児童の火山噴火イメージを変える火山減災教育
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第42号(平成22年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.42(2010):109-115. 児童の火山噴火イメージを変える火山減災教育 佐 藤 真太郎1・境 智 洋2 1. 埼玉県ふじみ野市立鶴ヶ丘小学校. 2. 地域学校教育専攻授業開発コース. Education to reduce the damage of the volcnao disaster that changes the child's eruption image 1. 1 2. Shintarou SATOU. 2. Chihiro SAKAI. Turugaoka Elementary School in Hujiminocity. Department of Regional Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 羅臼岳は、火山の活動度指数Bにランクされる(気象庁2005) 。ここでは、羅臼地域の児童に羅臼岳が火山であること に気付かせ、羅臼岳が噴火した場合には、どのような災害が起きるのかについて、過去の噴火履歴を学ぶことからわかる ことを児童に伝えるプランを作成する。そのプランを用いて羅臼岳山麓の小学校において実際に授業を行い実践検証す る。従来の実践検証の多くは、子どもの変容を児童の感想から検討を加えているものが多い。しかし、本研究では、児童 が描いた噴火のイメージ図が授業前と授業後でどのように変化したかをいくつか評価の観点を設けて明らかにすることを 目的とした。本稿は、火山の活動指数ランクBの山麓の学校において実施した火山減災教育の授業実践の実際と授業評価 を報告するものである。. はじめに. を推論させた。火山の噴火史を理解することで、子どもた. 1995年の阪神・淡路大震災以降に、従来の「防災」と. ちの意識が変化するかを検討することとした。. いう考え方ではなく「減災」 (災害時において発生し得 る被害を最小化する)の重要性が指摘され始めた(河田. 1 樽前山・有珠山周辺の減災教育の実施状況. 1995) 。 教育においても、災害を減らす為に具体的な行動. 筆者らは、火山噴火の減災教育の実践状況を確認する. をとることが出来るような教育(減災教育)の重要性が指. 為、樽前山、有珠山の山麓に位置する自治体の防災担当者、. 摘されている(椚座 1996) 。しかし、柴田(2005)の調査. 学校教員に聞き取り調査を行った。. 結果では、火山噴火の減災教育は、未だ日本の教育の中に. 樽前山の山麓の自治体として、恵庭市と苫小牧市、有珠. 十分に浸透しているとは言い難いという。日本には過去. 山山麓の自治体として伊達市と壮瞥町で行った。. 1万年前から噴火活動の履歴がある火山が100を超えてい. 樽前山山麓の自治体では、2005年に樽前山環境防災教育. る(気象庁2005) 。火山噴火による災害は、時に多くの人. 検討会を立ち上げた。樽前山環境防災教育検討会は、樽前. の命を奪う。ゆえに筆者らは、数多くの火山が存在する日. 山山麓の自治体の減災教育を充実させる為に「防災啓発講. 本において、将来様々な土地で生活する可能性を持つ全て. 座」 「フィールドトリップ」 「図上訓練」などを行ってきた。. の児童生徒に、減災の意識を持たせ自らの命を守ることが. それらは主に社会人を中心に行われている。学校では火山. できる素養を持たせるべきと考える。. 防災に関する講演を苫小牧市内の小学校で数回実施された. 筆者らは、北海道における火山の山麓に位置する自治体. 程度である。さらに樽前山副読本「樽前山楽学」 (宇井他. での減災教育の現状を検討し、減災教育プランを推進して. 2007)を製作し樽前山周辺の中学校へ配布した。この副読. いくための視点を検討した。次に、筆者らは火山の活動指. 本を活用した授業は行われているが、ごく限られた学校で. 数ランクBである羅臼岳を対象とした火山噴火の減災教育. あり、授業で活用した実践の報告は2008年度で2件である. 授業プランを作成し、羅臼岳の麓にある羅臼町立飛仁帯小. (樽前山環境防災教育検討会 2009)。恵庭市では、毎年7. 学校及び羅臼小学校において実践した。授業は、羅臼岳周. 月末~8月上に「キッズ防災キャンプ」を行っており、避. 辺の礫の判定から羅臼岳が火山であることを意識付け、羅. 難場所となっている学校で希望した児童が宿泊体験を行う. 臼岳の地質調査と文献から得られた羅臼岳の噴火史を学習. ものである。ダムの仕組みを知ることや、火山の勉強会、. させ、羅臼岳が噴火する場合はどのような噴火をするのか. 地震災害等に対応した図上訓練などを行っているが年1回. - 109 -.
(3) 佐 藤 真太郎・境 智 洋 の実施である。. 知床硫黄山と共に、知床半島では最も新しく形成された火. 有珠山山麓の自治体では、昭和新山登山学習会、有珠山. 山の一つである(中川2007)。. 登山学習会、エコミュージアムフォーラム、地域防災講演. 羅臼岳の最初の噴火は10万年~数万年前である。羅臼岳. 会が住民向けに行われている。 1983年から実施している「子. は海底火山活動の地層の上に、羅臼岳溶岩が流れた。噴火. ども郷土史講座(壮瞥町教育委員会主催) 」では、実際に. した溶岩は、海岸まで達し、現在、斜里側に見られる断崖. 有珠山や昭和新山に登山し、火山を理解する為の具体的事. 地形の一部は、この時流れた羅臼岳溶岩が、流氷の浸食作. 業を行っており、多くの児童が参加し、平成19年では壮瞥. 用により削られて出来たものである(合地 2004)。この噴. 町の児童数の50%が参加している。壮瞥中学校では総合的. 火で流れた溶岩は、かんらん岩含有シソ輝石普通輝石安山. な学習の時間に「有珠山に関する専門的な知識を伝え学ぶ. 岩で混合マグマによる活動であり、この混合マグマは、苦. 学習」を行っている。伊達市、壮瞥町共に、総合的な学習. 鉄質なマグマであった(柴田 1989) 。このことから流動性. の時間を利用して火山噴火の減災教育を行っている中学校. の高い溶岩が流出したことが考えられる。. の報告があるが授業記録等は残っていない。. ⑵ 2200年前以降の3度の噴火. これらの調査から、減災教育を推進していくために、以. 羅臼岳では、上位に向かい8種類の主要な噴出物層が存. 下の課題が見えてきた。. 在するとし、それを噴出物A2~ Gとした(表1)。また、. 課題1:樽前・有珠とも「火の山の奏」 「たるまえ山楽学」. 羅臼岳の噴出物をRafl8 ~ Rafl1まで見いだされるとした. などの副読本が完成し、火山の噴火史及び噴火の際の被. (表2)(宮地 2000)。筆者らが現地調査を行ったところ、. 害の状況が詳細に説明されている。しかし、教科の内容. 岩尾別・羅臼登山道沿いには3層の軽石質やスコリア質で. とリンクさせることが難しいため、活用をしている学校. 粗粒な降下テフラ(Ra-1~3)、広域テフラと考えられる. は少ない。. 細粒な軽石質の降下テフラ、及び8層の軽石質やスコリア. 課題2:学校教育での火山減災教育は、火山に対する減災 の意識が高い教員のいる学校において実施されている。. 質な火砕流(火砕サージを含む)堆積物(Rafl-1~8)を 認めることができた(表2)。. しかし、独自の単元構想で実施しているため、実践の内 容は他校へ波及することが難しい。ゆえに、これらの教. 表1 羅臼岳の火山噴出物. 材・教具や授業プランの共有が図られていない。 本論は火山の活動指数ランクBの火山の麓での実践であ る。そこで、本研究では、上記課題を受けて、6年生理科 「土地のつくり」の単元からリンクさせ、火山の噴火史や 噴火した際の火山災害予測図等をつかった内容を「総合的 な学習の時間」で扱うことによって火山減災教育を実施す るという授業を構想した。また、羅臼町理科研究会に公開 することによって、授業プランや教材・教具を共有し、次. 表2 羅臼周辺の火山堆積物とその年代. 年度以降の授業に生かすこととした。 2 羅臼岳の噴火史 火山噴火現象は多様であり、噴火に伴って引き起こされ る火山災害も多様である。そのため「今後どのような噴火 をするか」 という課題に対しては、 確実な予測はできない。 しかし、多くの火山は、火山の地下に蓄えられたマグマの 性質が数百年から数千年といった長期間にわたってあまり 変わらない。したがって特定の火山では噴火は規模の大小 はあるとしても類似した現象が繰り返される。類似した現 象が繰り返されることをから、過去の噴火の履歴を調べる ことで災害の種類や発生域を予測できる(宇井 1997)。 羅臼地域には、火山災害予測図が存在しない。ゆえに、. ・2200~2300年前の噴火. 羅臼岳の噴火史をもとに、噴火時の被害や噴火様式を検討. 表2のRafl-8~3は、2200年前の噴火による火砕流堆積. した。. 物である(宮地 2000)。また、Ra-3は、Rafl-7を直接覆. ⑴ 10万年前~数万年前の噴火. う降下軽石堆積物層である。また、羅臼岳の火砕流堆積. 羅臼岳は、北海道知床半島中部、北緯44° 、 東経145°に位. 物を7地点で採取し分析を行った結果、放射性炭素年代. 置する標高1660mの火山であり、千島海溝に平行に帯状に. 測定値より、約2200~2300年代(yBP)と推定した(後藤. 形成された千島火山帯に属する。また、同火山帯に属する. 2009) 。この噴火による堆積物として、軽石、降下軽石、. - 110 -.
(4) 児童の火山噴火イメージを変える火山減災教育 細粒なスコリア等を筆者らは確認した。また、2200年前に. 600年前、1400~1600年前の2回の噴火の履歴を子どもた. 始まった噴火は結晶分化作用による組成変化傾向にあるも. ちに伝える。授業終了時には「もしも羅臼岳が噴火した場. のとしている(柴田 1989) 。マグマ溜まりの内部で混合マ. 合にはどのような現象が起こるか」を投げかけ、羅臼岳の. グマが周囲に熱を放出し冷却する。これにより、かんらん. 噴火史を学ぶことによって身近な火山に対する関心が高ま. 岩、斜長石、輝石などが結晶化され、残されたマグマは結. り、予想される噴火の様子を理解できたかを検証する。そ. 晶化される以前のマグマと密度が異なるので分離し、二酸. のために、以下の授業を実施した。授業は、全3時間(総. 化ケイ素やアルカリ成分の多い珪長質岩に近づく。した. 合的な学習の時間)で構成されている。授業展開の概要は. がって2200年前に始まった噴火で流れた溶岩は、粘性の高. 表3に示されている。. い珪長質な溶岩であったと考えられる。さらに、火砕流と. 授業実践は、羅臼町立飛仁帯小学校で2009年1月に実施. 火砕サージが頻発した噴火であったと考えられる。. し授業内容を再検討し、羅臼小学校6年生36人を授業対象. ・1400~1600年前の噴火. 者として2009年11月上旬に本実施した。. 表2のRa-2及びRafl-2の層境界は不明瞭であり、両者は. なお、授業における指導は筆者の佐藤が担当した。. 一連の活動の噴出物であると考え、時期を1400年前と特定 している(宮地 2000) 。また、羅臼岳頂上外側の溶岩ドー. 表3 授業展開の概要. ム形成はこの噴火によるものであるとした(合地 2004)。. 時限. 岬町ケンネベツ川で採取した試料から放射性炭素年代測定 を行った所、1660±40(yBP)という年代が得られた(後 藤 2009) 。羅臼岳は1400~1600年前の間に噴火が起こり、 溶岩ドームが形成されたとともに、規模の大きなプリニ― 式噴火による降下軽石に続き、溶岩ドームの崩壊による火 砕流の発生が起こったと考えられる。この噴火による火山 灰は西からの風で東に流され、 国後島でも堆積している(宮 地 2000) 。 ・500~700年前の噴火 表2のRa-1は登山道沿いのほぼ全域で確認でき、岩尾 別登山道沿いの露頭において、4㎝の厚さの黒ボク土壌 層を挟み、Ma-bを覆う。Ma-bの時期については、980± 100 y.B.P.という値が得られている。4㎝の土壌が形成さ れるのに、200~300年間を要すると推定すると、Ra-1は 500~700年前の降下軽石及びスコリア層であるとした。ま た、Rafl-1はRa-1を直接覆う為、一連の活動の噴出物と考 えている(宮地 2000) 。Rafl-1は軽石流堆積物層であり、 羅臼平一帯を覆う。軽石流堆積物層は大沢や屏風岩直下ま で層厚数十㎝程積もっている。また、縞状軽石が多く見ら れ、塩基性と酸性の溶岩が十分に混ざらない内に噴火した ことを示すとした(合地 2004) 。 羅臼岳の700年前の噴火は、2300年前の噴火に比べ規模 は小さく、1600年前の噴火に比べ、火山灰の降下範囲が 狭い。また、一部の溶岩が山頂より西に流出した(後藤 2009) 。筆者らは700年前の噴火における火山噴出物を、斜 里側登山道の銀冷水、大沢、羅臼平、羅臼側登山道の最上 部で確認し、また、羅臼海岸沿いの岬町付近で8㎝~10㎝ 堆積していることを確認した。 500~700年前の噴火は、火山灰を北北東方向に飛ばす噴. 授業の概要 導入 ・堆積岩と火成岩を用意し、マグマが冷えて出来た 石と水の働きによって出来た石の特徴を捉え大きく 岩石は2種類に分けられる。(特徴のキーワードは 火成岩はキラキラ・堆積岩は粒が丸い) 展開 1 ・教室内に持ち込んだ羅臼川の石を堆積岩と火成岩 に分ける。 ・羅臼川の石はマグマが冷えて出来たものが多いこ とに気づく。 まとめ ・羅臼川の石はマグマが冷えて出来た石が多い理由 を考える。 導入 ・羅臼岳の登山映像を見る。 展開 ・羅臼岳の石を「マグマが冷えて出来た石」か「水 の働きで出来た石」か調べる。 2 ・羅臼岳の火山灰を観察する。 まとめ ・観察結果から羅臼岳は火山であることを推論す る。 ・羅臼岳の写真にクレヨンで噴火のイメージを描く ように指示する。 導入 ・立体地図上の自分の家のある場所にシールを貼 る。 展開 ・700年前の溶岩流が流れる噴火モデル実験を行う。 ・立体地形図に700年前に流れた溶岩流の範囲をマ 3 ジックで記す。 ・過去の噴火の降灰実験を観察する。 ・立体地図上に過去に火山灰が降った範囲を記す。 まとめ ・羅臼岳の写真にクレヨンで噴火のイメージを描く ように指示する。. 火であると共に、一部、溶岩を流出させている。 . 1時間目. 3 飛仁帯・羅臼小学校での授業実践. 1時間目は、堆積岩と火成岩をキーワードによって見分. 実験授業の概要. ける方法(境 2005)を参考に「石で土地の成り立ちを考え. 身近な石を探ることから羅臼地域の児童に羅臼岳が火山. ることが出来る」ことを目標に実施した。まず、堆積岩. であることに気付かせる。さらに、現在から遡り、400~. (泥岩)と火成岩(安山岩)を全員に配布し、2つの石の. - 111 -.
(5) 佐 藤 真太郎・境 智 洋 特徴をつかませた。特徴から得られた『火成岩はキラキラ している(鉱物があること)』をキーワードとして児童に伝 え、 「火成岩」と「堆積岩」の2種類に石を分けることが 出来るようにした。さらに火成岩はマグマが冷えて固まっ た物であり、堆積岩は水の働きによって海や湖に堆積して 固まった石であることを説明した。次に羅臼川の河川から 持ち込んだ礫150個を教室に置き、全員で堆積岩と火成岩 に見分けた。ほとんどが火成岩であることがわかり、上流 には火山岩が多いところがあると推論できた。この推論か. 図1 溶岩噴出実験 1400年前の溶岩ドームの形 成実験. 図2 火山灰降灰実験 1400と700年前の降灰の範 囲をモデルで示す. 図3 溶岩流出の範囲 ドームの位置を赤で示した. 図4 降灰の範囲を子ども たちが立体地形図に記録す る. ら、上流にある「羅臼岳は火山かもしれない」という仮説 を立てた。 2時間目 2時間目は「羅臼岳の火山噴出物を調査し、羅臼岳が 火山かどうか判断することが出来る。 」ことを目標として 行った。「火成岩」と「堆積岩」の見分け方を生かし、模 擬羅臼岳登山を行った。静止画像やズーム機能を利用した 映像の提示で露頭を提示し、手元には実際の石や火山灰を 配布して観察するというバーチャル観察を利用した(境 2006) 。これらの観察から、 「羅臼岳は噴火する可能性のあ る火山かもしれない」という仮説が確信となった。 ここで、「もしも羅臼岳が今後噴火するとしたらどのよ. 4 実践授業の評価. うな噴火になるかを写真に書き加えてください」と指示. ⑴ イメージ図による評価. し、噴火の様子を描かせた。. 羅臼岳が火山であると児童が判断した2時間目の終了時. 3時間目. と羅臼岳の噴火史を扱った授業の授業終了前に、それぞれ. 3時間目は「想定される羅臼岳の火山噴火の様子を認識. 羅臼岳が噴火したらどのようになるのか、クレヨンや色鉛. することが出来る」ことを目標に行った。火山の噴火現象. 筆を使って絵で現わした。これは樽前山防災教育検討会. は山ごとに異なる。児童に自分たちの住んでいる場所にあ. (2008)で実施された授業内容を参考に、イメージ図から. る火山が、どのような噴火をしてきたのか、正しい認識を. 評価を行うために用いたものである。. 持たせることが大切であると考えた。まず、火山の噴火に. 「噴火は規模の大小はあるとしても類似した現象が繰り. 伴う様々な用語「溶岩・火山灰・火砕流」を理解させた。. 返される」ことを理解し、その様子を描くことができるか。. 次に、羅臼岳では、どのような噴火をするのかを、羅臼岳. つまり、以下の観点で描けているかを評価する。. の500~700年前と1400~1600年前の噴火をモデル実験で示. ① 溶岩の噴出範囲が、頂上付近又は、その周辺に描いて. した。1400~1600年前噴火では、溶岩の粘性を考慮したモ. いる。つまり、1400~1600年前及び500~700年前噴火と. デル実験(境 2004)(図1)や降灰実験(宮嶋 2002)(図. 同じ程度の噴火であると想像している。. 2)を演示で行った。流れにくい溶岩のためにドーム状の. ② 火山灰を含む噴煙が南東方向へ流れることを描いてい. ものができたことを確認した。また、降灰は、南東方向に. る。つまり、一般的に上空の風の向きは西から東である. 広がり、一部は羅臼の町に降ったことが再現された。次に. ことから、風の影響を受けて流れる方向が東方向である. 500~700年前噴火は、溶岩の流出は一部であったため省略. と想像している。. し、降灰実験を行った。降灰は南東方向に広がり、飛仁帯. ア ①②の観点を含む図. 方向へ流れることが再現された。それらのモデル実験のあ. ・溶岩の流れる範囲が狭くなっているともに、火山灰が. と、グループごとに立体地形図上に過去の羅臼岳の火山噴. 西から東、写真では左から右に流れている。(左2時 間目、右3時間目終了後). 出物(溶岩)の分布範囲を示す活動を行った(図3・4)。 これらからの学習の後、児童には、今後も過去に起こった. 2時間目終了時には、山を覆うような溶岩や噴石を描い. 噴火と似たような噴火が起こる可能性があると科学者が伝. ている児童がほとんどである(図5左列) 。授業後、多く. えていることを説明した。. の児童の溶岩流の流れる範囲が山頂付近に変化している. グループのテーブルには、過去2回の噴火の様子が立体地. (図5右列)。授業では1400~1600年前の噴火は「溶岩が粘. 図上に記録されている。これらを見たあとに、 「もしも羅臼. り強いので流れにくい」という表現を用いているため、若. 岳が今後噴火するとしたらどのような噴火になるかを写真に. 干流れるように描いている児童もいるが、その範囲は明ら. 書き加えてください」と指示し、噴火の様子を描かせるとと. かに狭くなっている。また、火山灰が西から東に上空の風. もに、なぜこのような図になったかを聞き取りを行った。. の影響で流されていることも絵に描かれている。このよう. - 112 -.
(6) 児童の火山噴火イメージを変える火山減災教育 ・作図の変化が少ない. 図7 観点エの図の例 溶岩の流れは規模が小さくなってはいるが、流出範囲が 山体すべてを覆う形になっている。このような図が7例見 られた。児童に聞き取りすると、以下の事がわかった。 児童は、提示した立体地形図のどの部分が、配布された. 図5 観点アにあてはまる図の例. 羅臼岳の写真のどの部分にあたるのかを理解していないこ な作図は、36名中18名が記録した。. とがわかった。つまり、赤インクで示した場所は、立体図. イ ①の観点を含む図. の頂上部分だけであるが、児童の聞き取りでは、写真から. ・溶岩の流れる範囲が狭くなっている。. は、ドームの部分が山の形そのものに見えてくるという ことである。ゆえに、立体地形図での見方と、写真の羅臼 岳の見方を対応させなければ、十分な授業効果は得られな い。立体地形図で見える羅臼岳と同じように見える羅臼岳 の写真を扱う。さらに、授業内容の中に、児童が立体地形 図上に、過去に羅臼岳が噴火した時の、溶岩流が流れる範 囲や、火山灰の降る範囲をマジックペンで示した後に、羅 臼岳の写真と見比べ、この2つを比較する活動を取り入れ ることが考えられる。 児童の聞き取りから7名が描いた溶岩の流れた範囲は、 ①の観点に相当する範囲であった。. 図8 モデルと写真の位置関係 図6 観点イの図の例 図8のモデルの□部分が、図8右の□部分にあたる。赤 溶岩の流れる範囲が狭まり、頂上付近に描いている。黒. インクは左写真の頂上部分だけである. は火山灰であるが、周辺のみの降灰をイメージしたようで. オ そのほか. ある(図6右列) 。このような作図は、8名いる。. 上記の視点に当てはまらない図が3例見られた。これは、. ウ ②の観点を含む図. 全体に流れが縮小はしているが、被害は非常に大きなもの. ・火山灰が西から東、写真では左から右に流れている。. となっている。聞き取りでは、羅臼ではなく、一般的な火. 火山灰のみが西から東へ流れている作図は見られない。. 山の大きな噴火をイメージして描いたようである。. エ ①②の観点で評価できない. - 113 -.
(7) 佐 藤 真太郎・境 智 洋 山噴火史の授業は授業実践として妥当である。筆者らが提 案した火山の噴火史を理解することで、子どもたちの意識 を変化させるというねらいは達成できたと思われる。 減災教育を推進していくための課題1において、教科と 総合的な学習の時間をリンクさせて減災の授業として位置 づけることが可能であることがわかった。また、課題2の 教材.教具の共有であるが、授業を羅臼の先生方に公開授. 図9 それぞれの視点に当てはまらない図. 業として実施するとともに、単元の流れ、評価法を教材・ ⑵ 児童の羅臼岳に対する言葉のイメージによる評価. 教具と共に公開することで、1つの授業案として広く共有. 言葉でのイメージの変化を見る。図との相関は得られな. できる道筋ができた。. いが、関心がどのように高まったかを評価したい。. 今後は、多くの火山の麓において実践できる火山減災教. 授業前と授業後に「羅臼岳のイメージ」を児童に文章で. 育のプログラムの一般化にむけて授業展開、さらに噴火の. 書かせている。授業前には80回答が得られた(複数回答あ. イメージから、実際に噴火が起きた場合にどのような行動. り)。児童の回答内容を分析すると、大きく13パターンの. をすべきかについてまで含めた総合的な火山減災教育を構. 内容に分けられた。最も多く回答されている内容は、 「高. 想したい。. い」 「自然が豊か」 「景色がきれい」 「動物がたくさんいる」 等である。授業実施後でも80回答が得られた。実施後の回. 参考文献. 答を分析すると27パターンに分けられた(図10)。これらか. 気象庁(編)(2005) 日本活火山総覧(第三版)p635. ら授業実施前と比べ、児童の羅臼岳に対するイメージの幅. 宇井忠英(1997)火山災害予測図 火山災害と災害 東京 大学出版会 pp 117-142. が広がったことが伺える。授業後は 「噴火したら怖い。」 「い つ噴火するかわからない。 」という火山として羅臼岳をイ. 宇井忠英他(2004)有珠山防災教育副読本 中学生版「火 の山の奏」有珠火山防災教育副読本作成委員会. メージしている回答が増えた。 さらに、 「どうして噴火するのか」 「羅臼岳が噴火したら. 宇井忠英他(2006)樽前山環境防災副読本 中学生版「た るまえ山楽学」 樽前山環境防災副読本検討部会. どうなるか」 「噴火したら羅臼の町は大丈夫か」 「羅臼岳は いつ噴火するのか」などの感想も多数書かれ火山に対して. 河田恵昭(1995)減災をめざす危機管理と兵庫モデルの提 案(阪神大震災と神戸市復興への提言〈特集〉)都市政. 関心が高まっているといえる。. 策(79)pp26-34 後藤芳彦(2009)知床の地質pp32-54 北海道新聞社 椚座圭太郎(1996)阪神大震災と学校(1)減災の為の教 育 富山大学教育学部紀要B(理科系)No.49,pp7-20 合地信生他(2004)知床博物館第26回特別展『活火山 羅 臼岳』 斜里町立知床博物館協力会 境智洋(2004)歯科印象材を活用した火山モデルの開発と 実践‐北海道立理科教育センター研究紀要第16号 pp6570 境智洋(2005)岩石の命名から始まる石の学習‐野外観察 を効果的に進めるために‐北海道立理科教育センター 研究紀要第17号 pp35-42. 図10 イメージと言葉の変化. 境智洋(2006)野外観察を効果的に行うためのプログラム おわりに. -「バーチャル・リアル野外観察」の授業プラン‐北. 児童の授業前と授業後のイメージ図から、児童は羅臼岳. 海道立理科教育センター研究紀要第19号 pp78-85. の過去の噴火の履歴を元にしたモデル実験や羅臼周辺の岩. 柴田知之(1989)知床半島羅臼岳第四紀火山岩類の火成作用 the Geological Society of Japan p530. 石の様子、模擬登山で得られた火山に関する情報をふまえ て「もしも、羅臼岳が噴火した際にどのような範囲に溶岩. 柴田ふみ(2005)火山および火山防災用語に対する住民と. が流出し、火山灰が降り積もるか」のイメージを児童につ. 行政担当者の意識:栃木県・神奈川県・静岡県・山梨. かまさせることができた。また、火山に関して関心が高ま. 県内での2004-2005年調査結果(日本火山学会2005年. ることが明らかとなった。. 秋季大会) 日本火山学会講演予稿集,103. 「理科」の単元において学習した「土地のつくりと変化」. 樽前山環境防災教育検討会(2009)平成20年第一回樽前山 環境防災教育検討会資料. に関する内容を発展させ「総合的な学習の時間」にリンク し地元の土地の成り立ちや、減災の視点を与えるための火. 中川光弘(1994)千島弧南部における火山雁行配列の形成. - 114 -.
(8) 児童の火山噴火イメージを変える火山減災教育 時期と島弧会合部における関連テクトニクス 宮嶋衛二(2002)火山噴出物の分布をモデルで調べる 北 海道立理科教育センタ-理科研修講座中学校テキスト 宮地直道他(2000)羅臼火山における最近2200年の噴火史 火山 第45巻 第2号 pp75-85. - 115 -.
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