ロボットは役に立たなければいけないのか? ~プロダクト・デザインとしての人工知能~
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(2) また、既存のプロダクツの多くが何らかのかたちで、ユーザーの生活サポートをタスクと することで、その価値を高めているのに対して、ロボットはタスク達成のみが、その価値と して認識されているわけではない。 例えば「癒し・なごみ」といった感性的要素が、大きな価値として認識されている場合も 多分に見受けられる。 これらの傾向は他のプロダクツにも見られる場合があるが、ロボットの場合特に顕著であ ると言える。 これらは、もちろんロボットが「役に立たなくても(タ スクを達成しなくても)いい」という意味ではなく、あく までユーザー(生活者)側の認識として、必ずしもタスク を実際に達成することのみが「商品としてのロボット」の 価値基準ではない、ということである。無論、何らかのタ スクを達成できるロボットの方が、より価値が上がるのは 言うまでもない。 重要なのは、ユーザーが価値として感じるベネフィット (利益・満足感)であり、それには「雰囲気や期待感から fig2:タスクを達成できる方が 得られるベネフィット=イメージ・ベネフィット」と「実 ベネフィットは上がる 際にタスクを達成することによって得られるベネフィット =タスク・ベネフィット」とがある、ということである。 ここで言う「イメージ・ベネフィット」には、タスクに対する期待値に加えて、いわゆる 「感性価値」が含まれている。. ■「イメージ・ベネフィット」と「タスク・ベネフィット」のバランス この二つのベネフィットはロボットに限らず、ほとんど全てのプロダクツが有する、また は有すべきものである。例えば「良い音が出そうなスピーカー」→「実際良い音が出る」、 「凄く速く走りそうな車」→「実際速く走る」といった具合である。 ここで大切なのは「イメージ・ベネフィット」と「タスク・ベネフィット」の整合性が取 れている、すなわち、ふたつのベネフィットが同一評価軸上にあるということである。 ところがロボットの場合、その汎用的な印象のために「イメージ・ベネフィット」が肥大 し、ふたつのベネフィットのバランスが崩れてしまう場合がある。例えば、脚のあるロボッ トに対しては「歩けそう、走れそう、踊れそう」というイメージが、指のあるロボットに対 しては「物をつかめそう、ジャンケンできそう」といったイメージがそれぞれ喚起されるこ とが予想されるが、必ずしもそのロボットがそのように作られているとは限らないわけであ る。. fig3:「飛ぶように走りそう」というイメージ・ベネフィットが「走る」というタスク・ベネフィットと合致している 車のフィンと、「本当に飛ぶ」という過度な「イメージ・ベネフィット」を与えかねないロボットのウィング. T-D-F <[email protected]>. −84−.
(3) これは、もともと「労働」を語源として生まれ、その後数十年にわたって多くのメディア 上で様々なイメージを付与されてきた、ロボットの出自そのものにかかわる宿命的な特徴と 言えるかもしれない。 しかしながら、もはや現実のものとして一般ユーザーの前に姿を現した「商品としてのロ ボット」にとっては、この状況はいささか問題である。 「タスク・ベネフィット」に比べて「イメージ・ベネフィット」が極端に大きい(期待が 大きすぎる)場合、結果的にユーザーの落胆が生じる危険性がある。また、無制限に拡大し た「イメージ・ベネフィット」がネガティブなイメージに転化した場合、「何をしでかすか わからない」といった不安感、不信感をユーザーに与えてしまう可能性さえある。 逆に「イメージ・ベネフィット」が極端に低い(期待度がゼロに近い)場合、購入しても らえない、という商品としては致命的な欠点を背負うことになりかねない。 肝要なのは、ふたつのベネフィットの評価軸のベクトルを合わせ、適正バランスを取って やることにある。言い換えると、そのロボットが「どんな風に役立つのか」ということを、 ユーザーに対して的確に伝える必要があるということである。. ■ ロボットに与えられるべきアピアランス ロボットが「誰に対して、どのように役に立つのか」を明確にするためには、そのロボッ トのアピアランス(在り方)が重要になってくる。これは単に形状のみならず、雰囲気、素 材感、名称等におよぶ、ロボットの印象に関わる要素すべてを意味する。 それらすべてに万遍なく配慮することが今後のロボット開発の大きな課題のひとつになる と言えよう。 既存のプロダクト・デザインにおいては「機能の具現化(タスクの可視化)」というプロ セスが半ば常識的に行われてきた。しかし、ロボットの「イメージ・ベネフィット」と「タ スク・ベネフィット」の整合性およびバランスを達成し、そのロボットが「誰に、どう役立 つのか」ということが明快に理解できるアピアランスを創出するために、「敢えて、機能を 見せない」「できない、ということを明確にする」といった、新たな表現の方法論も必要と なるであろう。 例えば、高度な画像認識能力と音声認識能力を持ったロボットを想定してみよう。このロ ボットが「独居者のための、固定型対話用ロボット(移動手段を持たない)」という位置付 けであった場合、「イメージ・ベネフィット」としては「会話ができそう、こっちを見てく れそう」といったタスク期待値と、「親近感、優しさ」といった感性価値が重要となり、具 体的アピアランスとしては「目、耳、口」といったコミュニケーション器官を強調した「か わいい」デザインが考えられる。しかし、一方でこのロボットが固定型であることを考慮す ると、安易に生物モチーフをそのまま持ち込むのではなく、敢えて「移動できない」という ことを明確に表現することもポイントになる。つまり、最初から「このロボットは移動しな い」というアピアランスを付与することによって、そのロボットが「対話のためのロボット である」ということをより明確に伝えることが可能になるのである。 掴みそう 踊りそう. コミュニケーション できそう 歩きそう 闘いそう fig4:「イメージ・ベネフィット」を制限するようなアピアランスを与えることで、 「タスク・ベネフィット」との整合性を計る . T-D-F <[email protected]>. −85−.
(4) これは、「イメージ・ベネフィット」において、余分な期待値のベクトルを削除すること で、「タスク・ベネフィット」との整合性をより高めるということである。 さらに、ユーザーにとって「なんだ、歩かないのか」といった落胆(マイナス評価)を未 然に防ぐことも期待できる。 このようにロボットのデザインにおいては「できることの具現化」と同様に「できないこ との明確化」も重要であると考えられる。これは、言い換えれば、ロボットのアピアランス は、そのロボットの存在意義、すなわち商品としてのコンセプトに大きく依存するというこ とである。特に既存のプロダクツのように、名称がタスクを明確に表しているものに比べ、 実際のタスクがイメージされにくいロボットにとって、このデザインプロセスは極めて有効 かつ有用であると考えられる。 さらに、「イメージ・ベネフィット」を助長する ようなアピアランスを意図的に与えることで、「タ スク・ベネフィット」をより明確にする、という可 能性も考えられる。 これは、要素研究、開発段階におけるロボットに おいても重要なことではないかと思われる。すなわ ち、早い段階からそのロボットが実現すべきベネフ ィットと、それを提供すべきユーザーをある程度想 定し、それに適したアピアランスを模索・付与する 事で、より研究内容・方針が明確となり、さらに第 三者の理解度向上およびアピールが期待できるので はないだろうか。 無論、要素研究が完成することで初めてベネフィ fig2:「イメージ・ベネフィット」の助長による 「タスク・ベネフィット」の明確化例 ットが明確になる場合もあるので、適応すべきケー スは吟味する必要があると思われる。. ■ ロボットは役に立たなければいけないのか? ここまで、ロボットが役に立つということの意味と、その表現方法について述べてきたわ けであるが、実際問題として、ロボットは役に立たなければいけないものなのであろうか? 結論からいうと、ロボットは役に立つべきである。むしろ、ロボットは役に立つために作 られているとさえ言える。しかし残念ながら、現状としては「タスク・ベネフィット」の部 分に評価の基準が偏っているため、ロボットが本質的に有する「イメージ・ベネフィット」 の部分が軽んじられている傾向が見受けられる。 今後重要なのは、ロボットの持つ感性価値、タスク期待値をも含めた「役立ち」を再認識 した上で、そのロボットが「どのような状況下で、どのような人に対して、どのように役に 立つのか」というアピアランス(在り方)を考えていくことではないだろうか。言い換えれ ば「役に立つことを、わかってもらう工夫」が必要だ、ということである。 これによって、より順調なロボットの社会進出および、各種研究のさらなる進展が期待で きるものと確信する。. T-D-F <[email protected]>. −86−.
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