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持続可能な都市貧困層対象住宅建設を目指してーフィリピン・セブ市の需要と供給のギャップと実情一 利用統計を見る

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持続可能な都市貧困層対象住宅建設を目指してーフ

ィリピン・セブ市の需要と供給のギャップと実情一

著者

小早川 裕子

雑誌名

地域活性化研究所報

12

ページ

49-56

発行年

2015-02

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007420/

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持続可能な都市貧困層対象住宅建設を目指して

ーフィリピン・セブ市の需要と供給のギャップと実情-研 究 員 小 早 川 裕 子 ( 国 際 地 域 学 部 国 際 地 域 学 科 講 師 ) 1. 研究の背景と目的 ミレニアム開発目標では、12020年までに少なくとも 1億人のスラム居住者の生活を大きく改 善するJ(MDGs Goal 7) と掲げた。そして、 2014年のミレニアム開発目標報告は、 2000年か ら2012年の聞に 2億人のスラム居住者の生活が、例えば、安全な水利用、衛生向上、住宅耐久 面や高過密住宅環境などの面で改善されたと報告している。このように目標を大きく上回って 達成した事は大いに歓迎される。しかし、同報告書を更に読み進めると、手放しで喜べない現 実を知らされる。 2012年現在、発展途上国の都市部では、未だに 33パーセント近くの人々が スラムに住んでおり、都市化の急進展はスラム居住者の数を 1990年では 6.5億人、 2000年で は7.6億人、 2012年では 8.63億人と増えている現状だ。また、 2014年に発表された国連世界 経済社会調査報告2013でも、急展開する都市化に応じた対策を講じなければ、スラム居住者や 基本的生活基盤やサービスへのアクセスから漏れる人口が、 2050年までには 30億人に膨れ上 がる可能性があると報告している。 研究者は、人聞が人間として尊厳を持ち、安心して生活を送るためには基本的生活基盤が整 った環境下で住宅を取得、あるいは、持続的に賃貸できることが重要であると考えている。居 住権のためのアジア連合

(ACHR)

の創設者であるホルヘ・アンソレーナは、「家があるという ことは、人聞にとって基本的な権利であるJ(アンソレーナ 2007年)と訴えている。また、オ ーストリアの建築家であるフンデルトヴァッサーは、「住宅とは人聞の皮膚である」と論じてい るが、そのことは皮膚があって人聞として機能しており、住宅があることで人聞の生活が成立 するという事を示唆している。しかし、今日に見る歯止めの利かないグローパル化、個人主義 化、都市化の趨勢にあって、急成長するアジアの大都市では住宅不足が大きな課題となってい る。都市人口の集中と住宅不足は、スラム居住者の数を増やすだけではなく、その居住環境や 社会環境を一層劣悪なものへと庇め、社会不安は周辺を巻き込んで、いく。 本報告が取り上げるフィリピンには、人口約 9,198万人の内、約 26万人が公用地や私有地に 無許可で住宅を建てて生活しているインフォーマル居住者が存在する

(JETRO

2011)。彼らへ の正規住宅供給が政府の長年の課題であり、これまでも様々な取り組みをしてきた。しかし、 国民の約8害IJが世帯年収50万ペソ(約 100万円)以下の世帯であり、このような低所得者層を 対象にした住宅供給を如何に実現していくのかが国家政策の最重要課題の一つで、ある。本報告 では、住宅の需要と供給に存在する大きなギャップとその要因を示し、 2006年から 2014年に

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1

1'ってきたセブ市に於ける調査に基づいて、持続可能な都市貧困層用住宅ニーズに応える方策 を考えてみることにする。 2. 低所得者層住宅の需要と供給の大きな溝 フィリピンにおける住宅需要件数は、 2001・2004年では360万戸、 2005・2010年では375万 戸を数える。 2005・2010年度の住宅需要の内訳は、累積ニーズが98万戸、改築を必要とする住 宅戸数が約 19万戸、新世帯用住宅戸数が約260万戸である。累積ニーズ戸数の中では、インフ ォーマル居住者用住宅不足が全体の 59.8%を占めており、ホームレス用住宅の不足は 0.84%と なっている。住宅需要合計の内、同じ住宅に 1世帯以上が住むタイプの住宅に対する需要は 10.3%ある。(表1参照)。 表1 2005・2010年 度 の 住 宅 需 要 戸 数 分 類 戸 数 -ホームレス用住宅 8,298 新世帯用住宅 2,585,272

出典:Housing and Urban Development Coordinating Council

次に同年度の政府の建設目標戸数と実質建設戸数を見てみたい。表2は2001・2004年度の目 標建設戸数と建設戸数を示している。この年度の目標戸数は 120万戸となっているが、これは 需要実数 360戸の半分であり、しかも実際に建設されたのは882,823戸と、その目標達成率は 73.6%に留まっている。建設された住宅タイプの内訳は、社会住宅が約49万戸で、低価格住宅 が約 39万戸である。 表 2 2001'2004年 度 目 標 建 設 戸 数 と 建 設 戸 数 実質建設戸数 住宅タイプ 日標戸数 2001 2002 2003 2004 2001.2004 社会住宅 880,000 207,940 118,987 84,716 81,853 493,496 低価格住宅 320,000 54,447 74,306 114,507 146,067 389,327 合 計 1,200,000 262,387 262,387 193,223 227,920 882,823 出典:Housing and Urban Development Coordinating Council

ここに挙げられる社会住宅とは、都市貧困層およびホームレスを対象とした政府、民間デベ ロッパ一、あるいは開発

NGO

による住宅建設事業で、土地付き住宅または住宅を提供している。

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2005-2010年度目標建設戸数 戸 数 f f i!i!llllき主 365,282 1参事 1,145,668 割 合 ( % )

出典:Housing and Urban Development Coordinating Council

社会住宅事業とは、 1992年都市開発・住宅法 (UrbanDevelopment and Housing Act of 1992) に定められた低所得者層向け住宅建設法で、住宅(土地付きまたは住宅のみ)を提供するだけ ではなく、住民参加型のコミュニティ開発を支援するものである。供給される住宅は 300,000 ペソ(約60万円)以下で、対象となる世帯は、所得分位の下位 30%の都市貧困層である。また、 低価格住宅事業とは、 300, 000-2, 000, 000 ペソ(約 60 万円 ~400 万円)以内の住宅で、対象と なるのは中間所得者層である。 表3に示す 2005・2010年度の目標建設戸数の合計は 1,145,668戸であるが、その内、社会住 宅が 68.1%と半数以上であることから、政府が都市貧困層対象の住宅建設により力を入れてい る事が見て取れる。しかし、現実には 2005-2010年度の住宅需要戸数が 375万戸であるのに対 し、住宅建設目標はその半分以下の 114万戸であり、目標達成率は 2005年が 57.4%、 2006年 が55.3%、2007年が 46.1%となっている(改定フィリピン中期開発計画 2004・2010)。 それでは、なぜこのように住宅建設の需要と供給には大きな溝が存在するのだろうか。その 要因として UN-HABITATは次の 3点を挙げている。第 1に、住宅価格と低所得者層の所得ギ ャップによる返済問題、第2に、政府の限られた資源による需要供給の問題、第 3に、民間デ ベロッパーの低価格住宅市場参入への低い関心で、ある (UN-HABITAT,2009)。これら 3大要因 と共に、高騰し続ける建設コスト、フォーマル住宅市場に参入し難い低価格住宅事情、そして、 都市貧困層を対象とした住宅ローンの制度の不足などの問題も存在する。 セブ市の最低賃金は 1日およそ 380ベソ(約 760円)で、最低賃金取得者の 1ヶ月の平均的 所得は6000ペソ(約 12,000円)ほどである。最低賃金を得ている世帯は、表 4が示すように、 所得下位30%に属する。 表4 世帯所得分位による返済可能額 51,828.17 5,665.63

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フィリピンでは都市貧困層を対象とした社会住宅事業は複数導入されているが、その中で最 も成功しているのが、 1988年に起案されたコミュニティ抵当事業 (CommunityMortgage Program: CMP) とされている。 CMP事業とは年利 6%で 25年間の住宅・土地取得のための融 資を無担保で受けられる事業である。 CMP事業では住民組織を形成する事が義務づけ、その住 民組織が毎月の返済回収に責任を負う仕組みとなっている。次に、その事例を見てし、く。 3. セブ市の事例 1 :パランガイ・ルス この CMP事業がし、ち早く導入されたのは、セブ市でも最大級のインフォーマル居住地(土地 面積約 20ha、人口約 16,000人)、パランガイ・ルス(以下、ルスと称す)である。 1988年に CMP事業が導入されて以来、ルスでは 1990年にはセブ州政府が事業主となった条項 93・1 (Ordinance 93・1) が、 2002年にはセブ市政が事業主となったセブ市社会住宅事業が導入され た。表5の 13事業の比較」の返済率で明らかなように、 CMP事業は 79%の返済率に対して、 条項 93-1は 2004年に目的を達成できずに終了しており、また、セブ市の社会住宅事業も 7% という低さで終了し、 2013年に事業を延長させている。 表 4の「世帯所得分位による返済可能額」と表 6の「ルスの世帯経済」を比較してみたい。 第1十分位の月収 2,689ベソの世帯が払える返済額は 264ベソであり、第 6十分位の月収 10,306 ベソある世帯は 1,139ベソ程度の返済が可能と示されている。表 6にあるように、月平均の所 得が 6,816ベソから 10,569ベソあるルス住民にとって、条項 93-1とセブ市社会住宅事業が失 敗したのは毎月の返済額自体が問題だ、ったわけではない事が見て取れる(各事業の毎月の返済 額は、 CMP=143.30ペソ、条項 93・1=400ペソ、セブ事業=346.29ペソ)。それでは、何が要因 となって 2つの住宅・土地取得事業が失敗に終わったのだろうか。これらの事業は個人が直接 事業主に返済をする形式だ、った点、また、滞納者に対して事業主は直接返済の徴収に回るなど せず見過ごしてきた点が挙げられる。事業主である市や州政府には、過密なインフォーマル居 住区で滞納する世帯を見つけ出し、返済を回収するための土地勘と地元情報に明るい人材がお らず、滞納金回収には時聞がかかり経費もかさむ事になる。このような点からも行政の限定的 な資源が指摘され、住民組織を担保とした社会住宅事業が今日では主流になっている。 セブ?市の最先端の都市開発が進む地域に固まれたルスの住環境改善は、セブ市政にとっても 重大な課題である。ルスの土地所有者である州政府とはセブ市政は幾度も土地譲渡問題を議論 しているが、未だに折り合いを見出せないでいる。過去に住宅・土地取得事業に後ろ向きだ、っ た住民も、拡大する都市開発とグローパル化の影響を受けて、セブ市の一等地となったルスに 於いて、インフォーマルな生活から脱却して正規住民となり、安心して生活できる場の確保を 最優先させる傾向を強めている。

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表5 パランガイ・ルスにおける 3事業の比較 (2007年の調査より) 事業名 CMP事 業 条 項93-1 セブ社会住宅事業 事 業 主 国 、ィ1'1 巾 返 済 方 法 住 民 組 織 個人 個人 返済期間 25年 5年(再延長) 10年 利 子 6% 6% 6% 事業実施年 1988年 1990年 2002年 返 済 開 始 年 1997年 1993年 2004年 事業終了年 2022年 2004年(終了) 2013年(再延長) 面積/地価 (Php.lnt) 530 560 1,300 1世帯月平均返済額 (Php.) 143.30 400 346.29 所 有 権 獲 得=7% 返済率(定期的に返済 79% 完 済=24% 7% を継続している世帯) 返済中=47% 末 返 済=22% 表6:パランガイ・ルスの事業単位の世帯経済 (2007年の調査より) 事業名 世 帯 数 インフォーマル 月平均所得(ペソ) 世帯数(%) CMP事 業 92 65% 9,384 条 項93-1 114 62% 6,816 セブ社会住宅事業 117 66% 10,569 4. セブ市の事例 2 :パランガイ・ロレガ・サン・ミゲル もう一つの事例である、パランガイ・ロレガ・サン・ミゲル(以下、ロレガと称す)は、ル スとは全く異なる住環境改善政策が導入されている。ロレガはセブ市役所から北へ約 1キロ離 れた所に位置する、 13haほどの土地面積に約 13,000人が住んでいるが、本報告が対象として いるのは、ロレガの中心部に存在する 2haほどの元公共墓地である。パランガイ行政で登録さ れている 400世帯意外に、未登録世帯が200世帯はある。 公共墓地に人が住むとは、どのような状況なのか想像しがたい。写真 1・3から見て取れるよう に、墓地には土葬された墓石が無秩序に地上に置かれている。墓石は墓地住民にとってベッド やテープ戸ルといった家具であり、子供達の遊び場であり、また、家を支える土台でもある。彼 らの世帯経済は、総菜屋、サリサリストアと呼ばれる雑貨屋、米屋、洗濯屋など墓地住民を相 手に小規模ビジネスを営む者が最も多く、他にはジフ。ニー(乗り合いパス)の運転手、労働者、 ロウソクや食べ物を路上販売するなどのインフォーマル従事者で、ある。墓地という土地用途で あるため、生活に最低必要な基盤がなく、墓地生活者らが必要に応じて下水道やトイレを設営 している。彼らが飼っているヤギや鶏で地表は糞で埋め尽くされているが、子供の中には裸足 で走り回り、そのまま住宅の中に入り、ご飯を食べ、寝そべったりしている。

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写真1 墓石上で遊ぶ子供達 写真 2 昼寝する子供 写真 3 土台となった墓石 ロレガが抱えている問題は住環境、社会環境、経済と山積するが、セブ市はまず住環境を改 善しようと開発NGOのガワッドカリンガ(以下、 GKと称す)と共同で2011年から社会住宅 事業を導入し、 2012年5月に60世帯用の 3階建て中層住宅が完成した。 GKコンドと名付け られたこの住宅では住民は光熱費の他に、月 200ペソ(約400円)の修繕費を払うが、住宅自 体に返済は伴わない。住宅が無償なのは、セブ市がこの土地を 50年間無償で貸し出し、総建築 費 130万ペソ(約260万円)の内、 100万ペソの地方特別開発資金 (PriorityDevelopment Assistance Fund: PDAF) がついた事、残り 30万ペソはGKとその他のNGOの協力のもと集 められたためである。もう一つの重要な点は、コミュニティ開発まで、含めた建設支援を行った GKの存在である。 GKコンド建設の決定にあたり、 GKは受益者たちで住民組織を結成させ、墓石の解体から住 宅建設まで住民を携わらせた。 GKのボランティア精神を促す哲学、「パヤニハン」精神に則っ た指導を通して、住民が直接建設に携わることで、二つの成果が認められた。一つは、建設費 の削減である。電気、排水管、セメントなど専門技術以外の労働は、住民および外部からのボ ランティアによって行われた。二つ目は、労働を通して受益者間に良好な関係が構築されたこ とである。写真4と 5から見て取れるように、 GKコンド周辺は整備され、人々は衛生的で清潔 な生活を営んで、いる。 GKコンド建設後 1年に行った調査では、 GKコンドを出て行きたいと考 える世帯はゼロで、あった。 写真 4 完成したGKコンド 写真5 GKコンドの住宅内

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5. まとめ 本報告で見てきたようにフィリピンには都市貧困層向けの住宅ニーズが高い。拡大し続ける スラムに歯止めをかけ、衛生的で安全な都市環境を形成するためにも、住宅の需要と供給のギ ャップを埋める事が早急に求められる。しかし、政府は住宅ニーズを満たすた、けの十分な資金 を確保できずにいる。また、都市貧困層を対象にした低利住宅ローンを提供する住宅金融機関 も公的機関のみで、民間企業の参入はない。民間企業が低所得者用市場に参入しないのは、利 益を見込めないだけではなく、都市貧困層の低すぎる収入と持続性に欠ける彼らの雇用の問題 から融資を回収できないためである。 ロレガではPDAFを得て60世帯向け中層住宅の建設を実現させた。議員らにPDAF予算の 使い道が委託されていたが、 2014年に発覚した大スキャンダルで、それ以降PDAFは凍結状態 にある。従って、 PDAFを利用した都市貧困層住宅建設は今日では見込めない。結果として、 膨大な建設費は返済能力に欠ける都市貧困層が負っている。 現在ロレガでは、セブ市は市内の危険地域に住む都市貧困層向けに2棟の中層社会住宅建設 の計画を立てている。これは建設費760万ペソの事業であるが、セブ市は賃貸料として各世帯 から毎月 2,500ペソ(約 5,000円)を請求する予定である。 2,500ペソの賃貸料を払うには、毎 月安定した 24,000ベソほどの所得を必要とする(表4)。これは危険地域に住む都市貧困層では 不可能な支払いである。本事業を担当する市議会議員にインタビューしたところ、「州政府から 受けた 760万ペソの融資は返済されなければならない。その返済を負うのは当然受益者たちで ある。」と、説明した (2013年のインタビ、ューより)。同じ敷地内の同様な建物でありながら、 一方は賃料2,500ペソで、もう一方は修繕費200ペソのみである。これでは都市貧困層が納得 するとは考えられない。また、セブ市の中層社会住宅は1棟につき 380万ペソするのに対し、 GKコンドは 130万ベソで仕上げている。この建設費の差は、建設業者による建設と受益者たち の労働を主力とした建設から生じるものである。 これまでに取り上げてきたフィリピンの住宅不足の現状を踏まえ、効果的な都市貧困層向け 社会住宅建設を進めていくには次の点を留意する必要がある。第 1に、住宅建設の資源確保の 問題である。政治家らの汚職問題でPDAFが凍結しているが、先進国の援助機関から支援を受 けることも考えられる。実際、日本のJBICやJICAはこれまで積極的にフィリピンを支援して おり、現在も東南アジアの住宅事情を改善するための研究が進められている(野村総合研究所 2011, JETRO 2011)。第2に、都市貧困層が持続的に生活できる住宅供給の問題である。既述 のように融資返済で、あれ賃料で、あれ、住宅にかかる月々の費用が都市貧困層の所得に見合った ものでなければ、彼らは住宅を転売するか居住権を中間所得者層へ譲るなどして結果的にスラ ムへ戻っていくこととなる。 GKコンドの住民が落ちこぼれることなく生活できるのも、回収さ れるのが月 200ベソに抑えられているからである。第3に、住宅建設費の問題である。限られ

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た資金の有効利用には、建設業者に丸投げするのではなく、受益者たちの建設参加が求められ る。第4に、受益者たちを積極的に住宅建設に携わらせる手法は、建設費削減に効果を出すだ けではない。受益者聞の関係性を深め、その関係性が住宅完成後のコミュニティの維持や改善 に必要不可欠な要素となることを、ロレガの事例は示していた。第5に、住民組織の重要性で ある。特にスラム居住区改善の実現には、受益者らが同じ住民として共通の目的・意識のもと 行われる相互協力は不可欠である。住民組織が定着して機能するまでは、 NGOなど外部からの 指導は必要で、ある。 以上の留意点だけでは、フィリピンの都市環境を抜本的に改善することには不十分で、ある。 しかし、能力以上の負担を都市貧困層に負わせ、本末転倒になるような住宅事業を回避し住宅 供給を前進させるためには有効な要素であろう。今後も研究を続け、都市貧困層向け住宅供給 と都市住宅環境改善に成果をもたらせる提案をしていきたい。 [参考文献]

Etemadi, F. (2002)“Urban Governance, Partnership and Poverty towards Inclusive Urban Governance in Cebu", The University ofBirmingham

UN-HABITAT (2009)“,Community-Based Housing Finance Initiatives: The Case of Community Mortgage Programme in Philippines"

UN-HABITAT (2011)“,Innovative Urban Tenure in the Philippines: Challenges, approaches and Institutionalization"

UN-HABITAT (2008)“,Housing the Poor in Asian Cities"

Kobayakawa, Yuko (2014)“,Fund Revolving Socialized Housing Program for Sustainable Community Development to Achieve Millennium Development Goals", International Alliance for Sustainable Urbanization and Regeneration, ACSS 2014, ACSEE 2014, pp. 513-524

Rosales, Antonio (2013)“,Surviving Poverty in the Philippines", Lund University アンソレーナ、ホルへ (2007)~世界の貧困問題と居住運動』、明石書匝 北野尚宏・水野兼悟・城所哲夫(2011) i東南アジア住宅セクターの課題.インドネシア・タイ・ フィリピン・マレーシア」、野村総合研究所 http://jica-ri.jica. go.jplIFI C _and_JBI CI -Studies/jica -rilpublica tion/archives/jbic/report/revie w/pdf/8-5.pdf 日本貿易振興機構(JETRO)(20 11)、iBOPビジネス潜在ニーズ調査報告書 フィリピン:低所得 階層向け住宅分野J https://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000757/ph_bop_houses.pdf 外務省:開発に関する国際的取り組み ミレニアム開発目標 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/about.html#mdgs_list 国際連合広報センター:人口と開発 http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/populatio n/

表 5 パランガイ・ルスにおける 3 事業の比較 (2007 年の調査より) 事業名 CMP 事 業 条 項 9 3 ‑ 1 セブ社会住宅事業 事 業 主 国 、 ィ 1' 1 巾 返 済 方 法 住 民 組 織 個人 個人 返済期間 25 年 5 年(再延長) 1 0 年 利 子 6%  6%  6%  事業実施年 1988 年 1990 年 2002 年 返 済 開 始 年 1997 年 1993 年 2004 年 事業終了年 2022 年 2004 年(終了) 2013 年(再延長) 面積/地価 (P

参照

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