九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 野火 論 : 離人症 を手がかりに 河内, 重雄九州大学大学院人文科学府博士後期課程一年 出版情報 : 九大日文. 6, pp

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

「野火」論 : 「離人症」を手がかりに

河内, 重雄

九州大学大学院人文科学府博士後期課程一年

https://doi.org/10.15017/8492

出版情報:九大日文. 6, pp.59-79, 2005-06-01. 九州大学日本語文学会「九大日文」編集委員会

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権利関係:

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「野火」論

――

「離

人症

」を手

がかりに

河内

重雄

KOUC HI S h i g e o 一 はじめに ( そ れ 故、しばし ば目的論 作品 や書 簡全 てからトータルとしての 作 家 像 を 作り出 し、その ような形 で作ら れ 的 に ) ( 大岡 昇平像) た 以 上、もは や 作 品 の読み には 用 い ら れない にも か かわら ず、 「 野 火 本 文の 読み をそ の よ 」 ( 展望』 昭和二 十六年一月 号―八 月号 ) 『 (そうと うな 作家像 に沿う 形で再 生産すると いうよ うなこ とが し ば し ばなさ れている が、本 稿はそ のよう な は気 付か ないま ま) 研 究 の 状 況 に 新しい 風を 吹 き込む こと を目 標 にして いる 。そ こ で 「野火」本文 に見ら れ る 「離人 症 に 、」 ( 三 八 再 び野 火に ) 「」 注目 して みよ うと 思う トー タ ル と しての 作家 像 で は な く 離 。、 「 人 症 」 を 中 心 に据え ると き 、一つ 一つ の文 章 や単語 はこ れま で と は 違 った解 釈を 受 け入れ るこ とだ ろ う 。 さて 、 そ の 「離人 症」 だ が、ど のよ うな も のと考 え得 るの で 。『 』 あ ろ う か 試 みに新 福 尚 武 ・池田 数好 著 人 格喪失 感 () 離人症 を用 いて みる と、 (昭 和二十 九年七月 みす ず書房 ) 一 「 人 格 喪 失感と いう 場 合の「 人格 」は パ ースナ リテ ィの 意 味の 人 格では なく 、自 我と いう 意味 の人 格で ある 。従 つて 、人 格喪 失感 は自 我喪 失感 と 言うこ とも 出来 る し、ま た離 人 症 と も 呼ば れる 「身体 感覚 であれ 、 知 覚 、 記 憶、感 情 、 思 考 、 行 為 」。 で あれ、 そ れ が 「 私 の 「 私自身 の 「 私固有 の」 はた らき だ 」、」 、 とい う体 験調 をも つて 感 じられ 」な いと い った、 ①自我 の分 裂 ( 自 己 同 一 性の絶対 性を 剥ぎ取 るために比 較の対象 と という特徴が ある 。 して用 いられ るのは これで ある ) 二 「 患者に よつ て は質問 者の 推測 的 な形容 に容 易に 同意 する も の も あ る が 、なか なか 賛成 しな い者 がむ しろ 多い 。どう し て も表 現、 伝達 でき ない 感じ だとい う 。 患 者 の 体験で あ る か ら 、 体 験 の 深浅、 表 現 技 術の巧 拙、 教 養 、 性格に よる こ とは言 うま で もない」とあり、自分 の感 覚 や 見 出 し て い る 世 ( 離人症患 者) 界を 表現 する には 高い 知的 水準と 表 現 能 力 が 必要と さ れ る 野 。「 火」の 「私 が「 インテリ と 名 指 さ 」」 (田 村一等 兵) ( 三 五 猿 ) 「」 れて いるこ とが 思 い 出 される 。 三 ② 「景 色を 見て も、人 を 見 て も 生 気がな い 。 感 じがな い。 実 感 が わ か な い。新 鮮味 が ない。 ピッ タリ し ない。 目に 映る が 頭 に 入 らない 。遠 景 をぼー つと 見る よ うだ。 全体 がぼ やけ ては つき りし ない 。夢 の中 のよ うだ 。墨 を流 した よう だ。 何 かをと おして 見て いる よ うだ。 初め て 見 る 感じ。 頭が 無 感 覚 で何が 何

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だかよく 判らぬ 、③「東西 がさつ ぱり 分らぬ。方向がて んで 」 分ら な くなつ た。 向う がど れぐ らい 距離 があ るの かさ つぱ り見 当が つかぬ 、④「親 の顔を 想い 浮べることが 出来ない。過去 」 の こ と を 思 い 出せぬ 。昔 の ことを 思つ ても 自 分のこ とで はな い 。」 、「、 、 よ う だ 自 分が やつ たよ うに 思 われぬ 自宅の 構造 間ど り 形も はつ きり と頭 に浮 び ません 。地 球上に 初めて 生れ て 来 た よ うな、何 もかも 初めて 経験す るよう な気持で す 、⑤「何 だか 」 時 間 が たちま せん 、 停止し たよ うで 。 診察に 入る 時に 時計 を見 たの で、 今は 五 時だ と知 つて いま す。 しか し、 朝 のよ う でもあ るし、 昼 の よ う な 気もし ます 「今 は 十月 で す。が 、 秋 のよ う 」、 でも 、 冬 の ようで も、 春 のよう でも あ ります 、 ⑥ 「体の 連絡 」 がと れて ない。 体 が ふ ら ふ らし て一 緒 に 働 かな い。 首 から 上と 下 と 繋 が つてい ない 、 ⑦ 「 音 が遠く に 聞 えるよう だ。遠いと 」 ころ から 音 がして くる 。 耳 が 聞 えな い 「 話 して い る人の 声 が 」、 何だかこ の世の 声 では な いよう な感じです 、 ⑧ 「感情が なく 」 なつ た。 面白 くも 悲 しく もな い 。感情 が 涸 れて し まつた 。何 一 つ私 を感 動 させる もの が な く なつた 。 物 を見 ても 楽 しむこ とが 出来 ない。 さつ ぱ り 人 の気持 が 通 じな い。 笑 つても 私の 気持 は 笑 つ ていな い 、 ⑨ 「頭 が全 然 はたらかない。人の 頭の中から 」 考え てい るよ うだ 。人 の 言つた こと が 少 しも 判 ら ぬ 。考え られ ない。新 聞 を読 んでも 意味が 全 然 判 らない 、 ⑩ 「 ご飯 は 食 べ 」 ま す 。 しかし 味は あ りませ ん。 腹 に も たまり ませ ん。 腹 に力 が 入り ませ ん」 など の 報告 から 、離 人症 患者 には 一 及 び二を 土台 とした とこ ろの 、 ②風 景 の 不統 一性 (知 覚) (分節 的・言 語的) ③方 向 感覚の 喪失 (記 憶そのものは ④自分 の記憶と感じ ら れ な い が 故 の 記 憶の喪 失 残って いるが 用い難 い) ⑤時 間 感覚の 喪失 ⑥ 身体 の 不随 意 (一から して、こ れは自 分の 声 な ども例 ⑦幻聴 のよ うな 、 音 の 異 質 化 外で はある まい) ⑧ 感情 の喪 失 ⑨ 思考 の喪 失 ⑩ 味覚 の喪失 つま りは 限定 的な意 味で の 内 的世 界の 非 言語 化 がみ られる 。 四 離人 症 はもち ろん 精神 分裂 病 の一 つだが 、 他 の 精神 分裂 病 との 関係 について は 未 解 決 (とその症 状) (二十一世紀 の今も なお) で あ る 。離人症 ( 他の精神分 裂 病 の 症状との共存は現実 に認められる ) の症 状に し ても、 どの 症 状 が ど の 程度 出るの かに は 個 人 差 があ り「 徐々 に 起 ること もあり 、 急 に 起 る こともある。また 持 続 、 的で あ ること もあ り、 短 時間 発 作 様 に 起 るこ とも ある 。時 折 感 じら れる こと もあ り、 頻 回反復 する こと も あ る 。」 (昭和 五 といったこと が 書 か れてい る 。 木村 敏 著『 時間 と 自 己 』 には「時間 の 流 れ も ひ どくおかしい。 十七年 十 一 月 中央公論 社) 時間が ばら ばら に なって しま っ て 、 ちっと も 先へ進 ん で行か な

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い 。 て ん で ば らばら でつ な がりの ない 無数 の いまが 、い ま、 い ま、 い ま、い ま、 と無 茶苦 茶 に出 てく るだ けで 、な んの 規則 も まと まり もな い」 とい っ た体験 もあ り、 離 人症患 者の 、 (時間軸を もたな ⑪ 時間 軸 の 欠如 、そ のような形 で の 記 憶 の 蓄積 い記 憶) がう かが える 。こ れら は 今 日 の離 人症 観 とさ ほ ど 変 わらな いと 言えよう 。本稿 では 「離人 症」を この ようなもの と 考 え る 限 、 りに おい て 、 テ ク ス トがど のよ うに 読 めるの かを 検討 した い。 二 健全な自我と「離人症」 「」 、 、 離人 症 を こ のよう に意 味 付 け 本文に 目を 向 けてみ ると 本文中 の「野火」や 人 肉食 に 関 す ( 及 び 食 べ る 対 象 と し て の死体) る記 述 に「離 人 症 」 の症状 を見 出 す こ とが出 来る よ うに思 われ 。 る (「 」 ) これ らが 離人症 の原 因と考 えられ る根拠 につい ては次 章で述 べる いく つか 挙げ てみ よう 。 Ⅰ 今そ れを 記 述 しよ う として 、私 がい か にそれ を「 見て 」 さえ いな かっ たか を知 る。 怯 えた 兵士 とし て 、初め それ を 認 知 し なかっ たば か り で はなく 、 認 知し た 後 も、 眼 はそ の 細部 を 辿 ること が出 来な かっ た。 まず それ を 屍 体と 認 めた 眼 は、 既 知の 人間 の形 態 を 予期 しつ つ、 その上を 移動 した が、 眼 は 常 に 異様 な 変 形に よっ て 裏切 られた ので あ る 。 露 出し た 腕 と 背 中は 、 皮膚 の 張 力の 許 すか ぎ り、 人体 の 比例 を無 視 した 大 きさ に 膨脹 し、 赤銅 色に 輝 い ていた 。 或 る者 の 横腹 から は、 親指 ほ どの 腸 が 垂 れ 下 っ ていた 。 弾丸 の 入った 跡 であ ろうが 、 穴 の 痕跡 はなく 、 周囲 の 肉 の 膨脹 が、 その 腸 を ソ ー セ ー ジ のよ うに くび って いた 。 頭 部 は 蜂 に さ された よう に 膨 れ 上って いた 。頭 髪 は分 解 する 組織 から 滲 み出た 液 体のた め、 膠 で固 めたよ う に 皮膚 、、 。 に へ ばり つき 不 分 明 な 境 界を なし て 額 に 移 行し てい た 以 来私は この 光 景を 思い 出す こと なく 、 都会 の 洋裁 店等 に 、。 飾 られ た 蝋 人形 の 漠然 たる生 え 際 を見 るこ と が出来 ない 頬 は ふ くら み、 口 は 尖 っ ていた 。そ の 不動 な表情 は、 強 い ていえ ば「 考え る 猫 」に 似 てい た。 或 る者は 他 の者 の 脚 に頭 を 載 せ、 或 る者 はそ の 肩 を 抱 い てい た。 伏 した 或 る者 の 臀部 の 服 は 破 れ、 骨 が現 われて い た。 私 は こ の無人 の 村 に、 犬 と 烏 のみ多 い 理由 を知 った 。 (略) 私は 屍 体の 群 を 迂回 し、 会堂 の 階段 を上った 。 内部 は 整 頓 されて いた 。 両側 の高 い 窓 から 差 す 光 が 快 い調 和 を作 っ て、 木 の 床 や ベ ン チ に 積 った 埃 を 照 し出 して いた 。 大 きな (略 ) 帆立 貝 で作 った 聖 水 盤 の水は 干 上って いた 。 床 の 埃 に 伏 して 私は 泣 いた 。 十字 架 に 曳 かれ て 降 りて来 た 敬虔 な る私が 、何 故 ただ 同 胞 の 惨死 体と 、 下手 な 宗 教 画 家の 描 いた イ エ スの 刑死 体 だ けを見 なければ な ら ないの か。 私を ここ に 導 いた 運命 が 誤 って い るか、 私の 心 が 誤 っ て い る か 、その いず れ かであ る。

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「 デ ・ プロ フ ン デ ィス 」 昨夜 夢で 私自身 の 口 から 聞 いた言 葉 が 響 き 渡 った 。私 は 振 り 向 いた。 声 は 背後 階 上の、 合 唱隊席 から 来 たよう に思 わ れ た か らであ る。 しかし 眼 は 声 の 主 を 探 し な が ら 、私は それ が私 の 幻聴 で あ るのを 意 識 し ていた 。そ の 声 は 誰 か、 たし か に私の 知っ ている 人の 声 だ と 私 は 感じた が、 その 時 誰 であ るか は思 い 出 せなか った 。 今 で は知っている。 そ れ は 昂奮 した時の私自身の 声 だ 1 っ たので ある 。 も し 現 (⑦幻 聴のよ うな 、 音の異質化 ― 筆 者 注 ) 在 私が 狂 って いる とす れば 、そ れは この 時か らで ある 。 「 われ深 き 淵 より 汝 を呼 べり。 主 よ ね がはく はわが 声 を きき …… 」 少 年 の時 暗誦 した 旧約 の 詩句 が 頭の中 で 甦 っ た。し かし 会堂 の 天井 に 添 って 移 行す る私 の 眼 に映 る、 比 島 の 見すぼ らし い 会堂 の 内部 には 、何も 私の 呼 声 に 答 え る も のはな か った 。 「わ れ 山 にむか ひ て 目 を あぐ、わが 助 けはい づ こ より来 るや 」 この 時私 は私 自身 と 外 界と の 関係 が、 きっ ぱり と 断 ち 切 られた のを意 識 した 。地上で私の 救 (①自我の分 裂―筆者注 ) いを 呼 ぶ 声 に 応 える もの は 何もな い。 それ は 諦 め ね ばな ら ぬ、 と思 い 定 めた 。 (「」 「 」) 一 七 物体 ― 一 八 デ ・ プロフ ンディス Ⅱ到 ると ころ に 屍 体が あっ た。 生 々 しい 血 と 臓腑 が、 雨 あ がり の 陽 光 を受 けて 光 っ た。ち ぎ れた 腕 や 足 が 、人形 の 部 、。 、 分の ように 草 の中に ころ が っ て い た 生 きて 動 く ものは 蠅 だけ であ った 。 ここ に私 の 最 も思 い出 し 難 い時 期 が 始 まる 。そ れ からな お 幾 日 か 、私が 独 りで 歩 いた 時間 は、 暦 によっ て 確 認 され る が、そ の間 私が 何を し、 何を 考え たか を思 い出 すの に、 (略 ) 著し い 困難 を感 じる。 私が 生き てい たの はた し かであ った 。し か し私に は生 き てい るとい う意 識 がなか った 。 (① 自我の分裂 ―筆者注 ) (「」 ) 二七 火 、、 、 Ⅲ 私はあ の 忘却 の 灰 色の 期 間が 処 々 粒 を 立 てたよ うに 野火 の映 像で 占 めら れて いる のを 感じ る。 それ に 伴 う何の 感 情 も 思考も ない が、 (⑧ 感情の 喪失・⑨思考 の喪失 ―筆者注 ) ( 三 八 再 び 野火に ) 映 像だけ は 真 実 である 。 「」 Ⅳ 一つの 幅 の 広 い野 火の 映像 は、 その 下部 に 焔 の 舌 を見 せ て、 盛 んに 立 ち 騰 って いた 。 別 の 細 い野 火は 上が 折 釘 のよ うに 曲 って 、 回 転 する 磁石 の 針 のよ うに 揺 れて いた 。そ れ (略) は 殆 んど 、意 のま まに 変 形 し得る よう に思 わ れ た 。 野 火の形 は 最 初中 隊 を出 た時 見た もの に 似 てい た が、そ の 時 は た しかに その 下 まで行 きは しな か ったか ら、 燃焼 物

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は私 があの 忘却 の間 に見 たも のに 違い ない 。 私はさ らに 、 そ の 燃 える 籾殻 や 草 が、 それ ぞ れ一 つの 煙 (② 風景( 知 覚)の( 分節的・ 言語的) に 密着 して いる と感 じ る 意 識 の 不統一性。 このこ とについては 後で詳しく 述べ る―筆 者注 。) (⑪時 間軸の 欠如、 その ような 形 空 間に 密着 したそ れ 等 の 番 い は 、それ ぞ れ での記憶の蓄積(時間軸をも たない記憶)―筆者注) 時間の 密着 を 示 すべ き である 。 このこ と は 私 が一つ の 煙 を見 、 次 にそ の 煙 の 下 に行 った こと を 示 して いる 。 煙 を見 れば 、必 ず そ こ へ 行 ったの だ。 しか し何 のた めに ?― 思 い出せ ない 。私 の 記憶は また 白 紙 である 。た だこ の「 行っ た」 とい う 仮 定 から 、一 つの 姿 が浮 び上る。 再び 銃 を 肩 に、 丘 と 野の間 を 歩 く私 の 姿 で ある。 緑 の 軍 、。 。 衣 は色 褪 せて 薄 茶 色に 変 り 袖 と 肩 は 破 れてい る 裸足 だ 数 歩 先 を 歩 いて 行く 痩 せた 頸 の 凹 みは 、た しか に私、 田 村 一 等兵 で ある。 それ では 今そ の私を 見 て い る 私 は何だ ろ う …… やは り私 で あ る 。 一体私 が二 人い ては いけ ない なん て 誰 が き めた。 (「」 ) 三 九 死者 の書 簡単 に 補足 して おこ う。 まず Ⅰ 、 Ⅱ につ いてだ が 「野火」において 動物 は、 敵 とし 、 て 「 私 によ って意 識 される こと もあ るが、 そ れ以上に 」(田 村) 〈 食 べる 対象 〉 と して意 識 されて いる と 考 え られる 。そ の こ と がう かがえ る 箇所 をい くつか 挙げ てみ ると 、 ・ し かし 私が 次 に 考 えたの は、 やは り 彼 等 を 捕 えるこ とで あっ た。私 は 日 本の 鶏 のよ うに 肥満 して いな い 彼 等 が、 よ く 飛ぶ のを 知っ てい た。 私 は 慎重 に 近 より 、 不 意 打 しよ う とし た 。しか し、 彼 等 は私 が 手 を 延 ばす 前 に一 斉 に 飛 び 立 ち、遠 い地 面 に 降 りた。 私は地 に 伏 して 銃 を構 え、 慎重 に 覘 って 撃 った 。 彼 等 は グラ イ ダ ー ほ どの 角 度 で 飛 び 立 ち、 斜 面 を 下へ 、遠く 飛 ん で 着陸 した 。 そ し てさら に 短 く 連続 して 鳴 きな がら 、 駈 け て 行った 。 やる せ ない思 いが 胸 を 走 った 。 膂 力な く 射撃 をよ くし な 、、 い私 は かつて 椰子 の 根 方に 無為 に 横 た わって いた よう に 今 はこの 極 楽 鳥 を目の 前 に、 飢 え ていな けれ ばな らな いの (「) で ある。 一〇 鶏鳴 ・中 隊 が 南 方の 部 落 に 宿営 して いた 時 、 偶 々 営 舎附近 にさ まよ い 寄 った 牛 を 射 った こと があ る。 骨 と 臓 物 は野に 棄 て られ た。 頭だ け 原 形を 保 っ たその 巨 大 な 骨 は、 陽 の 下 で 忽 ち 腐 り、 日 に 日 に 堪 え 難 い 臭 気を 、 営舎 まで 送 って来 た。 我 々 の 胃 を生 理 的に 刺戟 する 、つ んと する 臭 気で あっ た。 (「」 ) 一六 犬 ・ 雨 が 降 り、 木 の 下 に 寝 る私 の体 の 露 出し た 部 分 は、水 に

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流さ れて来 た 山蛭 によ って 蔽 われ た。 その 私自 身の 血 を 吸 、 、、。 った 頭 の 平 たい 草 色の 可愛 い 奴 を私 は 食 べて やっ た (「」 ) 二七 火 とい っ たとこ ろか と思 われ る。 人や 死 体が 動物 の 比 喩 をも って 記 述 され てい る 箇所 が 甚 だ多い こと は、 今 さ ら 逐 一 列 挙 して 証 明 する必 要もな いであ ろうが 「野火」 における 死 体は 食 べる 、 対象 と しての 側面 を もって いる とは 考 えられ ない だろ うか 。こ ( 記述の 精緻 のこと は 、 動物 の 比 喩 に 加 えて 、 死 体 へ のこだ わり も考 慮 できる か もしれ ない。 Ⅰ の 死 体は その 記 述 か らもそ さ) のよ うな 側面 を 強 く もって いる こと は 疑 い得 ない であ ろう が、 Ⅱ の「 生 々 しい 血 と 臓腑 」の 大 量 の 死 体も 食 べる 対象 と して意 識 され はし なか った だろ うか 。 、「 」 、 次 に ⅢⅣ のあ の 忘却 の 灰 色の 期 間 (「」 ) 三八 再び野 火に ( 三 九 死 者 の 書 ) (平面な記 憶で 「あ の 忘却 の間 につい てだ が 」、 「」 、こ れ は な く 〈 そ も そ も 忘 れ て し ま っ て い る と い う こ と 〉 に ついてだが ) は「 離人 症 」 も 原因 かもし れな い が 、 しかし それ よ りはむ しろ 「 逆 行性 健忘 が 主 たる 原因 では ないか と思 」 三 七 狂人日 記 ) 「」 (平成十 われ る 「 逆 行性 健忘 」 に つ い ては 『心 理 臨 床大 事典 』 。、 の 説 明 が分かり やすいので 引 用 し ておこ う 。 五年 三月 培風館) 2 一 般 に、 記憶は 現 象 とし ては 干 渉 ある いは 時間 の経 過に 伴 って 減弱 する が、と く に 健忘 とい っ た場合 、 外傷 や 疾 病 を 契機 に ひ き 起 こ される 、 個々 の一 定 の 事 実や 一 定 の 期 間 に 限定 さ れる記 憶 障害 をい う。 この 健忘 のう ち、 外傷 や 疾 病 の 後 に新 しい こと が覚 え られな くな るの が 前 向 健忘 であ り 、これ に 対 して 突 然 の 疾 病 や 外傷 によ って 、 損傷 が 起 こ る 前 に 知 ってい たこ とが 思い 出せ なく なる のが 逆 向 健忘 で ある 。 古 い記 憶 ほ ど 強 固で 侵 され にく く、 新 しい記 憶 ほ ど 不 安 定 である 。さ ら に 健忘 は、 全 般 的 健忘 と 部 分的 健忘 と に 区 分さ れるが 、多 く の場合 は 後 者で あ る。そ して この 部 分的 健忘 は、 全体 が 不明 瞭 に 追 想さ れる 概 要的 なも のと 、 明 瞭 な 追 想 区 間 の中に ポツ ポツ と 健忘 が 入 る 分 離的な もの (略) とに 区別 される。 これに 対 して 、 脳 にま ったく 異常 が見 いだ さ れない のに 記憶 障害 が 起 こる こ とがあ る。 これ が 心 理 的要 因 によ るも ので 、心 因健忘 とよ ばれ て い る 一過性 の 健忘 であ る。こ れ は情 緒 的に 動 揺 させら れる よう な 不快 な出 来 事 の 後 に 起 こ り、 障害 の 程度 はま ちま ちで 、 逆 向性 全 健忘 が多 い 。この 健忘 で 最 も 頻 繁 に み ら れるも のが ヒ ステ リー性 健忘 であ る 。そして、 この 健忘 がさらに ひ どく なった (→ヒステリー ) 形は 徘徊 という状 態 で見受けられ る。 徘徊 は意 (は いかい) 識 がは っき りし ない まま 突 然 さま よい 出し 、 そ の 事 実に つ いて 完 全に 健忘 がみら れる 状 態 とし て 定 義 さ れ ている 。 ヒ ステリー性 健忘 を 最 初に 包括 的に 説 明 し たのは ジ ャネ であ る が 、 現 在 の 説 は フロ イト の そ れ に 近 Janet, P. Fre ud,S . く、 ヒ ステ リー 性 健忘 を 抑圧 の 働 きによ る も の と考え てい る。こ の 説 によ ると 、 記憶は 力 動 的な シ ステ ム であ り、 自

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我を 傷 つ ける情 報 を 含 む記 憶は シ ステ ム 内 で 抑圧 さ れるこ (「」 ) とに なる。 健忘 、。 「 」 補足 は以 上で 終 え本 筋 に 戻 ろう 先 に 挙げ た 四 つの 野 火 や人 肉食 の記 述 以 外 の「 野火 」 等 に目 を向 けて みる と、 なる ほ どそれら の記 述 につ いては 時間 軸 的に 整然 としている (記憶) ように 思わ れる 。 しかし 、そ れ は テ ク スト 全体 に ほ ぼ 満遍 なく ち り ば められ た風 景 的な意 味で の「 自 然 」の 記 述 によ るた めと は考えら れ ないだ ろうか 。もう 少 し言うと 「自 然 」に 関 する 、 () ( ) 記 述 につ いて は 自 我 が 保 たれて いる 、 ほぼ ← →①自 我の分 裂 とは 考えら れない だろう か 「離人症」の 〈 時間 の 非連続 性 〉 。 に 抗 うか のよう に 「 自 然 」の 記 述 には 〈 過去 ・ 現 在 ・ 未 来 〉 、 の意 識 が 織 り込 まれ てい る。 ・ 林 の入 口 で 道 は二 つに 分れ てい た。 正 面 は 丘 を 越 えて 真 直 に 病 院 へ 行く 道 、 左 は 林 の中 に 丘 の 鼻 を 廻 って 、同じ 谷 間 へ 入る 道 である 。 丘越 えの 道 が無 論近 いが 、私 は 既 に 昨 日 から 二 度 往 復 して その 道 に 飽 きて いた 。目 的の な い者の 気 紛 れか ら、 私は 未 知の 林 中の 道 を 取 る気 に なった 。 林 の中 は 暗 く 道 は 細 かっ た。 樫 や 櫟 に 似 た 大木 の 聳 える 間を 、名も 知 れ ぬ 低 い 雑 木 が 隙 間な く 埋 め、 葛 や 蔓 を 張 り め ぐらし てい た。 四 季 の 別 なく 落 ち 続 ける 、 熱帯 の 落 葉 が 道 に 朽 ち、 柔 ら かい感 触 を 靴 裏 に 伝えた 。 静寂 の中に 、新 、。 しい 落 葉 が武 蔵 野の 道 のよ うに かさ こそ と 足 許 で 鳴 った 私は うなだ れ て 歩 いて 行っ た。 奇怪 な 観 念 がす ぎ た。 この 道 は 私が生 れて 初め て 通 る 道 、、 で あるに も 拘 らず 私は 二 度 とこの 道 を 通 らな いで あろ う とい う 観 念 であ る。 私は 立 ち止 り、 見 廻 した 。 なんの 変 哲 も なかっ た。 そこ に は私が その 名 称 を知 らな (直 いという だけで、 色 々 な 点 で 故 国 の 木 に 似 た 闊 葉 樹 が 静 まり 返 ってい るだ けで 立した幹 と、開い た枝と 、垂れ た葉と) あ った。 それ は私 がこ こを 通 るず っと 前 から 、私 が来 る来 ない に 拘 らず 、こ う し て 立 って いた で あろう し、 い つ ま で (「」 ) もこの まま で い る であろ う 。 二道 ・ 比 島 の 林 中の 小径 を再 び 通 らな いの が 奇怪 と感 じ られた のも 、や はりこ の 時 私 が 死 を 予 感して いた た め で あろう 。 我 々 はど んな 辺鄙 な 日 本の 地方 を 行く時 も、 決 して こう い う 観 念 には 襲 われ ない 。好 む時 にま た来 る 可 能 性が、 意 識 下 に 仮 定 されて い る た めであ ろう か 。 し てみれ ば我 々 の 所 謂 生 命 感 と は 、 今行う とこ ろを 無 限 に 繰 り 返 し得 る 予 感に (「」 ) あ る の で はなか ろう か 。 二道 ・私 は 改 めて 目の 前 の水に 見入 った 。 水は私 が 少 年 の時 か 、。 、 ら 聞 き 馴 れた あの 囁 く 音 を 立 てて 流 れてい た 石 を 越 え 迂回 し、 後 から 後 から 忙 し く現わ れて 、流 れ 去って いた 。 (「」 ) それ は無 限 に 続 く 運動 のよ うに 見え た 。 八川

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・ 輝 く 月光 の 行 き わたっ た 空 が、 新し い 渇望 をも って 私の 眼 を 吸 い込 んだ 。私 はこ の 感覚を 知っ てい た 。 渇望 は容 易 に「 生 へ の 執 着 」と呼 び得 る も の である が、 そ れが私 の 胸 に 起 す 感 覚は、 私の 平 穏 な生 活 の過 去に おい て、 既 知の も のの よう に思 われ た。 幾 度 か私は こう いう 空 を、違 った 緯 (「」 ) 度 の 下 で 似通 った気 持で 眺 め た ことが あっ た 、。 九月 ・ 二つの 岬 を形 づ くる 丘 の 脈 は 、 風景の 両側 に、 競 うよ う に 緑 に ふ くれ た 頂 を 重ね なが ら、 この 山 地 ま で つなが って (「」 ) 来た 岬 の形 は見 覚え がな かっ た 。。 一一 楽 園の思 想 ・ 道 は人二 人 通 るく らい の 幅 で 真直 に 林 を 貫 い ていた 。 木 々 が 両側 に 並 木 のよ うに 梢 を 光 らして 並 んでい た。 私 は 幾 日 もこれ ほ ど 広 い 道 を見 たこ とがな か っ た 。 (「」 ) 一四 降路 ・私 は 歩 き出 した 。 段々 飛 びに 明 るくな って 行 く野に 、私 の ほ かに 動 くも のは なか った 。 草 を 踏 む 靴 は 露 に 濡 れ、 靴 音 だけ が 響 いた 。 私は 自分 の 跫 音 に 追 われ るよ うに 、 歩 いて 行っ た 。私は ふ と 前 に も、私 がこ んな 風に 歩 いて いた こと があ った と感 じ た。い つど こで あっ たかは 不明 であ るが 、 過去の 不定 な 一 瞬 にお いて 、私 は やはり こう して 歩 いてい た。 異境 の 不 安 な 黎 明 を 歩 くと いう情 況 は 、 確 かに 私 にとっ て初 めて の 経 験 の は ずであ るが 、今 私の 感じ てい る感 情は 未 知 ではな (「」 ) い。 一四 降路 ・ 風 が吹 いてい た。 か つて私 が 祖国 の 夏 の 海岸 で吹 かれ た 風と 、同 じ 湿 度 と 匂 いを 持 った風 であ った 。 日 を 照 り 返 す 海 面 を 渡 っ て 来 て、私 の体 を 孤 独 な一 点 に 包 み、 頬 をか す (「」 ) め 脚 間を 抜 けて 颯 々 と吹 き過 ぎ て行 った 、。 一六 犬 ・こ の 道 は 昨夜 は二 度 と 帰 るこ とは ある まい と思 っ ていた 。、 、 道 であ った その 道 を 逆 に 通 るこ とは 通 らな いこ とよ り (「」 ) 一 層奇怪 であ った。 二〇 銃 ・自 然 は、 昨日 から の 砲 撃 によっ て、 新し く 破 壊 され てい た 。野は 蟻 地 獄 のよう な 摺鉢 状の 穴 で 蔽 われ 、 林 の 樹 は 幹 が 折 れ、 枝 が 飛 んで いた 。 到 ると ころ に 屍 体が あっ た。 生 々 しい 血 と 臓腑 が、 雨 あ がり の 陽 光 を受け て 光 った 。ち ぎ れた 腕 や 足 が、 人形 の 部 、。 、 分の ように 草 の中に ころ が っ て い た 生 きて 動 く ものは 蠅 だけ であ った 。 ここ に私 の 最 も思 い出 し 難 い時 期 が 始 まる 。そ れ からな お 幾 日 か 、私が 独 りで 歩 いた 時間 は、 暦 によ って 確 認 され る が、そ の間 私が 何を し、何 を 考 え た か を思い 出 す の に 、 (略 ) 著し い 困難 を感 じる。 川 と 原 と 草 と 林 の、 単調な 繰 り 返 しの 間に、 自 然 は 砲 撃

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の 跡 を 絶 ち、 血 と 臓腑 を持 った 屍 体は なく なっ た。す る と 再び あの 私の よく 知っ ている 臭 いが 漂 い 始 めた 。 道 の上、 (「」 ) 林 の 縁 に私 は 自 然 に 死 んだ 者達 を見 た 、。 二七 火 ・ 一つの 谷 があ った 。私 はそ の 谷 を 前 に見 たこ とが ある と 思 った。 日 本の 鉄 道 の沿 線 で見 馴 れた 谷 であ った 。 車 窓 に 近 く 連 なっ た 丘 が 切 れて 、 道 もな い 小 さな 谷 が、 深く 嵌 入し てい 。、 、 、 るそ の 谷 の 眺 めは 少 年 時か ら 何 故 か私 の気 に入 って 、。 汽車 がそ こを 通 る 度 に必 ず 窓 外 に 眼 を 放 った もの であ る (「」 ) 三〇 野の百 合 ・ 次 の私 の記 憶は その 林 の 遠見の 映像 であ る 。 日 本の 杉 林 の ように 黒 く、 非 情な 自 然 であ っ た。私 はそ の自 然 を 憎 ん (「」 ) だ。 三 六 転身 の頌 「自 然 」には 他 にも 〈 方向 感覚 〉 や風 景 等 の 〈 規則 性 〉 など も 、「 」 「 」 織 り 込まれ てい る が これ らは 自 然 に 対 して いる 時の 私 の 自我の 健 全さを 示 しては いない だろうか 。このこと (田村 ) ( 樫や櫟に 似た大 木 ( 二 につい ては 「 自 然 」の 記 述 の書 き分 け 、 「」 「 道 「クリス マス・ トリー のよう に ( 六 夜 「一本の枯 木が白 い樹 」) 、」 「 」) 、 も、以 前 見た よう な 風 幹を 光 ら せて倒 れていた ( 一 五 命 )な ど) 」「 」 景で はな いと いう こと を 際立 たせ てい ると いう 意味 で考 慮 でき よう。 、「 」 、 もち ろん 他 の野 火 等 が 整然 とし てい るこ とに つい ては 他 に も 考え得 るか もし れな い。 例 え ば 「 一 はじ めに 」の 四 に 挙げ た、 発 症のタ イ ミ ン グ の 不 確 定 さ。あるいは 「一 はじ 、 () ( ) めに の 四 をか らめた 私 の 離人 症 の 症状 」、 「」 「 」 田村 病 状 ( ま あ、 そ れ だ け あ な た の 症 状 が 軽 い と い う ことです から、 御心 の 軽 さ 「 配 はあ り ませ ん 「 医師 が 私 の精神の 状 態 を 自分に 納得 す るよう な、 誇 らか 」、 な 眼 で 私 を 見据 え、 諾 いて 去 った 後、 私 は一 人 庭へ 出 ていった ( 三 八 。」「 。た だ、 前 者はともかく 後 者の 〈 軽 さ 〉 は、 自我 再び 野火に」 )) の分 裂した 状 態 で 戦 地 に おいて 時 折 見出して (つ ま り 「離 人症 )」 いた世 界 に 秩序 を 与 えようと している ( そ のよ うな形での 記憶 ) 〈〉 、 戦 地における「自 然 」から「 精神病 院 」 内 にまで ( 与 え 得 る) (精 神 病 院 」 内 につい ては、 Ⅳ に おける「 見 ている 続 く 健 全なる 自我 「 私 」が健 全 で あることを 端 的に 示 していると 言えよ う 「 再 び 銃 を 肩 に、 丘 。 と野の 間を 歩 く 私 の 姿 「たしかに 私 、田 村一等 兵であ る 「 その 私 」等 と 」、」 、 あるが 「離 人症」 の者は も ちろ ん程度 の 差 はあ るにせ よ 「 私 」 という 語は 、、 を 指 し て い る とは考 えら れな い だろう か。 使 い難い であ ろ う) い ずれに せよ 「私 は 健 全な自 我の経験 を 、」 (田村) ( 自 然 ) 「」 頼 りに 「離 人 症」的 経験 に 秩序 を 与 、 (自己の 経験 ではない 経験 ) えよ うとし ている 、言 い 換 (そし てそれはある 程度 達 成されて いる ) える と、 言語 的自 我を 頼 りに 非 言語 的自 我 に 秩序 を 与 えよ うと して いると 言え る 。 三 「離人 症 」 の原因

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前 章で はテ ク スト に 認 め 得る「 離人 症 」 の 症状に つい て 述 べ たが、本章では「 私 が 「離 人症 」 になっ た 原因 、一 方 」 (田 村) 、。 で自 我が 健 全に 保 た れてい る 原因 につ いて 少 し 考 えてみ たい 『人格 喪失 感 』 の 「 第 四 章 発 生 機転 につ いて の 諸 ( 離人症 ) 」 、 、、、、 説 には 感覚 説 体感 説 感情 説 意 欲 説 ( ) () () ( ) 一二 三四 ジ ャネ ーの 説 批 判的 小 括 の 六 つの 項 目が あり、 そ (五) (六) 、 れ ぞ れの 観 点 から 原因 につ いて考 察し て い る が 、 結 論 として は 原因 は 保 留 してい る。し かし 「野火」本文の「自 然 」の記 述 、 には 〈 身 体でつな がる 対 、 (つ な が っ た こ と がある・つなが り得 る) 象 として の 女 性 〉 の記 述 が 複 数見ら れ 「 野 火」や 人 肉食 にし 、 ても 食 べると いう 形 での身 体的 つな が り が 含 意さ れて いる と考 え得るの で 〈 自我意 識 と身 体 〉 とい う 観 点 から ア プロ ー チ し 、 て みよう と思う 。だが その 前 に 「 野火 」本文にお ける 女 性的 、 「」 。 自 然 を 確 認 して おこ う () 深読 み かもし れない ものも 挙げ てある 1 横手 に 彼 岸花 に 似 た 褪 紅 色の 花 を 交 えた 叢 が 連 り、 その 向 うの 林 の中 で、 十 数人 の 兵士 が 防 空 壕 を 掘 って いた 。 (一 出発 ) 「」 2 野が 展 けた 。 正 面 は一 粁 で 林 に 限 ら れたが 、 右 は 木 のな い 湿 原 が 尻 ひ ろが りに 遠く 退 いた 先 に、 この 島 の 脊梁 をな す火 山 性の 中 央 山 脈 の 山 々 が 重 なり 、 前山 の一 支脈 は 延 び て、 正 面 の 林 の 後へ張 り出 して 来て い た。そ の 伏 した 女 の 背 中の よう な 起伏 が、 次 第 に 左 へ 低 ま り 、一つ の 鼻 でつ き たと ころに 、 幅 十 間ば かり の 急 流が 現わ れ、 丘 は ま たその 対 岸 に高 まっ て、 流れ に沿っ て 下 り、 この 風 景 の 左 側 を 囲 (「」 ) っ ていた その 先 に 海 が あ る は ずであ った 。。 二道 3 道 は 林 の中 で 丘 裾 の 線 をな ぞ って 自 然 にう ね って いた 。 緑 の 丘 肌 が 木々 のあわ いに 輝 いた 。 林 が 途 切 れ ると、 丘 の 夢 幻 的な 緑 を形 づ くる 雑 草 が、 道 傍 まで 降 りて 来た 。 平 ら 、、 、 な 稜線 に人 に 似 た 矮小 な 木 が ぽ つん と 立 ってい るの を (「」 ) 私は 認 めた。 三野 火 4女 の 背 のよ うな 優美 な 側面 は、 い つか意 外 に 厳 しく 狭 い 正 面 に 変 り、 三 角 の 頂 上から 、 両 足 を ふ ん ば っ た ように 、二 つの 小尾 根 を 左 右 に 投 げ 落 して いた。 そし て そ の あわい の 小 さな 窪 みに 、 肱掛椅 子 の形 の 玄 武 岩 を 支 えて いた 。 先 の 方の 尾 根 を 廻 れば 、 病 院 のあ る 谷 間 へ 出る かも 知れな い 。 (「」 ) 三野 火 5 病 院 の 附近 は、 住民 の 開墾 した 玉 蜀黍畑 が 草原 を 切 り 取 り、 収穫 を 終 えた あら わな 畦 が、 前 面 の 丘 裾 まで 続 いて い た。 丘 の 稜線 は、 中 隊 の 側 か ら 見 るのと 同じ 柔 和 な 曲 線 を 描 いて い るが、 暗緑 色の 雑 木 が、 乱雑 に 頂 上 近 くま で 匍 い 上り、 処 々 赭 土 が 露 出し て 、なん とな く 荒 れ 果 てた 裏側 の (「」 ) 感じ を 与 えて いた 。 四 坐 せ る者等

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6 私が 命 を 断 つ べ き は 今と思 われ た。 香 わしい 汁 と 甘 い 肉 を持 つ 果 実が 頭上にあ り、こ こ で 私 は 徒 らに 飢 えて いる 。 もし 私 がいつ まで も こ こ を去ら ない な ら 、 やがて 樹幹 に 醜 くし がみつ い て 、 息絶 え ね ばな らぬ かも 知れ ぬ。 まだ 自分 の行 為を 選 ぶ 力が 残 って い るうち に、 自分 に 出来る こと を (略) す るべき で は な かろう か。 私は過 去を 探 り、 その時 を 確 めよ うと し た。記 憶は なか な か 来なか った 。そ の時 私は 私を 取 り 巻 く 椰子 の 樹 群 が、 変 貌 して いる のに 気がつ い た 。 それ は私 が過 去の 様々 な 時にお いて 、 様々 に 愛 した 女 達 に 似 てい た。 踊 子 のよ うに 、 葉 を 差 し上 げ た 若 い 椰子 は、 私の 愛 を容 れず に去っ た 少 女 であ った。 重 い 葉 扇 を 髪 のよ うに 垂 れて 、 暗 い 蔭 を 溜 めて いる 一 樹 は、 私 へ の 愛 のた め 不 幸 に 落 ちた 齢 進 んだ 女 であ った。 誇 らか に 四 方に 葉 を 放 射 した 一 樹 は、 互 いに 愛 し合 いな がら 、そ の 愛 を自分 に 告 白 する こと を 諾 じな いた め 、 別 れ ね ばな らなか った 高 慢 な 女 であっ た。 彼 女 達は 今私 の 臨終 を見 届 ける ため に、 ここ に 現 わ れ たよう に思 われ た。 私は 改 めて 彼 女 達と 快楽 を 共 にし た 瞬 間を 思い 浮べ た。 或 る 女 の 腿 は 別 の 女 の 腕 の 太 さし かなか った 。 しかし 快楽 の味 わいは 、 死 に 近づ いた 私の 肉 体の メカ ニ ス ム によ って 思 い出に 入り 得ず 、そ れに 先立 った 渇望 だ け が思い 出さ れ た。 私は 月光 の 渡 った 空 へ の 渇望 が、 或 る 女 が私 が 彼 女 を 棄 てる 前 に私 を 棄 てた 時、 私の 感じ た 渇望 に 似 てい る ことに 思い 当っ た。 私の 手 の 届 か ないと ころ へ 去った 女 の心 と体 に 、私は 手 が 届 かない とい う 理由 で、 ひ たす ら 焦 れた 。 (九 月) 「」 。、 7 一つ の 丘 があ った 両側 を 細 い 支 流に 区 切 られ て 独 立 し 芒 が 馬 の 鬣 のよ うに 、 頂 上まで 匍 い上っ ていた 。そ の形 を (「」 ) 私は 何 故 か 女陰 に 似 てい ると 思っ た 。 一〇 鶏鳴 8 林 が 尽 き、 草原 が 月 に 照 され て 傾 き、 道 は 草 の 影 を 孕 (「」 ) んで 黒 かっ た 道 はま た 木下 闇 に入っ た 。。 一四 降路 9 林 が 切 れ 広 い野 に出 た。 月 は 巨 大 な 赤 い 歪 形とな って 、 遥 かな 林 の 頂 に かかっ てい た。 そ の 弱 い 光 は野 に 充 満 し (「」 ) た 乳 色の 光 と違 って いた。 一四 航 路 明 るさ は 急 速 に 増 しつつ あっ た。 林 に行き 着 き 振 り 返 る 10 と、 空 は 既 に 茜 から 青 に 移 り、 遥 かに 雲 に 閉 さ れた中 央 山 脈 の 主 峰 の 前 に、 端 山 が 緑 を現わ し 始 めて い た。そ の 緑 の 中に 褐 色の 斑紋 を作っ てい る の は 、私の 出て 来 た 畠 であ る と 思 わ れ た。私 は私 のか つて の 楽 園 を、 昔の 女 を見 るよ う (「」 ) な無 関 心で 眺 めた。 一五 命 左 方の 丘 を 縁 どる 雑 木 林 の 前 に、 一本 の 枯 木 が 白 い 樹幹 を 11

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光 らせ て 倒 れて いた 。そ の 狂 わし く 空 へ張 り上 げ た 根 の一 (「」 ) 条 一 条 も 私 は数 え る こ とが出 来た 、。 一五 命 (「」 ) 道 傍 の 木々 は私 を見 守 るよ うに 並 んで いた。 一五 命 12 遠 く、固 い 月 空 の 下 に、 私の 帰 っ て行く べき 丘 の 群 が、 薄 13 化 粧 した 女 のよ うに 、 白 く 霞 んで 、 静 まり 返 って いた 。 (「」 ) 二〇 銃 雨 はあ がっ てい た。 遠く 海 の上らし い 空 に、 鼠 色の 雲 が 14 厚 く 重 なっ た上から 、 髪 束 のよ うに 高い 積 雲 が 立 ち、 紅 く (「」 ) 染 って いた。 二六 出 現 万 物 が私 を見 ていた 。 丘 々 は野 の 末 に、 胸 から 上だけ 出 15 し、 見 守 って いた 。 樹 々 は 様々 な 媚 態 を 凝 らし て、私 の 視 線 を 捕 えよ う として いた 。 雨 滴 を 荷 った 草 も、 或 いは私 を 迎 えるよ うに 頭 をもた げ 、 或 い は 向うむ きに 倒 れ 伏 して 、 (「」 ) 顔だ け 振 り向い てい た 。 三 〇 野の 百合 草 の間 から 一本 の 花 が身 をも た げ た。 直 立 した 花梗 の上 16 に 、 固 く 身をす ぼめ た 花冠 が、 音楽 のよ うに 、 ゆ るや かに 。、 開 こうと して いた そ の名も 知ら ぬ 熱帯 の 花 は 芍薬 に 似 て 淡紅 色の 花弁 の 畳 まれ た 奥 は、 色 褪 せ 湿 って いた 。 匂 いは なかっ た。 「あ たし、 食 べて もい いわ よ」 と 突 然 その 花 がいっ た。 私は 飢 えを意 識 した。その 時再 び私の 右 手 と 左 手 が 別 々 に 動 いた 。3 (三 〇 野 の 百 合) 「」 この 他 にも 、 女 性 が 身 体 的につ なが る 対象 として 意 識 され てい る ことについ ては 「気 の 弱 い 女 中の 子 「 シ ニ ッ ク な 、」 、 ( 永松 ) 女 中 強 姦 者「 私 の 第 一の 直 感は 人 目 を 忍 ぶ 恋 人達が、 」、 安 田) (一 九 この 死 の 村 を 媾 曳 の場 所 に 選 んだとい うことで あっ た」 「 「 笑 って何か 喚 きな がら 、一 人の 比 島 の 女 が、 車 から 出 塩 」) 、 て来 た 彼 女 は 白 い 歯 を出 し、 警戒 の 米 兵 に身 を 寄 せて、 。(略 ) (二 六 出 現( 二 八 飢 屈託 なさ そうに 笑 った 「 母 を 犯 し 」、 」 「」 )「 「 妻 に離 婚 を 選 択 する 自 由 を 与 え たが、 驚 く べきこ 者と 狂者 」) 、 とに 、 彼 女 はそれ を 承 諾 した 。しか もわ が 精神 病 医 と私の 病 気 に 対 する 共 通 の 関 心か ら感 傷 的 結 合を 生じ 、私 を見 舞 うの を止 めた 今も 、あ の 赤 松 の 林 で 媾 曳 してい るの を、 私 はここ にい て もよく 知っているのである 等 も考 慮 でき 」 ( 三 八 再び野火 に ) 「」 よう 。 、〈〉 、『』 さて 自我 意 識 と身 体 の 関係 だが 人 格喪失 感 () 離人 症 には 、 自我意 識 の 内 容とし て身 体が 体 験され うる こと は言 うま でも ない 。こ の場 合 も 、 日常 的状 況で意 識 され る身体 は 主 に体格 の 大 小 とか 、容 貌 の 美醜 とか などの よ う な 外 面 的 差

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別 性で あ る。し かし 激 しい 苦 痛 とか 、 ひ どい 飢 渇 とか 瀕 死 とか の 非日 常 的な 状況 では、 こ の よ う な 差 別 性は全 く意 識 から 消 失して 有 機 的 感 覚 そのも のが 端 的に 意 識 され、 身体 が 強 く意 識 され るよ うに なる 。し かし 更 にそ れら の 痛 苦 が ひ どく なる と、 もは や 痛 みや 飢 渇 のみ が全 意 識 を 支 配 する ( 七―八 頁 ) ようになり、身体意 識 は 消 褪 する 。 とい う 看 過 できな い一 節 があ る 「 ひ どい 飢 渇 」に より「有 機 。 的感 覚そ のも のが 端 的に 意 識 され 、身 体が 強 く意 識 さ れ るよう にな」 り 、 そ の 飢 渇 がさ らに ひ どくな ると「もは (自 我 身 体 ≒ ) や 痛 みや 飢 渇 の みが全 意 識 を 支 配 す る ように なり 、身 体意 識 は 消 褪 する 「 飢 渇 」を 媒介 と し た 自我と 身体、 自 」。(自 我 飢渇 ≒ ) 我と 飢 渇 のつなが り の 強 さが 読み 取 れる が 6 の記 述 を 、 ( 特 に) 見る とき、 この『人格喪失感 』の 一 節 は そのまま用い (離人 症 ) られるよ うに思 われる 「私 は「 手 の 届 かない」過去 。」 (田村) の「 女 達」 に「 ひ たす ら 焦 れ 」 るが、 しか しそ れ は身体 的つ な がりが過 去に実 際 にあ ったその 延 長 線 上にあ ること を考える 、「 」 〈 「」 〉 とそ の 焦 れは 私 に と っ て 満 たさ れ得 る 渇望 () 田村 とは 考 えられ ない だろ うか 〈満 たされ 得る 「 渇望 〉 だから こ 。」 そ、テ ク ストの全体 に わ た っ て 女 性 (時 に「 渇 望」の 対象と して) 的「 自 然 」が 織 り込 まれ て おり、 満 たさ れ得る と い う 望 みが あ (自 我 飢渇 〉の 飢渇 が 安定 してい る か ら こ そ 、自 我が 破 綻 せず に 〈 ≒ 正 常 に 保 たれて いる とは考 えら れない だろう か 。この こ と る) は人 肉 を 食 べな が らもテ ク スト の 最 後 で 、 ( 安 田 達 ので はない が) 「 殺 しはし たけ れ ど 、 食 べ なかっ た」 に力 点 を 置 いて おり 、そ の 食 べた人 肉 にし てもそ の 記 述 は一 貫 して「 猿 の 肉 」 ( 意識 ) 、、 とな って おり や は り 人 肉 は 食 べて いな い に 力 点 を 置 いて いる つまり、人 肉食 に ついて は意 識 の上 ( 食 べ る対象 がい る「野 火 )」 で身体 的に つ な が り (食 べた のに食 べて いない と 意識 し ている 以上 ) (言 い 換 え ると、 人 肉 食の 飢渇 ( し かし 銃を 持 った 堕天 使 であっ 得な い 「 た 前 の世 の 私 は、人 間共を 懲 すつも り で、 実は 彼 等を食 べたかっ たのか も知 れな かった 。野火 を 見 れば 、 必 ず そこに 人間 を 探 しに 行 った 私 の 秘密 の 願 望 は、そ こにあったか も知れな かった )について は、 持 た ないでは いられ な 」 いにもかか わ らず、 永遠 に〈 満 たさ れ 得ぬ 「 渇 望〉 = 〈自我 飢渇 〉の 飢 」 ≒ と考えられることからも、そう 言え るよ うに 思わ れ 渇 が不 安定 ) 。「」 「 」 「 」 る 猿 の 肉 につい て 私 が 干 いた ボ ール 紙 の味 () 田村 を「記憶 している のも、 人 肉 」 (三 三 肉 ) (←→ ⑩味 覚 の喪失 ) 「」 は 食 べ て いな いとい う「 私 の 意 識 を 裏付 けて いる と言 」(田村) えよう。こ のよう な 意 味で 「この時私が 彼 を 、 ( 永松 ―筆 者注) 撃 った かど うか 、記 憶が 欠 け て いる。 しか し 肉 は たしか に 食 べ ( 三 六 転身の なか った。 食 べ たなら 、憶 えてい るはずである 」 「 と「 ボ ール 紙 の味」 を憶えていることと の間 には ズレ が 頌) 」 、 ある 。 以 上は 『人格 喪失感 』 、 (原 因につい て は 保留 を しつつ も (離人 症 )) の二 十 七 、二 十 八頁 の、 離人 症 はその 発病 の状 況に つい ても 、何 れも 著しい 類 似 点 を持 つて い る 。 それは 第 一に 発病 に 先立 つ一 定期 間、 強

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い感 動 体験 、 或 は持 続 的な 感情 緊 張 が見 出さ れる こ とであ る。 第 二は 、こ れら の 緊 張 が何ら かの 理由 で 俄 かに 解 消乃 至 頓 座 した 直 後 の 発病 が多 い 点 で あり、 第 三 は 、著し く 急 性に 発病 するこ と、 例 えば 、 或 る 病例 は「 頭 痛 がし て一 晩 眠 つて 醒 める と、 この 状 態 でした 」と 訴 え て おり、 症状 は すで に その初 期 から 強 烈 である 。 に 符 合して いると考え られる 「私 の「離人症 」の 原 。」 (田 村) 因 は、 人 肉食 とい う 満 たさ れ得 ぬ 飢 渇 をい だか ざ るを 得 なかっ たこと と言 える の ではあ るま い か 。 四 「 離 人 症」とベルグソン 『心 理 臨 床大 事典 』の 「 精神 分裂 病 」に は 次 のよ うな記 述 が 見ら れる 。 (本 文 中の 仏 語は 全 て 省 略 した) この ほ か、 とり わ け ベ ル グ ソ ンの 影 響 を受 け Be rgson, H . た ミ ン コ フ ス キ ーは 分 裂 病 の 基 本 障害 を現 M in kow ski,E . 、「 実と の生 け る 接 触 の喪失 」とし 「生き られた時 間」 であ 、 る人格の 躍 動 性を失い 、 そ の 反 応 とし て 病 的合 (貧 しい 自 閉 ) 理 主義 、 病 的 幾 何 学 主義 など の 空 間的 思考 に 頼 り、 さら に 精神 的な 常 同症 が 起 こる と した。 しかし、 この記 述 を 引 用する までも なく 「 離人症 」と ベ ル グ 、 (『 ベ ソ ンのつながりの 密 接 さはうかが え よ う 「 時 間と自 由 」 。 には「 耳 もとで 発 射 され ルグソ ン 全集 1 』 平 成十三年十月・白 水 社) た 大 砲 の 音 とか 、 突 然 点 ぜ られ たま ば ゆ い 光 と か は 、われ われ から 一 瞬 のあ いだ人 格意 識 [自我 意 識 ]をう ば いさる 。こ の状 態 はそ の 素 質のある 人の場合には 長 くつ づ くこと さえ 起 こり う (『 ベル グソ ン 全集 2 』平 る」と い っ た 記 述 があ り 「 物 質と 記憶 」 、 には「 視 覚的 記憶 を 保 存 するだけでは、た 成十三年十月 ・白 水 社) とえ 意 識 的に それ を 行なう とし ても 、 類 似 した 知覚 の再 認 には 不十 分な ので ある 。し かし 、 反 対 に、 シャ ル コ の研 究によ る 視 覚的イ マ ー ジ ュ が 完 全に 蝕 まれた 典 型 とし て有 名 に な った症 例 では 、知 覚 の 再 認 が すべて 消滅 して い るわけ では ない 。 報告 を 綿 密 に 読 め ば 容易に その こと がわ かる だろ う。 患者 はなる ほ ど 故 郷 の 町 筋 の名 を言 うこ とも 方 角 を見 いだ すこ と もでき なか っ 、。 、 たと いう 点 で は それ らを もはや 再 認 して いな い し か し 彼 は それ が 町 で あ り、家 が見 えて いる とい うこ とは わか って いた の 。。 、 だ 彼 はも はや 妻 子 を再 認 しなか った しか し 彼 らを 認 めつ つ 婦 人や 子 供 た ち で あ ること をの べ る こ とはで きた 「ピ エ ール 」、 ・ ジ ャネ が記 述 した 人格 分 裂 症 「 若 干 の 精神 病 患者 が、 彼 ら 」、 の 発病 につい てあ たえ てい る記 述 を読 むと よい 。 彼 らは しば し ば 奇 異 の感 、あ るい は 彼 らの言 うと ころ で は 「 非 現 実」感 を経 験し 、あた かも 知 覚 さ れ る 事 物 が 彼 らに とって は 起 状も 堅 固さ も 失 っ たかの よう で あるの が見 られ る だろう など の記 述音 」、 「 」「」 「」 響 は 依 然 きこ えて いる が解 釈で きな い 精神 聾 や 精神 盲 へ の言 及 が見 られる 。

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そし て 「 純粋 持 続 」や 「 純粋 知覚 「 純粋 記憶 」だ が 「 時 、」 、、 間と 自 由 「 物 質と 記憶 」に は、 」、 ・ まった く 純粋 な持 続 と は自我 が生 きる こ とに身 をま かせ 、 現 在 の状 態 とそ れに 先 行する 諸 状 態 との あいだ に 境 界を 設 け ること を 差 し ひ か え る 場合に 、意 識 の 諸 状 態 がとる 形 態 であ る 。 ところ が 、 空 間の 観 念 にな じんで いて 、それ (略 ) 、、 に 取 りつ かれ てさ えい るわ れわ れは そ れと意 識 しない で 純粋 の 継 起 を思 いうか べ る 際 に 空 間を 導 入 し て しまう 。わ れわれ は意 識 の 諸 状 態 を、も はや それ ら の 状 態 相 互 の中 に で はなく 、 並 び合 うも のと して 、同 時に 知覚 でき るよ うな ぐあ いに 並 置 する 。 要する に、 空 間 の 中に時 間を 投影 し、 持 続 を 延 長[ 広 がり ]とし て あ ら わすの で、 継 起 と はわれ わ れ にとっ て、 各 部 分が 相 互 に 浸透 するこ とな しに 隣接 して いる よう な、 持 続 した 線 とか 鎖 の形 をも つも のと な る。こ のよ うな イ メ ー ジ はも はや 継 起 的 で は な く同時 的な 後 、 先 の 知覚を 含 ん で いるこ と、 また 継 起 には 相 違な いが しか も ただ 一つの 同 じ 瞬 間 内 に入 りき れる よう な 継 起 が あ ると考 (略) えることは 矛盾 であ ろう と言う こと、 に注 目しよ う 。 純粋 持 続 とは 、質 的 変化 の 継 起 以 外 のも ので は ありえ ない 、、 、 はず であり それ ら の 変化 は は っき りし た 輪郭 もも たず お 互 いに 対 して 外在 化 する 傾 向も もた ず、 数 とのあ いだ に いか なる 血 の つ な が りもも たず に、 融 合し合 い、 浸透 し合 (略 ) ってい る。 そ れ は 純粋 の 異 質性 であ ろう。 持 続 につ いての われわ れの 普 通 の考 え方が 純粋 意 識 の 領 域 内へ 空 間が しだい に 侵 入 してくるこ とに 左 右 され てい る ことを はっき り 示 す 事 実は、 自我から 等 質 的時間を知 覚 する能 力を 取 り 去 る た めには、自 我が自 己 の調 整 機 構 とし て 利 用し てい る心 的 事象 の 比 較 的表 面 的 なあの 層 を、 自 我から 取 り去 るだけ で 事足 り る、というこ とである。 夢は ま さ に わ れ わ れ を こ のような状 態 に 置 く。な ぜ なら 眠 り は、身 体 器官 の 機 能を ゆ るめるこ と に よって、 特 に 自我 と 外 的 事 物 とのあ いだ の 交 流 面 を 変 容さ せるからで あ る。そ のとき 持 続 は も はや計測され ることはな く、感 じら れるも のとな り、 量 か ら質の状 態 に 立 ちもどる 。 流 れ た時間 の数 学 的測 定 は もはや 行 な われず、 あら ゆ る本 能と同 様 に ひ ど い あ や ま りもおかすが 、またしば しば 並 は ずれた 確 実さ をもっ て 働 く こ ともできる 漠然 とし た 一 つ の本能 に、そ の 席 を ゆ ずる。目覚 めている 状 態 におい ても 日常 の 経 験 に よ っ て 、われわれは 、質的持 続 、意 識 が 直 接 に 到 達す る持 続 、 動物 がた ぶ ん知覚 している持 続 と 、いわ ば 物 質 化 され た時 間 、 空 間 内 に 展開 さ れ ること によっ て 量 とな った 時 間 、 とのあいだ を 区別 するこ とを ( 時間と自 由 ) 教えられ ているはずである。 「」 ・実 際 には 、記 憶 に 浸 さ れ な い 知 覚 という もの はな い。 私た ちは 、自 分の 感 官 の 直 接 的な 現 在 の 所 与 に 、 過 去の経 験の 無数の 断 片 を 配 合し て いる。 しば しば こ の記憶 は私 たち の

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現実 の知覚 を 押 しの ける こと があ って 、そ の場 合私た ち が この 知覚 から 残 して おく も のは、 若 干 の指 示 、 古 いイ マ ー ジ ュ を 思い出 させ る た め の単な る「 記 号 」に す ぎ ない 。そ の か わ り に知覚 はた やす くて 手 っと り 早 いも のに なる 。し 、。 かし これ がも とで あ ら ゆ る 種類 の 錯 覚も ま た 生 じてく る この よ うな、 まっ た く 私 たちの 過去 に 浸透 さ れ た知覚 の 代 わりに 、成 人 の 完 成 さ れた意 識 の も つ 知 覚であ りな がら 、 し かも現 在 の中 にと じこ もり 、 他 のす べて の 仕 事 を 斥 けつ つ、 ひ たす ら 外 界の 対象 に 適 合す ること に 余 念 のない 場合 に も つ で あろう よう な 知覚を 考え たと て 、それ でい っこ う さ しつか えな い。 ひ とは 、私 たち がか って な 仮 設 を 拵 えて いる とか 、 個 人的 な 偶 然 的要 素 を とり去 っ て 得 られた この 理 想的 知覚 は 、もは や現 実 と は 少 しも 合 致 し な い と言う か も しれな い。 し かしま さに 私た ち が 示 そう と思 うの は、 個 人的 な 偶 然 的要 素 とは この 非 人格 的知 覚に 接 木 さ れ るもの だと いう こと、 こ の 知 覚が、 事 物 に つ い ての私 たち の 認 識 の まさし く 基礎 にある とい うこ と 、それ を 誤認 し、 記憶 力 が 加減 す るもの から それ を 区別 しな かっ たが ゆ え に こそ、 ひ とは 知覚 全体 を、 強度 が まさる 点 でし か記憶 と 異 なら な い ような 一 種 の 内 的で 主 観 的な 観照 にし てし ま ったと いう こ となのだ 。 さ しあ た り 知 覚 を 、 具 体的で 複雑 な私の (略 ) 知 覚、す なわ ち私 の記 憶に 充 たさ れて いつ も なんら かの 持 続 の 厚 みを 示 す知 覚 とは解 しな いよ う に 願 いた い。そ うで はなく て 純粋 知覚 、すな わ ち 事 実 上で は なくむ しろ 権利 上 存 在 す る 知覚と 解し てい ただ きた いの であ る。 これは 、 私 のい る場 所 にお り、 私同 様 に生き てい る 存 在 が、現 在 の 内 に 没 入 し、あ ら ゆ る 形 の 記憶力 を 排 して 、 物 質の 直 接 的か つ 瞬 間的な 観照 を 獲 得し うる 場合 にも つで あろ うよ うな 知 (「」 ) 覚で ある 。 物質 と記憶 ・ 諸 観 念 、す な わち記 憶力 の 奥底 からよ び 起 こさ れる 純粋 記 憶は 、 展開 して 記憶 心像 とな り、 次 第 に 運動 的 図式 の中 に はま り込 むこ とが で きるよ うに なる 。 これら の記 憶 は 、 い っそう 完 全な、 具 体 的 な、意 識 的 な 形 を とれば とる ほ ど、 ま すます 知覚 と 融 合す る 傾 向が あり 、知 覚は それ らを ひ き (略 ) よせるとともに、それらは知覚から 枠 組 を 採 用する 。 一方で は、 じっ さい 、 完 全な知 覚は 、私 た ちがそ れを 迎 えつ つ 投 げ かけ る記憶 心像と の 癒 着 に よってのみ 規定 さ れ、 また 区別 され る。 それ でこ そ注 意と いう こと も あるわ けで 、し かも注 意 が な ければ 、 機 械 的 反 応 に 伴 う 感覚の 受 動 的 並 置 があ る のみだ 。し かし 他 方では 、も っと 先 で 明 ら か に す る ように 、記 憶心 像自 体は 純粋 記憶 の状 態 に 還元 さ れる 限 り、 無力 なも のに 留 まるだ ろう 。こ の 記憶は 潜 在 的 であ り 、それ を 引 きよ せる 知 覚 に よって のみ 現 実的と なり 。、 、 う る それ は無 力であ っ て 現 在 の感 覚 へ と 物 質 化 しつ つ (「」 ) そ こから 生 命 と力 を 借 りるの だ。 物質 と記憶 (知覚) ( 分 節 とある 「 純粋 持 続 」 は「離 人症」 の 〈 ②風 景 の 。

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不統 一性 ⑪ 時間 軸 の 欠如 と 純粋 知覚 は ⑪ 的・言 語的 ) 、 〉 、「」 〈 ( 時間軸をもた ない 時間 軸 の 欠如 、 そ の よ う な形で の記憶の 蓄積 記憶 (記憶 そ ) 、④ 自分の記憶 と感じら れないが 故 の記憶の喪 失 )( ) のもの は残っ ている が用い 難い 知覚 〉 、「」 〈 と 純粋 記憶 は ② 風景 の 不統 一性、 ⑪ 時間 軸 の 欠如 、その ような 形 (分節 的・言 語的) での 記憶の 蓄積 、④自 分の記憶と感 じ ら (時間軸を もたない記憶 ) れないが 故 の記憶 の喪失 〉 (記 憶 そのものは残 っ ているが用 い難い ) とき わめ て 類 似 し て いると 言え よう 。 ベ ル グ ソ ンは 、こ れら を (そ れは我 々 も認め るとこ ろ であ ろ 現実に はあり得ぬものとしてい る が 「 離人 症 」 の 「 私 」 はその 体現者 とは考えら れな う) (田 村) 、 いだ ろう か 。 (『 ベル グ ソ ン 全集 6 』 平成十 三 さらに 「 道 徳 と 宗 教の二 源泉 」 、 には 、 次 のよ うな 一 節 があ る。 年 十月・ 白 水 社) この 科学 は 最 初 はきわ めて 限 られて おり、こ の 科学 のと らえる 宇宙 の メカニ ズ ム や、この 科学 の 支 配 する 延 長 や 持 続 は、 全体 の この一 部 にす ぎ ない 今 日 で は 、われ 。 (略) わ れは、 原 初的 信仰 今 日 の 科学 が、 その知 ってい る ― もの、 および 知ろ うと 望 ん でいるすべ て の もので、 覆 い か くして いる 原 初的 信仰 を ふ たたび 見いだ すため に ― は 、どう しても 内観 の 努 力を力 強 く こ ころみるこ とが必 要 である われわ れが 気 楽 で いられ るた め には、 現実 。(略 ) の 総 体の なかで くっき りと わ れ わ れ の 眼 前 に あらわれる 出来 事 が 、ある 意 図 に 衝 き 動 かされる ように見え なけれ ば ならな い。 事 実、自 然 的で 原 初的 な 確 信 は、 そう し た もの であ ろう 出 来 事 は、 わ れわれ の 願 いを かな える 。 (略 ) だ けの人 格をも たぬし 、わ れ わ れ の 命 令 に従 うには人格 を もちす ぎ て い る 。 だ が 、われわれ の 精神 は、容 易に、 出来 事 をこ のいず れかの 方向 に 押 しす す め るだろう 。 事 実 、本能 の 圧 力 によっ て、 仮 構 機 能とい う想 像 の 形 式 が、 知 性その ものの 内部 に出 現した。 仮 構 機 能は、そ の 働 く まま にして おけば 、 原 初的 に 描 き出さ れ る さま ざ まな 基 礎 的人格 によっ て、 神話 の 神々 の ご とくしだ いに高まっ て行 く 神々 や、 単な る 精 霊 のようにし だいに 低 い ものに なる 神 性や 、さら には 、心 理 的 起 源 のうち からただ 一 つ の特 性 純粋 に 機 械 的で なく 、わ れ われの 欲望 に 屈 し、 ― われわ れの意 志 にし たがう ような 特性 し か 保 持し な ― い 力をさ え、 つ くり出 すの であ る 。 「 延 長 」 や「持 続 」を 特徴と する「 科学 」は 〈 出来 事 はある 、 意 図 によ っ てつき 動 かされ てい る 〉 とす る 原 初的 な 信仰 を 押 し のけ てしま う。 そ の 「 科学 」を 取 り 払 い、 知 性の中 の 仮 構 機 能 ( 禁じ た り予防 した り を 働 くま まにす るこ とで 、 神話 の中 の 神々 「 あるい は 罰 した り す るため に 出 現 する神 」や 「 警戒 的で 復讐 的な 神」等。 神 については 「 魔術 的な 力 や 祈り がさし 向 けられ る神 々 は、知 性 を 照 らす た 、 めよ り も 意志 をさ さえる ためにつ くられ たあ る中間 的なも のから 、 下 と 上 に 分かれ て 生じ たの である 神は一 人の人 物であ る 神 は 長所 も欠 点 があ 、」 、「。 、 (ママ) れば、 性 格 も そなえて いる。 名前 も もって いる。 神は他の 神 々 と一 定 の 関係

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を 保持 してい る。神 はさま ざ まの 重要 な 機能 を 果 たし、 と りわ け、そ の 機能 、」 (「 」 ) を 果 たす のは その神 だけで ある いず れも 道 徳 と 宗教 の二 源泉 よ り 等 が見出されることになる 。 引 用を 要 約 といっ た 記述 が 見 られる ) す る と 以 上の ように なる か と思わ れる 。 座 標 空 間を 考え 出し た ( 物 質 の本質は 数値 化・ 均 質化 された 空 間の中で 拡 が デ カ ルトの「 延 長 」が 、その中 では 物 質の 本質が「 延 長 」ではなく り を もつこ と ) なるよ うな 神 的世界 を 消 し 去り、 私の い る 空 間に同 時に 精 霊 や キ ツネ の 霊 の ようなものが いる とい った 考え 方 ( キツ ネ憑き 等) ( ニュ ートンが時 間を平面 も 駆 逐 し、 数 値 化 ・ 均 質 化 された「持 続 化し た ( 鬼 等が う ご めく 特 ) 」が 日 本にお ける 草 木 も 眠 る 丑 三つ時 等 の時間 観 を 払拭 したことを考えると、 殊 に 意味 付け られた時間 ) 「 科学 」が 原 初的 信仰 を 覆 い 尽 くし てし まう とい うの も うなず ( 非 分節 ける 。 ベ ル グ ソ ン は、時 間的に も 空 間的に も 非 言語 的 で流 動 的で 無 限 に質 的 な 〈 純粋 持 的) ( 連続 的) ( ← → 数量 的) 「 物 続 や 純粋 知覚 純粋 記憶 等 の 概 念 でそ の 科学 」「 」、 「」 〉 、「 ( 質と 精神の二 元 化(デ カル ト、 数値 化・ 均 質化された 空 間( デ カル ト) 時 ) 間( ニュ ート ン)に 端 を 発 し、 カ ントが 感性 (時 空 間的認 識 )と 悟 性( 具 体 的、一 般 的な ものの 概念 等 。時間 と 結 合 して現象 に 作 用 「物そ のもの 」等 )、 の 概念 を用 いて体 系 的に まとめ た二 元 論、さ らには それに 関係 する 観念 論や 」の 孕 む 矛盾 を 乗 り 越 え よ う と した 「 純 唯 物論 等 を 枠組 とす る ) 。4 粋 持 続 」や 「 純粋 知覚 「 純粋 記憶」が 「 離人症」にき わめ 」、、 て 近 いとす れば 「野火」の 「私 は 「離人症」 になる 、」 (田村) ( 物語として の「野 火」の 前半 には 「 自 然 」の 中に 規則 性 こと で「 科学 、 」を 取 り 払 い、 それに よ っ て 神 を を 見出 す という記 述が 散見 され る ) 見 出 し た と 考 えられ るの で はない か。 主 に人 肉食 に 関 わる 場 面 で 神 が 現れる のは 偶 然 では ある まい 。 先 の「 道 徳 と 宗 教の 二 源 泉 」の 引 用の 少 し 後 には、 宗 教が 神神 という 偉 大 な人 物 にまで高 ま る と、 宗 教は か れら の 姿 に 似 せて 精 霊 を 考えう るだろう。す なわち、 精 霊 は 低 い 段階 の 神々 だろ う い っ そ う 正確 には 、そ れ 。 (略) はこの 恩恵 的 働 きの 永 遠 的なも ので (精 霊 のこ と― 筆 者注) あ っ た た とえ ば、 わ れわれ に 飲 み水 を注 ぐと いっ た 。(略 ) 行為 が そ れ で あ る 。 つ ま り、そうした 行為は 事 物 のうち に 局 在 さ れ る が 、 や が て 一 人の人間のうち に 局 在 され る こと が 可 能 で あ る 。 し か もその 行 為 は、固有 の、 独 立 し た 存 在 を も っ て い る 。 そ して、もしそ の行為が 限 りなく つ づ くな らば、 その 永 続 性 自 身 によって、 その行為 は 、 人 がその 水を 飲 む水 源 の、 人 々 を生 気 づ ける 精 霊 として うち 立 てら れ ること にな ろ う 死 者の 魂 は全 く自 然 に 。(略 ) 精 霊 の中 に入る だろう 。つま り、 死 者の 魂 は、自 己 の 肉 体 から離 れても 、 決 して その人格性 を 放 棄 する こと は な かった 。 死 者の 魂 は、 精 霊 に 加 わると 、 必 然 的に 精 霊 に 影 響 を 与 え、さ ま ざ まな 色合に 色 づ けして、 精 霊 を人 物 化 さ せ る よ う に す る 。 こ のようにし て、 精 霊 たち は、さ ま ざ に 異 な っては いるが 一 点 に 収 斂 する さま ざ まな 道 を (ママ) とお って 、つ いに は 完 全な 人格 に達 す るだろ う。

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とあ る。 死 者の 魂 は 精 霊 となり、 出来 事 の ( 低 い 段階 の神 々 ) 「」 もつ 意 図 その もの とな り、 永 遠に 生き 続 ける 。こ のこ とも 、 神 の出現と ともに 「私 の 死 の 観 念 が 〈終 着 点 と しての 」、 (田村) 〉〈 〉 。 死 から 死後 の生 へ と 変 わる 事 と無 関係 では ない で あろう しか し、 精神 病 院 内 で は 「 離人症」は ほ ぼ 回復 し ていると考 、 ( 私 はさ らに、その 燃 える 籾殻 や 草 が、 それ ぞ れ一つ の 煙 に 密 えら れ る 「 着 して いると 感 じ る 三 九 死 者の書 とあるが 密着 して いる と 感 」( 「」 )、 「」 「 じ る( 解釈 する )のは 正常 な 自我の 「 私 」であ ろ う「 密着 し ている 」とい 」。 ういさ さか不 自 然 な 表 現は 、それ らがも とは 密着 して いなか ったこ とを 示 し ていると考え られる。 同 様 に「 意識 の 空 間に 密着 したそれ等 の 番 い」も 非 、 分節 的であっ たと考 えられ よう。 それら を二 つに分 け、 空 間化さ れた時 間軸 上 に 配置 する 作業 は、 ベル グソ ンが 指摘 したと こ ろ の〈 通常 私達 の 意識 がし ので、 てい る 作業 (本 章の 「 純粋持 続 」 について の 引 用 参照 )である) 〉 (「」 ) 小 説 の 最 後 がも し 略 神 に 栄 えあ れ 「 () 」、 「」 三九 死者の 書 となって いるの ではな い だろう か 「 野 火」本文中には、 ベ ル 。 グ ソ ンの 名 前 が二 ヶ 所 見られ 「私 は か ね て ベ ル (一 四 降 路 「」 ) 、 」、 「」 クソ ンの 明快 な 哲 学 に 反 感を 持って いた とさ え あるが 私 の見出 す世界 は 思 弁 的な ベ ル グ ソ ン 哲 学 のそ れに 酷 似 (田村) して い ると言 えそ うだ 。 資料 をど う 扱 うかに ついては 〈 意味 の 源泉 〈 性質を 際立 、 〉、 ( あるいは思考 枠組 たせる ための 比 較 の 対象 〈 思考 枠 組 の 源泉 〉、 を形成 するた めの 議 論の対 象 さ )( 〉、〈 思考 枠 組等 を 解体・ 再構 築 する もの 〉 等 、 様々 あり 得 る だ ろう。 本稿 で は 『人 格喪 失感 れる) 、 』にせよ、 ベ ル グ ソ ン 哲 学 にせよ、もっぱら 〈 意味 の (離人症 ) 源泉 〉 として 用い た。 ベ ル グ ソ ン 哲 学 に 関 して は、 およ そ実 証 不 可 能な 思 弁 的世 界の 経 験 可 能性 の 示 唆 とい う 意 味 で、わ ずか に 〈 思考 枠 組等 を解体 ・再構 築 する もの 〉 として 接 (さ れ る ) し てみた 最 後 に どのよ うに 用 い る かはと もか く として 野 。、 、「 火」 と ベ ル グ ソ ン 哲 学 と の間に 大 なり 小 なり つ な が りを見 出せ (「 」 る 事 柄 をい くつ か 列 挙 して おこう いずれ も 道 徳 と 宗教 の二 源泉 。 よ り ) ・ 社 会 的自 我と 個 人的 自我 との 間の 葛 藤 から 起 こる 道 徳 的 苦 悩 ・ 第 一 次 大 戦 の 兵士 達の 〈 大 砲 より も 銃 によ って 狙 わ れる方 が 恐 ろし かった 〉 という 報告 ・ 神 秘 家が 神 秘 的体 験を 語る こと と 愛 ・ 神話 に おける 〈 物理 的 秩序 〉 と 〈道 徳 的 秩 、 (自 然 の 規則 性 ≒ ) 序 、 社 会 的 秩序 〉 との 間の 境 界の 曖昧 さ ( 法律 等) ・見 神 は自 分 の知る 宗 教が 教え る 観 念 に 依存 ・ 仮 構能 力の 豊 かな ひ ろ が り か ら生ま れる 文 学 (不 自 由 )( 自 由 ) ・必 然 と 偶 然 ・ 神 に 捧 げ る 祈 り ・ 血 によ る、 神 との つな がり の深 化 ( 生 け 贄 の) ・同 書に 見ら れる 様々 な 神 の 紹介 この 他 に も つ ながり を見 出 し得る 事 柄 はあ る が、こ のく らい で とど めて お く 。 五 おわりに

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