 : 教科書の国際比較に基づいて」 ,理科教育 学研究 46(2), pp.21-27 鈴木康代, 山下修一(2011) 「中学校3年『水溶液とイオン』 , で「対話法」を用いた説明活動の改善」 ,理科教育学研 究 51(3), pp.217-225 高橋治,菊地洋一,武井隆明,村上祐,佐藤明子(2006), 「中学校理科にイオンをどうとり入れるか : 現教育課 程におけるイオン学習の実践」 ,理科教育学研究 46(3), pp.33-43 武井隆明,菊地洋一,菅原尚志,青井千明,大石祐司,村 上祐(2006) , 「人類はどのようにしてイオンを認識して きたか : 発見史からみたイオン学習」 ,理科教育学研究 46(3), pp.45-53 手塚基子,片平克弘(2003) , 「メタ認知能力の視点から探 るイオン概念獲得に関する研究 :「化学変化とイオン」 の学習にみられる個々の中学生の変容過程を事例に」 , 理科教育学研究 44(1), pp.29-37 山下修一他(2007) , 「深い理解を目指した理科授業づくり と評価」 ,大日本図書. - 66 -.
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