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被汚染者にみられる汚染処理活動
ホの効率性と実行可能性
和 田 佳 之
概要:汚染という負の公共財の被害を被っている被汚染者相互間の汚染物処理 に起因する外部効果の解決策の実現可能性について検討する。それを左右する 要因として,汚染処理技術の所有形態(共同所有と個別所有)および汚染処理 費用負担配分方法(均等税とクラーク税)を取上げ,どのような組合わせにお いて解決策の効率的実現が可能となるかが明らかにされる。結果として,ある 基準の下で両費用負担配分方法を評価するとき,いかなる環境においても常に クラーク課税方式の方が均等課税方式よりも優位か同位にあることが示される。1序論
外部性内部化政策の一つとしての汚染(排出)許可証発行政策は,許可証市 場が競争状態にある限り社会的最:適汚染水準の達成を保証することが,Wada (1991)において証明されている。ただしそれには幾つかの条件が要求される のであるが,その中でも最も強いと思われるのは,許可証市場参入者の一方で ある被汚染者側において,彼らの代表者のみに許可証市場への参入権があり, しかも被汚染者相互間の外部効果が効率的に解決されているということである。 本稿の目的は,この仮定の妥当性を理論的に検討することである。それには, 付随的に汚染処理活動における公共財供給メカニズムの分析も加わってくる。 *本稿は,平成6年度陵水学術後援会学術調査・研究助成より財政的援助を受けて遂行さ れた研究成果の一部である。貴団体に対し,ここに感謝の意を記す。また学内自主研究 会において有益なコメントを頂戴した同僚諸氏に対しても,謝意を示したい。言うまで もなく,残存しうる誤謬の責は筆者個人に帰せられるものである。134 荒木麺夫教授退官記念論文集(第300号) 本稿と同様の内容を扱った論文には以下のようなものがある。Suchanek (1977,1979)は,汚染規制政策として排出量割当あるいは排出課税を用いた 場合に,政府が汚染者(企業)と被汚染者(消費者)間の情報交換の仲介者と して登場するとき,Groves−Ledyard型の価格政策によってパレート最適が実 現することを示した。本稿では,Suchanek(1977,1979)のように政府に対 し積極的な役割を担わせるのではなく,あくまで許可証の発行とその市場の開 設を任せるにすぎない。その後は市場機構のみによってパレート最適状態が導 かれることを,分析の前提としている。これとは別に,Roberts and Spence (1976),Kwerel(1977)は,汚染に伴う損失と汚染処理費用の総和として定 義される社会的費用の最小化を目的とする規制当局に,汚染者の汚染処理費用 についての情報がない場合,許可証発行と補助金あるいは罰金政策によって最 適汚染水準の達成が可能となることを主張している。他方,Dasgupta, Ham− mond and Maskin(1980),Repullo(1982)は, Roberts and Spence(1976), Kwerel(1977)と同様の問題に直面している当局が, Vickrey−Clarke−Groves Mechanismを適応することにより,汚染者に真の汚染処理費用を表明するイ ンセンチィヴを与えることができ,その結果最適汚染水準が得られることを証 明した。その後80年代に入り,Baron(1985)は汚染者が同時に独占企業でも あるとき,上のような汚染処理費用についての不確実性に直面する規制当局に とって望ましい環境政策手段として,独占対策としての価格規制政策との絡み において,基準値設置と汚染課税政策の優劣を比較検討している。またSpu1− ber(1988)は汚染規制がもたらすトレード・オフ効果を分析している。 本稿の分析は,汚染者の処理費用関数ではなく被汚染者の損失関数の方を入 手困難な情報としている点で,これらのモデルとは異なる。現実問題を考えた 場合,損失関数についての情報の方が費用関数と比べて相対的に獲得しにくい と考えるのが自然ではなかろうか。また先にも述べたように,不完全情報下で 最:適化問題を解くのは規制当局ではなく,ここでは被汚染者の代表者である。 政府は飽くまで汚染規制の枠組を整えるにすぎない。 次に本稿の分析の全体的な前提を説明しておこう。まず被汚染者側にも汚染
被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 135 処理技術が存在しており,その所有形態に関して二つに場合分けをする。その 第一は,処理技術を被汚染者全体が組織として共同所有している場合である。 例えば,地:域を流れる河川に浄化装置を設置するケースがこれに当たる。第二 は,個々の被汚染者が個別に汚染処理技術を所有しており,各自がその稼動権 を持っている場合である。純粋な被汚染者とは言えないが,家庭ごとに洗濯用 洗剤についてその種類を選択する,あるいは使用度を自由に決定できる権利が ある状況がこの例として挙げられよう。これらの状況下で被汚染者は,全体と しての最適化問題を解く代理人としての執行部に,各個人からの損失について の申告を基に組織全体としての総損失と処理費用の総和が最小化されるように, 実現すべき汚染(処理)水準を決定することを委託する。 これに対し,このような状況下で各被汚染者が直面する汚染処理に関する最 適化問題は,与えられた状況により著しく異なる。前者の下では各個人は,自 らの損失についての申告を正直に行なうかあるいは偽って行なうかの選択に直 面する。他方後者の下では,申告に関するこうした選択の他に,組織として決 定された汚染水準達成のために自分に割当てられた汚染処理をそのまま忠実に 実行するか,あるいはそれに従わず自分の望む水準で実行するかの選択にも直 面することになる。これらの意思決定問題に対し,汚染処理費用の負担方法と いう,公共財供給には不可避の問題が重大な影響を及ぼすことが以下の分析に おいて明らかにされる。 最:後に本稿の構成を述べておこう。第2節では,今述べた汚染処理技術に関 する二つの状況下での組織全体としての意思決定手続きが,そのときの各経済 主体の保有する情報を踏まえて説明される。続く第3,4,5節では,組織と しての意思決定及び個々の被汚染者の意思決定問題が,汚染処理技術の所有形 態および汚染処理費用の負担方法によりどのような影響を受けるかが,異なる 状況ごとにそれぞれ検:討される。最後に第6節で本稿の分析の結論及び課題が 論じられる。
136 荒木廼夫教授退官記念論文集(第300号)
II基本モデル
汚染規制対象地域に,汚染者と被汚染者が混在している。問題となる汚染物 質は,被汚染者にとっては純粋な負の公共財(pure public bad)であって, その受容においては非競合性・非排除性がみられる。今,環境規制当局はその 政策として汚染許可証発行政策を採用し,それらの市場取引の結果,Eに相当 する汚染物質が地域内に排出されている。 これに対し被汚染者はn主体存在しており,汚染物質の性質上,誰もが同 一の排出量(E)から個別の損失(D」(E)i=1,…n)を被っている。このと き個々の被汚染者が汚染の現状に満足するのであれば何ら問題は生じないので あるが,現在の汚染状況に不満でその改善を望むならば,汚染処理活動に乗り 出さなければならない。その手段として,技術的な汚染処理と共に汚染許可証 の購入による聞接的汚染削減が可能であるとする。ただし,許可証市場への被 汚染者の参入は,その代表者のみに制限されているものとする。このような状 1) 況下で,個々の被汚染者が全体として組織的に行動する必然性が発生する。そ の結果,組織全体として達成目標とする汚染水準を決定しなければならない。 その方法については,被汚染者全貝の損失の総:和と汚染物質処理費用の合計が 2) 最小化される:水準を数量的に算:出するものとする。次に汚染水準の具体的な決 3) 定プロセスを,序論で触れた二つの異なるケースについて見ておこう。 1)このように経済主体が自主的に組織を形成して汚染処理問題に取り組む例は, Klevorick and Kramer(!973)に紹介されている。河川の水質管理を目的としたドイツ に見られるGenossenchaften(ゲノッセンシャフト)がそれであるが,本稿のモデルと はかなり性格を異にしている。何よりもこの組織には被汚染者だけでなく汚染者も加入 しており,経済的な費用最小化ではなく政治的な投票プロセスによって達成目標となる 汚染水準を決定している。詳しくは原論文およびOrdeshook(1986)を参照。 2)本稿では,本文中のような理由から被汚染者間で集合的汚染処理が実行される場合の 問題点を考察することが目的であることから,被汚染者側での許可証購入活動について はモデル中で陽表的には扱わないが,これを導入しても以後の分析は基本的には何等変 わらない。 3)本稿における分析の目的は,与えられた状況下で効率的汚染処理活動の実現可能性を 吟味することにあるので,これら二つの処理技術所有形態のいずれが効率的なのか,あ/被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 137 1.汚染処理技術が組織全体として共同所有されているとき この場合の組織としての意思決定プロセスは図1のように表わせられる。ま ず被汚染者の中から,意思決定を円滑に行なうのみの理由から執行部が選出さ れる。各被汚染者は自らの汚染に伴う損失関数(易(・))を執行部に提出・申 告する(瓦(・))。執行部は皆から報告された損失関数と彼ら自身の損失関数, 及び被汚染者が組織全体として共同所有している汚染処理の費用関数(G(Aノ), んは汚染物処理量)を合計したものが最小化される汚染水準を,組織として ホの最適汚染水準として算出し(Eノ),処理費用負担配分ルールに従ってそれの 4) 達成に必要な費用を各被汚染者に通告し徴集する。その税収をもとに汚染処理 活動を実行する。ここでEJは,被汚染者が汚染処理手段を行使した後に実現 する汚染水準であって,EJ=E−A」の関係が各変数間に成立している。 これが全体的な汚染水準決定メカニズムであるが,ここでの経済主体の情報 保有状況について述べておこう。汚染処理技術・費用関数,費用負担配分ルー ルに基づく税額決定方法はcommon knowledgeとして全員が知っている。 個々の被汚染者は自分自身の損失関数のみしか知らず,他のメンバーのそれら 図1 汚染処理技術が共同所有されているときの被汚染者組織の行動 選出
圃
ホ 最適汚染水準決定Eノ i l 損失関数報告瓦(・) i[亟亟司i l l l l一十[翻i
l l i[被汚染者]i l l 負担税額通知届 L_____________________1 \るいは共同・個別両者を共存させる方が望ましいのかという類の,汚染処理活動自体の 技術的効率性を検討することは別の機会に譲ることにする。 4)本稿では,ここで議論するような組織的行動,言い換えればメカニズムへの参加に関 する意思決定の余地は各被汚染者にはないものと仮定する。つまり個人合理性の制約は 満たされるものとする。従って,すべての個人に税の支払能力があると仮定する。138 荒木辿夫教授退官記念論文集(第300号) については,事後的に報告された損失関数が観察されるにすぎない。つまり被 汚染者は自分の損失関数を報告する時点では,他人の報告を全く知らないので ある。従って各被汚染者は,真実の損失関数を報告しようが偽りの関数を報告 しようが構わない。また執行部の汚染水準算出過程は全員に公開されており, 執行部の利己的行為は実行不可能な状況にある。 2.各被汚染者が個別に汚染処理技術を保有しているとき この場合の組織的意思決定プロセスは図2のようになっている。1のときと 同様に,各被汚染者は自分の好きなように損失関数を執行部に申告する。執行 部は,報告された全員の損失関数と各被汚染者が保有している汚染処理技術の 費用関数(G(の」=1,…,n,のは第j被汚染者が処理する汚染物質量)全て ホを考慮して,最適汚染水準(EJ)と同時に,その達成のための最も効率的な ネ 温感汚染者ごとの割当処理量(aノ)を算出し,それらを実行するよう彼らに 通告する。この場合には各変数間に次のような関係が成立している。すなわち, EJ=E一Σノのであり,地域に存在する汚染者が発生させた汚染量から嘉応汚染 者による汚染削減努力を控除したものが,実現する汚染水準となる。次に執行 部は,これらの処理活動全体に要する費用を所定の費用負担配分ルールに従っ て各面汚染者に通告し徴集する。その収入で処理活動が維持される。ここで注 意しておかなければならない点は,霜被汚染者に課される税は当該個人に割当 てられた汚染処理量とは独立に決定されると仮定する点である。飽くまで総山 ホ 理費用(従って総処理量)(Σ,の)まで遡って決定される。そのような意味で, 図2 汚染処理技術が個別所有されているときの被汚染者組織の行動 損失関数報告R,(・)
匪a一→最適汚蝉義血遮写代表的被汚職
決定EJ 処理量割当L一一一一一一一 諾[(1)のとき] i 、レ ホ ー〉所有汚染処理技術Ci(a、)被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 139 費用がプーリングされているといえよう。なおこの仮定はその後の分析(第5 節)において修正される。 このメカニズムにおける各経済主体の情報保有状況は以下のようである。汚 染処理技術・費用については,全被汚染者が,自分のそれのみならず他の被汚 染者のそれらについても完全情報を保有している。更には,各回汚染者の処理 活動の従事状況(碗=1,…n)が他のメンバーにとって完全に観察可能であ ると仮定する。従って被汚染者が割当てられた汚染処理量を忠実に実行してい るかどうかを監視することは,執行部をはじめ他の被汚染者にとっても可能で はあるが,ここではたとえ被汚染者が割当量通りに処理活動を実行していなく ても,そのことに対するペナルティの行使は全くないものとする。そういう意 味において,完全に自主的な組織運営がなされているといえる。税額決定方法 についても1のときと同様である。損失関数についての情報も,自分以外のメ ンバーの関数については未知で,報告されたものを報告終了後に,執行部によ る一連の意思決定プロセスの中で観察できるにすぎない点は1の場合と変わら ない。 最後にここまでの説明ではcommon knowledgeとしてのみ言及してきた汚 染処理費用負担配分ルールについて触れておこう。従来一般に公共財供給メカ ニズムが備えていることが望ましい性質として,次の3点が考えられてきた。 ①効率的供給,すなわちパレート最適(ボーエン=サミュエルソン)条件,② 公共財供給における予算均衡,③各需要者にとって真の需要顕示が支配戦略と なる,の3点である。しかしながら,これらをすべて同時に満足するメカニズ ムは一般に存在しないことが広く知られている。そこで本稿では,これらの基 準に照らし合わせて,2っの代替的な処理費用:負担配分ルール,言い換えれば メカニズムを取り上げ,どういつだ状況においてはどちらがいかなる点で望ま しいかという点に注目して検討していくことにする。本稿で取り上げるメカニ ズムとは, ・均等税…全員が当該費用の均等割を等しく負担する(当然②を満足 する)
140 荒木廼夫教授退官記念論文集(第300号) ・クラーク税…通常上の①,③の性質を持つとされるメカニズム の2種類である。これらが先に叙述した2つの状況下でどのように機能するか を以下で見ていくことにしよう。 III 汚染処理技術が組織全体として共同所有されているとき 汚染処理技術が組織全体としてのみ存在している場合には,組織としての効 率的行動を阻害する要因は,各被汚染者が自分の損失関数を正直に申請するか 否かのみに限られる。言い換えれば,通常の公共財供給メカニズムの議論の範 囲を越える問題は生じない。それでも,被汚染者サイドにおける汚染処理とい うここでの公共財供給に固有のメカニズムとしての性質がないわけではない。 その点を考慮しながら,各費用負担配分(課税)ルールを検討していこう。 1.パレート最適条件 まずメカニズムを比較する前にその判断の基準となる,パレート最適条件を 導出しておこう。全盛汚染者の損失関数が執行部において完全情報として入手 可能な場合には,次の最適化問題の解が,被汚染者全体が負担する費用が最小 ネ化されるという意味で最適な汚染水準(Eノ)として決定される。 Min・Ef CJ(ん)+Σ, D」(EJ) s・t’EJ=E−AJ (1) [ただし,qC>0, CJ(0)=O,1)り, D’;>O, Di(0)=0(ブ=1,…, n)] (これより以降プライムは,当該関数の微分を示す。) この問題の1階の条件は容易に, C7=Σ,Dり (2) として導出され,全被汚染者の限界損失の総:和が限界汚染処理費用と一致する 水準が最適汚染水準となるといえる。 それではこのような損失関数についての情報が執行部側に備わっていない場 合,はたして分権的メカニズムにおける各被汚染者の最適化行動から,(1)式を 含めた前述の3条件が満足されるかどうかを考えて行こう。 2.均等課税メカニズム 最:初に汚染処理に要する総費用を全被汚染者数で均等割した額が各個人に均 一に課税される税体系を考えてみよう。この場合の各被汚染者に対する汚染1
被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 単位当りの税額をt(、4ノ)とすると,t(ん)=C×ん)である。 141 ①パレート最適条件 各被汚染者が執行部に申告する損失関数をRj(E」)(j=1,…,n)とする。こ のとき執行部は申告された損失関数を用いて, Min・EJ G(Af)+Σノ・R,(易) s. t,・E」二E−Af (3) ネという最:適化問題を解き,被汚染者全体としての最適汚染水準(E/)を決定 する。言うまでもなくこのための1階の必要条件は, α=Σ、Rり (4) となる。従って,(4)式と(2)式を比較すれば明らかなように, Di(EJ)=R,(EJ) (ブ=1,… ,n) (5) であるならば,すなわち被汚染者全員が真の損失関数を申告しているならば, この汚染処理費用調達(課税)方法はパレート最適条件を満足するといえる。 ②汚染処理活動における収支の均衡 明らかに,n・t(A,)一n・c7面一。レ(A、)より,この条件は満たされる。 ③個人の最:適戦略(真の損失関数申告の可能性) 最後にこのメカニズムの下で,組織の構成員である各被汚染者に自らの損失 関数を正直に報告するインセンチィヴがあるか否かを検討しよう。このメカニ ズムにおいて与えられる税額が1単位当りC×淘,他方,汚染に起因する 損失関数が易(易)であるから,このメカニズムが施行された場合,代表的第 i被汚染者が負担しなければならない限界価値は, ホ
酬El)+α(AJ) (6)
として示される。このとき当該被汚染者にとっての総負担が最小化されるには, (6)式の値がゼロとなることが必要である。しかしながらこのことは,(4)式が示 す執行部が実施する最適化行動と何等関係がない。言い換えればこの被汚染者 にとって,自分の損失関数をたとえ正直に報告したとしても,そのことは必ず しも彼又は彼女の総負担の最小化にはつながらないと言える。よって,均等課142 荒木廼夫教授退官記念論文集(第300号) 税方式においては,各被汚染者に正直に損失関数を報告するインセンチィヴが 必ずしも存在するとは断定できない(一般には存在しない)。 3.クラーク・メカニズム 次に,公共財供給メカニズムとして①,③の性質を満たすことが知られてい る,クラーク税を用いた費用負担配分方法を取上げよう。クラーク税の基本構 造は,当該個人を除く社会において公共財を供給することに伴う社会的評価を, その報告に基づいて個人に対し課税するというものである。従ってここで議論 する汚染処理問題において,最もシンプルな形での単位当りクラーク税(切 は,第i個人に対して,
T, (Af) =C’f(AJ) +2,., R’,(EJ) (7)
というように与えられる。 ①パレート最適条件 この税体系においても,各個人が真の選好(この場合は損失)を表明する限 り,パレート最適条件は満足される。なぜなら,メカニズム中の一連の手続き において執行部が最適化問題(3)を解くに当たり㈲式が満足されるならば,必然 的に(2)式が達成されるからである。 ②汚染処理活動における収支の均衡 クラーク税体系では,一般に財政は均衡しないことが知られている。このこ とは以下のように簡単に確認できる。各被汚染者に対して(7)式が示すような言 わば差別化された課税がなされるとき,その課税額を全課汚染者について合計 すると, Σm(A.J)=n・Cひ(AJ)+(n−1)Σノ1ヒり(易)>Cひ(AJ) (8) となって明らかに財政余剰が発生する。このことは一般の公共財供給における クラーク税の適応との大きな相違点として注目すべき点である。 命題1:汚染処理における費用負担配分メカニズムとしてクラーク税を実施す ると,財政余剰が発生する。被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 143 なぜなら通常の公共財供給では,一般に,本稿で採用しているような比較的単 純なクラーク税を各個人に課した揚合,財源不足が発生する結果となるのが普 通であるからである。この相違は次のような原因によるものと考えられる。一 般の公共財供給に関して政府が解くべき最適化問題は,公共財供給に伴う社会 の全構成員の便益(正負を問わず)の総和から供給に要する費用を差し引いた ものとして定義される社会的純便益の最大化として定式化される。従って,便 益と費用との大小関係によって純便益の符号が正にも負にもなり得る。また課 税は,この社会的純便益が正であるときのみになされる。このようなとき課税 総額は必ず費用よりも小さくなることが証明されている。 (井堀(1984),常木 (1990)を参照。)これに対して本稿で取上げている汚染処理費用最小化問題で は,その目的関数は汚染によって被らなければならない全躯汚染者の損失の総 和と汚染処理に要する費用の合計として定義される。従って問題(1)で与えたよ うな条件の下では,この目的関数は常に正の値をとり続け,最適化問題の解と しての汚染水準がゼロとなることはあり得ない。このような条件下では,(8)式 が示すように常に財政余剰が発生するのである。 ③個人の最適戦略(真の損失関数申告の可能性) クラーク税が公共財に対する真の評価を報告するインセンチィヴを生むこと は一般に知られているが,本稿のモデルにおいてもそのことが成り立つことを 確認しておこう。第i被汚染者に対する単位当りクラーク税が(7)式で与えられ, ホ彼又は彼女の真の損失関数が1)ゴ(Eノ)であることを考え合わせると,この費用 負担配分方法の下でこの被汚染者が負担しなければならない限界価値は, ホ D’、(E/)十Cり(Af)+Σ々≠iR’k(Ei) (9) となる。当該被汚染者の負担が最小となるためには,⑨式がゼロに等しいこと が必要となるのであるが,実はその条件というのは,このメカニズムにおいて 執行部に与えられた最適化問題(3)の1階の条件とある仮定の下で一致する。そ の仮定とは,(4)式と(9)式を比較すれば明らかなように,第i被汚染者に対して ⑤式が成立するということである。言い換えれば,この個人が真の損失関数を 執行部に対して報告するということである。つまり正直に自分の損失関数を報
144 荒木廼夫教授退官記念論文集(第300号) 価しさえずれば,その後は与えられた税の支払に従うことが,この被汚染者に とって最適な結果をもたらすということである。(岸本(1986),Ordeshook(19 86)を参照。)このこと自体は他の被汚染者の報告状況とは独立に成立している から,この行動は彼又は彼女にとっての支配戦略であるといえる。よって,ク ラーク税を用いた費用負担配分方法は,各被汚染者に真の損失関数を報告する インセンチィヴを与えるといえる。 IV 各被汚染者が個別に汚染処理技術を所有しているとき(1) 汚染処理技術を各戸汚染者が個別に所有しているとき,組織全体としての効 率的行動を阻害する要因として二つの原因が挙げられる。第一には,処理技術 が組織全体として共同所有されているときと同様,各被汚染者が真の損失関数 を申告するかどうかというインセンチィヴに関する問題である。第二には,こ の状況に固有の要因として,個々の被汚染者が,組織的な最適汚染水準達成の ために執行部が算出して自らに割当てられた汚染処理活動水準を忠実に実行せ ず,各自の私的な見地から最適と考えられる汚染処理活動を行なうインセンチ ィヴが存在し得るという問題である。この問題は,各自の汚染処理活動が個人 の自由裁量に委ねられている以上,当然持ち上がる問題である。本節では,こ れら二つの阻害要因に直面する下で,いかなる汚染処理費用負担配分(課税) メカニズムが望ましいのかを検討していく。そこでまず,組織として負担しな ければならない汚染総処理費用を,執行部による最適化問題の解として導出さ れた各被汚染者の割当処理:量に基づいて算出される場合を考えてみよう。 1.パレート最適条件 執行部が,全被汚染者についてその損失関数の正確な情報を把握していると き,言い換えれば損失関数についての完全情報を保有しているとき,次式が定 義から導かれる。
Vj EI’{ 1, …, n}, R,= Df (lo)
⑩式が成立している下で,最適汚染水準は以下の問題を解くことにより決定さ れる。被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 145 Min・{の}ΣノG(の)+Σノ瓦(E」) s. t, Ef=E一Σノの (11) [α,>0,C’G>0, G(0)=0(ブ=1,…, n)] この問題の1階の必要条件は,α=ΣノR3 (ブ=1,…, n) ⑫ である。この場合には,全ての被汚染者について,その所有する汚染処理技術 の限界処理費用が,当該被汚染者も含めた山谷汚染者が被る汚染からの限界損 失の総和と一致する水準に個々の汚染処理活動が保たれることが費用最小化の ためには必要であることがわかる。さらに,⑫式の右辺はあらゆる被汚染者の 持つ処理技術について共通であることから,次式が得られる。 C’i=Cm [1, m∈{1,…, n}] ⑬ ⑬式が意味していることは,効率的汚染処理状態においては各被汚染者が個別 に保有している汚染処理技術の限界費用が均等化される必要があるという,環 境経済学の基本定理の一つであるMishan(1974)の一般原理が成立している ということである。 この最適化問題に必要な損失関数についての情報を執行部が保有していなく て,その情報を被汚染者からの申告に依存するとき,分権的メカニズムに⑫式 あるいは⑬式をもたらす機能が備わっているかどうかをみることにしよう。そ の場合第2節で検討した3条件に加えて,新たに当該被汚染者に割当てられた 汚染処理活動を忠実に実行するインセンチィヴがあるかどうかについても吟味 する必要があることに注意しなければならない。 2.均等課税メカニズム このケースでは各被汚染者が所有する汚染処理技術の実行に要する費用を, その所有者も含めた壷振汚染者で均等に負担し,しかもこの節においては,調 達されるべき汚染処理費用は,執行部が算出した最:適処理水準に基づいて計算 されるものとする。このとき第i被汚染者に対する単位当り課税額(t)は次 のようになる。 ホ t({al})一Σ1σ・(a;) (14) ①パレート最:適条件(最適汚染水準及び最適処理水準の決定)
146 荒木麺夫教授退官記念論文集(第300号) 汚染処理技術が私有化されている場合においても,各被汚染者が自分の損失 関数を執行部に報告するという手続きには変わりがない。また執行部が目的関 数を最小化するプロセスも共同所有の場合と同様であるので,このメカニズム がパレート最適性を満たすかどうかは,被汚染者が真の損失関数を申告するか どうかに依存しており,そうであるならばパレート最適条件は満たされる。 ②汚染処理活動における収支の均衡 この条件も技術の共同所有のときと同様,明らかに満たされる。 ③個人の最適戦略(真の損失関数申告の可能性) 前節の汚染処理技術が共同所有されている場合と同じように考えると,ここ での代表的野汚染者(i)にとっての負担の限界価値は次のように示される。 ホ
Dt(E;)+ΣCり㈲ ㈲
総負担額が最小となるには㈲式がゼロとなる必要があるが,そのことはこの被 汚染者が損失関数を正直に報告することとは無関係である。逆に言うと,正直 に報告するからといって必ずしも負担が最小化される保証はない。よって,こ のメカニズムにおいて各自汚染者が自分の損失関数を正直に報告する積極的な 誘因はないといえる。 ④割当処理量実行に対するインセンチィヴ ネ 第i被汚染者にとって,自分に割当てられた汚染処理量(a、)を忠実に実行 する動機があるか否かについては次のように考えられる。まずこの税体系では 自らの汚染処理量を変化させても処理費用負担はその影響を受けない。それは 上でも述べたように,実際に当該被汚染者が汚染処理活動を行なった結果要し た費用とは無関係に,事前的に費用負担額は決定されているからである。なぜ なら各メンバーに対する費用負担額は組織全体として決定された汚染処理量 ({αノ})に基づいて算出され,その処理量は各被汚染者の報告した損失関数を 用いて導出される。従って汚染処理費用負担を軽減するには自らが行なう損失 関数の報告を操作するしかない。このことは,③で確認したように損失関数を 正直に報告するインセンチィヴが存在しないことと整合的であるといえる。以被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 147 上のことから,各被汚染者が汚染処理活動を割当てられた通りに実行しない動 機は,執行部によって決定された汚染水準(あるいはその実行のための割当処 理量)が当該被汚染者が最適と考える水準と一致しないために生じると考えら れ,そのために必要な汚染処理を費用自己負担の上で自ら実行する。このよう な観点から汚染処理において逸脱動機を持つ被汚染者の最適化行動を描写しよ う。 先にも触れたように,この税体系の下では各自が負担する税額は,いったん 損失関数を申告してしまえば被汚染者の汚染処理活動とは独立して決定される。 そういった意味において言わば一i舌税(lump−sum tax)が課せられることに なる。従ってこの状況下で各被汚染者は,組織が存在しない場合のように個別 に自らが望むように汚染処理活動に従事する。つまり自分自身の損失関数と自 ら実行する汚染処理費用のみを考慮して汚染処理量を決定する。第i被汚染者 の最適化問題を定式化するならば以下のようになる。 ホ Min・aPi(Ef)+t,十Ci(の) s. t, EJ=E一Σ々≠ガ伽一の (16) ただし,バーをつけた変数は,この被汚染者にとって操作不可能であることを 示すものとする。 この問題の1階の条件は,∠)!,(γ、 (1の である。(10式と(12)式を比較すれば明らかなように,両者は異なりしかも(1の式を 満たす汚染処理水準の方が⑫式から得られる汚染処理水準よりも小さい。つま り均等課税方式による汚染処理費用調達法を採用した場合,各被汚染者は割当 処理量を実行するのではなく,それよりも過小にしか処理活動に従事しようと はしないということになる。 3.クラーク・メカニズム 汚染処理技術が各被汚染者によって私有されている場合のクラーク税体系は, 次のように示される。税の構成要素のうち,損失関数については処理技術共同 所有のときと同様に,当該被汚染者を除く他のすべての被汚染者の報告した損 失関数の限界値の総和であるが,処理費用については,当該被汚染者も含めた 全被汚染者のもつ処理技術の限界費用の総和を税として負担しなくてはならな
148 荒木廼夫教授退官記念論文集(第300号) い。この結果,第i被汚染者の単位当り負担税額(切は, Ti=ΣノCり(の)+Σ々≠,R■k(E」) となる。このとき,各条件の成否はどうなるかを検討しよう。 ①パレート最適条件(最適汚染水準及び最適処理水準の決定) (18) この場合もメカニズムの性質上,各被汚染者が自分の真の損失関数を執行部 に申告する限り,パレート最適条件の達成は保証される。 ②汚染処理活動における収支の均衡 汚染処理技術が共同所有されているときと同様,明らかに余剰が発生する。 なぜなら, Σノ勾=ηΣゴC∼(aJ)+(n−1)Σノ、Rり(Ef)〉ΣノCり(の) ⑲ となるからである。通常の公共財供給とは対称的な結論が得られるのは,技術 が共同所有されているときと同じ理由による。 ③個人の最適戦略(真の損失関数申告の可能性) この状況下での第i被汚染者の限界負担額は,これまでと同じように考えて, ネ ホ ホ 1γ、(Eノ)+ΣブCり(a,)+Σle.iR’々(Eノ) (20> と表せられる。任意のの(ブ=1,…,n)に対してこの値がゼロとなることが総 負担最小化のために必要であることはこれまでと同じ論理によるところである が,このことは,この第i被汚染者が正直に損失関数を報告した場合・の執行部 の最適化問題の1階の条件と一致する。なぜなら,任意のaJについて⑫式が ⑳式と一致するのはDi(・)=R(・)の場合だけであるからである。よってここ で想定しているようなメカニズムにおいて,各被汚染者は損失関数を正直に報 告するインセンチィヴを持っているといえる。 ④割当処理量実行に対するインセンチィヴ クラーク税体系の下でも均等税体系の場合と同様に,自らが実行する汚染処 理活動を調節することによって費用負担額を軽減することは不可能である。し たがってここでは均等税体系の場合と全く同じ議論が成り立ち,被汚染者は与 えられた汚染処理量よりも過小にしか処理活動に従事しないものと期待される。
被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 149 V.各被汚染者が個別に汚染処理技術を所有しているとき② これまでの議論で明らかになったように,各メンバーが申告した損失関数を 基に執行部が算出した各汚染処理技術ごとの最適汚染処理量をその所有者であ る被汚染者に割当て,それに従って被汚染者は自分の汚染処理活動を遂行し, その結果として被汚染者全体としての効率的な汚染水準が達成されるというよ うな,このメカニズムが想定する一連の機能は,実際には理想的に作用しない のである。そこで今度は,これまでのように汚染処理量を被汚染者に対して半 ば強制的に割当てるのではなく,汚染処理費用調達(課税)方法をあらかじめ 示し,その下で各々汚染者に自由に汚染処理活動に従事する裁量を与え,しか も税額は各被汚染者が実行した汚染処理量に伴う費用が調達されるように算出 される場合,果たして効率的汚染処理がなされるかどうかを最後にみておこう。 ただし上で考察した諸条件のうち,①,②,③に関しては,ここでの環境変化 の影響は受けないことは明らかであるから,以下では専ら,④割当処理再実行 5) に対するインセンチィヴについて分析することにする。 1.均等課税メカニズム 上で述べた状況下では,税負担のうち当該被汚染者が有する汚染処理技術に 伴う費用部分については自ら実行する汚染処理水準の調節により操作可能で, その結果,負担すべき税額の一部が操作可能となる。また汚染処珪水準の操作 は自らの損失に対しても当然影響を与えるから,第i被汚染者の汚染処理水準 決定問題は以下のようになる。 Min th.Di(E」)+ym”iCk(ak)+C‘(ca’) s. t. EJ=IZIiL−2k.iak−ca・ el)
この問題の・階の必要条件は,砕号 e・)
5)この場合には自分に対する課税額が汚染処理量に依存して決定されるため,実際に酷な つた汚染処理量を執行部に対して正直に報告するかどうかという新たな問題が生じるよう に思えるが,その心配はない。なぜなら第2節で仮定したように,各被汚染者の汚染処理 活動は執行部・他の被汚染者によって完全に監視されており,処理量の不正申告はそれが なされたときには即座に判明するからである。150 荒木廼夫教授退官記念論文集(第300号) となる。これは明らかにパレート最適条件を示す⑰式とは異なる。よって,こ のシステムにおいても均等税を用いて実施することはやはワ非効率を招くとい える。 2.クラーク・メカニズム ここで想定している状況では,クラーク税においても支払税額の中に自分の 汚染処理量調節によってその額が操作可能となる要素が含まれてくる。なぜな ら,クラーク税構成要素の中で他の被汚染者の損失関数(D々(瓦)(k≠i))は, 各被汚染者が実行する汚染処理活動の結果実現する汚染水準に依存しているか ら,当然第i被汚染者が実行する汚染処理量(a,)にも依存しているからであ る。その効果を考慮した場合,当該第i被汚染者の処理量決定問題は次のよう に定式化されよう。 Min da・Di(EJ) +Ti=Di(EJ) +2k.iCk(ak)十Ci(ca・) 十2kiiRk(EJ) (23) s.t, Ef=E一Σ,≠島一の この問題に対する1階の条件は,C’,=D’,+Σk.iR’、 ⑳ となり,この被汚染者が自分の損失関数を正直に報告した下で⑰式と一致する ことがわかる。このことは条件③の検討で見たように正当化されるから,結果 として,クラーク税体系を用いると,組織として最適な汚染処理水準をわざわ ざ算出して割当てるまでもなく,各被汚染者は自発的に正にその最:適汚染処理 量を実現するインセンチィヴを与えることが可能となるのである。このことは, クラーク課税方式が持っている均等課税方式に対する大きな優位性であるとい える。 6) これまでの分析から明らかになった結論をまとめると表1のようになる。表1 を見て即座に判断できるように,本稿で取上げた均等課税方式及びクラーク課 税方式の二つのここで言うところの公共財供給メカニズムを様々な状況におい て比較したとき,次の命題が得られる。 6)表1中でパレート最適条件が満たされていない箇所は,条件③および④のいずれかまた は両方が満足されないことに起因する。
被汚染者にみられる汚染処理活動の効率性と実行可能性 151 表1 状況と各メカニズムとの関係 ケース1 ケース2 ケース3 均等税 クラーク税 均等税 クラーク税 均等税 クラーク税 パレート最適条件 ● ○ ● ● ● ○ 財政収支 ○ ● ○ ● ○ ● 個人の最適戦略 ● ○ ● ○ ● ○ 最適処理量実行に対 キるインセンチィヴの有無 ● ● ● ○ ※ケース1…汚染処理技術が共同所有されているとき ケース2…汚染処理技術が個別所有されていて処理に関する割当があるとき ケース3…汚染処理技術が個別所有されていて処理に関する割当がないとき ○…当該条件が満たされる,●…当該条件が満たされない 命題2:本論で想定した3つの状況において各比較項目を均等のウエイトで評 価するとき,両課税方式が同等に評価されるのは各被汚染者が個別に汚染処理 技術を所有しているときに各個人に対して最適汚染処理水準が割当てられる場 合のみであって,それ以外のケースではクラーク税方式が優位である。 このように各被汚染者が実行する汚染処理活動に対して執行部が規制を行な うか否かで,そのメカニズムが持つ特性は大きく左右される。他の被汚染者の 損失関数についての情報を持っていない個々の被汚染者に最適処理量を指示す ることは一見望ましいように思われるが,そのことが返って非効率性を招く場 合が有り得るのである。このことは本稿で取上げた汚染物削減という一種の公 共財供給において固有の性質であるといえよう。それは,ここでの経済主体の モデル化のように,一人の経済主体が公共財の需要(消費)者であり同時に供 給者でもあるという性質に大きく依存している。
VI結論
本稿での分析のそもそもの目的は,汚染許可証発行政策の施行による社会的152 荒木麺夫教授退官記念論文集(第300号) 最適汚染水準の達成において最も重大な仮定である被汚染者間の外部効果の除 去,言い換えれば,被汚染者側での集合的汚染処理という仮定が果たして許容 され得るものであるかどうかを確かめることであった。その際,考慮されなけ ればならない点として,汚染処理費用の被汚染者間での負担配分問題及び,汚 染処理技術の所有形態が挙げられた。 その結果明らかになったことは第一に,汚染処理技術が被汚染者全体として 共同所有されている場合には,汚染処理に要した費用を全被汚染者で均等に負 担するよりも,クラーク税によって負担を決める方が,財政余剰が発生すると いう意味ではファーストベストではないものの,均等課税法に比べて望ましい 性質を持っているということである。第二には,二仏汚染者が個別に汚染処理 技術を私有している場合には,いわゆるクラーク税方式を費用負担配分方法と して採用し,その下で三遠汚染者に自由に汚染処理活動に従事させ,その実際 の活動に要した費用を当該課税法に従って負担させるというメカニズムの方が, 均等課税方式に比べてより高い効率性を実現するということである。すなわち 汚染処理技術の所有形態に関してはいずれの場合においても,クラーク税方式 が均等税方式よりも効率性の観点からは劣位な立場になることはないといえる。 しかしこの結論は飽くまで,本稿で取上げた各条件を対等に評価した場合に 限られる。クラーク税方式に不可避の財政余剰の聞題がより重要視されるなら ば,結論は覆されることになる。またここで議論したようなメカニズムを現実 に実施するとなると,解決されるべき問題はなお多数存在する。被汚染者が誰 であるのかを識別し,さらにその組織化となると必要とされる情報および費用 はこのメカニズムの持つメリットを相殺してあまりあるかもしれない。 [REFERENCES] Baron, D. P. (1985), “Regulation of Prices and Pollution under lncomplete lnformation”, /ournal ofPublic Economics, vol. 28, pp. 211−231. Dasgupta, P., P. Hammond and E. Maskin (1980), “On lmperfect lnformation and Optimal Pollution Control”, Review ofEconomic Studies, vol. 47, pp. 857−860. Krevorick, A. K, and G. H. Kramer (1973), “Social Choice on Pollution Management : the
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