ルイザ・メイ・オルコット『病院スケッチ』と
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ィメン」における仕事の意義
ルイザ・メイ 。オルコット『病院スケッチ』と
「ハ ッピー・ ゥィメン」における仕事の意義
The Signifrcance
of
Work-Louisa
May Alcott's Hospital Sketches
and
"Happy Women'
衣 川
清 子
KINUGAWA ttoko
Eospita.l Sketches (1864) is based on
louisa
May Alcott's lettere homewhile ehe
wae an army mrrsein
a hospitalin
Washingtou, D. C.duriag
theCivil
War, a-nd preparedher to be a pronisiag, serious
writer. In
this paperI
will diacuss
the way how the issue of women's caneers and the eignifice-nce ofwork
arededt with in
the book andin
her essay titled "Happy Women" (1868).は じめ に
『 若草物語』 に麟力"笏
θ■1868)の
作者ルイザ・ メイ・オルコット(1832‐1888) には『病院スケッチ』(″¨ρゴ劇 脇 麟 に 1863)と い う作品がある。彼女が南北戦争中、 首都ワシン トンの病院に赴き、6週
間にわたつて篤志看護婦として働いた間に留守宅に書 き送った手紙をもとに、1862年 に新聞に連載 されたものに数章を加筆 し、翌年単行本 とし て出版 された ものである。ルイザ・ オル コ ッ トの名 を広 く知 らしめるきつか け となつた ものであるが、
6章
からなる小品で、『若草物語』にいたる作家修業途中の習作としてみな
される傾向があるため、概 して注目されず、批評も少なく、評価も高くない。
『アンクル・ トムの小屋』 (1853)の ス トウ夫人のように感傷に流れず、ジヤーナ リス
ティックな言語コントロールカを示 したものだというルース・マク ドナル ド
1)や、ヒロイ
埼 玉女子 短期大学研 究紀要 第16号
200503
ンの無垢から成熟への物語であるとして評価するショウオルター
"を含め、多くの批評家は、
その後書かれた小説『気分』
(幽
ら 1864)や 匿名または偽名で書かれたスリラー小説
群と共に、『病院スケッチ』を『若草物語』への通過点の一つとして捕らえているようで
ある。
しか し最近になって、 「女性の問題における労働 の意味」 とい う観 点か ら『 病院スケ ッ チ』 を見直すメイパーの批評 。が出て、この作品が単なる文章修業の試 し書 きでも、南北 戦争 中の従軍看護婦体験記 とい う物珍 しさか ら人気 を博 しただけの ものでもな く、ルイザ の生涯にわたる探求の一部 として位置づけ られることが示 された。 「作者 自身の、ひいては同時代の女性のキャリア探求の試み」として考えるとき、『病院スケッチ』から『若草
物語』を経由して『仕事』
(1872)へと向かう流れは新たな相貌を帯びるように思われる。
本稿ではこのメイパーの批評とルイザのエッセイ「ハッピー・ウィメン」
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, 1868)。を手がかりに、女性と仕事とキャリアをキーワー ドとして『病院スケッチ』を読
み直してみる。
『病院スケッチ』が生まれたいきさつ
ルイザは、30歳
を迎 えた1862年
11月 、篤志看護婦に応募す ることを思い立つ。時まさ に南北戦争の さなか、翌1863年
1月 に リンカーンによる奴隷解放宣言が出 され ることに なるが、戦況は予断 を許 さず、北軍の苦戦の報がはるか北、静かなニューイ ングラン ドの コンコー ドにも届いていた。1861年
4月 、市北戦争勃発 を知つた彼女は 日記 にこ う記 した。r私
はずつ と戦争 を見た かったが とうとう望みがかなつた。男にな りたいが、戦 えないので、戦 える人々のために 働 くことで満足 しよ う。JO兵
士 として戦場 にはせ参 じることができないため、彼女は、 縫い物や物資の提供 といつた仕事に従事 していたが、徐々にそのよ うな後方支援の仕事に 飽 き足 らな くなる。折 りしも戦争の長期化で有資格者が不足 し、資格 をもたない女性に も 従軍看護婦への道が開かれ ることになつた。さつそ く志願 して採用 され、厳寒の12月 、使 命感 とひそかな不安 を抱 えてフシン トンのユニオン・ホテル病院での任に着 く。 しか しその 「従軍Jも
結局6週
間 とい う短い期間で終わることになる。急 ごしらえで設 備の整わない劣悪な施設条件、不衛生な環寛、蔓延す る病気、混乱 と病院経営のまず さがルイザ・メイ・オルコット『病院スケッチ』と「ハッピー・ウィメン」における仕事の意義 生む非効率のもとで、おびただ しく運び込まれて くる傷病兵 を世話す る激務は想像以上の もので、看護 の仕事が好 きで頑健 であつたはずのルイザも腸チフスに感染 し、翌
1863年
2 月、迎 えに来た父親に伴われて帰宅せ ざるを得な くな り、その後 も数週間、高熱 と衰弱 と 幻覚に悩ま されることになった。 ところがこの強烈な経験は、ルイザの健康 を蝕んだ一方で、彼女の職業作家 としての出 発点を築 くもの となつた。病院か ら家族宛 に書き送つた手紙が好評だつたため、父の友人 が新聞への掲載を勧 め、彼女 自身は気乗 りしないままであつたが、 「お金がほ しかつたの で」0、 手紙 を「ほ とん ど文字通 り再現」うして新聞に連載 した。その『 病院スケ ッチ』 (1863 年に単行本 として出版)は
大評判 とな り、作家ルイザ・オル コッ トの名前は一躍知れ渡 つ た。 経済的観念がい ささか欠如 した父親 を持 ち、母親の苦労を 目の当た りに しなが ら育つた ルイザは、幼いころか ら結婚 を視野に入れず、 自らの独立だけでな く、一家の経済的な担 い手たることを目標 とし〆いた。彼女にとつて、キャリアの選択は決定的な問題であつた。 これを期に、本格的な小説 に手を染 め、試行錯誤 しつつ、同時に偽名 または匿名 でセ ンセ ーシ ョナルな物語 を量産す る数年間を経て、彼女は職業作家 として 自立 してい くのである。「何 か を したい」
トリビュ レーシ ョン (難難辛苦)・ ペ リウィンクル とい う大げさな、チャールズ・デ ィ タンズの作中人物ば りの名前 をもつ女性が語 り手兼主人公で、『 病院スケ ッチ』は、彼女 の体験 を綴 つた手記 とい う体裁 をとつている。彼女 トリブはワシン トンのホテル を改造 し たハー リー・バー リー・ハ ウス病院に篤志看護婦 として赴 き、6週
間の滞在 ののち病気で 帰還 を余儀な くされた とされている。作品の冒頭部分 を引用す る。"
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!つ 両親 と姉 妹 と弟 が トリブの発 間 に答 え、最 後 の 、 戦場 に あ こがれ る弟 の提案 を待 つて いた か の よ うに、彼 女 の看 護 婦 志願 計画 が具 体化 す る。 興 味深 い の は家族 それ ぞれ が異 なった トリプ の キ ャ リア プ ラ ンー 作家 、教 師、結婚 、女優 、従軍看護 卜 を提 案 す る こ とだ が 、 これ らは どれ もル イ ザ が か つ て経 験 ま た は構 想 してい た こ とで あ る。 まず彼女は、ルイザ自身が日記に綴つていたように「何かをしたいJの
である。ルイザ が看護婦志願を決意する1862年
11月の日記にはこうある。NOvember―
Thm years old Decided to go tO Washinttn ag antte r l could f□ d a place Help rleeded,and l love llursIIIlg,and mustlet out my pent・up ellergy h some new way WIn"r ls always a hard and a dun tlme,and lfl am away there is one less to feed and
wanll and wo暉 。ver
l want lllew expe五ences,and am sure to get'em rlgo soI've
sent in my name,alld bide my tlme w五 hng tales,tO leave a■ enug
beblnd lne,and melldlng up my Old c10thes,一 ―fOr llurseB dort need
luce th■nge,thnn■ Heavell1 91
こ こには 、助 けが 求 め られ て い る こ と と、看 護 が好 きだ とい う直接 的 理 由 と重 ね て、
30歳
に な り、新 しい経 験 を した い こ と、せ き止 め られ て きたエ ネ ル ギー の は け 口を見 つ けた い こ と、 それ に冬 の 間 オル コ ッ ト家 が養 わ な けれ ば な らない 家 族 を一 人 減 ら して家 計 の負 担 を軽 く した い とい うきわ め て個 人的 な理 由がつ づ られ てい る。 留 守 宅 の家 族 が み な快道 に
ルイザ・ メイ・オル コッ ト『 病院スケ ッチ』 とfハッピー・ ウィメン
Jに
お ける仕事の意義 過 ごせ るよう、物語 を書いて収入 を捻出 してお くとい う念の入れ ようである。 シ ョウォル ターは 「30歳
とい う年齢は19世
紀の女性にとって重要な区切 り、すなわち 結婚可能な年齢を過 ぎて しまった とい う認識の瞬間であつた。従軍は独立 した大人 として の 自己を宣言する一つの方法であ り、著作のための材料を真剣 に探そ うとい う決意であつ た」 と述べている10。 トリブは 「結婚可能な年齢 を過 ぎて しまった と認識する区切 り」の 年齢を迎え、役に立つ仕事 を したい、家計の負担 にな りた くない、書 くための経験がほ し い と切望す る。トリプの応答は、そのままルイザ 自身のキャ リアプランに重 なるかのよ う である。 「まず生きてみてそれか ら書 く」には 「作家になるには世間知 らずであ り、人生 経験 とい う修業がまだ足 りない」 とい う認識が見 える。教職の否定には、10年
間教えたが この仕事は好 きになれない し、経済的に も報われ るものではないと痛感 していたルイザの 気持 ちがに じむ。逆に女優 については一言 「否」で済ます。ルイザはアマチュア劇団に参 加す るな ど演劇 になみなみな らぬ興味を持 っていたが、当時、依然 として「女優Jと
い う 職業につきまとう悪いイメージがあつた10し、冷静にキャリアプランを考える彼女は、女 優業で家族 を姜 えるだけの才能が 自分にないことを十分承知 していたであろ う。 トリプの応答の中で最 も興味深いのは結婚 の可能性 をめぐっての ものである。わざわ ざ 「クービディ夫人Jと
呼びかけての皮 肉めいた答 え方 には、はなか ら結婚がキャ リアの選 択肢に入つていないことが読み取れ る。姉がわざわ ざ 「あなたの使命」 と称 しているもの をまるごと拒否 し、次に 「贅沢はできない」 とたたみかける。 もちろんそれはクー ビデ ィ 夫人が浪費家であるわけでも、結婚す ることが贅沢であるわけでもな く、結婚す ることで 家計か ら食い扶持 を一人減 らせ た としても、ペ リウィンクル家は潤わない、だか ら 「そん な贅沢はできないJと
なるのである。ルイザの職業選択の決め手は常に両親 と自分を含 め たf/1/コ ッ ト家が経済的に立ち行 くか、であつた。 ルイザは1862年
、友人の勧 めで幼稚園の教職 につ くが、下宿代 も助手の給料 もまかな えないほどの収入 しかなかったため、5月
に辞めて もつと稼げる見通 しのある執筆の仕事 に向か う。この とき『 ア トランティック・マンス リー』誌の出版者に「教職を続けなさい、 あなたは書けないんだか ら」 と忠告 されて 「書けることを証明 してみせます」 と返 した と い う1'。 このような意地か ら始まったのか もしれないルイザの作家 としてのキャ リアは、 『 病院スケ ッチ』の経験 を通 じてよ り確固 としたものになってい くのである。第 16号 200503
4
観察者か ら体験者へ、 さらに改革者ヘ
とにか く「何かを した くて」飛び込んだ病院の世界であったが、その経験は「仕事」に ついて真剣 に考 えることを トリブ/ル
イザに追る。 「何かを したい」 と叫んだ トリプの願 いは、急 ごしらえ病院の劣悪な環境下での過酷な労働 と際限のない忍耐 とい う形でかなえ られ る。トリプはシ ョウォル ターのい う無垢か ら成熟 とい う成長プロセスを経るだけでは ない。 よ り具体的に、仕事を通 じて観察者か ら体験者へ、そ してさらに改革者へ とい う道 をた どってい くのである。 『 病院スケ ッチ』は6章
か らなるが、最初の2章
は病院に着任す るまでの準備 と旅の報 告か らなる。第1章
は念願かなって採用 された トリブが ワシン トンまでの無料切符を求め てボス トン じゅ うを奔走 し、た らい回 しの官僚機構 と怠惰な役人たちへの怒 りを記録 した もので、鋭 くかつユーモ ラスな観察が読者 をにや りとさせ、トリプの活躍への期待感 を盛 り上げる。第2章
は列車 と船 を乗 り継 ぐボス トンか らワシン トンまでの道 中の記である。 トリブはユーモアたっぶ りに周囲の観察を展開する。 看護婦志願の決意 を固めてか らの家族の慌てぶ り、無料切符 を受けるための担当者の捜 索 と彼 らに しかるべ く仕事をさせ るための気の遠 くなるよ うな東奔西走、その過程で出会 う有象無象の人 々の描写など、まるで読者 も トリブ と一緒にその場に居合わせているよう な臨場感がある。デ ィケンズを愛読 していた作者の面 日躍如の場面である。 と同時に、気 丈に娘 を送 り出 しなが ら涙でハ ンカチを濡 らす母親の情がにじむ別れの場面、平静を装い なが ら内心は不安 と恐怖でいっぱいの トリブの心情の吐露など、センチメンタルにな りが ちな ところを抑え、効果的に伝 えているの も筆力の確かさを うかがわせ る。 第3章
か らいよい よ トリプは形ばか りの 「病院Jの
現実 と、そこでの過酷な労働 に直面 す る。5章
までが、ルイザのユニオン・ ホテル病院での実体験 を下敷 きに した トリプの看 護婦生活の 日常の記録である。厳密にはここか らが 「病院スケ ッチJで
ある。シ ョウォル ターは彼女が風劇 的な語 り手か ら「真剣で饒舌な 目撃者」になつたと述べる10が、トリプ は現実を直視す るそ うした 目撃者か ら体験者へ とさらに一歩を踏み出すのである。看護の 仕事が好 きだ とはいっても、せいぜい家族の看病 くらい しか経験がなかつた未婚の若い女 性が、血 と埃にまみれ、腐臭ぶんぶん とす る男ばか りの病室に連れていかれ、こともなげ に傷病兵の体を拭 くよう申し渡 されて、言葉にできないほ どの衝撃を受ける。トリプの「体 験」のは じま りである。ルイザ・メイ・オルコット『病院スケッチ』とfハッピー・ウィメン」における仕事の意義 読者は トリブ と一緒に 目がまわるほ ど忙 しい看護婦の 日常につきあ う。明 らかに収容で きる以上の患者やけが人がひつき りな しに運び込まれ る。窓が壊れて暖房 も換気 も不十分、 不衛生で劣悪な環境、けが人 を実験標本のよ うに扱 う人間性のかけらもない医師、空虚 な 言葉 を並べるだけで傷病兵の心の支 えになるには程遠い牧師たち、半病人や回復期の患者 を助手 として使 うことで人手不足を補お うとし、結果的に彼 らの衰弱や死や業務の停滞 に つながる非効率的な病院運営が彼女 をとりま く現実である。苦 しみ、痛み、そ して死 も 日 常の風景の一部である。患者が死んでベ ッ ドが空 くとす ぐさま次のけが人が運び込まれ る。 医者の助手を務めた り、包帯を巻 きなお した り、食事の介助 を した りな どのいわゆる看護 の本業だけでな く、語 りかけた り、手紙 を代筆 した りな ど精神的なケアの仕事 も休む間 も な くある。 とはいつても、激務 に忙殺 されて トリプの観察眼が曇 ることはない。機能不全の病院 の システムについて、非人間的な医師や牧師の行動について、鋭 く告発す るその舌鋒は厳 し い。 「観察者」に 「体験者」 としての実感 が重ねあわ されて『 病院スケ ッチ』の記述 を生 き生きとさせている。ひ とくちに傷病兵 といつて もさまざまである。トリブは特に印象的 な何人かについて描写 している。片腕 を切断 した上に今度は足 も切 らなければな らない羽 日になつたのに陽気 さを失わないス ミスをコミック・ リリーフに使 うか と思えば、ヴァー ジエア出身のジ ョンの よ うな感動的な逸話 も挿入 され る。彼 は背中に受 けた致命 傷のため に呼吸 もままな らないはずなのに弱音 も吐かず に耐 え、故郷 の母 と弟妹 を思いや る真 の無 名 の勇士 と呼ぶべき一人である。ス トウ夫人やセ ンチメンタル小説の書 き手な ら数十ペー ジに及んだかもしれない彼 の死の場面でも、抑 えた筆致が逆に効果 を上げてい る。 トリブ
/ル
イザにとって、 ワシン トン滞在は こうした勤労奉仕のためだけではない。ボ ス トンや コンコー ドにいてはわか らない首都の市民の生活に じかに触れ、人間観察 し、ホ フイ トハ ウスを初 めとす る名所 を観光す るまた とない機会である。そのために夜勤への変 更 さえ申 し出る。 「まずは経験 して、それか ら書 く」のである。病気で倒れ る直前まで朝 のランニングも欠か さない。 仕事場 にあつて も トリブは、与 えられ る仕事 を黙々 とこなすだけの労働者ではない。劣 悪な環境下にある患者 に同情 し、状況 を少 しで も改善す るために、観察 と体験に基づき、 改革に乗 り出す。「トリプの病院改革」である。最初は与えられ る指示にシ ョックを受け、 それ をこなすだけで精一杯 であつた彼女は、やがて主体的に動 き出す。 メイバーがそのプ ロセスを丁寧 に跡づけている1つ。効率的にできるように、担 当病棟の3つ
の病室を患者 の埼玉女子短期大学研究紀要 第16号 211t1503 重篤度に応 じて分 けるとい う組織 改変 を行 う。彼女が担 当できる仕事の幅 も次第に広がる。 「民間人」看護人への苦情を記すのも、もはや一人前の看護婦の自党のある人の使命感 と 自信に裏打ちされたプ ロ意識 の現われ といえるであろ う。その彼女 もわずか数週間の うち に病気になるが、それ も弱 さの証明ではなく、勇敢な兵士の負傷 と比べ られ るものである。
あわれ トリプは志半ばで倒れ、迎えに来た父親に連れられて病院を後にすることになる
が、『病院スケッチ』には第
6章
として、反響に答えるという趣向で後日談の「追伸」が
ついている。そこには新米 トリプの姿はみじんもない。観察と体験と改革の実績を力に、
病院 の実態 を語 り、現場 か らの提言を堂 々 と述べていて、ま さに 「回復期 の帰還兵Jま
た は 「軍人 の回想録J10の
趣 が ある。女性 であるがゆえに戦場 で働 けなか った、 しか し男性 と同 じよ うに (あるい は怠惰 な役人や問題 のある医師や牧師 といった一部 の男性 よ りも) 勤勉 かつ誠 実 に働 き、病院で立派 に任務 を果 た した とい う自負 がに じんでい る。5
仕事の意義
ルイザは1868年、.■appy Women"と 題す るエ ッセイを雑誌 に掲載 した。結婚 しないま までも、配偶者や子供 を持つ女性 と同 じよ うに仕事を し、幸福感を感 じなが ら毎 日を生き ている4人
の女性 を紹介 し、家庭に入 ることが女性の当然の務めであると思いこんでいる、 または思い込まされている若 い女性一般に別の選択肢 もあることを提示 しよ うとしたもの である。ここに登場す る4人
の女性たちは医師、音楽家、奉仕家、作家 (ルイザ自身)と、 経歴や仕事の内容はまちまちであるが、共通するのは 自分の仕事に自負 とや りがいを持ち、 日々を忙 しくしか し楽 しく過 ごしていることである。 ここで注 目したいのは、無為徒食に対する警告である。 「老嬢」 (Old mald)と呼ばれ る恐怖か ら若い女性たちが「自由、幸福、自尊心の喪失」1。を伴 う結婚へ と走って後悔 し、 片や老嬢 は 「お茶 をいれた り、 うわ さ話に興 じた り、ハ ンカチをい じつた りする以外にす ることがない」1うな どと考えられがちであるが、実は「世界は仕事で満 ちていて、働 く頭、 心、手は全て必要 とされてい るのである。J:ゆ行 うべ き仕事 (ここではキャ リア と言い換 え可能である)を
もつてこそ、頭 と心 と手 を働かせてこそ、成功できる し幸福になれ るの だ とルイザは強調す る。同じ年に『若草物語』が出版され、ルイザにとってはオルコット家を養うという子供時
r贈 r一 ﹂ 参 ﹂ 摯︵ ■ ゞ す ・ 〓 ¨ ・ ヽ ルイザ・メイ・オルコット『病院スケッチ』と「ハッピー・ウィメン
Jに
おける仕事の意義 代か らの念願がかなつた節 日の年であつた。金銭的成功を喜びなが らも、ルイザは結婚で 終わる女の子のハ ッピーエ ン ドの物語 を書 くのが苦痛であ り、 とりわけヒロインである自 画像ジ ョーを隣家の仲良 しのロー リー と結婚 させて くれ、 と懇願するファンレターの多い ことにも辟易 していた。無為を戒 め、仕事 を通 じての自立の必要性 を説 き、人生における 仕事やキャ リアの意義を高 らかに宣言 した点において、大人になつた三姉妹が全て伴侶 を 得 るとい う結末が用意 された『 若草物語』へのアンチテーゼ としてこのエ ッセイを読む こ とができる。 確かに トリブの姉ジ ョー ンが言 つたよ うに、結婚は 「女の使命」かもしれない し、幸福 の条件であつたかもしれない。少 な くとも当時の社会通念上はそ うであつた。 しか し南北 戦争にいたる期間、北部では奴隷制度反対の機運が盛 り上がるの と同時に、もう一つの「隠 れた奴隷制Jで
ある女性の従属状況 も変 えるべきであるとい う動 きも盛んであつた。その 最 も先鋭的な現れが婦人参政権問題であるが、彼女 も熱心にそれ に加わつていた。一方、 因習的な考え方や意識 は残 つていて も、女性の事実上の「進出」はめざましかつた。文学 の分野でもス トウ夫人の『 アンクル・ トムの小屋』がその影響力によつて南北戦争を起こ した とまでいわれた し、ナサニエル・ ホー ソンやハーマン・ メル ヴィル といつた主流の男 性作家が代表作を発表す る1850年
代、文学市場は女性読者 によつて支 えられ、大ベス ト セ ラー『 広い、広い世界』 (スーザン・ ウォーナー作、1852)を
は じめとす る女性作家の 作品に席巻 されていたのであつた。おわ りに
30歳
に してキャ リア選択に直面 したルイザ・オル コッ トは、折か らの戦争 とい う非常事 態にチヤンスを見出 し、病院での篤志看護婦 とい う仕事を得て、それを通 じ作家 とい う道 に踏み出 した。サラ 。エルバー トがいみ じくも述べてい る。 「まさに真の意味で、彼女は ユニオン・ ホテル病院 に足 を踏み入れた とき、 自分 自身の人生のために戦 つていたのであ る。191」 彼女は一般的な 「女の使命」をあえて退 け、時代のまさに最前線の仕事場で観察 し体験 し改革 し、 「戦い」の中でキャ リアを見つけた といえる。作家 とい うキヤ リアによつて、 彼女は自分 と家族 を養 うとい う役割 を果た しただけでなく、世の女性たちとその予備軍た埼 玉女子短期 大学研 究紀要 第 16号
200503
る少女たちに力強い言葉で語 りかけ、皆がそれぞれの仕事に取 り組み、それぞれの幸福 を めざそ うではないか と呼びかける 「仕事
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も乗 り出 したのであった。注
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1889,p 139
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9 υbu`22J,p l1010 Sho7ralter,`■ntrOductloll,''p 注
11
オル コ ッ トの ス リラー小説 の一つ 、「仮 面 の陰 にJ(Sehlnd a Magk,o3a WomaおPower,"1866) の ヒロイ ン、ジ ー ン ミュアは元 女優 とい う経 歴 で、 そ の力 を余 す ところな く使 つて まわ りの人物 をす べ て用す。 衣川 清 子 r演じる女 とい う寓話―っレイザ・ メイ オル コ ッ トの『 仮 面 の陰 に』 を読 むJ、 『 中央英 米文 学』 第38号 2004年、pp 4 16を参照。 12 υ♭― aL P 109 13 Showalter,'littOductloll,"p_n 14 Malbor,pp 104 106 15 Malbor,p 10616 Alcott,句Happy Women,''p 203 17 Alcott'ヨappy Wolllen,"pp 205 206 18 Alcott,`1日appy WoIIlell,"p 206
19 Sarah Elbert,ス扁 ピ]″r ror ra2θ:ぁ鮨aЛ嘘ッ
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