バイオミメティクスの世界
著者
窪田 佳寛
著者別名
KUBOTA Yoshihiro
雑誌名
工業技術
巻
40
ページ
18-21
発行年
2018
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00009573/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja*
*
*講演会から***
バイオミメティクスの世界
I
n
v
e
s
t
i
g
a
t
i
o
n
with Biomimetics
窪田佳寛*
1.はじめに
生物の機能を生かしたものづくりとして期待されて いるのがバイオミメティクスである.バイオミメティク スによるものづくりは,既に新幹線のパンタグラフやテ レビ,テープ,スポーツ用具などに展開をしている.新 幹線であれば運行時に発生する騒音を軽減するため,生 物に学んだ先頭形状やフクロウの羽に学んだ、構造がパ ンタグラフに適用されている.このように,解決が難し い問題の突破口として活用されている.言い換えれば, 目的を達成するために生物を学んでいる. 今回の講演では,2つの題材について示した.1つは, 現在東洋大学で取り組んでいる「世界のトップを目指せ る競技用国産カヌー開発」について,もう 1つは葉が 持つ「レジリエンスなネットワークの形」についてであ る.2
.
世 界 の ト ッ プ を 目 指 せ る 競 技 用 国 産 カ ヌ ー 開 発 本取り組みは,東洋大学のものづくりとして人間工 学・運動生理学、流体力学、バイオミメティクス(生物 模倣)による大学の「知」及び産業界が有する「技術」 を融合させた産学連携プロジェクトである.これにより 初の競技用国産カヌーを製作し 13年後の東京」で日本 人選手が使用し優勝を目指し2017年5月からスタート している 1) この競技用カヌーは東欧における開発が活発で、あり, 欧米諸国の選手が使いやすい形状として開発が進めら れている.そこで本プロジェクトでは,設計コンセプト として, -日本人にとって操作性が良く,扱いやすい船艇 ・流体力学およびバイオミメティクスにより,生物の機 能を生かし流れを掴む設計. を掲げて次のように考えを盛り込んだ.カヌー船艇には, *理工学部機械工学科 抵抗低減を目指して水鳥の噛のような形状・競技会場の 急流を生かした抵抗による推進力の増加・カモノハシの 噛のような回転性能の向上を目指した機能が図 1のよ うになっている.これらの形状の効果については,数値 計算(
C
o
m
p
u
t
a
t
i
o
n
a
l
F
l
u
i
d
Dynamics
,
CFD)
や水路 を使った流体力学的な実験を元に学術的な観点から調 べてきた.そして実際の製作では,流体力学・バイオミ メティクスの知見に基づく形を産学連携により産業界 が有する技術を元に具現化している.開発された船艇は, 日本カヌー連盟ならびに東京都カヌー協会と連携し評 価を行い,世界のトップを目指す.また日本カヌー連 盟・東京都カヌー協会とは,選手の育成支援について大 学の「知」を通じても連携をしている. このような競技用国産カヌーの開発プロジェクトが 「水走(みつは)プロジェクト」である.水走は 1古 事記Jでは弥都波能売神(みづはのめのかみ), 1日本書 紀」では岡象女神(みつはのめのかみ)と表されるイザ ナミの娘である水の神の名前に由来する. 競技用カヌーを通じて,日本の技術・発想、を世界に向 けて発信をしていく取り組みについて紹介をした. 人間エ'"的設計 図1水走(みつは)実験艇 ロ O 句iバイオミメティクスの世界 Investigation with Biomimetics 窪田佳寛 3.葉に学ぶレジリエンスなネットワークの形 ないため分岐回数0回,側脈は主脈から1度分岐して 2011年の東日本大震災,2016年の熊本地震では,工 いるため分岐回数1固として,葉脈の分岐回数を元に 場が被災しサプライチェーンが寸断され日本における ネットワーク構造を考える.葉におけるネットワークの ものづく りが大いに影響を受けた.ここで注目されてい 概念図を図2(b)に示す 主脈は分岐をしていないため るのが災害などから復旧の早いレジリエンスであるこ とである.レジリエンスなネットワークを達成するため の1つの考え葉のネットワーク構造について示す. 3. 1 葉のネットワーク構造 植物において根から吸い上げられた水は,根から茎 ・ 茎から葉へと送られる.葉では,葉脈により葉の各細胞 へと運搬され気干しから蒸散する.葉における葉脈は,細 胞聞を縫うように配置され,分岐を繰り返しながら微細 な流路のネットワークを形成している.葉脈はその外観 的構造により大きく
2
種類に分類をすると,葉先に向 かつて葉脈が並行に並ぶ並行脈と,太いものを中心に葉 脈が網状につながる網状脈に分類される.両者の差は外 観的構造だけではなく,そのネッ トワーク性にある.例 えば笹の葉のような並行脈は,虫食いなどによって葉脈 が損傷すると,損傷した先の細胞はそれ以上吸水するこ とができないように感じられる.それに対して網状脈は, 損傷しでも損傷部を迂回して水の運搬を維持すること (a) 0<>1.叫 0,
'
"
耐
0
'
同 時 (b) ができる.これは網状脈において最も太い葉脈である主 脈が損傷した場合でも同様である.葉の中央が主脈ごと 図2
葉のネットワーク.a
)
ナンテンの葉の観察結果, 損傷した場合においても損傷を迂回することができる b)ネットワークモデル. 2) 一部が損傷しでも,損傷部を迂回して水の供給を維 持することができる葉脈の構造は,ネットワークとして の工業分野への応用が期待できる. 葉脈ネットワークにおける損傷の影響を評価するた め,まず葉における葉脈のネットワーク構造について示 す.本実験で使用したナンテン (Nandinadomestica) の葉から葉脈のみを抜き出した結果を図2(a)に示す. 葉脈のみを抽出するため,コンビュータに取り込んだ画 像データにおいて緑色の成分を抜き出し背景差分を行 っている.図2(a)において主脈と側脈に着目すると, 主脈から側脈へと分岐・側脈からさらに分岐を繰り返す ことで葉全体へ張り巡らされている. 図2(a)の結果から, 主脈は葉において分岐をしてい 0と示され,傾JI脈を 1の様に分岐回数を図中の葉脈に相 当する部分で示しているこの葉脈の分岐部分がネット ワークを構成する 1つの節点 (node)とする.そこで 主脈から側脈の分岐部分をr
o
・1nodeJのように表す. また0-1node . 1-2 nodeで構成された1つの環状のネ ットワークを1層目, 1・2node • 2・3nodeで構成され た環状部分を2層目 ・2・3node ・3-4nodeで構成され た環状部分を3層目のネットワークとした.このこと から, 1層目は太い葉脈により構成されたものである. それに対して3層目は細し、脈により形成されるネット ワークである.図3に葉脈のネットワーク構造を示す. 図 3(a)は1層目,図 3(b)は 2層目,図 3(c)は 3層目の n U 1 ょバイオミメティクスの世界
Investigation with Biomimetics
窪田佳寛 ネットワークを抽出した結果である.隣り合う環状部分 との境界を明らかにするために色を塗り分けている.図 3(a)に赤線で、覆われている 1層目の環状部分に着目す る これを構成する 2層目のネットワークを図 3(b)に 示す.図 3(b)において 1層目のネットワークに対応す る部分は,赤色の実線で覆われている部分である.これ LateralVI似 伶 から 1つの 1層目の環状部は, 15個の 2層自の環状構 M帥 造で構成されていることがわかる.同様に青色の実線で 覆われた図 3(b)の 2層目の環状部を構成する 3層自の 構造を図 3(c)に示す.このように 2層目の環状部も 4 個の3層目の環状部位により構成されている.本実験 で使用したナンテンの葉全体では 1層白が 24個・ 2 層目が 384個・ 3層目が 1028個の環状部位で構成され ていた.このように葉脈の分岐を節点として,各層のネ ットワークは接続されている.これは葉脈の分岐部位を 要素とするとメッシュ型ネットワークのようになって いると考えることが出来る.このメッシュ型ネットワー クは情報通信分野において,ツリー型などと比較し信頼 度の高いネットワーク形態として知られている.この構 造は局所的に接続が寸断された場合で、あっても,他の接 続を経由し損傷個所を迂回することができる.そのため, 害虫などによる外部からの刺激により損傷が発生して も損傷部を迂回することができる.これにより頑強なネ ットワーク構造を実現していると考えられる.この葉脈 のネットワーク構造の頑強性について,葉の損傷と吸水 の関係について次節にて示す.
3. 2
吸水に与える葉の損傷の影響 葉の損傷の吸水への影響から葉脈ネットワークの頑 強性について示す.害虫などによる損傷の無い葉に対し て人工的に損傷させ,フルオレセインナトリウム水溶液 により吸水の様子を観察した.損傷の程度が異なる葉を 用意し損傷と吸水の関係を調べた.実験試料の損傷モデ ノレを図 4に示す.実験試料には,比較対象の通常の葉 と葉脈を寸断させるように損傷させた3パターンの葉 を用意した.試料は以下のとおりである.主脈の欠損は 20 (a) 1"Layer (b) 2nd Layer (c) 3吋Layer 図3葉のネットワーク構造 直径5mmの穴,その他の損傷は切込みとした.また, 損傷の位置は,葉柄と葉先聞の線分の長さに対する比で 決定した.ここで,木の幹や枝などと繋がる葉の最も太 い脈を主脈 (Midrib),主脈から分岐して出来たものを 側脈 (LateralVein)とする. (a)通常の葉:比較対象.加工をしていない採取したま まの状態. (b)切込みのみ 4本入れた葉:葉柄仮.IJから 1/5の間隔で, 左右交互に主脈を切断する切り目を水平に入れた.この 時,切り目の反対側には主脈から分岐した側脈が 1本 以上残るようにした. (c)主脈欠損と水平な切込みを入れた葉:主脈を葉柄か ら1/5の地点で欠損させ,その左右を主脈から分岐した 側脈 1本が残るように切り取った. (d)主脈欠損と垂直な切込みを入れた葉:主脈を葉の中 央部で欠損させ,その左右から側脈を切断するように, 縦方向に切り取った. 損傷を加えた葉が 4時間吸水した結果を図 5に示す. 4時間後に撮影された画像に対して実験開始時の状態 la} Ib} Ic} (d) 図 4葉の損傷モデ、ルバイオミメティクスの世界 InvestigationwithBiomimetics 窪田佳寛 を差分処理した.葉が吸水した部分は