授業目標を達成できるようにする授業設計についての研究 -生徒が納得して活動に取り組める授業を目指して- 高度学校教育実践専攻 実習責任教員 江 川 克 弘 教員養成特別コース 実習指導教員 川 上 綾 子 阿 部 春 香 キーワード:授業目標の明確化,生徒主体の授業,生徒の関係性理解,考え続ける教師 (1)1年次実習で明らかになった課題 1年次実習で明らかになった課題を,①授業 実践,②学級経営,③生徒指導,④教職協働の 4観点から述べる。 ①授業実践について 授業実践における課題は2つある。一つは教 材研究の段階で授業目標を明確化することであ る。1年次実習の授業実践では,「本文の筆者の 意見を理解すること」と「自分なりの考えを持 つこと」を目標とした。だが,どのような状態 になれば生徒が「作者の意見を理解できている」 と言えるのかということが明確にできていなか った。また,「自分なりの考え」とはたとえばど のようなものか,ということについて,具体的 にイメージすることができていなかった。この ことで,授業の中で生徒が目標に達することが できたかどうかを判断することができなかった。 また,自分の授業の振り返りをするときも自分 の授業実践が効果的であったかどうかを判断で きず,正しく反省することができなかった。以 上のことから,授業目標を明確化することが重 要だと考え,授業実践の課題の 1 つに設定した。 もう一つはその目標を達成するために行う生 徒の学習活動と「なぜその活動をするのか」と いう意義を明確化することである。1年次の実 習では,授業設計する際,どのような活動をさ せれば生徒は授業目標を達成できるのかという ことをほとんど考えられていなかった。また, 学習活動の意義についても考えられていなかっ た。 以上のようなことから,特に授業実践は筆者 にとって大きな課題だと考える。そのために授 業実践を主とした研究課題を設定した。 ②学級経営について 筆者は,学級経営において友達や他者を尊重 することを大切にしたいと漠然と考えているが, そのような学級にする必要性を生徒に説明でき ない。また,それを実践するための具体的方策 も考えられていないため,以上の2点が課題で ある。そのため,2年次の実習では学級経営に おけるメンターの先生の指導や生徒の様子を観 察し,学級経営で自分は何を大切にしていきた いか,そのためにはどうすればいいのかという 具体的な部分を考えていかなくてはならないと 考える。 ③生徒指導について 生徒指導における課題は2つある。1つめは, 「こんな生徒に育ってほしい」という自分の思 いを生徒に伝えて指導を徹底するということで ある。そのためには,まず筆者が育てたい生徒 像を明らかにし,様々な教育活動における生徒 にとっての意義というものを見出していくこと が重要だと考える。 2つめは,生徒個人の実態を多面的に把握す ることである。そのため,生徒個人に働きかけ たり,生徒の周囲から情報を得たりするなど, あらゆる方法で各生徒の情報を収集していきた いと考えている。そしてそのようにして得た情
報をもとに,生徒の実態や場の状況に適した指 導や声掛けができるよう関わっていかなくては ならないと考える。 ④教職協働について 教職協働における課題は2つある。1つは, 現場の先生に筆者自身の考えを詳細に伝えるこ とである。現場では教員同士のコミュニケーシ ョンは必須だと考える。また,国語の授業の中 で筆者自身が「相手に伝わるよう話すこと」の 大切さを生徒に教えたいと思っているため,ま ずは自分がそれを実践していかなければならな いと考える。 2つめは,校務分掌について知ることである。 校務分掌とはどのようなものなのか,メンター の先生はそれに沿ってどう活動しているかとい うことを観察していくと共に,その仕事を手伝 う中でその仕事の学校全体における意義につい ても考えていかなくてはならないと考える。 (2)2年次実習について 2年次実習における,上記の課題に対する成 果や課題,反省を①授業実践,②学級経営,③ 生徒指導,④教職協働の4観点から述べる。 ①授業実践について ●研究授業実践例 単元:「今に生きる言葉」(漢文) 授業目標:「故事成語が何かを理解する。『矛盾』 のエピソードの内容を理解し,ある程度書き下 し文を音読できる。」 (ⅰ)授業目標の明確化について 本単元は故事成語である「矛盾」という言葉 の背景にある漢文の書き下し文のエピソードを, 四コマ漫画や現代語訳を手がかりに理解し,漢 文のリズムに親しむものであると考えた。そこ で,まずは故事成語が何かを理解させることが 重要であると考えた。「故事成語が何かを理解す る」とは,「故事成語の辞書的な意味を知ること」 「故事成語ができる背景にエピソードがあるこ と」,「人々が故事成語に感動したり共感したり したことで人から人へ伝承され,今なお昔と同 じ意味で使われ続ける言葉であること」である とした。また,「ある程度書き下し文を音読でき る」とは,書き下し文を見ながら音読できるこ ととした。 (ⅱ)授業目標達成のための生徒の活動について 1. 「矛盾」が,漢字一文字一文字から意味が 予測できないことを気づかせるために,一 般的な熟語と故事成語の熟語の成り立ちと を比較させる。そのあと故事成語の成り立 ちにはエピソードがあることを伝えると, 書き下し文を読むことに興味が持てると考 える。 2. 故事成語が人から人へ伝承され続けたこと で,二千年後の現代にまで残っていること を,教科書の説明文を読んで理解させる。 こうすることで,故事成語の素晴らしさを 生徒が理解でき,より「矛盾」のエピソー ドについて興味を持てると考えた。 3. 「矛盾」の書き下し文を音読する際,教師 が一文ずつ範読し,その後を追う形で音読 させる。教師のあとを追うことで,より音 読しやすくなり,漢文のリズムに慣れ親し みやすくなると考えた。 4. 教科書に載っている四コマ漫画を手がかり に矛盾のエピソードのおおよその内容を予 測させる。内容を予測させた後に現代語訳 を読み,エピソードの内容に対する生徒の 予測が合っているかということや,難しい 言葉の意味を確認する。こうすることで, 生徒は書き下し文を解釈することに楽しさ を感じられるのではないかと考える。
(ⅲ)授業実践について 上記の1~4の生徒の活動の様子と,それに 伴う成果や課題を以下に述べる。 1. まず「黒板」「水道」などの熟語の成り立ち を考えさせた。次に,故事成語は一般的な 熟語と同じように,漢字の一文字一文字か ら意味が予測できるか聞き,「矛盾」の成り 立ちにはエピソードがあることを伝えると, 生徒は前に向いて話を聞き,驚いている様 子だった。このことから,一般的な熟語と 故事成語である「矛盾」を比較させ,意味 の成り立ちの違いを掴ませる方法は生徒に とって分かりやすく,興味が持てるものだ ったのではないかと考える。しかし,自分 の意見を発言していない生徒もいた。ある 生徒の発言を他の生徒に返すなどして,生 徒全員が授業に参加できるようにすればよ かった。 2. 「故事成語がいつできたか」「どこの国でで きたか」「どのようにして人から人へ伝わっ たか」の3点を探しながら筆者が音読する 故事成語の説明文を聞くよう指示した。し かし,3つの発問を音読後に忘れている生 徒もいたため,黒板に発問を掲示すればよ かった。だが,故事成語が二千年以上も前 から人から人へ伝わってきたことを筆者が 言うと「へ~」という生徒もいたため,方 法は拙かったものの,故事成語のすごさを 生徒は掴めたのではないかと考える。 3. 筆者が書き下し文を一文ずつ範読してから, そのあとを追って生徒に音読させた。それ によって生徒は難しい読み方の漢字や歴史 的仮名遣いにつまずくことなく,正しく音 読できていた。自主的に読み仮名を振る生 徒もいたが,一部の生徒のみだったため, 生徒全員に読みに自信がない漢字には読み 仮名を振りながら筆者の範読を聞くよう, 指示すればよかったと考える。 4. 矛盾の書き下し文と四コマ漫画を読み比べ ながら書き下し文の内容のおおよそを予測 させた。四コマ漫画を黒板にはり,それぞ れのコマの内容について発問すると,何人 かの生徒が考えを発言した。しかし筆者は, 数名との生徒とのやり取りだけで授業を進 めてしまった。生徒同士で考えさせる時間 をとったり,一人の意見を学級全体に返し たりするなどして,生徒それぞれが考えを 持てるようにすればよかったと考える。ま た,生徒が漢文の書き下し文を読み味わう 時間をとらなかった。まずは,書き下し文 を読み,難しい単語や分かりにくい部分を 生徒に聞くべきだったと考える。そしてそ の上で四コマ漫画を黒板に貼り,四コマ漫 画を手がかりにして生徒が書き下し文の内 容を考える時間をとるべきだった。その際, 四コマ漫画の1コマに,書き下し文のどこ があてはまるのかも生徒に考えさせるべき だった。そうすることで,漫画を手がかり に書き下し文の内容を予測しやすくなると 考えるからである。そのあと,1コマ目で は誰が何をどうしているかというふうに, 具体的な部分を考えさせるようにしたら良 かったと思った。 次に,書き下し文の音読練習の時間をと ったあと,生徒全員で音読を4回した。こ こでの反省点は,読む速さを競う読み方を させてしまったことである。生徒は音読練 習の時,歴史的仮名遣いに注意して丁寧に 読むことをせずに,早口で読んでいた。ま ずはゆっくりでも生徒全員が書き下し文を
正確に読めるようになることを重要視する べきだった。今回の音読練習のさせ方では, 生徒は勝負の楽しさに捉われ,書き下し文 を十分に読み味わえなかったと考える。 しかし,前単元で読み慣れた古文と漢文 の音読のリズムが違うという発言をしてい る生徒がいたため,何度も音読させること は,授業目標を達成するために必要なこと だったと考える。 ②学級経営について 今回の実習を通して,仲間を尊重し合える学 級をつくることが重要だと思えるようになった。 そのために自分の担任としての思いや考えを学 級全員に伝え,生徒が仲間のことを考えている 言動をすれば担任として褒め,そうでない言動 に対しては厳しく徹底的に指導していくことを 学級全員に伝えていこうと考えている。 課題は,体育祭や文化祭といった学校行事で の担任としてのはたらきかけを考えることであ る。学校行事で生徒が達成感を得られ,仲間の 大切さを感じられるようにするために具体的に 担任としてどうサポートしていくかを考えてい きたい。 ③生徒指導について 今回の実習では,自分の今の状況に満足する のではなく,よりよい自分をめざして努力でき る生徒を育てたいと考えるようになった。また, 生徒を理解することにおいては,多面的に理解 をすることが以前よりもできるようになったと 考える。ある生徒が問題行動を起こしたとき, 生徒の実態を踏まえ,問題行動の理由や背景を 考えたうえで,指導や声掛けをすることができ たと思う。指導や声掛けがうまくいかなければ, 方法を変え,何度も繰り返し生徒に関わってい く姿勢で,生徒と接することができた。 しかし,生徒に合わせた指導や声掛けを徹底 しきれない所もあった。筆者の中にまだまだ「生 徒がここまでできたら十分だろう」という甘い 考えがあるからだと思う。生徒が今できている こと以上のことができるようにするためにはど うすればいいかという視点を持って,声掛けし ていかなければならないと強く感じた。 ④教職協働について 先生方に積極的に生徒の情報や保護者の対応 について,聞けた場面もあれば聞けない場面も あった。自分から関わりに行く姿勢を忘れずに, 他の先生方に相談ができるような職場での人間 関係を作っていくことが大切だと思った。 また,メンターの先生の仕事を手伝わせても らう中で少しは校務分掌について考えることが できたと思う。生徒の成長を育むために,校務 分掌があるのだと分かった。筆者も,生徒がよ りよく成長できるようにするためにどうすれば いいかを考えて校務の役割を担っていくことが 重要であると感じた。 (3)理想の教師像 筆者は,スムーズに仕事をこなせる教師にな りたいと考えている。スムーズに仕事をこなす とは,授業のよりよい方法をすぐに考え出せた り,生徒との関係作りが自然とできるようにな ったりするということである。そしてそのため には,日頃から,授業の方法や生徒との関わり 方について自分の指導方法を反省・改善し,よ りよい指導を考え続ける必要があると考える。 そうすることを繰り返すと,教師の仕事につい て考えることが当たり前になり,将来的には生 徒にとってよりよい方法をいくつも思いついて いけるようになれると思う。そのような教師を 目指して,日々考え続けたいと思っている。