原 著
疇鷹嬉32第讐元難1言〕
ヒト甲状腺癌細胞株の増殖に対する増殖因子の役割についての研究
東京女子医科大学 第二内科学教室(主任:鎮目和夫教授)オノダノリタカ
小 野 田 教 高
(受付 昭和63年!2月10日目Study on Growth・regulating Factors in a Hllman Thyroid Cancer Cell Line
Noritaka ONODA
Department of Medicine II(Director:Prof. Kazuo SHIZUME)
Tokyo Women’s Medical College
The factors regulating growth of thyroid cancer cells are largely unknown. We studied the effect of insulin−like growth factor(IGF)一I and epidermal growth factor(EGF)on growth of human thyroid
papillary cancer cell line(Tc−cell). Type I IGF receptors as well as EGF receptors were identified on the
cell, and both of the growth factors stimulated DNA synthesis or growth in a dose−dependent manner. The cell grew well even in the absence of serum, suggesting that they produce growth factors for their
own growth. RIA for IGF−I detected immunoreactive IGF−1(ir−IGF−1)in the serum−free medium
conditioned by Tc−ceil. On gel−chromatography with Sephadex G−50 column in IMacetic acid, ir−IGF−I eluted in the position corresponding to mol weight of authentic IGF−1. Furthermore, Northern blotting experiments revealed expression of IGFI mRNA in the cell. Addition of monoclonal antibody to IGFI receptors markedly inhibited growth of Tc−cell cultured in the serum−free medium, indicating that IGF・I is an autocrine growth stimulator in the cell. We also found that transforming growth factor (TGF)一αin the conditioned medium of the cells.
In conclusion,endogenously produced IGFI and possibly TGF一αare involved ingrowth of some of
human thyroid cancer cells.
緒 言
近年細胞の増殖を調節する,いおゆる細胞増殖 因子が多数明らかにされ,各種疾患の成立におけ る,これら因子の果す役割について興味が持たれ ている.細胞増殖因子の一つであるインスリン様
成長因子1(insulin−like growth factor−1,以下 IGF−1)は,当初成長ホルモン(growth hormone) の作用を仲介し,軟骨組織の成長を促す物質とし て同定された1).しかしその後の検討により, IGF−1は,広範な組織で産生され2)3>,各種細胞の増 殖に関与していることが明らかにされた.またこ の増殖因子は,細胞の自律的増殖を特徴とする,
腫瘍の発育にも深く関与していることが報告さ
れ4)∼6),産生局所においてその作用を発揮する,い わゆるautocrine,ないしはparacrine factorと しての役割が注目されている. 一方,マウス顎下腺から抽出された上皮成長因子(epidermal growth factor,以下EGF)7)も,
特に癌組織におけるその受容体の過剰発現が明ら かにされるに至り8)∼11),腫瘍増殖との関連で興味 が持たれている. 我々は既に,甲状腺乳頭癌組織抽出液中には, immunoreactive IGF−1(以下ir−IGF−1)が存在す ることを見出している12).またEGFも,正常組織 と共に癌組織にも存在した.このような事実は,
甲状腺癌の増殖にIGF−1あるいはEGFが,何ら
かの役割を果す可能性を示唆するものと考えられ た.そこで我々は,ヒト甲状腺乳頭癌細胞株を用い
て,伽罐70の系でIGF−1およびEGFの甲状腺癌
細胞増殖に及ぼす影響について検討を加えたので 報告する.材料および方法
材料実験に用いた甲状腺乳頭癌細胞株(以下Tc細
胞と略)は,手術標本から樹立された株細胞で13》, 前田博士(中央鉄道病院中央検査室)より提供を受けた.ヒトIGF−1および6Cys∼21Argをコード
する48塩基対のIGFIプローブは藤沢薬品株式
会社(大阪),ヒトEGFはアース製薬株式会社(赤 穂市)より提供されたものを使用した.ヒトIGF− II,ブタインスリンはEli Lilly社(米国)のもの を用いた.抗IGFI受容体抗体は, Jacobsらより 提供を受けたモノクローナル抗体(α一IR3)14)を用 いた.抗TGF一α(transforming growth factor)抗体は,住友製薬株式会社(宝塚市)から提供さ
れた合成ヒトTGF一αを,サイログロブリンとグ
ルタールアルデハイドを用いて結合し,これを抗 原として家兎を免疫して作製した.培養に用いたRPMI1640培地および抗生剤は
GIBCO Laboratories(米国),ウシ胎児血清(fetal calf serum,以下FCS)はFiltron社(オースト ラリア),ウシ血清アルブミン(bovine serUlnalbumin,以下BSA)は半井化学(京都)のもの
を各々使用した.カルチャーフラスコ(25cm2,80cm2)および10cmカルチャーディッシュはNunc
社(デンマーク),12穴プレートはCostar社(米 国)のものを用いた.細胞培養および増殖実験
Tc細胞は,4%FCSを含むRPMI培地に,抗
生剤(ペニシリンG100U/ml,ストレプトマイシ
ン100μg/ml,アンホテリシンB2.5μg/m1)を添 加し(以下この培地を〔RPMI/FCS〕と略),37℃, 5%CO2の条件下で維持した. 細胞増殖の観察は以下のように行った.はじめ に,継代した細胞をトリプシンで処理し遠沈後, 〔RPMI/FCS〕に再浮遊させ,0.5∼3.0×104個/ wellの密度で12穴プレートに播種した.24時間後 にメディウムを吸引し,付着した細胞を洗浄した後,0.1%BSAと,抗生剤を含むRPMI培地(以
下この培地を〔RPMI/BSA〕と略)に変更し,
IGF−1, EGFのサンプルを添加し,細胞の増殖を観 察した.通常2日毎に培地を変更し,同様のサン プルを加えた.実験は,増殖期にある細胞(1.0× 104∼5.0×105個/well)を用いて行った.細胞数の算定は2日後または4日後に,コールターカウン
ター(Coulter Electrics,米国)を用いて行った. 抗IGF−1受容体抗体を用いた実験も,同様の方法 で行った.DNA合成
DNA合成は,3H−thymidineの取り込みを指標
にして観察した.Tc細胞が接触阻止状態
(con舳ency)よりやや少ない密度に達した時点 で,培地を〔RPMI/BSA〕に変更し,24時間後に各種サンプルを添加した.さらに12時間後に各
ディッシュに0.1μCi/mlの濃度の3H−thymidine(20Ci/lnmol;New England Nuclear,米国)を
加え,4時間培養した.その後メディウムを吸引 し,細胞を〔RPMI/BSA〕で洗浄し,10%トリク μロ酢酸(TCA)で処理し,エタノール:エーテ
ル混合液にて2回洗浄した.1N NaOHで細胞タ
ンパクを融解し,さらに1N HCIでこれを中和した.これをACS−IIに加えβ一カウンターにて
DNAに取り込まれた3H−thymidineを測定した.
培養上清液中のIGF・1の抽出80cm2カルチャーフラスコでほぼ接触阻止状態
になるまでTc細胞を培養した後,メディウムを
吸引し,〔RPMI/BSA〕で2回細胞を洗浄した. 次いで〔RPMI/BSA〕を加え,48時間培養した.得られた培養上清液を200×gで5分間遠沈し浮
遊細胞を除去した.上清液を4℃で蒸留水にて透
析し,凍結乾燥した.これに1M酢酸を加え4℃で
20時間放置した後,200×gで5分間遠沈し沈澱物
を除去した.得られた上清液を再び凍結乾燥し, RIAバッファーに溶解し, IGF−1をRIAにて測定 した.ゲル濾過
前述した方法によって得られた培養上清の抽出液を,1M酢酸にて平衡化したセファデックスG−
50(Pharmacia Fine Chemicals,スウェーデン)カラムを用いてゲル濾過した.サンプルは1mlず つ採取し凍結乾燥後,各分画毎にRIAでIGF−1の 濃度を測定した.
IGF・I mRNAのノーザンプロット
10cmカルチャーディッシュ10枚分の培養細胞
より,Chirgwinらの方法15)によりRNAを抽出
し,Poly(A+)RNAは,オリゴ(dT)セルロー
スクロマトグラフィーを用いて分離した16).RNAサンプルを0.66Mのフォルムアルデヒドを含む
1%アガロースゲルで電気泳動し,ナイロンフィ ルター(Schleicher&Schuell社,米国)に転写 した.このフィルターを用いて,random primed labelingにて32P標識したIGF−1プローブ(ヒト6Cys∼21Argをコードする48塩基対のDNAプ
ローブ)を用いて,Church and Gilbertの方法17)
に基づきハイブリダイゼーションを行い,最終塩 濃度2×SSC(0.3M NaC1,0.03Mクエン酸ナト リウム,pH 7.0)にて洗浄後,オートラジオグラ フィーを行った. 受容体の検討(binding study)
接触阻止状態になったTc細胞を,0.2%BSA
HEPESグッドバッファー(半井化学,京都市)を 含むRPMI(pH 7.4)を用い,2回丁寧に洗浄し 実験に供した.種々の濃度の合成IGF−1または合 成EGFを添加後,1251−IGF−1または1251−EGFを 50,000cpm/well加え,同様の・ミッファーで1well あたり1.Omlとし,4℃で20時間インキュベート した.細胞を集め同様のバッファーで2回洗浄後,細胞に結合したIGF−1またはEGF放射活性をγ
カウンターにて測定した.IGF.1のRIA
RIAバッファーは,0.3%BSA,0.01%EDTA, 0.02%NaN3を含む50mM Tris−HCI(pH 7.4)を 用い,既報のごとくの方法18)にて行った.B/F分 離には最終濃度12.5%のポリエチレングリコール 6000を用いた.TGF活性の測定
TGF活性の測定には, Robertsらの方法19)を多 少改変して用いた.軟寒天培地は,10%FCSを含むDulbeco’s modi丘ed Eagle’s medium(DMEM)
に,抗生剤(ペニシリンG100U/ml,ストレプト マイシン100μg/ml)を加えて作製した0.6%アガ ロースゲルを用いた.12穴プレートを用い,正常 ラヅト腎細胞(NRK, F49)を,1.0×104個/well
の密度でこの軟寒天培地中に播種し,37℃,5%
CO,の条件下で維持した.24時間後にTc細胞の
培養上清液および抗TGF一α抗体を添加し,7日
後に形成されたコロニー(細胞20個以上)の数を,光学顕微鏡でカウントして,TGF活性の指標とし
た. 統計学的有意差の検討 得られたデータは,平均±標準誤差(SE)で示 し,有意差検定はStudent’s t検定を用いた. 結 果細胞増殖に及ぼすFCS濃度の影響
RPMI培地に種々の濃度のFCSおよびBSA
を添加し,これらの細胞増殖に及ぼす影響について観察した(図1).FCSは,0.5∼4%の範囲内
で,濃:度依存性に細胞増殖を促進した.一方BSAのみを含む無血清のRPMI培地でも,細胞は増殖
した.各々のdoubling timeはFCS(4%)で約
24時間,BSA(0.3%)で約36時間であった.DNA合成,細胞増殖に及ぼすIGF・1の影響
FCS中には,いくつかの成長因子が含まれる
が,IGFIもその一つである.そこで, IGF−1のDNA合成,および細胞増殖に対する効果につい
て検討した.図2に示すごとく,外因性に加えた
⊇ll 署,。 三1。 糞5 雪 二 8 δ 4。’。FCS 20’o 「. 一一一 ドノゆ ロ臨γ電1;1』
多〆 0 2 4 6 8 DGy of cuけure 図1 甲状腺癌細胞の増殖に及ぼすFCS濃度の影響 RPMI1640培地に,各濃度のFCSおよびBSAを添 粗し,細胞増殖に及ぼす効果につき観察した.2日 毎に細胞数を算定し,メディウムを交換した.各点 は,3個の算定値の平均を示した.蓬 5 2 ; 4
翫
9白, §×訴2
蓋ど 隻 年 τ 評 o P〈0.05 0 1.25 12.5 125 1GF−1 (nglml) 図2 外因性IGF−1による甲状腺癌細胞のDNA合成 刺激効果 ほぼ接触阻止状態となった甲状腺癌細胞を24時間無 血清とし,種々の濃度のIGF−1を添加し,12時間培 養した後3H・thymidineを4時間作用させ取り込み を測定した.各値は,3個の測定値の平均±SEで示 した. 5 4 塁 蚤3 ご 藍 雲2 三 蕊 1 O * PくO.01 [] 「*一コ.灘
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\ ●\ .\\1’響’1
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屠・「葉:;「 0 1.25 1Z5 125 (nglml) 一 L_______」 0 4 Day of cultur2 図3 外因性IGF−1の甲状腺癌細胞増殖に及ぼす影 響 無血清の培地に種々の濃度のIGF−1を添加し,2日 毎に細胞数を算定しメディウムを交換した.各値は, 3個の算定値の平均±SEで示した. IGF−1は,1.25∼125ng/mlの範囲内で, DNA合成を濃度依存性に促進した.また,図3に示すご
とく,外因性にIGF−1を添加すると,濃:度依存性に細胞増殖が促進され,125ng/m1の濃度では2
日後に対照の23%,4日後に対照の120%細胞数は 0,1 1 10 100 1GF−1 (ng〆tub2) 図4 甲状腺癌細胞の培養上清液中のir−IGFI活性 甲状腺癌細胞の培養上清液を,本文中のごとく処理 し,2倍ごとの希釈系列を作った.これをIGF−1の RIAの標準曲線と,その平行性につき検討した。 増加した.IGF−1のRIA系における培養上清液の希釈曲
線Tc細胞は,無血清の培地でも増殖が見られる
ことから(図1),この細胞自身が自己の増殖に必 要な因子を産生することが示唆された.そこで先 ず,IGF−1が産生されているか否かを検討した.図 4に示すごとく,酢酸にて抽出した検体の希釈曲 線は,IGFIの標準曲線(standard curve)とRIA にてほぼ平行であり,培養上清畑中にir−IGFIの 存在することが示唆された. ゲル濾過 IGF−1は血清中では,大分子(150K,40K)の結 合蛋白と結合して存在するが,結合蛋白の存在は,IGF−1のRIAに干渉して誤った結果を与える可
能性がある20).一般に,酸性条件では,IGF・1は結 合蛋白から解離することが知られている21).そこで,培養上清を1M酢酸で平衡化したセファデッ
クスG−50カラムを用いゲル濾過し,その各分画についてIGF−1を測定した.図5に示すごとく,
IGF−1は, authentic IGF−1とほぼ同一部位に溶出されることが判明した.なお,大分子部分には
IGF−1結合蛋白も存:在した(結果省略).以上のご とくTc細胞は実際に, ir−IGF−1を産生すること が明らかにされた.IGF・I mRNAのノーザンプロット
RIAによってTc細胞がIGF−1様物質を産生
1.4 1.2 21・o ⊆ 20β
出Q6
≡ 一 〇.4 Q2 0 Vo IGF−I l l ヒ 1 20 30 40 Elutゆn volum¢(mD 図5 甲状腺癌細胞の培養上清液によるゲル濾過 甲状腺癌細胞の培養上清液を,本文中のごとく処理 し,酢酸で平衡化した0,9×45cmのセファデックス G・50カラムに添加し,サンプルを1mlずつ採取し, 各分画につきir・IGF−1を測定した.Vo:Void volume(Blue dextran), Vt:Total
volume(NaI)。
100
胆魂80
;コ 島・隻θ・ 暑震 信も40難20
邑 の 0⇒
⇒
ゆ
ゆ
一28s
亀一18s
讐
写真 甲状腺癌細胞のIGF・I mRNAのノーザソプ ロット 甲状腺癌細胞から,本文中のごとくmRNAを抽出 し,ゲル濾過,ノーザンプロットを行った.32P−IGF・ 1プローブとハイブリダイズし,オートラジオグラ フィーに供した.28s,18sは, rRNAの位置を示し た, することが判明したが,これが真にIGF・1かどう かを検討するために,IGF・I cDNAをプローブと して,ノーザソプロットを行った.写真のごとく, O O.1 1 10 100 1000 10000 P¢ptid2〔ng’mn 図6 甲状腺癌細胞に対するIGFI受容体の検討 (binding study) 接触阻止状態となった甲状腺癌細胞に種々の濃度の 非標識IGF−1(●), IGFII(○),インスリン斥△) および1251−IGF・1を加え,4℃で20時間インキュベー トした.各点は,3個の測定値の平均を示した,ナイロンフィルターに転写した細胞のmRNA
を,32P・IGF・1プローブでノ・イブリダイズすると, サイズの異なる少なくとも4つのバンドが認められた.すなわち,遺伝子レベルでも,IGF−1の
mRNAの発現が証明された. IGF・I mRNAの
heterogeneityについては,既に報告されている ところである22). IGF・1受容体の検討(binding 8tudy)
Tc細胞のDNA合成や細胞増殖に対して
IGFIが促進作用を示すことは, IGF・1受容体の 存在を示唆するが,IGF−IIやインスリン受容体を 介して作用を発現することも否定はできない.そ こで,1251−IGF・1を用いて, IGF・1受容体の有無を 検討した.図6のごとく,1251・IGF・1と細胞との結 合は,0,35∼50ng/m1の濃度の合成IGF−1の添加 により濃度依存性に抑制され,IGF・1に対する特 異的な受容体が存在することが示された.50%抑 制に要するIGF・1濃度(ID50)は,約0.5ng/m1で あった.また,IGF・II,インスリンの受容体への結 合力価は,各々IGF−1の1/20,1/1,000であった. 抗IGF・1受容体抗体の細胞増殖に及ぼす影響 以上の成績から,Tc細胞は, IGF・1を産生する こと,IGF・1受容体を有することが明らかとなったが,このIGF・1がautocrine growth stimulator
として働いているか否かを知るために,細胞増殖
5 4 弱 勢 睾3 9 雪2 三 蕊 1 o *Pく0.01 「*「
咋
一億』
Ab一 + 一 + 一 一 一 一 L_」 L一一一J L− L一一」 LO 2 4 6 8 D⊂1y Qf cuほur2 図7 抗IGFI受容体抗体(α一IR3)の甲状腺癌細胞増 殖に及ぼす影響 無血清の培地にαIR3およびコントロール腹水を添 加,各々2日毎に細胞数を算定し,メディウムを交 嚇した.4日後に両群共にコントロール腹水を添加 し,その増殖を観察した.各値は,3個の算定値の 平均±SEで示した. 面した.抗IGF−1受容体抗体を含む腹水,および 含まないコントロール腹水は共に,最終希釈倍率 が200倍(この希釈倍率では,1251−IGF・1と細胞と の結合は90%以上抑制される)として用い,0.3%BSAを含むRPMI培地で細胞の増殖を観察し
た.図7のごとく,抗体を添加した群では,コン
トロール群に比べ2日後で26%,4日後で52%増
殖が抑制された.培養4日後に抗体を除去し,両
群共にコントロール腹水を加えて培養したとこ
ろ,抗体添加群も増殖能を回復し,8日後には両
遊間で有意差は認められなくなった.外因性EGFとIGF・1の細胞増殖に及ぼす共同
作用EGFは,各種動物の甲状腺細胞の増殖を促進す
ることが知られている23)∼26).そこで,Tc細胞についてもEGFの効果を検討した.外因性に加えた
EGFは,6.25ng/mlの濃度で培養4日後に対照に
比べ60%増殖を促進した.この濃度のEGFとほ
ぼ最大刺激作用を有する濃度のIGF−112.5ng/ln1 とを同時に添加すると,コントロールに比べ120%増殖を促進した.EGFとIGF−1は増殖刺激作用に
おいて,相加的に作用し,両者は別個の系を介し 2 睾]・5 巴1
塁 雪 ξ。・‘ 8 o P<QO1 PくQO1 Pく()Dl 癖喜 感 ワ 嬢 ?.齢 .暖 P舞噸 睡≒.験 @爵.鞭 舞. ゥ 撫{ 繍lllll 1 lilCont, EGF IGF−I EGF+IGF−1 4。/ρFCS
6,25ng/ml 12,5ng/ml 図8 外因性EGFおよびIGFIの甲状腺癌細胞増殖 に及ぼす共同作用 無血清の培地にEGFおよびIGF−1を,単独あるい は同時に添加したときの細胞数を,4日後に算定し た.各値は,3個の算定値の平均±SEで示した. 100 1ε80 塾16。
髪・
誕㍉・ 0 一・\●\
●\
● ● ●一 327 0 0.1 1 10 100 Pcptid¢ (ng/ml) 図9 甲状腺癌細胞に対するEGF受容体の検討(bin・ ding study) 接触阻止状態となった甲状腺癌細胞に,種々の濃度 の非標識EGF(●)および1251−EGFを加え,4℃で 20時間インキュベートした.各点は,3個の測定値 の平均を示した. て細胞増殖を促進すると考えられた(図8). EGF受容体の検討(binding study) Tc細胞には, EGFに対する受容体が存在した (図9).すなわち,0.03∼50ng/mlの濃度の合成 EGFは,1251−EGFの細胞への結合を濃度依存性に 抑制した.ID5。は,約1,0ng/mlであった.培養上清液中のTGF活性
TGFは,多数の腫瘍細胞が分泌する増殖因子で ある27).このうちTGF一αはEGFと構造が類似しており,その作用もEGF受容体を介するものと
考えられている.前述のごとく,Tc細胞は, EGF200 匙 ミ150 .墨 ξ1。。 碁 糞 ∈ 50 妥
0
1:4 1;2 1:1 Cond断oned m¢dium 図10 甲状腺癌細胞培養上清液中のTGF活性 甲状腺癌細胞の培養上清液の2倍毎の希釈系列を作 製し,本文中のごとくNRKに作用させた,さらに 1,000倍に希釈した抗TGF一α抗体(▼)およびコン トロール血清(△)を,原液培養上清液の群に加え, 形成されたコロニー数を算定した。各値は,3個の 算定値の平均で示した. 受容体を有し,かつ外因性EGFに反応した.そこ で,この細胞がTGF・αを産生しているか否かを 検討した.図10のごとく,培養上清液を添加する と,NRKのコロニー形成は濃度依存性に増加し,その作用は抗TGF一α抗体で抑制された.した
がってTc細胞がTGF一αを産生することが明ら
かにされた. 考 察 腫瘍細胞の増殖と増殖因子との関連について, 興味ある知見が次々と報告され,注目を集めてい る.すなわち,増殖因子である丘broblast growth factor(FGF)やplatelet derived growth factor(PDGF)によって増殖刺激を受けた細胞では, c一〃z翼,c一ヵs等の癌遺伝子発現が増加するこ と28)29),癌遺伝子v・6γろBのコードする蛋白が
EGFレセプターの細胞内ドメインであるこ
と30),別の癌遺伝子v−sゑsの産物は,PDGFと同一 であること等が明らかにされた3D.また形質転換 された細胞の一部は,TGF一αを産生することが Todaroらにより報告されて以来32),腫瘍細胞の 中にはTGF一β, PDGF, IGF等の増殖因子を産生 するものがあることが確認され,いわゆるauto− crine説が提唱されるに至った.すなわち腫瘍細 胞は,自己の増殖に必要な増殖因子を自ら産生し, これによって増殖するという説である.一般に培養正常細胞の増殖には,培地にFCS等の血清成
分を添加することが必要である.血清中には細胞 の増殖に心要ないくつかの増殖因子が含まれるか らである.しかしながら形質転換細胞では,増殖 における血清要求度(依存性)の低下を示すもの が多く33)34),全く血清成分を含まな:い培地中でも 増殖するものも稀ではない.このような細胞では 自ら増殖因子を産生しているとすれぽ,血清要求 度の低下は説明しうると考えられる. 我々は,ヒト甲状腺癌細胞増殖に関与する因子 の解析を進めてきた.正常甲状腺細胞の機能には,下垂体TSHが最も重要な役割を果していること
は周知の事実である.しかし,培養甲状腺細胞の増殖に対するTSHの作用には種差があり,ヒ
ト35)やブタ36)ではTSH単独では増殖作用を認めないとする報告が大部分である.これに対し
TSH以外の各種増殖因子が培養甲状腺細胞の増
殖に関与することが明らかにされてきた.EGFは
各種動物の培養甲状腺細胞の増殖を強く促進する と共に,そのヨード代謝を抑制する23)一26).また成長ホルモン依存性の増殖因子であるIGF−1も
ラット37)やブタ38)の甲状腺細胞の増殖を促進する.しかしヒト甲状腺癌細胞にはEGF受容体が
存在すること39)心42),EGFが甲状腺癌細胞のDNA 合成を促進することが報告されている42).予備検 討の結=果,我々はヒト甲状腺癌組織にIGF−1受容 体が存在することを見出した12).そこで我々は確 立されたヒト甲状腺癌細胞(Tc細胞)についても 検討し,IGF−1受容体の存在を確認した.すなわ ち1251−IGF−1はTc細胞に特異的に結合し,その IGF−1に対する親和性(親和恒数Ka)は,ブタ甲状腺細胞その他の組織で報告されているIGF−1
受容体のそれと同程度であった.1251・IGFIの結合 は,より高濃:度のIGF−IIあるいはインスリンによっても抑制され,これはタイプ1のIGF受容体
の特徴である43).次にIGF−1受容体に対する
IGF−1の作用が存在するか否かを検討したとこ
ろ,IGF−1は濃度依存性にTc細胞の増殖を促進
することが明らかになった.RIAで測定した正常
人の血中IGF−1濃度は100∼200ng/ml程度であ
り,したがって今回の実験で使用したIGF−1濃度は生理的濃度の範囲内である.次にIGF−1が
autocrine factorとしてTc細胞の増殖に関与す
る可能性を検討した.結果の項で述べたごとく,Tc細胞は血清を含まない培地の中でもかなりの
増殖を示し,またTc細胞にはIGF−1に対する受
容体を有することから,この細胞がIGF−1あるい はその類似物質を産生する可能性が強いと考えられた.Tc細胞の培養上清液をIGF・I RIAで測定
したところその希釈曲線はIGF−1の標準曲線と
ほぼ平行であり,Tc細胞自身が, ir−IGF−1を産生 することが強く示唆された.一般にIGF−1は中性 の条件下では結合蛋白と結合して存在し,酸性条 件では両者が解離することが知られている21).そ こで培養上清を酸性条件下でゲル濾過を行ったと ころ,ir−IGF−1はauthentic IGF・1とほぼ同一部位 に溶出された.したがって培養上清中に検出され たir−IGF−1はauthentic lGF−1に極めて類似した ものと考えられた.さらにこの点を確実にするためにノーザンプロットで検討したところ,Tc細
胞にはIGF−I mRNAが発現していることが確認
された.以上の結果より,Tc細胞が実際にIGF−1を産生していることが判明した.そこでTc細胞
の分泌するIGF−1が実際に自己の細胞増殖に関
与しているか否かを検討した.このために今回は, 抗IGF−1受容体抗体(αIR3)を用いた. Jacobsら により作製されたこのモノクローナル抗体14)はヒ トIGF−1受容体と特異的に結合し, IGF−1受容体 との結合を抑制することが知られている.我々の 検討でも,1251−IGF−1とTc細胞のIGFI受容体と の結合は,αIR3200倍希釈でほぼ完全に抑制され た(結果省略).この希釈度でαIR3を添加すると,無血清の培地で培養したTc細胞の増殖は有意に
抑制された.この抑制効果は,培地を交換して
αIR3を除いた培地に変更すると消失する.した
がって,αIR3の効果は非特異的な細胞障害作用によるものではなく,抗体が内因性に産生された
IGF−1と受容体との結合を阻害する結果と考えら れた.以上Tc細胞においては, IGF−1がauto. crine growth factorとして作用することは確実と思われる.腫瘍増殖とIGFとの関連について
は,癌組織におけるIGF−1受容体の存在44>∼47), IGF−1の産生48)∼50),外因性IGF−1による腫瘍細胞 増殖‘)51)∼53),乳癌5)や脂肪肉腫54),ラット甲状腺髄 様癌55)におけるIGF InRNAの発現などが知られ ているが,ヒト甲状腺癌における報告は無い.ただWilliamsら56)は,正常ヒト甲状腺ではIGFI
存在下でのみTSHがDNA合成を促進するが,
甲状腺腺腫(アデノーマ)細胞は,TSHのみで増 殖すると報告している.甲状腺腺腫も自らIGF−1 を産生するのかもしれない.次にEGFの作用について検討した.前述のご
とくEGFは各種動物の培養甲状腺細胞の増殖や
DNA合成を促進する. Tc細胞においてもEGF
に特異的な受容体の存在が確認され,またEGF
はTc細胞の増殖を促進した.この促進作用は,最:大効果を示す濃度のIGF−1の存在下でも認めら
れた.したがってEGFの作用とIGF−1の作用は
別々の系を介するものと考えられる.Tc細胞に
はEGF受容体が存在すること, EGFが細胞増殖
を促進する事実から,この細胞が,EGFあるいは その類似物質を産生する可能性が示唆された.ところがTc細胞の培養上清液にはEGFは検出さ
れなかった(結果省略).しかしEGFと構造が類似し,かつEGFの受容体を介して細胞増殖を促
進するTGF一αの活性が培養上清液中に認められた.現在はTGF一αはEGFの胎児型と考えられて
おり,多数の形質転換細胞から産生されることが 証明されている27)57).Tc細胞においてTGF一αがIGFIと同様にautocrine growth stimulatorと して作用しているか否かについては,なお最終的
な結論が得られていない.しかしTc細胞がEGF
受容体を有すること,EGFに反応して増殖するこ と,TGF一αを産生している事実は, TGF一αが autocrine factorとして作用しているという仮説 に矛盾しない. 以上我々は,ヒト甲状腺乳頭癌由来の株細胞がIGF−1およびTGFαを産生し,特にIGF−1が
autocrine growth stimulatorとして作用してい ることを明らかにした.今回得られた成績は一つ の株細胞で得られたものであり,これがすべての
甲状腺癌に適合するか否かは今後の課題である. 加〃勿。においても甲状腺乳頭癌の増殖がIGF−1 に依存するとすれぽ,IGF−1産生の抑制は治療に も応用できる可能性があろう. ま と め 1)甲状腺乳頭癌由来の細胞株には,タイプ1の
IGF受容体が存在し,またIGF−1は細胞のDNA
合成や細胞増殖を低濃度で促進した. 2)細胞の培養上清にはIGF−1が証明.され,また細胞にはIGF−I mRNAの発現がみられた,こ
の細胞はIGF−1を産生することが判明した. 3)抗IGF−1受容体抗体は,この細胞の増殖を 有意に抑制した.4)細胞はEGF受容体を有し,またEGFは細
胞増殖を促進した.5)この細胞はTGF一αを産生することが判明
した. 結 論 少なくとも一部のヒト甲状腺乳頭癌細胞は,IGF−1やTGFαを産生し,これらは自己増殖因
子として作用する. 稿を終るにあたり,御指導を賜りました鎮目和夫教 授に心より感謝致します.また御助言,御校閲を賜り ました樹馬敏夫教授ならびに直接の御指導を賜りま した大村栄治博士,磯崎収博士,大庭義人博士,具体 的な実験手技でご協力下さった岡田政喜氏をはじめ とする成長科学協会付属研究所の皆様に深謝致しま す.また,Tc細胞を御提供下さった前田昭太郎博士,αIR3を御提供下さったJacobs博士, IGFI, IGF−1プ
ローブを御提供下さった藤沢薬品株式会社に心から
お礼申し上げます.
文 献
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