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「ファミリー・フレンドリー企業」に関する一考察 : 女性労働環境整備と「ファミリー・フレンドリー」思想の企業への浸透

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論文

白鴎女子短大論集 2000,25(1),1−15

rファミリー・フレンドリー企業」に関する一考察

一女性労働環境整備と「ファミリー・フレンドリー」思想の企業への浸透一 堀 眞由美

はじめに

 近年女性の社会、職場への著しい進出は、女性の地位向上および能力評価 が望まし方向にあることの証左であろう。このような方向はわが国における 少子化・高齢化にともなってさらに女性能力活用の必要性が高まることを示 唆するものともいえよう。女性労働は、わが国の潜在化していた貴重な労働 力として、その活用傾向は一層強まるものと推察できる。また、I T技術を 核とする情報化時代を迎えての社会環境・企業環境の変化に対応するには、 これまでにない革新性に富んだ思想とノウハウが、営利・非営利組織いずれ においても要請され、それを担う人材として女性の就業機会が増大する可能 性も大きい。  しかしながら、女性にとって仕事と家庭を両立させながら働き続ける環境 の整備という点から現実をみるならば、今日においても家事・育児・介護な どの家庭内の課題や職場における雇用差別という問題が集積していることが 指摘できる。  本研究で考察する「ファミリー・フレンドリー企業」とは、人事政策上な どにおいて、女性労働者を平等に、積極的に活用しようという姿勢をうちだ している企業を意味する。  本稿では「ファミリー・フレンドリー企業」思想の浸透について、わが国 の女性労働環境の現状を見据えながら考察するとともに、社会および企業で 取り上げられる背景要因、および「ファミリー・フレンドリー」な労働環境

一1一

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整備の政策的課題について企業だけでなく地方公共団体を含めて追究するこ とをねらいとする。 1.rファミリー・フレンドリー企業』思想基盤の浸透と背景要因  「家庭にやさしい企業」研究会報告書(財団法人 女性労働協会 平成11 年)によると「ファミリー・フレンドリー」とは、「労働者の家族的責任に 配慮した」、「仕事の事情を常に優先させるのではなく、仕事と家庭の事情と の折り合いをつけた」と意味づげ’1している。  家庭が仕事に従属するものではなく、仕事と家庭との両立という対等の考 え方、すなわち「ファミリー・フレンドリー」思想が、わが国において女性 労働の立場から社会的に強く意識されはじめたのは、1990年代に入ってから のことである。側)社会経済生産性本部の調査2)によると、男女とも仕事と家 庭の両立を目指す傾向は強まっており、両立を志向する女性の割合は昭和60 年代において76.6%であったが、平成7年には81.9%、平成8年では82.1% と増加している。  また、栃木県における平成11年の調査〔3)でも、「結婚後は、女性はどのよ うに働くのがよいと思ったか」という問いに対して、女性の場合、「仕事と 家庭を両立させて長く働き続けるのがよい」とする回答が51.2%と1位を占 めている。「出産および結婚を機会に退職するのがよい」とする回答(出産 を機会に退職2.3%、結婚を機会に退職0.5%)と比較すると、地方において も前者、すなわち仕事と家庭の両立を志向する女性の意識の高まりが推察で きる。  これら仕事と家庭の両立を志向する女性の増加は、少子化・高齢化が進む 状況のなかにあって、国レベルでは国家の経済の活力維持、企業レベルでは 人材確保・活用という視点から従来の女性観から脱し、女性労働の活用によ る企業組織の活性化、さらに企業の社会的使命の具体化という環境が醸成し つつあることがその背景にあるといえよう。  少子化・高齢化社会の進展にともなう労働力減少に対応するものとして、

一2一

(3)

ファミリー・フレンドリー企業 女性労働に期待する傾向が増大している。その具体的な動きとしては、女性 労働を貴重な労働力として、仕事と家庭の両立を視野に入れた人事政策をと り入れている企業が増加していることが指摘できよう。その要因としては、 以下の3点をあげることができるだろう。  一つには、本章冒頭でも触れたように、少子化・高齢化という社会構造の 変化に起因する労働力不足への対処から、企業において女性労働を積極的に 活用するという姿勢が高まったことがあげられる。その背景には、企業にお いて能力評価を主体とする傾向が強まるにともない、従来の性差的意識が希 薄になっていることも指摘できよう。  図1に示されるように、女性雇用者数は平成2年を100(女性雇用者数 1,834万人、雇用者全体に占める女性割合37.9%)とすると、平成9年は116 (2,127万人、39.5%)と16%、293万人増加している。男性雇用者数の増加 割合が、平成2年を100とした場合、平成9年は108.7、8.7%の増加にとど まっているのに比較して女性雇用者の増加が目立つのは、企業における女性 労働活用へ積極性を示すものと推察される。          図1 雇用者数の推移(全産業)  〈万人>      (%〉   6,000       40 5,000 4ン000 3,000 2,000 1,000 雇用者数    性 雇用者全体に占める女性割合 4,313 34.1         5,263      37.9 38.9 39・5 35.9        5,391

雁z女

2,876 3,306 3,647

3L733・232,0     4,835

3,971 1,834 2,048 2,127 1,548 913 1,096 1,i67 1,354 35 30 25 20 15 10

5

0       0  昭和40年 45年  50年  55年  60年 平成2年 7年  9年      資料出所)総務庁統計局「労働力調査」

一3一

(4)

 二つには、前述した女性の職場進出、とくに既婚女性が雇用労働者として 働く機会が増大するにともなって、家事・育児・介護などと仕事との両立に 対して企業として配慮する必要性が生じてきたことがあげられる。日本労働 研究機構の調査(平成8年)(4)によると「結婚、出産、育児を機に仕事をや めた理由」として、正社員、非正社員、無業者の三者とも仕事と家事、育児 との両立が、時間的にも、体力的にも難しいとする理由が、正社員56.8%、 非正社員57.6%、無業者68.4%と、最も高い割合を示している。これら女性 労働における制約環境を軽減していくこと、すなわち育児や家事、介護など の負担を支援し、家庭と仕事が両立できる環境条件の整備を図ることは、女 性の勤労意欲と能力発揮を期待する企業にとって重要課題である。  三つには、労働意識、とくに女性の労働に対する意識の変化があげられる。 家庭における男女平等意識の高まりや女性の高学歴化にともない、男女共に 仕事と家庭の両立を肯定的にとらえる傾向が強まるとともに、むしろ「仕事 を主」(5)とする考え方をする女性の増加がみられる。「東京女性白書’97」の 男女平等意識に関する都民意識調査6)によると、「男は仕事、女は家庭」と いう考え方について同感するのは、平成4年には男女それぞれ42.9%、26.0 %であったが、平成7年には、25.7%、15.7%に減少している。また、栃木 県の平成11年の調査(”では、女性の働き方に対する考え方(結婚前)につい て、「仕事と家庭を両立させて長く働き続けるのがよい」とする意見が、男 性36.3%、女性37.9%と最上位の割合を示している(表1)。  前述した東京都の調査では、平成7年では「男は仕事、女は家庭」という 考え方に対して肯定も否定もしない、「どちらともいえない」という不明確 な見解が男女とも、40%台の高率を示している。しかし同調査(p.73−p.74) での「結婚や出産しても、家庭に支障がない範囲で仕事をする」という回答 が女性では36.5%、男性で42,3%と最も多いという点を考慮するならば、仕 事に対する女性の自立的意識と家庭との両立という意識は極めて高く、男性 の女性労働に対する理解と期待に助長されて、女性の就業意欲の高さとそれ にともなう男女平等参画の職業観を察することができよう。

一4一

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フレンドリー企業 ファミリー (上段:実数下段:構成比) [従業員1[女性]自分は、[男性1女性は、結婚前は どのように働くのがよいと思っていたか 表1 讐華 働と き家 続庭 けを る両 の立 働経 く済 の的 が余講 で き にし結 再’婚

鰹寵

ずて出 るが麗 の一を が段機 よ落会 等庭結 にを婚 転主又 職とは すす出 るる産 のたを がめ機 が出 よ薩 いを  機  A  瓜  に  退  職 が結 よ婚 いを  機  A  職  に  退  職 女姓は働かなくと

その

特にな

回答数ム

がさ る いしに よパ会 す ず も

P

よせ いて まで た還 後職

い1に

 ト寒 るの るの よい 他 し 計 女 性 485 129 385 102 93 99 12 10 22 1337 36.3% 9.6% 28.5% 7.6% 7.0% 7.4% 0.9% 0.7% 1.6% 100.0% 正 就 社 410 115 286 86 74 77

9

7

21 1085 ㈱ 37.8% 10.6% 26.4% 7.9% 6.8% 7.1% 0.8% 0.6% 1.9% 100.0% 業 輿 形パ 75 14 99 16 19 22

3

3

1

252 態

E

29.8% 5.6% 39.3% 6.3% 7.5% 8.7% 1.2% 1.2% 0.4% 100.0% ト 25 歳 55 29 46 29

8

10

0

2

3

182 未 30.2% 15.9% 25.3% 15.9% 4.4% 5.5% 0.0% 1.1% 1.6% 100.0% 満 25歳∼ 129 24 65 36 19 17

2

0

7

299 隼29 43.1% 8.0% 21.7% 12.0% 6.4% 5.7% 0.7% 0.0% 2.3% 100.0% SO歳∼ 87 21 41 16 13 16

1

3

3

201 34 43.3% 10.4% 20.4% 8.0% 6.5% 8.0% 0.5% 1.5% 1.5% 100.0% 歳 35歳∼ 58 11 61

9

10 15

0

3

1

圭68 39 34.5% 6.5% 36.3% 5.4% 6.0% 8.9% 0.0% 1.8% 0.6% 100.0% 歳 齢 菊歳∼ 120 28 114

8

27 22

6

2

4

331 49 36.3% 8.5% 34.4% 2.4% 8.2% 6.6% 1.8% 0.6% 1.2% 100.0% 歳 50 歳 36 16 58

4

16 19

3

0

4

156 以 23.1% 10.3% 37.2% 2.6% 10.3% 12.2% 1.9% 0.0% 2.6% 100.0% 上 資料)栃木県商工労働観光部労政課『女性が働きやすい環境づくりのための意識・実態調査』    平成11年P85  注)女性全体、就業形態、年齢の項目のみを抜粋したものである。       一5一

(6)

2.女性労働環境整備と7アミリー・7レンドリー企業の拡大

 既述したように、わが国における少子化・高齢化社会の到来は、労働力不 足の懸念を生起させる反面、その解決策としての女性労働力への期待は大き い。しかし、現状においては女性労働力を有効に活用する上で問題点も依然 として存在している。本章においては、女性労働力の活用を「仕事と家庭の 両立」という間題点に焦点をおきつつ、女性労働環境整備のあり方について 考察し、本研究の主要課題であるファミリー・フレンドリー企業のわが国に おける拡大の可能性を、事例を踏まえながら追究する。 2−1.わが国における女性労働の問題点と労働環境整備の課題  わが国の女性労働の特質として、育児期における労働力率の低下が指摘さ れる。労働省女性局編『女性白書平成9年度版』((財)21世紀職業財団1998年 p.43−46)によると、女性の年齢階級別労働力率のM字型曲線の底辺、すな わち育児期にあたる25∼34歳代の労働力率(81は諸外国に比較して依然として 低いことが指摘されている。このM字型就業に、無業者のうち就業希望者を 加えるいわゆる潜在的有業率を合わせてみると、M字形が台形になる。すな わち、わが国には、働く意欲はあるものの就業を控えている女性が多いこと が窺える。一方、男性の年齢階級別の有業率及び潜在的有業率は両者とも台 形を描き、かつ各々の曲線は25∼29歳から55∼59歳ではほぼ重なり合ってい ることから、就業意欲のある男性はほとんど就業していることがわかる。  図2に示すように、「女性が働き続けるのを困難にしたり障害になること」 として、育児をあげている者は、平成8年で76.3%の高率に達している。育 児と仕事が両立できる労働環境の整備は、女性労働を活用する上で急がれる 課題である。  外国においても出産・育児は働く女性の離職原因に(9)になっていることか ら、この間題は世界各国共通の主要課題といえよう。  高齢化にともない介護の負担増加も働く女性の障害になる問題である。前 述した栃木県の調査(表2)によると、高齢者や病人の介護は、出産や育児

一6一

(7)

ファミリー・フレンドリー企業 (%) 図2 女性が働き続けるのを困難にしたり障害になること 90

00000000087654321

76.3 65.1 53.8 35.4  昭和58年 平成8年

  \/   ,ε。

  32.1332          28.630・328.2 30.1  2L2         20.7         17.3      16.7 9.5 17.2 5.9 27.5 10.6 女性はすぐやめる、 労働能力が劣る、 という考え方 昇進、教育訓練等の 男女の差別的扱い 職場での結婚・出産 退職の慣行 自分の健康 家族の無理解や 反対 夫の転勤 家事 子供の教育 老人や病人の世話 育児 資料出所)労働省女性局編『平成9年度版働く女性の実情』 (財)21世紀職業財団 1998年 p.59 に次いで女性が働き続けていく上での大きな障害となっている。とくに主な 介護者として女性に担われていることが多く。。わが国における男性中心社会 の実態の一端を示すものといえるだろう。  さらに、上記調査にみられるように、家族や配偶者の理解がえられない (37.3%)、管理職や男性従業員の理解不十分(30.5%)など、男性側の性差的 意識の問題も依然として存在していることが指摘できよう。 2−2.わが国のrファミリー・フレンドリー」思想の企業への浸透  「ファミリー・フレンドリー企業」、すなわち「仕事と家庭の両立」を実現 するために、育児・介護支援のシステムを整え従業員(とくに女性従業員〉 の仕事への意欲向上を図り、経営成果を実現することを経営方針に盛り込ん でいる企業が注目されている。その思想が企業経営に採り入れられる背景要 因のもうひとつの見方としては、従来の日本的経営環境、とくに長期安定雇

一7一

(8)

[従業員]女性が働き続けていく上で障害になっていること(複数回答)        (上段:実数下段1回答者数に占める割合 表2

回答数含計

8

6

3

1

3

1

1

1

5

5

2

0

8

1

8

9

2

9

9

1

6

6

1

3

4

3

2

8

1

特  に  な  し 23 %  7  1, 21 %  9  1、 2%  8  0。 5%  8  2. 3%  0  1. 0%  0  α 2%  2  1. 4%  2  1。 9%  9  4. そ   の   他 18 %  3  1. 14 %  3  L 4%  6  L 2%  1  L 3%  0  1. 5%  5  a 4%  4  且 −%  3  α 3%  6  1. 蛍働繕閲、通勤時閣等の 労働条件が厳しい 81 %

QU9

 7。  2 13 % QU 1  8,  2 68 %  7  a  2 60 %  3  a  3 89 %  9  9。  2 49 働  肱 45 %  1  7。  2 99 %  9  8。  2 39 鋭  肌 女性罵の休憩窯、璽譲室、 作業設備などが不十分 75 %  5  ε 65 %  8  5。 10 %  9  a 9%  0  5. 16 %  4  臥 8%  0  4. 9%  4  ε 20 %  8  ε 13 %  1  7 家族や配偶轡の理解が得 られない m% 只U QU  7。  3 踊腸  誌 15 % 1 1  a  4 45 脱  臆 鵬脳  置 79 %  7  且  3 76 %  8  臥  4 38 % 1 2  α  4 66 %  3  δ  3 女性鼠身の憲識の欠妬 拠陽  拡 励脳  B 24 %  4  9。 15 %  3  & 32 隅  n 36 跳  凪 23 %  B 47 隅  ⑱ 21 既  焦 管理職や男性従業興の理 解が不十分 17 % 4 5  α  3 謝跳  翫 63 隅  肱 74 跳  虹 07 % 1 9  臥  3 60 %  2  α  3 46 隅  鉱 86 %  1  a  2 44 %  2  4,  2 高齢者や病人の看護や介 護 50 % 6 5  7  4 10 % 5Ωり  a  4 40 % 1 9  4.  5 35 %  4  n 87 %  2  a  2 95 %  7  乳  4 92 %  4  臥  5 28 % 2 5  a  6 13 % 1 1  2。  6 出 産 や 膏 児 82 % 101 阻 89 % ΩU 9  駐  7 鵬隅  五 44 % 1 0  α  8 49 % 2 6  3  8 75 % 1 9  7。  8 窟腸  覧 65 % 2 QJ  乳  7 22 % 1 0  乳  6 結婚や出産で退職しなけ ればならない潰行がある 02 %

44

 9。  2 15 % Qりり0  8.  2 87 %  1  4.  3 75 %  7  1.  4 07 % 1 9  a  3 45 腸  皿 39 脳  器 87 端  茄 49 %  9  δ  2 性 女 正社聯貴 疋 ー ト ノ 緬歳朱満 鵠歳∼29歳 30歳∼34歳 35歳∼鈴歳 40歳∼49歳 50 歳以上

就業形態

年      齢 資料)栃木県商工労働観光部労政課『女性が働きやすい環境づくりのための意識・実態調査』   平成11年 p.90  注)女性全体、就業形態、年齢の項目のみを抜粋したものである。       一8一

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ファミリー・フレンドリー企業 用(終身雇用)、年功序列、企業主体の福利厚生制度などを核とする雇用慣 行の見直しと是正があげられる。  これまで日本的慣行のもとで、採用、教育、昇進、昇格、昇給などにおい て実質的に差別を受けてきた女性労働者にとって、能力主義への変革は歓迎 すべきことである。もちろん、能力主義への変革に対する女性労働者の姿勢 は必ずしも一様ではない。熊沢 誠氏が指摘するように11P現行の能力主義に 対する女性労働の期待、とくに高学歴に裏打ちされた意欲、能力のある女性 ほど期待が幻想に終わることになる危険性を含んでいよう。しかし、少子化・ 高齢化という社会構造的変化を基盤に、共働き家庭、単独家庭などの家族形 態の多様化、さらに女性自身の労働意識の変化、高学歴化による自己実現欲 求の増大などの傾向は着実に高まっている。企業の能力主義への転換にとも なう女性労働に対する認識と期待の高揚という点を考えるならば、女性側、 企業側の双方に「仕事と家庭の両立」という思想が浸透普及していくものと 推察できる。  以下に、女性労働の活用に積極的に取り組み、平成11年度「ファミリー・ フレンドリー」企業表彰〔励を受賞した大企業及び中堅企業をそれぞれ1社選 び、どのような視点で仕事と家庭の両立に取り組んでいるのか考察していく ことにする。  まず、㈱ベネッセコーポレーション(労働大臣優良賞受賞)(尉は、育児支 援策として、育児時間短縮勤務制度及び育児休職・再雇用制度を確立してい る。前者については平成4年から、後者については昭和61年から実施してい る。平成2年には有能な即戦力となる人材確保という目的で「リターンコー ス制度」をスタートさせた。なお、平成7年に、育児休業法及び多様なライ フプランヘの対応という観点から、新育児休職制度を発足させた。また、ベ ビーシッター利用補助、託児施設利用補助、社内託児施設の設立など育児支 援策の充実を図っている。  介護支援策については、介護休業制度(平成3年設立)、在宅身体介護補 助、入院にともなう家事補助などを実施している。その他、再雇用制度(リ

一9一

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ターンコース制度の廃止にともない平成7年に設立)、休職期間中の情報提 供、自宅のパソコンからベネッセコーポレーションのイントラネットヘのア クセスを可能にするリモートアクセスのシステムなどを構築している。  次に、従業員170名(内女性62名、平成11年11月現在)の中堅企業、秋田 精密電子工業㈱(労働大臣努力賞受賞)(1のは、労働組合との間に育児休職・ 育児のための短時間勤務に関する協定書(平成6年、なお平成8年と平成9 年に改正)、妊婦通院制度の導入に関する協定書(平成6年)、介護休職・介 護のための短時問勤務に関する協定書(平成7年)を取り交わし、制度実施 の向上を図っている。秋田精密電子工業㈱も㈱ベネッセコーポレーション と同様、業務代行体制の確立や職場復帰後の能力発揮機会の確保、休職中の 社内情報の提供なども行なっている。  2社に共通している点は、育児・介護の期間状況に合わせて柔軟性をもた せて制度運用を行なっていることである。短時間勤務、在宅勤務、補助制度 や人材派遣の活用・職場ローテーションの実施による業務代行制度の確立 (秋田精密電子工業㈱)など、育児・介護諸制度の確立に併設して、他の支 援制度を設け、運用の実効性を補強している。育児、介護支援のための専門 部署の設置、全社的取り組み、経営幹部の理解など企業風土(文化)として 浸透していることなど、企業を社会的存在として認識する意識の高さ、従業 員を人材として活用していこうとする公平で積極的な経営姿勢は高く評価で きよう。 3.rファミリー・・フレンドリー」思想・制度の浸透に対する行政的支援  仕事と家庭の両立は、単に女性の労働意欲の変化や企業努力だけではなく、 行政の側面からも支援していくことが要請される。育児休業制度や介護休業 制度の浸透・普及は、企業と行政との連携によってこそその実効性が高まる のである。女性にとって期待できる職場づくりを志向して、男女雇用機会均 等法(平成11年4月改正男女雇用機会均等法施行)などの法的環境の整備は、 女性労働者の能力発揮の機会や職域の拡大に寄与している。 一10一

(11)

ファミリー・フレンドリー企業  とくに、情報化の進展とともに情報通信産業分野などでの女性労働の活用 機会が期待されるところから、女性が能力を安心して発揮できる環境づくり に行政レベルでの一層の支援が要請されよう。  地方公共団体として広島県及び群馬県の2県を取り上げて、両県で実施し た女性労働に関する調査・報告から、行政への主要な要望などを抽出し、行 政の取り組みについて考察していく。  広島県の調査(平成8年轡による行政への要望としては、   企業側は、「保育所、学童保育の充実」(37.8%)「勤労者に対する総合       的な福祉の増進を図る施設の設置」(32.5%)「週休2日制導       入等の労働時間短縮の促進」(26.6%)   女性従業員側は、「週休2日制導入等の時間短縮」(40.7%) 「保育所、       学童保育の充実」(33.1%) 「勤労者に対する総合的な福祉       の増進を図る施設の設置」(29.0%) などをあげている。  次に、群馬県商工労働部の『子育て雇用管理研究会報告書押による行政 に対する取り組みとして、一つは、企業及び労働者に対する啓発普及、すな わち前者には育児・介護法などの周知、育児休業制度導入に対する行政支援 など、後者には女性労働者に対する育児情報の提供や管理職の啓発研修など をあげている。  二つには、企業及び労働者に対する経済的支援である。企業には、社会保 険料負担の軽減措置や育児休業を実施する企業の税制などの優遇措置、労働 者側には出産費用の軽減、育児休業の所得保障、保育施設の整備などをあげ ている。  三つには、男女共同参画社会に対する啓蒙教育、ジェンダー教育、育児・ 介護及びそれに関連するボランティア活動の学習など、女性が働きやすい社 会システム(意識変革と環境整備)づくりなどをあげている。  行政サイドにおいては、女性にとって働きやすい快適な職場環境づくりの ために、公平で、積極的な雇用機会・雇用環境を実現するように企業、労働 一11一

(12)

者に働きかけていくことが今日なお緊急課題である。とくにアファーマティ ブ・アクション(affimative action)(mの理念を実効するための関連法規の 整備や効果は欠かせない。

結びにかえて

 わが国における「ファミリー・フレンドリー」の思想及び政策が、企業経 営の課題として認識されるようになったのは最近のことである。欧米では、 この概念は1970年代末から1980年代にかけて普及している。近年、わが国に おいても少子化・高齢化という社会構造変化、それと連動しての女性労働力 の活用機会の増大’鋤、女性労働者自身の労働意識の変革、企業サイドの女性 労働に対する肯定的認識・評価など、女性にとって「働きやすい」環境が整 備されつつあることが推察できる。  さらに、前述の社会変化に加えて情報化社会の到来ということを考慮する ならば、女性の就業機会はますます拡大するものと思われる。とくに情報通 信を核とするネットワーク社会の形成は、女性の社会進出に拍車をかけると ともに、就業パターンが多様化していくことが予測される。  これら社会的、経済的変化、さらには生活スタイルの変革を考える時、一 層の「仕事と家庭の両立」支援の確立が求められよう。さらには、女性労働 能力の育成のための環境整備、多様な就業パターンに対応しえる社会的、雇 用的システムの構築が要請される。  本研究においては、「ファミリー・フレンドリー」という思想について、 企業及び行政的側面からその実態と方向を究明してきたが、それは一部に過 ぎない。今後の研究課題としては、さらに企業及び行政的視点から「ファミ リー・フレンドリー」思想の浸透状況と政策の実態を追究するとともに、情 報化社会における女性労働の期待するあり方、環境整備について究明してい きたい。 一12一

(13)

ファミリー・フレンドリー企業 注) (1〉財団法人 女性労働協会『「ファミリー・フレンドリー」企業をめざし  て一「家庭にやさしい企業」(仮称)研究会報告書一』 平成11年 p.4 (2)労働省女性局『働く女性の実情』(財)21世紀職業財団1998年p.55男性の  場合、昭和60年(1985)74.8%,平成7年(1995)76.2%、平成8年(1996)  73.8%と70%台で推移している。性差による役割分担意識において男性も  平等意識化が浸透していることが窺える。 (3)栃木県商工労働観光部労政課『女性が働きやすい環境づくりのための意  識・実態調査結果』平成11年 p.86 (4)労働省女性局『前掲書』p.46−47 (5)経済企画庁編『平成9年版国民生活白書』平成9年p.20−21p.302−304  本書において「仕事が主」と考える女性の比率は、70年代には30%台半  ばであったのが、80年代から上昇し、1992年には44%となったことが指摘  されている。また、高学歴化を反映して専門職、管理職となる女性や医師・  弁護士として働く女性も増加している。 (6)東京都生活文化局女性青少年部計画課編集・発行『東京女性白書’97』  平成9年p.72「男は仕事、女は家庭」という性別役割意識については、同  感しないほうと回答した割合も平成4年の男女それぞれ33.8%、50.6%か  ら、平成7年30.6%、37.6%と減少している。また、どちらともいえない  とする肯定も否定もしない、曖昧な見解をもつ男女が、平成4年の24.3%、  23.4%から、43.7%、46.6%と急増しているという調査結果を示している。 (7)栃木県商工労働観光部労政課『前掲書』p.3p.84本問いに対して(結婚  後)については、女性の場合51.2%と肯定的回答をしている。男性は  29,6%である。 (8)労働省女性局編『平成10年版女性労働白書一働く女性の実情一』働21世  紀職業財団1999年 付表11によると平成3年以降、育児期にあたる25∼29  歳の労働力率は上昇傾向にあり、M字型曲線の底辺は30∼34歳にシフトし  ている。理由としては、晩婚化をあげることができよう。 一13一

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(9)C。Srubbs and J。Weelock.A Woman’Work in the Changing Local  Economy,Aveb皿y,1990 pp.73−75  Jane Waldfogel,“Understanding the Family Gap in Pay for Women  with Children”The Joumal of Economic Perspectives Vol.12.No。1,  inter1998pp.149−153本論文では、子どもを抱えている女性労働者の  賃金上の不利について、育児の負担のない(子どものいない)母親との比  較を実証的に分析研究している。 ⑩渡辺 峻『コース別雇用管理と女性労働一男女共同参画社会を目指して  一』中央経済社 平成10年p.160−162 平成4年「国民生活基礎調査」の  データから、寝たきりの主な介護者の85.6%が同居者であり、性別でみ  ると女性が84.0%を占めている実態が述べられている。 q1)熊沢誠『能力主義と企業社会』岩波新書1997年p.151−153事務職、  販売職などに就く女性労働者の大多数は、職業意識としてより高度な仕事  を志向しているわけではないという論には現実性があるように思われる。 ⑬労働省が平成11年度から実施している表彰制度。仕事と家庭の両立を支  援する制度を確立・実施し、成果をあげている企業を「ファミリー・フレ  ンドリー企業」として認定し表彰する。対象企業は、育児・介護制度・勤  務時間の短縮などの制度を整え、効果的に運用しているかどうか審査され  る。平成11年度は33企業が表彰された。 ⑬株式会社ベネッセコーポレーション『働く人を支援する仕組み』1999年  12月 ω秋田精密電子工業株式会社『会社概要』及び『協定書資料』1999年12月  現在 ⑯広島県商工労働部労政福祉課『平成8年度 働く女性実態調査結果報告  書』平成9年3月 p.26 (1⑤群馬県商工労働部労政課『子育て雇用管理研究会報告書』平成11年3月  p.15−16 0の」。Hodges−Aeberhard,“Affirmative Action in employment: 一14一

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ファミリー・フレンドリー企業  Recent court approaches to a difficult concept”,Intemational Labour  Review,Vol.138,No3,1999/3,Intemational labour Office,pp.247−272  公正で平等な就業機会の確保などについての考え方は、アメリカではすで  に1930年代に導入されはじめている(p.247)。欧米においては民主主義的  土壌の厚みがわが国と比較して遥かに厚く、ファミリー・フレンドリーの  思想を容易に浸透できる条件の有利性が整っている。 (1$岡 朋史「少子高齢化における雇用のあり方について」『国民生活研究』  第38巻第4号国民生活センター 1999年3月 p.37少子化・高齢化を  女性労働の活用機会の増大という視点からは肯定的という論者の見解には  同意できる。 一15一

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