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1.はじめに
保育者養成校に通う学生は、2年間で幼稚園教諭・保育士に必要な『弾き歌い』の技術を
習得しなければならない。ピアノ学習歴がほとんどない、もしくは、浅い、ピアノ技術自体
が未熟な学生がほとんどであるにもかかわらず、ピアノ技術だけでなく、歌唱も含まれる『弾
き歌い』の技術を習得しなければならない。学生にとっては、かなり大変な作業である。学
生だけでなく、養成校で学生の『弾き歌い』指導を担当している指導者にとっても大変困難
であると言える。多くの指導者が、これまでに養成校でのピアノ初心者への指導に関する研
究を行っており、カリキュラムの改善、副教材研究、指使いに関する研究等、様々なアプロ
ーチの仕方でピアノ初心者への学習支援を試みている。しかしながら『弾き歌い』指導につ
いては、それらだけでは十分であるとは言えない。なぜなら、『弾き歌い』には歌唱の要素
も含まれるため、ピアノ技術の向上だけでは十分な学習支援にはならないからだ。また、学
保育者養成校での『弾き歌い』指導に関する一考察
∼ 学生のピアノ技能に関する実態調査を中心に ∼
諸 井 サ チ ヨ
(2015年10月15日受理)
要 約
保育士・幼稚園教諭を目指す学生にとって、ピアノの演奏技術、そして『弾き
歌い』の技術は実習においても卒業後就職してからも多くの場面で必要である。
それは、学生自身も認識していることである。しかしながら、保育者を目指すほ
とんどの学生がピアノ技術に関しては初心者であり、読譜も容易でない状態であ
る事が調査結果から明らかとなり、2年という短期間で『弾き歌い』の技術習得
が大変困難であることがわかった。また、指導者側の問題としては、『弾き歌い』
指導の担当教員のほとんどがピアノを専門とする教育を受けてきているため、「歌
唱」という部分が指導に反映されにくいという問題も出てきた。本研究を通して、
今後、さらに学生の「歌唱」に関しての意識調査や研究が必要であり、指導者の『弾
き歌い』指導に関しては、指導法の研究が必要であること、それに基づいた指導
力の統一化が必要であることが明らかとなった。
キーワード ピアノ実技、初心者、読譜、歌唱、指導力
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生側のピアノ技術や意識がクローズアップされがちだが、指導者の指導力についても考える
必要があると感じる。
今回の調査・研究を通して、ピアノ初心者である学生がどういう状況にあり、どのような
問題を抱えているのか、また、『弾き歌い』を指導する指導者側の問題点は何であるのかを
明らかにし、今後の『弾き歌い』の学習支援、指導について改善点を見出したい。
2.方法
2-1:調査対象者の履修状況(音楽科目)
調査対象者は、2年間保育者養成校で学ぶ学生である。『弾き歌い』の技術習得に直接、
連携している音楽科目として、A大学短期大学部では、1年次に『音楽Ⅰ』、2年次に『音
楽Ⅱ』を開講している。『音楽Ⅰ』は保育士資格・幼稚園教諭二種免許取得のための必須科
目で全員が1年次で履修しなくてはならない。『音楽Ⅱ』は、選択必須科目で履修しない学
生も存在する。学生が2年目も選択すれば、2年間『弾き歌い』の技術を学べる状況にある。
2-2:調査方法
調査対象 A大学短期大学部1年生250名(平成27年4月入学)
回答者数 236名(回収率:94%)
調査期間 平成27年7月 前期講義内(科目:音楽Ⅰ)
調査方法 選択方式アンケート、一部自由記述を含む(無記名で実施)
調査項目 〈入学前のピアノ学習歴〉、〈学習環境〉、〈練習時間〉、〈保育者に必要なピア
ノ技術〉他 詳細については、以下に述べる。
※調査結果の公表は了承を得ている。
3.結果
3-a 入学時点でのピアノ学習歴(図1)
まず、学生のピアノ学習歴について、A大学短期大学部では、入学時点でピアノ初心者の
割合が、ピアノの経験が「全くなし」と「3年未満」を合わせると全体のおよそ70%にも
及んでいた。「3年未満」と回答した学生の中には、幼い頃に数ヶ月から数年習っていた場
合もあれば、保育者の道を目指し始めたためピアノ学習の必要性を認識し、入学直前から個
人的に習い始めた場合もあった。
全体の約30%のピアノ学習経験が「5年以上あり」と回答した学生のうち、約8割が途
中でピアノ学習をやめていることがわかった。その理由として多くあげられていたのが、「部
活を始めるようになり、時間的に困難になった」というものである。次に多かったものは、「受
験勉強や塾通いが忙しくなった」であった。「ピアノが合っていなかった」という回答もあり、
ピアノ学習に気持ちが向かなくなってやめる場合もあるが、多くの場合は、中学生以降、部
3
活や受験の大変さ、忙しさでピアノ学習の優先順位が低くなり、ピアノ学習をあきらめると
いう選択に至っている事がわかった。
3-b ピアノの学習環境(図2)
ピアノに限らず楽器の練習には、それに相応しい
場所の確保が必要である。電子ピアノであれば音量
を調節することやヘッドフォンを使用することで、
ある程度騒音の問題も回避されるが、音の出る楽器
の練習には神経質にならざるを得ない。弾き歌いの
練習ともなると、声に出して歌いながらの練習にな
るため、騒音に関して自宅周辺への配慮はさらに神
経質になるものである。〈ピアノの練習場所につい
て〉の調査では、70%の学生が「自宅」と答えた。
3-c 所有楽器(図3)
〈自宅に練習する環境はあるか〉の調査では、電
子ピアノを所有している学生が136人と最も多かっ
た。キーボード等も含めると、自宅に練習するため
の楽器が備わっていると答えた学生は219人で、全
体の90%に及んでいた。
3-d ピアノ学習の頻度(図4)と1回当たりの練習時間(図5)
ピアノ学習の頻度については、週に2∼3回と回答した学生が157人と最も多かった。少
数ではあるが、週に4回以上と回答した学生が19人いた。試験前のみ(2人)やレッスン
日前日や当日のみ(24人)と答えた学生も存在している事がわかった。
1回当たりの練習時間については、30分程度と回答した学生が94人と最も多かった。15
分程度と30分以上の割合が27%と同じ割合であった。
図3 所有楽器
電子ピアノ
58%
電子ピアノ
58%
その他
5%
その他
5% 無し2%無し2%
アップライトピアノか
グランドピアノ
15%
アップライトピアノか
グランドピアノ
15%
キーボード
20%
キーボード
20%
図2 ピアノ学習環境
自宅
70%自宅
70%
両方
22%両方
22%
学校 8%
学校 8%
図1 ピアノ学習歴
3年以上5年未満
6%
5年以上
29%
5年以上
29%
途中でやめた
23%
途中でやめた
23% 現在も続けている
6%
現在も続けている
6%
3年未満
27%
3年未満
27%
全くなし
38%
全くなし
38%
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3-e ピアノの自主学習に消極的な理由(図6)
ピアノ学習の頻度や1回当たりの練習量の調査結果から、ピアノの自主学習に消極的な学
生がいる事が判明したが、その理由として多かったのが、「アルバイトが忙しい」(24人)で
あった。アルバイトがある場合、授業後の練習は時間的に困難で、帰宅時間も遅くなるため、
帰宅後の自宅での練習も厳しい状況だ。その他には「自宅にピアノがない」というものや「読
譜に時間がかかる」という回答もあった。
3-f ピアノに対する意識(表1)
ピアノに対する意識調査では、「得意」と答える学生より「苦手」と答える学生が大変多く、
ピアノに対する苦手意識が根強いという結果がでた。「練習してもなかなか上達しないので
もどかしい」と感じている学生もいたが、「弾けるようになると楽しいと感じる」と回答し
た学生が138人いた。
3-g ピアノが上達するためには(表2)
〈ピアノが上達するためにはどうしたらよいか〉との問いに、「たくさん練習する」と回答
した学生が179人に達し、ピアノ技術の上達には練習量が大きく影響するという事を理解し
表1 ピアノに対する意識
(人)
苦手 36
得意 13
弾けたら楽しい 138
なかなか上手くならないのでもどかしい 8
ピアノが嫌いだ 2
その他 32
回答無し 7
図4 ピアノ学習の頻度
週2~3回
67%
週2~3回
67%
週4回以上
8%
週4回以上
8%
試験前のみ
1%
試験前のみ
1%
レッスン前日か
当日のみ
10%
レッスン前日か
当日のみ
10%
週1回
14%
週1回
14%
図5 1回当たりの練習時間
15 分程度
27%
15 分程度
27%
30 分程度
40%
30 分程度
40%
回答無し
2%
回答無し
2%
30 分以上
27%
30 分以上
27%
10 分以内
4%
10 分以内
4%
図6 自主学習に消極的な理由
アルバイトで時間が無い
52%
アルバイトで時間が無い
52%
自宅に
ピアノが無い
17%
自宅に
ピアノが無い
17%
ピアノが嫌い
7%
ピアノが嫌い
7%
音符を読むのに
時間がかかる
17%
音符を読むのに
時間がかかる
17%
その他
7%
その他
7%
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ている学生が多くいた。少数ではあるが、「自宅にピアノの学習環境(楽器)が必要」と答
えた学生も存在しており、ピアノ技術の上達には、練習環境と練習量、両方が必要で、それ
らが揃えばピアノ上達の近道になると認識しているということがわかった。
3-h レッスン形態
A大学短期大学部では、器楽(ピアノ)のレッスンに関しては、個人レッスンではなく
1グループ8人程度で構成されたグループレッスン形式でおこなっている。一人当たりのレ
ッスン時間が実質10分程度になるため、指導者の立場としては、1グループの人数が多す
ぎると感じるのだが、この調査では、「1グループの人数が多すぎる」と回答した学生は、
21%(50人)で、76%(179人)の学生が「1グループの人数は適切である」という認識
をもっていることがわかった。指導者側と学生とでは認識が異なっていた。
3-i 保育者はどの程度ピアノを弾ければよいか(表3)
〈保育者にとってピアノ技術はどの程度必要なのか〉という調査の結果、「上手に弾けた方
がいい」と「上手でなくてもいいが、簡易伴奏ができる程度の技術は必要」と回答した学生
を合わせると223人もいた。保育者にはある程度のピアノ技術が必要であるという認識をも
っているということだ。ほとんどの学生がそのように考える中で、大変少数ではあるが、「ピ
アノ技術は必要ない」「ピアノが弾けなくても歌が上手に歌えればよい」と考える学生もいた。
表2 ピアノが上達するには
(人)
たくさん練習する 179
自宅にピアノ等、練習環境が必要だ 17
小さい頃から習う必要がある 4
大学以外でも個人的にレッスンに通う方がいい 1
その他(複数回答) 30
回答なし 5
表3 保育士に必要なピアノ技術
(人)
上手に弾けた方がいい 97
上手でなくてもいいが、簡易伴奏程度は弾けた方がいい 126
ピアノが弾けなくても歌が上手ければいい 5
全く弾けなくても保育に支障はない 1
回答なし 7
6
4.考察
ピアノ歴に関しては、同じ年数を習っていても、習っていた時期、ブランクの長さの違い
で入学時点でのピアノ技術に差が生じている。幼い頃にピアノを習っていても数年のブラン
クがある場合、読譜もかなり困難な状態になり、特にヘ音記号の音域の読譜に大変弱くなっ
てしまう傾向が見受けられる。読譜が得意かそうでないかが、後のピアノ技術習得に大きな
影響を与えている。また、5年間もピアノ学習経験があるため、ある程度は技術も備わって
いたであろうが、中にはブランクが長すぎてしまい、入学時点では、ほぼ初心者のような状
態に戻っている学生も見受けられる。
自宅でのピアノ学習において、実際、近隣住民から苦情を受けたという声もきかれた。苦
情を受けた後では、自宅での練習に消極的になると推察される。楽器の中でも特に金管楽器
や歌は、一般的に「うるさい」というイメージがあるように楽器の練習においては騒音の懸
念が家庭での練習を消極的にしている一因にもなっていると考えられる。学内には防音設備
の整った練習室が十分に備わっているが、アンケート結果からもわかるように授業後に学内
に残り練習室を利用する事は、体力的にも時間的にも難しいであろう。アルバイトをしてい
る学生はなおさら授業後の練習時間確保が困難であると推察される。
ピアノの自己学習は「自宅で」行っていると回答した学生が全体の70%であったが、自
宅に楽器を所有している事が、その割合につながったと推察できる。学校でなくても、夜間
の時間的制約や周辺への騒音問題がなければ自宅で十分ピアノの自己学習ができるという事
がわかる。
学習頻度の問いでは、週に2∼3回の学生が多く、週に4回以上と回答した学生も少数で
はあるが19人おり、個々に様々な事情があるにもかかわらず、前向きに練習時間を確保し
ようとしている姿勢がみられた事は今後の学習支援につながる有益な結果と言える。また、
練習時間の問いで30分程度という回答が多かったが、ピアノ技術の修得に30分という時間
が十分であるかそうでないかという問題が生じてくるであろう。ピアノ学習に限らず、芸事
の類は出来る限り毎日継続する事が重要となるため、30分練習してもそれが週1回の場合
と、15分程度でもそれを毎日続ける場合とでは、最終的な成果にかなり差が生じると言える。
自己学習に繋がる意欲の面では、特に音符を読むのに時間がかかる場合、実際にピアノに
触るまでに、音符に音名をひとつひとつ書き込んでいく作業が必要となる。幼児歌曲は1曲
が時間的に短いものも多いが、簡易伴奏の曲でも右手のメロディーと左手の和音全てに音名
を書き加えていく作業は読譜が苦手な学生には、多くの時間を必要とする作業になる。その
作業が学生にピアノ学習は 面倒くさい という印象を与え、自主学習のやる気を減退させ
ていると推察される。ピアノ技術の修得は毎日コツコツ練習してもすぐに成果があらわれな
いため、ピアノ学習を前向きに受け止めるのが難しいようだ。しかし、「弾けるようになる
と楽しいと感じる」と回答した学生が138人もいることがわかり、根気のいる反復練習や時
間のかかる読譜を克服して弾けるようになれば苦手なピアノも楽しいと感じるのではないか
と考えている学生もいることがわかった。こういう気持ちが、さらに難しい曲や自分の弾き
7
たい曲に挑戦する意欲に繋がると考えられる。
4-1.読譜と指番号
調査結果からもわかるように、「読譜」が容易にできるかそうでないかがピアノ学習に前
向きになれるかそうでないかに大きな影響を与えている。音符が読めないまたは音符を読む
のに時間がかかる場合、ピアノの練習に入る前に時間をかけて楽譜に音名を書き込む作業が
必要になるため、すぐにピアノに向かうことが出来ない。そのため、ピアノ学習から遠ざか
ってしまう傾向にあるようだ。読譜に時間がかかる=ピアノ学習が面倒だと思うようになっ
てくると考えられる。
授業内で、学生に、楽譜にはなるべく音名を書き込まないように指導しているが、読譜力、
音楽的基礎力に乏しい学生ほど、楽譜に音名を書き込む事に頼らなければならない状況に陥
っているのが現状である。音名を書き込むと、実際にピアノを弾く際、音符を見ながら弾く
ということをせずに、自分で書き込んだ音名だけを見て弾いてしまう。そのため、音符を視
覚的に認識しないので、音符がいつまで経っても読めるようにならないという弊害が起きて
しまう。「音符が読めない→読譜に時間がかかる→ピアノを弾く際、音符でなく書き込んだ
音名(文字)だけを頼りにする→いつまで経っても音符がスラスラ読めるようにならない→
読譜が面倒になり、ピアノ練習が嫌いになる」という連鎖に陥る傾向が見受けられる。また、
書き込んだ音名には音の高低やリズムを示す事はしないため、実際の楽譜に書かれてある音
の高さとは全く違う高さで弾いてしまったり、和音の場合は音を重ねる順番を逆さにして書
き込んでしまったり、またはリズムが違ってしまったりといった現象も起きてしまう。さら
に、書き込んだ音名が間違っている事にも気づかないまま弾いてしまい、間違った音のまま
覚えてしまう。それを直そうとしてもなかなか直らないという状態になってしまう。音名を
音符上にあらかじめ表記した楽譜も出版されているほどなので、読譜は一般的にできない人
が多く、そのようなニーズが多くあるという事なのであろう。楽譜に音名を書き込む事は初
心者には必要な時もあるが、その方法を続けていると読譜力はなかなかついてこないのが現
状である。
「評論家筋の先生方が 読譜をあまり強いるとピアノ嫌いになる心配があるのでほどほど
に なんておっしゃるけれど、これはまるで逆で、音符が読めないからピアノ嫌いになると
言いたいぐらい」1)と著書で大村典子が述べているように、読譜力がピアノ学習に影響を及
ぼし、ピアノ嫌いの原因になっていると言えるであろう。
指番号については、ピアノ初心者には運指の助けになるため、大変有効である。指番号が
既に書き込まれてある楽譜も多く出版され、指使いの重要性についてはピアノを経験したこ
とのある者なら当たり前のように理解されている事だ。しかし、中には読譜と同じく、指番
号だけを頼りに演奏する学生もいて、指番号表記がピアノ学習の妨げになってしまっている
のではないかと考えられるような現象も起きている。音符の読みが出来ない状態で指番号だ
けを見て、ピアノを弾く癖がついてしまう。そのため、指番号の1はド、2はレといった認
識が固定化されてしまい、ハ長調以外の調性の曲やドが1番から始まらない運指の曲の場合、
8
臨機応変に対応できないのだ。
結局は、音符が読めないために起きる弊害であり、読譜はピアノ学習にとって大変大きな
問題であることがわかる。
4-2.歌唱
『弾き歌い』を行う上でもう一つ必要不可欠な要素は、歌唱力である。様々な幼児歌曲の
ピアノ伴奏を保育に必要程度おこなう事ができても、歌唱に問題が生じれば、『弾き歌い』
として成り立たない。当然、ピアノもある程度弾けるようにならなければ、歌をつける事も
できないため、歌とピアノ両方をバランスよく学んでいく必要がある。
保育の場面では、子どもたちの歌いやすい速さ、楽曲に相応しい伴奏型で、寄り添うよう
に歌いながら演奏する事が望まれる。そのため、養成校での2年間のピアノ実技を含む音楽
科目の学びの最終目的は、技術面では、ピアノ技術の向上だけでなく、保育に十分な歌唱力
を身につける事でもある。歌唱については、保育の場面では、弾き歌いだけでなく、手遊び
やパネルシアター等でも必要となる。要するにピアノを弾いていない場面でも歌うことが求
められるのだ。歌唱は、ピアノ学習と違い、楽器が自分自身になるので、それぞれに難しさ
や問題点が違ってくる。口が大きく開かない、緊張して声が震えてしまう、幼い頃音痴だと
言われそれ以来歌が苦手になった、高い声が出にくい、声がかすれている、小さい声しかで
ない、音程がとりにくい等、歌唱を難しいと思う原因や歌唱がうまくいかない原因は様々で
ある。原因解消のためには、個別対応で丁寧に指導する事が必要となる。手遊び等では、無
伴奏でしっかり歌いながら行う事が求められるので、歌唱がうまくいかない学生、苦手な学
生、声が出にくい学生にとっては、子ども達の前で十分に歌唱ができないので、自信喪失に
もつながってしまうという問題もある。ピアノのテクニックだけでなく、歌唱技術の修得に
も問題が多いと言える。
4-3.指導の問題点と改善点
養成校で、ピアノ実技等、レッスン科目を担当している教員の多くは、ピアノの専門家で
ある。そのため、レッスンでは弾き歌いの指導というよりテクニック、読譜、指使いに注目
した指導になりがちだ。ピアノの技術向上だけに終始してしまうレッスンになってしまう。
それは必要な事であるが、テクニックだけに注視してしまうと、学生の学習意欲をなくして
しまう事につながってしまう場合もあるようだ。学生は、入学すれば、保育に必要な「おは
よう」や「おかえりのうた」等の生活関連の歌や季節の歌を中心に楽しく学べると思ってい
る。しかし、実際は、音階やバイエル等の練習曲も取り入れられている場合が多く、ピアノ
学習が入学前に想像していたものと違っているというマイナスな印象で受け止められてしま
う。また、弾き歌いの技術習得であるのに、ピアノのテクニックの部分にばかりアドバイス
を受けるので、歌う事が後回しになってしまい、結局、純粋にピアノだけのレッスンを受け
ているような気持ちになり、気がすすまなくなってしまう。初心者には運指や読譜が必要で、
まずはピアノのテクニックからという指導になるのだが、その割合が大きければ大きいほど、
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学生のピアノに対しての取組み方や姿勢が後ろ向きになってしまう場合が多い。
指導者側は、限られたレッスン時間の中で、「弾きながら歌う」という通常のピアノレッ
スンではあまり行なわない指導をしなくてはならない。そのため、時間配分や歌唱とピアノ
のバランス、ピアノテクニックと、すべての内容において指導が間に合わないのが現状であ
ろう。さらに、歌唱力もピアノと同じ程度、技術が備わっている教員が少ない点にも問題が
あると言える。歌唱もしっかり声に出して行える技量を持ちあわせた教員が弾き歌いの科目
を担当する事ができれば、学生も担当教員が手本をみせる事で楽曲をイメージしやすいと考
えられる。弾き歌いの指導がピアノだけの指導ではないので、レッスン運営のやりにくさが
あると思うが、やはり、『弾き歌い』が出来るようになるためのレッスンであるという事を
教員が常に認識する必要があると言える。
5.まとめ
今回の実態調査で、学生が様々な事情がある中で、自分なりに努力し、保育者に必要な音
楽的基礎力、ピアノ技術、歌唱力を修得しようと前向きに取組み、学びたいという意識で授
業に臨んでいることがわかった。
アンケートの自由記述欄には「ピアノは大切だ」「実習までには簡単な伴奏でも弾けるよ
うになりたい」「もっと上手になりたい」「もっと練習しようと思う」「自分のものになるよ
うにしたい」「空き時間にちょっとでも練習する事が大切」「苦手意識を克服したい」「弾き
歌いが上手になるように頑張りたい」等、ピアノ学習、弾き歌いにしっかり向き合い、取組
もうとする姿勢が多くみられた。その意欲を継続させ、学生が必要としているスキルを身に
つけられるように我々指導者が学生の気持ちに寄り添い、できる限り、個々の状況に対応し
ていく事が求められる。
読譜力や音楽基礎力の向上については、今後も引き続きの課題であり、養成校で学ぶ短期
間だけでは十分だとは言い切れないが、読譜を習慣化できるような授業運営をし、読譜に対
する苦手意識を払拭できるよう、指導の在り方を変えていかなければならないと感じた。初
期の段階では、音名の書き込みをしなくても弾けるような簡単な楽曲を選ぶ事やハ長調の楽
曲から順に学ぶ等、学習する楽曲についてもさらに研究が必要である。
また、学生が精神的プレッシャーを感じすぎる事なく、自分に合ったペースで学習できる
よう、クラスや名前順で単純なグループを編成するのではなく、レベル別にできるよう、グ
ループ編成についても見直す機会を設けなければならないと感じた。
カリキュラムにおいては、バイエルやブルグミュラー等の練習曲中心にせず、学生の意欲
が継続されるような楽曲を多く取り入れて、まず「レッスンが楽しいものだ」という意識を
持ってもらえるような内容にしていく必要がある。
指導力の面では、教員間での授業見学等を通して指導力の向上にもつとめなくてはならな
い。レッスンは他の講義科目と違い、担当教員の指導次第という部分が大きいため、担当教
員の違いで学生の技術習得に差があってはならないからだ。また、歌唱の部分では、ピアノ
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を専門に研究してこられたピアノ指導者には不十分な点もあるため、教員間での指導力研究
も必要であると感じた。必要に応じて、歌の専門家による指導者への助言の機会も設けなけ
ればならないだろう。それらが指導力の統一にもつながると考える。
学生自身の歌唱力の向上についてもまだ課題が残っている。保育者は声を使う職業である
という意識を常に持つことを学生に理解してもらえるような指導が必要である。弾き歌いの
「歌唱」については、さらに研究・分析が必要であると感じるため、学生の「歌」に関する
意識や捉え方についてはさらに調査を行い、今後の研究課題としていきたい。
保育の技術は「ピアノ」や「歌」だけではないが、これらは、保育の様々な場面で必要不
可欠な技術であるので、養成校での学びで学生が将来自信をもって保育に臨めるよう、今後
も学生の学習支援に効果的な指導法を研究・改善していく所存である。
引用文献
引用1)大村典子『ピアノが好きになる教え方・習わせ方』草思社2005 p.138
参考文献
1) 花原幹夫編著『保育内容 表現』北大路書房2012
2) 荒尾岳児〔ほか〕『本当に役立つ! ピアノ練習法74』リットーミュージック2013
3) 船越清佳『ピアノ嫌いにさせないレッスン』ヤマハミュージックメディア2013
4) 熊木眞見子〔ほか〕『子どもの豊かさに培う共生・共創の学び』東洋館出版社2004
5) 秀一『上達する人長続きする人』ヤマハミュージックメディア2010
6) 大村典子『ピアノが好きになる教え方・習わせ方』草思社2005
7) 松尾篤興『実用美声学』カワイ出版2014
8) 毛木敦彦『脳を喜ばせて歌う方法』voi-colle.com編集部2010
9) T. マーク〔ほか〕『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』春秋社2006
10) 小林美実『音楽リズム』川島書店1977
11) 園部三郎『続 下手でもいい音楽の好きな子どもを』音楽之友社1981
12) 高橋好子〔ほか〕『音楽をたのしむ子どもたち』文化書房博文社1992
13) 森田百合子〔ほか〕『声楽教本』教育芸術社2008
14) 仲嶺まり子 こどものうた弾き歌い指導における副教材の活用について ―「指使いサブノー
ト」導入の試みを通して ― 別府大学短期大学部紀要(33)p.133-141 2014
15) 小松洋子 保育者養成校のピアノ初心者に対する指導について ― ピアノ特補のあゆみ ― 聖
徳大学幼児教育専門学校研究紀要第5号 2013
16) 丸山京子 保育士養成校における実践的ピアノ指導についての一考察 岐阜聖徳学園大学短期
大学部紀要37 2005