1 .はじめに 財団法人斎藤報恩会は1923(大正12)年 2 月20日に設立された、日本で初めて学術研究助成 に重点を置いた財団法人である。特に設立から戦前期にかけては、学術研究助成に関して中心 的役割を果たした学術研究総務部長のみならず、評議員の多くを東北帝国大学の研究者たちが 占めるなど、その運営には東北帝国大学の研究者たちが深く関わっていた。2015(平成27)年 9 月30日に事業解散をし、93年に及ぶ活動を終えたが、その間に東北大学のみならず、東北地 方の高等教育機関を中心に学術研究助成を行い、学術の発展に貢献した。斎藤報恩会の運営の 実際をうかがい知ることができる史料は東北大学史料館に寄贈され、現在その整理作業が行わ れている。 寄贈された史料の 1 つに、『法人関係書類』がある。この史料には「財団法人斎藤報恩会寄附 行為」の他、「斎藤報恩会設立許可書(控)」、「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」、「財団 法人斎藤報恩会内規」、「財団法人斎藤報恩会ノ補助ニ依ル学術研究ニ関スル規程」、「文書帳簿 整理仮規程」、「学術部友規程」、「財団法人斎藤報恩会会計規則」、「財団法人斎藤報恩会学術研 究補助費経理手続」など、財団法人の運営に欠かせない諸規程が綴られている。 これらの規程のいくつかには、書き込みがあるものが存在した。例えば「財団法人斎藤報恩 会寄附行為施行細則」においては、題目の側に「第二回案」、「第三回原稿」、「第三回案」、「第 四回案(第四回理事会決議)」、「第三回評議員会ニ於テ確定」という書き込みのある 5 つの原稿 が存在している。また、「財団法人斎藤報恩会内規」においては、何も書き込みのないものの他 に、題目の側に「第二回案原稿」、「第二回案」、「第四回理事会ニ於テ確定」という書き込みの ある 4 つの原稿が存在している。「財団法人斎藤報恩会内規」の「第二回案」を除き、それぞれ の原稿においては字句等の訂正が数多くなされていた。これら諸規程に書き加えられた修正か ら、斎藤報恩会の特質の一端が明らかとなった。 本稿では、『法人関係書類』に綴られている史料を紹介するとともに、「財団法人斎藤報恩会 寄附行為施行細則」の変遷を解析することにより明らかとなった、斎藤報恩会の特質の一端に ついて述べる。なお、本稿で引用した史料の原文は縦書きであったが、引用に際し横書きにし、 適宜改行等を施した。また、旧漢字は新漢字に改め、仮名づかいは原文のままとし、判読不明 な個所は●で示した。 2 .『法人関係書類』の内容 2 . 1 .『法人関係書類』の史料一覧 『法人関係書類』において確認できた史料の一覧を表 1 に示す。 これらの史料を解析することにより、斎藤報恩会の特質がより一層鮮明になることが期待さ れる。
『法人関係書類』にみる斎藤報恩会
米 澤 晋 彦
表 1 .『法人関係書類』の史料一覧 番号 文書名 備考 1 「財団法人斎藤報恩会寄附行為」 訂正の書き込みあり 2 「斎藤報恩会設立許可書」の写し 訂正あり 3 宮城県内務部長より年度末提出書類について「大正12年(第 1 号2.20)」の書き込みあり 4 「法人設立登記登記申請書」案 「大正12年(第 2 号3.02)」の書き込みあり1923(大正12)年 2 月23日発議 5 「法人登記広告」 『河北新報』1923(大正12)年 3 月 5 日の記事の切り抜きが 2 部 6 委任状の案 7 印鑑届(案) 8 財団法人設立に関わる文書案 文部省向け 9 宮城県内務部長からの文書 1923(大正12)年 2 月22日付斎藤報恩会設立に関する文書 10 「代書依頼ノ件」(案) 1923(大正12)年 2 月23日発議理事嘱託の代筆依頼 11 印鑑届 斎藤善右衛門、斎藤圭助、中村梅三、高木畊造、 手嶋雄八郎の印鑑届 6 の「委任状」、 7 の「印鑑届」を印刷したもの を含む 12 「証認アル謄本下附申請」案 「12年(第 2 号3.08)」の書き込みあり1923(大正12)年 3 月 7 日発議 13 内務部より謄本下附の知らせ 「12年(第 4 号3.20)」の書き込みあり1923(大正12)年 3 月20日付 14 「公益法人ニ関スル件」 1926(大正15)年 7 月19日付宮城県学務部長より書類提出の依頼 15 「宮城県学務部長回答案」 1926(大正15)年 7 月20日発議14に対する回答案 16 「公益法人調査ノ件照会」 1927(昭和 2 年) 6 月14日付宮城県学務部長より 17 「宮城県学務部長宛公益法人調査ノ件」 1927(昭和 2 年) 6 月20日発案16に対する回答案。書き込みのある原案と浄書各 1 部 18 「公益法人ニ関スル件」 1934(昭和 9 )年 5 月19日付 宮城県からの問い合わせ。「本書類ハ本会ニ到着 セザルニ付電話ニテ其旨申出デ通達ヲ得タルモノ ナリ」と書き込みがある。「宮城県」の名が入っ た封筒あり 19 「公益法人ニ関スル件」回答案 1934(昭和 9 )年 5 月21日、24日の押印あり18に対する回答案 20 「斎藤報恩会状況ニ関スル照会」 1932(昭和 7 )年11月30日付福島県学務部長への回答 21 「斎藤報恩会設立許可書」の写し 「控 商工省工務局工業組合●ニ提出」と朱書きあり 22 「寄附行為」
番号 文書名 備考 23 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」 「第二回案」と書き込みあり本文中に訂正あり 24 「財団法人斎藤報恩会内規」 訂正あり誓約書つき 25 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」 「第三回原稿」と書き込みあり本文中に訂正あり、様式第 1 号(申込書案)、様 式第 2 号(契約書案)つき 26 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」 「第三回案」と書き込みあり 27 「財団法人斎藤報恩会内規」 「第二回案原稿」と書き込みあり本文中に訂正あり 28 「財団法人斎藤報恩会内規」 「第二回案」と書き込みあり 29 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」 「第四回案(第四回理事会決議)」と書き込みあり本文中に訂正あり 30 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」 「第三回評議員会ニ於テ確定」と朱書きの書き込みあり 本文中に訂正あり 31 「財団法人斎藤報恩会内規」 「第四回理事会ニ於テ確定」と朱書きの書き込みあり 32 「仮預証」 「大正十二年十月廿四日理事長会計主任会議決定」と朱書きあり 33 「大正12年 5 月29日第 3 回評議員会ニ於テ理事会ニ委任施行ノ件可決」 34 出版についての通知文 1925(大正14)年10月10日付学術研究費補助による研究の成果を学術研究総務 部以外で出版する場合の規定 35 学術研究関係者の会合において協定した内容の通知文 1925(大正14)年 6 月26日付 36 「財団法人斎藤報恩会」の英語表記についての通知文 1925(大正14)年 9 月 8 日付 37 「事務関係事項」 学術研究総務部の所在及び構成員等の一覧 38 「学術研究者へ通牒案」 1925(大正14)年10月学術研究総務部から研究者宛 39 「財団法人斎藤報恩会ノ補助ニ依ル学術研究ニ関スル規定」 第 1 条から第 4 条まで 40 「学術研究総務部長ヨリ要求アリタル件」 2 部 41 「文書帳簿整理仮規程」 42 「産業及社会事業ノ施設条項案」 本文中に訂正あり 43 「財団法人斎藤報恩会産業及社会総務部規程」 44 「財団法人斎藤報恩会懸賞論文募集趣旨書」 本文中に訂正あり 45 「財団法人斎藤報恩会懸賞論文募集要項」 46 「財団法人斎藤報恩会懸賞論文応募規程」 47 「斎藤報恩会評議員会ニ付テノ決議案」 1 条から 3 条までと 2 項目 48 「機関雑誌発刊計画」 『時報』発刊に関する詳細 49 「報恩会事務所設置ニ伴フ会計事務ノ変更(案)」
番号 文書名 備考 50 「財団法人斎藤報恩会評議員会ニ付テノ決議案」 「一五、一一、一七第六評議会」の朱書きあり表題の「決議案」を「申合」に訂正 51 「学術部友規程」 「一五、一一、一七理事会可決評議会承認」の朱書きあり 52 「学術部友規程」 「理事理事長供覧」の書き込みあり 53 「財団法人斎藤報恩会評議員会ニ付テノ決議案」 「発案」の書き込みあり1926(大正15)年10月 9 日付 54 「財団法人斎藤報恩会評議員会ニ付テノ決議案」 「訂正ノ●」と朱書きあり 55 「学術研究総務部会計事務取扱方ノ件」 1926(大正15)年 9 月22日付 56 「報恩会事務所設置ニ伴フ会計事務ノ変更(案)」 57 「事務分担ノ件」 1927(昭和 2 )年 5 月26日発案 58 「学術研究臨時補助改正ノ件」 「昭和三、二、一六評議会」と朱書きあり2 部 59 「会計規則ヲ定ムルノ件」 1927(昭和 2 )年12月27日発案 60 「財団法人斎藤報恩会会計規則」 「昭和三年二月十六日評議会」の朱書きあり本文に訂正あり 61 「財団法人斎藤報恩会学術研究補助費経理手順」 「昭和三、二、一六評議会」の朱書きあり 62 「会計規則字句修正ノ件」 1928(昭和 3 )年 2 月22日付 「財団法人斎藤報恩会会計規則」の本文に訂正あ り。会計規則は「原案」と書き込みのあるものの 2 部ある 63 「寄附行為」 64 「諸費用支出ニ関スル件」 1928(昭和 3 )年 2 月22日付 65 「地方学校長ヘ依託セル預金利子ニ関スル件」1928(昭和 3 )年 4 月12日付 66 「寄附行為一部変更の認可について」 1952(昭和27)年 4 月14日付宮城県教育委員会の認可書あり 67 「本会事務所移転についての報告」 1952(昭和27)年 4 月27日付 68 「登記簿抄本」 69 認可書の写し 1952(昭和27)年 4 月14日付 70 「評議員会議事録写」 1952(昭和27)年 3 月20日の書面審議の内容 71 斎藤株式会社の資料 1923(大正12)年 7 月28日付 72 財団法人の寄附行為の例 73 「財団法人斎藤報恩会寄附行為」 74 「財団法人斎藤報恩会要覧(昭和43年度)」 75 「旅費支給規定改正案」
2 . 2 .「財団法人斎藤報恩会」の訳語についての通知 1925(大正14)年 9 月 8 日付の学術研究総務部から学術研究助成を受けている研究者に宛て て出されたと思われる史料には、次のように書かれてあった。 大正拾四年九月八日 財団法人斎藤報恩会学術研究総務部 殿 「財団法人斎藤報恩会」ノ名称ヲ外国人ニ知ラシムル必要アル場合ニハ左ノ訳語ヲ用ユルコトニ相定候 “The Saito Gratitude Foundation”
従テ欧文研究報告等ニ同会補助ニ依ル旨ヲ記載セラルヽ場合ニモ同様御取計相成度其段御通知致候
こ の 史 料 に よ り、「財 団 法 人 斎 藤 報 恩 会」 の 正 式 な 英 語 表 記 は ”The Saito Gratitude Foundation” であり、研究者に通知されたのは1925(大正14)年 9 月 8 日であったことが明らか となった。
『斎藤報恩会事業年報』において英文の “Annual Report of The Work” が掲載されるのは1928 (昭和 3 )年の第 3 巻からである。その表紙においては “Saito Ho-on Kai” の名称の下に(The
Saito Gratitude Foundation)と括弧書きでこの英文の財団名が記載されているが、この表記は その後も変わることはなかった。これらのことから、「財団法人斎藤報恩会」の英語表記は正式 には ”The Saito Gratitude Foundation” であり、研究者にはこの表記を使用するように依頼した ものの、徹底されることはなかったといえよう。 2 . 3 .学術研究費補助申請締切日の変更通知 1925(大正14)年 6 月26日に学術研究総務部より学術研究助成を受けている研究者に宛てて 出されたと思われる史料には、次のように書かれてあった。 大正拾四年六月二十六日 財団法人斎藤報恩会学術研究総務部 殿 本日学術研究関係者ノ会合ニ於テ左記ノ件協定相成候ニ付御承知被下度其段御通知致候 記 一学術研究総務部出版規定備考一ノ研究報告ハ邦文ノ分ニ限リ本年八月十五日マテニ提出セラレタキコト 二学術研究費補助ノ申込ハ自今毎年十二月末日限ノコト この史料により、研究報告については大正14年度は邦文と英文で提出締切日を分けていたこ と、学術研究費補助の申込締切日を12月末日と明確に定めたのは、学術研究総務部が設置され たのと同じ 6 月であったことがわかる。またこれらの内容は理事会や評議員会で決められたの ではなく、「学術研究関係者」の「会合」で決められたものであったが、その「会合」の参加者 については明らかになっていない。
2 . 4 .「学術研究者ヘ通牒案」 1925(大正14)年10月に学術研究総務部から学術研究補助を受けた研究者への通知文と思わ れる「学術研究者ヘ通牒案」1)には、次のように書かれていた。 学術研究者ヘ通牒案 大正十四年十月 日 学術研究総務部 研究者宛 今般財団法人斎藤報恩会評議員会ノ決議ヲ経テ同会補助ニ依ル学術研究ニ関スル規定ヲ定メラレ候趣ハ 同会ヨリ御通知致候筈ニ有之候処該規定ノ実施ハ当総務部ニ委託相成間御承知相成度就テハ貴下ノ既ニ 取得セラレタル図書機械器具其他ノ物品ノ寄附先若クハ寄贈先承リ置度候間別紙はがきニテ御回答煩ハ シ度此ノ●得貴意候 (参照) 斎藤報恩会ノ補助ニ依ル学術研究ニ関スル規定(抄) (規定第一条及第二条記載ノコト) これは評議員会の決議を経て決まった学術研究に関する規定により、学術研究助成を受けて 購入した図書や機械、器具その他の物品の寄附先もしくは寄贈先を通知するよう依頼するもの で、備品調査を行ったといえる。 2 . 5 .大正14年10月10日付学術研究総務部よりの通知文 1925(大正14)年10月10日に学術研究総務部から学術研究補助を受けた研究者への通知文と 思われる史料には、次のように書かれていた2)。 大正十四年十月十日 財団法人斎藤報恩会学術研究総務部 殿 斎藤報恩会ノ学術研究費補助ニ依リテ成レル業績ヲ総務部以外ニ於テ出版スル場合ニ関シテハ出版規程 第四条ニ定メラレ候処予算等ノ都合モ有之候ニ付左記ノ通御含置相成度念ノ為メ申進候 記 一別刷ヲ注文セラルヽ場合予メ論文ノ題目、雑誌ノ名並ニ掲載ノ時期ヲ当部ニ通告セラルヽコト 二 当部ニテ購入スル別刷ノ部数ハ当分邦文ノモノハ四百部、欧文若クハ邦文ニ欧文要旨ノ附載セラレタ ルモノハ七百部ノコト これは別刷の購入に関する通知であるが、邦文と欧文で購入部数に大きな差があったことが わかる。 ここまで紹介したように、『法人関係書類』には、学術研究総務部に関わる史料が多く綴じら れていた。学術研究総務部の設置が認められたのは1925(大正14)年 4 月30日の第 1 回評議員 会でのことである。 5 月20日の第 3 回評議員会で学術研究総務部規程が承認され、 6 月に畑井 新喜司が部長に就任した。畑井が部長に就任して以降、 6 月26日に研究報告の提出及び学術研
究補助申込の締切日について、 9 月 8 日に斎藤報恩会の英訳について、10月10日に研究成果の 出版について、日付は明確ではないが10月に購入物品の寄附先や寄贈先についてなど、学術研 究総務部は短い期間に財団法人の運営に必要な細かい事項を次々と定め、決定事項を助成を受 けている研究者たちに通知していたことがわかる。学術研究総務部は畑井の他は会計担当者と 書記が中心であるため、さまざまな決定事項は畑井自身によるものと考えてよいであろう。 3 .「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」の変遷 3 . 1 .「第二回案」における修正 先に述べたように、『法人関係書類』には「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」の原稿が 5 部存在している。「第二回案」と書き込みがされている「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細 則」は次のような内容であった3)。 設 第一条 本会ニ於テ施行○又ハ補助スル寄附行為第二条ニ該当スル事業ハ以下各条ノ規定ニヨリ之ヲ処理 ス 第二条 前条ノ事業ニ該当スルモノニシテ本会ノ施設ハ寄附行為ノ定ムル所ニヨリ補助ヲ求メムトスル モノハ第一号様式ニヨリ書面ヲ作成シ本会ニ申込ムヘシ但シ申込期限ハ其ノ年二月末日限トス 前項ノ申込ハ本会理事若クハ評議員会ノ紹介アルヲ要ス 第三条 前条ノ申込書ニハ左記各号ノ書類ヲ添付スヘシ 一、事業ノ目的、計画及其ノ説明書 二、収支予算、調書 三、事業ノ維持并ヒニ監督方法 四、事業ノ責任者及関係者ノ住所職業氏名 五、事業経営責任者ノ履歴書 六、理事又ハ評議員ノ紹介書 既ニ着手シタル事業ニアリテハ前項各号ノ外事業ノ沿革経過ニ関スル詳細ノ説明書ヲ添付スル ヲ要ス 第四条 本会ハ第二条申込ニヨリ調査ヲ遂ケ諾否ヲ決定シタルトキハ直ニ申込者ニ通知スルモノトス 第五条 前条承諾ノ通知ヲ受ケタルモノハ通知受領ノ日ヨリ二週間以内ニ第二号様式ニヨル契約ニ関ス ル手続ヲ開始スヘシ 前項契約ノ手続ハ事務所ニ就キ承合スヘシ 第六条 左ノ各号一ニ該当スルモノト認メタルモノハ補助契約ノ成立後ト雖モ契約ノ履行ヲ停止若クハ 中止又ハ契約ヲ取消スコトアルヘシ 一、当初申込契約期間内ニ事業ニ着手セサルモノ 二、事業ノ目的性質カ当初ノ申込ニ相違セルモノ 三、事業ノ将来見込ナキモノ 四、本会ニ対シ欺罔又ハ不正ノ所為アルモノ」 第七条 本会ニ於テ支給スル補助ハ金員ヲ主トスルモ場合ニヨリ物品ヲ以テスルコトアルヘシ 欺罔又ハ不正ノ行為アル為メ 第八条 第六条第四号ニ依リ契約ヲ取リ消サレタルモノハ既ニ支給ヲ受ケタル金員物品ノ全部ヲ返納ス ヘキモノトス
前項ノ場合ニ於テ返納スヘキ物品カ既ニ消耗若クハ毀損セラレタル場合ハ原価ヲ以テ返納スヘ キモノトス 第九条 本会ノ補助ヲ受ケタルモノハ一年二回以上適当ノ時期ニ於テ左記各号ノ事項ヲ報告スヘキモノ トス 一、収支計算ノ詳細 二、事業ノ経過及成績 第十条 本会ノ補助ヲ受ケタル事業ノ経営者ハ左記各号ノ場合ニ在リテハ即時報告スヘキモノトス 一、事業ノ成績意外ニ良好ナルトキ 二、事業ノ成績不良ニシテ予期ノ効果ヲ収メ得サルノ虞アルトキ 第十一条 本会ノ補助ヲ受ケタル事業ノ経営者ハ何時ニテモ其ノ事業ノ内容実質ニ関シ調査検閲ヲ受ク ルノ義務アルモノトス 前項ノ調査検閲ハ調査員ノ派遣又ハ特別調査書ノ提出ニ依ル 第十二条 本会ノ補助ヲ受クル事業経営者ハ補助金品収支明細簿ヲ調製シ其ノ収支ヲ詳細明瞭ニ記帳ス ヘシ 第十三条 本則第六条ニヨリ契約履行ノ停止又ハ中止若クハ取消ヲ受ケタルニヨリ事業経営者ニ於テ損 害ヲ生スルコトアルモ本会ハ一切賠償ノ責ナキモノトス 第十四条 本会ノ施設又ハ補助ヲ要求スルモノハ総テ本会寄附行為并ニ本施行細則ヲ了知シタルモノト ス 附則 第十五条 本施行細則ハ評議員会ノ決議ヲ経テ変更スルコトヲ得 「第二回案」では、第 1 条と第 2 条、第 8 条、「附則」の第15条において修正が加えられた。 第 1 条の修正は「施行」を「施設」に変更したもので、第 2 条において使用された「施設」と 表現を統一するための変更であったと考えられる。第 2 条の修正は申込期限の削除で、当初は 補助申込の期限を 2 月末としていたことがわかる。第 8 条の修正は表現のみの変更で、内容的 には変更がないといえる。「附則」の第15条の修正はこの条文の削除であり、施行細則の変更方 法について何らかの意見が交わされたことがわかるが、詳細については不明である。 3 . 2 .「第三回原稿」における修正と「第三回案」 「第三回原稿」と書き込みがされている「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」の内容は次 のようなものであった4)。 第一条 寄附行為第二条ニ該当スルモノニシテ本会ニ於テ施設又ハ補助スル事業ハ以下各条ノ規定スル 所ニ拠リ之ヲ処理ス 第二条 前条ノ事業ハ左ノ形式ニ拠リ之ヲ行フ 一、本会ノ直接施設 二、本会ノ間接施設 三、補助 第三条 本会ノ直接施設ハ理事会ニ於テ起案シ評議員会ノ議決ヲ経テ之ヲ行フ 第四条 本会ノ間接施設ハ理事ニ於テ官公署学校公共団体等ト協議上起案シ評議員会ノ議決ヲ経テ之ヲ 行フ
第五条 本会ノ補助ヲ受ケントスルモノハ第一号様式ニ拠ル書面ヲ添ヘ本会ニ申込ムヘシ 前条ノ申込書ハ理事又ハ評議員会ノ紹介アルコトヲ要ス 第六条 前条ノ申込書ニハ左記各号ノ書類ヲ添付スヘシ 一、事業ノ目的計画及其説明書 二、収支予算及其説明書 三、事業経営責任者ノ履歴書 四、理事又ハ評議員ノ紹介書 既ニ着手シタル事業ニアリテハ前項各号ノ外事業ノ沿革経過ニ関スル説明書ヲ添付ス コト ルヲ要ス 第七条 本会ニ於テ第五条ノ申込ヲ受領シタルトキハ理事ニ於テ調査ヲ遂ケ評議員会ノ議決ヲ経ベシ メタ 及 更ニ詳細ナル 第八条 理事又ハ評議員会ニ於テ必要アリト認ムルトキハ第四条第五条ノ事業ニ関シ調書又ハ説明書ノ 提出ヲ求ムルコトアルベシ 及 ニ スル 経営 第九条 本会ニ於テ第四条第五条該当ノ事業ヲ決定シタルトキハ其旨ヲ事業施行者ニ通知スルモノトス 者 ナ 第十条 前条ニ依り補助ノ通知ヲ受ケタルモノハ速ニ第二号式ニ拠リ契約ノ手続ヲ履行スヘシ 及 報告 コト 第十一条 第四条第五条ノ事業経営者ハ毎年一回本会ニ対シ左ノ様式ヲ提出スルヲ要ス ノ 一、事業経過及成績 二、経費収支ノ状況 メタル 予期以上ノ成績ヲ収メタリト認ムルトキ又ハ成績不良ニシテ予期ノ効果ヲ収メ難シ シ ト認メタルトキハ即時報告スヘキモノトス ス 第十二条 本会ノ事業経営者ハ本会ノ求メニ依リ事業ノ内容実質等ノ調査ニ応シベキ義務アルモノトス 経費 第十三条 本会ノ事業経営者ハ補助金員ノ収支ヲ明瞭ナラシムヘキ帳簿ヲ整備スベシ 議決 第十四条 本会ハ場合ニ依リ評議員会ノ決議ヲ経テ事業ノ執行ヲ停止シ中止シ又ハ補助契約ヲ ス 取消シコトアルヘシ 議決 前項ノ場合ニ於テハ事情ニ依リ評議員会ノ決議ヲ経テ既ニ交附シ又ハ補助シタル金 ヲ セシ 品ノ返納ヲ求ムルコトアルベシ 本会ハ 第十五条 前条ノ場合ニ於テ事業経営者ニ損害ヲ生スルコトアルモ本会●其賠償ノ責ニ任セス
ノ 及此ノ 者 看做 第十六条 本会事業経営者ハ総テ本会寄附行為並ニ本細則ヲ了知シタルモノトス 第十二条 本会ニ於テ事業ノ内容、実質等ニ関シ調査スルノ必要アリト認メタルトキハ事業経営者ハ本 会ノ要求ニ応シテ調査上一切ノ便宜ヲ提供スルノ義務アルモノトス 第十三条 (本会ノ)事業経営者ハ経費ノ収支ヲ明確ナラシムカ為ニ必要ナル書類ヲ保存シ相当ノ帳簿ヲ 備フヘシ 書き込まれる前の内容は「第二回案」を受けて修正されたものと考えられるが、「第二回案」 からかなり変更が加えられている。まずはこの変更についてみてみる。第 1 条においては「第 2 回案」の第 1 条の表現は変更されているものの、その内容に大きな変更はない。第 2 、 3 、 4 条については新たに設けられたもので、行う事業の「形式」を「本会ノ直接施設」、「本会ノ 間接施設」、「補助」の 3 つに分類し、定義したものである。第 5 条は修正された「第 2 回案」 の第 2 条とほぼ同様の内容である。第 6 条は「第 2 回案」の第 3 条の表現を変更し、「三、事業 ノ維持並ヒニ監督方法」、「四、事業ノ責任者及関係者ノ住所職業氏名」を削除したものである が、申請の際の提出書類を絞っていった過程がわかる。第 7 条は「第 2 回案」の第 4 条を修正 したもので、この変更により学術研究費補助の採否についての方法がより具体的になった。第 8 条は新たに設けられたもので、申請者に申込書の充実を暗に求める内容となっている。第 9 条と第10条は「第 2 回案」の第 7 条を 2 つに分けた内容で、大きな変更点としては当初 2 週間 以内に契約手続きを履行することと明確に期限を設定していたのを「速ニ」と幅を持たせたと ころである。第11条は「第 2 回案」の第 9 条及び10条の内容に修正を加えたもので、この変更 から事業の進捗状況や補助金の収支報告を年 2 回から年 1 回に変更したこと及び補助金の収支 より事業の進捗状況を重視していたことがわかる。後半の部分は「第 2 回案」の第10条の内容 とほぼ同じ内容である。第12条は「第 2 回案」の第11条に修正を加えたもので、第 2 回案の具 体的な調査方法が省略された。第13条は「第 2 回案」の第12条の表現を変更したもので、内容 に大きな変更はない。第14条と第15条は「第 2 回案」の第 6 条、 8 条、13条を 2 つに分けた内 容で、大きな変更点は「欺罔又ハ不正」がある場合に「金品ノ返納」を明言していたものが、「金 品ノ返納ヲ求ムルコトアルベシ」とその可能性があるという表現に和らいだことである。第16 条は「第 2 回案」の第14条の表現を変更したもので、内容に大きな変更はない。 次に、「第三回原稿」における書き込み部分の変更についてみてみる。取り消し線が第 9 、 10、11、14、15、16条は赤、第12、13、14条は黒、第13条の「補助金員」と第14条の「決議」 は赤と黒であることから、訂正は一度に行われたのではなく、複数回に分けて行われたものと 考えられる。いずれの訂正も語句や表現の訂正に止まっている。第12条と13条の訂正は全面的 なものではあるが、その内容は事業内容等についての調査が必要であると判断されたときには 調査に便宜を計る義務があることと、帳簿の整備をしておくことの 2 点について詳しく書き直 したものであるといえる。 「第三回原稿」のすぐ後に綴じられていたのが「第三回案」であるが、これは「第三回原稿」 の書き込み部分の訂正を反映して新たに書き直したもので、第13条の「(本会ノ)」が削除され た他、新たな訂正はなかった。
3 . 3 .「第四回案」における修正 「第四回案」は「第三回案」を修正したものである。「第四回理事会決議」と書き込まれてい ることから、書き込まれている部分は第 4 回理事会において指摘を受けた部分であると考えら れる。修正された条文のみを次に示す。 区分 第二条 前条ノ事業ハ左ノ形式ニ拠リ之ヲ行フ 会 理事会ニ於テ 第四条 本会ノ間接施設ハ理事ニ於テ官公署学校公共団体等ト協議上起案シ評議員会ノ議決ヲ経テ之ヲ 行フ リ 第五条 本会ノ補助ヲ受ケントスルモノハ第一号様式ニ拠ル書面ヲ添ヘ本会ニ申込ムヘシ 項 前条ノ申込書ハ理事又ハ評議員会ノ紹介アルコトヲ要ス イキ 第六条 四、理事又ハ評議員ノ紹介書 会 第七条 本会ニ於テ第五条ノ申込ヲ受領シタルトキハ理事ニ於テ調査ヲ遂ケ評議員会ノ議決ヲ経ベシ ノ●● 第五条ニ●シ 第五条ノ事業ニ関シ 第八条 理事又ハ評議員会ニ於テ必要アリト認ムルトキハ第四条第五条ノ事業ニ関シ更ニ詳細ナル調書 又ハ説明書ノ提出ヲ求ムルコトアルベシ 様 第十条 前条ニ依リ補助ノ通知ヲ受ケタル者ハ速ニ第二号式ニ拠リ契約ノ手続ヲナスヘシ 後 及事業終了ノトキハ 第十一条 第四条及第五条ノ事業経営者ハ毎年一回本会ニ対シ左ノ報告ヲ提出スルヲ要ス 及 第十二条 本会ニ於テ事業ノ内容実質等ニ関シ調査スルノ必要アリト認メタルトキハ… 第十三条 事業経営者ハ経費ノ収支ヲ明確ナラシメムルニ カ為ニ必要ナル書類ヲ保存シ相当ノ帳簿ヲ備フヘシ 第十四条 本会ハ場合ニ依リ評議員会ノ議決ヲ経テ事業ノ執行ヲ停止シ×中止シ×又ハ補助契約ヲ 取消スコトアルヘシ 第十四条処理ガ本会ノ都合ニ基カサルトキ ニシテ 前項ノ場合ニ於テハ事情ニ依リ評議員会ノ議決ヲ経テ既ニ交附シ又ハ補助シタル金 ニ於テ 品ヲ返納セシムルコトアルベシ 第十五条 本会ハ前条ノ場合ニ於テ事業経営者ニ損害ヲ生スルコトアルモ其賠償ノ責ニ任セス 本会ハ
本 第十六条 本会ノ事業経営者ハ総テ本会寄附行為及其ノ細則ヲ了知シタル者ト看做ス 「第四回案」の修正も、書き込みが赤、黒、青のペンや鉛筆で行われていることから、複数回 に分けて行われたと考えられる。修正の多くは語句の訂正であったが、訂正内容から第 4 回理 事会において「理事又ハ評議員ノ紹介書」の添付の必要性を巡って議論があったことがわかる。 訂正から当初は「理事又ハ評議員ノ紹介書」は必要ないとされたのであったが、最終的には「イ キ」と原案通り紹介書の提出が必要となったのであった。 この「第四回案」の修正を反映したものは第 3 回評議員会に提出され、いくつか修正が加え られた。第 3 回評議員会における修正内容がわかる史料が一連の「財団法人斎藤報恩会寄附行 為施行細則」の史料で最後に綴じられている「第三回評議員会ニ於テ確定」と書き込みのある ものである。修正された条文のみを次に示す。 第七条 本会ニ於テ第五条ノ申込ヲ受領シタルトキハ理事会ニ於テ調査ヲ遂ケ評議員会ノ議決 ルモノトス ヲ経ベシ 第十一条 …予期以上ノ成績ヲ収メタリト認メタルトキ又ハ成績不良ニシテ予期ノ効果ヲ収 ト メ難シ認メタルトキハ即時報告スヘシ 第十六条 本会ノ事業経営者ハ総テ本会寄附行為及本細則ヲ了知シタルモノト看做ス この史料の修正は表現や誤植の修正であった。印刷された原文においては、第16条の「第三 回原稿」で「…了知シタル者ト看做ス」と訂正された部分が「…了知シタルモノト看做ス」に 再度戻されるなど、いくつか誤記と考えられる部分が確認できたが、内容そのものについての 訂正はなく、「第四回案」の内容がそのまま認められたのであった。 4 .おわりに 本稿では『法人関係書類』に綴られている史料を紹介し、「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行 細則」の変遷により明らかとなった斎藤報恩会の特質の一端について述べた。 斎藤報恩会の学術研究費補助事業に関して中心的役割を果たした学術研究総務部の設置が認 められたのは、1925(大正14)年 4 月30日の第 1 回評議員会でのことである。同年 5 月20日の 第 3 回評議員会で学術研究総務部規程が承認され、 6 月に畑井新喜司が部長に就任した。本稿 で紹介した史料により、畑井が部長に就任して以降、研究報告の提出及び学術研究補助申込の 締切日について、斎藤報恩会の英訳について、研究成果の出版について、購入物品の寄附先や 寄贈先の報告についてなど、学術研究総務部は学術研究助成財団を運営するのに必要な事項を 次々と決定して行き、助成を受けている研究者たちに通知文を送っていったことが明らかと なった。学術研究総務部は畑井の他は会計担当者と書記が中心であるため、これらさまざまな 決定事項は畑井自身によるものと考えられる。
「財団法人斎藤報恩会」の英文表記は “Saito Ho-on Kai” と ”The Saito Gratitude Foundation” の 2 つが知られているが、『法人関係書類』に綴られていた史料より、斎藤報恩会は ”The Saito Gratitude Foundation” の表記を研究者に求めていたことが明らかとなった。 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」は今回確認されただけでも 5 回の加筆修正が確認で きた。これらの加筆修正を通じて、条文は洗練されたものとなっていった。第 4 回理事会にお いて「理事又ハ評議員ノ紹介書」の添付の必要性を巡って議論があった。当初は「理事又ハ評 議員ノ紹介書」は必要ないと条文から削除されたのであったが、最終的には「イキ」と原案通 り紹介書の提出が必要となった。理事または評議員の紹介書が不要であるならば、才能はある ものの理事や評議員と面識がない人物であっても斎藤報恩会の補助を希望することができるこ とになり、より質の高い案件に対して補助を行えたであろう。斎藤報恩会は紹介書の問題点に ついて認識していたもののその点を克服できなかったのであるが、これが当時の限界であった といえるだろう。 「財団法人斎藤報恩会寄附行為施行細則」の加筆修正は、いつどのようにして行われたのか、 どのような議論がなされ、誰がどのような意見を出したのか等についてまで明らかにすること はできなかったが、東北大学史料館に寄贈された斎藤報恩会の史料等を精査することによって 明らかになるであろう。また、『法人関係書類』には「斎藤報恩会内規」の変遷を示す史料も存 在しているので、これらの史料を解析することにより、斎藤報恩会の特質がより一層明らかに なるであろう。 ―― 注 1 ) この通牒案にははがきの文面も書かれていたが本稿では省略した。 2 ) この史料には学術研究総務部のものと思われる角印が押されていた。 3 ) 以下各原稿において書き込まれた内容はゴシック体で示した。 4 ) 訂正の内、第11条の「様式」から「報告」の訂正は、原稿が印刷されたものに訂正を加えたのでなく、印 刷される前に訂正を加えたものであった。第16条の後の第12条と第13条は別紙に書かれて史料に綴じられ ていたもので、第12条と第13条の訂正が全面的であったため、別紙に書き直したものと考えられる。